プロローグ 日本沈没
日本沈没。
小説、映画、ドラマにおいて幾度と描かれたその仮想が、現実になったのはつい10年前のことだ。突如連続して起きた大地震により日本は海に沈んだ。
2040年4月4日AM4:32。まず1度目の大地震(俗に日本大地震・第一次震災と呼ばれる)の影響で富士火山帯が相次いで噴火。東京都、山梨、静岡、神奈川は噴火の影響を受ける。特に甚大な被害を生んだのは降灰。噴火により巻き上げられた灰が降り積もり交通機関が麻痺。物流も滞り、作物や水も汚染された。首都東京は降灰により一時的に機能を失い、その後の対応に遅れることになる。
2040年4月4日PM10:34~PM11:00。畳みかけるように北海道、福岡、宮崎でほぼ同時に大地震が起きる(この3つの大地震を日本大地震・第二次震災と呼ぶ)。これをきっかけに津波・地殻変動が日本各地で起き、日本は外から内にかけて沈没していった。
そして最後――2040年4月5日AM3:00~AM6:21。残った内陸部を中心に大地震が群発(第三次震災)。最後にはすべての日本大陸は海に沈んだ。第一次震災から第三次震災までに起きた地震の合計数は小さなものも含め60~80と言われている。
1度目の大地震から日本が沈没するまではおよそ2日。
2日間に脱出できた日本人と、船や高い建物、浮き物に避難していて日本沈没後に他国の救助隊に救助された日本人、合わせても数にしておよそ8万人ほどしかいなかった。
ここまで生存者が少なかった理由は多くある。まず地震の予兆がまるで無かったこと。おかげで一切の対策ができず、最初の大地震をノーガードで受けてしまった。これにより首都の機能が麻痺し、全ての行動が後手になってしまった。政府が統率を取ることができず、避難誘導がうまくいかなかったのである。
さらに要因として隣国と政治的に関係が悪かったことも挙げられる。近くに移住先を確保できず、他国からの救助隊もアメリカを除きほとんどが来なかった。果てには火事場泥棒のような者たちが現れる始末だった(日本人の約300人は拉致されたとの情報もある)。
そして日本沈没という現実味のないことを受け入れることができたのがごく少数だったことも挙げられる。つまりは危機感の欠如。故郷を捨て、外に逃げる選択をできた者が少なかったのだ。
噴火や津波の被害で幾つかの空港が機能停止になったことも要因の1つ。
本気の天災に成す術なく、日本は滅んだ。
在外日本人約140万人+日本脱出に成功した日本人約8万人で、約148万人。これが今の日本人の総人口である。しかしそれも10年前の統計……。
円の価値は0になり、移住したものの金銭的に困窮する者がほとんどだった。女は体を売り、男は時給500円もない仕事に駆り出される。当然、性病や過労で倒れる者も出てくる。
日本人同士で結婚すること、子供を産むことも減り、純正の日本人の数は年月が過ぎるほどに減っていき、いずれは絶滅するだろうと言われている。
2050年現在――
選ばれし148万人の日本人、その内の1人、鳩原修二。
彼の日常が壊れる所から物語は始まる。
マイナーな題材&なろう受けしないジャンルですが、読んで後悔はさせませんのでぜひ最後まで見てください。