ネットのうわさ -電脳の影の中-
『ネットのうわさ』 -電脳の影の中-
世の中には人以外の何かがいる。
ネットの中も同じ。
そんな都市伝説のようなうわさがある。
現実の場所にも、神社仏閣のような清浄とされる場所があり、そこに集う想いがあるように、
人の想いや感情の、悪い考えや汚れた意識が集まるところ、そうした何かの澱のようなものが溜まりやすい場所はあるのだろう。
パワースポット、心霊スポットなどと囁かれる場所はおそらくそうだ。
そうした場所の空気は違う。
神域、聖域を思わせる空気を感じさせる場所は確かに在り、
その対極とも言えるところも、あまり考えたくはないが存在する。
ネットもそう。
よいものが集う場所、よくないものが集まる場所がある。
よくない場所をリンクで繋げると、
悪意のエネルギー、マイナスの感情の流れと共に、よくないものもそれに惹かれて現れる。
そんなうわさが聞こえてくる。
-◆-
「はあっ?」
呆れたような顔をしてそう言いながら、
そうじはみつるに話しかけた。
「デマだって!あり得ねぇよ」
バカだなぁ、だまされてんだよ!とそう言われたみつるは、そうじにむくれた顔を見せる。
「だって、そうちゃん!」
「だってじゃねえって」
ため息をつきながら、
そうじは一つ下の幼なじみのみつるへと、諭すように話す。
「学校の怪談、七不思議みたいなウソだって(笑)
前に、あの小学校をオレらで調べたろっ! あの時だってなぁーんにも無かったし」
そうじは笑いながらみつるに近づいて大げさに肩をたたく。
そうして痛そうにするみつるを、そうじは面白そうに笑った。
そうやって、そうじとみつるとの少し怖くて不思議な冒険がまた始まるのだ。
-◆◆-
そうじは子どものころから、引っ込み思案なみつるのイヤがる手をひっぱって、子どもの頃にするような探検を繰り返していた。
近所だったり隣町まで半日をかけて、自転車だったり電車だったりで出かけたりすることもけっこうあった。
みつるはそうしたことに付き合わされていたのだ。
けれども、みつるはそうじのことが嫌いでは無かったし、どちらかといえば好きだったのだろう。
面倒見のよい兄貴分でもあるそうじという存在は、
人見知りで友だちの少ないみつるには、強引に危ないことに誘うそうじの遊びは少しだけイヤではあっても、
そうじのことは頼もしくて楽しく遊ぶことのできる相手だったのだ。
探検隊と名付けられたその遊びは、興味を持った仲間たちが一人二人と加わって、
多いときは10人前後が集って、近所の面白いもの、不思議なものを探す少年たちの楽しい遊びとなっていた。
毎週土曜の放課後に、そうじのクラスの教室に集まる探検会議では、
みんなが調べてきた事件や出来事を他の隊員に伝えて、次の探検に出かけるのに見合うものかを話し合い、
翌日の日曜に参加する仲間たちが連れ立って出かけて遊ぶのだった。
もっとも、だいたいの探検場所は遊びを始めた隊長役のそうじが見つけてきて、
みんなが賛同して翌日に出かけてゆき、楽しく遊ぶという流れが普通だったのだけれど。
そうじは不思議なことがあったと、そうしたうわさ話を聞きつけると目を輝かせながら、みつるたち探検隊の仲間を連れて出かけていった。
そのうちに、出かけるところが遠くなるほどに、一人二人と、そうした遊びへと興味の薄れていた探検仲間は、だんだんと減っていった。
遊んでいた仲間たちは他のことに面白さを見つけてゆく。
探検隊の仲間は、ときおり入れ替わりつつもだんだんと減ってゆき、
最後に残ったのはやはり、初めから遊んでいたそうじと連れられて出かけるみつる、その二人だけだった。
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いつからかそれ以上に町が変わっていった。
子どもが面白いと思うことが変わったのだ。
二人の住む町のインフラ整備が進み、交通の便のよいバイパス幹線が走り、
