7 星になれたら #1
今回、スゴく長くなりました。
なのでサブタイトルと各サブサブタイトルとして
ちょっと、やってみました。
前回の視点だった人が分かります!
7-1 光り続ける、帚星
なんやかんや、お洒落を初めて数ヶ月が経ち、年が明けた。
早川さんとはあけおめLINEをして、丁寧な返信に僕は嬉しさを噛み締めている。
そして、お正月。店長に呼ばれ、結局僕は冬休みはバイト三昧だ。
そんなある日……
店長は、
「うん! 暇だ! お客さんも落ち着いてるし、俺は帰る! 娘と息子と約束があるんだ!」
と言い、ささっと帰ってしまった。
スタッフ総出で、
「店長~~~!」
と呼びとめたが、気がつくともう遥か先にいた。
そして、数人のスタッフと力を合わせて、お客様がたくさん来て混んだ時は居るスタッフだけでこなすしかない!……となった。こういう時に団結力というのはますのだろう。『店長め~一人だけ帰りやがって! ゆるさね~!!』先輩スタッフ達が喚いているそんな状況だ。
それで意気込んでやっていたそんな夕方。
「あの~、すいませ~ん! 店員さ~ん。オーダーお願いします~」
っと声が聞こえた。
「はーい!」っと言い、僕はそのお客さんに近寄る。そこで漸く気付いた。
大きめなRay-Banのサングラスをかけ、グレーのローブカーディガンコートに、ダークグレーのニットタートルネック。モスグリーンのマーメイドスカート。そして、サイドゴアブーツ。
いつもと装いが違ったので気付かなかった。丁度、僕が近づいた時に彼女はコーヒーの最後を飲み干した。飲んでる姿はまるで絵画に出てくる淑女のようだ。
そう、彼女は…………『小野寺千里香』さんだ!
「えっ、小野寺さん来てたんですか?」
「いや~、いつまで経っても呼んでくれないから、来ちゃった☆」
「いや、『来ちゃった☆』 じゃないですよ! 付き合いたてのカップルかっ!……てですよ……もうぉ……まぁ、来ちゃったら、お客さんだからしょうがないですけど……」
「うんうん。君~いいね~やっぱり、若人が働く姿わ。そして、やはり君は良い尻をしている!」
「小野寺さんも一応、若人でしょ。というか、それ、セクハラですからね 」
「まぁ、よいではないか、よいではないか!」
「もう……で、ご注文は……」
「あぁ、呼んだだけ 」
「はぁ! 僕、仕事中なんですから!」
「君~ お客さんっといっても……私と、あそこの女の子しかいないじゃないか 」
「だからですよ。おかわりでも、デザートでも……何なり頼んでください! そして、きっと今から忙しくなるんですよ……きっと…………」
「はーい! 」
それから切り替える様に小野寺さんは質問した。
「二点ほど気になる事あるのだが……」
「えっ、なんですか?」
「1つはこれ、なんだい?」
彼女は店内のポップに指を差した。
「あっこれですか、いや、うちの会社……お店って、こういうコラボ事は基本やらないんですが……取引先を増やすために始めたんですよ。んで、今お子さまにサービスとして、配るようにしているんです。まぁ、色んな星の形やデザインしたキーホルダーが7種類ほどなんですが……」
「えっ、これスゴく欲しい! ねぇ、私にもちょーだい!」
「いや、大人にはあげない決まりになってるので……ほら、そこに赤のラインを引くくらいなので、絶対ダメです 」
僕がメニューの赤いラインをなぞると、彼女は不服そうに頬を膨らませた。
「やだやだやだやだやだやだやだ!」
小野寺さんは机の上を小刻みに両手で叩く。大人が駄々をこねるとたちが悪い……
「わかりました! もし、今月中に捌けなかったら……残ってるヤツあげるんで……」
「え、でも残るの? もし、無くなったら……」
