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BranchⅠ:<イチゴの花>と<追憶慈愛人形>(Ⅲ)

 

 ザーザーと雨では無い音が響く。


 目の前を見ても映像が飛んだりとノイズがかかったりとではっきりと視認ができない。


 キュイィィィィーと身の毛もよだつ不快な音と共に視界は揺らぎ、世界が紅く染まる。

 否。自分が紅く染まった。


 不愉快と言っても過言では無い人の声が響く。


 ーー、ーーー、ーーーー。


 ものすごい勢いで体を起こした。

「っは、っは…」呼吸は乱れ心拍数は上昇している。

 自らの両手を見て体を触るが異常はない。

 時計を見ると七時を示していた。


「夢か…ったく、朝からなんてものを見せてくれるんだ…ホラー映画より怖かったぞ…」そういい奏兎は布団から出て顔を洗いに洗面台へ向かった。


<一方、その頃笠木家>

「よし、ウルト使うわ。おけおけウルト当たった!これで勝てば日本ブロック優勝だ!」

 と良夜は絶賛()()()でFPSゲームをしているのであった。


 朝なんて知らん!と思っている良夜の元へと向かう一つの足音があった。

 その人物はドアに前に行き、ドアをゆっくりと開ける。

 昨日と同様に未奈美が起こしに来たのだが、少し様子が違っていた。

(今日はおばさんも居ないしちょっとくらい寝てる良夜の顔を眺めててもいいよね…)

 良夜の両親は今日他県に仕事へ行って帰ってきてないのか、会社に泊まり込みなのかはわからないが、未奈美が来た時には家に居なかった。


 そして、未奈美は玄関前に立ち、幼馴染だから。それと、おばさんには様子見てあげてって言われているもん。と自分に言い聞かせ家に入ったのである。

 だが、家に入る前に近くに同じ学校の生徒がいないかキョロキョロしていたせいで、怪しい人感が満載であったが。


 部屋に入り、一歩足を出すごとにドクンっと脈打つ音が大きくなる。

 良夜の顔を見るなり未奈美は(えへへ…可愛い)

 そして、未奈美の中に一つの動機が生まれた。

(ちょっとくらい触っても…いいかな…?)

 人慣れしていな猫を触るようにと少しずつ手を頭へ伸ばした。

 瞬間良夜は体を動かした。

 物凄い勢いで手を引く未奈美。バクンバクンと心臓が波打つ。

(あわわわ…びっくりした…寝返りを打たないでよ…心臓止まっちゃうかと思ったよぉ…)

 そう思いながら再び手を伸ばし始めた。


 良夜の夢の中では「残り人数は両チーム一人です。両選手スキルはどれも残っていない!エイム勝負!体力は良夜選手が劣勢(れっせい)だぁだ、だがぁ!?打ち勝ったぁぁぁ!」実況と観客が叫び良夜はよっしゃー!と手を挙げると同時に意識が覚醒し今のが夢であったと悟る。それと、手になにか柔らかいようなものが触れる。


