3.葉っぱ1枚あれば最高だ・前
ダンジョン。
それは人類が追い求める叡智の輝き。
ここは冒険者達が拠点にしている宿場町から馬車で1日、停留所から徒歩3日の場所にあるダンジョン3丁目。
その洞窟1F最奥の部屋で、2匹の魔物が今日もだべっていた。
「ん? そういやお前なんでここに居るんだ?」
「ふっふっふっ。それはですね先輩……ポイズンスライムに昇格できたので、配置転換になったんですよっ!」
緑色のプルプルした身体でぴょんぴょんと飛び跳ねるスラミン(スライム族)と、それを微笑ましそうに眺めるスケサン(スケルトン族)だ。
「おぉー。なんだかんだ言ってお前の反響も凄かったもんな……アレな方向に」
「アレ言うな。経緯はどうあれ、オレも着々と出世してるし、いずれ中ボスになれたりして」
「そんなに――」
「そんなに甘くは無いわよ」
間。
「うぉっ、心臓飛び出るかと思った」
「いや心臓無いでしょ先輩」
2匹の隣には、いつの間にか1人のダンジョンエルフが立っていた。
浅黒い肌に、腰まで届く白銀の髪は丁寧に編み込まれ1本に纏められている。
肩やヘソ周りを出した解放感のある恰好に、太ももまである黒いニーソが特徴的である。
黙っていれば10代の少女くらいの年齢に見えるが、実年齢はその10倍である。
「エルちゃんどうしたんですか、こんな所まで」
「エルちゃんこんちわー」
「ボス代理と呼びなさい! ……こほん」
現在、嫁さんと一緒に山へ子作りへ行っているボスに代わってダンジョン経営や魔物、罠の管理など、全てを任せられているボス補佐官のエル。
元々はただの森エルフだったのだが。その昔、エルフの村がボスの圧倒的暴力によって焼かれ、その強大な力に憧れてそのまま配下になった。
エルフに限らず元々魔物では無い者は、ダンジョンボスと契約することで、その肉体をダンジョンモンスターへと変質させてしまうのだ。
故に、ダンジョン堕ちした者は、その名前に“ダンジョン”と冠する事が多い。
「商会から急ぎの連絡が回ってきたの。なんでもここ周辺で、エネミー冒険者が出没してるらしいわ」
「エネミー冒険者って、なんでしたっけ先輩」
「自前で機材用意して、壁に“俺参上”とか書いてイタズラしたり、ダンジョン内でBBQして度胸試しとか……その様子配信して面白がってる奴らの事だよ」
「今回がその類かは分からないけど、もし来たらキッチリ教会送りにしてやるのよ」
そう言い残し、彼女は地下へと戻って行った。
スケサンは伝令魔法を使い、1Fの魔物達へとその事を通達した。
「でもそんなの来たら、他のダンジョンの魔物だって全力で倒すと思うんですけど」
「ああいう手合いは、不利になると即帰還魔法で逃げたりするからなぁ」
ウウウウウウウウゥゥゥゥ――。
『緊急放送です。パターン緑。エネミー冒険者の来訪です。繰り返します――』
「そんな話してたらマジで来たか」
「よーし先輩。オレ、全力で纏わりついて毒付与してやりますよっ!」
「お前の毒粘液で動けなくなった所を、俺が仕留めてやるからな!」
2匹は所定の位置に付き、やってくるであろう冒険者を待つ。
それほど時間も経たずに、ソレは1F最奥の部屋に現れた。
「ここが階段の部屋か」
冒険者の、鍛え抜かれ膨張した小麦色の肌の肉体が、ダンジョン内の灯りに照らされテカテカしている。
何故、そんな事が分かるかというと……。
頭、胴体、腕、足――その全てに防具、もとい服すら着ていなかった。
いや。具体的には1か所だけ付けている部位がある。
股間だ。
股間に大きな葉っぱを付け、さらに右手には棍棒を持って、左手には自捕り棒付きの録画用魔力水晶が握られていた。
ムッキムキの身体に葉っぱ1枚スタイル。
これがエネミー冒険者――通称“葉っぱマン”である。
「へ、変態だぁぁぁ!?」
「おっ。貴様がこのフロアの中ボスだな……」
自身と魔物がよく見えるような位置に魔力水晶を置くと、まず両手を後頭部に回し、ポージングを取る。
「全世界の冒険者の諸君ッ。裸一貫でダンジョン攻略の時間だ……ふんっ」
今度は両手を下へと向け、胸を反るようにポージングを取る。
「見ての通り、ワタシは何も付けていないッ! この鍛え抜かれた肉体と、ただの棍棒のみで、この、ダンジョンを、攻略してみせる――うっ、ふぅ……」
(スラミン、今の内に毒攻撃いけよッ)
(嫌っす! なんかテカテカしててキモいんですけど!)
「では、参る──はぁんッ」
※後編に続く