5 I dentity
今回も、また別視点でのお話。
もちろん、佐藤くん、小野寺さんも出ます。
あと、早川さんもチョロッとでますし、羽田もでます。
またもや長くなってしまいましたが、ゆっくりと読んで楽しんで頂けたら幸いです。
テスト、約2週間前……と言ってもクラスの連中はいつもと変わらず、ワイワイやっている。
恋話やゲームやテレビやYouTubの話。スポーツや授業、勉強の話。そして、ノリの軽い羽田グループはくだらないギャグや下世話な事で盛り上がってる。
そして、『ファッションの話……』
君たちにファッションの何かわかるのか……雑誌とかに載ってるのとか、SNSとかに載ってるものや、大きい量販店とかで売ってるのをなんとなく買ってるだけだろ……
まぁ、僕にも……お洒落なんて……わからない……
そんな事を考えていた朝、教室。ホームルーム前。僕は友人が登校してくるのを待っている。数少ない友人を……
思いの外、教室のドアが空いた。
すると大人な装いの私服を着た、うちのクラスと思われる奴が入ってきた。そいつは一瞬、立ち止まったが、堂々とした様子で自分の机に着いて座った。
それは……数少ない僕の友人だ……
休み時間になり、それとなく何故急にお洒落してきたかを聞いてみた。
「えっ、どうしたの急に?」
友人は照れ臭そうに答えた。
「いや、昨日ね。たまたま、たまたまね。古着屋に言ってみたんだ。すると、優しいんだけど振る舞いが変わってて、面白い店員さんが丁寧に教えてくれて……買っちゃったんだ 」
友人は嬉しそうに答える。
僕はそんな友人の姿に何とも言えない気持ちになり、
「へぇ……そうなんだ、お洒落だね……」
と言ったあと、話題を変えた。
嫌な奴だな……僕は……でも、わざわざ引き延ばすほどの話題ではないと思ったから……
授業が終わり、友人と下校しようと声をかけようとした時。彼は、既に羽田に話かけられていた。
羽田はすると馬鹿みたいに騒いでる。
「ちょーおしゃれじゃん!」とか「めちゃ大人じゃん!」とか「スゲーなぁ、マジかっけー!」とか……
そんな、ありふれた事ばかり言って、本当に馬鹿馬鹿しい。高校生だろ、もう少しちゃんとした感想を言えよ。
すると見ていたら、友人も満更でもなさそうに答えていた。そして、どんどん友人の周りに人が集まっている。
僕はそんな友人を見て、布がくしゃくしゃになるような………そんな気持ちになった。
君まで…………あぁ、そっか……君もそちら側に行ってしまったんだね……
目の前が暗くなりそうになり、僕と彼らを隔てる、そんな白い線が見えた……
僕は静かに急いで席をたつ。数字柄の緑色の鞄をなぜか今日は前で抱えて……一人で下校する。小走りになっていたせいか……バックパックの中が揺れていた気がした。
ドッドッドッドッドッドッドッドッド…………
そう、何度も何度も……
その日、夢を見た。昔の事だ。弟を妊娠してた母と一緒に母方の田舎である九州に行った時。
山と海に挟まれたようなそんな祖父の家で僕は綺麗な蝶を捕まえた。
その蝶は綺麗な青色。そして、斑のような白。オレンジ色の線。凄く綺麗で母に見せたら喜んでくれるだろうと思い、僕は蝶の羽を優しく手でつかみ母の元へいった。
母はとても優しい人。凄く、喜んでくれる。褒めてくれると思った。
「お母さん、これ!」
僕は満面の笑みで蝶を見せた。すると母が表情が一変した。
「駄目じゃないの!」
と言われ、すぐに強く手を叩かれた。
パッシーン!
