NO.3 ビルド
目出し帽男を安全な場所まで届ける。
その後で警察に連絡し、事情を説明する。
もしも目出し帽男が口封じで殺りにきたらどうしよう……。
「……そうなったらドンマイ、ってことで」
鳩原はハンドルを片手で握り、自分の肩をトントンと叩いた。
すでにパトカーは撒いた。あと警戒すべきは検問のみ。検問を敷く場所は予想が付くからそこを避ければ問題なし。
もし無事にこの困難を乗り切ることができたらラーメンを食べよう。チャーシュー丼も食べよう。スリおろしにんにくをたらふく入れて、コショウを掛けまくって食べよう。
ラーメンの味を想像し、涎に醤油スープの味が染みた時だった。
巨大な影が、正面の地面に現れた。同時に、耳をつんざくようなエンジン音が響く。
「なんだ……なにが――!?」
窓を開けて、空を見る。
鳩原は飛来してきた物体を見て口をあんぐりと開けた。
「んなぁ!?」
イエローカラーの戦闘機がこちらを見下ろしていた。
一瞬で唾液の味は酸っぱくなり、汗がダラダラと噴き出した。鷹に狙われた兎……いや鼠の気分だった。
機体の腹に取り付けられた機関銃がタクシーに向く。鳩原は窓を閉め、ハンドルを切る。
「ビルドか! しかも武装している!! 嘘だろ相手は空警だったのか!!」
ビルドを操り、世界中を飛び回って重犯罪を駆逐する組織World Sky Police。WSP、空警、ツバメ、スカイ・ダストと呼ばれる世界最大最強の警察組織。
現地警察を相手にしていたと思っていた鳩原は動揺を隠せない。
「おいおいおいなんだありゃ!? なんで戦闘機が出てきやがるんだ!!」
「こっちが聞きたいですよ! 空警に目を付けられるとかなにしたんですか!?」
鳩原はハンドルを繰り返し切り、タクシーをジグザグに走らせる。機関銃が火を噴き、タクシーの残像を貫いていく。
「俺はただの銀行強盗だよ!」
「たかが銀行強盗に空警が出張るわけないでしょ! 他に何かしたんじゃないんですか!?」
「してないしてない! これまで10回ぐらい銀行強盗したけど、他の犯罪は何もしてないって!」
「……10回も銀行強盗してれば目を付けられても仕方ないな」
鳩原は冷静に状況を分析する。
「近くに商店街があったはずだ。あそこなら下手に発砲はできないはず……! でもあそこまで逃げ切れるわけがない……どうする……どうする……」
目の前には橋。橋を渡って1分で商店街には着く。
その1分間、ビルドから逃げるのは不可能。
鳩原は限界を悟り、1つの決断をする。
「仕方ない」
鳩原は橋に車が乗ったところで車を端へ端へ寄せていく。同時に運転席側の窓を開く。
これまで鳩原の異次元なハンドルテクを目の当たりにしていた目出し帽の男は鳩原を信用し、口出しせず見守る。……彼が自分を嵌めようとしているとも知らずに。
「ここだ」
鳩原は急発進・急ハンドルを駆使し、車を横転させる。車は運転席側を上にして倒れる。
「うおおおおおっっ!!!」
叫ぶ目出し帽男。
鳩原は冷静にベルトを外し、開けておいた窓から外に出る。
「え。――――て、テメェ!!?」
目出し帽男は鳩原の思惑に気づくがもう遅い。
「後はご自身で運転してください」
倒れたタクシーを足場に柵を越え、鳩原は川に飛び込んだ。
(こんな濁った川に飛び込むことになるとは……)
鳩原は川から顔を出し、やれやれと頭を掻く。
泳いで小船の船着き場まで行く。すると、
「よう。タクシーのあんちゃん」
生意気そうな少女がポケットに手を突っ込んだまま船着き場に立っていた。
下はスカートだが、ツバメのマークのある上着を羽織っている。アレは空警の制服だ。鳩原は彼女が追ってきていた警官だったのだろうと直感する。
川から岸にいる彼女の下着(ヒナ鳥の絵がある白パン)は丸見えだったが、丸見えであることに気づいていないのか気づいている上で無視しているのか、特にリアクションはない。
「強盗犯は私の仲間が確保した。もうあんちゃんに危害が加えられることはない」
「そりゃどうも」
少女は鳩原に手を貸す。鳩原は少女の手を借りて岸に上がる。
「ありがとうございます」
「凄いドライブテクニックだったな」
「え?」
「地上でも空中でも私は負けなしだったんだ。私から逃げ切ったのはアンタが初めてだよ」
少女は機嫌良さそうに笑う。鳩原は少女の笑顔が怖くて仕方なかった。
日常が壊れる音が、ミシミシという幻聴が聞こえた。
「なぁアンタさ、ウチで一緒に働かないか?」
「……え~っと、何言ってんすか?」
少女は鳩原を指さし、
「WSPに来なよ。アンタならきっといい線いくよ。私が保証する」
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