BranchⅠ:<イチゴの花>と<追憶慈愛人形>(Ⅱ)
ピピッピピッピピッ
鬱陶しく鳴り続ける目覚ましを止めるために僕の意識は覚醒し始める。
止めるためと言ったが今日は月曜日なので平日だ。
昨晩ずっとFPSゲームをしていたため寝不足である。
今になってあんなにランクで連敗するなら早めにやめれば良かったと思いながら目覚ましを消した。
秋になり少し肌寒くなったため余計布団から出るのが嫌になる。
再び眠りに着こうとすると、下の階から「起きなさーい良夜」と珍しく朝の時間帯の家にいる母の起きろコールが聞こえた。
「学校遅刻するわよー」と言っていたので僕はちゃんと頭の中で「はーい」と応えておいた。
「私が起こしてきますよ。」「じゃあお願いするわ。」と言うやり取りが聞こえた。
玄関が開く音と階段を上る足音が聞こえる。
玄関を開けた音は母親だと思うが…
バンッと扉が開き足音の主が近づく。
「もー良夜起きて。おばさん困ってるよ」そう言い布団を捲られた。さっむ…
「んー…知らない。」人は睡眠欲という三大欲求の一つには敵わないのだ。
「学校遅れちゃうよ。」
「うーん。だから未奈美は先に行ってて…」僕が言うと未奈美は溜息をし、
「もー!!早く起きっててー!」
「グッへ!?」わざとではないと思うが…みぞおちを食らい…布団を剝ぎ取られた。
「わかった…起きます…。」そう言い僕はノビをした。
それと同時になにか柔らかいものに触れ…
「あ……」未奈美の顔が段々赤くなりカバンで殴られ、僕は倒れ望んでいた布団に戻れた。
寝ぼけているのもあり、状況把握に少し時間がかかった…。
未奈美は殴った後下の階へ降りて行った。
僕は急いで起き支度を始めた。
下に行くと未奈美はソファーに座っており、僕は朝食を済ませるため椅子に座った。
当たり前のように僕の部屋に入ってきて朝起こしに来た彼女の名前は、小日向 未奈美。彼女は幼馴染であり、僕らが通う学校の生徒会長である。それと、校内美女ランキング(男子が勝手に作って広まったやつ)で一位に輝いている。
そのことを彼女の前で言うと、「別に他の人にとっての一位なんてどうでもいい…」と言われる。
照れ隠しなのだろうか?
それともう一つ。彼女は、僕の両親が仕事の都合上家にいない頻度が多いため、たまに面倒を見に来てくれる。もう高校生なので面倒をみるとかしなくてもいいと思うが…
朝食を済ませ僕らは学校へと向かった。
学校に着き教室へ入ると横から声をかけられた。
「おはよう。良夜。未奈美」
「あぁおはよう。奏兎」
「おはよう。」
未奈美の様子をみて奏兎が
「おい…なんかあったのか?」
「えー…っとまぁ…特にはないよ」
「そっか。ならいいや。」
そう言い奏兎は席へ戻って行った。
彼、小野寺 奏兎は僕の親友であり幼馴染である。
彼はスポーツ万能であり、勉強もできる。そしてイケメンである。
奏兎は校内彼氏にしたいランキング(女子が勝手に決めたやつ)で一位に輝いている。
そのことを彼に言うと「ふ~ん。一位かぁ…」と言い遠くの方を眺めるのである。
女子に興味ないのかな?それとも想い人がいるのか…。
そんなハイスペックな人に囲まれ僕は高校生活を満喫しているのだ。
先生が教室に入ってきて朝の会が始まり、ざっとお知らせをし
「はぁい。それではですね。本日も落ち着いてぇ、学園祭に向けて準備を頑張ってください。号令ぇ。」
「起立。礼。」と共に僕は再び席に着く。
ここ砂那山学院高等学校は県内一番人気の校である。
理由はいたってシンプルである。
『生徒の自由を尊重し、あらゆるものに挑戦する』所謂チャレンジングスピリットっていうものを大切にしている。
なので、進路指導も手厚く施設も揃っている。
もちろん、進学だけではなく人生においてたったの3年しかない高校生活を満喫できるような設備だってある。なんなら部活にアニメ研究会やeスポーツと言ったものまであるのだから。
そんなこともあり、年々入学希望者が増えていっているのだ。
そして、今この学校では学園祭の準備をしている。
勿論すごいのは日常生活だけではない。
何と言っても学園祭は学園と言っておきながらも、地域の人が参加するなどと、人との交流を大切にということで毎年すごい盛り上がりをみせる。
そんなこともあり、「まぁ失敗できないよねー」ってことで生徒はやる気満々である。
