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古着屋の小野寺さん  作者: 鎚谷ひろみ
bitter&sweet
51/52

24 NO NAME #7

今回も長いのでゆっくり読んで頂けたら幸いです!

24-7 君からのサイン、もう、見落とさない






雨に濡れながら、店に戻りできるだけ誰にも声をかけられない様に休憩室に戻ってきた。ロッカーに入っているジャケットの胸ポケットを調べると、やはり指輪は入っている。


少しの安心の後に、彼女にしてしまった後悔が響く。

店に急いで戻るなか、早足だが彼女へのLINEを何通も送ったが未読のままだ。



「お疲れ様です。 田中さん」


少年くんの友人の長瀬さんが入ってきた。

最近バイトととして入ってくれるようになり、高橋なんか比べ物にならない良い子なので助かっている。


「髪少し、濡れてますよ」

「いや、さっき休憩中に傘持たないで外に出たから」


俺の声色と表情で何を感じたらしく、彼女は心配そうな顔を向けた。


「大丈夫ですか?」

「うん、大丈夫だよ。さて仕事に戻らないと」

俺はこれ以上何かを聞かれるのが怖くなり、休憩室から出て次の休憩回しのためレディースフロアに上がった。






「では、休憩いただきます」

「頂きます」


梨佳と真がいっしょに嬉しそうに休憩に向かう。俺は二人が去ったのを確認して、急いでスマホを取り出した。


もちろん彼女からの返信もなく、既読もついていない。


ため息をつき、また彼女へのメッセージを考える。書いては消し、書いては消し……



「田中さん、珍しいですね。仕事中スマホ見てるなんて」


そう言われ、スマホを咄嗟にポケットにしまう。顔をあげると長瀬さんと少年くんの想い人、早川さんがいた。


「すいません、私、御客なのに声かけてしまって……」


早川さんが申し訳なさそうに顔を下げる。

「いや、仕事中にスマホをいじってる俺が悪いし……」

「やっぱり、何あったんですか?」

「お疲れ様です! 」


そうこうしてると、少年くんまでお客さんとして着てしまった。


「さっき二人が上がっていくのが見えたから声かけようと思って……というか珍しい三人ですよね?」

「私、最近田中さんと組む事多いのと仕事を教わってるから」

「それで私は遊びと買い物に来たんです」


なんとか話が逸れ、安心した。


「あっ、田中さんもしかして、華さんと何かあったんですか?」


唐突に長瀬さんにそう言われ、あっと口が開いてしまった。少年くんは驚いて俺の顔を見る。

「何かって?」

「いや、お二人付き合っているから、何かあったのかと……」

「えっ、華ちゃんと俺が付き合ってるのって……バレてるの?」

『はい!』


女子二人は声を揃えて頷いた。


「わかりますよ! 空気感が明らかにカップルですもん」

『ねー!』


女子二人は目線を合わせて、首を横に振る。

俺は恥ずかしくなり、頭を抱えこみ軽く足を崩した。

「いつから?」

「 私がここに入って二人が働いてる姿を二回ほど見た時に、何となく」

「えっ、お二人付き合ってたんですか?」


「えっ、気付いてなかったの?!」「えっ、気付いてなかったんですか?」


女子二人は当たり前のように、語尾は違うが一緒に

驚いた。


「ただ、仲がすごくいいのかと」

「いや、空気感でわかりますよ」


早川さんが歩み進め、彼に近づく。


「いったい何があったんですか?」


そう長瀬さんが心配する顔で俺を見た。

「実は……」




そこから俺は指輪を買いに行ったこと事、最初のプロポーズが失敗した事、鈴木さんに相談してサプライズ第二弾を考えた事、元カレが華ちゃんに会いに来てた事、そしてさっきの事……




言い終えると、女子二人は呆れと滅入った目つきで俺を見ていた。


「なんで、そんな事やったんですか?」


早川さんが、真剣かつ冷静な声で俺に言う。


「いや、女子はサプライズが好きって鈴木さんに聞いたので……」

「そりゃ、全体的にハッピーなサプライズは好きかもですが……怒らしたり、悲しませて始まるサプライズなんて望んでないです。田中さんの中で、色んな気持ちが渦巻いていたかもですが」

「はい……」

「えっ、女性は結果的にハッピーなサプライズだったらOKじゃないの?」


少年くんが空気を読まず割りこむ。


「絶対にダメです! 好きな人には一途に誠実に見ていて欲しいんです。普通に他の女性と話しているのでも、やきもきするし、付き合ってるのに結婚考えてないなんて一言でも言われたら腹が立ちます」

