10 闘
侵略者の言葉と重なり、グニャリと部屋が歪む。
ついで、田丸の右胸から銀色の鉄塔が現れる。
当然、田丸は血まみれだ。
ひゅう、と桜子が声にならない悲鳴を上げる。
最初は小さかった鉄塔がみるみる大きくなり、ぼくの部屋を突き破る。
その際に割れた窓ガラスの破片が、ぼくの頬を裂く。
が、大した怪我ではない。
「どうすればいい」
大声で、ぼくが桜子に問う。
「反転してください。でなければ、逆転を……」
「どういう意味だ」
「此処では亨さんは万能です」
「わかった」
が、ぼくには何もわからない。
部屋を突き破った鉄塔が更に大きくなる。
部屋が壊れ、その先にある『無』を垣間見せる。、
田丸の原型は、もはや何処にもない。
この先、桜子の身体からも鉄塔が現れるかもしれない。
ぼくの身体の中からも、だ。
その前に、何か手を打たなければ……。
ぼくが強く考える。
侵略者がいるのは心の中だ。
所謂、現実ではない。
が、鉄塔は田丸の身体から飛び出したのだ。
心と心臓の言葉遊びなのか。
それとも多くのヒトが、心は身体の中にある、と考えるためか。
ぼくにはわからない。
わからないが、鉄塔が心の中に現れたからには、鉄塔の形を取った侵略者にも心のようなものがあるかもしれない、と思い至る。
仮にそうでなければ、ヒトの心を利用する攻撃法を考えつくはずがない。
あるいは、ぼくの時空認識と接触することで、侵略者の中に疑似心が生まれたのだろうか。
ならば、その中に逆に侵略者を押し込めることができるはずだ。
これが正解なのか。
が、惑っている時間はない。
ぼくは目を瞑り、一つの考えに集中する。
そのことだけを考える。
そして、目を見開くと……。
すべての存在が消えている。
が、辺りは闇ではない。
真っ白い空間だ。
そこに色が現れる。
部屋の形が戻って来る。
当然、田丸と桜子の存在も……。
「滅多にできない経験をしたよ」
飄々とした口調で田丸が言う。
「実はよく覚えていないんだが……」
「その方が良いと思うよ」
ぼくが田丸に答える。
部屋はすっかり元に戻ったようだ。
試しに窓を開けると深夜の町が見える。
「終わったのか」
思わず、ぼくは呟いたが、まるでそう思っていない。
「いったい、どうやったんだ」
「侵略者の心の中に彼らを閉じ込めたんだよ」
「そんなことを、どうやって……」
「侵略者が、ぼくを通じてこの世界に接触を図ろうとする限り、ぼくは神のように振る舞えるらしい」
「つまり……」
「そうなれ、と思っただけだ」
「簡単だな」
「どうだかな」
「侵略者に元々心がなければ、どうなるのかな」
「心がないのに心の中にいるとすれば、それは『いない』んじゃないか」
「うーん、想像できないな」
「まったくだ」
そのとき桜子が大きく溜息を吐く。
「あーっ、怖かった」
「怖かったのは、ぼくの方だよ」
ぼくがそう言い、桜子を見る。
すると目の色が変わっている。
右目が白に、左目が赤に……。
「マダ、終ワッテイナイ」
桜子の口から侵略者の声が発せられる。
「コレヲ乗ッ取ッタ」
「お前も、もう一つの鉄塔とともに自分の心の中に閉じ込めたはずだ」
「我々ノ心ハ一ツデハナイ」
「そんなことは、当然、わかっている」
「ガ、ソレハ通常、一ツニ集約サレテイル」
「……でなければ、統率が取れないからな」
「ダガ、コノ奇妙ナ形ヲした我々ニハ、ソレガ二ツアル」
「何だって……」
「通常ハ眠ッテいるが、非常事ニ、ソレガ起キル」
「つまり……」
「今ノ我々ノ心ノ中ニ我々ハイナイ」




