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古着屋の小野寺さん  作者: 鎚谷ひろみ
bitter&sweet
47/52

24 NO NAME #3

お久しぶりです。だいぶ久々の投稿です。最近仕事が忙しくなかなか余裕がなかったので(汗)

前回までの内容がうっすらとしてしまってたら申し訳ございませんm(_ _)m


田中と華ちゃんのお話の続きです。今回までが過去話です。

楽しんで頂ければ幸いです!

24-3 そしてひねり出した答えは






そして、俺の新しい店での日々がはじまる。


初出勤当日、店には入り意外な光景が目に飛び込んできた。



『花蓮ちゃん?』



パッと見たとき、後ろ姿が似ていた気がして、動揺してしまう。彼女が振り向くと、全然別の和風な可愛らしい女の子だった。



花蓮ちゃんより、一回りほど身長が高く155センチほどの、同じくらいのショートヘアだがサラサラなストレートの黒髪。見た目が似ているというより、雰囲気が似てる気がした。



「よぉ! 待ってたぞ。 田中! さぁ、仕事やるぞ!! 」

「はっ、はい」

「あぁ! コイツは、峰岸 華っていうんだ 」



彼女は軽く頭を下げ、俺もそれに反応して頭を下げる。

その俺たちの姿に、鈴木さんが鼻で笑った。


「なんだよ! お前らコミュ障かよ! ていうか、こう言う時は後から来たお前から、名を名乗れ!」

「あぁ、はい……田中 良顕です。よろしくお願いいたします」


彼女は俺の方をジーッと見ている。


「ほら、お前も自分で名乗れよ」

「は、はい。峰岸 華です……こちら、こそ……」




そんな、最初はコミュ障同士の挨拶が終わり、鈴木さんが呆れて頭を掻いた。


「んじゃ、もう、とりあえず……華、お前がこの店の事をコイツに教えてやってくれ」


鈴木さんに教えてもらう前提だったので、ついつい難色をしめしてしまう。

「えっ、鈴木さんは?」

「俺は忙しいんだよ」



そう言いながら、鈴木さんは去りながら手を振る。



「とりあえず、店内を案内しますね」

「はい」



それから、彼女は俺の事を案内し、ここの店での仕事の仕方を教えてくれた。


そして当然、暇な無音な気まずい時間がやってくる。




すると、彼女から話題を振ってくれた。


「あの、鈴木副店長とはどういう関係なんですか?」

「前の店で、一応お世話になって……」

「あの人、そんなイイ人なんですか?」

「ああ見えても、いい人ですよ」

「まだ、1ヶ月くらいしか一緒に働いてないので、わからなくて……」

「そうですよね。まぁ、あの人けっこうテキトーですから……」


そう苦笑いしながら彼女の方を向くと、すごく納得してるらしくウンウンと頷いていた。


「そうなんですよね……綺麗好きかと思うと、以外に適当だったり……かと思いきや変な拘りがあって」

「そうそう……」


そこから、以外にも鈴木さんの話題で盛り上がる。悪い所があってくれて鈴木さん……ありがとう……


そして、趣味の話になった。



「私、映画観るのが好きで……」

「洋画派? 邦画派?」

「邦画派です」



そこから、彼女と話は盛り上がったり盛り上がらなかったり……でも、そんなに苦痛ではなく、以外にも仕事場でそこに居てくれるのが自然となっていった。



それから話す割合は俺が6割、彼女が4割。それでも彼女は文句も言わず、考えながら返答をする。

時には彼女から話題を振ってくれ、その返答を考えながら返す。

そして、会話の比率も逆転していった。




仕事では、俺が忘れてる事を彼女がカバーしてくれたり、彼女の忘れてる事を俺がカバーしたり……以外にもいいコンビになってきてたと思った。


そして、他のスタッフ達からも信頼を獲る事ができ、幸せな生活を送る。



それから彼女とは……信頼が出来てしまった……




彼女の事を知っていく……

彼女は大学3年生。就活も忙しい中、気晴らしにここで働いてくれている。



仲良くなると彼女は自分をさらけ出してくれ、以外にも楽しくて俺よりも明るい。その反面、すごく物事を客観的に見れて、自頭がいい……

そして特技は和服の着付け。趣味は旅行で、世話になってるからと俺個人にお土産を買ってきてくれたりした。



気が付くと心の中では『華ちゃん』と呼んでしまっている。



そして彼女の友達の話や、恋愛の話……また距離が近づいてしまう。




華ちゃんの彼氏の話になり写真を見せられる……

俺より一つほど年上で身体が大きく、柔道をやっいたそうだ。そしてまたも医者……今度は内科の先生……




俺の親しくなる女性はなぜ、医者関連なんだろう……と自身の人生の皮肉に笑えてしまう。




だが今度は間違えない……もう、職場では人を好きにならない……それに前回の事で懲りただろう……




前いた店での事……花蓮ちゃんの最後の去る時の横顔が過り、胸を締め付ける。


そうだ、今度はもう間違えない……俺たちは仕事の関係で上手くいっている……俺は大人なんだ……彼女とは信頼できる仕事のパートナーなんだ……


そう思っていると納得できて、安心する事ができた。






だが、そんなある日……映画を観終わった夜、帰り道……

当時居た、俺より後に入ってきた大学一年生のギャルなスタッフから、直接俺にLINEが来る。




『田中さんに~聞きたいことあるんですが~』


既読 『なんですか?』


『ええ~』


『どうしようかな~』


『やっぱりー』


『えっとー』


『やっぱり、聞いちゃお~笑』


『峰岸さんのことすきなんですか? けっこう、したしくしてたから~ ちょっと気になって~』




俺はそのギャルの事が苦手だ。少しでも暇な時間にはスマホをいじったり、年上と話す時も敬語を使わず、小馬鹿にするような態度をとる。だが、相手は所詮大学一年生……こちらはいい歳した大人だ。