新しい道路沿いにそれまで無かったコンビニや、地方や全国で有名な家電や食品や飲食チェーン店などが建ちならんでいった。
大型の商業施設も複数が出来ていった。
あれよあれよという間に、田舎の町は開拓されていって、
いままで知らなかったもの、遠くまで足を運び、そうした街までゆかないと出会うことの無かった楽しいもので溢れてゆくのだった。
古いものは無くなり、だんだんと新しいものに入れ替わってゆく。
あやふやな、はっきりしないことを自分で考え想像して楽しむよりも、ひとに与えられた簡単にすぐ分かることが好まれてゆく。
変わりゆく町からは、そうじが興味を持つような怖かったり不思議なことだったりした、そうしたうわさや出来事がどんどんと少なくなっていった。
幼かった頃より大きくなり学年が進むにつれて、
遠くの町や村などの不思議なことを調べるためのわざわざ出かけるだけの時間は、勉強などのためにとても取れなくなり、
調べ物はネットワークを頼ってゆく事になってゆくことになった。
前には不思議なこと、怖い出来事そのものを調べ楽しむゆとりがあったはず、想像して考えることが遊びのたいせつな目的であったのが、
ただ怖い場所、不思議な場所に行ってみることが目的に、書かれたことを鵜呑みにすることが当たり前にとすり替わってゆく。
何かが変わってゆく。
そして今も二人だけの探索、冒険は続いている。
現実の世界とネットワークの狭間で……
-◆◆◆-
そうじは今日もネットワークで、情報を集めて、みつると出かける、連れ回す探検の計画を考えている。
今回は少し遠出をしてみようか?
そうじはそんなことを考えつつネットワークの検索を続けていた。
あるサイトの記事に気づく。
気づいたのか、あるいは導かれたのか……
すこしあやしげなサイトだった。
そこで、この地域の記事を幾つか見つけた。
時おり出かけるとなりの街から、少し離れた場所にある公園。
公園の敷地はとても広くて、緑地を散策できる木々のある区画や芝生の中に、たくさんの遊具やイベントのための屋外ホールなどだけではなく、
訪れる家族連れが芝生にシートを敷き、お弁当を食べていたりといった和やかな景色が広がり、街の人たちの大人や子どもを問わずに楽しめる憩いの場でもあるようだ。
幾つも掲載された写真記事でそうした様子が見て取れる。
公園内には、以前からある小さな美術館もあり、過去に小さな博物館であった場所には新しく歴史資料館が整備されて建てられていると、そうしたことがホームページの案内に書かれている。
休日などに出かければ、一日中散策して遊ぶことのできそうな場所らしい。
幾つかの検索で目に付いた情報だと、
駅の近くではなくて、最寄り駅からバスにでも乗らないとちょっと行けない場所にあるそこには、
公園が整備される以前、戦時中の外国人捕虜の収容所が在ったとかで、その人たちを偲ぶ碑が建てられていたのだそうだ。
どういった事情なのかは知らなかったけれど、自治体の決定でその碑は壊されてしまい、もう無くなったらしい。
そこに最近、不思議なうわさがあるのだと、検索して見つけたネットの情報に書かれていた。
閉園し、門が閉まった後の園内のその碑のあった場所あたりに、
夜な夜な青白い人影が現れることがあるという。
星が降るほどの明るい夜。
こっそりとそうした公園などに侵入する行為を楽しみ、常習的に行っていた少年たちがいて、
木々や建物の影の影に紛れるように何かが居て、夜中に公園へと侵入してたむろしていたその不良少年たちへと囁きかけてくることがあるらしいと。
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「そうちゃんっ! もうやめようよ!」
あのネットワークのうわさに出遭って、のめり込むようになってからのそうじの様子を心配に思っていたみつるは、
最近はことあるごとにそう言ってはいるけれど、そうじは聞く耳を持たない。
むしろ、ますますあのネットのうわさへとのめり込んでゆく。
