4 侵
それから三人で不思議な時間を過ごす。
が、十数分もすると、ぼくは疲れを感じ始める。
だから、
「先に寝るよ」
と断るが、桜子は反対しない。
「どうぞ。起きていても、眠っていても、同じですから……」
また、訳のわからないことを口にする。
「まったく、どうなっているんだか」
「わたしだって、詳しくわかっているわけではありません」
とにかく布団を敷き、ぼくがそれに包まる。
「じゃ、後は宜しく」
「わかりました」
すぐに、ぼくは眠るが、眠った気がしない。
夢現の状態を彷徨うだけだ。
遠くで桜子と田丸が話す声が聞こえる。
が、それも遠くなり、ぼくは眠りに落ちる。
「見ツケタ」
急に声が聞こえる。
もしかすると桜子の言うところの侵略者の声かもしれない。
ぼくは声の主を探し、辺りを見まわす。
が、誰もいない。
ぼくがいるのは海岸のようだ。
風が冷たい。
感覚がリアルだ。
だから、ぼくには夢を見ている、という感じがしない。
「同じなんですよ」
予期せぬ声が耳許に聞こえ、ぼくが驚く。
振り返れば、そこに桜子がいる。
「侵略が始まったようです」
「そうか」
桜子の後ろには田丸の姿もある。
「ここは亨の夢の中なのか」
半信半疑な表情を見せ、田丸が桜子に問う。
「夢というよりは心の中ですね」
「広い心だな」
「シールドの中と言い代えましょうか」
「亨の心がシールドか」
「あるいはシェルター」
「人類のすべてが入っているのか」
「ある意味ではそうでしょうが、わたしにはわかりません」
「複雑だな」
「では、単純に夢ということにしておきましょう」
「見ツケタ」
「今の声は……」
「おそらく侵略者でしょう」
「日本語だぞ」
「亨さんの夢の中ですから……」
「なるほど、そういう理屈か」
「あのさ、ぼくにはさっぱり訳がわからないんだけど……」
ぼくが本心を告げた丁度そのとき、時空が揺れる。
ドオオオン。
そして、海岸が揺れる。
いや、揺れるというよりは歪む。
物理法則を無視して……。
例えば、一枚の写真をラップに転写したとして、それをグニャリと歪ませたように……。
そして、その効果は、ぼくたち自身にも及ぶ。
もちろん、愉しい体験ではない。
「アソコダ」
前に聞こえたのと同じ声が、今度は少し近くに聞こえる。
口調は固いが、気味が悪い。
「なるほど、夢にしといた方がいいな」
誰にともなく、田丸が呟く。
「入レナイ」
「強ク押セ」
ドオオオン。
また、時空が歪む。
「突破されないのか」
田丸が問い。
「此処までは入って来るでしょう」
桜子が答える。
「入って来てもいいのか」
「寧ろ、此処に入ってもらいたいわけです」
「何故……」
「奴らが耳を澄ましているかもしれませんから教えません」
「わかったよ。自分で考える」
やがて海の中からタコの脚のようなものが現れる。
「ベタだな」
「亨さんの想像力がベタなんです」
「だが、その方がマシか」
「そうですね。例えば、幾何学模様なんかが現れたら、どうやって戦えば良いのかわかりませんから」
すると、タコ脚の一部分が瞬間的に幾何学模様に変わり、すぐ元に戻る。
「奴ら、聞いているのか」
「わかりませんが、そのようですね」
微振動をしながら、タコ脚が、ぼくたちに近づいてくる。
が、まだシールドを通過できないようだ。
「入レナイ」
「強ク押セ」
聴こえる声に焦りはない。
いや、そもそも一欠けらの人間性も感じられない。