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古着屋の小野寺さん  作者: 鎚谷ひろみ
bitter&sweet
49/52

24 NO NAME #5

前回の続きです! 田中と華ちゃんのこの先はどうなるのかって話ですね!


今回も長いのでゆっくりと読んで頂けたら幸いです!

24-5 幸せのカテゴリーは懲り懲り






小さい時……親父と母親の僅かに少しずつ、関係が軋みだした時をなんとなく覚えている。親父は家に帰らなくなり、母は強がるようになった。お互いウソを付くのが上手くなって、当たり前になってしまっていた。ふとっ二人を見て思った事がある……


『幸せ』とはなんだろう?


一般的に言うなら……裕福である。美味しいものを食べれる。好きなことをやっている。恋愛している。家族と暮らす。ペットがいる。友人がいる……そして愛すべき人がいる。


なら、あなたの愛すべき人とはどんな人?

親、子、兄弟、仲間、彼女? いや、そこは色々か……

人には、その人なりの幸せがあって、その形に当てはまるかは自然と当人が決めるのだろう。


カテゴライズ……その枠組みはきっと、急に外れたりすることもある……気がする。


俺の幸せのカテゴリーは……その枠組みは、うっすらと消えかかってるのかもしれない。






「ははぁーん! それは倦怠期だな!!」

「なんで、そんなことになってんだ?」


店の閉店後……最近少しよそよそしい俺たちの事が気になったみたいで、鈴木さんが酒ではなく喫茶店で話をしようと俺と店長を誘った。

あれから一週間。だいたい彼女は寝る時は俺に背を向けて寝るようになった。


喫茶店は少年くんが働いている店。少年くんは今日は休みのようだ。

目の前にはホットコーヒーが3つ並べられている。

「いや、なんか華ちゃんも普段は普通にしてるんですけど、所々よそよそしいんです……俺が実家に戻って、家業の事を言ってないのも問題なんですが……」

それから、二人に実家の仕事を継ぐかどうかの相談もした。



「なるほどな……お前が……もし今抜けられたら辛いし……」


店長は唸りながら椅子に仰け反る。

「どちらかと言うと、華ちゃんとの関係が壊れるのが恐いんです」

「まぁ、愛してるもんな」

「あっ、はい……」

「何々、愛してるって?」

「いや、コイツこの前……宣言したんだよ。『華ちゃんの事愛してるし、結婚も考えている』って」

「まじで!?」


改めて、愛してるって言われると恥ずかしくなり、息を洩らしながら小さく頷いた。


「んじゃさ……いっそのこと、もうプロポーズしたら?」

「えっ!」

「その、サプライズ いいな!」


そう急かされ、二人の顔を交互に見てしまう。


「今からですか?」

「今からというか、早めに。女はな……一度、心が離れると取り返しがつかなくなることがあんだよ。だから繋ぎ止める為にも新しいアクション……それも取って置きのサプライズが必要だと思う」

「流石、結婚離婚経験者!」

「離婚経験者は余計だよ」


鈴木さんが店長に突っ込む。


「でも、まだ心の準備が……」

「いや、プロポーズも結婚も度胸と気合いだぞ!……まぁ……うちは流れで、そうなったけど」

「参考にならんな……」

「世間一般な話はそうなんだよ」

「あの……それに、婚約指輪とかも用意してないし……」

「華ちゃんの指のサイズはわかるのか?」

「それは大丈夫です。でも何処の何を買えばいいのか……ネットとかで調べてるんですが有名ブランドだとデザインが似たり寄ったりなんで、俺的にも何か違うかなぁって……鈴木さんの所はどうしました?」

