25 キラーチューンに……
本当に約一年ぶりほどの投稿になりました。えっと、今回はプロローグです。それと久々の投稿で内容が伝わりづらかったり、より読みづらいかもです。
それも全然関係ない人物からスタートになります。プロローグなのに知らない人物スタート、長い、内容もちょっと下世話……こんなスタートですが、久々に読んでいって頂ければ幸いです。
それとは別でM-1面白かったですね~……ではどうぞ!
4月下旬、俺は引っ越しの準備に追われていた。
思ったより気温は上昇し、白のTシャツに軽く汗が滲む。できるだけエアコンをつけるのは勿体なく、窓を全開にする。
8年住んだ家賃4万1000円、5畳ユニットバス付一階のこの部屋、木造建築のアパートとも、おさらば。
最近は収入も安定し、現在の相場でよく聞くサラリーマン(年収250万~300万くらい)よりは貰えている。
下克上を狙い、攻めに攻めたあの頃の貯金を無駄遣いしなかったおかげで、漸く引っ越しを決めたのだ。
30歳……人生において区切りや今後の目処をたてたり、ケジメをつける歳だろう。
この狭い部屋には色んな仲間たちとの思い出が残っている。大の大人が熱い中ぎゅうぎゅうでくだらない話で盛り上がったのも……一緒にゲームをやって白熱したのも……酒を飲みながらしっとり語り合ったのも……頭をくしゃくしゃしながら、パソコンに向かい合った日々も。
ただ……次に引っ越す部屋ではそんなことはないんだろうと思う。そんなことがあったとしても、彼女を家に招くくらいだろう。
彼女が……もし俺を見放したとしたら……寂しい時は都合のいい女を呼ぶくらいだろう。
そんな事を考えながら本棚の本をダンボールに積めていく。
「この小説面白かったよな」「この小説はあまり好きではなかったけどお洒落だったよな」「この小説は胸くそ悪いけど最後まで読んじゃったよな」っと一つ一つに感想をボソッと述べてしまう。
一番下の段だけになり、何冊か本を引き抜いていくと……パサッと何か軽いものが落ちる音がした。
んっ? ノート?
埃を被ってたノートを掴みじっと見る。
あっあぁ、懐かしい。高校の頃の日記帳か。
埃がまとわり、謎のシミがついたノートを捲る。すると見返しの部分に赤いボールペンらしきもので書かれてる字に目がいった。
《将来の近藤隆行へ。そして天才な僕たちへ。10月21日の文化祭で学生や先生たちから嫌われモノの僕たちが爆笑を勝ち取った。嫌われモノだった僕たちへ……だからこのノートに書くのはやめる事にした。次のステージにいくために新しいノートにネタを書き続ける。だけど、将来の僕へ……僕たちの伝説はここから始まったんや。『四季』、これが僕らの名前。もし悩んだり困ったら原点へ戻って、そしてもう一度あの伝説の日まで書かれたこのノートを読み返して欲しい》
そう書き連ねてあった。今思うと、なんてクソダサい事が書いてあるんだろう。中2病がはだはだしい。そうか、今から13年前くらいだっけ……あの最初の舞台……
ペラっ……
そして、俺は幾つかページを捲った。
だいたい大まかにページを見ていると……あぁこんな感じだったけ? この時はこうだっけ?…… そんな感じにペラペラッと時が過ぎていく。
ページを捲る度に、開いた窓から風が吹いている気がした。
ペラっ
父親の仕事の都合で千葉に来てから友達なんてものはできない。三重では、なんでも面白可笑しく過ごしていたけど、こっちの人たちは関西弁なんか使わんし、なんか気取ってるカンジのしゃべりで……愛嬌というものが無い気がした。
いや……当時の俺の方が……人を偏見的で決めつけの多い奴やったんやろ。
ペラッペラッ、ペラペラペラペラペラペラペラペラペラペラッ……
今日から日記を書くことにした。
ただ挨拶の時、普通に名前と好きなもんを言ったら「関西弁だ、やばっ! おもしろいことやってよ!」っと馬鹿にしたように言われた。少し考えながら躊躇してると先生に流される。その後にクラスの奴一人が大声で僕の関西弁と声のトーンを真似し始めた。
それがすごく腹が立だしい。知らん奴らにいじられるのがムカつく。
休み時間クラスの連中に話しかけられる。だが、さっきの僕いじりが頭で過り素直に対応できず一言で返す。その態度に向こう側もつまらなそうな顔をして、去っていった。
こんな……ど素人の面白無い奴らと喋っても得が無いし、まっすぐにオモロイ事を向き合ってる方が『かっこいい』っと思う。所詮、茶化す様な雛壇にも満たんアホな奴ら……僕はストイックに素人とは絡まず、学校の授業以外は『ネタ』について考えよう。
中学三年生。初めてクラスの中で気になる奴を見つけた。
彼の名前は『高橋くん』。陽キャのグループで、先頭きって馬鹿な事をやっていた。僕が観察してる限り明らかに会話が成り立っていない時がある。相手の話を聞いていないみたいだ。それでも彼はそのグループにくっつきたいらしく毎回ダル絡みをしている。
一見、僕が嫌いなタイプではある。だがそんな彼には面白い所がある。
それは誰にも頼まれてないのに毎回、清涼菓子のドライハードを2つくらい一気に口に含む。そして、何処からともなく溶けかけのアイスキャンディーや炭酸飲料を何本食べれるか飲めるかの無謀な挑戦をしたりする。
