24 NO NAME ♯1
すいません、1ヶ月ぶりの投稿となりました……(汗)
個人的に、色々初めて忙しくなりいっぱいいっぱいです( ̄▽ ̄;)
先もまだできてないですが……よろしければお願いいたしますm(。_。)m
24-1 笑って咲く、花を咲かそう
先のイベントの内容が思い付かず……鈴木さんの『酒飲みながらならいい提案出るんじゃね?』と下らない提案に乗り、コンビニで酒とツマミを買ってきて閉店後の店内、バックヤードで椅子に座り机を囲み打ち合わせをしている……
「さぁ! どうすんだよ~4月末のイベント!!」
「いや、千里香ちゃんもなんか思い付かないのかよ! これじゃただ、酒を飲むだけじゃん!」
「いや、酒飲んだらいい案思い付くかもって言ったのはお前だろ!」
「何だよ、俺のせいにしないでもらえますか~!?」
二人が酒を飲みながら、内容も思い付かず騒いでる。
「いっその事、去年のイベントと同じでいく?」
「いや、今年制限も解けるし、他の店舗とは違う! ウチ、オリジナルの事やりたいじゃん!……」
「あんた、毎回それ言うだけで、いつもウチラ頼みじゃん!……」
そんな騒がしい光景を見つめながらボーッとライトを見つめた……
疲れと酔いで、目が閉じそうになる。
一瞬目を閉じると……瞼の裏に昔の光景が浮かぶ……
『……私、灯籠流し……見に行きたいんですよね……』
《……それじゃ……一緒に行こうよ……》
サラサラの茶髪だけど少し毛先にウェーブが入っていて……背は小さく華奢な体つき……上品で冷たそうに見えるが笑うと、とても綺麗で可愛い……田舎から都会に出てきたお嬢様が俺の隣で楽しそうに話してる姿が目に浮かんだ。
「……おい! 参謀!!」
「田中!」
その呼び声で彼女の幻想が描き消され、息を吸いながら左右を見てしまう。
「なぁ~お前ならいい案だせんじゃねえの?」
鈴木さんがニヤッと笑いながらこちらに目を向ける。
「……灯籠……」
『とうろう?』
二人は俺の呟いた言葉を理解できず目をみ合わさる。
ふとフラッシュバックの様に幻想の彼女の和服姿の写真が頭に過り……イベントの案が少しずつ纏まっていく。
「今回、コロナが解除されていって、4月末からゴールデンウィークの期間……買い物される御客さん増えると思うんです……もしかしたら海外の方もいらっしゃる可能性があると思うですよ」
「まぁ、確かに……」
「それで、ドメブラや日本人のデザイナーズブランド、和装っぽく見えるブランド、あとは思いきって和服も取り扱ってみたりするのはどうでしょう? イベント時もマネキン達に和服を着せて上げて」
「それ、めちゃいいじゃん!」
鈴木さんは嬉しそうに机に叩く。
「まず……イベントの軽く一弾としてイベントの5日前くらいまで、さっき上げた該当するモノの買い取りを強化。そして、第2弾のメインイベントでそれらのブランドの飾り付け、メイン商品の売買のイベント……他に和服だったら着付けイベントとかどうですか?」
「ほうほう! なかなか他の店舗では思い付かない良いイベントだと思うぞ!! それとさっき言ってた『とうろう』って?」
店長は子供の様に目をキラキラさせて此方を見ている。
「ええっと、あの『灯籠』流しとかで使う灯籠です! ほら!」
俺は言葉で伝えるのがもどかしく、スマホで検索した画面を見せた。
二人は小さな俺のスマホの画面を覗き込み『おー!』声をあげる。
「いやいや、んで、この灯籠を使ってどうすんの?」
「うちは幸い、店長がここに着任してから何らかの特殊なイベントをやってきたじゃないですか?」
「特殊とはなんだ! 特殊とは?!」
「まぁ、それにより上部の方々も認めやすくなっているのと、俺たちにはその経験値があって……その経験を元に、閉店後に軽い軽食しながら店長の知識をトークするイベントでも開催するのはどうでしょうか?」
「ほぉー! いいじゃないか? それで、灯籠は? 」
「はい、ただ店内を明るくしてやるイベントだと普通じゃないですか? そこで薄明かりの状態と所々……多数の灯籠を飾り、和風なナイトパーティーを演出するのはどうでしょう? もちろん、それなりの数が必要ですし灯籠と言ってもローソクは危険なので……豆電球等の灯りに紙なんかで作った囲いを付ければお手軽に灯籠もできますので……まぁ、めんどくさい作業かもですが……」