適当にあしらおう。


そう決めてLINEの返信を綴る。




既読『うーん、真面目に答えると好きというか推しだろうね……まじめでちゃんと仕事してくれてるから。

本当助かってるから感謝してるかな』


『なるほど、推しって事は……好きなんですね』

『応援してます(笑)』

『あぁ、スッキリ!!』


既読 『たぶん、恋愛感情とは違うと思うよ。信頼だと思う』



『なるほど~』


『信頼から恋愛に発展すること願っときます♡』


『すみません、ありがとうございました(笑)』




そんな、くだらない恋愛脳の女のLINEのやり取りを済ませ、スマホを尻ポケットに入れた。




俺の返答は正しかったのか……華ちゃんに迷惑はかからないか……華ちゃんは実際俺の事をどう思っているのか……色々な思惑が入り交じる……

そして、空を見上げると真横を通りすぎる矢の様に、流れ星が過ぎた……





後日、いつも通り彼女と顔を合わせる。

何て事もない、大切な仕事仲間だ……



だが一緒に働いていると、ついつい彼女を見いってしまう……


その白い肌や切れ長の目、可愛らしい鼻、一緒に話すと早口になり、子供っぽく話し赤くなるその笑顔。さらさらの髪……

仕事で俺のやり方を自然と真似してくれ、以外に気を使ってくれる優しさ。

細かい所にも気が付き、最後までやり、後輩指導をしてくれる真面目さ……

人間性もちゃんとしていて、遅刻もしないし欠勤もしない……悪口も言わない……将来の事もしっかり見据えて行動できる……



本当に素敵な女性だ……



ふと考えたが、我に戻り首を振る。自身がすごく彼女に惹かれている事に怖じ気づいた。



いけない…………もう、同じミスはしないんだ……職場では恋をしない。

現に今、ドキドキとかはない……彼女とはこのまま仕事の仲間の関係を通さないと。

もし、何かあったとしても……見守る。大切な女の子なんだ。



だが…………君が好き……君が好き……




そう決めるが煮え切らない日々が過ぎ去る。









彼女との関係も一年が過ぎ、華ちゃんは本格的に就活を初める。

だが人生とは皮肉なモノで努力だけではどうにもならないし、環境や人間関係……蔓延している病気……そして恋愛は人の今後を変えるものだ……

それは彼女の就活を始めた頃に、華ちゃんの彼氏との関係が悪化したからだ。



最近彼氏と喧嘩をしたらしく、理由は彼が医療関係の女の後輩からよく相談を受けているからだそうだ。

浮気かどうか。わざわざなんで彼氏が直接相談に乗らなきゃいけないのか……等々。



そういう事を一回ぼそっと

……ぼやいていた……


ただ、彼女から言わせると彼氏は俺に似ているらしい。

その言葉に満更ではないが、どことなく胸を小さな針でチクりとさされる感じがした。


そして彼女から、「その彼氏の事どう思いますか?」と問われた。

もちろん、非難したい所もある……だが彼女、華ちゃんが選んだ人だ。

「峰岸さんが選んだ人だから、きっと大丈夫」

俺は……今度は間違えない。推しに彼氏がいたとしても彼女の幸せを見守るのが……俺の役目なんだ……

そう改めて決意をした。




彼女は働いてる時は普通に振る舞うが、やはり顔に影がさしている。僅かに顔も体も痩せてる気がして心配になる。

でも聞けないし、彼女は言わない……それでも、フォローできる事する。

歯痒くはあるが、そこはお互いに境界線を張る。

自分のためでもあるし、彼女のためでもある。大切だからこそ踏み込んではいけない。

そう考えていると彼女との会話は恋愛の話や就職の話をさけ、ただただ楽しいだけの中身のない話になっていった。






月日は流れ、彼女がトレアイを辞める2月が近づいた。

いつも通り一緒に閉め作業をし、「いままでありがとう」と言い合い寂しい空気が流れる。そんな空気を払拭したくお礼を込めて餞別を渡した。


色とりどりのマカロン。最後に彼女に笑って欲しくて選んだ。

お菓子を送るのに、お菓子それぞれにメッセージと言うものが込められているそうだ。

きっと彼女はそんな事知らないだろうし、俺の気持ちなんて知らない。

それでも、変に好きというメッセージを込めたものは迷惑だと思った。

でも、だからこそ俺はマカロンを選んだ。マカロンの意味は……『特別な人』そういうメッセージ。それゆえにその送る相手に、頑張れというメッセージも含まれるそうだ。



「えっ、マカロン?」

「嫌いだった?」

「ううん!」

「よかった」

「なんかいつも……私が助けて貰ってるのに、申し訳無いです」

「そんな事ないよ。俺も助けて貰ってるし……感謝しかないよ」



そんないつもより拙い会話が続くが気まずさより離れ難さが心に募った。


どちらが『さようなら』を告げるか、その選択がまた場を静かにさせる。



「あの!」



彼女が先に口を開いた。

そうだよな……時間なんていくらでもある訳じゃないし、好きな人との時間を大切にしたいよな。


そう思うと、ため息がこぼれ口を結ばせた。



「い、今から一緒に……飲みに行きませんか?」


俺は耳を疑い、彼女を真っ直ぐに見つめた。そんな彼女も恥ずかしそうにしながらもこちらを真っ直ぐと見てくれている。


「うっ、うん」



まさかの流れで整理がつかず、そう告げた。






「峰岸さん、いままでお疲れ様でした」

「田中さんのお陰で仕事すごくやりやすかったです。私、楽できました」

「楽ってなんなの?」

「えへへへ」

「それじゃ」


『カンパーイ!』



カシャン!!



俺たちの回りだけに響き渡る。場所は駅の北側の飲み屋が集まる商店街。

周りは賑わっており、俺たちはカウンター席に座る。

俺はビール。彼女は葡萄酎ハイ。話題は店での延長線の事……はまってるモノや周りの人たち、仕事場でいままで起きたことを振り返る。

まぁ、その内容のうち鈴木さんの事が3割。



以外にも話せる事は尽きない。飲み始めてあっという間に1時間ほど過ぎようとしていた。時刻は22時過ぎ。さすがに女の子をこれ以上引き留める訳にいかないと思い、切り上げた。