「えっ、ウチ!?……」


彼は、あっーっとうなりながら目を空に逸らした。


「うちは……婚約指輪なかった」


『えっ!』


「だって、あの頃は色々大変だったから! その代わりというか、なんというか俺が……」


自身のメガネを指差す。


「この度あり色メガネを贈られたし……結婚指輪は元嫁が用意したし……」

「ホント、参考にならんな」

「うちはうち、よそはよそだよ!」


そしてその後、三人腕を組み、唸る。

店長が閃いた様に顔を上げた。


「というか、私たち古着屋だからさ」

「まぁ、そうですけど……」

「古着というか、アンティークものの婚約指輪ってどう?」

「アンティークですか?」

「そうそう、アンティークのモノだとデザインへのこだわりがあるし、だいたい一点ものが多いから」

「なるほど……でも店って、どんな所とかにあるんですかね?」

「それなら、任せろ! 私が調べてやる!!」



店長がスマホを取り出し、手を早めに動かして検索をした。



「ここなら、どうだ!!」


スマホを俺たちに見せつける。


「おっ、結構お手軽な値段じゃん!!」

「たしかに、これなら平均の相場くらいで……かつデザインもこってますね!」

「んじゃ、決定な!! 後日買いにいくの、私が着いていってやる!」

「えっ!」


「ちょっと!! いい加減にこの作業覚えてください!!」

「すっ、すいません……」


俺たちの話の佳境な所、静かなホールだったのに店の奥の方から女性スタッフらしい声が響く。その声を聞き、店長が一番怪訝な顔をした。



「だいたい、何回もこの作業のやり方伝えてますよね!」

「すっ、すいません……」


俺たちは気まずくなり、話し声をやめ立ち止まった。


「なんか、こえーし、出るか……」

「あぁ、そうだな……」

「そうしますか……」



俺たちはお会計を済ませようとレジにいくと、40代半ばくらいの白髪まじりの社員らしき女性スタッフがニコニコと対応した。その顔をみるなり店長は、俺に自身の飲んだ分の金を渡し、小さく聞こえるか聞こえないかの声で「ごちそうさま……」っと言って店の外へ出た。

お会計をするさい、つい店員の胸のバッジを見ると『灰田』と書いてあった。




駅までの歩く道中、店長と一緒にプロポーズリングを買いに行く日にちが決まり、解散した。






後日の渋谷南東口、13時。店のイベントが二週間前を切った。


そして、店長と休みを合わせ、現在待ち合わせで大きな商業ビルの前で待っている。


一応、指輪を買いにくと言うことでTシャツとジーパンとスニーカーだが紺のジャケットを羽織る事にした。それと指輪を買った後失くさないように、使いなれているCOACHの革のトートバックを肩にかけて準備は万端。

だが予定の時刻になっても、店長は来ない……


何回も腕時計を確認し、周りを見渡したりスマホを確認するが連絡がこない。


うそだろ……約束を漕ぎ着けといて……遅れてくる、いや来ないってあり得ないだろ?


俺は不安で落ち着かず、腕を組んだ状態で指をトントンさせる。



「田中! 遅れてすまんな!!」


いつも通りの快活な声に安心して、後ろを振り向く。

「あの、遅れるなら連絡くださいよ……うわぁ!」



見ると、金髪にゆるいアイシーカラーのピンクニット。黒のミニスカにロングブーツ。黒のポシェット……なんかよくわからないけど、ベネチアアンマスクを着けた女性が経っている。

「えっ? えっ!?」

「はぁはぁはぁ!! 驚くだろうと思ったぞ田中!!」



そう彼女は我らが……小野寺千里香店長だ。


「いや、何? なんでそんな服装……いや金髪……いやマスク!!」

「いや~渋谷に来るってなってテンションあがってさ~ギャルみか、外国人みをだそうと思ってな! あっ! ちなみに金髪は私の変装道具の1つのウィッグだ!」

「いやいや、ギャルみも外国人みもいらないですよ! それになんですか? そのマスク」

「カッコいいだろ~私の部屋のインテリで置いてあるだが、たまには使おうと」

「そんなの着けてたら、職質に遇いますよ!」

「渋谷だし、大丈夫大丈夫!」

「流石にそれは……店長……」

「まって! 今日の私は店長と呼ばないで! せっかくの任務なんだ。別の名前を考えてある。折角、指輪を買いに行くのに『店長』と呼んでいたら、向こうの店員も困惑するかもしれん」

