プロローグ
いつか君は言ってたよね
「この世界に神はいない」
でもね
私はそうは思わない
だってこの世界は
君が生きるこの世界は
こんなにも美しい可能性を秘めているのだから
***
『Obより更に敵大型2体接近!』
『またかよ!』
『Fn2もう通常弾がなくなりました!』
『あんちゃん弾撃ち過ぎ!』
『あんたは弾撃ってないだけでしょうが!』
やいのやいのやっているが、二人とも見事な連携で目の前の中型を倒している。
しかしジリ貧なのは確かだ。
抜けてくる小型をちまちま潰して廻りながら、のんびりとした思考で死を意識する。
〈ALERT〉
『おいおい、お前ら頑張り過ぎだ。誰が危険域まで戦えと言った』
『しょうがないっすよ! 敵さんが来るんだから!』
『逃げようにも退路もないし、ねっ!』
『やれやれ、それで死んだら元も子もないだろう』
確かに、気付けば隊長と自分以外の機体が危険域に入ったところだ。
レッドゾーンは戦闘ステータスで残り稼働時間5分を切ったという事を意味する。
自分は小型を潰していただけだからだが、隊長は流石だな。
『よし、お前ら撤退。もっちゃんアレ頂戴』
『……たかちゃん』
『そんな声出すなよ。大丈夫だって』
『ああ……』
どうしたんだろう。西本機が隊長機に何かを渡している。長いな。目算で10mないくらいか。なんだあれ。
ともあれ残り大型が8匹、中型も多数。
撤退するには追撃が怖いところだ。
『西本を先頭に楔の陣で進路S3、ポイントT2まで撤退。殿は私が務める』
『『了解!』』
戦況モニタに退路の線が引かれる。
このルートなら……いや待て。隊長!?
『敏い佐藤なら気付いたか? まあ、いいから黙っとけ』
わざわざ個別通信で念押し、とな。
「隊長。紺野には黙って逝くつもりですか」
『ふふっ。じゃあおめえが面倒見るんだな』
「私には荷が重いです神田さん」
『はははっ! まあそう言うな。……敵が来る。殿はお前さんだ』
「最期まで勝手なお人だ」
この人はいつもそうだ。
全く。
堪りませんね。
『……あとを頼む。色々とな』
「すみません。ここで一緒に残ると言えるほど甲斐性がなくて」
『ふ』
「ではお先に失礼します」
『よし行け!』
「はいっ!」
くそっ。まだ涙を流すには早い。
リアカメラには剣のようなものを構える隊長機が居る。
10m程に近づいた所で隊長機が動いた。
弾かれるように何かが動き、近づいていた大型2匹が一瞬の後霧散する。
あんなもの隠し持ってたのか。流石だな。そしてあんなものがありながら撤退指示を出したということは、そういう事なのだろう。
リアカメラの映像を切る。
もう必要ない。送り狼はないからな。
陽が沈む。
幼い頃に聞いたひぐらしが、頭の中で響した。
ひとつの爆発音とともに。