学園都市の日常の1コマ
左目を覆い隠す眼帯に、腰まで延びた髪を束ね、しっかり鍛えられ引き締まりつつも柔軟な筋肉が適度についた肉体。
天性のスピードとジャンプ力、瞬発力を初めとする敏捷性、そして単身で多勢あるいは大型と相対し続けた経験で培われた、直感と判断力。
電子ツールの日本刀による剣術と、足技に特化した体術を組み合わせた高速戦法を得意とするが、腕力においてもそこらの力自慢では相手にならない。
欠点として、かつて上流階級とのいざこざで保安部を追放された事を指す”堕ちた悪魔”の蔑名と、女性に対してのデリカシーが致命的に欠如している事が挙げられるが、武闘派としての戦果は疑いの余地はない
それが、朝霧裕樹の簡単な説明。
事件の翌日、当然ながらニュースサイトはその事が報じられていた。
更に当然ながら裕樹の活躍が前面に出され、話題の中心に据えられているーー勿論、ニュースサイト運営も学生の手で行われており、この手の話題で必要なヒーローの存在は格好のネタとして扱われる。
勿論、根も葉もない噂や中傷目的のゴシップもあるが、どの情報に目をつけどの様に報じるか、それが学園都市のニュースの注目度を左右する……簡単に言えば、これもまた学園都市の競争。
「んー……我ながらカメラ写り悪いな。まるでヒーローみたいな持て囃されぶりだっていうのに」
その中心にいる人物は、我関せずと言わんばかりに振る舞っている。
場所は学園都市のある一角に展開されている、趣味サークルや新メニューの試作品の実践目的の、小規模な露店が立ち並ぶ通称屋台通り。
ケバブや焼きそばを初めとするスタンダードなものから、備え付けの施設で作るピザやケーキ、あるいは物珍しい郷土料理や独創料理と、まずは気軽にふれてからな雰囲気の場所である。
「うん、その揺るぎなきふてぶてしさは、呆れる以上に頼もしいな」
「酷いな、龍星のダンナ……まあそれよりあそこの露店、クサヤのトマト和えブルゴーニュ風ってどうなんだろ?」
「……絶対やめろよ」
榊龍星
裕樹と同じく、学園都市の荒事を生業にする学生の1人で、裕樹ほどではないがかなりの実力
考え方が近く割りと気が合う為、裕樹のツッコミ……もとい、裕樹から仕事の補佐を依頼されることが多い、自他ともに認める兄貴肌。
「ーー自信がない訳じゃないが、役不足だってことは嫌でも痛感させられるがな」
「力量の差で折れる程、ヤワなタマじゃねーだろオッサン」
「誰がオッサンだ」
とまあ、こんな感じの軽口位は叩き和える間柄。
そんな軽口も、裕樹は評判に関してはてんで無頓着だが、力に関しては厳しさ通り越して冷徹なため、本当の意味で認めることは滅多になく、実はこのやりとり事態が学園都市でも貴重な部類にはいる
実は屋台通りでは、密かに名物になっている裕樹との実践(刀なし)での相手を勤めていることが、その証明である
「……で、学園都市のスターが、気軽に屋台通りの友人への差し入れとは」
「スターなんて言うなよ。正義や善性じゃなくて、金のためにやった身だぜ」
「よく言う、貰うものはきっちり貰うが、行動の芯はその正義や善性よりの癖に」
「結果としてで良いーー」
「あっ、ユウ兄ちゃん」
「ああっ、裕香に……」
トンっ……!
「アサヒ。ごめん、待たせちゃったか」
「…………」
朝霧裕香
朝霧裕樹の妹で初等部4年生、料理やオシャレが大好きな女の子。
兄のような非凡な才能こそないものの。人当たりがよく年齢の割にはしっかりもの
……なのだが、家の中では抱きつくのが大好きな大の甘えん坊。
笠木アサヒ
学園都市が外部事業として出資、経営している孤児員の出身であり、所属していた初等部寮のいじめ、差別問題の被害者で、その問題絡みで裕樹に引き取られた初等部1年の女の子
差別意識による劣悪な環境で育った経緯があり。今はそれなりに改善はしているものの、年齢の割に小さく痩せた身体に無気力な表情で。重度の対人恐怖症で裕樹以外には心を開いていない
「今日もユウ兄ちゃんの話題でもちきりだね」
「と言うわけで、差し入れ持ってきた。あとキャロットケーキとパンプキンパイ作るって話だったろ?」
「なにが、という訳なんだ。それ昨日の報酬で買ったのか?」
「収入が入れば、まずは美味い物がくいたい……ってわけで、つぐみとみなもたちの腕に期待する為に」
「2人とも喜ぶよ。じゃあ早く行こうよ」
事件もあれば、ちょっとした幸せも噛み締める
それが、学園都市の日常