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古着屋の小野寺さん  作者: 鎚谷ひろみ
bitter&sweet
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24 NO NAME #6

明けましておめでとうございます! 今年度も何卒よろしくお願いいたしますm(_ _)m


新年早々から投稿させて頂きます! 今回も長いのです。


24-6 人生ゲームとはシーソーゲーム






昔、仕事を辞めた時に何もやることがなく家の近くをボーッと歩いていた時の事だ。



学生時代に読んだ本で人生とは、ゲームと一緒と書いてあった。

内容はちゃんとは覚えちゃいない。

でも自分なりの解釈で、何事も自分から動かないと始まらないないもいうこと。コマンドボタンがあったとしたら絶対にどれかは選択しないと次には進めないということ。

人生にとってゲームオーバーとは何をさすのだろうか?


その本にはゲームオーバーから、どう立ち上がるかが大切と書いてあった気がする。でも、もし立ち上がれないほどのような状況になってしまってたら……それに絶望や失望に足先を踏み込んで戻れない状況になってしまったら……


子供の頃に、ボードゲームをやった時。簡単に就職して結婚して子供ができてマイホームを買って、ゴールする。

そして、みんなに拍手され祝われつつも勝敗がつく。人生の勝ち負けって必要なのかと俺は思いたい。

人生をゲームに例えるなら、何ゲーム?

テレビゲーム、カードゲーム、ボードゲーム、椅子取りゲーム……



キー……カタン!…… キー……カタン!……



公園で男の子と女の子がシーソーに乗って、はしゃいで楽しそうに遊んでいる。



シーソーゲーム…… たくさんありすぎる。

でもシーソーの様に、それぞれの人生には波がある気がする。

良い事があれば、悪い事がある。また悪い事があれば良いこともある。ぜったいに……だけど、悪いことから良いことに変わるのはいつだろう……







「なに、『うちに来るの真剣に考えてくれてる?』って……どう言う事?」

「いや、その後に然り気無く聞いたら……華ちゃんがこの前言ってた就職断ろうかと、悩んでた所が元カレの所なんですよ」

「えぇ! 」




あのプロポーズをしようとした日から数日が経った。

結局あの日……元カレが出てきて俺のテンションも下がり、二人で気まずく帰る事になった。その空気が俺たちの間に今でもこだましていた。


あれから、なかなか店長と鈴木さんと被る事が少なく、直接報告ができずにいた。

そして鈴木さんに会い、この前の事を今、御客さんが奇跡的にいないので相談している。

ちなみに店長は休みだ。




「んで、その元カレどんな奴なの?」

「えっと……爽やかなお洒落スポーツ刈りで、店に着た時もスーツで。体格はがっちりして……たぶん柔道かなんかやってたみたいです」

「あれ? そいつ前にも着てたよな……」

「はい、だから俺の時に」

「いや、お前がいない時もちょくちょく華を訪ねてやって来てるぞ」

「えっ!」

「真と梨花が言ってた気がする。その特徴通りだ……」

「それって……」

「明らかに、寄りを戻そうとしてるな……」




彼女が数年前、真剣に愛していた人……彼女にとって、きっと理想の相手だったに違いない……



その事を考えてると動揺が収まらず、うっすらと汗がにじみ出る。



「ど、どうすればいいですか……」

「うーん、難しい所だなぁ」

「もう一度、早めにプロポーズするべきですかね?」

「いや、前回でプロポーズぽい空気感だしていたからと思うからなぁ……華もきっと気付いてたに違いない。だが、とんだ邪魔が入り……おじゃんになった訳だ」

「そうですね」

「だから、次は奇をてらうんだ」

「というと?」

「簡単に言や~、結婚なんて考えてない素振りを出すんだよ」

「へぇ?! それ、大丈夫ですか?」

「女はな、あんまりガッついてると逃げるもんだから。そしてサプライズ第2弾だよ。もちろんタイミングは難しいけど……例えば、何気ない喫茶店とかカフェとかで、結婚の話題がでる。そして、結婚に関しての否定的な意見を出すんだよ。そうすると華も動揺するだろ?」

