学園都市の混沌(1)
「くッ! ……最強の遊び相手程度が!!」
「その遊び相手に苦戦してる程度じゃ、確かに今じゃなきゃ一生裕樹はやれないな!」
六合大槍のロン
中華系屋台の利権絡みで揉め事を起こし、裕樹に潰された武装組織"羅漢"のリーダー。
学園都市でも名が知られた八極拳の使い手にして、六合大槍の達人。
勿論、龍星もその場に居合わせていて、裕樹とロンの戦いは良く覚えている。
最強にこそ通じなかったが、強者として名が通るのも頷けた。
そして今
格闘戦では明らかに不利な六合大槍のリーチ、的確な鋭い突きに、しなりを活かした牽制は、以前よりも洗練されている
それは龍星も同じであり、普段の裕樹相手の実戦は、やられっぱなしではあるものの確実な血肉となっている。
裕樹のスピードに比べれば、見切れない物ではなく、槍のしなりにさえ慣れれば、確実に距離を詰められる。
……が。
「破ァ!」
「フンっ!」
八極拳は大砲、大爆発とも呼ばれる、接近戦特化の武術。
殴り合いに持ち込もうと、それだけでは決定打にはならないが、龍星が圧していた。
「腰巾着、遊び相手と笑いたきゃ笑え。最強以外に膝をつくようじゃ、それを名乗れもしなけりゃ、裕樹に会わせる顔もない!」
「ならバその顔、物理的二潰してくれル! マダラ!」
『ピィイ!』
学園都市では、電子召喚獣の能力の使い方も、実力の内である。
ロンに喚ばれ、姿を現したキリン型電子召喚獣マダラ。
尖った鉄兜に覆われた頭部を、長い首で一振りして大きく仰け反り、前足後ろ足を折りたたみ、それをロンが手に取り構えをとる。
「人獣一体、我等が一撃、貫けぬものなし!」
「武器になるタイプか」
意思を持つ武器は、威力の強化、追尾攻撃を最低限備えている
特に汎用性の高い通常種の場合、オーソドックスな強化の可能性が高い。
「それだけでかいなら、受け止めるのに十分だ。さあこい!」
「笑止!」
龍星は腰を据え、両手を構える。
気合いを込めた踏み込みと共に、突きを繰り出す動作と、それに合わせ弓をしならせる様に首を突き出すマダラ。
「フンガッ!!」
両手が鉄兜に触れるか触れないか、その一瞬で龍星は右足を引き、右脇に抱え込む体勢でその一撃を受け止めた。
地面に、龍星の靴の摩擦跡で線が描かれ、1m前後かと言うところで、受けきった。
『ニャア……ルルルガア!!』
そこから間髪いれず、龍星の煌炎が肩にひょっこりと現れ、身体を震わせ猫から虎へと変貌し、マダラの首に食い付き、押さえ込んだ。
マダラから手を離し、龍星は勢いよく突っ込み、ロンが迎え討つ
「破ァ!」
勢いの乗った拳は、龍星の顔面目掛け突きだされる。
その拳の手首を掴み、龍星は引っ張り上げ、その勢いのまま背に膝蹴りを叩き込む。
そして首に腕を回し、絞め技で意識を刈り取った。
「……裕樹ほどスマートに、は無理か」
最強というレベルと、強者というレベル。
その差をまだ、龍星は完全には理解しきれていない。
「早く引き上げるか、長居して裕樹の所在がバレたら大変だ」
屋台通り周辺で諍いを起こしたり、悪さをして裕樹に痛い目に合わされた手配犯、潰された組織は少なくない。
このロンは単独だったが、もし組織が出庭ってこようものなら……
「ぶっ殺せ!!」
「テメエら邪魔なんじゃ!!」
そこで、多くの怒号が響きわたる。
気を失ったロンを抱え、近くの大通りの様子を確認すれば……
「考えることは皆同じ様ですね。さあ、どの刃で、どのように切り刻みましょうか!」
「みたいだな。しかーし、朝霧の首はミーのもの……すっこんどれやオラア!」
明らかに数十人単位の抗争が起こっており、その両陣営のリーダーは、どちらも裕樹に敗れたものの、学園都市では名の通った強者。
「ナイフソムリエ大場、マシンガンキース……やっぱり、息を吹きかえした組織もあるのか」
裕樹の負傷と、グールによるバーゲン告知は、思わぬ二次災害を引き起こしていた。
ここで気付かれる訳にはいかないと、息を殺し龍星はその場を後にした。
「くっくっくっくっ……あっはっはっはっ……ヒャッハッハッハッハア!! ああ面白い面白い、正に善性こそが人類の汚点であり、聖人こそが最悪の外道!! 所詮人間もケダモノの一種、暴力なくして何が命!!」
「にゃはははっ、正に学園都市は混沌の時代、その混沌も我らグールの手の内。人がゴミの様って、正にこの事だだニャーーっはっはっは! 堕ちた悪魔、朝霧裕樹が重症を負った程度でこの様なんて、笑わせるニゃー」
「まだだ、本当に笑うには早い。北郷正輝、鳴神王牙、御影凪が無傷である限り、真の混沌はありえない……朝霧裕樹の回復が期限だ、照準は最強、それ以外など無視して構わん!!」
「ご最もでー♪ ただ、東城太助の一派は、無視はできないニゃー」
「確かに、あいつは最も目障りだ。最強に近い2人を従え、学園都市最高の知識を持つ以上。ある意味最強以上に厄介……やはりバグの回収と、異聞の骨格の完成を急がなくては」