「えっと、困惑しますかね?……それに別の名前って……ちなみに、なんて名前ですか?」

「プリンセスコンスエラバナナハンモック」

「いや、長い長い長い!」

「えぇ~せっかく気に入ってるのに~」

「別名なんていらないですよ!」

「待って! 他にも考えててあるから」

「何ですか?」

「ふっ、私の事は、火消し屋のウィドウと呼んで貰おう」

「何ですか? その中2くさい二つ名みたいなヤツ。とにかく、そのマスクだけは外してください」

「もう! しょうがない……」


彼女はマスクを外し、髪をふわってあげ……そしてすっと大きめの黒のサングラスをかけた。


「じゃ、クアトロバンビーナでいいよ」


彼女は少ししゃがれた声と流し目で言った。


「サボテンが、赤い華をつけている……」

「なんですか、それ……なんか嫌だな……」

「とりあえずアメリカとドイツのハーフ、27才という設定な」

「何ですかその設定……それと年齢、微妙にサバ読まないでください……」



俺たちがそんなくだらないやり取りをしてると、視線を感じ、その方向に目線をやる。

目が合うと、その女性がジーッと見てきて会釈をされそこで気がついた。

華ちゃんに一度、紹介された華ちゃんの友人だ。 その女性はゆったりと俺たちの方に近づく。


「あの、田中さん……ですよね? お久しぶりです」

「あの、お久しぶりです」


軽くお互い会釈する。そこから言葉は続かない。そして、明らかに横にいる金髪のサングラスの店長をジーと見ている。


「私は買い物に来たんですが……えっと、こちらの方は……?」


咄嗟に色んな事が頭に過る。


どうする……正直に職場の上司と一緒に、華ちゃんへの婚約指輪を買いに来たって言うべきか……いや、せっかくのプロポーズだし、サプライズが台無しになる……知り合いって言うべきか?……というか、さっき言ってた、店長の偽名なんだっけ……? プリンセス……バナナ何とか……くそ思い出せない……火消しのウィドウ? うーん……


フリーズして考えること3秒、答えが出ず咄嗟に出たのが

「大学の時の知り合いで、クアトロ バンビーナ さんです」

ついつい、目線を下げてしまった。


「コンニチワ! ワタシ、ニホンゴ、ワカリマセン」


おい! 余計な事を言うな!!


「はっ、はぁ……」


ほら! 困惑してる!!


「あのそれじゃ、俺たち今から用事があるので」

っとそそくさと、去ってしまった……



ヤバい、怪しまれてないだろうか……でも余計な事を流石に言わないだろう……


「ふっ流石私、完璧な外国人を演じられた」

「何が完璧ですか! 怪しいと思われたかもしれないじゃないですか!?」


店長楽しそうに俺を抜き、先頭にたち早足で歩く。


「さぁ! 善は急げ!! 良いアンティークの指輪が売り切れちまうぞ!!」



店長は足取り軽そうに走り出し歩道橋の階段を駆け上がる。俺はそんな店長を追いかけた。






渋谷駅南の大通りをまっすぐ10分ほど歩き、交差点の北の方の小道に入ると、灰色の角ビルが見えた。


左側の道からショーウインドーになっていて中が見える。

店内は全体的にアンティーク調で広さ八畳ない程だ。

店員はパーマかかった黒長髪で、髭を生やした40代くらい。オーバーサイズのベージュのニットと、ブーツカットのデニムを履いている。柔らかい笑顔で、すでにいるカップルを接客している。