「今日は何本いけた」「今回は新記録だ」……ホント誰も求めてないけど注目を集めたい様子だった。
他にも、ずっと拡散するように大声で唸っている。決まってこうだ。
「彼女が欲しい~! あぁ、欲しいわ~!」
そんな彼は女子に対して、トイレから戻って来たときに「大丈夫っすか? 辛くないっすか?」と話しかける。何が大丈夫なのかよくわからないし、女子たちは気持ち悪そうに苦笑いして席につく。
あとは明らかに男子には触らしたくないだろう小さなポーチを持っている女子に近づき「よかったら荷物、持つよ!?」と話しかけている。もちろん女子は顔をひきつりながら断ったり、無視したりする。
ある時は、先生に強めに注意された時に言い返す言葉が「なんでっすか?!」を何度も繰り返し、先生が言い返そうとしても間髪いれず何度も「なんでっすか?!」っと大声で繰り返す。そんな態度の生徒に対して先生もキレて机を叩くと……「あっ出た! 体罰っすね!」と言ってしまう。
普通の人なら、少し考えたらそんな行動はしないだろう。だが考えずに行動してしまう彼に僕はついつい目が離せない。そんな逸脱した彼がまるで神から使わされた変態的な救世主に感じる。
そんな、まるで小物なのに純粋悪の彼に僕はこう思うのだ。『さすが高橋くん、僕にできない事を平然とやってのける。そこにシビれる!あこがれるっ!』っと。
そして誰と問わず、鋭く早く身を乗りだしいうスタイルはツッコミでは必要だと僕は思った。いや……その変態的にイカれた人格はボケとしても光っている
それに反して僕は無表情か、寝てるか。ボッチでいるのが恥ずかしいから寝てるフリをしている。周りにかわいそうな奴……そう思われているだろう。
だがそんな鬱々とした日々、僕の妄想が止まらない。
例えば、クラスの奴らが僕に喧嘩を売り、僕がワンパンで相手を仕留めて情けなく泣きじゃくる。そして僕が「お前ら、ただ普段いきってるだけじゃん。くそださいわっ!」って言い放つ姿。
普段、僕の事を下にみてるクラスの超綺麗な白ギャルが急に僕に抱きつかれ、女の顔になり「おーっと、大切な行為はお預けだぜっ」と、僕に言われる身体を捩らせる姿。
はたまた、急に隕石が堕ちてきて僕だけ生き残りそこから世界各地を周り冒険が始まる姿。
等々僕の妄想は止まらない。そんなくだらないそれらが僕のお笑いとしてのネタになる。そして咄嗟に起き上がりノートに向かニヤニヤしながらネタをつらつら連ねる。
「ぅわ! キモっ! 近藤また、ニヤニヤしてるわ……」
「おい、聞こえるぞ」
「別にいいじゃん、実際キモいんだから、事実事実」
「いじめとか言われたら、やべぇって、女子に引かれるし……」
聞こえるか聞こえないかその様な声が聞こえた。
いや、女にモテようとして必死こいてチャラチャラしてる奴の方がキモいわ。死ね死ね。
ギギ! パサッ
「あぁ……」
怨み節を込めていた僕は、声を空気の様に漏らした。急に机がズレ、ノートが落ちる。
ギャルっぽい女子たちが机に当たってから無視して笑う。それから教室外に出てからも大声で笑っている。
「やべ、『コンドーム』の机に当たっちゃった。変な菌か病気が移る」
「あいつ、ゴムだから予防する方だろ」
「破れてんだよ。見た目から~」
はっ、お前らなんてションベン臭い売女だろうが。どうせそこら辺の汚ねぇおっさんか、しょうもない男と援交してやりまくってんだろが。デキ婚でもして将来地獄に堕ちろ。
僕はお前ら何かより、絶対いい女捕まえて、好きなことで金稼いだる。
ペラっペラっ
そんな心の中で息巻いている僕も高校に入学。偏差値38。
結局インフルエンザのせいで志望校の受験に失敗した……まわりは馬鹿しかいない。
だが奇跡的にmessenger of godこと高橋くんも同じ高校、同じクラス。
それでも僕は帰宅部、変人の彼は軽音部……人生において天と地の差だ。
ペラっペラっ
5月のオリエンテーションで3泊4日の施設で泊まることになった。
僕はどのグループからもハブられ、奇跡的にじゃんけんに負けた高橋くんのグループに入ることになった。
5人部屋で僕は他の奴らを気にせず、いつも通りネタを書いている。すると彼から初めてちゃんと話かけられた。
「近藤さ、おまえいつもノートに何書いてんの?」
僕にとっては神と言ってもいいくらい、頭のおかしい男に話しかけられ舞い上がってしまう。
「えっ、あ、こここれは……」
僕は言葉がすんなりとでない。そう、東京に来てから同年代のやつらとは話さなかったからか、相手にどのような言葉遣いでどのような返しをすればいいのかわからなくなってしまっていた。
最近、誰かと話そうとすると口は思い通りに動かず、勝手に一単語目を数回続いてしまう。そんな様子に相手は僕のコトを『気持ち悪い』と冷淡な目線を送るのだ。
『吃り』……高校に入ってから出るようになった。
日に日に酷くなり本やネットで調べ、色々試したが直らない。
そして現在も、ただただ言葉が詰まってしまう。やはり無難な会話ができる自身がなく「あぁぁぁ……」っと漏らす。
