11 問
鉄塔のオバケの声で話す桜子は不気味だ。
が、それ以上に鉄塔のオバケが話した内容が不気味だ。
「つまり二つの心があるというわけか」
「オ前タチノ概念デ言エバ、ソウナル」
「しかし心が二つあったら、それは個人ではない。混乱するぞ」
「ダカラ片一方ハ眠ッテイルノダ」
「なるほど……」
納得したように田丸が首肯く。
「が、それが今、切り代わった」
「ソウダ」
「しかし、お前が先のお前と継続したお前であるからには、眠っていても二つの心は繋がっていなければならないぞ」
「勿論ダ」
「ならば、お前はまだ、お前の心の中に囚われている」
「確カニ、今デモ二ツノ心ガ繋ガッテイレバ、ソウナル」
「では、今は繋がっていない、と……」
「我々ハ馬鹿デハナイ。ソレクライノ予想ハデキル」
「なるほど、おれたちはバカな知生体と出会いたかったな」
そう愚痴る田丸の口調は愉し気ではない。
それは、そうだろう。
ぼくだって、愉しくない。
が、一番愉しくないのは桜子だろう。
だから、ぼくが問う。
「お前たちは桜子をどうする気だ」
「コノ個体ノコトカ」
両手の親指で自分を指し示し、鉄塔のオバケに乗っ取られた桜子が言う。
「そうだ」
「ドウモシナイガ、コノ世界ニ入ル役ニ立ッテモラウ」
「どうやって……」
「コノ個体ノ心ハ、コノ世界ト通ジテイル」
「しかし今、世界はバラバラだぞ」
「ソノ方ガ都合ガ良イ」
「どういう意味だ」
「オ前タチノ世界ハ複雑だ。現実ハ一ツノハズダガ、複数ノ思考上ニ存在スル」
「つまり、そのままでは、お前たちは、おれたちの世界に入れないわけだな」
すると、突然理解したように田丸が叫ぶ。
「それでバラバラにしたと……」
「個人ノ心モ複雑ダガ、ソノ集合体トハ比較ニナラナイ」
「それは、そうだ」
「我々ハ個人ノ心カラ、オ前タチノ世界ニ入ル」
「しかし、その後、バラバラな世界が元に戻ったらどうなる。そのとき、お前たちは現実から弾かれないのか」
「一度、オ前タチノ世界ニ定着スレバ、恐ラク、弾カレルコトハナイダロウ」
「つまり、お前たちにも確信がない、というわけだな」
「ダガ、我々ニハ事例ガアル」
「……ということは、お前たちの他世界への侵略は初めてではないということだか」
「我々ニトッテハ初メテダ」
「つまり、お前たちの仲間が過去に何処かの世界に侵略したということか」
「ソウダ」
「では一つ訊ねるが、何故、お前たちは他世界を侵略するのだ。理由を聞かせて欲しい」
「ソレハ、我々ノ世界ガ侵略サレタカラダ」
「つまり、お前たちも被害者だったわけか」
「我々ノ世界ノ物理法則ノスベテガ変化シテシマウ前ニ脱出スル必要ガアッタ」
「侵略者が変えた物理法則の儘、お前たちが変わっても生きられたはずだが……」
「ソノ選択肢ヲ選んだ者タチモイタ。シカシ……」
「わかるよ。自分たちのアイデンティティーの問題だからな」
「ソウダ」
「けれども、今のお前たちは、以前のお前たちではない。その矛盾をどうする」
「変ワッタ我々ヲ元ニ戻ス」
「つまり、おれたちの世界を、昔、お前たちがいた世界に変えるわけだな」
「ソウダ」
「そんなことができるのか」
「我々ハ以前ノ我々ヲ憶エテイル」
「侵略者たちと戦わなかったお前たちがおれたちの世界を変えても、また同じ奴らに襲われるだけだぞ」
「二度ト、アノヨウナコトハ起コサナイ」
「今からでも戻って戦ったらどうだ」
「ダメダ。相手ガ強過ギル」
「お前たちを襲ったのは、いったい、どんな奴らだったんだ」
「怖ロシイ者タチダ。ソレ以外ニハ形容デキナイ」
「キーワードは、ここでも、怖ろしい、か」
田丸が呟き、ぼくの顔を見る。
ぼくは考えた末、鉄塔のオバケに乗っ取られた桜子に質問する。
「今のお前たちは、ぼくたちと似たような感性を持っている。だから、怖ろしい、という概念も似たようなものだろう。だが、元のお前たちにとって。怖ろしい、とは一体どういった概念だったのか」
「オ前タチノ概念ニ照ラセバ、理解デキナイ、ガ一番近イ」
「理解できない、か。一体どんな形で、お前たちの相手は現れたんだ。しかも、お前たちを襲った相手も、お前たちの概念内にいたわけだぞ。理解できない、は矛盾だろう」
「厳密ニハソウナルガ、アア、考エタダケデモ、奴ラハ怖ロシイ」