真っ正面から見ると、レジカウンターに入って接客している店員と後ろ姿の身長差があるカップルという絵面だ。


「さぁ! 我々も入るぞ!」


そう言われ、俺たちも中に入って行った。




入り口右側には、レトロな大きめなランプが置いてあり左奥から観葉植物が置いてある。そして隣には棚があり、銀の花瓶には桃色のたくさんの小花が添えられている。

レジカウンターは右側奥よりにあって、その上にはこの店に唯一似つかわしくないスマートタブレット鎮座している。

壁には抽象絵画が、大きいのと小さいのと二枚飾られていた。


肝心の商品は、観葉植物の手前側のショーケースの中と、その横の台の上のアクセサリーツリー自体飾られている。それから真ん中にある四角の大理石のテーブルの上。

そして、一番高そうなモノはレジの左横、木目調のショーケースの中だろう。




とりあえず、他のお客さんと店員さんに迷惑かからないようにまずは左側にある商品から順番に吟味していく。



「ほほぉー! なかなかお洒落でいい店だな~」

「えぇ、商品も味のあるものが多くていいですね」

「まぁ、私の目なら華ちゃんに似合うものを見つけれそうだ」

「ホントですか?」

「田中、大丈夫だ。安心しろ!…………」

「てんっ……いや、クアトロさん。ギャルみと外国人みの設定、何処かに消えてますよ…………」


「えっ!?」


俺たちが顔を見合せくだらない事を言い合っていると、カップルの奥側にいた女性が小さく声を上げた。

店長はその事は気にせず、レジ横の木目調のショーケースの方に移り、吟味している。

俺はその『えっ!?』が気になり、その女性の方を向いた。



その女性は綺麗な顔で、相変わらずショートヘアーにパーマをかけて綺麗な花柄のワンピースを着た女性……そう、三年前……俺のせいで、店を去った花蓮ちゃんだった。


目線が合い、お互い固まる。


「どうかした? 花蓮?」


隣の男性が彼女の様子が気になり声をかけた。


「ううん、何にもない」


そう言い、隣の彼に何もなかったかのように顔を戻す。




俺の中で数年前の記憶が甦り、自己嫌悪がこみ上げた。

いっぱいいっぱいになり手が震えだす。

「クアトロさん? ちょっと目眩がしたので……外の空気吸ってきます……」

「おう、わかった!」


店長は俺のことに目もくれず、張り付く様に商品を吟味した。




外に出て、ショーウインドーとは別の方の店沿いの壁に凭れ両手で顔を押さえ、ため息が出た。



何やってんだろ……俺……逃げてしまった……



その数秒後に店のドアが開き、花蓮ちゃんたちは買い物を済ませ、楽しそうに会話をして去っていった。

二人が去ると力が抜け、その場にしゃがみこむ。




うわ……俺、ホント最悪だ……というか何でいまさら……このタイミングで……会ってしまったんだ……いや、向こうもきっと同じこと思ってるんだろうな……


その同じことがぐるぐると頭の中で巡り、暗闇の中で数分経った。




「田中さん……」



そう呼ばれた気がして、ふと顔を上げた……いや、気のせいではなく……目の前に花蓮ちゃんが立っている。

「えっ、あっ……かっ、海道さん?」

そう言うと同時に、俺は自然と立ち上がった。そんな俺の様子に彼女は鼻から息を洩らした。


「お久しぶりです」

「おっ、お久しぶりです」

凛と立ったその姿は、俺よりちゃんとした大人だった。


「田中さんは、まだトレアイに?」

「あっうん、正社員として働いている」

「そうなんですね」

「海道さん、さっきの人は待たせて、大丈夫なの?」

「スマホを……店に忘れまして、戻ってきちゃいました。彼には大通り沿いのコンビニで、買い物して待って貰っています」

「そっか…………あの人とは、どういう……」

彼女は澄ました顔から、嬉しさを隠すように、微かにきゅっと口角をあげた。


「婚約者です」


その言葉を聞き、ついつい驚き俺は口が開く。だがその開いた口を直ぐ様、右手で隠した。

「そっ……か」

抜けるように出た言葉が目の前でぼんやりと分散する。だがその自身のダサさにすぐに気付いた。そんな自分と別れをしたく、口から手を離し首を降り息を吸った。

「本当に、おめでとう! ……海道さん、今、幸せ?」

「はい。幸せです」


彼女はしっかりとまっすぐ、俺に答えた。俺の中で少しの切なさと安堵が広がっていく気がする。

「なら、よかった」

「田中さん、隣にいた方はお付き合いしてる方ですか?」

「いや、今の上司で、ホント変な人なんだ……でも、俺も結婚するんだ」

それを聞き、彼女は小さく頷く。


「おめでとうございます」

「ありがとう。あっ、なんかごめん。引き止めちゃって、彼、きっと待ってるよね」

「そうですね。そろそろ行きます、それじゃ」

「じゃ……」


彼女は笑顔で会釈し、前へ進む。