だが、ふと過ったのが『お笑い』に関して……彼の趣味趣向を聞いてみたいと思ったのだ。
「たたたた高橋くんは、お笑いとか好き?」
思った以上に言葉がつまる。短いながら言い終わった言葉の後、心臓がドキドキしている。まるで好きな女の子とチークダンスをしている様に舞い上がってしまう。
「えっ、まぁ、やってたら観るけど」
「そそそそっか……」
「だから何、そのノート?」
「えっあ、いい一応……」
「もう、いいや! 言わなくていいわ」
「ねっ、ね、たぁ……うう恨みノート!」
「へぇっ!」
ボケかガチかわからないワードを聞き、彼は大声をあげた。目も合わせられず、急にそう言われ引いてる。ツッコミ待ちをしたがその空気感に耐えきれず、僕は高橋くんに取り繕った。そう所詮僕らは、ずぶの素人。
「うう嘘、嘘。違うんだ。ホントはネタ帳……」
「ネタ帳?」
「うん」
「ネタ帳って芸人とかの?」
「そそそう」
「へぇ~」
そこで彼は、僕への興味が薄れたのか他の奴の所へ行った。
それから数日たち、彼はどうやら僕の事でクラスのヤツとも盛り上がっているようだ。
悪口かと思いきや、聞こえてきたワードが「あいつ、スゴいよな~」っと彼が言っていた。そういう風に聞こえた気がした。
ペラっペラっ
オリエンテーションが終わって、いつもの学校生活。彼はグループの奴たちに向かって馬鹿な事をやっているのを僕はジーッと見てしまう。彼は僕と目が合うとすぐに逸らし、そそくさと体ごと方向を変えたりする。
そういう事が増え、ある日トイレでたまたま彼の隣に並んだ。
「あのさ」
「ああっあ……」
彼の出してるものが便器に打ち響く音が響く。
「何で俺見てんの?」
「べっ、べつに……」
「何だよ、つれない女子かよ!」
「たたた高橋くん、そこはツンデレかよっの方が今、時代のワードっぽいし、切れ味あるよ」
「んなの、どうでもいいよ。それよりなんで見てんだ? 俺だってあんな見られるとボケづらいわ」
「ちゃ、ちゃうねん」
少し強めで言われ、僕は高校に入ってから初めて関西弁が出た。
「た、高橋くんがやってるのボケでもないと思う。あれは、わ悪ふざけやし、オモロない」
そう言うと、気に障ったかもっと思ったが彼は天を見つめ唸る。
「んじゃ、ボケってどうやるんだよ?」
「あああぁ」
「いや、『あああぁ』じゃねぇよ」
「それは、ぼっ僕の吃りを真似て馬鹿にしてるから、いじり、いや、いじめ、だね」
「揚げ足とんな、というか『吃り』ってなんだよ。病気だろ」
「びょっ、病気ではないよ。それすごく失礼だからね。『吃り』は常識の範疇だから知っといた方がいいよ。それと還来地『揚げ足』とは……」
「うるさい、うるさい、うるさい」
そう言った後、沈黙になった。
「というか、俺たちションベンする姿勢長くね」
「も、ももうええわ」
「漫才じゃないわ」
その後すっと教室へ、僕たちは別々に戻った。
ペラっ、ペラっ
二年生に上がった。また高橋くんと同じクラスになる。
彼は軽音部だったが同じ部内の女の子に告白したが振られたがしつこくその相手の女の子に話し掛け、恐くなった女の子は先輩と顧問に相談した……結果、彼が部活を辞める事に至った。そんな中彼は聞かれてもないのに「所詮部活だし、俺は個人で音楽をやる!」っと息巻いていた。そして相も変わらず、クラスの女子に突っかかっている……「やっぱり女子はいい匂いするなっ」とか「大丈夫っ? 手、白いよ。温めてあげようか?」……など、前より酷く女子に執着してるように見えた。
彼は本当に……本格的に嫌われる様になっていく。その様は天才か怪物の可能性を秘めていた。
ペラっ
そして今、文化祭の演し物が議題になる。クラスとしての演し物は決まるが体育館での今年度の各個人や部活の演し物が少なく、各クラスで1組は絶対に選出しないと行けなくなりクラスでの話し合いが終わらない。
それぞれ、「めんどくせー」「そんなの恥ずかしい」「早く誰かやれよ」みたいな事を言い続ける。担任はため息をつき、「良い案ないですか?」を数分に何度か言っている。僕は気にせずネタ帳を書いていた。
「あーーー!」
クラスの1人が大声を上げ、僕の方に指を差す。
その声で驚き、落としそうになったペンをギュッと握り、反対の手でノートを押さえて固まった。
「コンドーくんが良いと思う! コンドーくんお笑いのネタ書くの好きらしいから、なんか面白い事やってくれるよね……」
「近藤か……」
「あっ、それいいかも……」
クラスの連中も一人一人声をあげていく。先生も纏まりそうになる空気感に期待の目を僕に向ける。
「みんな、こう言っているけど……どうなの? 近藤くん?」
先生がまるで決め打つように、全員の意見を僕に向けた。
だが、こちらはたまったものではない。それこそ全校生徒の前で恥を晒せと言われているものだ。それに僕の大切なネタをこんな所で披露するわけにはいかない。なんとか断る口実を考えるが思い付かない。
「えっ、ああぁ、えっと……ぼぼぼぼ」
高橋くんが言った、いわゆる病気がまた始まってしまった。
「近藤いつも何か書いてある事やれよ!」
「わたし見た~い!」
「近っ藤! 近っ藤!……」
パチッ! パチッ! パチッ!