「いや、まぁウチは基本あんまり子供がくるような所じゃないし。それと沢山届いちゃったんで、たぶん……余ります……」
最後の方は自信がなかったので言葉が消えそうになり、顔を背けた……
「ほんと?」
僕は噓がばれそうな気がしたので、背けたまま、
「ほんとです……」
「わかった!」
と小野寺さんは朗らかな笑顔になり、機嫌を直してくれた。
それから彼女は首をかしげ、
「そう、二点目なんだが……そう言えば 」
と言い人差し指と中指と親指を立てて、店の奥のテーブルの方に手をかざした。
「あの子のお母さんは?」
「あぁ、あの子のお母さんは近くの病院に行ってます。来はじめた頃は病院終わりに来てたんですが、最近は病院で説明や支払いとかで飽きちゃうみたいで……で、二週間前くらいから、先に店に来てゆっくりしてます。 まぁ、うちの店長が良い人なので……『ぜんぜん気にしないでください! 顔馴染みの常連さんだから、お子さん預けていってください! な! みんな!!』って感じです。最初はおとなしいかったんですが……最近では僕にだけ…………」
「おい! ネズミ!」
小野寺さんは驚いて、回りを見回す。
「あっ、違います 」
僕は彼女のいつもの事に慣れているので、小野寺さんの反応に断りだけいれた。
「セイカちゃん……ネズミって言わないで。ここ喫茶店だから、周りのお客さんが驚いちゃうから……」
ピンクベージュのパーカー。青色ベースの白の星がデザインされているスカート。トリコロールカラーのスニーカーを身に付けた少女セイカちゃんは、僕たちの方に近づいてきた。
「ネズミはネズミだもん 」
小野寺さんは理解できず、不思議そうに僕の方を見る。
「あぁ、僕がその『ネズミ』なんです 」
「少年、君、ネズミって呼ばれてるのかい? なんで?」
「えっと、最初は『うさぎ』って呼ばれてたんです。理由は僕、ちょっと出っ歯で……接客業だから笑顔って大切じゃないですか……それで、より歯が際立つので…………それと、僕が出勤する時の姿をセイカちゃんがいつも見てて、そのせかせかして腕時計を見て気にしている姿が『不思議の国のアリス』に出てくるウサギに似ているって、なったみたいです 」
「ほう、なるほど……で、それから何でネズミになったんだい?」
「いや……後日たまたま、夜……店の前にゴミを捨てたんです。その後、問い合わせがありまして、あるお客さんが仕事に大切な資料を忘れたという問い合わせがありまして……もしかして、出したゴミの中に紛れ混んでるかもってなり……それで店前で……その資料をゴミの中から探してる姿をセイカちゃんとお母さんに見られたんです 」
「あれ、結局資料は?」
「あぁ、どうやらお客さんの鞄の底でグシャグシャになって見つかったて、連絡がありました。 まぁ、そんな事より……次の日、セイカちゃんが『お前はウサギみたいに可愛くないし、ゴミ漁ってたから、ネズミだ』って言われ……そして、今にいたります……」
小野寺さんを見ると肩を震わしている……よく見ると、悦に入っているようだ。
「ふっ、ふふふ……ネズミか……まぁ、ネズミも可愛いから良いんじゃないか……ぶっふふ…………私は好きだよネズミ。ふっ……」
「いや、そう言われても嬉しくないですよ。毎回お客さんも驚くし、まぁ子供が言うことなんで……って感じで許しては貰ってますが……不幸中の幸い、それを言うときはお客さんが少ない時なんで助かってますけど……」
セイカちゃんは僕たちのそんなやり取りに飽きて、足先をパタパタと動かしてる。
「ねぇ! ネズミ! いつもの!」
「ハイハイ。いつものね……すぐ持ってくるから……」
僕は店の奥に行き、例の銀色の小さな袋を持ってきた。
「今日は別のが入ってる?」
「いや、僕は中身わからないから……」
「使えないなぁ 」