ふとっ頭の中で、過去に彼女と働いた日々が……何枚かの写真の様にフラッシュバックした。

だがそんな俺の過去より……先程の彼氏さんへ向けた、彼女の笑顔が鮮明に過る。



きっと彼女は本当に、幸せのカテゴリーが当てはまる理想の相手と……巡り会えたんだと思った。



振り向かない彼女の背中に俺は何回か小さく手を振り、それから指をおる。

「どうか、お元気で……幸せになってね」

と小さく呟いた。




「田中! もう大丈夫か?」

「店長、いるなら言ってください!」

「私の最近の趣味は、気配を消す事だから。んで、大丈夫なのか?」

「はい。 スッキリ、しました」

そう言った俺の顔を店長が、近くでじろじろ見る。


「何、もしかして……さっきの女の子、お前が昔泣かした子?」


そう言われ、何故か息が抜ける様に笑ってしまった。

「いえ、大切だった……知人です」

「そっか!……なら、ちゃんと、お別れできたんだな」

「はい」

俺の返事で彼女は俺の背中を叩く。

「いたっ!」

「もう、お前が外にいる間に私が良いものを選んだんだから、さっさと見て考えろ」


そう言って俺たちは、また店に入った。






「さて私が値段と質、そして華ちゃんの事を考えて選んだのはこれだ!!」


店長は木目調のショーケースの方に、手を翳す。



そこには、真ん中に真珠。その上下には直径2mmほどのダイヤが煌めき、サイドには小さなロズカットのダイヤモンドがあしらわれている。

華やかでいて抑制の効いた、美しいアンティークリングだ。

「綺麗……えっとダイヤと真珠ですか?」

「あぁ、まぁ普通プロポーズリングにはダイヤモンドがていばんなんだが……まず、婚約指輪には、古くから『約束』や『契約』、そして『永遠の愛』という意味が込められてきた。生涯をともにするという約束を目に見える証として残すものでもあるからな。そこでダイヤモンドは最も硬い宝石であることから『固い絆』の象徴としてこめられている。それに美しく透明であることから、純真無垢さや潔癖さを意味する宝石として婚約指輪に重用されてきたらしい」

「なるほど……それで真珠の意味は?」

彼女は手を差し出し、指折りに数える。


「『健康』『長寿』『円満』『無垢』などの石言葉が秘められて、縁起がよいとされているんだ。だから、婚約指輪に真珠を選ぶ人もいる。それと、真珠には『愛』のエネルギーが秘められているともいわれていて。2人の愛や絆をより一層強いものにする。まさに婚約指輪にぴったりな宝石だ! それに真珠は少し手入れが掛かるから、二人で育むと意味を私は込めたい。それと、古代ローマでは鉄の輪をはめる習慣があって、時が過ぎて金の指輪になったそうだ。あと、エジプトの象形文字で結婚という言葉は、永遠という意味合いを持つ『円』だったそうだ。指輪の円の形には『永遠に途切れない』という深い意味が込められている。なぜ、左手の薬指なのかは、これも昔のエジプトの考えで、薬指は心臓につながる太い血管が通っている指と考えられていたからだそうだ。愛の誓いのため、永遠の結びつきのために左手の薬指に指輪をはめるようになったんだと」

「なっ、なるほど……やっぱ詳しいですね」


彼女は、顔を赤らめ両手を合わせ頬に添える。


「そりゃ、私も……いつか巡り合うラマン、ハニーのお嫁さんになるんだから~ そして私の知識をすべて彼に、ブチこんで! ちゃんとしたモノを選んで欲しいんだもん~」



やっぱりこの人、恐い……この人の愛する人になる人って……武勇を重んじる嵐の神か、はたまたインドの物理学者くらいだろう……


ついつい苦笑いしてしまう。そして、本題の値段に目を向けた。

「えっ、26万4千円!?」

「いや、ちょうどいいくらいだろ~」

「いや、20万前後くらいで考えてたんですけど!」

「この際、変わらんだろ」

「人のお金だと思って……」

「ここは男らしく、清水の舞台から飛び降りて、ささっとおっちね!」

「いやですよ」

「婚約指輪は、財産にもなるからもし、今後お金に困った時に売るって方法もあるぞ」

「それも嫌だなぁ……」

そして、彼女は俺の方に手を差し出した。


「さぁ、どうする?! お前は華ちゃんに捧げるエンゲージは?」


サングラスの奥から、真っ直ぐなタイガーズアイの様な目が俺を逃がさない。

「わかりました! 買います!!」

「おっ、男が上がったな!」



俺は指輪を手に入れ、使いなれているトートバッグに大切にしまった。






後日、早番の日に華ちゃんとフレンチレストランでディナーの約束をした。


レストランでのディナーという事で、彼女ははしゃぎお洒落をしてくれている。俺もBEAMSのミッドナイトネイビーのスーツにCELINEのネクタイとdunhillのネクタイピン、GUCCIのビットローファーとフォーマルな格好をして挑む。