1人がコールの様に手を叩き、それがどんどん広まっていく。
『近っ藤!! 近っ藤!! 近っ藤!!』
「こら! 騒ぐのをやめなさい!!」
先生にそう言われ、一瞬静かになる。
「近藤くんがやりたいか、やりたくないかだと思うんだけど……近藤くんにとってチャンスだと思うんだよ、先生的に……みんなも期待してるし……」
僕は、ふとっ『期待』ってなんだと思った。
1人を吊し上げての生け贄じゃん。もうクラス公認の静かないじめ。
僕はとっさに素早く回りを見回す。クラスの奴らは怪訝そうな顔でこちらを見た。斜め後ろの高橋くんと目があったが申し訳無さそうに顔を下に向ける。
「ぼっ僕……」
「なに?」
先生の優しい風な返答だが、目が笑っていない。先生もこの議題を先伸ばしたくないからだろう。
「僕のか、かかか書いてるの、主に……まんまん漫才のネタなんです」
言葉のイントネーションが関西風な事にクラスの奴らが「近藤が関西弁だ」「エセかな」「今からお笑い感だしてる」等々、小さくどよめきだした。
僕の期待と裏腹に吊し上げられていく感覚が伝わる。僕をくくりつけたロープは先生が引っ張り、大衆がその見世物を嘲笑する。その黒い影達は赤い目と赤い口をニンマリと広げ嗤う。
だったら……僕1人をつるし上げさせない。一緒に地獄に落ちて貰わないと気が済まない。
「ひと、ひとり……1人やとできひん」
そう僕が言った瞬間に、クラスの奴ら全員が固まる。もしかしたら目の前の見世物の様に、次は自分も一緒に吊し上げられるからだ。今度はゆっくりと回りを見渡す。回りの奴らは目が合うと逸らしたり思いっきり手を振り拒絶する。また人によっては身体ごと背ける。
クラスの奴らが僕に恐怖するこの時間がとても興奮する。この時この瞬間、僕は誰かの価値を殺すことができる。因果応報で苦しませるのはとても愉快だった。
だが、高橋くんだけは徹頭徹尾変わらない態度。その姿に僕はなぜか高揚し、後光がさしてる気がした。
旅は道連れ、世は情け。一緒に地獄を巡るなら光を照らす傍若無人に奇々怪々な神の使いと……そう、漫才をやるならこの人と思った瞬間だ。
「それじゃ、どうする? 相方の人。めぼしい人いる? あみだくじで決める?」
先生は痺れを切らし、もう一度僕に言葉を投げ掛けた。僕の言葉は決まっている。
「ぼっ、僕はた、たたた高橋くんがいいです!」
「えっ!!!」
もちろんそう言われると、高橋くんは独特の濁った声を上げる。
そして周りのやつらは、張り詰めた空気感からすこし緩みながらも睨み付けながら笑みを溢した。
その姿を魚に例えるとしたらピラニアだろう。
パチパチと……いや、バシャバシャと水を打つ汚い音が広がる。
そして、それが波紋のようにまた一つ二つと広がった。
「それじゃ高橋くん、よろしくね」
「はっ、はい……」
先生にそう言われ断れず、渋々OKする彼……愚鈍な僕たち二人は、まな板の鯉だろう。
放課後、高橋くんが友達だと思っている奴ら何人かが、彼の肩を叩く。「まぁ、がんばれよ!」「暇だし、ちょうどよかったんじゃね?」と言われいた。嘲笑い去る姿は明らかに友達ではない。厄介者に厄介者を押し付けていると……第三者ならそう思うだろう。
だが彼は、そんな事お構いなしに「おう、まかせろ!! 後でな!」と無邪気に手を振った。そんな与太郎な彼が哀れに感じる。
僕なら彼の唯一無二の友人になれるだろう、そう思った。
そして高橋くんと机を合わせて打ち合わせ……いや、ネタ合わせとなった。初のネタ会わせに緊張し言葉がでない。何から議題に出すか思い付かないのだ。彼はじっーと目を丸くして僕を見つめた。
「なぁ近藤? なんで俺を選んだん?」
理由は多々あるも、ただシンプルにあった言葉が漏れた。
「えっと、うんと、たっ高橋くんが……いっ一番、僕に話しかけれくれたから……」
「いや、言ってもこの一年半の間で……俺からだと5回も満たないけど……えっおまえ、そんなに話しかけられてないの?」
「うん」
「おまえ、辛くないの?」
「べ、べつに……別に寂しくないんだからね……」
彼と話していたら、自然と身体が動き高い声がで甘える動作が出た。学校という場所でボケる事ができた瞬間。その僕の仕草に彼は躊躇し固まる。
「高橋くん、今のこそ、『ツンデレ』かってツッコミ使えるから」
「えっ、あぁ……『ツンデレ』か!」
「あと、切れをだしてね」
「あっぁぁ……」
「そっ、それじゃ高橋くんは、どういうお笑いが好き?……」
それから、お互いのお笑いに対する話が始まった。
もちろん、前に聞いたどおり彼はテレビでやってれば見る程度だった。そんな彼に僕のどれだけお笑いが好きか熱弁を振るう。