セイカちゃんは当たり前の様に袋を受け取り、すぐに中身を確認した。
「やったー!」
セイカちゃんはさっきと表情を変え喜んでいる。
「それで、あと何種類で全部揃うの 」
「あと2種類!」
目の前の少女は無邪気に笑い僕に向けて、手でピースを作った。
すると片側から熱視線。小野寺さんが羨ましそうに見てる。
「君……セイカちゃんと言ったかな 」
セイカちゃんは急に怪しそうな大人から話しかけられビクッとした。
「なっ、何?」
「君もしかして、そのキーホルダーたくさん持ってるのかい 」
セイカちゃんはその問いに黙ってゆっくり頷く。
「もしかして、同じものを何個か持っているのかい?」
「うん……」
「もし良かったら、余ってるヤツくれないか?」
「はぁ! ちょっと、小野寺さん!?」
セイカちゃんは見知らぬ大人からの提案に、固まりながらも考えている。
「えっ、でも知らない人と関わっちゃだめってお母さんが言ってた……」
「何を言っている、私たちはこうやって知り合ったじゃないか……それと私は、このネズミの飼い主だよ!」
なんか、ナンパの常套句みたいなの言ってる……というか、
「えっ! 何言ってるんですか! 小野寺さん! かっ、飼い主?!」
「まぁまぁ! という事で私は君にとっての………うん、友人だよ!」
そんな無茶苦茶な……
「お姉ちゃんは……どういう人?」
「私は魔女と呼ばれている。そして、私に対価を払ってくれたら魔法をかけてあげよう 」
「えっ……『たいか』……?」
「まぁ、簡単に言えば、私に、いらないキーホルダーをくれたらって、事だね 」
「本当に魔法をかけてくれるの?」
純粋な女の子の濁りのない眼に見つめられ、小野寺さんは少しの罪悪との合間に挟まれ考えた。
「うん、まぁ……よし! 君が望んだ時に、君をお姫様に変身させる魔法かけて、あ・げ・る!」
「えっ、ほんと?」
セイカちゃんは驚いた後、予想もしない事に徐々にワクワクし始めた。そして小野寺さんは胸を張り、丸めた拳で胸を叩く。
「魔女に任せなさい! あっ、でも、魔女は普段、人を幸せにするので忙しいので……」
そう言うと僕の方に掌をかざして、
「このネズミを通じて対価を払って貰おう。もしくは………………私もたまに、この時間! この場所に来よう!! その方が秘密っぽくて良いだろう 」
彼女は少女に目線を合わせるため屈み、右人差し指を自身の唇に当てウインクをした。
その対応にセイカちゃんは無邪気に笑う。
「うん!」
少女は満足したらしく、大きく頷いた。そう、魔女は小さな少女を手玉にとったのだ。
小野寺さん……なんか、詐欺師みたいですよ……こうやって犯罪は増えるんだろうと思った、今日この頃…………
そして数日が経った。
セイカちゃんは週に何回か来ている。基本は僕に『対価』のキーホルダーを渡す。もしくは小野寺さんは僕から、セイカちゃんが来る曜日を聞き、行けそうな日があれば、店に顔を出す。
二人が会った日は楽しそうに話している。
たとえば、ごく普通の会話から他に「どんな魔法が使えるの?」とか「どこから来たの?」とか変わった事も質問している。
小野寺さんの方も、ノリノリにリップサービスで目の前の少女を楽しませている。まるで年の離れた姉妹のようにも見えない事はない。
そして別の日、小野寺さんがいない日。
セイカちゃんに聞いてみたい事があったので聞いてみた。
「そういえば、セイカちゃんはなんでその星のキーホルダー集めてるの?」
そう聞くとセイカちゃんは当たり前のように答えた。
「えっ、ネズミ知らないの? 昔パパが見てた漫画で星が刻まれてる玉を7つ集めると神様が出てきて願いを叶えてくれるんだよ。あと、パパはスーパーヤサイ人 」
それ、どっかの少年誌の漫画! えっ、パパ、スーパーヤサイ人!?
