最悪の終わりの先
「手酷くやられたな」
「不覚にも、荒川の改心の一撃がまともに入った。意識とびかけたが、特に問題ない」
「いえ、普通に交通事故レベルの重症なんですけど」
「荒川がいかに、俺たち相手に手を抜いてたかが、よくわかる一言だ……はぁっ」
屋台通りの荒らされた区画では、保安部や報道陣が忙しなく駆け巡っている。
被害状況の確認、ガスや電気系機器の破損による火災の防止、荒川にやられた保安部員の救護
そして、それらの情報をいち早く手に入れ、新聞の一面を飾るべく報道陣たちがあれこれ探し回る。
「……立てるか?」
「ーー無理。俺よりやられた奴の方を頼む。手抜きでも荒川の一撃くらってんだから」
「一番の重症者の台詞じゃありませんよ。仕方ない、応急処置ですが……」
と、クロが裕樹の応急処置を始めたとき……
「ユウ兄ちゃん!」
「あっ、裕香」
非常態勢が解かれたのか、避難していた面々が屋台通りに戻ってきた。
自身の屋台が潰され、がっくり来ている者や、それを励ます者などが周囲にちらほら見え始める。
「やられ、ましたね」
「相手が同格じゃ、無傷って訳にもいかないよ」
「その顔……大丈夫、れしゅか?」
「多分骨やられてる……悪いな、みんなの屋台は無事みたいだけど」
「名誉の負傷……だったら、仕方ないよ」
不満はあったが、それでも屋台通りを守るためについた傷なら、裕香に文句はいえなかった。
「…………だい、じょうぶ?」
「ああっ、襲ってきた奴は追い払った。屋台通りは片付けてから、建て直しかな」
「…………おてつだい、がんばる」
アサヒもアサヒで、屋台通りにそれなりの愛着が生まれていた。
自分から進んで、というのは珍しい為、つぐみとみなもも一緒に頑張ろうねと笑いかける。
パシャッ!
「!」
「最高の1ショット、いただき!」
「スクープ! 瀕死の兄に寄り添う妹たち!」
「現場なんて後だ! 最強・朝霧裕樹を支えるは、妹たちの兄弟愛。いい話題性だ!」
最初のフラッシュを皮切りに、周囲の報道陣がこぞって裕樹たちを取り囲み、写真を撮り始めた。
そんな中で、アサヒが声にならない悲鳴をあげ、恐怖で体をブルブル震わせる。
「アサヒ! おい、やめ……くっ」
「やめて! アサヒちゃんが怖がってるよ!!」
裕樹がアサヒを隠すように抱き締め、身動き出来ないため自身の顔を隠す。
裕香も、アサヒを庇うように割り込もうとするが、それがさらに周囲を沸き立たせる悪循環になっている。
「やめないか! 不謹慎だぞ!!」
「やめろといってるだろ!!」
龍星とクロが割り込み、龍星が威嚇するように睨みをきかせ、クロが裕樹に肩を貸す
そうこうしている間に、騒ぎを聞き付けた保安部員たちが、報道陣たちを規制し始めた
「…………(カタカタ)」
「アサヒちゃん、大丈夫。大丈夫だよ、怖い人たちはあっちいっちゃったから」
「怖かったね、うん、お兄さんがついてるんだから、大丈夫だよ」
「…………ひぐっ……えぇっ……」
「よしよし、もう大丈夫。怖かったな、でももう大丈夫」
「アサヒちゃん、もう怖くないからね」
泣き出したアサヒを、裕樹と裕香、つぐみとみなもが宥める。