寝る間も惜しむように夜遅くまで調べ物に明け暮れているからなのか、
このところの疲れたような姿に反して、ぎらぎらと輝くなような眼と態度は、
そうじがあのネットのせいでおかしくなってゆくようで、
みつるはとても怖く、そしてそうじのことが心配になっていた。
夏休みの夜、花火大会に出かけることにして、夜の公園へと侵入してみないかと誘ってきた。
イヤだよ!とみつるは反対したけれど、その時のそうじは聞く耳を持たず、
駅で待ち合わせることを勝手に決め、電話のショートメールでそう伝えてきていた。
結局みつるは、夜中にそうじから誘われていた待ち合わせの場所にゆかなかった。
怖かったのだ、とても。
そうじのことも、
きっかけとなったサイトや、
現実のその場所の公園も碑のうわさも……
その日はスマホの電源を切って、布団を被り、なかなか寝つけない寝苦しい夏の夜を過ごした。
もしかしたら、そうちゃんも一人だけなら行かないかもしれないと、そんなことを思って……
-◆◆◆◆-
気がつくと灯りも消さずに寝てしまっていた朝、起きて寝ぼけた頭でスマホの電源を入れると、
夜中の着信で、そうじからのメールや、開設していた探検隊グループへの通知が何件も届いていた。
頬を張られたように急に目を覚まし、
それでも怖くて、メールや通知を開けずにいた。
その朝、そうじの家の親から、うちの親のところに連絡があったと朝ごはんの席で聞いた。
両親は、
そうじ君は昨晩となりの街の花火に出かけたそうだけれど、聞いていないか?
そうじ君と仲の良いみつるは一緒に出かけなかったのか?と聞いてきた。
みつるは知らないと言って黙り込んだ。
両親は何か感じていたけれど、その場でみつるのことを問い詰めたりしなかった。
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そうちゃんが帰ってこない。
他にも、最近のそうちゃんのことを、
最近様子がおかしかったそうだけれど、みつるは知らないか?何か気づかなかったかと、
親からいろいろなことを質問されたが、
知らないと言って口を噤んでいた。
そうちゃんはいつも冒険のことを、おれたちだけの秘密だ、親には内緒だぞ!と言っていたから、
きっと今回もそう言うと思うのだ。
そうちゃんの父さんも母さんも、そうちゃんが家出したのではと心配していたそうだけれど、ぼくは違うと思う。
そうちゃんからの連絡、
また見ることが出来ないのだけれど……
怖いけれど、そうちゃんの調べていた公園にあった碑のことを少し調べてみよう。
どうしても判らなかったら、その時は本当のことを打ち明けて謝るのだ。
でもきっと許してはくれても、父さんも母さんも解ってはくれない。
子どものときからそうなのだ。
父さんも母さんも二人とも、不思議なことは信じない。
そうちゃんのお父さんとお母さんもそうだった。
そうちゃんのことを、いつも変わった子だと思うだけだった。
そうちゃんのうちと、ぼくのうちはいろいろが違うし、そうちゃんとぼくは好きなこと嫌いなこともやっぱり違うけれど、
それでもそうちゃんとぼくは、似ていたと思う。
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そうじは次の日も帰ってこなかった。
みつるはネットでいろいろと調べてみたけれど、うわさ話以上のことは見つけられなかった。
みつるは仕方なく、その晩に両親へと事情を話した。
そうじが強引に進めていた冒険の計画と、みつるが怖くなり出かけなかったことと、
そして来ているメッセージを未だ開けていないという話もだった。
そう言ってみつるは、自分のスマホを両親へ差し出した。
両親はみつるに、部屋に戻っているように言いつけて、
しばらくの後に、そうじの両親と話をして来たと言った。
何も心配は要らないと言い、みつるにメールを見たら教えることと、