俺は自身の奇をてらう提案に、流石のこの二人も乗らないだろうと思い声をすぼめてしまう。
「どうですか……?」
二人を見ると笑いを溢している。
「すごいぞ! 田中……そんなの思い付かないぞ!」
「確かにすげぇ!! ……あっ、でも、和服の着付けとかは……」
「そこは一条くんにお願いすれば解決さ!」
「でも、流石に……一人じゃ大変じゃね……それに一条くん子供だし、男だから……相手が女性だと……な……」
「まぁ、たしかに……うーん……」
店長は腕を組み悩み、鈴木さんは頬杖をついて悩んだ……
そんな悩んでる二人を余所に、俺には宛がある……
だが、できれば言いたくない……でも、無茶な提案を出したのは俺だ……
「じっ、実は……」
「何々?」「なんだ?」
「宛がありまして……その女性に頼もうかとは……」
「なんだ、いるんじゃん! 流石は参謀殿だぜ!」
そうやってイベントの大まかなプランが決まり、今日は解散した。
店を出て、駅まで歩く……コンビニの上にあるファミレスから女の子が出てきて階段を降り、俺に駆け寄る。
「良顕くん! お疲れ様!」
「華ちゃん、ごめんね……待たせちゃって……」
「別に! 暇だったから新メニューのスイーツ食べながら、スマホで海外ドラマ観てたからあっというまだった! そう言えばイベントの内容決まった?」
「うん、何とかね。ある意味、華ちゃんのお陰で決まったよ」
「え~、どういう意味?」
「まぁ、帰りながら話すよ」
俺は自然に手を差し出すと、彼女が当たり前の様に俺の手を掴む。
そして、一緒の家に帰るのだ。
イベント内容が決まった経緯は全部は言えない……でも内容が決まったのは……彼女のお陰だ……
決めてである着付け役のもう一人は彼女だからだ。
彼女と帰ると、家まではあっというま。彼女の顔を見ながら歩くと疲れなんてどうでもよくなる……その可愛らしい仕草に癒される。
電車に乗り、一駅で降りる。
「今日、お腹減った?」
「うーうん! さっき軽くデザート食べたから、そこまで~」
「俺もそこまで……それじゃ、そこのオリジンズ弁当で何か軽く買って帰ろうか」
「うん!! オリジンズ! オリジンズ!! オリジンズと言えば、唐揚げ!! はい! 良顕くんは?」
「オリジンズと言ったら……コロッケ?」
「うんうん! いいねぇ!!」
ウキウキしている彼女と店内に入った。
俺たちは唐揚げ4個ととコロッケ2個、それとおにぎりを1個づつ選ぶ。レジに行くといつもの中国人のおばちゃんが聞いてくるのだ。
「袋、いる?」
そしてお会計を済ませ、家へと帰る。
「ただいま!」
「お帰り」
玄関で二人で見つめあいながら言い合い、買ってきたモノを広げ、テレビをつけて、リビングで食べる。
テレビの前には、親子タヌキとキツネの陶器がいつも通り愉快に並ぶ。
「やっぱり、お腹いっぱいになっちゃった」
「それじゃ、残り物全部食べるよ」
そして、お風呂を用意し 彼女から入り、俺が入る。
風呂上がりに軽くお酒を飲みながらテレビのバラエティー番組を流し、彼女がアクビをしたら寝るサインだ。
ベッドに入り、彼女が俺の手を握る。そして、俺の顔を見つめながら寝むる……
その暖かな体温に触れながら、俺も眠りへと誘われいく。
ふと、眠りつく前に彼女とこうなった経緯と……自身のそれなりに長い長い人生が急に俺の意識に流れ込んでいった……
うちの実家は、神奈川にあるイベントコンサルティング会社。
小さい頃は小さい会社で貧乏だった……オヤジはその頃は真面目に働き、そんなオヤジを母さんは支えていた。
母さんは会社では事務をやり、家に帰れば家事をやり、俺と弟の子守りもして……
そんな姿を子供ながら見ていた。
オヤジは仕事はしてたが年々付き合いという、飲みで家を出てたりする事が増え、そんなに良いイメージが無かった……
そして、会社の経営が乗りだしたと同時に、お金は増えるがオヤジが家に帰る事が少なくなっていった……中学の頃の俺だから気付かなかったが……オヤジは浮気をしていたと思う……母さんも知っていたが知らないフリをしていた……
家族が恥をかかないために……昔の時代の良い妻を努めるため……
