2 説
ぼくの部屋に現れた苗字が同じ彼女は無邪気な顔をし、話を続ける。
「ご飯を作るのがお厭でしたら、何処かに食べに行っても構いませんが……」
「いやいやいや、買ってある食材が無駄になる」
「じゃ、作ってください」
「で、きみは誰なわけ」
「だから、業平桜子です」
「名前は聞いたよ」
「では、ご飯……」
そのとき、彼女のお腹がグーと鳴る。
それにつられるように、ぼくのお腹もグーと鳴る。
「まあ、仕方がないか」
「やった!」
彼女が思わずガッツポーズを決める。
ぼくは渋々、食事の用意を始める。
彼女は椅子に座ったままだ。
ぼくは冷蔵庫から法蓮草と小松菜、椎茸を取り出し、適当な大きさに切り、野菜だけ炒めを作り始める。
同時にアジの干物をガスバーナーに入れる。
ご飯は炊いた方が美味しいが、彼女のお腹が鳴る音を聞いたから、パックで済ませる。
付け合わせは浅漬けの元に漬けたオクラだ。
「さあ、どうぞ……」
桜子に食事をサーブしながら、ぼくが言う。
自分も彼女の向かい席に座る。
「いただきます」
「いただきます」
それぞれが手を合わせ、食材に感謝する。
それから暫く無言で食事だ。
やがて、野菜だけ炒めを食べた桜子が、ぼくに感想を述べる。
「シンプルな味ですね」
「味醂と液体出汁しか使ってないから……」
「肉は入れないんですね」
「うん、食べないから……」
「知ってます」
「何で……」
「わたしも食べないからです」
「理由になってない」
「そうですか」
「で、きみは何者なんだ」
「干物に仕掛けをしましたか」
「料理酒をかけただけだけど……」
「ふうん」
「で、いつまでいる気……」
「あっ、置いてくれる気になりましたか」
「仕方がないだろう。夜空に独り、放り出すわけにもいかないし……」
「優しいんですね」
「その代わり、理由を聞かせてよ」
「言っても信じませんよ」
「それは、言ってみなけりゃ、わからないだろう」
「あなたを守りに来ました」
「ぼくを……。誰から……」
「正体はわかりませんが、人類の敵から……」
「悪いけど、漫画の読み過ぎ……」
「ほら、信じない」
「普通、信じないだろう。次は、未来から来た、とでも言うんだろう」
「残念ながら、未来ではありません」
「ならば、別世界……」
「そんなところです」
「バカバカしい」
「今は確かにそうです。でも、もう数時間もすると崩壊が始まります」
「崩壊……」
「秩序が崩れます」
「言葉の意味なら知ってる」
「時空が崩れ、世界が壊れ……」
「何を言っているんだ」
「本当のことです」
「時空が崩れて、どうなる」
「人がバラバラになります」
「バラバラって……」
「文字通り、バラバラです」
「まったく意味がわからない」
「でも、殆どの人は気づきません」
「……」
「ですが、気づく人もいます」
「ぼくは戦いには向かないよ」
「それはわかっています。ですが、肉弾戦ではありませんから……。亨さんがするのは……」
「ぼくが何をするって……」
「簡単に言えば、シールドを張ります」
「ぼくに、そんな能力はないよ」
「それは、亨さんが知らないだけです」
「やっぱり漫画の読み過ぎだろう」
「そうだったら良かった、と、わたしは心底から思います。ですけど、現実は違う……」
「何が現実なんだ」
「とにかく、今はご飯を食べないと……」