学園都市の最悪の事態
--一方、屋台通りでは
「めんど、くせえぞコラアァ!!」
裕樹が手配した保安部員、十数名がほぼ1人1秒の秒殺で薙ぎ倒された。
間違っても保安部の訓練を受け、それ相応の経験を積んだ武闘派の一団であり、こうも簡単に全滅させられるものではない……が。
荒川公人、学園都市における手配犯で、最強の男。
2m20cmを越す学園都市でも群を抜いた巨漢であり、パワーにおいては鳴神王牙をもしのぐ最強のパワーファイター。
片手で重量級をぶん投げ、腕で薙ぎ払えば4、5名だろうと、簡単にねじ伏せられる。
避難が終わらないままに、屋台通りの屋台はまだ1区画だがメチャクチャにされ、避難を急ぐ学生たちの悲鳴が響く。
「一般とはいえ、訓練を受けた保安部員が、こうも簡単に……」
「裕樹でわかっていた筈だったのに、なんで最強レベルはどいつもこいつも、バケモノを簡単に凌駕してるんだ」
どう見ても、人間が暴れただけと思えない惨状に、避難の先導していたクロと龍星は焦りを隠せない。
公人と相対したところで、最善を尽くしてもたかが知れているのは、簡単に想像がつく。
「ーーめんど、くせえ」
2人が構えるのに目もくれず、荒らした屋台から電子マネーデータを、奪い始めた。
公人は武装集団を率いているが、その実はイベント襲撃や武力抗争で略奪を行う強盗集団であり、学園都市でも危険な集団として手配されている。
一般的には嫌悪されているが、主に非合法系からは公人の実力も合わさって、重宝されている。
「貴様!!」
クロが手に双棍を手に、公人に向かって駆け出した。
家伝の棍術にヌンチャク術、フィリピン武術カリを組み合わせた棍術を、公人めがけて繰り出す。
「……めんど、くせえ……うっとお、しい」
その棍を腕で簡単にガードし、ビンタで迎え撃つのをクロは即座に距離をとる。
腕を振り回すだけで必殺の領域である以上、捕まればそこで最後。
その隙をついて、龍星が死角から突進し、足に組つく。
「ーーこ、のぉっ!!」
渾身の力で足を持ち上げ、ひっくり返せないまでも踏ん張りが効かない様に。
しかし公人は、特に足に力を入れる気配を見せないままびくともせず、龍星の顔面にアイアンクローで突き放し、更には強引に足から引き剥がし、そのままの体勢で持ち上げた。
「ぐっ、があぁっ……!」
内容は至極単純、完全な力任せ。
龍星はアイアンクローを引き剥がそうともがくが、びくともしない。
「榊さん!」
「ーーめんど、くせえ!!」
飛びかかってくるクロに向けて、公人が事も無げに龍星をバットのように振り抜いた。
バックステップで回避したクロめがけ、今度は龍星を盾のように構えてタックル。
クロを捉えたと同時に龍星を殴り付け、2人を吹っ飛ばした。
「うっ、くっ……クロ、大丈夫か?」
「……ええ……まさかこんな大男を武器にだなんて、今起こった事ながら信じられません」
「……しかもあれでまだ、そんな力を入れてないーーくそっ、まともには動けんか」
同じパワーファイターだけに、ほぼ上位互換に位置する公人のパワーの気配は、ある程度感じ取れた。
ある意味裕樹よりも、最強レベルとの差の大きさを実感させられる位に。
「……めんどくせえな、こいつらに1分もなんて、時間かけ過ぎちまった」
時計を見て、気だるげな声でそう呟いた。
それから近くの屋台の残骸を荒し、金銭関係の物を回収し始める。
「ーーやめろ。これ以上ここを荒らすんじゃない!」
「……あ? ……めんどくせえが、サンドバッグだ。ほざいたからには、2発……いや、3発位の根性見せろよ」
公人が両腕に巻き付けてある鎖で、手錠の着いている鎖を手に取った。
荒川公人必殺の型、チェーンデスマッチ。
「ずいぶんと甘く見てくれるな、2だの3だのなんてケチ臭い。10や20は受けきってやろう!」
既に救援は手配されているが、それにも時間はかかる。
ならば被害を押さえる最善は、龍星が耐え抜くこと。
「ーーいい返事だよ、龍星のダンナ」
そこに割り込んだ声を聞いて、龍星もクロも無意識に安堵の表情に。
「裕樹!」
「悪いダンナ。俺の見通しが甘かった……避難は?」
「まだ、途中ですが、妹さんたちはちゃんと」
「そうかい」
裕樹が徐に眼帯に手をかけ、取り払った。
それをみた公人から、気だるさの一切が消え失せる
「俺の留守中に、随分と暴れてくれたじゃないか荒川」
「……めんどくせえなあ。これからガキが、妹2人が泣きわめく様はさぞや見映え最悪だ」
簡単な言葉のやり取りであったが、蚊帳の外にも関わらずクロも龍星も、心臓を鷲掴みされるかのような恐怖感を覚えていた。
裕樹も公人も、目を見ただけで人を殺せるかのような、とてつもない殺気を放っている。
「へえっ……誰の妹が泣きわめくって?」
「決まってるーー泣きわめくガキの名は朝霧裕香と、笠木アサヒ、だったか?」
愛刀・六道の一振り、地獄道を抜き、殺気を更に際立てる裕樹。
雰囲気どころか、言葉からも本気の一言に変わりきった公人
「何俺の妹の名前呼んでんだコラ……覚悟決めろよ、この朝霧裕樹が斬り伏せてくれる」
「正真正銘の本気だ。その最強の剣ごと、叩き潰す」
『保安部全職員に告ぐ、これより北郷正輝の出陣を宣言する。繰り返す、北郷正輝の出陣を宣言する』
『特級非常事態発令、繰り返す、特級非常事態発令。隊長、副隊長、最低4名、応答してください!』
『緊急事態に変動有り、荒川公人と朝霧裕樹、交戦に入ったとの報告有り! 繰り返す、荒川公人と朝霧裕樹、交戦に入ったとの報告有り!』
『生徒会SP、鳴神王牙隊長、御影凪隊長の両名に至急連絡を繋げ! 最優先事項だ、早く!!』