「まぁ、そりゃそうですけど……」

「そこで、ウソでした! って感じで指輪を出す。サプラーイズ!!ってな感じで。んで、プロポーズだよ!! おぉ、完璧じゃん」

「それ……ホントに大丈夫ですかね?」

「大丈夫大丈夫!! あとはタイミングだ」

「はぁ……」



そんな付け焼き刃みたいなプロポーズで……心配が募る。



「こんばんわ~! あれ、千里香さんは?」


いつも通り、少年くんが店に遊びにきた。

「昨日と今日と明日と明明後日で店長、四連休なんだよ」

「そうなんですか……最近、なかなか会えなくて残念です」

「まぁ千里香ちゃん、今までは週6出勤とか当たり前だったからな。たまに休みない週もあったし」

「そうだったんですね」

「今まではあの人、仕事以外やる事ないって言ってたから休まなかったんだよ。最近はちゃんと休むようになって安心したけど」

「へぇ~……できれば相談したかったんですけど」


少年くんが目線を下にやり、言葉を詰まらせた。

「相談って?服の事?」

「相談というか、愚痴というか……最近、バイト先でよく関わる上司が副店長なんですが……僕に対してじゃないですが、新しく入った人とかに当たりが強くて……」

「あぁ、そういう人いるな~そういう時本人は、自分が正しいと思ってるから横柄にでるヤツ」

「それで店の空気とかも悪くなったりするので……」

「でも、君が当たられてる訳じゃないから、流すしかないんじゃない?」

「やっぱり、そうですかね……」

「大人になったらそんな事増えるぜ。そういうのは流すのが一番だよ!」

「また、千里香さんにも聞いてみようと思います」

「あぁ、そうするといいよ」




そして、少年くんは帰りその日は終わった。






その次の日。シフトで高橋と被り、俺のテンションは下がる。


高橋は無駄に話しかけ、特に話しも広がらない。あと無駄に報告が多い。仕事ができないのに、女の子達には偉そうにしている。トイレにちょくちょく行きサボってる感じだ。他にも色々と……