まるでヒステリックを起こしたような、甲高い声が響く。僕は何が起こったかわからなく、その恐い表情と痛みに僕の顔はだんだんぐしゃぐしゃになり泣いた……なんで悪いか、わからない……
ただただ、『ごめんね、ごめんね……』としか言うしかなかった。放たれた蝶はそんな事はお構いなしに高く高くヒラヒラと飛んでいる。
蝶も僕の感情が写るように黄色い涙を流してる様だった。
そういえば強く叩かれた後、母が何か言ったのかが思い出せない……聞こえなかった……真っ暗な闇……
僕は目が覚めた時、その夢を見るとだいたい、涙が出てる。
おかしいな最近はこの夢はみなかったのに……前に見たのは中学の二年の時か……
その九州の件以来、母はあんなにも激しく怒らないし優しい。
ただ、あの時の母はスゴく恐かった。
友人がお洒落を初めて、何ヵ月経ったか……彼の周りに周りに少し人が集まってくるようになった。
そして最近は、バイトも始めるようになったらしい。だけど、友人は僕の元からは離れずにいてくれる……
元々、彼とは……4月に机の並びが後ろだった事で話すようになった。最初は他愛もない話。
普通に「よろしく御願いします」とか、
「兵庫県から東京に来たばっかし」とか、
「好きな本は?好きな食べ物は何?」みたいな普通に話した。だが彼の話は止まらない。
引っ越したばっかしで不安なのだろう。だが、ある日好きな音楽や好きなお笑い芸人の話で盛り上がった。
いつしか友人と呼んでもいいと思えるようになった。
そんな友人が……今は……
「一条くん!」
その呼び声で我に戻った。
「聞いてる? ちょっと前の僕みたいになってるよ!」
「いや、ちょっとね 」
「あれ、最近テス勉で寝不足とか……あっ、もしかして恋!?」
「そんな事を言うって事は君が誰かに恋をしてるってこと?」
「いや、僕は……違うよ!」
彼は濁すように言った。そして、なんか勝手に照れている。その姿は国民的アニメのじゃがいも少年の様だ。
最近、友人である佐藤くんは明るくなった。周りの人の影響だろうか……
「それで今日、バイト先の給料日なんだけど、前から言ってた古着屋さんに一緒にいかない?」
「あっ……例の……あっ……きょ」
僕は少し悩み、首を傾げた。
「いいじゃない! 楽しいよ。一条くんと一緒に行きたいし 」
彼に僕の好きなオシャレを理解してはもらえないと、わかってるからだ。だって君は……そっち側に行ってしまったから……
「あっ……僕は……」
と言いかけた時、佐藤くんは畳み掛けて言う。
「もし、来たら『魔女』に会えるかもよ 」
「魔女?」
僕はそのワードに引っ掛かった。
「ああ、ほら、前言ってた店員さん。全身、黒い服を着てるんだけど。そこがまた、お洒落なんだよね。 日本人離れした顔つきとスタイルで印象的なのが黄色に近い、明るい茶色の目で。話すとすごく面白いんだよね 」
「へぇ~」
佐藤くんはその女性の話をする時、スゴく嬉しそうにしている。
さっきの発言しかり、そうか……佐藤くんが好きな人なのかもしれない……それだったら納得がいく。彼が急にお洒落に目覚めて古着屋にいく理由が……
なら……
「うん、行くよ 」
僕はそう答えてしまった。
学校を出て、例の古着屋に向かう途中、佐藤くんは、
「そういえば、一条くんの家遊びに行った時、一条くんいつも制服とかジャージか、和服だよね 」
「まぁ、うちは和菓子屋だからね。和服は仕事着みたいなもんだしね 」
「それ以外の私服とかは……」
「うん……まぁ普通だよ。普通 」
「なら、今日は楽しくなるね 」
と彼にはそう言ったが僕は改めて、『普通』ってなんだと思った。
「一条くん!ここだよ!ここ!」
僕はこの場所に魔女(佐藤くんが好きな人)がいるのかと思うと、少しドキドキする。さて、はたして居るのか。どんな顔をしているのか?