勝手にそうじのことを探したり、同級生や周りの人にへんなうわさ話などを広めたりしないことを約束させた。
その後、スマホは返されてみつるの手に戻ってきていた。
それから数日が過ぎてゆく。
そうじの両親は、家出の捜索願いを警察へと出したそうだ。
みつるのスマホは手元に残されたまま、警察が取りに来ることも無かった。
そうじのことについて、なんの進展もないという両親からの話を聞きながら、
みつるはまだ、そうじからのメールや通知を見ることが出来ないでいる。
-◆◆◆◆◆-
そして、
居なくなったはずのそうちゃんから
来るはずの無いメールが届いた
- まずは調べていた公園の碑のことを書いてあるサイトを見つけろ。 -
- リンクはこれだと。 -
- そして地元にある、大きな神社のサイトを開いて読んで覚えてから、その社へとお参りに出かけて、助けてもらえと。 -
- 手順に従い、お祓いをしろと。 -
ネットで検索した碑のリンクは、
普通に検索したら見つからないものだった。
『影の中の階段』
そう書かれたサイトには、たくさんの怖くて不可思議な出来事の事が書かれており、
その中の一つに、隣町の碑を思わせる史実としての経緯の話や、そうちゃんの話していた怪しいうわさ話と、
碑の影に人の霊と共に棲んできた何かの話が、不思議な綴り方で書かれていた。
そして、このリンクを見たらその何かに目を付けられてしまうこと。
その碑の何かが呼びかけてくる事が、読んだ人を怖がらせ脅かすかのように書かれていた。
そうちゃんはこんなことはしない。
あの時のおかしな様子のままなのか……
それとも……
あれは本当にそうちゃんだろうか?
そうちゃんはぼくをからかいはしても、本当にイヤだということはしなかったし頼まなかった。
ぼくを怖がらせ過ぎないように、ほんとに怖くならないように気を遣っていた。
そしてこの町の神社のこと……
なぜ今、怖かったことを話すのだろう……
その神社はこの町でも大きいもので、大晦日や初詣のお参りにそうじと共に出かけたことのある場所だった。
以前にもそうじが調べていた地元の神社のことで、
有名な推理小説家が取材し、小説に取り上げていたと言っていたという話をそうじから聞いていたみつるは、そのことを記憶していた。
みつるもそうじから薦められてその本を見たが、
殺人事件や、そうじの好きそうな不思議で怖い星占いの内容がいろいろと書かれていたので、
怖くなって、始めの地元の神社の辺りだけ読んで、途中で読むのを辞めてしまったことを未だ覚えている。
いつか、探検でそうちゃんやみんなと、
出かけたことのある神社だ……
たしか、
そうちゃんが、本を読みながら、
全国でも珍しい、下り参道の神社だと、
そう教えてくれたのをまだ覚えている。
そうちゃんのメールを見てみよう。
そうだ、
いま、ここで見なければいけない。
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みつるはそうじからのリンクにあった、この町にある有名な神社のサイト記事を開いて確認をした。
そこに書かれていたのは、普通のことでは無くて、
夜中にする参拝の仕方、捧げるもの、やってはいけないこと、注意点など。
本当に、心から願うことを叶えるためのやり方を書いた手順だった……
みつるは親からの言われていたことに逆らって、親への相談無しに参拝を決意して、深夜こっそりと家を抜け出した。
怖くて仕方なかったけれど、そうじを助けるためだと我慢しながら。
真夜中に、懐中電灯の頼りない光だけを唯一の道しるべとして、一の参道の階段を登り上げ、そして境内への下り参道へと辿り着く。
閉まった境内への総門を横切り、横から抜ける迂回路を通って、
下り坂の段々の参道を通って下りてゆく。
灯りも無く、先の見えない真っ暗な道は、
まるで暗闇の穴にでも落ちてゆくようにも思えた