開催まで数日しかないという事で、みなの緊張も少しずつ増えてきている今日この頃だ。
なので、皆さっさっさ~っと持ち場へ消えていくのだ。
僕らのクラスは一日目と2日目はたこ焼きを出し3日目は一口パンケーキ屋をするらしい。
ちょっとハードな日程である。
という事で僕も手伝いに行こうと思い立ち上がると未奈美が近づいてきた。
「その…朝はごめんなさい。いきなり殴っちゃって…」
「あ、うん…こっちもごめん。あ、でも決してわざとじゃないんだ…」
「わかってるよ…良夜はそういう人じゃないって知ってるもん。じゃぁ私生徒会の仕事があるから。またね。」と言い未奈美は教室を出て行った。
僕が未奈美を見送るとドンっと奏兎が肩を組んできた。
「さて、僕らも仕事始めますか。」
「あぁ、そうだな。」
作業していると奏兎に背中をトントンされた。
奏兎は時計を指差していた。
時計は一二時二〇分を指しており、四時間目が終わりお昼休みに突入していた。
社会に出ては当たり前のことだが、『この学校は時計を見て行動できる人』という事も掲げており、チャイムは無い。
こうした作業事は勉強よりも時間が経つのが早すぎて困ってしまう。と言うか恐怖。
「これでよっしと、そっちは?」
「こっちも片付いた。」
「おーけ」
そうして、僕と奏兎はお昼にするため、一旦片づけをし、テーブルをくっ付けて、手を洗いに行った。
戻ってくると自分たちの所にもう一つ机が追加されていた。
そこには未奈美が座っていた。
(え、なぜ俺たちの所にくっ付けているんだ…)と思っていると、こちらに気付いた未奈美が寄ってくる。
「良夜…あのさ、こ、これ…お弁当…」
お弁当を手にした未奈美の手が胸元まで来る。
「いや、俺今日お弁当持ってきてあるから…あっ、無い……」
僕は自分のカバンに腕を突っ込んで気付いた。弁当がないってことに。
通りで今日カバンが軽いわけだわ!
それを横で見ていた奏兎は呆れた顔をしていた。
「そんな顔するなんてひどいじゃないかぁ!」と言うと
「いや、だって自信満々にあるとか言っていてないからさ、つい。」
「ついってなんだよっ!」
僕らのちょっとした漫才で未奈美は笑っていた。
「未奈美。ありがと」僕はお弁当を受けった。
そして三人で席に座った。
あ、やっぱここで未奈美も食べるのね。
「てかさ、未奈美どうして、朝渡さなかったんだ?」
「どうしてって、!私が忘れていたの気付いて持ってきてあげたんだよ?良夜が自分で気づくまで待っていたのでも全然気づかないからさ、まったくもー」
「すみません。」
「それじゃぁ」
「「「いただきます」」」三人でいただきますをし、食べ始めた。
蓋を開けてふと思った。なんか今日のお弁当気合い入っているな。
「今日のお弁当美味しいな。」と僕は吐露した。
横を見ると未奈美のセミロングの黒髪が嬉しそうに揺れていた。何かいいことがあったのだろうか?
美味しくてペロっと食べきってしまった。
食べ終わると同時に周りからの視線をすごく感じる。
理由はわかりきっているが…校内人気ランキング女子一位の未奈美とご飯食べているので男子からの嫉妬の目がえぐい。それとここにはランキング男子一位の奏兎が居るため、未奈美に対する嫉妬がすごいなどと居心地が悪い。
そんなこと考えていると、あっという間に昼休みが終わった。
席を片づけ終わりふと教室の入り口の方を見ると未奈美と奏兎が話をしていた。
やけに未奈美の表情が嬉しそうであった。
なんだ?あいつらデキているのか?
前にもなんかそんな噂を聞いたようなぁ…う~ん。まぁあの二人なら僕は心から応援するぞ。
「さーて午後もがんばるかぁ~」
「おう、そうだな」いつの間にか戻って来た奏兎が答えた。
「そういえばお前、午後は学園祭期間の書類制作じゃなかったか?」
「あ、そうだった…PCルーム行って作ってくる」
「良夜、お前は装飾作りだったよな?」
「あ、そうだった…細かい作業苦手なのに…」
「お互いファイトだな」そう言い残し、書類作りという残業チックなことをしに奏兎はダルそうPCルームへと消えて行った。
良夜と奏兎のやり取りを遠くから見ている者が居た。
(奏兎君…PC作業なんだ…手伝ってあげたいけど私不得意だしな…でも出来たら距離縮まるかな…?)