漫才、コント、ピンネタ、バラエティー、大喜利、ラジオ。だが彼は適当に頷くばかり。
ただ、確実に言えるのは……お笑いを語りだした僕には『吃り』の兆候は出なかった。
そして、どのような漫才にしたいか構想を練る。
スタンダード、ダブルボケ、漫才コント……だが彼には理解が追い付かない。とにかくスタンダードな漫才コントに決めた。
ペラッ、ペラッ。
ある日、高橋くんをネタ合わせのため、僕の家に呼んだ。
彼は物珍しそうにキョロキョロしている。
部屋には昔から集めてる漫画、図鑑に小説。棚にVHSにお笑いのタイトルが張られたものとDVDがびっしり、そして机の上に大きめなパソコン。
僕にとってはネタ作りの材料。
「めっちゃ良い部屋だな……それにすげぇお笑いだらけ……それにいいなぁ……パソコン」
彼はパソコンに食い付き、近寄り凝視している。彼は大きなため息を出した。
「まぁ……パっパソコンは親が中学の半ばで誕生日に買ってくれたんだ。親には感謝してるけど……それより、ほほほほら、見て見て欲しいのはお笑いのビデオだよ。いつもいつも頑張って録画したんだ」
「へぇ~」
彼はお笑いのVHSに目を向けるが興味が沸かないみたいで、やはりパソコンの方が気になってしまうようだ。
「なぁ、このパソコンでエロいの観てんの?」
「ちっちがうよ!」
「いや、嘘つくなよ。パソコンあったら無修正とか観れんだろ。なぁ見せてくれよ」
「だから、そういう目的では使ってないって」
「いや、ぜったい嘘だ」
どうしても無修正の動画を観たいようだが、実際に僕はそのような用途で使用した事がない。履歴が残ったのを観られたり、ウィルス感染が恐いから得策では無いと思っている。
だが……彼の愚鈍にも真っ直ぐな目に負けて、何使用なのかを告げることを決めた。
「わっわわわ……わかったよ」
そういうとパソコンを起動し、あるサイトを開いた。
「えっ……ヌコヌコ動画?」
「うっうん……」
「なに……ここにエロイのupされてんの?」
「ち、違うよ」
「んじゃ、何?」
僕はログインをして動画の一覧を出した。
「何これ?」
「ぼっ僕……じじ、実は動画をupしてんだ」
「ウソだろ!?」
クラスでは基本喋らず、話しかけられると病気で喋れないヤツが?っと思っているだろう。
彼はただジーッと見ている。そんな熱い視線に恥ずかしく目を合わせられない。
「んじゃ、なんの動画あげてんの?」
「きっ基本はお気に入りの漫才コンビの評論を……あとは、最近のお気に入りのものを詳しく……」
「ちょっと動画再生しろよ」
「えっ、ちょっと……」
「んじゃ、やっぱりウソなんだ」
「うっウソじゃない」
「なら、見せろよ」
彼に必死に問い詰められ、僕の中の自己表現を観て欲しいと思ったのだ。きっと彼なら『面白い奴』だと思うと感じたからだ。
「わっわかったよ」
そう言って、動画を再生する。
画面には、太い黒縁の眼鏡をかけオールバック、白いシャツに紺のジャケットを羽織った僕が映し出される。
『どぅもーー! 元気バリバリ、コンドルでぃす! よろしゅーー! おにゃーしゃーす!!』
登場から決めギャグを決めポーズを披露した。そのアクティブな動きから同一人物と思えないようで彼は何度も画面と僕を見返す……というか、まじ誰だよ! えっウソだろ違い過ぎんだろ! っと心の中で突っ込んでいそうな表情だ。
動画での僕はつっかえる事なく饒舌に関西弁らしいもので話している。
「おまえ、病気出てない……」
「た、高橋くん、あんまり病気、病気って言わんといて欲しいんやけど?」
「あぁ、ごめん……それと関西弁?」
そう言われて、ついつい現在自身から関西弁が出たことに驚く。
「あっ、えっと、僕……小学生4年生まで、三重県に住んでて……親の転勤とかで。そ、それで此方に引っ越してきた時に関西弁で話してたら、いじられるようになって……直そうとしたら、うまい事喋られへんようになって……」
そう、聞かされて反応しずらいようだ。そして高橋くんはパソコンの方に目をやる。
「ヌコ動の視聴者は、学校での僕の事知らんし、関西弁で話しててもここで観てる人たちは『オモロイ奴』やな……くらいやし、もちろんたまにヒドイ事言うヤツおるけど、無視するかオモロイ事に変えたればええし……僕、実はこう見えて、キレる時はキレるし」
「へぇ~以外……なぁ、おまえ関西弁だったら普通に喋れるんじゃない?」
「ふつう?……普段の生活の方はわからんかな」
彼にそう言われ、ふと疑問に思った。もし……普段の学校生活を『関西弁』で過ごしたら……僕の吃りは消えるの
だろうか。
コンッコン!