 至近距離に顔を真っ赤に染めた、未奈美が居て自分の状況が最初は理解できなかったが、誰かが言っていた、野生の勘というもので僕は手をサッと引いた。


「あ、あの…そ、その…お…おはよう…良夜」声が完全に震えていた。

「おはよう…未奈美」反射でおはようと応える。

「そ、その今のは良夜がなかなか起きなくてね?!ほ、ほら早くしないと遅刻しちゃうよ。だから私下で待ってるね。」そういいスッと部屋から去って行った。

「先行っていいのに…」そう呟き、支度を始めた。


 昨日とは違ってちゃんとテーブルに置いてあったお弁当を持った。

 家を出る前に未奈美に持ったかどうか聞かれたので、自信満々にもちろん。と応えておいた。

 そう言ったとき、少し未奈美が嬉しそうにしているように思えた。気のせいかな。


 そして、平凡であって欲しい今日が始まった。


 雑談しているとすぐに学校に着き、未奈美は今日の生徒会の仕事のチェックがあるということで、下駄箱で別れた。

「おはよう。奏兎」そう言いながら僕は自分の席がある、窓から2番目の列の一番後ろの席へと向かう。

「おはよう。」

 荷物を置くなり、特に話すことは無いが習慣みたいな感じで奏兎の席へ向かった。

「どうした?なんかあったのか?」ボーっとしている奏兎を不自然に思い、尋ねた。


 良夜が奏兎に話しかけると同時に読書をしていた唯音が聞き耳を立て始めた。


「いーや、大したことは無いがただ…今朝怖い夢を久々にみた。」奏兎は最後ちょっと早口で言った。

「あれ、お前ホラー無理だっけ?」

「決して無理なわけじゃないんだが、自ら率先して見ようとはしないな。」と決してを強調しながら、頷き応える。

(あ、無理なんか)僕は細い目で奏兎を見た。

(苦手なんだ。でもそれはそれでちょっとかわいいかも…)ページはめくっているが本の内容が全く入っていない唯音であった。


「で、どんな夢だったんだ?化け物と鬼ごっこでもしたのかな?」僕は笑いながら質問した。

「いや、してない。どういう状況だったかは混濁していてわからなかった。けど、ホラーゲームとかの怖さじゃなくて、事故とかそういったリアリティのある怖さだった。」

「確かにそれはホラゲより怖いわ。」今言われたような夢は見たことないが、想像するだけで恐ろしいことはわかる。夢って謎にリアルな映像だから嫌だよなぁ。



 そんなことを話している内に未奈美も帰ってきて、朝の会が始まった。


「はい。いいですかぁ、学園祭まであと三日ですけどぉ焦らず落ち着いて行動してくださいねぇ。号令。」

「起立。礼。」


 号令が終わると共に未奈美と奏兎がこちらへやって来た。


「三人とも今日のお仕事はいかがで?」僕がそう聞くと

「あー俺は今日もパソコン室ですね。はい。」満面の笑みを浮かべ頷きながら応える奏兎であった。

 相当嫌なんだろうなぁ。まぁずっと一人でカチカチやってる仕事だもんな。ご愁傷様ですな。

「が、がんばってね奏兎」未奈美は状況を察し苦笑いで応える。

「お昼までには片付けてやる…。」と意気込んだ。


「未奈美は?」

「私は生徒会で校内点検かな。多分午前はそれで終わっちゃうと思うし。」

 確かにこの学校は広いからな、一つ一つチェックしていたら相当時間かかるだろうな。

「そっか、いっぱい人来るもんな。がんばって」拳を握り応える。

「そういう良夜は?」未奈美は首を傾げ質問する。

「えっとですね…昨日終わらなかったので、はい。続きです…」と力なく応えた。

 やっぱその人にあった仕事をするべきと僕は思うね!

 話が終わり未奈美と奏兎が教室から出て行った。

 今日は演劇やダンスの合わせ練習があるらしくクラスの三分の二の人が居なかった。


 僕は昨日の作業の続きをするべく、机を動かし道具を持ちに教室を出た。

 道具を持って教室に戻ると委員長が机を繋げて座っていた。

「委員長どうしたんだ?ここに座って」

「昨日の続きをするんでしょう?だからお手伝いだよ。」当たり前でしょ?と言わんばかりな顔をしていた。

「手伝ってくれるのはありがたいけど、他の仕事はいいの?」

「うん。大丈夫だよ。」

「そっか、なら作業が終わったら飲み物でもおごろうか?」そう言うと委員長は

「え、いいよ。おごるだなんて」手を横に振って言った。

「もっとお金は大切に使わないとダメだよ?」委員長が優しすぎて泣きそうですよ。

「せめてなんかお礼をさせてよ、お礼ができない人とか言われたくないし。」


 委員長は少し考え、なにか決心したように言った。

「ちょっと手伝って欲しいことがあって…それをお願いしてもいい、かな?」

「もちろんですとも。僕に出来ることならなんでも。」

「なら放課後そのことを話したいのだけ、時間空いてる?」

「今日は何にも予定は入ってないからいいよ。」

「よかったぁ。じゃぁ作業始めよっか」

「はーい。」ん?待てよ。あれ?担当僕だけどいつの間にか委員長が担当ですよ感が出てるんだが!?委員長の波に飲み込まれたら抜け出せなくなるわ…恐ろしい。

 というか、こんなにいい人なのに彼氏いないってなんか意外だよなぁ。

 まぁみんな委員長がすごすぎて尊敬の眼差しでみてるからかな?

