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古着屋の小野寺さん  作者: 鎚谷ひろみ
bitter&sweet
46/52

24 NO NAME ♯2

お久しぶりです! 第7回キネティックノベル大賞様の三次選考通過で最終選考に残らせて頂きましたので喜びで投稿しました。


前回の続きです。最近忙しいのもあり投稿が遅くなって申し訳ございません……(汗)


よろしければお願いいたしますm(。_。)m


24-2 ありふれたラブストーリーと、男女問題はいつも面倒だ







俺の『トレジャーアイランド』での週4日ほどのバイト生活が始まった。



俺をこの店に入れた副店長は……たまに発言や行動で腹が立つ部分がある……


気が付くと従業員の女の子にペラペラとくだらない事しゃべってるし、たまに仕事の面で抜けてる部分があるし、変な所で細かいし、変なこだわりがあるし……俺に社員の仕事を任せてるし。


気が付くと定番で週5入れられていた。

それが、週6の時や休みが無い週の時もあるが…………だが、不思議と嫌な気分ではなかった。


彼はだらしない部分もあるが、従業員たちには気を使えるし、腹が立ち言いたい事があれば表立って出せるし言い合える……もしかして、いい人なのかも……



「田中~書類仕事やっといて~俺、帰るから~」



前言撤回、やっぱりムカつく。






そんな生活が一年二年ほど経つ。俺は後輩指導とかもする様になっていた。


そんなある日、とある子がうちの店に入った……




「海道 花蓮です。よろしく、お願いいたします」




ショートヘアーで茶髪。毛先にパーマがかかっており、透き通るような白い肌、目は大きく、身長は145センチほどの華奢な体つきの女の子がバイトで入ってきた。顔つきは西洋風の美人で一瞬見とれてしまうほどだ。育ちの良さが全体に表れ、良いとこのお嬢様であるのが伝わる。



「んじゃ、田中! 指導よろしく!! 俺はとりあえず、イベントの予定くんどくわ!」


鈴木さんはそういって、バックヤードの方へ姿を消す。



「田中です……よろしくお願いいたします」

「よろしくお願いいたします」



軽く挨拶を交わし、俺たちは仕事にうつる。



週2回、土日……彼女とは基本、仕事の話しかしなかった。

だが、毎週一緒に店を閉めることが多い。

いつも澄ました顔をして、黙々と仕事をする。やることがなくなるとレジの壁にもたれ、ボーッと空を見つめる。


多少、ボーッとするのは構わないが……一応接客業で笑顔がないのは不味いと思い、お客さんがいない時に話しかけてみた。




「海道さんは、学生さん?」

「はい」

そう、問われた彼女はいつも通りの感じでしか答えない。

そこから、ありふれた問いしか思い付かない……何年生?とか、サークル入ってるの?とか、何学科?とか……


それを振る度に、彼女も答え慣れているかの常套句を返す。


会話に花が咲くこと無く……ただただ、無音という音が一本の線を張るように伸びている。


自分自身こじゃれた話やお洒落な会話ができる訳じゃないし、和ませる様なくだらないが面白い話ができる訳がない……




今まで、相手の気持ちを多少読むことができる方だがここまでの不調は初めてくらいだ。


最後に趣味くらいは聞いとくか……

目の前のつまらなそうにしている女子に諦めを持ちながら、聞いてみる事にした。



「えっと、趣味とかあるの?」


そう、言うと彼女は小さく息を吐き口を結ぶ。


「映画鑑賞ですかね……」

「へぇー、邦画? 洋画?」

「洋画派ですかね……邦画も何個か好きな作品ありますけど……」

「俺もどちらかというと洋画派かな……」




そこからは、気が付くと映画の話で盛り上がっていた。


漸く会話に花が咲き、彼女が少しだけ笑顔を出してくれている。



『あの作品のこういう所が良い』『あの作品のヒロインみたいな生き方をしたい』『ビターエンドが好き』……そんな会話で盛り上がる。



一緒に働いて話す度に、お互いの距離が縮まってる感覚を俺は感じてた気がした。



彼女は福岡出身で、お金持ちのお嬢様だそう……


そしてどうやら、彼女から信頼を得てるみたいで……日に日に映画の話含め、将来は海外で仕事がしたい事、家族の話から恋愛の話をするようにもなっていった。

育った環境が違う彼女だが、趣味趣向は俺に似ている……

気が付くと心の中では『花蓮ちゃん』と呼ぶほどだ。




そして、特に彼女と話してて一番印象的だったのが……



『私、灯籠流し……見に行きたいんですよね…………でも、今……彼、忙しいみたいだから、いつか一緒に行きたいんです……和服デートもしたいし、浴衣デートもしたい……彼に私の姿を見て欲しいな……』


