朝霧裕樹流の定義
強者とは何か。
朝霧裕樹にとっては、考える意味がないほど愚問だった。
強大な力を持つ者……ノー
それだけでまかり通るのなら、武術が存在する意味がない
正しい心を貫く者……ノー
正しさは過信した時点で、正しさなどではない。
他人を踏みにじれる者……ノー
個人として幼い頃から、弱い者いじめほど不快だと嫌悪出来る物はない。
天才と呼ばれるべき才能を持つ者……ノー
自分がそうだと自負はあるが、それだけではつまらないの一言でしかない。
裕樹にとっての自身の強さとは、とうに完成された物。
成長とは、まずは完成という到達点……その先の新しい境地を模索、開拓する事を指すもの。
通信手段として電話が開発され、それが現代のスマホへと進歩していった様に
そして"なんとかなる”ではなく”なんとかする”
それが自信と過信を隔てる要因であり、それに基づいた上で自身の力を疑わない。
これらが強者としてのファクター、あるいは要石……それが、朝霧裕樹の考える強者像。
「はっ!」
「くっ!」
裕樹の蹴りを、龍星は腕を交差しガード。
押し負けるものかと力を込めるが、その次の瞬間に裕樹はガードを踏み台に大きく飛び上がり、勢いのあるアクロバットを駆使し距離をとり、龍星も深追いはせず身構える。
格闘戦による裕樹の十八番、初速でトップスピードに至れる脚力と、古流武術における歩行術を改良、自己流として消化した独自の歩行術による、文字通りの目には写らぬ一撃。
更に云えば、裕樹にとっての間合いは、プラス初速……深追いしたその次の瞬間、その場に倒れている事を龍星は何度も経験してきた。
ベリッ!
「あっ」
そして、そんな裕樹の脚力に耐えきれず、彼のはいている靴が壊れてしまう場面も。
一応裕樹がはいてるのは、耐久性抜群の特注スプリントシューズである。
「またか」
「まだ2週間しかはいてなかったのに……てか旦那、別にやめんでもいいって」
「逆に恥ずかしいと言ってるだろ。観客がいるんだぞ」
「それもそっか……てかダンナ、大分対応出来るようになったな。こう、ある程度本気出せる相手も滅多にないから、ここまでになってくれて嬉しいよ」
「ある程度、ねえ……いや、考えるのやめよう」
そう言った龍星の脳裏には、一度だけ刀を持った裕樹との相対した時
正真正銘、反応不可の一閃により……
「母さんにだって、あんなあっさり負けたことなかったんだが」
「剣を持てばまた別ってことさ。と言うわけで、次に剣を……」
「ごく自然にヘビーすぎるプレッシャーかけんな」
周囲で見物していた面々は、そんなやり取りを尻目に解散し始めた。
そして屋台通りは見ていたそれを基に、先ほど以上の賑わいがもたらされた
「俺は、強くなってる……うん、実感出来るのはいい」
「あの踏み込みの感覚、もしかしたら……んー……」
「……うん、互いに益がある事も嬉しいとは思う」
「うん、美味しく出来た」
一方で、女性陣
雨宮つぐみ
裕香と同じ位の背丈ではあるが、高等部2年生
エプロンを来て、オーブンからケーキを取り出すその姿は、かわいいと人気がある
凉宮みなも
栗色のロングヘアーが魅力的な、高等部2年生
おどおどとした雰囲気だが、裕香からは姉のように慕われていて、姉妹のようなやり取りを良く見かける。
ーーその傍らで
「…………zzz」
普通よりも睡眠時間が多く必要なアサヒが、静かに寝息を立てていた