「唯音?どうしたの?顔赤いよ?熱?」自分を入れて三人で話していた内の一人が心配そうに尋ねた。
「え?あ、大丈夫だよ。」一瞬ビックリしたものの、すぐさま微笑み言った。
「そう?ならいいけど」どこか安心した様子で話に戻った。
<生徒会室にて>
「未奈美~どうだったお弁当はっ!」とポンっと肩に手を置き、楽しそうに声をかけた。
「うん…よかった…美味しいって言ってくれた…えへへ…」未奈美は頬を赤らめボソっと言った。
「そっかぁ…生徒会長までリア充になるのですね…」
「も、も~!さ、沙紀ったらぁ!」沙紀と呼ばれた彼女はベーっと舌を出していた。
(そういえば良夜午後の仕事飾り付けの制作とか言ってよね…細かい作業だけど大丈夫かな?)
<未奈美が心配していた頃教室では>
(ダメだ…上手くいかない…!なぜだッなぜ綺麗な形にならないんだ…)もちろん、大丈夫なわけがなかった。
良夜が頭を抱えていると後ろから声をかけられた。
「良夜君大丈夫そ?」
「あ、委員長」髪を腰まで伸ばし前髪にトレードマークの紺色の花のヘアピンを付けた、委員長こと月下 唯音が立っていた。
「まぁ自分の下手くそさに嘆いているだけだからな…」僕は手元をみて苦笑いをする。
「なら手伝うよ」
「いや、それは悪いよ、委員長他の所の仕事があるんじゃないのか?こんな余り作業的なのと違って」
「心配はいらないよ、今日の分は全部終わらせてきてから。」サラッとすごいことを言う委員長に僕は瞠目した。
「そっか、じゃぁちょっと手伝ってもらってもいいかな?」
「うん。わかった。」そうして僕は再び作業へ戻った。
黙々と作業をしていると一番初めに委員長が口を開いた。
「あ、あのさ…良夜君って奏兎君とすごく仲良さそうだけどさ…いつから一緒なの?」
予想外の質問をされ驚いたが、僕は答えた。
「あいつとは幼稚園に入る前からの付き合いだよ。だから幼馴染でいいのかな?まぁ基本的にあいつの事なら何でもわかるぞ。というか急にどうしたんだ?こんな事聞いて。」
「え?あ、いや特に意味はないんだよ…ただ気になってね…」
「そうなんか。ん?待てよ…もしかして…」良夜が何かに気付いたように声を上げると共に委員長は心の中で狼狽した。
(き、気付かれた?!)
「やっぱそうだ、おかしいと思ったんだ。」
(あわわわわ…やっぱバレたのかな?!私が奏兎君を好きって…)唯音は動揺を表情に出さないように必死であった。
「えっと…な、なにが…デスか…?ッ!」(ってこれ!完全に動転していることがバレちゃう喋り方だよ!!ど、どうしよぉぉ…あわわわ…)委員長の目はぐるぐる状態であった。
そんな唯音の思案とは裏腹に良夜は
「なにって飾りつけの材料が足りないことが分かった。買い出しに行かないといけないじゃん…」と全く気付いた素振りを見せなかった。
これには唯音も(え?あ、バレていないんだ…よかったぁ。)と胸を撫でおろし、
(でも、ここでバレていた方が良夜君に手伝って欲しいって言える機会だったのかな?)と先ほどと矛盾した考えを抱くのであった。
「委員長。買い出しの分のお金ってどこでもらえるんだ?」
「お金は職員室に行って担任の山口先生に言えば貰えるよ」
「わかった。じゃぁ今日の作業はここまでだな。ちょうど時間も時間だし。」時計は三時二九分あと六分くらいで七時間目が終わる時間を指していた。
「委員長のおかげですごく進んだわ。手伝ってくれてありがとう。」
「これくらいいいよ。私が手伝った時間はほんのちょっとだし。」
話し終り片付けをしていると様々な場所で作業しているクラスメイト達が帰ってきた。
全員集まるとすぐに帰りの会が始まり、いつも通りお知らせをし、会が終わった。
終わると同時に未奈美と奏兎がこちらへやってきた。
「良夜、ちゃんと作業できた…?」出来てないとどこか確信している聞き方であった。