「ごめんなさい」


早川さんの表情で少年くんはシュンとした。


次に長瀬さんがうなりながら、頬に手をつけている。


「こんな事言うのは、あれなんですが……鈴木さんに相談したのが……ちょっと……千里香さんがいれば変わっていたかもですが……でも、千里香さんのプロポーズの言葉も、今回はあれだったし……」

「俺、どうすれば……」

「華さんを探しに行った方がいいです」

「でも、仕事を抜け出すわけには……」


学生三人に相談する大人はとても、第三者から観たらダサくみえるだろう。



「あの、千里香さん! 早川です!! すいませんお忙しい所……」


気がつくと、早川さんが店長に電話をかけていた。かけながら歩いている姿は女性ながら舞台映えする男前に見えた。


「はい、実は田中さんが困ってまして……詳しい事は田中さんに変わるので」


さっと早川さんにスマホを差し出され、電話に出る。


『何があった?』

「実は……」


サプライズ第二弾のプロポーズを伝えた。


『要件はわかった』

「怒らないんですか?」

『今は、怒ってる場合じゃないだろ。それに華ちゃんが心配だ。お前は探しに行ってこい』

「いいんですか?」

『今日はシフトに余裕あるし、私も用事が終わりしだい店に行く。鈴木には私から言うから』

「すいません」

『約束したからな、華ちゃんの事なら協力すると……だが……』


彼女はいい淀み、息を吸った


『今回の件が解決したら、説教な!!!』



ツー、ツー……



最後に全力で怒りを込め、切られた……




そしてスマホを早川さんに返す。


「華さんを見つけてあげてください。そして、ちゃんと謝って、どれだけ大切かを伝えてください」


彼女の真剣な眼差しが突き刺さり、俺は口を引き締めたしっかりとうなずいた。


そして、休憩室に向かうと梨佳と真が目を丸めてこちはを見ている。

「休憩中、ごめん。俺、行かなくちゃ行けないところがあるんだ」



俺はジャケットを羽織う。貴重品のスマホと財布と定期入れをパンツの各ポケットに入れ、持ち運ぶには荷物になるシャツとネクタイと鞄は店に置いて出た。


雨はあがっており急いで、まずは家に向かった。






家に着き、彼女がいないかを確認する。だが、どこを探しても見つからない。


二人で使っている鞄掛けを見ると彼女の中ではトローリバックの次に大きいバッグが無くなっているのが目につく。

そして、テレビの前に置いてある小さいタヌキとキツネの陶器が消え、大きいタヌキだけ残っている事に気がついた。


やっぱり、華ちゃん一度帰って来てたんだ……


俺はまた、外へ出て近くを探して見る。



二人で仕事帰りに寄ったコンビニ、激安スーパー、オリジンズ弁当……見つからず、少し先へ足を伸ばす。トレアイの周辺のスーパーにドラッグストア、レンタルショップ、古本屋、デパートに映画館……

彼女の痕跡なんて残っていないのに、その場所々々に行くと彼女との記憶が甦り、胸が苦しくなっていく。



きっと彼女はもう、俺にとって半身のような存在でそれが無くなるのなんて考えられない……

いや、そんなカッコつけたもんじゃない。

俺はあの子が好きで愛してて、これからもずっと大切にしたい。俺なんかっじゃない、俺があの子を幸せにしたい。


そう想いを募らせても、彼女は見つからない。


駅の北側のスーパーの大通り沿いを歩いていると、ふとっある場所が過った……






ポン!