店に入り、佐藤くんはキョロキョロし何かを見つけて、その方向に歩いた。
「小野寺さん、前言ったとおり給料日で友人と来ました 」
すると、目の前に佐藤くんから聞いた通りの人がレジカウンターから出てきた。
魔女? たしかにわかるがそんな事より綺麗な人だという方が印象的だった。
魔女は気付き、手を振って、
「やぁ、少年! 待っていたよ 」
と言い近づいてきた。
僕と身長が同じくらい? いや、僕よりも高い……
「あぁ、この子が少年の友人かい?」
「あぁ、初めまして、一条です 」
こういう時は名乗った方が良いかとわからないが、ついつい名乗る。礼儀ある日本人としては当たり前だろう。
彼女は僕の顔を見てから、納得したように、
「うんうん、少年の友人と言うことは私にとって……うーん、なんだろう? 何になるのかなぁ? 少年?」
「いや、何にもならないんじゃないんですか?」
となんか漫才のつかみを見せられてる様だった。
「まぁ、いいや。私は小野寺千里香。少年の友人だから、私の事は特別……」
魔女は顔を近づけ、右の人差し指を自身の唇につけ。
「『ち・り・か・さ・んっ♥️』って呼んでもいいぞっ!」
僕は近づかれてから、ようやく気付き驚き身を引いた。
「あの、僕の友人で遊ばないでください 」
「えぇ、せっかく若人と触れあえるチャンスなのに~、あぁっ! 少年! もしかして嫉妬だな!」
「いえ、その若人が困っているので 」
なんて一般人としてはいいボケとツッコミなんだっと感心していた。
すると、魔女は唇を尖らせる。
「んじゃ、仕方ない。百歩譲って小野デーでいいよ 」
「いや、有名な中堅声優かよ!」
まさかの本ツッコミ。いやいや感心してる場合じゃない。なんだこの人。見た目と中身が反し過ぎている……二人がその後も話しているのを呆然と見てしまった……
その後、魔女が入り直す様に息を吐いた。
「で、少年……今日は何をご所望かな……?」
「えっと、今日は靴とニットとか小物を見ようかなぁ~って」
「うんうん、いいね! 是非是非見てってよ 」
「それじゃ! 」
彼は馴れた様子で意気揚々と店を散策し始めた。
そんな彼に反して、動こうとしない僕に対して魔女は、
「えぇっ!! どうしたの? 君! 君は服をみないのかい!?」
とまるで、わざとらしい感じに驚いてから言う。
「いえ……僕は服とかお洒落に興味無いから……」
「あぁ……そうかい……?」
魔女は少し不思議そうに指を頬に当てて、傾げながら言った。
その彼女の視線に耐えられず僕は話題を変えたくなり、気になった事を質問した。
「あの、佐藤くんの事はどう思ってるんですか?」
「うん、えっと……『一条』……少年だっけ? えぇ! あの、あっ、私は……ふぅ……少年の事…………」
魔女は照れる様に、そして何かを溜めるようにしてから……
「少年の事は、もう、一目会った時からチョー! ラブラブって感じで~! びびっときた、みたいなぁ~!」
と、またもわざとらしい感じで答えた。
僕はその嘘臭い薄っぺらい対応に不快を覚えた。そして冷めた風に魔女を見る。こちらを悟ったのか、彼女は一息ついてから、
「まぁ~真面目に答えると師弟関係みたいなモノだよ 」
と急にトーン落として答えた。
「そうなんですね 」
「あれ、もしかして、少年が私に惚れてると思ったか、私が少年に惚れてると思ったかい?」
「はい、少し……」
「はっはっはぁ!! 悪かったね。ご期待添えず。もしかして、あれかい? 最近の彼の変わりようが、悪い魔性の綺麗なお姉さんさんに引っ掛かって心配だったのかい?」
僕は当てられた事に驚き、それからついつい口をすべらした。
「佐藤くんはスゴく素直で良い奴で……そんな彼だから心配で 」
「それは私もわかるよ 」
魔女は笑顔で答える。
「でも、安心したよ。君みたいな世話好きな子が友人で」
「いえ……僕は……ただ……」
……『同じ穴の狢』を見つけたかったんだ……と思い、少しづつゆっくりと俯いてしまう。
魔女はさらに不思議そうに僕をみた。そして、突拍子もなく。
「一条少年!」
僕は呼ばれて、とっさに魔女を見た。