「まあ、なんとかね。材料無くなっちゃってこれから買い出しに行く予定。」
それを聞くなり未奈美は
「えっ!?す、すごいね!良夜器用になったの?」本人には悪気はないと思うが、どこか馬鹿にしているような口調であった。
「違うよ、未奈美。多分良夜はミスしすぎて材料を切らしたんだ。」そしてこいつは完全に僕をバカにしていた。
それを聞くなり未奈美はどこか納得した表情を浮かべていた。
「そんなにミスしてないわ!二人で俺を小馬鹿にしやがってよ。それより、二人の放課後の予定はいかがで?」
「俺は終わらなかったからさっきの続きをする。」奏兎はどこか遠い目をしていた。
「私は生徒会と自治会の打ち合わせだよ。」
「皆さんも大変そうで。それじゃ俺は早めに買ってきて学校に戻ってきたいから、もう行くわ。」
「「がんばっ」てね」と二人から少しハモった応援をもらい僕は職員室へ向かった。
ドアをノックし、「失礼します。山口先生はいますか?」
「お、どぉーした?良夜。」特徴的なイントネーションの先生がこちらへ近づいてくる。
先生の喋り方は二年生に進学してから六ヶ月ほど経っても違和感しか覚えられない。
そして、この先生は強敵なのだ。
なぜかって?理由は簡単さ。特徴的なイントネーションに加えて喋り方が少し遅く、担当教科が歴史総合。完全に生徒を眠らせに来ているので…恐れられているのだ。
歴総の時間周りを見渡すとほとんどのクラスメイトの首が傾いているのだ。
僕も何度この声に負けたことか…
「学園祭の飾りつけの材料が切れてしまったんで、買いに行くのに費用をもらいたくて」そう言うと。
「おーそっかぁ、ちょっと待ってろぉ、いくら必要だ?」
「五〇〇円です。」
先生は『クラス割り振り費用』と書かれた封筒から五〇〇円玉を取り出した。
「買ってすぐ戻ってくる予定なのでその時にレシートとお釣りは持ってきます。」
「わかったぁ。急いで戻ってくるのはいいが、事故には気を付けろよぉ?」そう言いながらゆっくり人差し指を前に動かしていた。
「わかりました。」そう言い僕がドアノブに手をかけると、「あ、ちょっと待て良夜。」
「このプリント奏兎に渡してくれないかぁ?さっき渡しそびれてしまってねぇ」
「あ、わかりました。」プリントを受け取り僕は奏兎の所へ行ったが退席してたので、キーボードの上にプリントを被せてきた。
「この学校の校舎はデカいから移動だけで時間がかかるなぁ。」と愚痴を漏らしながら下駄箱へと向かった。
校門を出るなり小走りで自分の家の方にある百貨店へと向かった。
すると前の方で信号待ちをしている、紺色の花のヘアピンを付けた見知った人物が居た。
「あれ、委員長。」
「あ、良夜君」僕を見るなり手を小さく振りこちらへ近づいてきた。
委員長はクラスの人気者であり、今のように男女問わず優しく接してくれる所が人気の理由なんだろうなぁと僕は思った。
「委員長ってこっちの方に住んでいたっけ?」僕は不思議に思い尋ねる。
「ううん。今日は学校帰りに買い物を頼まれちゃったから、百貨店に行く予定だよ。」
「そっか、なら俺と同じだな」
「良夜君あの時言ってくれれば私がついでに買ってきたのに」とお人好しも過ぎること言っていて驚いた。というか心配になった。
「委員長それはよくないよ。もっと自分を大切にしないと。そんなお人好しだとみんな堕落しちゃうよ?」と僕は笑いながら言う。
「堕落なんてしたら私はちゃんと面倒をみて元の状態に戻させます!」
「だから、それだって。」そんなことを言っている内に信号は青へと変わった。
そして改めて思う。委員長すげぇ…と。
そんな、良夜と唯音が話しているところを遠くから不安げにみている人が居た。
(あそこに居るのって良夜と…唯音…?あれ…唯音って通学路こっちじゃないよね?どうして…?)