お会計を済ませ、店の前に出てまぁまぁ酔った俺たち。

彼女は駅とは反対側に勝手に歩きだし、それを追いかけていく。



「どこへ行くの?」

「酔ったので、酔い覚ましに散歩して帰ろうと」

「歩ける距離なの?」

「二駅先なんです」

「そっか……」

「田中さんは電車大丈夫なんですか?」

「一応、まだ大丈夫だから……俺も酔い冷ましに散歩でも」

「散歩、悪くないですよ」



俺たちは、国道を歩き始めた。

黙って歩く彼女を見つめては、また前を向いて歩く。

淡々とした会話の後は二人とも黙って歩く。目線もどうすればいいかわからずひたすら前へ。


信号が赤になり立ち止まる。ちょうど近くにくたびれた自販機があり、酔いざまし温かい缶コーヒーを2つ買い彼女に1つ渡す。


「ありがとう」

「いいえ。家までけっこう歩くんだね?」

「はい。まぁ、今日が初めて歩いて帰るんですけどね」

「大丈夫なの?」

「大丈夫です」



プシュ!



缶コーヒーを開けて飲む。そして慣れたテンポの会話に安心してまた歩き出した。



「田中さん……いつもありがとうございます」

「また、改まって」

「最近は楽しい会話だけだったから……気を使わせてしまってたかなぁって」

「そんな事ないよ」

「最後に暗い話は避けようと思ってたんですが」

「ん?」


彼女を見ると、悟った顔で空を見上げていた。


「就職……コロナでダメになっちゃいました」

「えっ」

「はい……急ですよね。この先どうなるかわからないから今年の採用は見送るだそうです」

「ひどい」

「私の周りもちらほらそういう話出てますね……それと、彼氏とも別れちゃいました」


『彼氏と別れた』というワードには反応ができなかった。


「あの人……海外で医療勉強したいって、世界の貧しい子供を救いたいとか言って、そこから言い合いになり喧嘩が増えて……コロナ前に別れたんです……あぁ、なんでこうも上手くいかないですかね。私は尽くせるだけ尽くしたと思ったのに」