魔女は右手を自身の顎に乗せ考える素振りで、こちらを見る。
「君、さっきオシャレに興味無いと言ってたが……あれは嘘だろ」
確信を突かれた事で少し動揺した。僕は唾を飲み込む。微かに声を震わせながら
「えっ……どうして……そう思ったんですか……?」
「それは君のバッグから、わかるよ 」
そう言われた瞬間、どうすればいいかわからず、バックパックの両ショルダー部分を握った。
「それはSOUSOUのルコック、バックパックだね 」
そのブランド名が出た瞬間。嬉しいはずなのに隠したい気持ちになった。
「えっ、知ってるんですか……」
「もちろん、SOUSOUと言えば 、日本の四季や風情をポップに表現した京都のブランドだよね。地下足袋や和菓子や家具など豊富に扱ってる。服では現代人が着やすい様な和服や、洋服に少しの和の要素を入れたものや、自転車に乗る人に向けたラインを作ってる。その自転車に乗る向けラインがルコックコラボだよね 」
僕は隠しても仕方ないと思ったのと、真っ直ぐな彼女の明るい茶色の瞳に何か見抜かれてるような……それと僕の好きなブランドを知ってくれてる事により、肩の力が抜けた。
「まさか、SOUSOUを知ってるなんて……」
「もちろん、一応服を扱う仕事をやってるから私は服に関してはとりあえず何でも調べるよ。ちなみに、私も二点ほどルコックの商品は持ってる。着心地は良いし、デザインはポップだし。 あと、君に謝りたい事がある」
「えっ、何ですか?」
「実は私は甘いものが好きで君の家の和菓子屋さんに行った事が何度かある。特にお気に入りは、その月毎に変わる花を模した饅頭は私のお気に入りだ! 中身の餡も月毎に変わってるので楽しみにしてるよ 」
「えっ、常連さんだったんですね。すいません、気付かずに 」
「いや、直接は会ったのは1、2回だったからね。まぁ、その時に、たまたま私服姿の君を見てしまったんだよ。SOUSOUのルコックを身に纏って楽しそうにしてる君を 」
僕は私服を着てる姿を見られてたことに衝撃を受け、何と返そうか悩んだ。
でも、この人は僕と同じモノを持っている。なら……
「実は僕……普通のお洒落がわからなくなってるんです。元々家柄で和服が着る事が多いのが関係してるか知らないですが、小学生の頃。私服で親がSOUSOUを買ってくれてて。僕も大好きで、近所では可愛いやお洒落と言われてました。けど、中学に入ったとたん……あっ、そのえっと……」
僕は中学の時のトラウマが過った。息が少し速くなっていく。変な汗も吹き出てきた……
あの時、普通の人にとっては『いじり』程度の事だったのだろう。でも僕にとっては嫌な思い出として残っている……
「一条少年 」
僕はその暖かみのある声に引き戻された気がした。
「安心してくれ、君に何があったかは全部は聞かない。ただ、もしも……もしも吐きたい事があるなら、私が受け止める。大人は言いたい時に言いたい事をいうんだ。君にならその意味わかるよね 」
「はい……ありがとうございます 」
彼女のさりげない気遣いに、心から畏まった気がする。そして大人な彼女に、なぜか聞いて欲しいと思った事が出てきた。
「僕……すいません、もうわかってるとは思いますがお洒落に興味が無いというのは嘘です……中学のある時を境に僕は雑誌やネットの情報を読み漁りました。もちろん、SOUSOUの服も大好きだし、他の和服系ぽいブランドの服も好きです。洋服では……どうしても柄ものが好きで……ついつい柄モノに手を伸ばしてしまって……」
「ほうほう! いいね! 柄モノ! 私も好きだよ。動物や植物やペイズリーやスゴくわかる! ポール・スミスとかはどうだい?」
「はい。もちろん好きです。ZARAとかも安く買えるので好きですね……」
僕はまるでダムが決壊したように……いや、マーライオンが水を噴き出してるような感じだった。
だが急に盛り上がってる自分を第三者の自分が見て、ふと心の中のソイツが馬鹿にして言う。
『よかったね。変わった人に認めて貰えて……』
それと同時にあの時、母に叩かれた音がした……
パッシーン!
