5 遮
「今にも入ってきそうだけど……」
ぞっとしながら、ぼくが桜子に言う。
「そうですね」
桜子の声は冷静だ。
「入って来たら、どうなる」
「おそらく、わたしたちを襲うでしょうね」
「その割に、きみは落ち着いているな」
「襲わないで、そのまま前進しようとするかもしれません」
「前進するって、何処へ……」
「海岸の先でしょう」
「先があるのか。これは夢だろう」
「亨さん次第です」
「ぼく次第って……」
「亨が海岸の先を想像すればあるし、しなければない、ということさ」
桜子の代わりに田丸がぼくに説明する。
「そういうことだろう」
ついで、桜子に確認する。
「はい、そういうことです」
が、ぼくには納得できない。
「ぼくが想像しなければ、ない。のならば、彼らは先には進めないだろう」
「そうですよ」
「どうも意味がわからないな」
「まあ、なるようになりますから……」
桜子は言うが、いったいどうなるというのだ。
「押セ」
声が言う。
とても近くに聞こえる。
ぼくは、またぞっとする。
「怖いんだけど……」
「そりゃ、そうでしょう。亨さんにとって怖いモノですから……」
「ぼくにとって……」
さすがのぼくにも徐々に構造がわかって来る。
「ぼくの心の闇が侵略者の正体とかいうんじゃないだろうな」
「それは違います。亨さんはあくまで目印……というか、通過ポイント」
「通過ポイント……」
「理屈が違うんですよ。侵略者が従わなければならない理屈……というか、理論というか、物理法則と、わたしたちのそれ、とが……。だからそのままでは、この世界を侵略できない」
「どういう意味だ」
「言った通りの意味ですよ」
「田丸、解説を頼む」
ぼくは田丸に助けを求めるが、彼は急に考え込む。
「本当にそうなのかな」
「あっ、わかっちゃいましたか」
「向こうが理屈をゴリ押ししてきたら、そのまま進んでいくだろう」
「だから、亨さんのシールドが必要なんです」
「凡庸な想像力か」
「凡庸で悪かったな」
ぼくが不貞腐れる。
が、言われてみれば、確かに、そうなのかもしれない。
ぼくには想像できないモノを想像する能力はない。
けれども、それは人類の殆どが持つ特性ではないだろうか。
「亨さんは凡庸ではありませんよ」
桜子が初めてぼくを持ち上げる。
「一般的な人類の一員なだけです」
そして、すぐ下に突き落とす。
「まあ、おれもそうだからな。気にするな、亨……」
と田丸に慰められても気分は晴れない。
「モット押セ」
そのとき一際大きな侵略者の声が聞こえ、すうっとタコ脚が上に伸びる。
タコ脚の根本は金属のようだ。
「生物じゃないってわけか」
田丸が呟き、
「それも、どうだかわかりませんけど……」
と桜子が返す。
「亨さんは機械が怖いんですね」
続いた桜子の問いかけに、
「いや、違うと思う」
と、ぼくが答える。
「すぐに思い浮かぶ、ぼくの怖いモノは、夜の鉄塔だな」
ぼくがそう言った途端、辺りが急に暗くなる。
上部のタコ脚はそのままだが、侵略者の姿が鉄塔に似てくる。
が、もう少し緻密だ。
生きている機械というか、そんな感じを醸し出している。
「抽象性が増したか」
田丸が指摘し、
「それが侵略者の理屈の影響だとすると問題です」
と桜子が少し不安な声で答える。
「ゴメン。ぼくにはアレが凄く怖いんだけど……」
顔面を蒼白にし、ぼくが怯え、二人に訴える。
が、ぼくの耳に次に聞こえてきたのは、
「……ということは、侵略者の影響ではないわけだな」
「単純に、亨さんの恐怖の象徴ってことですね」
という、田丸と桜子の、ほっと一安心したような会話だ。