彼女は切なそうにしながらも、その事に関しても過去の出来事の様にあっさりと言う。


そしてけっこう歩き、歩道橋が見える。


「あれを渡ったらもう家の近くです……あぁ、こうやって愚痴を溢せるのも終わりなんだ」


彼女の投げ掛けていない言葉は場に浸透させ、走り行く車の音に書き消される。


歩道橋をゆっくりと上がっていく。上につくと冷たい風が身に染みた。

街灯や車のライトが淡く見え、星はギラギラと突き刺さるように光を放つ。

月はまるで二重円を描き、刃物の様に強くもそれでも優しく俺たちを照らした。

「つ、月が綺麗だね」

「えっ……」


その言葉に彼女が動揺した。

「えっ、変な事言った?」

「ううん」


彼女は首を降り、息を微かに吸う。


「確かに、月綺麗だね」


そう言うと二人で歩道橋の真ん中で一緒に月を見上げる。


「夏目漱石はI LOVE YOUという言葉を月が綺麗ですねって訳したんだって」

「そうなんだ。そういえば月でウサギは餅をついているっていうけど中国では薬草を挽いているって話があるね」

「へぇー……でも、もしかしたらそんなウサギたちは嘘をついているのかも……」



不意に告白の様な言葉が出てしまい内心動揺する。鼓動は止まりそうだけど、この状況は嘘ではなく真実だ。

「峰岸さん?」

「なんですか?」

「この先、どうするの?」

「うーん、わからないかなぁ……」

「そっか……」

「資格の勉強とかは始めたよ」

「何の資格?」

「一応、簿記。たまたま古本屋でぼーっと見てたら、手についてね」

「ホント、堅実なんだ」

「そうかな……まぁ……それと実家に戻ろうかなぁって考えてる。まだ決めてないけど」



その言葉にもう会えないのかもと思うと胸が苦しくなった。

ただ彼女を支えたい。その想いが俺に浸透した。


「峰岸さん……もし……いっ、嫌じゃなかったら……俺と付き合ってくれませんか?」

その言葉に彼女は目を見開いている。

「俺は君を支えたい。一緒に居たいんだ……俺と真剣に付き合ってください」

気がつくと頭を下げ、震える右手を差し伸べていた。

ふと、花蓮ちゃんの事が過り恐くて顔を見る事ができない。


「田中さん。顔を上げてください」


そう言われ顔をあげる。彼女は戸惑いながらも弱い力で俺の手を握った。


「はいっ……と絶対に言えないですけど。でも延長線でゆっくりとでいいですか? まだ整理ができてないので……」

「うん……」




そして少しの沈黙から、彼女が唄を口ずさむ。それに合わせて俺たちは、町の風に吹かれながら歩み始めた。






後日、華ちゃんのトレアイを辞めるのをやめる件に関して事情と共に鈴木さん相談した。


「えっ、いいんじゃね」

「えっ、そんなあっさりいいんですか?」

「いや~うっかり退職届を出し忘れちまってな」

「それでも報告はしてるのでは?」

「そんなもんあっさり取り消せるよ」

「そうなんですか?」


そして彼は顎に手をつけ少し唸る。


「あんさ……もしよかったら華をうちで準社員として雇ったらいいんじゃね?」

「えっ、むしろそれも大丈夫ですか? コロナでこの先どうなるかわからないのに……準社員でも、社員クラスの補充って……」