僕は息を飲んで、溢れてくる辛さを抑え落ち着かせた。
僕は話す言葉がゆっくりとなり……魔女はまた少し不思議そうにみている。
「……小野寺さん。話しは変わるのですが、例え話をしてもいいですか?」
「うんうん、話してごらん。あっ、受け止められなくなって、私が潰されたらごめんね! きゃぴ!」
彼女は軽くふざけたがそういう雰囲気じゃないと悟り、仕切り直した。
「うん……どうぞ 」
「はい……蝶と蛾っているじゃないですか」
彼女はウンウンと相槌をうつ。
「蝶は綺麗で普通に好かれていて、蛾は嫌われていて……誰も蛾なんて……好きにならないじゃないですか。それって僕の感性や好きなモノや趣味趣向が蛾みたいなモノで……理解されないんです 」
「蝶と蛾か……」
彼女は真剣に考える素振りをした。
「君は蛾は嫌いかい?」
「どうでしょう? 汚ならしいから、とか。毒があるからとか。でも嫌いというより怖いの……かもです……」
「まぁ、それは確かに……君は日本には、蝶と蛾の種類がどれくらいか……わかるかい?」
「あっ考えた事無かったです。蝶も蛾もあまり好きじゃないので……」
「うん、まぁ、とにかく日本には約240種類ほどの蝶がいて蛾は約4000種類ほどいるそうだ 」
「えっ、蝶より蛾の方が多いんですね 」
「まぁ、身近に見るものだと両方数が限られるからね 」
僕は彼女の知識に敬服する。
「で、世間一般では蝶が好きなのがマジョリティ、蛾が好きなのがマイノリティと思われてる。でも、実際の蝶の数より蛾の数が多い。もしかして、自身がマジョリティと思ってる人が実はマイノリティだったり、その逆もあると私は思っている。あと世界では蝶が約2万種類。蛾は蝶の30~40倍いるそうだ。ちなみに、蝶と明確にわかるモノ以外はすべて蛾になるんだそうだ 」
僕はただ彼女の話しに聞き惚れていた。
「おかしいよね。蝶や蛾本人たちはそんな分類されてる事は知らず、ただ必死に生きているのに 」
「そうですね。イメージで僕たちはかってに判別して……」
「そう、そんな物差しを持ち合わせてる私たちは、結局は凡人なんだよ。映し鏡やショーウインドウや、隣の人や自分を見比べて……その事柄が真っ当と思い込んでいきてるだけなんだよ。まぁ、今のワードチョイスは……多少、ネコとコム・デ・ギャルソン大好き某ミュージシャン先生の考えをオマージュさせて頂いてますが 」
どうりで聞いたことあると思った……そんな彼女のお陰で肩の緊張が抜けた事に気がつく。
僕は彼女に話を聞いて欲しいと思い、そしてまた、突拍子もない話題に移行してしまう。
「昔、ですね……九州行った時、綺麗な蝶を掴まえたんです。ベースは黒ですけど、綺麗な青色で……斑のような白。そしてオレンジ色の線。僕は母に見せたら喜んでくれると思って見せたら、凄く怒られて初めて母に叩かれました……」
僕はその後何と続けばいいかわからなく、考えて黙ってしまった。
だが、そんな様子にお構い無く魔女は、何かを検索していた模様で、
「蝶? ええっと……それはもしかして、こいつの事かい 」
とスマホを見せた。
僕はあの時の感覚が甦るような……ただただ目を見開く。
《サツマニシキ》
その美しい姿。こいつだ、こいつに違いない。えっ、でも……こいつ……
僕が驚きながらも小さく頷くと、彼女も頷き返した。
「うん、ソイツは『蛾』なんだよね 」
「えっ、ウソ……こんな美しいのが……」
「さっき蛾は種類が多いと話をしたろ。蛾の中にも美しい種類なものもいる。ちなみに、ソイツは一応、毒蛾だよ。鳥たちに対して忌避効果のある泡を出すんだ。それが毒々しくみえるし、現にさわると手がかぶれるんだ。たぶん君のお母様は、君が毒に触るのが……凄く心配だったんだよ。きっと……」
「えっ……」
僕は魔女の言葉で当時の記憶が甦る。母はあの後……叩いた後……
「ダメじゃないの! あれは毒をもっているの!」
そう驚いて言っていたんだ。そんなおっかない顔に僕が泣きじゃくってしまう……
「あぁ、ごめんね、痛かったね。ただ、どうすればいいのかわからなくて……あっ……」
母が頭を撫でながら、優しく抱き締めてくれてた。
「ごめんね……ごめんね……」
温かな闇……何度もその声が頭の中に響いた。そうだ、違ったんだ……僕は一回も謝っていない。謝っていたのはお母さんだ……