高校生になり、家に帰らないオヤジが嫌いで……でも、母さんに迷惑をかけたくなく良い子でいた。
勉強はちゃんとして、良い大学に入って……母さんを楽にさせてオヤジなんて必要ない……そう引導を渡してやりたく必死で勉強した。
その結果、東京の有名な偏差値の高い私立大学に受かる……そして、大学生活は順風満帆だ。
高校と大学、俺がオヤジから唯一引き継いで感謝してる能力のおかげ……人の空気を読む力……
さりげなく物事をこなし、サークルでも人間関係をうまく取り持つ……俺がいると問題は起きない……そして中心の方の人物を立てる。
そのお陰か目立たないが、人は俺の事を知っているし、持ち前の悪くない容姿と、趣味のファッションと服の知識とのお陰で女の子には誘われる……
だが、先程の『空気を読む力』はどうやら、付き合う事になった女性には使えないみたいだった……
結果、相手の事を好きにならなくても、付き合う度により……いやだからこそ、自身の空虚さが笑えた……相手が興味を持つことは上辺だけ興味持つが自身の中で結局定着はせず……同じ映画鑑賞の趣味を持つ子と付き合っても、なぜか何時も1人だった気がした……
でも、必死に笑顔を作り相手に嫌な思いをさせたくなくて頑張った。
それでも、毎回捨てられた……
わかってるよ、悪いのは俺なんだから……
そんなこんなで就職活動の時期が迫ってきた……
宛もなく自分のやりたい事が思い付かず、ただただ説明会に参加する……
だが、大概の学生たちも自分のやりたい事なんてなく……何となく参加しているんだ……そんな俺も量産型の空虚な人間。
そんなある日、某テレビ局の説明会に参加した時、胸が踊った。
結局、悔しいが血筋は争えないんだ……
誰かと誰かを繋げる仕事……そして、楽しませる仕事がしたい。
だからこそ、俺はオヤジと違って努力した分だけ評価されて、オヤジなんかより……ちゃんとした業界で有名になって、母さんを楽にしてあげたい……
そして、テレビ局に就職はできた…………
だが、現実なんてそんな甘いもんじゃないし、想像よりキツかった……
何人かいた新人はすぐに辞めて、そのしわ寄せが残った奴らにやってきて……寝る時間もなく、休みもあまり無く、仕事をこなしても誉められはしないし……偉い奴らは『やって当たり前、俺の若い時なんて……』そんな常套句ばかり並べ……芸能人や気取った奴らは冷たい目で俺たちを見る……ようやく休みの日には泥の様に眠る……
あぁ、映画観たい……でも、身体が動かない……辛い……
そんな日々が7ヶ月くらい過ぎたある日、出勤の途中でお腹が痛くなり動かなくなった……意識が遠退き、気がつくと知らない天井、病院だ。
その様な状態になった事を上司に電話すると、『これだから今時の若い奴は、使えない……』と言われた。
悪態な電話を切ると、ただただ泣いた……
『仕事をして生きるって辛い……』
回復してからも、それから仕事へは無断欠勤……どうせ、会社の連中からは、1人のゴミ……カスが消えるって思われるだけだ……
それから、最後の働いた分の給料はいくらか入ってたが……もちろん生活は辛かった……
働いて使わず溜まってた貯金を元に暮らす……思った以上に貯まっているからズルズルと引きこもってしまう……
もう一度働く気にもならず、ただただ呆然と好きな映画鑑賞をしていた。
そんな日々が1ヶ月半過ぎようとしたある日……俺のスマホに見知らぬ番号から着信があり、何も考えず電話に出た。
『田中良顕さんの携帯ですか?』
「……はい、えっ、どちら様ですか?」
『私、新宿署の刑事なんですが……田中哲司さんがひき逃げにあい……』
どうやらオヤジは、歌舞伎町の近くでひき逃げに巻き込まれたようだ……
弟と母さんは神奈川の方で時間がかかるそうで、俺が新宿の方の病院に最初に着てしまう。
部屋まで案内され、まずお医者さんからオヤジの様態を聞かされた。
打ち所が悪く、意識不明……たぶんこのまま目を醒まさないだろうと……
次に警察からは……犯人は特定され、オヤジの所有物を見せられる。
財布にはキャバクラと風俗店らしきメンバーカードと割引券と嬢の名刺何枚か……そして二、三万円ほどだ……
咄嗟に横たわってるオヤジを見て、怒りがこみ上げる。だが目をつむり、少し息を整わせ、歯を食い縛った。