 そんなことを思いながら手を動かし始めた。


<一方、未奈美達生徒会では>


「三組に分かれて点検を行います。それでこの紙に目に着いたことを書いてください。」未奈美は生徒会員の五人に紙を渡した。

「今から二時間後に生徒室に集合で。質問はありますか?」

 未奈美は一通りみんなの顔を見た。

「ないみたいだね。じゃぁ解散!」


 未奈美は親友であり副会長である旭日 沙紀(あさひ さき)を連れて自分らがいつも生活している校舎へと向かった。

「ねぇねぇ未奈美」

「なに?沙紀」

「良夜君を見に行くんだよね?だったら私は一階見とくから先に二階でも見に行けばぁ~?」茶髪のロングの髪を楽しそうに揺らし未奈美の前に立ち振り返って言った。

「ふぇ!?い、いや…そんなことない…」目を泳がせ未奈美は言う。

「ふ~んそっかぁ、良夜君には興味はないとぉ~なら私は興味があるから二階見て来るね!」と笑顔で言った。

 それを聞くなり未奈美は

「だ、ダメっそれはダメっ!!待って、興味あるってどういうこと!?わ、渡さないよ!?…ッ!!」顔を真っ赤に染め上げ口元を押さえつけた。

「へぇ~渡さないかぁ~未奈美は嫉妬ぶか~い」と煽り口調で言う。

「沙紀声大きいよぉ!お、お願いだから声下げて…」

「ごめんごめん。つい未奈美が可愛くていじめたくなっちゃった。」

「そんなことしなくていい!!」と声を上げた。

「だってぇ今しとかないと後々できなくなっちゃうもん。」

 その発言に対し未奈美は首を傾げる。

「未奈美は良夜君にいじめてほしいんだよねっ」と耳打ちする。

「~~~~っ!?!?」(わ、私が良夜にいじめっ…)未奈美はオーバーヒートしたのであった。

「も、もう知らない!」と言い未奈美は顔を真っ赤にしたまま校舎ヘ向けて歩き始めた。


 その後ろ姿をみて、沙紀は(未奈美は青いなぁ。その青さ羨ましいよ。)そう心の中で呟き、「待ってよぉ」と未奈美の所へと小走りした。


 そして先ほど沙紀が言ったように効率的だからということで一階と二階に分かれ先に点検が終わった方が三階を見ることになった。


 未奈美は良夜の作業が難航していたら手伝ってあげようかな。と思いながら階段を上がった。

 生徒会の仕事中なのでちゃんと点検をしながらだ。いつも見ているからと怠らずに確認した。


 順に見ていき自分たちの教室の前に来た。

 そして、ドアの硝子部分から教室内を見る。

 良夜を見つけたとき未奈美は嬉しくなったが、良夜と一緒に作業している唯音を見て、無意識に「え?」と声が出てドアノブを握るのをやめた。

 楽しそうに作業しているのをみて、なにかが自分を縛り上げた。心配?不安?嫉妬?自分の感情がわからなかった。

 教室に入るのを止めようと思ったが唯音の人物像を思い出し、教室に入ることを決心した。


 入るなり良夜の所へと向かった。

「未奈美点検か?」と良夜は近づいてくる未奈美言った。

「うん。そうだよ。いつも使っている教室とは言えどもちゃんと見ないとだからね!」微笑み言う。

「流石です生徒会長さんよ」


「そういえばだけど、唯音はどうして良夜の手伝いを?」

「昨日良夜君が教室で嘆いていたから手伝っているんだよ」

 嘆く良夜が容易く想像できた。

「そうなんだ。じゃぁ私次の点検場所に行くね!じゃぁがんばってね」

「うん。未奈美も頑張って」唯音は小さく手揺らした。


「じゃぁまたお昼のときな、がんばれ」

「良夜も唯音に頼ってばっかじゃなくてちゃんとやるんだよ?」

「はい…」良夜は涙目で言った。


 未奈美はどこか一安心した様子で教室を出た。

(良夜が応援してくれたんだからがんばろっとっ)笑顔で隣の教室へ歩いて行った。


 そうして時間が過ぎていきお昼休みの五分前になったので片付けを始めた。


 休み時間になり戻ってくる人もいたが、大半がお弁を取りに来ただけであった。

 僕は五時間目の作業の時間も教室であるため移動はしない。

 それに今日の六、七時間目は数学・英語の授業で移動教室だが、僕はこの教室なので移動はない。

 なので、昨日と同様このクラスを出ないのだ。


 そんなことを思っていると未奈美が戻ってきた。

 お昼の準備をして机をくっ付けてきた。

 今日も一緒に食べるのね、というかなぜ委員長も一緒なんだ!?奏兎ぉー早く帰ってきてくれ!心細いから…。

「奏兎遅いな、未奈美見なかった?」

「見てないよ。」

「そっかぁ、なら先食べてるかぁ」そういいお弁当を開く。昨日も思ったがなんか気合入ってるよなぁでも美味しそうだし気にしなくていいか。

 それにしてもすごい席だな…目の前が委員長で右斜め前が未奈美で俺の右が奏兎席。

 アニメでもなかなか見ないぞ。


 ガタンと教室のドアが開く。見ると奏兎が立っていた。

 奏兎は驚きの表情を浮かべていた。まぁ女子一人増えたんだしそりゃそうか。

 僕は奏兎を手招きする。

 席に着くとまず一言目は「どうしてこんな席に?」だった。

「俺の作業を委員長に手伝ってもらってて、それで作業した時の席のままってわけ。で、あとからお前の席と未奈美の席をくっ付けた。」事の経緯を説明するなり、奏兎は納得の表情を浮かべた。

 こうして、僕たちは四人でお昼を食べ始めた。

 気のせいかもしれないが、委員長と奏兎が少しぎこちなく思えた。


 そうして、話をしているとあっという間に時間が過ぎた。

 休み時間が終わるなり、奏兎はあと少しで書類が打ち終わるからと言ってすぐ教室を出て行った。

 未奈美も放課後の打ち合わせ準備があるらしく出て行った。

 僕も五時間目で作業が終わりそうなので再開させた。


「よーし、終わりー!」最後の飾りを作り終え僕は腕を挙げた。

 横で委員長がパチパチと小さく拍手をしていた。

「ほんと、助かったよ委員長。」

「どういたしまして」

「片付けるかぁ」そう言うと委員長も立ち上がり片付けようとするが

「あ、いいよやらなくて。俺が全部するから。ここまで手伝ってもらったんだから。」

 僕はサササッとゴミと道具を回収した。

 こうして今日の作業が終わり僕は授業の準備をして、教室で待機していた。

 六、七時間目の九十分もあっという間に終わり放課後になった。


 ポッケの携帯がブーっと鳴る。

 見ると委員長からのメッセージで(校門前に来て欲しいです。)と書いてあった。

 僕は了解と送り帰る準備をして校門へ向かった。


 それといつもの二人はというと、未奈美はいつも通りの生徒会で奏兎はテニス部だそうだ。

 みんなちゃんと活動しているので、僕だって帰宅部を全うしますよ。


 校門前まで行くと委員長が立っていた。

「結構早かったね」

「はい。女性を待たせるわけにはいきませんからね。」

「紳士的ですね。でも、急いだら怪我するかもだから気を付けてね」

「あ、はい。気を付けます。」委員長…優しすぎますよ。

「うん。よろしい」と上機嫌に言う。

「それで委員長頼み事ってなんなんだ?」と質問する。

「そのことなんだけどさ、もう少し歩いてからでいいかな?同じ学年の人に聞かれたくなくて…それと砂山小学校まで歩いていいかな?明日まで両親が居なくて弟のお迎えに行かないといけなくて…」申し訳なさそうに唯音は言った。

「全然いいよ。家そっちの方だし。」

「そっか。ありがとう」委員長は微笑み言った。


 <一方その頃奏兎は>


「ったく、なんでテニスコートの鍵がコートから一番離れた校門西棟の職員室なんだよ…あの時じゃんけんでパーを出してれば…」と奏兎は愚痴を言いながら自分の行動を悔やんでいた。


 ノックをし奏兎は職員室へ入る。

「すみません。テニスコートの倉庫の鍵を…」

 この職員室は校門を視認できる。

「ちょっと待っていてね。えっと、あこれだ。はいどうぞ。」

 奏兎は差し出された鍵を取ろうとはしなかった。

「どうしたんだい?」

 奏兎は窓の外の一点を見ていた。

「外になにかあるのかい?」と先生が言った所で我に帰る。

「あ、いえ、すみません。ボーっとしちゃって。」

「部活がんばることはいいことだけど、ちゃんと体を労わるんだよ。」と心配の声をかけられた。

「あ、はい。失礼しました。」頭を下げ職員室から出ていく。

(どういうことだ!?な、なんで良夜が委員長と帰ってるんだよ!?)