僕はその事を思いだし、何故か身体が震え出した。顔がぐしゃぐしゃになりそうだったが……初対面の人の前でそんな顔をみせるわけにはいかない。
焦点は狭くなり、視界には膜が張る。そんな狭い視界にまっすぐ何かが差し出される。
白く細くきめ細かく優しい魔女の手……それと、ハンカチ。
それは黒のタオル生地。で美しく白と青紫と赤オレンジのガーベラの様な花が模されていた。
「これで顔を隠しなさい。そうすると見えないから 」
僕は震える手でハンカチを借り顔を下に向け、両手でハンカチを持ち顔を覆うように隠した。
渡されたハンカチから良い匂いがする。優しくも懐かしい匂い。
洗濯物の匂い。お日様のような、それと柔らかいフローラルの香り。僕の激しい息が徐々に整っていった。
「そういえば、これは余談だが……蚕蛾と言うものがいる。彼らは跳ぶことはできない。まして、人の手を借りて生きている。でも、我々は彼らによって糸を頂いている。人に役に立つ蛾もいるんだ。お互いを助け合っている 」
彼女の優しく温かみのある声が響く。
僕は落ち着いたところで、ハンカチを外し、声にならない声で伝えた。
「ありがとうございます……ハンカチは洗って返します 」
「うん、いつでも待っているよ。一条……しょ……」
と彼女は少し考えた素振りのあとに、
「いや!……うん、一条くん 」
としっかり、言い直した。
「はい 」
僕は震えながらだが、小さい声だが強く答える。そして、ハンカチを静かに制服のポケットしまった。
そうこうしてると、佐藤くんが戻ってきて、
「あれ、一条くん見ないの? 色々あるから楽しいよ 」
と言ったあと、僕の様子に気付いた。
「えっ、一条くん! 泣いてる!」
僕は気付かれたくなかったので、急いで手で顔をなすくった。
「いや、ただ目に埃が入ったんだけ。それがうまく取れなくて、困ってただけだよ。そこで、小野寺さんが手助けしてくれたんだ 」
「いや、ぜったい違う! 小野寺さん!! 僕の友人に何をしたんですか!」
すると、彼女は悪戯そうに答える。
「あのね、少年。一条くんとは、この短時間でびびってくるモノがあり、二人は大人の関係になってしまったんだよ。君にはまだまだ早い、大人の関係にね! ねぇっ! 一条くん!」
僕は急に振られて困ったが彼女を見ると可愛らしい少女のような感じがした。
そして……
「はい! そうです!」
と答えた。
「えっ、なんで一条くんは名前呼びで、僕は少年なんですか!」
「君……それは大人の秘め事だよ。それじゃ! 君の事は、少年くんっと呼ぼうか?」
「いや、そう言う事じゃないですよ!」
また、二人の会話が始まった。僕は二人の様子を見ていると鼻から息が抜け、ニヤニヤとしてしまう。
「あっ、そういえば小物コーナーを見ていたんですが面白いモノを見つけて……」
「ほうほう! それはなんだい?」
「いや、ネクタイなんですけど、面白くて独特だなぁって思って……これ……」
僕と小野寺さんは一緒にそれに注目した。
「ほぉほ~!少年なかなか良いものを見つけたね!」
「これ、ブランドなんて書いてあるんですか?」
「これはチャップス ラルフローレンだよ 」
「えっ、ラルフローレンってあの?」
「そう、ラルフローレンで20代から40代の男性をターゲットととした低価格ラインなんだ。トラッドスタイルを現代風にアレンジした、シンプルかつエレガンスのものだよ。そしてそのネクタイは流石わラルフローレン。シルク100%なんだ。なんと当店価格で980円!」
「いや、安いですよね 」
「裏の小剣チップの方のかんぬきが解れて、中の芯が見えちゃてるからね。でも、御直し屋さんとかで綺麗に直して貰えればまだまだ、現役さ!」
「うーん、スゴくいいなぁこれ~」
僕はそのネクタイに魅とれて、ついつい言葉が出そうになった。
そして、
「それ僕が買ってもいいかな 」
佐藤くんはこちらをまじまじと見て、それから少しづつ笑顔になり、
「もちろんだよ! 一条くんなら、絶対似合うよ!」
それから魔女も、
「うん、良ければ着けてみたまえ。一条くん 」
と言ってくれ、魔女は優しく僕のワイシャツにネクタイを通し、絞めてくれた。
シュルシュルシュルッ