4月22日(土)、大安吉日。




「へぇ~ホント駅近くにフレンチレストランがあったんだ~」

「いや~ここ入ってみたかったんだけどなかなかね」


俺たちは席に着き、ドリンクのメニューを吟味し注文した。注文してからも華ちゃんはメニューを見続けいる。


「すごい。フレンチなのに値段もそこまで高くないし、お店の雰囲気もカジュアル目で気後れしないね」

「うん、今日はコース料理だからもう決まっちゃってるけど、ランチとかもやってるみたいだし、また来るのもありだね」

「でも店長も急だし、気前いいよね! ホントはお兄さんとのディナーが中断になるなんて」

「まぁ、お金先に払ってたからキャンセル勿体ないっていってたから。それと日頃の御礼だって」

「まさか!」


華ちゃんが何かを思い付いたように、口を開けた。


「ホントは彼氏さんとのデートだったりして、それがキャンセルになったのかなぁ~」

「そうかもね」


プロポーズするのがバレたのかと思い少し焦ってしまった。




『よし! レストランの予約し、コース料理分のお金は私が払っとく。なに、これは私からの小さな婚約祝いだ。あとのプランはお前が決めろ!!』




そう言われても、特別なプランなんて思い付かず現に至るわけだ。


なんて事はない、後はデザートの時に、プロポーズをするんだ。

シンプルに『結婚してください』っと……


そう考えながら次々とくる料理を口にする。


「おいしい! すごく美味しい!! ねっ、良顕くん」

「うっ、うん。さすが、美味しいね」


おいしい……はず。いや緊張で味がしない。華ちゃんとの会話もある程度できてるが自分の中では整理ができず、ぎこちなさを感じた。




ようやくメインディッシュを食べ終え、次はデザートになる。店員さんにコーヒーか紅茶を聞かれ華ちゃんは紅茶、俺はコーヒーを選んだ。


「ちょっと、お手洗いいってくるね」


彼女が立つと俺は鞄から婚約指輪の小さな箱を取り出しギュッと握りしめる。そして、トイレに行く彼女の背中を目で追いかけた。すると、ちょうどカップルらしき御客さんが来店する。。


華ちゃんはそのカップルを見て、立ち止まった。


「あれ? 華、来てたんだ? 偶然だね」

「えっ、あっ、うん……」


男の方に話しかけられ、華ちゃんは気まずそうに顔をしかめた。彼の顔を見て、そして見覚えのあるネクタイを見る。

先日店に来て、ネクタイを買い華ちゃんの事を尋ねた男だ。


いや、それより……二人が並んでる姿で、より昭然に浮かび上がったのが元カレだということ。

昔、華ちゃんが見せてくれたスマホの画像に二人並んだ姿と重なった。




「この前の事、真剣に考えてくれてる?」

「いや、ちょっと……」

「華なら喜んでだし、例の件も考えといて」

「まぁ……」


彼女が気まずそうに……こちらに目線をやる。その様子に彼は、あっと口を開いた。


「あぁ、ごめんね! 僕、気がつかなかったよ。そりゃ、お連れさんがいるよね」

「うん」


彼はこちらを見て笑顔で会釈する。


「僕も、ここには何回か着てて、ここの料理おいしいから、華たちも楽しめると思うよ」

「私たちは、あとデザートだけだから……私、お手洗い……」

「ごめんね」




そして、華ちゃんはお手洗いに行き、彼らは俺たちと少し離れた席に座った。

通りすぎる際、彼の隣にいる女性はすごく不服そうな顔をしている。



そりゃ、そうだ。もし仮定で付き合ってる相手が、すごく親しげに異性に声をかけていたら腹が立つものだ。


俺も現にむかっ腹が立っている。

なんだよ。何度も『華』って読んで……それに、一人称が『僕』って良いとこ育ちかよ……鼻持ちならない。





俺は婚約指輪の箱をギュッと握り、無意識にしまった。


今回も長いのに読んでいただき誠にありがとうございます!

婚約指輪を買いに行こうぜって流れからの元好きだった人との爽やかな決別。元カレが分かりやすく出てくるとなかなか盛り沢山の内容でした。


まぁ、某ロボットモノシリーズの小ネタから私の好きな海外ドラマの小ネタが入っています。

あと内容は全然違いますが『花束みたいな恋をした』を見て、私なら元好きだった人と会ったときに爽やかな別れをイメージして描いております。


今回も楽しんで頂けたなら幸いです。また読んでいただけたら嬉しいです。

今回も長いのにありがとうございましたm(_ _)m!

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