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賽銭箱を片付けて、何処かに隠されていないといいけど……
祭りや催しの無い時期には、訪れる人も少ないようで、
手水場の水も止めて枯れており、賽銭箱もそのままとなっていた事を、
家から持ち出してきた懐中電灯の灯りで照らし、そっと確認をしながら、
みつるは辺りの暗闇に怯えつつも、背のリュックから膨らんだ財布を何とか引っ張り出した。
そうじと遠方の冒険へ出かけるために貯めていたお金全てを、みつるは神社への賽銭にして放り込んだ。
ジャラジャラと盛大な音を立てて吸い込まれる小銭と何枚かのお札などの賽銭を見るともなく見つめながら、
そうじから教わって習慣となり染みついている二礼二拍一礼の祈りの二礼二拍を先ずしていた。
- どうか、そうちゃんが戻ってきますように! -
- そうちゃんと、また逢えますように! -
そう願って、手を合わせて祈りを捧げて、最後に一礼をした後に、
みつるは何かに追われでもするかのように、左右から覆い被さるような木々の影と闇の中を、灯りを頼りに急ぎ参道の階段を駆け上って、
走って総門への参道から横の脇道を戻ってゆこうとしていた。
その途中で懐中電灯が瞬き消えて、
その後は神社から無我夢中で走って家まで辿り着いたのだが、
後で思い出そうとしても、みつるにはどこをどうやって走ってきたのかはよく判らなかった。
戻る途中にどこかの藪にでも突っ込んでしまったのか、着ていたTシャツからむき出しになっていたみつるの両の腕には、
たくさんの何かに引っ掻かれた爪痕のようなミミズ腫れの傷が多く残されていた。
---
それから何日か、みつるは高い熱を出して寝こんでいた。
熱にうなされながら、みつるは途切れがちにお参りに出かけたことを両親へと語った。
みつるの両親は、仲の良かったそうじが居なくなったショックと、夜中の外出や夏の暑さの疲れが出たのだとそう言って安心させようとし、
具合の悪いみつるのことをゆっくりと休ませていた。
寝込んでから一週間ほどが経ち、少し元気を取り戻したみつるは、
親から返してもらっていたスマホを久しぶりに開き、今回起きたことや、気持ちを整理しようとして、
そうじが失踪前にみつるへと送っていたメールや、二人で冒険の事を話したグループ円卓のメッセージを見直していた。
そうじは未だ見つかっていない。
帰ってきていない。
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そうじからのメッセージにあった言葉。
綴られていた文字たち。
-みつる、先にとなりの駅まで行ってるから。-
-あとで来いよ、みつる。-
-今隣町の駅だ。-
-みつる、来ないのか?連絡くれ。-
-花火大会の客で駅が賑わってるぞ、みつる。-
-電話切ってるのか?みつる?-
-バスがもう出てしまう。先に行く。-
-閉園までに公園まで行かないと。-
-公園についた。-
-みつる、なんで電話に出ないんだよ!-
-勝手に決めたおれのこと怒ってるのか……-
-お前のこと、信じてた。-
-怖いの苦手でも、また付き合ってくれるって。-
-仕方ないから一人で行ってみるよ。-
-また明日な!-
メールはこれで終わっていた。
中に入ってからの事は、いつもの冒険のように、
冒険グループのラウンドの記事へと書き込まれていた。
見つけたよ、みつる。
うわさはほんとうだ。
公園にはおかしなものが居る。
あれは青白い人影なんかじゃない。
人でも幽霊でもない、真っ黒な影だ!
透けてない、透明じゃないんだ。
向こう側を遮る黒い姿で!でも揺らめく光が視えるんだ、オーラか何かみたいに!
あいつらは影から現れるわけじゃないみたいだけど、
取り壊された碑の辺りから現れたり消えたりしてる。
あそこに何か入り口みたいなものがあるのかも。
もう帰るよ。
ここは危なそうだ。
帰ったらくわしく話す。
柵を越えて外に出ようとしたけれど、
何かに遮られて出られない!