「入っていい?」
「どーぞ」
ドアが開き、母さんが入ってきた。母さんは自分で言うのはあれやけども上品で歳のわりに若いと思う。タイトスカートに白のブラウス……大体はこの格好が多い。そして高橋くんと目が合うと微笑んだ。
「こんにちは 」
「こっこここ、こんにちは!」
微笑みかけられ、ついつい僕みたいに言葉が詰まっている。彼はちらりと母さんを見ては目を伏せそれを繰り返す。
「道治と仲良くしていただきありがとうございます」
「いっいえいえ」
「この子、三重にいた頃はすごく明るくて、こっちに来てから大人しくなったんですよ。昔は人を笑わせるのが好きで~」
「おかん、 やめてや! 」
「あら、普段『おかん』なんて言わへんのに、お友達がいるから恥ずかしがって……」
そんな風なやり取りの中、高橋くんは母さんを凝視している。その目線の先は母さんの胸元……キャミソールを着る習慣が無い母は白いブラウスから下着が透けている。それにともない胸元もボタンがギリギリに空いているのでセクシーな装いにも見える。だが流石に実の母がいやらしい目で見られるのは気分が良くない。
「もう! お菓子とジュースありがと!! もうええから」
そう言い、母を部屋の外に追い出した。
そんな母に見とれてニヤケ顔で残念そうにしている高橋くん。彼には貞操というものが改めて欠けている気がした。
それからネタ作り(基本僕が作り彼は横でゲームをしたり、漫画を読んでいる)が終わり、ネタ合わせをして、学園祭本番へと近づいていった。
ネタ合わせで、高橋くんが「おまえ、関西弁の方がいいんじゃね? その方が病気でなさそうだし」っと言われ僕は関西弁でやることになった。
そんな中僕たちは大切な事を忘れている……そう、コンビ名だ。
その事をある夕方、下校中に切り出す。
「どどうする? コンビ名?」
「そんなん適当に、つけりゃいいじゃん。ただの学園祭の演し物だし」
「いっいや、やるならカッコいいながらシンプルで誰にでも覚えて貰える名前がいいじゃない?」
「漫才って、ほんとめんどくさいな~やること多いし」
いや、基本……高橋くんはネタ合わせでセリフ覚えて、僕の演出を受けてるだけやん……僕の方が言葉多いし……っと思った言葉を飲み込んだ。そして彼が歩むのを止め、空を見上げる。
「うわ、赤トンボじゃん。それにちょっと風が冷たくなってきたし……あの赤い空が綺麗だな……」
「ななな何急に詩人っぽい事言ってるの?」
「俺は元々、哲学的な人間で詩人的であるんだよ」
「なんでやねん!」
「いや、なんでやねんってなんでやねん」
そこで間が入り、静まる。きっとこの間を何秒持たせる事で観客に笑いをどっと起こすことができるだろう。そして、次の切り出しが重要だ……まぁ、観客なんて今は誰もいないけど。
「はぁーっ、でも、ホント秋って感じだな。四季の移り変わりって俺好きなんだよ。もしかしたら、この移り変わりなんて、なくなっちゃうかも知れないからさ」
「たっ確かにね……四季か……日本独特だからね……四季……」
「あぁ、四季……」
僕はふとっ『四季』っというワードに電気が走った気がした。そして沸々と熱くなる気がした。
「そそそそ、そうだよ『四季』!」
「あぁ、四季」
「いや、じゃなくて……僕らのコンビ名は『四季』にしよ! シンプルで分かりやすくカッコエエし!」
「そうか?当たり前過ぎて、響くか?」
「いや、これがええと思んよ!」
「というか、お前関西弁めっちゃ出てんな! テンション高いし!」
「ホンマや! 高橋くんのお陰やわ! 」
僕は1人笑い、彼は首をかしげながら歩く。
これが僕らのコンビ、いや『前身』であるコンビの誕生だった。
ベラっ
そして本番。衣装に着替え、体育館のカーテンの裏側で待っている。衣装は二人とも古典的なスーツにした。それに加え僕は太い黒縁の眼鏡と青いネクタイにオールバック、高橋くんは赤いスカーフにくしゃくしゃ髪……見た目は面白いというより、僕たちの中では背伸びしたお洒落で挑むことにした。
僕たちの前のステージの出演者は、高橋くん憎っき軽音部だった。
演奏が終わり会場は盛りに盛り上がっている。演奏を終えた奴らが僕たちを見て、鼻で笑いニヤケながら……「まぁ、頑張れよ。嫌われもの同士」そう言われ、一瞬腹が立った。だが目の前の眩いステージと緊張ですぐに収まった。
