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10/12

10 闘

 侵略者の言葉と重なり、グニャリと部屋が歪む。

 ついで、田丸の右胸から銀色の鉄塔が現れる。

 当然、田丸は血まみれだ。

 ひゅう、と桜子が声にならない悲鳴を上げる。

 最初は小さかった鉄塔がみるみる大きくなり、ぼくの部屋を突き破る。

 その際に割れた窓ガラスの破片が、ぼくの頬を裂く。

 が、大した怪我ではない。

「どうすればいい」

 大声で、ぼくが桜子に問う。

「反転してください。でなければ、逆転を……」

「どういう意味だ」

「此処では亨さんは万能です」

「わかった」

 が、ぼくには何もわからない。

 部屋を突き破った鉄塔が更に大きくなる。

 部屋が壊れ、その先にある『無』を垣間見せる。、

 田丸の原型は、もはや何処にもない。

 この先、桜子の身体からも鉄塔が現れるかもしれない。

 ぼくの身体の中からも、だ。

 その前に、何か手を打たなければ……。

 ぼくが強く考える。

 侵略者がいるのは心の中だ。

 所謂、現実ではない。

 が、鉄塔は田丸の身体から飛び出したのだ。

 心と心臓の言葉遊びなのか。

 それとも多くのヒトが、心は身体の中にある、と考えるためか。

 ぼくにはわからない。

 わからないが、鉄塔が心の中に現れたからには、鉄塔の形を取った侵略者にも心のようなものがあるかもしれない、と思い至る。

 仮にそうでなければ、ヒトの心を利用する攻撃法を考えつくはずがない。

 あるいは、ぼくの時空認識と接触することで、侵略者の中に疑似心が生まれたのだろうか。

 ならば、その中に逆に侵略者を押し込めることができるはずだ。

 これが正解なのか。

 が、惑っている時間はない。

 ぼくは目を瞑り、一つの考えに集中する。

 そのことだけを考える。

 そして、目を見開くと……。

 すべての存在が消えている。

 が、辺りは闇ではない。

 真っ白い空間だ。

 そこに色が現れる。

 部屋の形が戻って来る。

 当然、田丸と桜子の存在も……。

「滅多にできない経験をしたよ」

 飄々とした口調で田丸が言う。

「実はよく覚えていないんだが……」

「その方が良いと思うよ」

 ぼくが田丸に答える。

 部屋はすっかり元に戻ったようだ。

 試しに窓を開けると深夜の町が見える。

「終わったのか」

 思わず、ぼくは呟いたが、まるでそう思っていない。

「いったい、どうやったんだ」

「侵略者の心の中に彼らを閉じ込めたんだよ」

「そんなことを、どうやって……」

「侵略者が、ぼくを通じてこの世界に接触を図ろうとする限り、ぼくは神のように振る舞えるらしい」

「つまり……」

「そうなれ、と思っただけだ」

「簡単だな」

「どうだかな」

「侵略者に元々心がなければ、どうなるのかな」

「心がないのに心の中にいるとすれば、それは『いない』んじゃないか」

「うーん、想像できないな」

「まったくだ」

 そのとき桜子が大きく溜息を吐く。

「あーっ、怖かった」

「怖かったのは、ぼくの方だよ」

 ぼくがそう言い、桜子を見る。

 すると目の色が変わっている。

 右目が白に、左目が赤に……。

「マダ、終ワッテイナイ」

 桜子の口から侵略者の声が発せられる。

「コレヲ乗ッ取ッタ」

「お前も、もう一つの鉄塔とともに自分の心の中に閉じ込めたはずだ」

「我々ノ心ハ一ツデハナイ」

「そんなことは、当然、わかっている」

「ガ、ソレハ通常、一ツニ集約サレテイル」

「……でなければ、統率が取れないからな」

「ダガ、コノ奇妙ナ形ヲした我々ニハ、ソレガ二ツアル」

「何だって……」

「通常ハ眠ッテいるが、非常事ニ、ソレガ起キル」

「つまり……」

「今ノ我々ノ心ノ中ニ我々ハイナイ」


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