押し戻されて柵まで近づけないんだ。
どうしよう!
どこかに隠れようか?
影に見つかった!
足が遅いから逃げられたけど、
影は幾つもいる。
みつる!
助けてくれっ!
いま隠れてやり過ごしてる。
夜明けまで、ここで何とか見つからないようにしないと。
見つからないよな
ここなら大丈夫だな
何かで気を紛らさないと
怖くてたまらない
みつる、
一緒にした冒険、楽しかったよな……
みんなや、
二人だけで話した冒険の話や計画も、
おれとても楽しかったよ。
計画立てて行けなかったとこも、未だあったはずだけど、直ぐに思い出せない。
ここから戻れたらまた誘うから必ず行こう。
約束だぞ!
だいぶ経ったけど、
影がたくさん、
この近くをうろついている。
もし行けなかったらごめん……
オレが帰れなかったら、代わりにお前が行ってくれ。
約束だ。
約束だぞ……
夜明けが来るかなり前に、そうじからのコメントは途切れていた。
-◆-
そうちゃんは居なくなった。
帰ってこなかった。
そうでなくて、
帰ってこない、居なくなったというよりも、
初めから居なかったという事になったのだ。
僕以外のひとは、だんだんとそうちゃんのことを忘れてしまっているようだった。
忘れようとしているのではなくて、忘れてゆく。
それは怖いと言うよりは、とても奇妙で気持ち悪い感じのする出来事だった。
あの公園の碑のあやしげなサイトはもう見つからない。
幾らタイトルで検索してもあの後に出てくることはなかった。
そうちゃんらしき相手から来ていたメッセージも、書かれたリンク先もどこかに消えていた。
碑が撤去されたという事実も、そこに何があったのかと言うことも、
日々のネットの多くの情報たちに押し流されて消えてゆく。
そこに戦時中、収容所が在ったということも、人が居たということもやがて消えてしまうのだろうか……
あの神社のサイト、神社(総社というらしい)で作ったサイトはあるけれど、
真夜中の参拝のことなど何処にも書いていない。
そうちゃんが探せと言っていた、神社について書かれていたリンクの場所は、あの後二度と見つからなかった。
あの時、あのサイトが見つからなかったら、どうなっていたのだろう。
僕もこの世から居なくなっていたのだろうか……
それとも……
どっちだろう?
この世から?
この世ってなんだろう?
そうちゃんが居なくなってから、
僕は、そうちゃんにイヤイヤ連れられていたはずの、不思議なものへの興味が強くなっている気がしている。
世の中には、ぼくたちが知るべきではないこと。
不思議な、近づいてはならないことが、
きっとたくさんあるのだ。
それでも、
それが知りたい気持ちになっている。
その気持ちが強く強く、ぼくを急かしてどこかへ連れて行こうとしている気がする。
そうちゃんが呼んでいるのだろうか?
もしかしたら、今も、
居なくなったそうちゃんのように、
あの碑のことを書いたサイトが、
ぼくを呼んでいるのかもしれない……
ある時、ぼくはそうちゃんの思い出が薄れている事に気づく……
……そうちゃん?
誰だっけ……
---
知らないやつから変なメールが届いたんだけど……
えっ、誰から?
みつる。
よく遊んでた、小学校の同級生からのメールらしいんだけど、俺覚えないんだよな。
お前知ってる? お前も俺もその時の遊び仲間だったらしいけどさ。
みつるだっけ?誰なのさ。
よく判らないんだよ。
なあ、みつるって知ってるか?
えっ、誰だっけ?
いや。覚えてないなぁ、みつる?