偶然にも打ち合わせに向かっている途中に良夜達を見つけてしまったのだ。
(良夜って私たちよりずっと早く出たハズじゃなかったっけ…なんで…)未奈美は良夜が奏兎の所へとプリントを渡しに行ったことを知らないため、誤解が生まれてしまった。
「会長早くしてくださいよ。遅れてしまいますよ」他の役員に声をかけられ我に帰る。
「あ、うん。わかった」
ここから勘違いと言う名の絶望のせいで綻びてはいけない糸が千切れて行くのであった。
僕と委員長はそのまま二人話ながら百貨店に向かった。
話の内容は学園祭のことで業務的な感じであった。
百貨店の入り口で僕と委員長は別れる前に、今後連絡を取るかもと言うことで、連絡先を交換した。
最初委員長にはイングラと呼ばれている、写真や動画など視覚で楽しめるSNSでDM交換したいと言われたが生憎やっていないので携帯番号を教えといた。
みんなイングラはいいとか言ってるが僕にはさっぱりわからない。
そんな写真や短編動画ばっか見てるよりも青い鳥ちゃんのアプリで面白構文とかくだらない短文を見てた方がよっぽど愉悦だ。
僕はササっと買い物を済ませ、学校へ戻った。
数十円のお釣りとレシートを職員で渡し、教室へ戻るとそこには奏兎がいた。
「奏兎どうしたんだ?窓の外を開けて黄昏ているなんてさ。」外からはカキーンっと野球部がホームランを打つ音が聞こえる。
「お、帰って来たのか。どうしたというか、なんとなくこうしていると青春を謳歌しているって感じで好きなんだよ」
「わからんこともない!」そう言い僕は奏兎の隣へ行った。
奏兎は夕焼けを浴びながら外を見ているだけで画になるから羨ましい限りだ。
少し冷たい外の風も運動部の人たちを見ているとなんだか暖かく感じられた。
「帰るかぁ」奏兎は両腕を伸ばし言う。
「そうだな」僕はそれに応える。
<帰り道にて>
「なぁ奏兎さんよ。先ほど青春を謳歌しているみたいなことを言っていたじゃないですか。」
「そうですね。良夜さん。」奏兎は僕に合わせて丁寧語で喋る。
「では、一つ問いたいのですが、好きな子いる?!教えてよぉ。誰にも言わないからさぁ。」小学生みたいに質問しながら、肩を近づけると同時に奏兎は避け応える。
「いねぇーわ。」
「ほんとかよ」僕は首の後ろで手を組み言う。
「ほんとだ。」目を瞑り頷き応える。
「仕方ない。これ以上は問わないでおこう。」と僕は甘受した。
その後、僕たちはいつも通りの他愛ない話をして別れた。
<その日の晩>
奏兎はお風呂から上がり、自分部屋に戻り椅子に座った。
「好きな人か…」奏兎は帰り道に良夜に質問されたことを思い返す。
(やっぱ…良夜にはバレてるのかなぁ…正直に手伝って言おうかな。あいつは誰とでも仲良くできるし、仲介役とかいっぱいしていたしなぁ)と流石親友と思いながら言うか否かで葛藤していた。
髪をタオルで拭いているとピコンっと携帯が鳴った。
画面を覗き込むとイングラからのDM通知であった。
(未奈美からか)お風呂に行く前に送信したことに対する返信であった。
ーーー<奏兎と未奈美のイングラのDM画面>ーーー
(明日はどうすんだ?)
ーーーー未読ーーーー
(明日もお弁当渡そうとは思ってるよ)
(明日は「忘れたでしょ」作戦できないなw)
(そっかどうしよ…)
(おばさんの代わりに作ったでいいんじゃないか?)
(そうだね。その作戦で決定だね!)
(話変わるんだけどさ)
(今日、放課後、良夜先に出て行ったでしょ?)
(そのハズなのに、私が生徒会で学校出たとき
唯音と一緒に歩いていたんだ…唯音家反対なのに)
未奈美から送られて来た文をみて、奏兎は「え?」とリアルで呟いた。
奏兎は未奈美とのDMを一旦閉じ、シェアした写真が見れるホームへ戻った。
そして、唯音がアップした写真をみた。
そこには綺麗な夕焼けと右端に遊具らしきものの切れ端部分が写っていた。
最初見た時どこかで見たことある風景だと思っていたが、未奈美のメッセージで点と点が結び付いた。
そこは近所の公園であった。
「どういうことだ?」奏兎は少し動揺し言った。
そして、未奈美に返信しないと。と思いDMを再び開く。
ーーーーーーーーー<DM画面>ーーーーーーーーー
(どうせ、良夜のことだから職員室寄ったとき先生
になんか言われたんじゃない?)
(それで、偶然会っただけだろ。)
(気にしなくていいのでは?)
(わかった。)
(じゃぁ私もう寝るから落ちるね。また明日。)
(じゃ、また明日)
イングラを閉じ奏兎は(良夜に限ってそんなことはないはず…)と自分に言い聞かせながらポイっと携帯をベッドに投げ、ドライヤーをしに洗面台に向かった。
奏兎は良夜と惟音のことを考えていたが、親友を疑り深く見るのも良く無いと思い考えるのを辞め、布団へ入った。
布団に入るなりすぐ眠気が襲いそのまま眠気に身を委ねた。