『田中 良顕さん、どうぞ!』



そう呼ばれ、ドアへ向かう。病院内では癒し効果があると思われるクラシックが流れている。内装は上品で嫌みに思えるくらいだ。




「さぁ、どうぞ」


中に入ると椅子を促され、無言で椅子に座る。


「今日はどうされましたか?」


目の前の身体つきがいい、爽やかな医者がくるっと椅子を回し、こちらに問いかける。

「辛いんです……」

第一声で出す言葉がそれしか思い付かずポロっと溢した。


「辛い……? 何処がですか?」


医者は俺の下がった顔をみるために首を傾げる。だが、俺は顔をしかめた。


「あの……何処が辛いか言って頂かないと……」

「はな……」

「鼻?」

「違う、華ちゃんだよ」

「ハナちゃん……?」

「峰岸 華!」

「えっ、ああ!! 華のお知り合い何ですか?」

「あんたがネクタイ買いに着た時と、レストランで会ってる!」

「あぁ! 古着屋の店員さんでお連れさんだったんですね。道理で見たことあると思った!!」


目の前の医者は納得して、まじまじと俺を見る。


「で、今日は何処が悪いんですか?」

「あんたが……悪い」

「えっ、僕ですか?」

「もう、めんどくさい! 俺は華ちゃんの彼氏で! 今日ここに華ちゃんが来たんだろ?」

「あっ、あぁ」

「なんで、なんで、アンタ! 今さら華ちゃんに会いに来たんだ!? 」


彼はようやく何かを悟ったらしく、黙り込む。

「華ちゃんを何処にやった?……華ちゃんはな、アンタと別れてから、スゴく辛そうだったんだよ! あの時は、窶れて……あの子は我慢強くて、優しくて、真面目で、しっかりしてて、最初は人見知りだけど笑った顔が誰よりも可愛くて、犬っぽい様で猫っぽい所があって、でもやっぱり犬っぽくて……話しは逸れたけど、でも辛いときには敢えて元気な振りを演じて……漸く漸くアンタを忘れられそうなのに、今さら出てきて……なんだよ! アンタ!! ズルいよ……俺はな、あの子の為なら絶対に離れないし、これからどんなに辛くても我慢できる。結婚する為に貯金もしたし、彼女の為なら何でもする!」

目の前の男は黙って、頷くしかしない。その姿が余計に腹ただしく感じた。

「あのな! 今はアンタの番じゃないんだよ! アンタがあの子に幸せにしてもらう番じゃない……俺があの子を幸せにしてやる番なんだよ! 二人で幸せになる番なんだ! その為に、指輪も用意したんだ!!」

俺は胸ポケットに入れていた指輪の箱を取り出し、机の上に強めに置いた。それから彼は机に手をつけ、立ち上がる。その威圧的な身体の大きさに怯みそうになるが俺も負けじと立ち上がる。

「言っとくけど、あんたが過去に格闘技をやってたとしても、俺は怖くないんだからな」

そう言ったものの、内心は怖いがここだけは譲る事はできない。


「先生、何かありましたか?」


看護師が心配で扉をあけ、彼に伺う。


「いや、何もないよ。悪いのは僕だから、気にしないで」

そう言うと看護師は気を遣い扉を閉めた。そして彼は席に座り、口から息を吸い小さく左右に首を振る。


「華は……華はさっき来た時、悲しい顔をしていたよ……きっと今の彼氏……君と何かあったんだと、ね 」

「……」


それを言われて、自身のやってしまった事で彼女を傷つけてしまったと実感させられる。


「結果的に言えば、僕は振られたよ」

「えっ」

「でも、彼女自身……どうしたいか、わからないって言っていた」


俺はそれを聞き、大きく息を吸った。


「だから、彼女が何処かへ行く前に、君は絶対に彼女を手放すな……僕の様になってはいけない」

「あっ、あ……」

その真っ直ぐな目線を向けられ、俺は瞬間的に頷いた。

「あっ、あんた……以外に良い人?」

「まぁ、自分では嫌になるけどね……そんな事より、早く探しに行った方がいい。支払いも別にいい、後で受け付けには僕から説明するから」



俺はまた頷いてから、立ち上がりドアを飛び出した。

だが、診察室を出て入り口まで向かってからある大切なことに気付き、もう一度診察室に引き返す。ドアは開いていて、元カレがアレを持って待ち構えていた。


「指輪 」

「すいません!」


さっき置いた指輪とケースを受け取り、外へ向かった。



一度、スマホを見ると彼女からのLINEが届いている事に気付き、とっさに開いた。



『さようなら』




LINEの一言だけのメッセージを見て、絶望が込み上げた。

一瞬時が止まったように、息も心臓も止まる。腰が抜け、跪きそうになる。だが、それでも瞬く間に彼女の微笑みが過り、何とか堪えた。そして自信の頬を両手で叩きもう一度走り出す。


もう一度必死に彼女とよく行く所に探して行ってみたが見つからない。もしかして、あの告白した歩道橋で待っているかもも思い行ったが…………いるわけがなかった。







トレアイの閉店時間が過ぎ、今日は諦めて情けなく意気沮喪と店に戻ってきた。

店前には、店長と鈴木さんが立って待っている。


「田中……」


そう呼ばれ、彼女が近づき封筒のようなモノを2つ取り出した。


「さっき、華ちゃんが店に来たんだ。その時私に退職届けと……それから、コレをお前に渡すようにと渡された」


彼女から、封筒を受け取り開く。中に家の鍵が入っている。それと手紙らしきモノを取り出した。




良顕くんへ


今まで私と居てくれてありがとう。こんな私と。私が資格の勉強の時は気を遣ってうちに来て家事全部やってくれたり、私が辛そうな時は黙って一緒に居てくれて。大切にしてくれていたのは伝わっていたよ。

