NO.5 天賦か凡夫か
非武装のビルドは一般に流通されている。
ビルドを使ったタクシー業者や宅配便もあるし、撮影にも使われることがある。空中都市ジャパンにおいては自動車と同じ感覚でビルドが使われている。日本が海へと沈んだことで世界が空へと関心を向け始めたのだ。たとえ大地が滅んでも、逃げることができる空に……。
鳩原は今後ビルドが必須になる世の中が来るかもと思い、念のため免許を取っておいた。
まさかこんな形で役に立つとは思いもよらなかった。
鳩原は頭の中で教習本を捲り、手順通りにスイッチを押していく。
「キーは?」
「よっと」
トキが後部座席から身を乗り出し、鳩原の正面にある液晶画面にカードキーをかざす。するとビルドが浮き上がり、エンジンの鼓動が大きく響きだした。
「お客様、シートベルトを着用してください」
「あいよ。運転手さん」
イエローカラーのビルドが発進し、ブラウンカラーのビルド(オストリッチ機)を追う。
鳩原は液晶で自機から敵機までの距離を見る。
「距離3000(m)はあるぞ。追いつけるのか?」
「あっちは中装機でこっちは軽装機だよ。追いつける」
「ちゅうそうだのけいそうだのわからん」
「武装の量が違うんだ。こっちが短距離陸上選手ぐらいの軽装備なら、あっちは登山者ぐらい着こんでいる。速度差は明白だ」
トキの言う通り、みるみる距離は縮まっていく。
「なんだ、余裕で追いつけそうだな」
「いいかハト。ややこしいことは考えなくていい。武器とかを使おうと思うな。お前は操縦だけに集中するんだ」
「……どっちみち武器の使い方はわからないからな。でもそれじゃあの機体を押さえられないぞ」
「液晶の横に赤いボタンがあるだろ?」
「ああ」
「距離100m、直線で並んだ時にそれを押せ。それでケリがつく」
「赤いボタンを押すと何が飛び出すんだ? レールガンか? レーザービームか?」
「それは秘密。見てからのお楽しみだ」
トキは「にひひ」と笑う。
「……自爆スイッチじゃないだろうな」
距離400。そこまで近づいた時、敵機がこちらに気づいたような動きを見せた。
機体の上に付いたライフルのような長い銃身の銃が、自機に狙いを定める。
「なんか来るぞ!」
「問題ない。無視だ!」
銃口から真っすぐと――ビームが発射された。
ビームは自機ビルドから展開された薄緑の球型のバリアに弾かれた。
「なんだ今の!? なにが起きた!!」
「核熱砲を核熱遮断電壁が弾いたんだ。あの機体に搭載されているビーム兵器じゃ私の機体のシールドを突破できない。アレは爆撃機だからな。ビーム兵器はカスしかないんだ」
「……ちょっと待て。いまなんて言った?」
「だからあっちのビームは効かないって……」
「そうじゃない! いま、爆撃機って言ったか!? ってことは……!!」
よく見ると、敵機には合計4個のミサイルポッドがある。
鳩原は顔を真っ青にさせる。
「トキ! あの機体と通信を繋げられるか!?」
「できる」
「繋げてくれ!」
「無駄だと思うけどな」
トキは身を乗り出して液晶を操作し、敵機に通信を接続する。
「聞こえますか! 俺です! タクシー運転手の鳩原です!」
『んな!? 無理やり機体間の通話を接続しやがったのか!!』
「思い留まってください! これ以上抵抗すれば殺されますよ!!」
『やかましい! やれるもんならやってみやがれ! 言っとくが、俺はお前を殺すことに何の躊躇もないぞ! 裏切りやがったからなぁ!!』
敵機から小型ミサイルが発射される。数は24だ。
「交渉決裂……! やるしかないか!」
鳩原は機体の高度を下げ、ミサイルの弾道から機体を外す。だが、ミサイルは直線には動かず、ビルドを追うように軌道を変え追跡してくる。
「追尾型か!」
「熱誘導タイプだ。ビルドの熱源を追尾してくる」
「なにか対策は!?」
「ない。振り切るしかないな」
この時、トキは嘘をついた。
熱誘導タイプのミサイルの誘導を断ち切る方法はある。それはビルドから冷却ガスを纏うように噴出し、ミサイルのレーダーからビルドの熱源を隠すことで誘導を切る方法。
これをトキが言わなかった理由は2つある。
1つ目は冷却ガス噴出による速度低下。冷却ガスを纏うためにはある程度速度を落とさないとならない。ガスが風に流されてしまうからだ。速度を落とせばせっかく詰めた距離がまた広がってしまう。
2つ目は好奇心。トキは見たかった。鳩原修二がどうやってこのミサイルの嵐を掻い潜るのかを――
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