朝霧裕樹の苦楽
「そう言えば朝霧先輩って、料理はされるんですか?」
「一応、あいつら(最強3人+大神)との修行時代、5人で自炊してたから。ちなみに北郷のメシが一番美味かった」
「へえっ、保安部最高責任者がお料理……茶道が趣味なのは知ってますが、すごいギャップれしゅ」
「俺は刺身とかサラダとか、切って盛り付ける料理が得意……てか、それ位しか上手く作れない。あとは果物や野菜のかわむきだったら、あいつら相手なら負けなかったな」
「流石は学園都市最強の剣の使い手」
ファームから帰ってすぐ、みなもとつぐみは持って帰った果物で新作考案の会議開始。
裕樹は満腹感に浸るアサヒを膝で寝かせ……
「しっ!」
「むっ!」
広場で相対してる、龍星とクロに目を向ける
2人の実力には、そう開きはない……が、今のクロは蓮華を名乗っていた頃よりも、格段に強くなっている。
四神と呼ばれる少女たち、あるいは最強への登龍門、中原大介に迫ろうかという勢い。
「切り落とした髪に誓った覚悟か、あるいは精神的なあり方の変化か……どちらにせよ、信じられない急成長」
退治する龍星も、裕樹のスピード相手に奮闘してきた成果か、クロの攻撃に難なく着いていけていた。
しかしそれはあくまで防御までで、クロの動きを捉えられるまではいけていない。
故に両名ともに、決定打がないまま続いている。
「まあダンナも、俺相手の経験値積み重ねてもらってんだから、これ位やってもらわにゃな」
と、周囲から見ればのほほんとした雰囲気と口調だが、裕樹の2人を見る目は鋭いもの。
一挙手一投足どころか、一瞬の判断か反応かの違いさえ見落とさない、と言わんばかりに。
そして、イメージする。
今の動きを、自分ならどう対処し、どう次に繋げるか……あるいは、その逆。
「ホント、油断も隙もないって、こういうことを言うんだろうね」
「自分か他人か、格上か格下かなんて関係なく、実践は情報と経験の宝庫なんだよ。批評の前にまず学べってね」
「トレーニングにしても、人造神の使い方にしても、余念がないよね。時々思うけど、今だって遥か彼方の頂点って言われてるのに、これ以上に強くなってどうするの?」
「遥か彼方の先にあるのは、錆び付いたナマクラでしたなんて笑い話にもならないだろ」
いつのまにか、隣に座っていた裕香にある程度の事を見透かされていた。
流石は妹、と感心しつつもまだ続いてる勝負から視線ははずさない
「で、蓮華さん……じゃなかった、クロさんってやっぱり強くなってるの?」
「ああっ。今なら大介ともいい勝負ができる」
「ふーん……やっぱりプログラム・シンも使えるのかな?」
「持ってはいるだろうな。使えるかどうかは知らんけど」
プログラム・シン
東城太助が開発した、電子召喚獣強化形態の解放技術。
マスターと電子召喚獣の一定値以上のシンクロ、それが発動条件なのだが成功率は全体的に非常に低く、一度成功したきりというのが大半を占めている。
最高位クラスならほぼ100%成功させられるが、それを除けば数回に1回という実践的ではない機能だが、成功すればそれまでとは比較にならない能力を手に入れられる。
「まあ興味はあるな。プログラム・シンと相対する機会なんて滅多にないし」
「確かに、決まった人のしか見たことないからね」
「明日あたり、使ってもらうか。俺もそろそろ本気で体動かしたいし」
「普通、電子召喚獣に生身で突っ込もうなんて考えないよ。増してプログラム・シン相手になんて」
「だってあいつらとここ最近やりあえてないし、それ除くと本気出せるのそれ位なんだから」
「……もし危ない事になったら泣くからね、アサヒちゃんと一緒に」
「……はい」
裕香のその一言で、裕樹は体の奥底からグウの音も出なくなった。
朝霧裕樹、決定的な弱点は妹たちに泣かれる事である
「あっ、そうだ。今日ファームで色々と果物買ってきたから、今頃試作品できてる頃かも」
「……」(ジト目)
「……ダメか」