でもね、ホントに最近あなたが何を考えてるかわからないの……最近すれ違ってたと思うし、あなたは私と一緒じゃない方がいいんじゃないかと感じるようになりました。

だから、もう気をつかって私と居なくていいんだよ。私はちゃんと立ち直れたから。

別々の道を歩んだって、何処かであなたの幸せを祈っています。

本当に、本当にありがとう。





手紙はそこで終わっていた。読み終えると目が眩み、手が震え何も考えれない。


「田中、こんな時に悪いが私たちはもう帰るから、あと主電源と戸締まりよろしくな……イベント様で灯籠ついてるし、奥の和装のマネキンの確認だけよろしく……」

「田中、残念だったな……」


鈴木さんが俺の肩をポンと叩き、二人は帰っていった。


絶望、失望………………空虚……


それから俺は呆然と立ち尽くし数分経ってしまっていた。


「あっ、店長に頼まれたことやらないと……怒られる……」


このまま立ち尽くしたままだといけないと思い、自身を動かすために言葉を放つ。独り言を言って動かないと、頭がおかしくなりそうな気がした。その力ない言葉を言うと喉の奥から辛みと苦味が沸き上がる。それでも何とか薄暗い店内を進む。



灯籠は各場所に設置されていて、揺らめいて光っている。

のそのそとゆっくり歩く。そのなか灯籠の温かい光りの中で夢が見えた。

あの時、彼女が言っていた事を俺はボソッと呟く。そして、それに合わさるように彼女の声が少し聞こえるような気がした。




『君と結婚して、二人で緑道の木漏れ日が当たる公園を何回も歩いて季節を味わう。そしてそのうち子供二人くらいできて、上が女の子で下が男の子。ペットも飼って、猫……いや……犬だ。君は犬の方が好きだもんね。それで四人と一匹で幸せな家族。それが何年も続いて、子供たちも一人立ちしていって……また老後に二人で緑道の木漏れ日が当たる公園を歩いて……』