 偶然待ち合わせをしてるところを見てしまった。


(あいつは、俺の気持ちを…ハッ!あいつこの前俺に好きな人はいないかって聞いた理由は…委員長を…あーッ!わっかんねぇ!)

 葛藤と信用そして焦燥などの複雑な思いが奏兎を襲う。

 奏兎は現実から逃げるかのように校舎を走りだした。


 ◆◇


 小学校へ向かう途中にある公園をみて委員長は「ここなら」と呟き入って行った。

「いいのか?委員長お迎え遅くなっちゃうんじゃないのか?」と言うと委員長は

「いいよ、昨日今同じペースでお迎え言ったら早いよって言われちゃって。」委員長は頬を掻いた。


「あー弟の気持ちはわからんこともないなぁ、いっつも楽しい時にお迎えきて、がっかりしたって記憶あるもん。」遊んでいた時に校門に現れる母さんをみてまじかーってなったことを思い出した。

「やっぱみんなそういうものなのかな?」と委員長は首を傾げながらブランコに座った。


 そして、委員長は息を吸って決心した様子で言った。

「頼みごとの事なんだけね…」

「おう」僕はそう言いながらブランコの所にあるガードの所に腰を下ろした。

「わ、私ね、奏兎君の事が好きなの…」

 Oh,委員長の顔がどんどん湯で上がっていくぜぃ。

「ってことは、協力してほしいってことかな?」僕は真面目なトーンで言う。

「…うん。」

「失礼なのは重々承知している。だが、一応言わせてもらいたい。前にも言った通り、奏兎は俺の親友だ。半端な気持ちで好きと言ってあいつを悲しませるようなことはしたくない。」委員長に対して強気で喋るようなことはしたくはないが、こればっかしは譲れない。


 委員長はブランコから立ち上がり言う。

「わかっています。だから、私は良夜君に相談しました。」委員長の目は本気だ。信念を貫く眼をしていた。


「そっか。わかってはいたけど。じゃぁこっちも全力で協力させてもらいますよ。」僕は笑み言う。

 委員長みたいな人が遊び半分で言うはずがないってわかってたけど、こういうセリフ言ってみたかったんだよな。

 良夜の心の中は、(委員長と奏兎って絶対相性いいじゃん!うわ~実際に二次元風カップルが見れるようになるのか!それにしても奏兎よかったなあ!)とテンションMAXであった。


「お願いします。」と委員長はペッコとした。

 一方委員長の心の中では(やっぱ良夜君には私が奏兎君を好きってバレていましたか…良夜君は周りが見えていて行動できるすごい人だと思っていたけど、ここまですごいなんて…)と漫才レベルの勘違いが生まれていた。


「なら委員長さ、今日から間接的なアプローチでもしてみたらどうだ?」

「あ、でも俺そこまで恋愛協力したことないから、今のは俺主観でどうかなって思っただけだから無視してもいいよ。」と補足した。


「わかった。考えてみるね。あ、お迎え行ってあげないと」と忘れてたという顔をしていた。


 そういい僕らは再び小学校へ向け歩き始めた。


 学校に着くなり委員長は弟を見つけたらしく小走りで向かって行った。

「ねぇちゃん遅い。」

「ごめんね。琉依(るい)。大切なお話していたら遅くなっちゃったの。」

 普通に行ったら早いと言われ遅めに行ったら遅いと言われる。時間間隔とは難しいものなだと思いながら僕は近づいた。


「兄ちゃん誰?ねぇちゃんの彼氏?」と純粋な瞳で見つめられた。


「残念だけど違うんだなぁ、姉さんの彼氏のお友達だよ。」と僕は笑顔で言った。


「へ!?ちょっと、そんなこと言わないでよぉ!」と焦りながら委員長は言う。

「ってことは浮気相手ってことか。ねぇちゃんまじか。」

「こらぁ!琉依ったらなんてこと言うのぉ!」委員長…怒ってるのか怒ってないのかわからないです。


「わーねぇちゃんこわーい。」

「ごめんなぁーお姉さんはまだ告白してないんだ、だから僕が友達として縁結びしてあげるのさ」

「まじですか。ならねぇちゃんのためにも縁結びの仕事頑張ってください。」ペコっと頭を下げた。

「おう。まかされたぜ。」と僕は親指を立てた。

「一応言っておくけどね、お姉さんが好きになった人はマジいい人って保証できるよ。」と僕が言うと弟君は「おーー」と顔をし、委員長は顔から湯気が出ていた。


「ほ、ほら暗くなる前に帰ろう」と委員長は逃げる為に案を出した。


 先ほどの公園前まで戻って来て、僕はコンビニへ行くということで別れた。



<その日の晩>


 唯音は自分の部屋で悩んでいた。

(間接的にアプローチか…なにかいい方法ないかな…)夕方、良夜に言われたことを考えていた。

(ん~、あっそうだ!)唯音はイングラを開いた。

(『片想い』っていう名前の曲をイングラでシェアすれば間接的なアプローチになるかも…!誰に対して、しているかわからなくなっちゃうかもだけど、塵も積もれば山となるということで…)唯音は奏兎に対する好意の意味として、曲をシェアした。


(このまま上手く行ったら奏兎君と…えへへ…。)妄想が捗ると共に口元が綻びる。


「ねぇちゃん、なんでそんなニヤニヤしてんの」と横からの声に体を震わした。

「!?ど、どうしたの?というか、ノックしないとダメだよ!」と琉依を説教と言えないほど優しい口調で注意した。

(というか、私そんなニヤニヤしてた!?)