「この割引券とカード等の事は、母や弟に見せないでください……それと黙っててください」
警察の人も、あっさりと頷きお医者さんと一緒に病室から去った。
病室に残された俺は、オヤジの方を見るしかない。
目の前に横たわるオヤジは、いつも家で寝てる時と同じ、偉そうに母さんに家の事を全て押し付けて寝ている……満足そうな寝顔だ……
その顔にまた怒りがこみ上げ、オヤジの寝ているベッドの足を蹴り、見下すように睨み付けた。
「ざまぁみろ……母さんを今まで悲しませた罰だ……そのまま死んでしまえ……」
それから、オヤジの件から数日が過ぎる……
オヤジの面倒は基本、病院に任せっぱなしになった。だが、次にうちの会社の問題になる。
社長の席は空席、何人かいる従業員や役職の人は社長にはなりたくもなく……母も主な業務には関わってなく……家族で話し合った結果……大学を卒業して、他の会社に行っていた弟が社長にならざる得なかった……
俺は……テレビ局を辞めた事やその時のメンタルの面で無理だと、ずっと断っていたから……
弟が諦めて『会社を引き継ぐ』と言わせてしまったのだ。
若い弟から将来と可能性を奪い、何もないカスな俺はただ……東京の町を……いや、当時住んでた近所を毎日宛もなく歩く……
生活の先行きのお金と貯金が減り、この様な自堕落した生活をあと1ヶ月半くらいしか出来ないと思い、家にあるものをかき集めた……
映画やドラマのDVDとかCDや小説、服……昔からこだわりを持って買ってきたモノばかり……プレミアがついたモノが多く、これを売れば多少はどうにかなる……
そんな淡い期待に、震えながら中古買取店と古着屋を回った……
服以外のモノはそこそこで売れるし、すぐにお金が欲しく簡単に手放す。
服は店を転々と回るが思ったような金額がつかず、持ち帰える……そして最後に着いた店……ここら周辺に住んでから、何回も来ている店だ。
『トレジャーアイランド』……
もう、持って帰るの面倒だし……もういい……金は手に入るんだ……ここで全て手放そう……
買取カウンターに持っていくと、接客業なのにサングラスらしきものをかけた店員が受け付けてくれた……
買取査定を待ち、店内をブラブラする……
あっ、ヨウジヤマモトのこのシャツ……昔欲しかった奴だ……
店内には憧れたモノや欲しかったモノが溢れている。そんな昔欲しかったモノに思いを馳せながら観ていく。
あの頃はよかった……
そして、姿見に写る今の自分の姿が情けなくなった……
髪はボサボサで、猫背になり顔に覇気がなく、窶れている……
あれ? 俺はいつからこんな風になったんだっけ……自分で言うのはあれだが……もっとスタイリッシュだったのに……
そう思っていると、前に映る現実に目を背けた。
『買取ナンバー31番のお客様、買取査定が済みましたのでカウンターまでお越しください』
俺は俯いた顔を息を漏らしながら振り、カウンターに向かった。
「……えっと、11点買取で1点は当店では値段をつけれなかったんですが……買取価格はコチラになりますね」
すっと差し出されたタブレットには『31750円』と表示されていた……今まで回った店の中で一番の高額がついている。
その事に驚きついつい動揺してしまう。
「えっ、こんなにも……?」
「いや、珍しいものもありますし、ヴィンテージやプレミアがついてるモノ、そしてハイブランドで……それに中古なのに状態がすごくいい……うちの会社だと妥当な価格ですよ」
「あっ、ありがとうございます……」
俺は目の前にサングラスの店員に感謝を込め軽く会釈をした……だが、思いが止まらず頭があげれず陳謝になってしまっている……
「お客さん……」
目の前の男は言葉を淀ます。
「そういえば、何回かうちに観に来てくれてますよね」
俺はその言葉に咄嗟に頭を上げた。
「あっ、はい……」
「いや、急に話しかけて、すんません……俺、基本はお客さんとは仕事としてしか話さないんすけど……よく来てくれてるんで気になってしまって」
「覚えて……らっしゃるんですね」
「まぁ、身長あるしイケメンだから覚えやすいですよ。それに最初の方来てくださってた時は小綺麗で……ちょうどこの服たちを着こなして……一時期見なくなってから、最近はまたいらっしゃる様になって……あとは……最近、ここ来る時はずっと同じその服っすよね?」