もちろん、俺は高橋の事が嫌いだ。そんな事を本人はわかってるかわかってないか……それでも無駄に俺に話しかける。




「田中さん! 暇っすね!!」

「あぁ、そうだね……」

「田中さん! ちょっと水飲みます! 」

「勝手にどうぞ」

こんな具合だ。



「そういえば、田中さん!」

「何?」

「峰岸さんなんすけど!」

「何?」

「なんかこの前! スーツの男の人が来てて、なんか『もう一度やり直さないか、君の為に彼女と別れた』みたいな事言われてましたよ!」

「えっ!」

「いや~峰岸さんすごっいすよね! 御客さんに口説かれてるなんて、可愛いし。そりゃモテますよね~まぁ、俺は店の女の子可愛いと思ってますけどね!!」




華ちゃんから、そんな事聞いていない……いや、言えるわけがない……



俺はそれから仕事を体がオートマで作業をして、頭の中では華ちゃんの事でいっぱいになる。

それと並列してこの前会った、元カレの姿が過り、焦りは増幅していく。




仕事が終わり家に帰り、最近の流れで華ちゃんが先に寝る。

俺も寝室に入りベッドに入る。彼女が寝返りをうち、寝顔を見た。


この子を誰にも、とられたくないな……


そう想い、目を瞑る。ふと彼女が初めて笑ってくれた時の場面を思い出す。

はじめは愛想がそこまである感じではなかったが、鈴木さんの悪いところを述べてたら、吹き出して笑ってくれた。

その笑顔をみるのが、とても嬉しかったんだ。



本当に鈴木さん、ありがとう……



そう思ってたら、なぜか鈴木さんが不気味な笑顔でグーサインを送る絵面が目蓋の裏に浮かぶ。そして彼との記憶で埋め尽くされる。



いや、鈴木さんはもういい。鈴木さんには感謝したし、消えてくれ鈴木さん。



そして明日改めて、例の事を実行すると決めた。






その日、プロポーズをするのでそれなりに……かつ、バレないよう普通っぽいお洒落な格好をした。


ユニクロの紺のウィンドウペン柄の感動パンツに、ジャケットは前回と同じBEAMSのジャケット。無印の半袖ポケットTシャツの上にUNIQLOのシャツ。ヴィトンのベルト。一応、CELINEの赤のネクタイとニューバランスの白のスニーカー。鞄は使いなれているCOACHの革のトートバッグ。


服で言えばファストファッションで靴はスニーカーだが、小物はハイブランドクラスよりで固め気合いが入る。


「よし!」


指輪は前回、渡し損ねて鞄に入れた。


そして今回の計画は仕事の休憩中に、休みの華ちゃんと店の並びの新しく開店した喫茶店に呼び出し、昼食をとる流れにした。


準備を整え、トレアイを出る。外は四月には珍しく夏日の様に暑い。


このまま汗をかいて、華ちゃんと昼食とプロポーズは一応、格好がつかないと思った。

俺は上着とシャツとネクタイを外し、鞄を持って喫茶店へ向かう。






「良顕くん、こっち! こっち!!」


店に着くと、華ちゃんが先にいて手招きをする。

注文は先に華ちゃんがしてくれていたようで、お冷やとおしぼりが並ぶ。


店は落ち着いた感じだが、カジュアルさもあり、気後れしない。開店したばかりで御客さんも、まぁまぁ埋まっている。

だいたいは女性の御客さんが多く、男は俺か少し奥の方に座っている老夫婦くらいのものだ。




店員さんが大きいグラタントーストとアイスコーヒー二つを持ってきてくれ、会釈して去る。


「うわ! 大きくてすごく美味しそう!」

「そうだね」

「では、頂きます!」




二人でわけあい、たわいもない会話を交わす。

気がつくとグラタントーストが残り4/1程度、コーヒーはお互いもう少しで飲み終わりそうになる。

どうにかして結婚の話を引き出したいと思って焦り始めた時、華ちゃんが老夫婦の方を見て微笑んだ。



「いいなぁ~なんか、仲睦まじい」

「そうだね」

その糸口に光が見出だせ、にやりとしてしまう。


「私も、結婚したいな……結婚して二人で緑道の木漏れ日が当たる公園を何回も歩いて季節を味わう。そしてそのうち子供二人くらい産んでね、上が女の子で下が男の子。ペットも飼うの、猫……いや犬。それで四人と一匹で幸せな家族。それが何年も続いて、子供たちも一人立ちしていって……また老後に二人で緑道の木漏れ日が当たる公園を歩いて……そうなりたいな……」


彼女からそう言われ、改めてこの先の人生を考える。

彼女の今後の人生を背負う……俺にそんな事できるのか……勢いで結婚を申し込もうとしたがそんなんで彼女を幸せにできるのか……子供二人できて、その子たちもそれなりの生活を送らせる事、できるのか……俺に。


そう思うと親父と母親の事……実際の自身のこれまでの人生の事が過っていった。


俺はあの親父の息子、俺も親父みたいになってしまうんじゃないか。俺はたぶんそこまで我慢強い性格ではない。テレビ局の時も、前のトレアイの事でも、親父や会社の事も結果……逃げたんだ。



彼女が嬉しそうに話してる姿がぼんやりとしてしまう。



この子を幸せにできるのか?