「何言ってるの?何回もノックしたし、心配して開けたんだから、ねぇちゃんが悪いよ。お風呂上がったから早く入って。」そう言って琉依はバタンとドアを閉め去って行った。

「わかった。今入るね」唯音は応え椅子から立ち上がった。


 唯音はお湯に顔を沈め…

(ちゃんと届いていたらいいな…)と思ったあと、パシャンと顔に水を当てた。


<一方その頃奏兎は>


 奏兎はもしかしたら良夜と唯音が付き合ってるのでは?という考えに縛られていた。

 今日の部活の時だって、全くサーブが入らず力加減もできなかった。〇か〇〇であった。

 そのため、みんなに体調が悪いのではと心配された。


 奏兎は気を紛らわせようとイングラを開いた。

 唯音がなにかシェアしていたので、そのページを開く。



 『人の感情と言うものは恐ろしいとよく聞きます。

 感情…それと、心を例えるなら器でしょうか。

 器を満たそうと人は行動するのでしょう。


 そして、特に恋と名付けられた感情を注ぐ為の器は満たされにくく、壊れやすい。

 本能…。それは古に刻まれた連鎖の記憶。そして、呪い言う名の慕情。

 いえ、ここ数百年で呪いと化してしまったというのが正しい表現でしょうか。

 繁栄のために紡がれたものを呪いと言うのも皮肉な話ですね。


 見えない。見えない。見えない。見えない。いや、見たくないんだ。ただ、溺れるだけ。


 愛と言う名の生命の器。蓋をしたら最後。もう周りなど見えない。器が壊れるその時まで。』




「『片想い』だと?良夜は、俺に喧嘩を売っているのか!?あいつはッイングラをやっていないかと言って!唯音を使って!わざわざ!」奏兎の中で勘違いのままで全てが繋がる。

