5.敵はダンジョンにあり・後
「で、最近どうなんですか。全然帰って来ないですよボス」
「定期的に連絡貰っているけど――これ他のモンスターに言わないでよ。奥さんが“最高品質の宝石”が欲しいってワガママ言ったらしくって……人間に化けて冒険者としてダンジョンに潜ってるらしいわ」
「ドラゴンのかかあ天下ってよく言いますけど、そんな事になってたんですか」
「今、奥さんが卵を温めているらしいから、他の事は全部ボスにやらせているらしいわ」
ちなみにドラゴンは古来より“財宝”を巣に貯め込む事を趣味とする種族(※一部例外あり)であり、金銀財宝や宝石、魔法の書、古代の剣など――種族により傾向は違うが、それらを貯め込む。
積んだ財宝=オスドラゴンとしてのステータスであり、メスドラゴンはその財宝の質を見極め、オスドラゴンと結婚を前提とした決闘を行う。
その決闘に勝った方が結婚後の主導権を握れる――。
「ボス、負けたのか――」
「奥さん、とある貴族の令嬢らしいから……ドラゴンって純血なほど強いし」
ウウウウウゥゥゥゥゥ――。
聞き覚えのあるサイレンだ。
ただこれは、目の前のダンジョンの方から聞こえる。
「な、なんだ!?」
「おいおい、なんだこの音」
並んでいた他の冒険者もザワザワし始めた。
本来は冒険者の襲来を知らせるサイレンだが、既に何人も冒険者が入っているはずのダンジョンから何故鳴るのか――。
ドゴォォォン!!
「おい、あの塔の上!」
誰かがそう言い、皆が塔の頂上へと目をやった。
そこには巨大な金色のゴーレムと、冒険者の男が対峙していた。
ボサボサの黒髪に赤いハチマキ、黒い外套。右手には禍々しいオーラを放つ片刃の大剣が握られていた。
「よくぞここまで来たな。オレの名はビッグゴールデンゴーレム! 奇跡の宝珠が欲しければ、オレを倒し――」
「必殺、魔焔極薩剣!!」
ゴーレムがボス特有の前口上を喋っている間に、男は必殺剣を放っていた。
その威力は絶大だ。
ゴーレムを一瞬で真っ二つ――。
「ギギギ、ガガガ……お、のれ」
ボォンッ!
最後のセリフを放つと、ゴーレムはそのまま爆発した。
煙が晴れると、そこには光り輝く丸い球が現れ、男はそれを回収した。
「……次だ」
男はそのまま転送魔法でどこへ飛んで行ってしまった。
『えー、ダンジョンに並んでいらっしゃる皆様。大変申し訳ありませんが、ボスの復活まで5日ほど掛かるので、それまでしばらくお待ち下さい――』
どこからともなくアナウンスが流れると、冒険者達は口々に文句は言いながらも解散していった。
一部の冒険者は、ここに5日泊まり込むつもりなのか、キャンプの準備をしている者もいる。
「エルちゃん――あれってもしかして」
「言わないで」
「あれってボスじゃ……」
「……帰るわよ」
「はい」
こうして何も成果を得られず、1人と2匹はダンジョン3丁目へと帰って行くのだった。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
本日遭遇した冒険者の紹介コーナー
謎の魔剣士
職業:???
レベル:???
武器:魔穿の剣
他不明――。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「……ボスって帰って来れるんですかね」
「子供生まれたら、さすがに帰って来るんじゃない?」
「……いや、ダンジョン荒らしとして指名手配犯になったりしません?」
「……後で連絡しとくわ」
おわり。