急にスマホの画面を差し出し、和服姿の彼女を見せられる。

彼とのデートを妄想して、にやける彼女は特に可愛かった。



なぜ、灯籠流しなのか……それは彼女の唯一好きな邦画のワンシーンだそうだ……


彼女の熱弁して嬉しそうな横顔に、きっと……その時にはもう、俺は彼女に惹かれていたんだと想った。




だが彼氏がいる……彼女の好きなタイプは、自分より頭がいい人……それで将来医者になる人……

今の彼氏はもちろん医大生、マッチングアプリで出会ったらしく、またも誇らしそうに写真を見せられる……

日本で一番の大学の医学部で、顔はぜんぜん普通。彼の好きな所を聞くと、普段は下駄で服にはこだわりがない……変わってる所が好き……



その相手の何がいいのかが理解できなかった。



そして……そんな中、俺と彼女との仲が良くなる度に、ただ理解できない事が大きくなる。



彼女と彼氏は付き合って、体の関係はあるが……お互いキープであると言うこと。二人の決め事で、他にいい人がいれば其方に移ってもいいということだそうだ……


現に彼女は、他の人とも会い関係を持つことがザラではないそうだ……




彼女との仕事での日々を重ねて彼女は俺に甘えた様に接する反面……彼女の恋愛を聞いていく度に、自分の中で悲しみと空虚が膨らむ……

それは怪物となっていつか自分を食い尽くすんじゃないかと思った。



彼女にとって恋愛とはなんなんだろうか……?

幸せになるためだったら……理想の相手を手に入れるためだったら……今、付き合ってる相手が他の人と関係を持ってたとしても、許してしまうのか……それは苦しくないのか……自身も他の人と関係をもっても苦しくないのか……疑問だらけが渦巻いていく……




ある日、疑問に思い彼女の今の恋愛に関して質問した……そんな彼女の答えは……



『田中さんって、以外に純粋なんですね……』



6歳も年下にそう言われ、俺はやるせない気持ちが心に積もる。



それから何日か過ぎ、彼女が急遽休むようになったり、出勤すると元気がない事が増える……その度に、彼氏との間で何かがあるのが垣間見えてしまう……



いい年した大人の男……俺が、毎度彼女の姿を見て胸が苦しくなる。

『大丈夫?』そう聞くたびに、元気のない笑顔が返ってくる。



彼女は本当に、幸せになれるのか? そんな男はやめて、俺と付き合って欲しい……俺の全てを捧げて君を幸せにする……

そんな重たい……メンヘラみたいな言葉が何度も出そうになり、何とか圧し殺す。


俺自身、休みの日に……彼女が出勤しているとついつい理由をつけて、店にまで着てしまう程だ。


俺……どうしてしまったんだろう?