 奏兎は最悪なことに唯音の『片想い』を「お前が持つ唯音に対する好意は片想いだ。」と挑発的な意味で捉えてしまったのだ。

 普通ならこのように捉えるはずがない。

 だが、焦燥感や他を認知する能力が低下したせいであり得るはずのない回答を自ら生み出したのだ。


 奏兎は怒る前に失望した。

 ずっと信頼してきた者に裏切られたのだと誤認して。


 あの時、良夜が好きな人を聞いたのは学園祭で告白しようとしてる俺に現実を教えるため。

 あの時、唯音と昼食を取ったのも俺に気付かせるため。

 そして、最終警告が『片想い』の曲か。

 っは。そうかよ、おもしれぇ。


「はっははっは」

 奏兎は悲壮な声で笑いそのままベッドに倒れ込んだ。


 ◆◇


 <翌日>


 学園祭を明日に控える今日は、最終リハーサルや校舎の飾りつけで忙しい。

 未奈美達生徒会は午後から校外に出て地域の人達との最終チェック作業らしく放課後まで帰らないとか。


 そして、奏兎は午前中、学校には姿を現さなかった。

 それには、未奈美も委員長。もちろん僕も心配はした。


 携帯で連絡しようとは思ったが、自分の心の奥にある感覚がその行為を否定した。

 だから、来ない理由は不明なままである。


 お昼は未奈美と食べて、委員長は女子とお昼を取っていた。

 未奈美は食べ終わり、少し僕と話をして、生徒会へと向かった。


 お昼休み僕がゲームの仲間と話をしていると、奏兎がやって来た。

「あっ、奏…」僕は口を紡ぐ。

「いいのか?」とゲー仲(略)に聞かれる。

「あ、うん。またあとでいいや。」話しかけようと思った。けど、奏兎の雰囲気に違和感を覚えた。だから、話しかけるのをやめた。


 まあ来てくれて安心した。委員長もどこか安心している様子であった。

(さて、アプローチ作戦どうしよっかなあ)と良夜は考え始めた。

(なんか、奏兎雰囲気変だな…怒ってるような…うーん…勘違いかな?)長年の付き合いの勘が当たっていたが、良夜は違うだろと流した。


<奏兎視点>


 今日俺は学校を休もうと思った。

 けど、来た。理由は簡単だ。

 明日が学園祭であり、今日の俺の仕事が力仕事であったからだ。

 みんな役割があるなか俺が休んで、俺の分まで負担させるのが申し訳なく思ったからだ。


 そして、俺は怒っていないわけではない。

 俺はあいつが謝り、ちゃんと説明するまで許すつもりはない。

 そんなことよりだ。

 未奈美は良夜のことが好きだ。だが、あいつはそれを踏みにじった。気付いてるのか知らないが。

 このことは未奈美は話してない。未奈美の気持ちを考えると言えるはずがなかった。


 奏兎の心の中は怒りに染められていた。


 真実を知らないままどんどんと感情の器の中身が怒りで染められていく。

 溢れるのも時間の問題だろう。


 ◆◇


 無事学園祭の準備が終わり、そのまま放課後になった。

 結局今日は奏兎と話ができなかった。

 準備の場所の違いも大きかったが、話せなかった。

 そして、奏兎は今日も部活で遅くなるため、一緒には帰れない。


 自分の席に座り少し外を眺め自分の視点を手元に戻す。

 今日はなんだか、眠い。ボーっとしているとあっという間に時間が過ぎ四時三〇分を示していた。

「…帰るか。」そう呟き。席を立った。


 今日は一日中変だなと思いながら良夜は帰路に着く。

 なんとなくで開いた携帯には委員長から『いい作戦思いつきました。』と書いてあった。

『なんだろう』と思い返信したところで信号を渡った先の道から歩いてくる二人組をみる。

「あ、委員長」委員長が弟を連れて歩いていた。今日もお迎えなのか。

 委員長もこちらを視認し、「あっ、良夜君ちょうどいい所に」と言いながら手を振って小走りで近づいてくる。

 琉依君はそれを不思議そうな目で見ている。


 委員長が横断歩道に差し掛かろうとしている時、普通の道では異常とも言える速さで車が走行していた。


 委員長側だと建物のせいで横の道が見えないが、僕側だと低い塀なので右手の道路を視認できた。


 そして、僕は気付いた。向かってくる車が完全に操作が失われていることに。

「委員長!!戻れぇ!」と咆哮する。


 委員長は理解できず「えっ?」という。


 僕の体は勝手に動きだす。委員長に向け。

 だが、間に合うはずもない。


 委員長は不意に横をみる。すると目の前には一台の車が迫ってきて…

 バンッッ!!キイィィィィーーーバンッ!と二回衝突音が聞こえる。


 ぶつかった車は反対側の道路の壁でクラッシュしている。


 人が撥ねられた。

 それを理解するのに時間がかかった。

 僕には撥ねられるまでの瞬間が永遠の様に感じたからだ。


 撥ねられるのを見た琉依は未だに理解が追い付かず、唖然としていた。


 そして、琉依は委員長が飛ばされた方を見ようとする。

「琉依ぃぃ!そっちを見るな!!!」と叫びポッケの携帯を出し、ショックを噛み砕き駆け出す。


 ダメだ!見させてはいけない!このままじゃ一生のトラウマに!!


 キャーーと悲鳴が聞こえる。


 そして、良夜は自分を壁にして近づき言う。

「いいか。決してこっちを見るな。わかったか。」

「ぅん…」震えた声で返事をする。

「親に連絡する手段は?」

「あるよ…。」

「じゃ今すぐ連絡するんだ。俺はお姉ちゃんを助けに行く。」

 物凄い音だった故、人が集まる。

「委員長ー!!!」僕は無我夢中で走った。

 道路は車が来るだ?んなの関係ねぇ!人の命がかかってるんだ!


 委員長を見ると制服はボロボロになり、紅く染まっていた。

 僕は委員長の華奢な体を持ち上げ、歩道まで行く。


「だ、誰か!救急車を!それと応急処置ができる人は!!?」心の底から声を出す。

 そう言うと周りの人が携帯を取り出す。

 処置ができる人はいないらしい。


「委員長!委員長!大丈夫か!?」声をかけるが反応は無い。

「脈拍は!?」首元を触る。

 クッソ!わっかんねぇぇ!!

 焦りが増し、まともに脈を感じとれない。


 自分の手も紅く染まり始めた。

 止血を!止血をしないと!