ふとっ、高橋くんを見るとカーテンを片手で掴み、下を向いている。きっと緊張してると思い近づき肩をさすった。
彼が振り向くと小指で鼻をほじっていた。
「なに? してんの?!」
「あぁ、本番出る前に鼻くそとっとかないと鼻穴見えたとき恥ずかしいじゃん。あっ! ちょっと待ってろ……」
彼が舞台の裏に一瞬行き、また戻ってきた。
「なっ何してきたん? 」
「あぁ、さっきの奴らムカつくじゃん。楽器に鼻糞着けてきた」
「えぇっ! 」
そのわけのわからない行動力に驚かされたが自然と笑えてきて、緊張が抜け大笑いをした。
「ん、なんだこれ? おい! 何で俺のギターに鼻糞ついてんだ?! 誰だよ!! くそ! あいつらか!! ふざけんな!……」
『さーて、軽音部の演奏とてもよかったですね! 次は今回のダークホース、漫才を披露する……2年3組の高橋くんと近藤くんでコンビ名は【四季】でーす! どうぞ!!』
司会の合図を目処に、裏の怒号に逃げるように表の期待の無い拍手に導かれ、僕は前へ進んだ。
センターマイクにつき、隣を見ると高橋くんがいない。
ダダダダっ!、と高橋くんが走ってきて滑り込む。
「すんませんでした!!!!」
「急になんやねん!! 誰に謝ってんねん!」
「いやっご迷惑お掛けしてる方々に……」
そこで思った以上にお客が沸いた。だがここは完全にアドリブだ……高橋くんが暴走して勝手にやっている。本筋に戻すべき僕は高橋くんを立たせた。
「そんなアホやってないで」
そう言うと、彼は両手の人差し指を上にあげ、何回か上下にしてから右人差し指をふるう。
「どうも! しきっしきしきっ四季でーす!」
「どうも、四季です。よろしくお願いします~」
漸く本筋のネタに入っていった。ネタは学校あるあると先生の物真似をやるベターなやつだが、そこに高橋くんのイカれたキャラを活かしつつ、繰り広げていく。漫才の間、練習のおかげで吃音はでない……いや、最近は関西弁で喋るようになってから吃音は出るのが大分減っていった。
そしてお陰様でウケは上場。観客たちが僕たちに注目をする。
だが……そんな調子がいいのも束の間。終盤大オチで高橋くんがワードを飛ばし固まってしまう。僕は何とか彼のワードを使い何とか戻すことができた。その失敗を彼は引っ張って固まっていたが体が震えている。
「あっ……」
「なんやねん」
「もんっ!……」
「『もん』っ?」
「もん!」
「なんやねん、『もん』って!」
彼を引っ込めさせるために強めに引っ張るが、彼はその二倍の力で振り払い僕は倒れた。
「悶々するけど、ボンボヤージュ!!!」
高橋くんは跳び跳ねて両手にお椀を持つ素振りで上下してから、手を左右に振る。
下から彼を見ると、上のライトに照らされ神々しく思われた。
その謎の一発ギャグが決まり一瞬の間ができた後、すぐに息を漏らしたように音が聞こえ、そして笑いの渦が起きた。
「もうええわ!!!」
その歓声に負けじと僕は最後のツッコミを入れて、今回の漫才は幕を閉じた。
終わった後、衣装を脱ぐ最中……さっきの神々しく照らされた高橋くんを思い返す。
天才と変態は紙一重なんだと改めて思わされた。
もしかしたら……きっと……僕はとんでもないお笑い芸人……いや相方を見つけたのかもしれない……あのわけのわからない一発ギャグ。もしかして定番のギャグとして……いや、音楽が好きな彼が言うとしたら『キラーチューン』だ。キラーチューンとしては最高かもしれない。
そう思いながら、高橋くんを見ると僕の視線に気がつきこちらを見返した。
「なんだよ……いや、悪かったよ勝手な事したことは……」
「ぜんぜん、ヒヤヒヤしたけど結果オーライやから……」
「なぁ!」
「なに?」
「漫才って、最高だな!」
「今さらなんやねん。最高過ぎるんよ!」
彼の屈託の無い笑顔がこちらに向けられる。その思いを受け取り答え返した。
それから文化祭が終わりクラスに戻ると、1人……また1人と僕に近づき肩を叩く。「おまえ、あんな面白かったんだな!」とか「関西弁だけでも受けるわ」とか……もちろん全員が僕の事を認めたわけではないし、キモいっと思ってる奴もいる。でも誰かに認められた事が何よりも嬉しかった…………
ピリリリリ!!