ネクタイとシャツが擦れ音がし、緊張と期待に胸が小躍りした。
「さっ、どうだい? ご感想は……?」
「……っほぉ、なんて言えば……いいかわからかいです……お洒落なのか、なんなのか……でも、こいつを気に入りました 」
僕はそのデザインに釘付けになってしまった。紺をベースに、沢山の秋の色を模様したたくさんの蛾がデザインされている。
それから、数日後。朝。12月にしては暖かい。僕は教室の前にいる。
やはり、普段と違う装いだと緊張してしまう……佐藤くんもこんな感じだったのか……
「一条さん?」
ふと呼ばれ、僕は振り向いた。クラスで女子人気のある早川さんだった。
彼女は僕を下から上まで見て、
「一条さん……お洒落ですね!」
と言ってくれ彼女は教室に入っていった。
あんまり話した事は無かったが沸き上がるように嬉しい……それから少し経ってから佐藤くんがやって来て、
「うわ! 何それ、えっ、ズルくないそれっ!」
と言い彼は驚いていた。
裏葉色したワイド型だけどストレートのタックパンツ。グレーに近いインディゴのボタンシャツをインにはせず。ブラウンレザーのコンバースのスニーカー。ブラウンの、生地軽めのミリタリーショートコート。
そして、あの……蛾のネクタイとSOUSOUのバックパック。蛾のネクタイは御直し屋には持っていかず、母に軽くアドバイスを受けながら自分で修復した。プロがやった訳じゃないけど綺麗に整っている。
「それじゃ、一条くん一緒に入ろうか?」
「うん、行こう 」
僕は胸のドキドキとともに、そして友人と一緒に入った。
一瞬、みんな僕たちに注目してたが僕は気にせず自分の机に向かう。佐藤くんも自分の荷物をおろしてる。
すると カツカツカツと足音が近づく音が聞こえた。僕はその音がするほうに首を少し回した。
「おい! 一条!」
声からするに羽田だ。羽田はわざわざ、僕の前に回り込みしゃがんで僕の顔を見て、
「おい!! 何でなんだよ! なんでお前もお洒落なんだよ!」
っと無邪気に言った。
「いや、僕は元々服が好きだったから……」
「おい、嘘だろ……うちクラス、お洒落なやつ多いじゃん。 なぁ、俺にお洒落教えてくれよ!」
「でも、僕の感性はズレてる所があるから……ぜんぜん……」
僕は口ごもったが、羽田は気にせず、
「いや、その個性ちょーいいよ! マジ、リスペクトだわ!」
と言ってくれた。
僕はその発言に息を短く飲んだ。軽い言葉だがシンプルに嬉しいものだ……
「おい、佐藤! お前もお洒落だし、お前らスゲーな!」
と言った。
羽田グループの奴らが一人僕に近づき、急に小声で
「あのさ、俺好きな子がいて、お前みたいなお洒落だったら勇気もって、いけるんだけど……」
と言われて僕は拙いが有る限りのファッションの知識を伝えた。
そいつは満面の笑みで
「ありがとな! 俺もお前みたいにカッコいいセンス磨くわ!」
っと言ってくれた。
女子たちが僕たちを見て、なんか、タ○ツバみたいとかキ○キみたいとかヒソヒソ言ってる。
スゴく恥ずかしい。というか僕たちの世代の話じゃないよ……それ。
でも、すごく嬉しい……
僕の目の前に見えていた白い隔たりの様な線は消えた。
その白い線は形を崩し、一気に空へ翔んでいく、まるで蝶と蛾、両方が一緒に共存しているように……
綺麗に翔んでいった。
そして、僕の世界は夜から朝へと光が照らすように。
帰り道、僕は友人と
「タキ○バだと、どっちかなぁ。僕が翼で、一条くんがタッ○ー?」
「キ○キだと僕が剛で一条くんは光一かなぁ~」
みたいな下らない話をした。
どちらでもいい。『君』と『魔女』と他の人たちが
頑な僕を変えてくれた。
その事実さえあればいい。
ありがとう。顔を合わして言うのは照れ臭いから……
僕はただただ伝えたいが、心にしまった。温かいその思いを。
長いのに読んで頂き誠にありがとうございます!
蛾のネクタイは私が実際もってるモノです。
マジョリティとマイノリティを扱った話だったので……
現実世界ではより、中々ハードルの高い方の題材なので、申し訳ない部分や失礼な部分もあったかもです。
でも、私なりに題材を扱えたのではないかとは思います。
今回も読んで頂いて本当に本当にありがとうございます。
また、次回宜しければお願いいたします!