学園都市の混沌(2)
「あのロンに勝つだなんて、やるねダンナ」
「へぇっ、裕樹が覚えてるだなんて珍しい」
「六合大槍なんて珍しいし、槍の使い手として結構強かったから、印象に残ってる。ダンナも確実に強くなってる様で嬉しいよ」
龍星が初等部寮に戻り、手当てを受ける中
裕樹の思わぬ褒め言葉に、龍星は面食らった。
「あの、おにぎり作ったから、皆で食べましょう」
「ああっ、すまんなひばり。それで、食料は?」
「四日は大丈夫です。献立と配分は任せてください」
学園都市の食材を監査、管理を担当する機関に所属する、食の精鋭。
それが、支倉ひばりという少女。
「しかし、俺が片付けた組織まで、息を吹き替えす程にとは」
「……ウェブCMはあたしもみたけど、新時代の暴力、権利だなんて」
「くだらん……と言いたいが、皆が皆そう思わないってやつか。考えてみれば、荒川と裕樹の衝突の後の、狙い済ましたかのようなタイミング、あからさま過ぎる」
「それらを考えるのは後です。今はこの初等部寮の住人、屋台通りからの避難民を守る事を優先しなければ」
配給の手伝いを終えたクロが、会話に入ってくる。
財閥令嬢の側近として育てられた身として、状況判断力は秀でている彼女は、冷静かついかに最善に事を進めるか
それに考えを廻らせている。
「自衛戦力は、私と榊さんのみ。しかし外は私達同等以上が、組織を率いて抗争、という
意外はまったく状況がわかりません」
「しかし、このまま待つのも、限界があるぞ。ライフラインこそまだ大丈夫だが、それも食糧の4日しかはっきりわからんなら」
「そこまでにしとけ。ダンナにクロ」
裕樹に促され、周囲を見回す。
初等部寮生はもちろん、屋台通りからの避難民も、決して不安がない訳ではない
「…………」
「大丈夫だよアサヒちゃん、大丈夫」
特にアサヒは、裕香に抱きしめられながら震えていて、みなもとつぐみも心配そうに寄り添っている。
「……外は保安部が何とかするさ。外の武闘勢力はまだ勢い任せ、あるいははしゃいでるだけの不良なら、鎮圧もそう手間じゃない」
「そう、だな。こんな騒動なら北郷だって動いてるだろうし」
「ええ、私達はここを守ることに専念しましょう……少し席を外します」
ーー所変わって
ーー見つけたぞ、朝霧裕樹ぃ。
やはり、荒川公人からの負傷は、軽くはないよねぇ。
今なら確実に、朝霧裕樹を思う存分にぶちのめせるんだ……今から楽しみでしょうがねえ。
「……うっ」
「裕樹、どうした。痛むのか?」
忘れもしない、あの時の屈辱、積年の恨みぃっ!
あのデカブツは厄介だが、六合大槍のロンからのダメージはでかいはず。
隙をつく事は難しくはない
「あれ? クロさん、どうか……」
しかし、それでもまだまだ……まだ気取られちゃあ危険だあ。
相手は最強、万全に万全を自乗倍重ねても足りない、正真正銘のバケモノ
カパッ!
朝霧裕香、笠木アサヒ、このガキ二人を捕まえでもしないと、全然足りねえ。
そう、俺は狩人、気配のけの字も出すな、狩りは我慢比べ。
「……狩人を自称するだけあって、気配を消す術は見事だ」
まずは、あのデカブツの背後。
そして……
「いい加減に気付け」
ガンッ!
閑話休題
「……こんなポリバケツの中に、人一人入ってたのか?」
「全身の関節を外し、飛び掛かれる体勢で潜んでいた様ですね。歯に仕込みが見られましたから、噛みつきによる奇襲を狙っていたのでしょう」
「蛇みたいな奴だな……でもこれじゃ、他にも侵入されてると見た方がいいな」
襲撃者1号、名称不明。
クロに制圧され、特に被害を出すこともなく、潜んでいたポリバケツ(新品)の中で気絶。
それを囲い、龍星とクロは相談。
「……バイクはともかく、車椅子に座って剣を振るうのは、初めてだな」
「「…………」」
「用心だよ用心。無理はしない」