「血がッ!止まれ!止まれよッ!」


 手がピクッと動く。

「ッ!委員長しっかり!」

 委員長は微笑んでいた。

「委員長!諦めるなよ!!絶対!奏兎に想いを伝えるまで!」


 数分後救急車が到着し委員長は運ばれた。


 その後、帰って来たらしい委員長の母親が琉依を迎えに来た。


 琉依は顔を絶望に染めていた。涙が流れた跡だけが顔にはあった。


 僕は委員長の母親に

「琉依君にはトラウマにならないように見させ無いようにはしておきました。それと…娘さんの吉報をお祈りします。」と言って僕は自分の家へ向かい歩き始めた。

 こういう時に言う言葉が今ので正しいのかはわからない。

 そこまで、考えている余裕は無かった。


「処置といえ…娘をありがとうございます。」と委員長の母親は曇りきった顔で僕に頭を下げる。

「いえ…俺なんかに頭を下げないでください。ただその場に居合わせて、助けようと思って行動しても特に力にはなれなかったので。それでは。」冷たく言い放った。

「あの、電話番号だけでも。連絡をしたいので…。」と力なく言った。

「わかりました。」僕は携帯番号を伝えた。


 去ろうとすると、今度は警察に話かけられた。

 どうやら、事故の目撃者としての証言が必要らしい。

「今は気が滅入っているので…。」というと警察官は後日聞くということでいいと言った。

 そして、連絡先を教え、僕は重たい全身を引きずる様に家に帰った。


 帰っている途中、事故の時のことを冷静に思い出した。


 こちらに向かって来る車は視認していた。けど、警戒はしていなかった。

 それって、つまり…僕が悪いのだろうか。

 注意して。と言ってあげられなかった僕が。

 わからない。わからないよ。

 委員長の想い。奏兎の機会を僕は一瞬にして奪ってしまったのだろうか。

 わからない。わからないよ…。

 込み上げて来る感情を押し殺し、僕は歩いた。


 ーーー<とあるチャットアプリのグループで>ーーー

 〖!:保護の為匿名表記とさせて頂きます。〗


 <<:(匿名表記)おい事故の話聞いたかよ>>

 <<:(匿名表記)聞いた。>>

 <<:(匿名表記)俺も聞いたわ。それ>>

 <<:(匿名表記)私も聞いたよ。>>

 <<:(匿名表記)まじ?ならめっちゃ知れとるなぁ>>

 <<:(匿名表記)詳細なんなん?>>

 <<:(匿名表記)普通科の三組の話だろ?>>

 <<:(匿名表記)三組の委員長が事故ったらしいが>>

 <<:(匿名表記)なんか一緒のクラスの男子がいて>>

 事故ったその子を助けなかったとか>>

 <<:(匿名表記)まじ?最低じゃん。>>

 人の命軽視しすぎでしょ。>>

 <<:(匿名表記)私ちょっと怖いかも。>>

 <<:(匿名表記)そいつあれだってよ、よく生徒会長や

 小野寺奏兎とか一緒にいるやつ>>

 <<:(匿名表記)あ、私わかるよ、ちょっと顔いい

 人でしょ?>>

 <<:(匿名表記)そいつの名前なんだっけ?>>

 <<:(匿名表記)笠木良夜。>>

 <<:(匿名表記)あー思い出したわ。>>


 誰も真実を知らない故に、話はどんどんと肥大化する。


 なぜ、話が広まっているかと言うと、良夜達の反対側の道路に同じ学年の女子がいて、委員長が撥ねられると共に恐怖して走り去り、その事故のことを話たからだ。

 話したその生徒に悪気はない。ただ目にしたものが恐ろしく、一人で抱え込むには辛いことであったからである。


 そして、このことはもちろん奏兎の耳に届いた。

 それを聞いた奏兎は嘘であって欲しいと願った。

 唯音が事故に遭ったことを除いては虚実であることも、真実が無ければそれは本当になってしまう。

 世界って理不尽だ。


 奏兎は、良夜を絶対許さないと誓うのであった。


 ◆◇


 良夜は昨日帰ってからはすぐに寝てしまった。

 食べ物は喉を通ろうとしなかったからだ。

 お風呂に入り、逃げる為に寝た。


 今日は早く起きてしまった。

 時計は七時三〇分を指している。

 今日は学園祭一日目。でも、やるせなさでいっぱいであった。

 委員長の母親からは何も連絡は来ていない。

 来ていないことに安心すればよいのだろうか…。


 どうせ今日は生徒会の仕事が朝からある為、未奈美は家に来ないだろと思い早めに家を出ることにした。


 学校にはすぐに着いてしまった。距離が近いのはいいが今日はなぜかそれが嫌に感じた。

 学校に来て一つ気が付いたことがある。それは、同じ二学年の生徒に不審な、いや、恐怖か?わからないが今まで見られたことのない目で見られる。

 僕は、その目にとても恐怖を覚えた。


 教室に入ると、クラスメイトに変な目で見られ、そして無視する様に僕の事を視線から外す。

 高揚しているようでどこか不審な気配が漂う学校であった。


 教室でボーっとし朝の会が始まり、今日から学園祭だから怪我の無いようにと釘付けにするかのようにと先生が言っていた。


 会が終わり、奏兎が近づいてくる。

「どうしたの?」僕の問いに答えずただ一言。

「放課後話がある。」と。

 そして、未奈美からも後で話があると言われた。


 こうして始まった学園祭。今年の学園祭は乗り気にならなかった。


 校内放送の開催宣言と共に、パンパンパンと花火が鳴り、各クラスの出店が始まる。

 僕以外の世界は楽しそうに思えた。


 今日は店番がないので、僕は一人で学校を散策することにした。

 今日は誰かといるより、一人で居たかった。

 一人で回っているとき耳を疑うことを聞いた。


 それは、昨日の事故のことだ。

 委員長は人為的に事故に巻き込まれた。や、委員長と一緒に居たやつは見捨てて帰ったなど、捏造された事実が蔓延っていた。


 そして、僕の中で今朝からの出来事が繋がる。


 絶句した。意味がわからない。なんで。なんで?なんで、なんで、なんで。

 僕が委員長を事故に追いやり、見捨てた野郎だ。となっている。

 はぁあ?笑う事すらできない。

 なんとかしなくてはと思った。そして、今朝奏兎に放課後呼び出されたことを思い出す。

 あぁ、奏兎なら誤解を解くのを手伝ってくれるはず。そう思い僕は今日を頑張って過ごすことを決意した。


<お昼頃二件の通知が来た。>


 一つは委員長の母親からであった。どうやら委員長は手術をし、一命を取り留めたらしい。よかった。メールを開くのが恐怖であったが、その文をみて、一気に力が抜けた。

 もう一つは奏兎からで、放課後屋上に来いと書いてあった。


<放課後の屋上>


 奏兎は両肘を手すりに乗っけて、グランドを眺めていた。


「奏兎!」僕は奏兎に近づいていく。ちゃんと話す為に僕は悲しみを押し殺す。

「あぁ良夜。」奏兎の顔はどこか清々しかった。


「屋上に呼び出してどうしたんだい?」僕は何もわかっていない様に尋ねる。

「ちょっと聞きたいことがあってさ。」奏兎の声のトーンが少し下がり圧を感じる。


「聞きたいことか、俺が答えられることなら…」

「お前なにがしたいんだ?」奏兎は僕が喋るのを遮り言う。

「なにがしたいってどういうことさ?」聞き返す。

「そうか。俺から言えと。」奏兎の感情が怒りに変わったと感じた。

「お前は未奈美、唯音、俺を()()()思ってる?」

「随分と人聞きの悪い問いをするね。まるで道具みたいな聞き方だな。それが()()思ってる?って言う質問なら、もちろんかけがえのない友人と答えるよ。」僕は心から思ったことを口にする。


「そうかよ。本題だが、お前委員長を事故に遭わせてなにがしたい。」

「いや、それは…俺がやったんじゃ…」

「俺は失望したんだよ。仮に今のが違ったとしても、見捨てたってなんだよ。お前がそんなやつとは思ってなかった。」

 奏兎は一人でなにを言ってるんだ?

「お前は俺らの気持ちを理解しているんだろ?」

 俺らの気持ち…?

「!」まさか、奏兎と委員長は…両片思い…!?