いつからかその想いは塞げきれず周りに……俺は俺の今の恋煩いを自分の話ではなく、別の誰かに例える。

そう、友人の恋愛の話として相談をする事にまでなってしまっていた……

それでも、気持ちは晴れず自分が恐くなっていく。


そして、この想いを『どうせ失恋するからやめておけ』っと止めて欲しく、喫茶店で大学の時の友人にまで相談までしてしまう。

だが答えは見つからない……



大学時の友人は……『そんなに、好きならたぶん……お前は告白してしまうよ』そう言われ……誰にも、俺自身でも止められなくなってしまっていた。






彼女との関係が半年過ぎたある日……

閉店作業を終え、鍵を閉めた時、店の前で彼女を呼び止めてしまい……俺の思いが溢れてしまった。



「好きです。付き合ってください」


そう言うと、彼女は真顔になる。


「ありがとうございます……」


そう言った後、俺が違う言葉をかけても彼女は壊れた人形の様に『ありがとうございます』としか答えない……


そのまま、彼女はスッと帰ってしまった。

そう、俺は信頼関係を壊してしまったんだ。






一週間後……彼女は急遽来月に海外に留学をする事が決まった……っと、当時の店長に告げたそうだ。


もちろん、嘘だろう……シフトが被った時は彼女はずっと黙りで、俺も言葉が思い付かない。


そして告白から三週間後、最後にシフトが被った日……あの事が無かったかの様に彼女は元気に俺と話す。俺たちの中で一番楽しかった時間が戻ったように……映画の話題で……



最後別れる時は余計な事を何も言わず『お元気で』を交わし、ただただ彼女を見送った。



答えは言われず、俺の恋は終わったのだ……






だが、彼女が辞めた理由は店内で広まる……当然、俺のせいだと広まった。


職場の女性に手を出す……こうなると、わかりきっていた筈なのに……なんで俺は告げてしまったのだろうか……



女性陣からは冷ややかに見られ、楽しかった仕事にも集中できず……毎日が辛い、『辞めたい』と考えてしまう。

仕事の話をするのにも、相手の目は見れず、声は震えてしまう。


そうだ、俺が告白なんかしなければ彼女はこの場所に居れたんだ……俺が辞めればよかったんだ。



そう過り気が付くと辞表を書き、提出を決心した。



ある早番の日……震える手と声で、店長に手を伸ばし呼ぼうとした。




「なぁ田中? 今日暇?」


肩に重くしっかりした手の感覚がして振り向く。鈴木さんがいつもの様にニヤニヤとしながら呼び止めた。


「は、はい……」

「それじゃ、酒飲みに行こ?」





彼の誘いを断れず、個人の居酒屋のカウンターに座らされた。

最初は相も変わらず……『最近、なんかお勧めの映画ない?』『うちの娘が可愛くてさ~』とか、ありふれた会話をする。俺はただ呆然と返すだけしかできないが、それでも彼は楽しそうに話してくれた。



だが急に空気が変わり、彼が言いづらそうにし始めた……

きっと、花蓮ちゃんの事を聞いてくる……いや、問い詰められるのだと思い……罪悪感と、楽になりたい気持ちがせめぎ合う。



きっと俺は……責められたかったんだ……一人の女の子から居場所を奪い、未だのうのうと働いている愚かな自分に罪を与えたかった。


そう過った瞬間、俺は目をつむり鼻から息を吸う。


漸く、楽になれるんだ。


だが、今の仕事を辞める事を考えると哀しみに満たされ、瞼が震えた。



「あのさ」


彼の次に出る言葉が恐い。少しづつ呼吸が早くなる。


「俺、転勤するんだわ」


一瞬、時が止まった気がした。意外な返答に言葉が出ない。

「ぁっ……」

「次行く店で、店長になる!……一本手前でさ~~……まぁ、期待されてるからな~俺!」


俺の気持ちをいざ知らず彼は高らかに笑う。


だが、彼がいなくなると、いよいよ本当に俺一人だ……もう堪えれる自信がない……今度こそ、明日には辞表を出そう……




「だからさ、一緒に店移ってくんねぇ?」

「え……?」

「いや、俺一人で移るの寂しいじゃん! それでさ、社員になろうぜ!! 研修は俺が指導するし! まぁ、お前の場合はほとんど社員の仕事にやってるから…………まぁうん。とりあえず来いよ!」



彼の屈託のない笑顔が俺に向けられる。そんな顔だから俺はより、自分が情けなくなった。


「でもでも、俺は!……」


彼は、俺から滑り出しそうな答えを遮る様に俺の肩をポンッとたたく。


「いいじゃん! 今の俺にはお前が必要なんだよ!! なぁ~頼むよ~」


その言葉で息が詰まってしまった。最近は周りから疎まれ、鼻つまみ者として扱われていたから。

呼吸は早くなり、視界がぼやける。

居酒屋のカウンターで、泣き出しそうな情けない俺の前で……副店長は両手を合わせ頭を下げて、お願いをしている。




そんな反した俺たち二人の姿が笑えて、目までいってた水分が鼻の方までに落ちてくるのを感じた。小さな笑息が漏れだす。

「……わかりました……一緒に行きます」

「おぉ! ほんとか! よっしゃー、これでまた楽できる」

「はぁっ! 楽できるって、なんですか?!……」

「おぉっと、いけねいけねぇ……」


気がつくといつも通りの気兼ねなく話せる間柄だった。




俺の震えていた声は、そんな彼のお願いで治まる。


きっと俺の事情をこの人も……もちろん知っていただろうけど、何も聞かない。だが、いつもこの人が俺を救ってくれる……

だらしないが頼りになる人。そんな人が隣にいてくれるのが……ただただ、ありがたい。



「……それで、転勤って簡単にできるんですか?」

「できるできる! 明日、店長にお前と俺から言えば、万事解決よ」

「ホントですか?」

「ホントホント、俺、店長候補だぜ!……」





自ら、店長候補だと言った彼は……現在まだ店長になれていない……





そして、本当に簡単に転勤は受理された。だが、鈴木さんの転勤は二週間後……俺の転勤は彼の二週間後……

それでも、彼のいない二週間は辛くても堪える事ができた。俺を必要としてくれる人がいる……そして、そんな彼の厚意の為にも自身の為にも……

もう職場では恋をしないと決めた……





今回も読んで頂き誠にありがとうございます。

田中の過去話でしたね。次回も過去話です。


最近、忙し過ぎるので次回はいつ投稿できるかはわからないですがよろしければまた読んで頂ければ幸いですm(。_。)m!



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