気味わりいな。
そういやぁなんかメール来てたな。
知らねぇやつだから消したかなぁ。
俺のとこにも届いてたよ。
見ずに消したけど。
着拒しとけよ、そんな怪しいメール(笑)
だよなぁ(笑)
そうした たわいもないやり取り
続く日々
影の中 何かが嗤った
知る人を呼ぶように
まずは読んでいただきまして、どうもありがとうございましたm(_ _)m
先日、ホラーっぽい鬼の話をやっと書きあげて投稿し、とりあえず完結と相成りましたが、
書いているそのさなかに、体調の低下や仕事のトラブル、人との関係の悪化などが幾つもあったのですね。
こじつけと言えばこじつけです。
悪いことは重なると言いますし、それ以前からそうした悪い出来事の萌芽はあったのだと感じてはおりましたから(^_^;)
ただ先日、在るサイトを見ることを思い出したのですね。
ふと思いついたことで、以前に行った雑司ヶ谷の鬼子母神神社のこと、
あるマンガ家の先生が、ある作品の執筆中に起こった厄を落とすので、そちらを参拝したという、そうしたうわさを聞き、
以前何年か前に、こちらのサイトの交流相手の方と一緒に同行して、鬼子母神神社の参拝へと出かけたことがあったのです。
今回の出来事にあたって、厄払いがてら、最近出かけられていない、旅行の折に立ち寄る神社仏閣の参拝として、またそちらにも行ってみたい気持ちもありましたが、
当方の現在居るところからだと、おそらくは日帰りとはいえ、まる一日の旅行となるのでさすがに考えてしまったのですね。
ですから以前にも見た、当時参拝前に検索した鬼子母神神社のサイトをググってみたのです。なんとなくです。
そして検索し、
ネット越しにスマホ画面を通して、神社の写真を見ただけなのですが、
なんというか、何かが吸い取られでもしたか、このところの心の澱が払われでもしたかのように、気持ちが軽くなったような感じがしたのでした。
ちょっと不思議な感覚です。
今は気づいたときに観られるようにサイトの、社と境内の大銀杏の写真を開いたままにしています。
そんなちょっと不思議なことがあったので、
このお話を書いてみようかと思いました(*^^*)
拙作のなかでの、影の中に受ける感情、その印象には、以前にTVの画面越しに拝見しつつも胸に忘れがたい重い感情を受けた作品を、印象として使ってみたく思い、作品の一部の感じとったものを、エッセンスというかイメージとして使っててみたいと思いつつおりました。
香月泰男氏の『シベリア・シリーズ』
ゲルハルト・リヒター氏の『ビルケナウ』
ビルケナウの絵の下に塗り込められ蓋をされた写真。そこに隠された目を覆う惨劇の昏さ。
シベリアの絵の黒い影の中に描かれた、言いようのない顔たちの浮かべる表情から受け取った気持ち。
その中のひとつの絵の、星空の美しさ。
お話の件のサイトの昏さと深さとのイメージ、エッセンスにはこの方たちの作品から受けた印象、その中に感じたものからの一部である気持ちを使えたらと思いつつでした。← ※あくまで物語としての印象としてであって、これらの作品の持つテーマとは異なることを書き足しておきます。
物語のなかに感じ拙作に使いたいと思った、
昏さと深く胸に重く感じられた何というか表現しがたい気持ちを、何とか少しでも言葉に出来たらと思いつつでしたが、
やはり、とても形に出来なかったと感じつつです。
いつか別の形であとを追えたらと思いつつも、やはり難しいのでしょうね。
感じたことを言葉にするのは難しく、
そして綴るその言葉からなにかを感じていただけるのは、更に難しいことですね。
今回は考えつつも至らなかった。
もっと考え書かねばという体験でした(・・;)
ホラー、難しいです(^_^;)
時間もやはり足りませんでした。
今振り返りつつ想うのは、
二人はどこかで冒険の続きをしているのかもしれないと、そんなことを思ったりもしていることです。
ちょっと変なこと書いてますね、すみません(^_^;)