「ねぇ、良顕くん。いいよね! あのおじいちゃんとおばあちゃん! 結婚いいな~」

「あっ、でも、結婚って大変らしいよ」

「えっ」

「俺、思うんだよ。この世の中、新しい関係が増えてる気がするし」

「どういうこと?」

「結婚って古い文化というかそういう名残じゃない。二人一組にして、今の政府が国民を管理しやすくするための制度になってる気がするんだよね。だから政府は夫婦別姓は認めないし、結婚したからって得になる制度はそこまでないし……」

訳のわからない浮わついた戯言がペラペラと勝手に滑り出す。


「何? 良顕くんは結婚したくないの!」


彼女の怪訝な声と、目が突き刺さる。

「いや、って訳じゃないけど……」

「なに、嫌なの?」

「まぁ……」


ついつい言い淀み、目をそらしてしまう。



カタッ!



その音と共に、冷たさが顔を伝う。

「冷た!」

そう言いい彼女の顔を見ると、顔を赤くし歯を食い縛って俺を睨み付けた。


「最低!!」


その瞬間、俺はとんでもない事を口走ってしまった事に気がついた。

「いや、違うんだよ」


そう言う前に彼女は立ち上がり、鞄を持って俺に背中を向けてしまっていた。


「別に……私の事……好きでいてくれる人、別にいるもん」

「えっ」

当然その言葉で過るのは、あの嫌みなくらいガタイのいい爽やかな医者だ。

「待って! 指輪は用意してあるんだ……」


俺は情けなく鞄の中を探すが指輪は見つからない。ふと、前回のレストランの事をちゃんと思い出した。


指輪はジャケットの胸ポケットだ……


「嘘つき! やっぱり、そんな気がないクセに!!」

「違う、プロポーズも考えていて……」

「んじゃ、言ってみてよ!!」


最悪な状況のプロポーズだ……彼女は腹を立て、周りからも冷たい目でみられている……気の利いた、いいプロポーズ……もう、あれしかない……

意を決して、俺は彼女の背中に向かう。

「僕にとって君は……ロブスターで、えっと、そうだ。俺もロブスターで……ロブスターは一度ペアになると二度と、離れないって言われてて……」

思った以上に声が出ないし、この後なんて言ってたか思い出せない。


「ふざけないでよ!」


彼女の荒げた声で、萎縮してしまい苦笑いが出てしまった。

そして彼女は俺の顔を睨み付ける。


「信じてたのに……」


プイッと早足でドアから去っていった。




キーッ、カタン!!




頭の中でその音が響いた。シーソーが傾く音だ。


だがその音を振り払う様に首を降る。そして俺も急いで追いかけようとすると、伝票が目に入る。


くそ、後払いの店かよ……


だが彼女の方が大切だし、無視して出ようとドアに向かう。


「お客様! お先、お会計を!!」


そう呼ばれ店員さんに肩を捕まれ立ち止まる。


「ワシでも、あんな事、流石に言わんよ……」


奥にいる老夫婦が唖然とした顔でこちらを見ている。そして周りの女性のお客さんも俺を睨み付けている。

「違うんです! 一回そういう素振りがないふりをしてから、喜ばせるプランなんです」

そんな事を言っても周りは信用なんかせず、俺から目を背けた。

急いでお会計を済ませ、外へ出る。彼女の姿なんて無かった。


ポツリ、ポツリ……また顔に水滴が伝う。

気がつくと雲行きは悪く、空は真っ暗になっていた。



どうしよう……俺、そう言えば仕事の休憩中だった。



彼女がどこへ行ったかわからない。俺の足りない頭は急いで店に、足を向かわせた。


だが、そんな中考えてしまうのが、やはり彼女の事だ。



華ちゃん……酷い事を言ってしまった……ごめん……せめて、この雨で濡れないで欲しい……



そんな安直な事を願った。

今回も読んでいただき誠にありがとうございます!


付け焼き刃よくない! そんな訳で次回で長い長い田中の物語が終わります! 果たしてどうなるやら……

また、読んでいただけたら嬉しいです。今回もありがとうございました!!

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