「まぁ、そうだけどよ。アイツの仕事ぶり含め、いい人材は確保した方がいいと俺は思うんだよ。コロナだから他のスタッフがもっと手堅い仕事に移ろうとするかもしれないし、家庭の事情とかで実家に帰らないといけないヤツが増える可能性もでると思うんだわ。だから華が嫌じゃなかったら、むしろうちで働いて欲しいと思う。正社員よりは融通も聞くしな。資格勉強の支障にも差し障りないだろ? それに……」

「なんですか?」


彼はニヤニヤしながら俺を見つめる。


「いや……俺が楽できるしな!」

「またそう言う事言って」

「まぁ、とにかく俺に任せろ! 店長候補だぜ!」



そう言った彼は、まだ店長にはなれていない。


そんな事で彼女の仕事は無事確保することになった。





そして俺達の恋愛はゆっくりと始まった。彼女との日々はもちろん幸せだ。



君が好き……君が好き……



もちろん常にそう感じる。だが、ふと思う。俺は卑怯だったのかもと。弱ってる彼女……女の子の心の隙間につけ込んで付き合い始めて。

あの時……どんどん弱っていった姿を見ていたから、チャンスがあるのかもっと……心のどこかで虎視眈々と……ズルい男だ……俺は……

こんな俺が彼女を幸せにできるか……前の彼氏の様に急に逃げてしまうんじゃないのか……



たまに彼女と一緒にいる時……その笑顔を向けられるたり、ふと冷めた様な顔を見ると辛みが走る。直接的な味ではなく、ただ口の中に痛みの様なモノが片隅にひっそりと潜んでいるのがピリッとしてからジワリと滲み出る。

昔誰かが言っていた……辛いは味覚ではなく痛覚や温覚だそう。


きっと傷ついた彼女のその弱みへ入り込んだ……俺への罰なんだと……その刺すよう痛みは彼女を愛する度に犇犇と伝う。



辛みと似ている『幸せ』の語源は……手枷をはめられる事から逃れた事を言うそうだ。

俺は彼女を支えたいと言ったが彼女の意思をちゃんと尊重できているのだろうか……


彼女に新たな枷をつけてしまった俺は正しかったのか?

誰にも縛られない彼女の自由を奪ってしまったんじゃないか?

彼女の幸せは俺から離れて初めて幸せになれるんじゃないか?



その考えが巡り巡り、今も答えはでない。






「おはよう、良顕くん」

「おはよう、華ちゃん」


彼女の温かい手が俺の頬に触れ目が覚めた。


「今日は全然目が覚めなかったね。いつもは先に起きてるか動くと気がついて起きるのに」

「なんかね、長い夢をみてた気がした」

「えっどんな夢だったの?」

「うーん、ほろ苦い様な、辛い夢……かな」

「なんか雑いよ」






そうやって、結局何度目かの答えのでない俺の日々は続く。

いつか……『辛い』という文字に、線が一本足されて『幸い』に成ることを祈る。



今回も長いのに読んでいただき誠にありがとうございます!

田中は考え過ぎな性格です。

一応、田中と華ちゃんの話しはある程度完成してて、あとは編集をするだけで……だけどその後のお話が出来てないです。M-1の敗者復活を見て現実逃避しようと思います。

もう一話連投しようも思うのでよろしければ、読んでいただき頂けたら幸いです!

今回も読んでいただき誠にありがとうございますm(_ _)m

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