学園都市の混沌 (プロローグ)
善に偽はあれど、真はなし。
悪に不純はあれど、贋はなし。
善人と書いてドレイと読み、悪党と書いてサンドバッグと読む。
初等部改革が救済である事など、朝霧裕樹が堕ちた悪魔である表明に他ならない
明日が幸福であることの保証、弱肉強食の権利、お譲りします。
新時代の暴力とは基本的人権、その手助けの為の我らグールの開発した重火器系電子ツール、今なら大安売り!
「……武器商人が大安売りだと、しかも新時代の暴力……ふざけやがって」
朝霧裕樹と荒川公人の衝突の次の日。
学園都市に広まった、重火器系電子ツール売買組織グールによる、バーゲン告知のウエブCM。
これに反応したのは、暴力活動を主とするアウトロー系の武装集団。
そして、スクールカーストによる不平等に苦しむ、初・中等部生
裕樹の負傷により、学園都市最強の抑止力の1つの機能停止、それを狙い済ましたようなタイミングでのウェブCM
夜明けと共に、学園都市各地で銃撃戦が繰り広げられ、都市全体が戦場となった。
「確認できました。この寮でネット購入の履歴はありません」
「サンキュ、クロ」
朝霧兄妹、それから屋台通りの一部面々と、たまたま屋台通りに用があったひばりは、裕香の親友たちが暮らしてる初等部寮に避難していた。
裕香が友達が心配だと言う声でだが、初等部生による銃撃も起こっているため念のためが目的。
「……おちおちケガの療養もできないのはまだいいが、正直歯痒いな」
「よくないよ!!」
裕樹は現在、左顔面を包帯で覆い、車イスに座っている。
荒川から受けたダメージは、絶対安静レベルの重症で、今の裕樹には立って歩くことさえ儘ならない。
「それでも、いるのといないのとでは、大きすぎる違いがありましゅ」
「それが心苦しいですね」
裕樹の発言にひばりが怒るが、みなももつぐみも、裕樹の存在の有無には流石に否定しきれなかった。
周囲の初等部生たちも、裕樹が来る前後とでは安心の度合いも全く違っている。
「ーー一応、カカシくらいにはなれてるか」
「…………カカシ……へんじがない、ただの……」
「アサヒちゃん、怖い上にわかりづらいよ。ところで、りゅー兄ちゃんは?」
「一応周辺を見て回ってくると……そう言えば、遅いですね」
ーー一方。
「くっ……」
「迂闊なリ、朝霧裕樹の眼前ニ、貴様をボロ雑巾にしテ転がしてくれル」
龍星は襲撃を受けていた。
中華風の衣服をまとい、その手には身の丈以上の長さの長槍、六合大槍と呼ばれる武器を手にした中国系の男。
龍星はその顔……主に、裕樹に倒された強者の中での記憶で、見覚えがあった。
「武装組織”羅漢”のリーダー、六合大槍のロンだな」
「いかにモ、嘗ての屈辱を晴らしに来タ。朝霧裕樹ハ、この寮の中だナ」
「手負いを狙うなんて、一応は手配犯でも大物の部類だぞお前。その槍が泣くぞ」
「煩イ! 手始めダ、朝霧の腰巾着ガ! 串刺しにしてくれル!」
以前裕樹に潰された組織のリーダーだが、この騒ぎに乗じて息を吹き返したか、あるいは……。
と、龍星は表情を引き締め、構えをとった。
裕樹には敗れたとは言え、名の通った大物であることは事実。
そして、一応はその場に居合わせた者として、確実に強者と言える。
「折角だ。その腰巾着扱いから脱却する、良い機会にさせてもらう」
「ぬかセ! 筋肉ダルマガ!」
ひゅんっと槍をしならせ、相手が構えをとる。
リーチで負けている事は百も承知、槍を掻い潜ろうとも何発もは耐えられない八極拳の餌食。
「……なにより、騒ぎを聞き付けたバカどもが、ここに群がってこられても迷惑だ」
「群がる前ニ、このロンの六合大槍デ、一番首ダ」
「……!」
「? どうしたんですか、先輩?」
「……近くで戦いの気配がする。多分、龍星のダンナだ」
「! では、すぐ援護を」
「待てよ、寮生たちが最優先だ。それにあのオッサンが、そう簡単にやられるかよ」
「いえ、信用してるのか貶してるのか、どっちかにしてください。それで、ニュースの方は?」
「どこもかしこも大混乱だ。銃で武装した相手じゃ、自衛戦力じゃ追い付かないところが多い。保安部も生徒会SPも、戦力がかなり分散されてるから、援護は期待できない」
「……この施設、一歩たりとも立ち入らせません。手負いの重傷者らしく、大人しくしていてください」