スマホのアラームが鳴る。そろそろ仕事に行かなければならない時間だ。
俺の日記……改めて読むと面白いトコぜんぜんなかったな。ほんま、この時は酷いくらい素人やったし。でもこの頃が俺にとって一番栄光やったかもな……アイツの事も嫌いじゃなかったわ。
俺は過去の黒歴史に苦笑しながらも、すかさず近くにあるCITIZENの『Yell Collection』のアテッサダイレクトフライトを持つ。
そいつを腕に着けて、改めてまじまじと見た。
うーん、やっぱり綺麗やな、コイツ。
何度か角度を変え見直す。CITIZENのアテッサは、CITIZENの中でも主力製品でアテッサとはイタリア語で『期待』『予感』と言う意味だ。そしてエールだと、『大声で叫ぶ』『声援』……なら『声援に期待、大声で叫ぶ予感』っか。
最後の舞台上で声援を貰えたらどんだけ幸せだろうか。
いや『Yell』には他に驚き恐怖で声をあげる、怒鳴るなどの意味にも使われるから改めて捉えようは、人それぞれだろう。それにCITIZENのエールコレクションのコンセプトはなんだっけ……っ考えながらスマホをすぐにいじり、調べ出す。
《『CITIZEN YELL COLLECTION』は、私たち一人ひとりが持っている、新しい時代への希望を、幾何学模様の『未来のカケラ』で文字板に表現しました。『未来のカケラ』がつながり、ひとつになれば、大きな希望になると信じて、前を向いて未来へ進む人へのエールの気持ちを込めたコレクションです》
その言葉の意味を噛み締めながら、改めて腕時計の文字盤を見て角度を変える。文字盤に刻まれる魚の群れ様な幾何学模様が反射し、色んな青色が浮かびだされる。その幾つかの青は本当に群青だろう。
ああ、そうだそうだ……数年前……アイツの悪評と色々な問題と、コロナで今まであった奇跡的にあったテレビの仕事も、最低限あった劇場での仕事がなくなったあの時……やばいと思ってたら、有名な先輩のネタ作り手伝わしてくれて、それからテレビ局からも小さい作家仕事たのまれたんだっけ……それから他の芸人のYouTubeの構成台本やラジオ、舞台……その時の貴重な給料で大型家電量販店の時計コーナー歩いていたら、コイツが目に入ったんだ。気が付いたら、欲に駆られて買ったんだよな。
あの頃……天から地に……いや空中から地に落とされた。
アイツと一緒に……いや、アイツの所為で引きずり落とされたあの時……俺は絶望しかなかった。
なんで真面目にお笑いと向き合ってる俺がこんな目にあわされなきゃあかんのか……だから一人だけでも、いや俺自身だけでも頑張ってる俺にエールを送りたかった。
その頃の必死な自分へ、気持ちが馳せる。そしてぎゅっと拳を握りしめた。
もう、アイツに俺の人生を邪魔させない。今度こそ俺は一人で天へ駆け上がる。アイツが俺の足を不様に掴もうとも、もう関係ない。その必死な手を俺は蹴り払うんだ……ピンであろうと、構成作家であろうと新しいコンビであろうと。どうにかして、曲がりながらでもこの業界で天下をとってやる。
俺は出かける準備をして、耳にイヤホンをつける。そしてスマホでFMラジオをかけた。先輩芸人の番組で、先輩は爽やかにトークを綴る。
『……さて、今日も都会は暑くなりそうですね。そんな時には、暑苦しいのは嫌かもしれませんが、それでも爽快に音楽を聴きたいものですね。では聴いてください!《都会事件》で《青く燃えゆ日和》!』
そして女性ボーカルの官能的だが力強いハスキーボイスと、つんざくギター音が耳に響いた。
俺はバックパックを背負い、玄関を閉めた。陽射しがキツく、暑くなりそうな青空に手を仰いだ。
すると電話が掛かり、そちらに切り替えた。
「お疲れ様です、近藤です。お久しぶりです……僕の方に電話を掛けてくるなんて珍しいですね。高橋が何かしました…………えぇ……」
俺は電話を掛けながら歩く。先輩芸人は世間話程度を揚々と話し、そして嫌なコトに突っ込んでいった。
今回まず、なんでこんなに書くのが遅かったのか……
まず、1にこの一年間私自身忙しかったんです……色々と……
2に構成をどうするかを考えるのが悩みに悩んだ所……
3に次回から本編になる中心人物(今回はプロローグなので視点が変わります)を好きになれなかったから……まぁ言い訳なんですが……(汗)
そしてプロローグがなぜこんな長いのか、それは本編が薄くなるからです。
と言っても次回の内容はできておりません……もし、楽しみにしていただいた方がいらっしゃったら申し訳ございません……頑張ってお正月にできたらいいのですが……
もし、また懲りずに読んで頂ければ嬉しいです。
今回も長いのに読んで頂き誠にありがとうございますm(_ _)m!!




