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8 護

「あの、ちょっと、田丸……。言うことがわからないんだけど……」

 実際にそうだったから、ぼくが田丸に説明を求める。

「どういう意味なんだ」

「言葉は可笑しいけど、今回の侵略者は亨用の侵略者だ、ということだな」

「ぼく用の……」

「そう。つまり別の謎の知生体がおれの脳髄に惹かれて、おれの世界に現れたら、その侵略は、おれ――と、おれの脳髄が把握する世界――に対するに侵略なんだ」

「でも、それは起っていない」

「今回は、ね」

「しかし、起こり得ると……」

「さあ、本当のところはわからない」

 そこで、田丸が腕組みする。

「じゃ、桜子、きみはどう考える」

 ぼくは話題を桜子に振る。

「そうですね。田丸さんの説は十分にあり得ますけど、わたしは亨さんが特別説を押します」

「それは、何故……」

「わたしがここにいるから……」

「きみがここにいるから……」

「……とでも言うしかないのかな」

「さっぱり意味がわからないんだけど……」

「つまりですね、わたしは亨さんなんです」

「えっ……」

 桜子の突然の発言には田丸も驚く。

 もちろん、ぼくも驚いたが……。

「別に隠してたわけじゃないんです。だけど、一度に幾つものことが起ったら、亨さんが混乱すると思って……」

 そう言い、桜子が大きくて丸い眼鏡を外し、長い黒髪を掻き揚げる。

 すると、そこに、ぼくの顔が現れる。

 正確には、ぼくにそっくりな顔が……。

「なるほど、同じだ」

 驚きを隠さず、田丸が口にする。

「亨って美人だったんだな」

 ぼくと桜子の顔を交互に見比べ、田丸が呟く。

 その口調が余りにも真剣だったから……、

「おい、止してくれよ」

 と思わず、ぼくが言う。

「間違っても田丸の恋人にはならないからな」

「おれにも、その趣味はない」

 しれっと田丸は言ったが、その顔はニヤついている。

 どうにも心が読めない奴だ。

 が、今は田丸に拘っているときではない。

「で、どうしてきみはぼくなんだ」

 それで桜子に問いかける。

 すると桜子は髪と眼鏡を元に戻し、ゆっくりと話し始める。

「さっき田丸さんが、前の、って仰いましたけど、それはわたしのケースだったんです」

「きみのケース……」

「はい」

「つまり、きみが襲われた……というか、目印だった、通過ポイントだった、ということか」

「そうです」

「で、今回の件が片付いたら、今度は、ぼくがきみの役になると……」

「……か、どうかまではわかりませんが、わたしの場合と同じなら、きっと、そうなるでしょう」

「ずっと続いているのか」

「わかりませんが、そう考えた方が良さそうです」

「業平家が特別なのか。あるいは業平家の誰かが……」

「さあ、それはわかりません」

「いや、それでも、おれの説が消えたわけじゃないぞ」

 往生際悪く、田丸が自説を再度、主張し始める。

「業平家の事情が、そっくり田丸家に起きれば同じだろう」

「まあ、そうですね」

 すると、桜子があっさりと田丸説を認める。

「別の時空では田丸家が似たような戦いをしているのかもしれません」

「人知れずに、な」

 田丸が小声で口にする。

「しかし、きみがいた世界では、ぼくは女か」

 眼鏡と髪を透かせて桜子を眺めつつ、ぼくが呟く

「だから、まったく同じって訳でもないんだな」

「まったく同じ世界が二つあっても仕方がありませんから……」

「ぼくは、そんなことはないと思うけどな。保険にはなる」

「まあ、そうですけど……」

「だけど、きみはどうやって、この世界に来たんだ」

「気がついたら、このアパートの近くにいました」

「飛ばした奴がいるのか」

「そんな気がします」

「じゃ、その存在が、時空の支配者なのか」

「さあ、どうでしょう」

「業平家の守護神じゃないのか」

 田丸が言い、

「それがぴったりかな」

 と、ぼくが同意する。



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