学園都市のバレンタイン事情
学園都市は節分から間髪入れず、バレンタインに向けて盛大に盛り上がっていた。
まず、商品あるいは材料としてのチョコレート、そして原材料であるカカオや砂糖の販売。
チョコレート特集、イルミネーション、バレンタインソングなど、イベントを盛り上げるべく一丸となる……それが、学園都市のイベントである。
そして、屋台通りでも……
「チョコレートは、湯煎で溶かすんだよ」
「…………ゆせん?」
「そう。こうしてお鍋にお湯を張って、その中にチョコレートを入れたお鍋を入れるの。こうしないと焦げちゃうから」
「…………チョコレート、とろとろ」
「その溶かしたチョコレートを、こう言う型に流し込んだり、こんな風にフルーツを浸けたりして、冷やして固めるの。この溶けたチョコレートも、ホットチョコっていう飲み物にしたり、マシュマロとかパンをつけたフォンデュにしたり、色々あるんだよ」
「…………ホット、チョコにする……ユウ、お兄ちゃん……よろこんで、くれる?」
「勿論だよ、アサヒちゃんが頑張って作ったんだから」
スイーツ系屋台で、簡単なチョコレート講座が開かれていた。
アサヒはつぐみに習って、チョコの湯煎を勉強中。
「私、ホワイトにしようかな」
「じゃあビターにする。朝霧先輩に一番に食べてもらいたい」
「程ほどにしようよ」
「裕香ちゃんは、それ編み物れしゅか?」
「うん、チョコあげる人は大勢だから、形としてって思って」
そしてみなもにならいながら、裕香の友達はそれぞれチョコ製作。
それと平行して、裕香はマフラーを編んでいた。
ーー一方。
「盛り上がってんな、やっぱり」
「良いことじゃないか」
屋台通りに備え付けられた石窯近くの、ピザレストランならぬピザ屋台。
カウンター席で、裕樹と龍星はピザを堪能
イベントが盛り上がれば盛り上がるほど、トラブルの火種もあちこちに点在する。
朝霧裕樹の日常の場である屋台通りは、学園都市屈指の平和保証地帯ではあるが、それでも可能性はゼロではない。
だから、のんびりピザを満喫しているだけに見える裕樹も、実際には用心深く目を光らせている
「ただ、バレンタインに限って、それも怪しくなるがな」
「? 何が?」
「俺はお前ほど、天は二物を与えず、を実感させられた奴を知らん」
「ふーん……ダンナ、もうすぐ生徒総会の会議があるの知ってるか?
「ん? ああっ、その準備で忙しそうにしてたから、よく知ってる。今年は会えるかどうか」
話は変わるが、生徒会所属をはじめとして、立場的に手作りの時間がとれない女生徒も存在する。
そう言ったニーズのための、商品としてのチョコレート販売も、学園都市の重要事項。
ハッキリ言えば、学生の身分にそぐわないビジネス要素が濃いが、これもまたバレンタインの一面と言えばそうとしかいえない。
「こればかりは仕方ない。流石に芹には無理も、生徒会総書記秘書としての立場を疎かにもさせられん」
「まさに、身分違いの障害か。これも、学園都市の住民ならではの関係……ん?」
ふと、ある一角で騒ぎが起こっていた。
女性2人が、聞くに耐えない罵詈雑言を浴びせ合いながらの取っ組み合い、
「さて、お仕事お仕事っと。皆が安心してイベントを盛り上げ、楽しむためにも」
「店主、すぐ帰るからちょっと待っててくれ。それと、さっきと同じの4枚追加で」
「別にだ……「ダメだ」……最後まで言わせろよ」