「弁当の時は嬉しかった。だが、お前さ、イングラのは酷い。やり過ぎだ。」奏兎は怒りを越え悲しげであった。

「一体なにを言って…」


 イングラで委員長が曲を流したのは独断であった。故にイングラをやっていない良夜は全く知らない話をされているのだ。

 奏兎にしか見えていない世界を話されているため、理解ができない。


「委員長はお前と付き合っている。俺は負け組だ。そうだよ、『片想い』さ。」と笑って言う。

「奏兎…負け組って一体何を言って、それは勘っ!」

「もういい。」僕が勘違いと言う前に遮られる。


「俺はお前を親友だと思っていた。けど今回の事で心底失望した。俺はお前を信用できない。未奈美には悪いがな。」

「奏兎!違うんだっ!だから、待って、話を!」足が上手く動かなかった。

「じゃあな。良夜。」奏兎はドアの方へ歩いていく。

 奏兎は許さないと誓ってもキレ散らかさないのは彼の人柄があるからだろう。


 千切れてはいけない糸が千切れ始めたのだと僕は悟った。


「わかんないよ…。」世界は僕を置いていくようにと素早く過ぎ去っていく。


 振り返ると、ドアの方に野次馬が沢山いた。いつから見ていたのか知らないが、僕の中で終わりの鐘が鳴り響く。


 僕はその場に立ち竦んだ。


 少し経って僕は教室へ戻った。

 そこには未奈美が居た。


「良夜…どうしたの…?さっき奏兎がすごい顔つきをしていたよ…」

 未奈美が心配するのも仕方がない。


「いや…ちょっとな…切っちゃいけないものを切っちまったかもな…」笑顔になってない笑顔浮かべた。

 先ほど奏兎と屋上で話時間を潰したこともあり、日が翳始めていた。

「その…良夜今噂になってることを聞いたよ…」未奈美は恐る恐る口にした。

「そっか…」

「あのね…私は良夜を…信じてるよ。だから噂が嘘ってわかるよ…」少しずつ未奈美の声は小さくなる。

「だから!だからさ!私が…みんなに!」未奈美の綺麗なセミロングの黒髪が揺れる。

「いいんだ…。やめてくれ、お願いだ。変に悪化させたくない。余計な反論は油と一緒だ…」

「でも…」諦める様に言う僕をみて未奈美の両目の縁のあたりが夕日に当たって輝く。

「だから、ほっておいてくれ…未奈美に迷惑はかけたくない。」自分でも周りを把握できていないのだ。それなに他人を使うなんてことはできない…。


「良夜!私…ッ!!」僕の表情みて口を紡ぐ。

「やっぱ唯音には勝てないか…。」

「えっ?」未奈美まで一体なにを言って…ッ奏兎か!

「ごめん。やっぱなんでもない。さよなら。良夜…。」

 とても分厚い壁が一瞬にして築かれたことを僕は理解した。


 彼女の顔が翳かげ、去っていった。


「みんな違うんだよ…委員長好きなのは奏兎なんだよ…俺は協力していただけなのに…なにを間違えたんだよ…」誰もいない教室には僕の声だけが悲しげに響いた。


 そして、良夜は心を完全に閉ざす手前まで来ていた。今日の学園祭の記憶など忘れるほどのショックを受けた。


 校門を出る前に後ろから声をかけられた。

「ねえ」

 そこにはこの学校の副会長で未奈美の親友の沙紀が立っていた。

 彼女とは何度か話はしたことがあり、元気なイメージがあったが…今はそんなイメージなど一切湧いてこなかった。


 彼女は曇っていた。そして、目尻は赤く擦ったことがわかる。


「…なにか用?」

「未奈美を泣かせるなんてどういう考えをしているのかな?教えてよ。」強い口調であったが、声の震えから態度を装ってることは理解できた。


「どういう考えって…」


「そうやって逃げるんだ。未奈美が可哀想だよ…」そう言い彼女は走って去って行った。

 ズタボロだ。


 良夜の顔はいつ身を投げ出してもおかしくない程酷かった。

 昨日は委員長が目の前で撥ねられ、今日は親友だと思っていた奏兎に失望したと言われ、心を許していた未奈美との間にもヒビが入った。

 普通の人ならショックで寝込んでもおかしくないはずだ。


 そして、良夜は今夜も食事は喉を通らずお風呂に入って眠った。


 翌日良夜は学校に行くことにした。

 昨日あんなことがあったなら普通の人なら行かないだろう。

 でも、良夜はもしかしたら昨日のは…と迷走状態であった。

 良夜はメンタルをやられ自分がどういう状況かわからなくなっていた。


 そして、良夜は学校へ向かう。フラフラと歩く。どう考えても心配になる足取りで向かった。


<学校の下駄箱にて>


 良夜をみた男子の集団がコソコソと喋る。

「おい、見ろよ。あいつが生徒会長を泣かせたって噂の。それと事故の」

「まじかよ。よく堂々と学校来れるよな。」

「というか、どういうメンタルしてるんだよ(笑)」

「おっそろし。」


 良夜をみた女子生徒の集団は…


「ねぇー見てあいつ。例の小野寺先輩の…」

「てか、あいつが事故を引き起こしたんだよね?」

「らしいよ。」

「怖すぎ…」

「ねー」

「てか、どういう神経して学校来てんの?オモロ」

「それな」

「え、なんかこっち見てるんだけど…」

「キモ過ぎ」

「行こ」

 女子生徒が軽蔑の目で僕を見る。

 男子とは違い堂々とデカい声で言われた。


 なぜたくさんの人が委員長の味方なのか。

 理由はただ一つ。

 みんな委員長を慕っているから。


 委員長は誰にだって嫌な顔一つせず、優しく接する。

 これでわかるだろ?

 委員長が事故に遭った。その場所には一人の男子生徒がいた。

 ここに誰かが嘘と言う名の劇薬を投入する。


 すると、みんなの感情と言うものは化学反応を起こし一瞬で爆発する。

 だから、一方的に敵対行動を起こす。


 これは信頼と言う名の差別みたいなものだ。

 区別とかの屁理屈を言われたらもう、どうしようなくなるがな。

 はあ…広い世界ってほんとゴミだ…。


 良夜は途端に周りの目が怖くなった。

 聞こえるはずのない陰口が聞こえてくる。

「嫌だ…やめてくれ…なんで!なんでなんだ!あぁぁ嫌だ嫌だ嫌だ……」良夜は頭を押さえ来た道を思いっきり駆けて行く。

 気持ち悪い、気持ち悪い…吐きそうだ。

「あぁ…もう誰も僕を信じてくれない。僕も…もう誰も信じれない…アッハハハ……。」


 良夜の心は閉ざされ、心の中に在った壊れていけない何かが壊れた。


 ◆◇


 ジーーーーーパッチンッと音が鳴ると同時に画面が真っ暗になり映像が途切れた。

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