僕はそんな少女の本気かボケか、わからない話に動揺した。
だが、玉とキーホルダーでは全然違いがある。
「そっかー、そうなんだ……でも、このキーホルダー玉の形じゃないじゃん 」
などとついつい意地悪な事を言ってしまった。
でもセイカちゃんは……
「うん、知ってる。でも、もしかしたら、願いが叶うかもしれないじゃん 」
と少し不満気に答え……それから、真剣な顔で、
「私は叶うチャンスがあるなら、何でもやりたい!」
と言いきった。
まるでその顔は少女からは考えられない。覚悟のある大人の顔だった。
「それに、叶わなくても……保険でもしかしたら、対価を払って魔女が叶えてくれるかもしれないし!」
彼女は手に持つキーホルダーをしっかりと握る。僕はその反応に、ちゃっかりしてるなぁっと思った。
そして数時間後、セイカちゃんのお母さんが迎えに来た。
「すいません、いつも……」
「いえいえ、大丈夫ですよ!」
「ほら、セイカもお礼を言って、ほら!」
お母さんに急かされ、セイカちゃんは渋々、
「ありがとう……」
と言って先に店の外に出て、店のドアの前で待っている。
「すいません。あの子、いつもあんな子じゃないんですが…… どうしても、ネズっ、あっいえ、佐藤さんにはワガママな態度を取ってしまうんです 」
お母さん、今、ネズミって言おうとした……
「いえいえ、気にしてないので……ちなみにセイカちゃん、僕以外にワガママっ言ってる人とかって、いるんですか?」
「えぇっと、ワガママというか、納得してないというか……あの子、2月21日が誕生日でケーキを特注で頼もうと思ったんですが……ケーキじゃなく、和菓子がいいって言われて……それも星をデザインしたのが良いと言ったので……今、和菓子屋さんに特注してるんですが、なかなか納得してくれなくて……」
「えっ、和菓子屋さんですか……?」
まっ……まさかなぁ…………
「あっ、それウチだね 」
後日、一月の下旬の学校のある日。放課後……まさかと思い、一条くんに聞いたら、そのまさかだった。
「セイカちゃん、なかなか納得してくれなくて、何回も作り直してるんだ。いつもセイカちゃん、お母さんと来てくれるんだけど、毎回一言『違う!』で終わっちゃうんだよね……」
「一条くんとこも大変だね……お金とかは?」
「いや、そこはセイカちゃんのお母さんが、その都度『料金払います』って言ってくれるんだけど、ウチの父が職人気質で……『お客様が納得してないものにお金を貰うわけにはいかない!』って言って、受け取らないんだよね……」
「お父さん、頑固そうだもんね……」
「まぁ、父の気持ちもわかるし、セイカちゃんの気持ちもわかるからね……」
「えっ、どういう事?」
「二人は作りたいものと欲しいものを探っているんだよ。まぁ、父も『修行時代を思い出す!!』って燃えて楽しんでるから、いいかなぁ。まぁ、僕もそれで和菓子づくりの勉強になるから 」
「やっぱり、将来は和菓子職人になりたいの?」
「まだ、わからないかなぁ。父は大学には行けって言ってくれてるけどね。『お前のやりたいようにやれ』って言われてる……かなぁ。そういう佐藤くんは?」
「僕は……」
僕は顔を下げ、少し考え黙りこむ……
未来と……可能性…………
一条くんはそんな僕の様子が心配になり覗きこもうとしたが、咄嗟に笑顔を作り、
「うん、まだわからないや!」
そう答えて、バイトがあると言って急いで帰った。
僕は時計を見ながら急ぐ、時は誰しも平等に進む。
カチ、カチ、カチ、カチ。
如何だったでしょうか?
視点は小さな女の子でした。
僕のなかでのセイカちゃんは8才~10才くらいのイメージの元気な子のイメージで描きました。
伝わり面い所もありますが楽しんで頂ければ幸いです!