俺は歩く中、息は荒く口も鼻も引き攣りを起こしたようだ。視界が見えずらくなるが何度も顔をぬぐう。

もう、見ることができない未来。




真ん中辺りにつき、マネキンが後ろ向き置かれていた。和服の結婚式衣装、大きい花柄の色打掛を着ている。頭には角隠し。


ただ……なぜだか、その背中に君の余韻がある気がして……咄嗟に俺はそのマネキンに近づき肩を掴んだ。

「華ちゃん?」

そして、振り向かせて顔をみた。

「うわ!!」


その花嫁は、狐のお面を着けていて、驚き声をあげて尻餅をついてしまった。


「ふっ、ふふふふふ……」


俺の情けない声と顔に彼女は笑う。


「もう、良顕くんったらこんなんで驚いて~情けないな~」


彼女はお面を外し、こちらに微笑む。そこには本物の華ちゃんがいた。

やっぱり華ちゃんは……花柄が似合うし、和服も似合うし、可愛い。

でも、花嫁衣裳で薄暗い灯りに映る君は、ホント……不気味なくらい綺麗だ。


感情の整理はつかないが、ただ彼女に見とれてしまう。


「もう、私を騙して辛い思いをさせた罰だからね! でもその顔に免じて今回は許す!」


彼女は店長の様に両手を腰に添えた。その頑張ったような明るさから、次にわかりやすいくらいな深呼吸をする。そして俺の手を優しくもしっかりと掴んだ。


「田中 良顕さん。私は……私はあなたと……しっ」


彼女はゆっくりと言葉を絞り出すようにするが、詰まってしまう。感極まって、泣いてしまいそうな程に……だから、いや。


「華ちゃん、ごめん。君に言わせようとして……俺が、俺が言わなきゃいけないんだ……」

俺は指輪を胸ポケット、小さな箱から取り出す。そして彼女の左手を両手で支え、ゆっくりと薬指にくぐらせた。

「峰岸 華さん、俺は君を愛している。君と結婚して生涯を捧げる。絶対に幸せにするから、一緒に居てくれますか?」

「はい」


そして、俺たちは抱き合った。力強く、もう二度と離れないように。頬からは君の甘い温かさと匂いが伝わり、やはり気持ちが落ち着いていく。


やっぱり君じゃなきゃだめなんだ。



パチパチ! パチパチ!……



まるで、シットコムの様な拍手が外から響く。

「……あの……というか、そこにいるなら、もう出てきてくださいよ!!」


そう言うと店長と鈴木さん、少年くんや早川さんに長瀬さんが拍手をして入り口から入ってきた。


「お前が華ちゃんにやったことを反省して貰うために考えた案だ。これで少しは許してやろう。まぁ、とにかく本当におめでとう!」


そして、また拍手が鳴り響く。

「そう言えば、狐のお面なんて何で着けたんですか?」

「それは、華ちゃんが着けてたいと……『良顕くんを二重でビックリさせてやる!』って事だそうだ。華ちゃんは狐で、田中は狸だと」

「えぇ……」

「まぁそれと、もともと中国ではキツネを漢字で『狐狸』と書いていたんだ。読みは『コリ』って読む。それが日本に来て、別々になったそうだ。まぁ今日は私の蘊蓄なんてどうでもいい! お前たちはいいカップルだよ。ホント」


そして、華ちゃんは早川さんと長瀬さんに囲まれ祝福をされている。


「さて! んじゃ、結婚祝いに!! 飲みに行きますか!!!」

「おお、いいなぁ!! 鈴木、お前の奢りな!」

「いや、そこは店長である千里香ちゃんの奢でしょ!」

「おまえ、今回の件引っ掻き回しといて、それはどうなんだ!?」

「ぬぅ、それを言われるとな……」

「それじゃ、鈴木さんの奢りで僕たちも行かせて……」

「いや、高校生ズは遅いから、もう家に帰れ、帰れ! 今からは大人の時間だよ」

『えーー!』


そんな沢山の祝福の雰囲気が嬉しい。でも、今日は……

「あの、すいません」

そう言うと、五人は俺を見る。そして俺は華ちゃんに近づき改めて手をつなぐ。

「せっかくのお祝いの飲み会は嬉しいんですが、今日は急ですし……二人で祝ってもいいですか? 飲み会はまた後日に……」

「しょうがねぇな! わかった! んじゃ、後は若いもん同士。邪魔者は撤収だ」

「それじゃ、あと電源と戸締まりをよろしくな二人とも」






華ちゃんは衣裳を脱ぎ、俺たちは店を閉めて、外へ出る。休憩室に店長からのプレゼントで花束が置いてあった。

『このハッピー野郎ども! 』というメッセージと共に。


二人で駅前のスーパーにより、少しだけ良いワインを数本買う。

それから家の最寄り駅を降り、オリジンズ弁当に入る。今日も半額になったモノだが多めにお惣菜を買う。その中には勿論、コロッケと唐揚げが含まれている。

そして、いつもの中国人のおばちゃんが聞いてくるのだ。

「袋、いる?」




今日はすぐに家に向かわず、川沿いを歩く。色々荷物をもっているが俺たちは手を繋いだまま歩く。ふと唄を口ずさんでしまう。


「なに、その歌?」

「えっ、昔華ちゃんが口ずさんでたやつだよ」

「そうだっけ?」

「そうだよ」

俺は彼女が口ずさんだこの唄をずっと覚えている。名前は知らない。彼女も知らない。

だが、この名もなき唄を俺は忘れはしない。

そして、いつまでも君に捧ぐ。





「ただいま!」

「お帰り」

家に着くと荷物を広げ、俺たちの小さなパーティーは開催される。そして何回も乾杯するのだ。






「良顕くーん、早く~」

「華ちゃん! 道、知ってるの?」

「あっ、知らない」

「でしょ」


そして少し時が経って、彼女はもちろん俺の隣にいる。そこから木漏れ日の当たる緑道を歩く。

彼女は小花柄のワンピースを着て、俺はボロボロになってリメイクした……偽のアバクロジャケットを着て。


ある病院の部屋の前に着き、彼女がノックをする。


「失礼しまーす」


そして、俺たちは部屋に入る。


「はじめまして、お義父さん……」

「親父、この子が……俺の婚約者の峰岸華さん……」




ベッドに寝ている親父を二人で見る。顔は穏やかに笑ってる様な気がした。


今回も長いのに読んで頂き誠にありがとうございます!

次回は全然出来てませんのでいつになるかはわかりませんが、また読んで頂けたら幸いです!

今回も誠にありがとうございましたm(_ _)m!

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