学園都市の最強クラス
「……いけない、避難を!」
「どうやら、荒川の手下どもが動き出したらしいな」
荒川公人率いる武力集団は、主に公人が暴れてある程度弱ったところを狙う、ハイエナのような手口。
幹部を除けば、唯のチンピラの寄せ集め集団未満であり、殆どが金品の品定めは出来てもケンカ慣れはしていない。
「こうしてはいられない。急がなくては」
「おっ、おい。まともじゃなくても、荒川の一撃くらってんだぞ。無理は……!
「しますよ。今クロである私にとって、居場所をくださった大切な場所。そんな場を傷つけられ黙ってはいられません」
「……そうだな。せめてこの図体壁にでもせにゃ、それこそ裕樹に会わす顔がない」
どの道、突っ立っているだけも出来ない。
そう判断して、2人は避難の警護と襲撃の撃退に駆け出した。
「しっ!」
「ギィッ!!」
裕樹の剣劇と、公人の鎖が巻き付けられた腕が、ぶつかる。
達人の剣筋は、斬られた事を自覚するまで痛みはない……と言われてるが、裕樹はその領域。
電子ツールは生物に対する殺傷力はないが、痛みだけは発生する制圧武器の意味合いが強いが、同じ電子ツールは斬ることも破壊も可能。
その特性から裕樹に斬られた電子召喚獣は、痛みを自覚する事なく斬られたとデータ上で残っている
そして裕樹の剣速は、目にも止まらぬを越し、目にも写らぬ速さとまで言われている。
故に、銃弾でも見切れる龍星も、裕樹の斬撃はまだ一度として見切れていない。
ーーが、最強レベルはそれを、当然のように受け止める。
そして、真っ向勝負になれば……
「…………(にやり)」
明らかにパワーやフィジカルで負けている裕樹では、一溜まりもない。
しかし……
「ただのバカ力に負けるほど、俺の剣はナマクラじゃない!」
裕樹はほぼ真正面で、公人の腕との打ち合いを始めた。
……正確には、相手の力の向きを利用、そらす軌道で剣を振るうことで、打ち合いの形に持ち込んでいる。
しかし、真正面で不利である事実は変わらないため、持ち前のスピードで距離をとり、あるいは間合いを積めての緩急を織り混ぜての攪乱戦法も取る。
当然公人も、裕樹のスピードを捉えられないながらも、打ち合いでは優勢であることも含め、鎖で相手を捉えたチェーンデスマッチの形に取ろうと、手錠のついた鎖を牽制に振り回す。
ただし、手錠といっても警察などが使う小さな物ではなく、映画で囚人に使うような分厚い大型のそれであり、武器としても十分に使える。
ーーと、ある程度の衝突では互角の打ち合いをしていれば、幾つかはダメージが重なっていく。
そして、互角であればあるほど……
「グオオオオォラアアア!!」
一瞬の油断が命取りになってしまう。
公人がなぎ倒された屋台の残骸、あるいは機材などを抱え込むように持ち上げ、裕樹めがけて投げつけた。
裕樹はその残骸を蹴りではじき、或いは避けて或いはあえて受け……
その残骸の隙間から、突如自身目掛けて投げつけられた手錠を、とっさに剣で弾いた。。
公人に捕まれば、それだけで敗けは確定ーーしかし、その剣劇に集中してしまい……
「!」
その後に続く、公人の突撃に対応が遅れた。
倒れ込むような体制で裕樹に突進し、とっさに放たれた蹴りもあえて受けながら、公人は改心の一撃とも言える一撃を裕樹に叩き込んだ。
「ーーぐっ……ふぉっ……!」
腹どころか肺の空気を一斉に押し出されるような感覚、そして骨がきしむ感覚……意識が、本当に飛ばされかけた。
「ギィィィッ!!」
興奮状態の公人が、そのまま裕樹を掴み上げようとしたその次の瞬間……
「ぐっ……」
顎に裕樹の強烈な蹴りがぶちこまれ、それが脳天に響き脳震盪状態に。
間髪を入れず、裕樹は掴みあげた腕を腕ひしぎの体制にとらえ、更にはその腕に蹴りを叩き込み、その勢いのまま間接を。
「ギィァっ!!」
骨か靭帯かどちらかをやったらしく、苦悶の声と表情を。
その次の瞬間、裕樹の顔面にもう片腕のパンチがぶちこまれ、背中から地面に叩きつけられ、その勢いのままごろごろと転がっていく。
「……っってえ」
普段、裕樹が眼帯で隠している左目の古傷……そこに叩き込まれる形だった為、その箇所を中心に赤黒く腫れ上がる。
そして、2度もまともにくらった裕樹のダメージは大きく、
「ぐぅぅぅっ……ブッ! ーーてめえ、両腕グシャグシャにしてやる!!」
脳震盪を起こした頭をふって、折れた歯を2本吐き捨てた。
腕は骨折か靭帯損傷か、と言うのが分かるほどに赤黒く変色している。
「ボス、撤退……」
「うるせえ!!」
そこへ、公人の部下であり幹部、犬神彰が割って入ってきた
「だから撤退だ! 保安部の北郷もそうだが、御影と鳴神ももうすぐ到着だ!」
「だから、うるせえっつって……」
その言葉を遮るように、煙幕がその場を包んだ。
興奮した公人を諫める為なのか、協力な鎮静作用のある煙幕らしく、裕樹も咄嗟には動けなかった。
「……くっそ、逃げられたか」
かなり広範囲だったのか、煙が腫れた頃には襲撃者は姿を消していた。。
一応、公人が奪っていた電子マネーデータは取り返しては居たものの……
「1区画とは言え、メチャクチャにしていきやがって」
治安に名前を貸した立場上、気分が良いものではなかった。
「……っくっ……さて、まずは避難先への報告、それからやられた保安部員の救護と、荒らされた屋台通りの片付けと復興、それからーー」
そこまで言うと、急激な脱力感に教われ、裕樹は膝をついた。。
思った以上にダメージが大きかったらしく、裕樹は力を入れようとしても入らず、倒れないようにが精一杯
「……まいったな。荒川のあの一撃、思ったよりダメージがでかい……不覚だった」
「裕樹!」
「朝霧さん!」
どうやら、撤退をしったらしい龍星とクロが、駆けてくるのが見えた。
そして、保安部の救援部隊も駆けつけ、裕樹とやられた保安部員の救護が始まった。