彼は申し訳なさそうに指を差し出す。
「それと、ずっと観に来るだけで、服は買っていかれなかったのでツイツイ覚えちゃいまして……」
彼は頭を掻くと、自身の失言に気がついた様だ。
「あぁ、すんません!! なんか俺、すげー失礼な事ばっか言ってましたよね」
「いえ、こちらこそ……ぜんぜん商品を買わず申し訳ないです……」
「でも、あれですよね……」
「あっ、はぁ?」
「自分自身にこだわりをもって商品を買ってるって事すよね? その方が買われた商品もきっと幸せだと思いますし、モノを大切にするという事は良いことだと思いますよ。そういうのって人柄にでるから俺は好きっす。それにホント、売ってくださった服々は状態いいし……」
そう、サングラスの店員に言われて恥ずかしいくも嬉しいが、口を閉じ俯いてしまった。
「あとお客さん、昔、ファッションか何かの仕事に関わってました?」
「いえ、ぜんぜん。どうしてですか?」
「いや、勘っすかね……なんとなく……まぁ俺の勘、当たんないんっすけどね」
目の前で髪を掻く男は、ニヤニヤと頷いている。その姿についつい吹き出し、笑ってしまう。
「えっ、なんすか?」
「いや、面白い人だなって」
笑う俺を店員は小さく息を漏らし笑みを浮かべる。
「それと、さっき書いて貰った書類で見ちゃったんですけど……今、フリーターっすか?」
「まぁ、そんな所ですね……でも、今はまだ……仕事を探してて……」
途中でハッとした。見知らぬ古着屋の店員に見栄を張らず仕事をしてない事を漏らしたのを……
「んじゃさ……うちで仕事しねぇ?」
「えっ、俺とあなた、今日初めて話したんですよ?」
「まぁ、話したのは初めてだが、前から目をつけてたんだよ」
「えっ!」
ふと、身の危険を感じ身体を店員に背け距離を離す。彼のサングラスの奥の瞳がギラギラしてた気がしたからだ。
「俺、ノーマルですよ」
「あっ……違う違う! そういう事じゃねぇ! 」
男は全力で手を振り否定をした。
「ウチ、ちょうど2ヶ月前くらいにイケメン枠の長時間働ける店員が辞めたから、イケメン枠の店員がちょうど欲しんいだよ! イケメンがいればお客さんも喜んで来てくれるし……」
「イケメン枠? そんなのあるんですか?」
「まぁ、それは置いといて!っだ……それとお客さん、見るたびに窶れてるぽかったんで……」
サングラスの男は照れくさそうに鼻をすすり、サングラスを掛けなおす。
「よかったら、一緒に働きませんか?」
その深い暖かい声と優しい言葉に、息が自然と入る。そして、胸がいっぱいになる感じがした。
「はい。こんな俺ですが……よろしくお願いいたします」
「あぁ!」
俺が陳謝すると、彼は俺の肩を軽く叩き起き上がらせる。
「それと、話は戻るけどさ……一点値段がつけれなかったアバクロのミリタリージャケットはどうする?」
「それは……」
「たぶん、お兄さんもわかってるとは思うけどこれ……ニセモン……肩の所のロゴの線や、糸の縫い目が……」
「はい……」
「なんで、これだけ? 」
「実は……これオヤジから貰ったもんなんですよ」
「んじゃ、大切なモノじゃないですか?」
「いえ、オヤジが仕事の関係で神戸に行った時に三宮の高架下で掴まされたらしく……気まぐれで買ってきて、俺にプレゼントしたもんなんですよ……」
「はぁ、いい話じゃないっすか?」
「まぁ当時……中学の時は本物だと思ってましたし……少しは嬉しかったんです……でも、大学に入り服に関して詳しくなってから……偽物だとわかって……その時にはもう色々あって、オヤジの事が嫌いになってたんですよ。何回かコイツの事は捨てようと思ったし、売ろうとは思ったんですけど……何故か手放さなかったんです……」
ついつい滑らした言葉で我に戻った。
「でも所詮は偽物……それで、今ちょうど、お金もないし、売るついでに手放すチャンスなのかなぁって思いまして……」
こんな話を初対面で言われて、店員は迷惑だろうと思ってしまい、次の言葉や振る舞いが思い付かなく首を傾げてしまう。
「あのさ! 」
その声で顔をあげると、男は鼻をならし左の口角だけあげ首を傾ける。
「別にいいじゃん! 偽物だってさ!……あんたとは初めて話して、偉そうに言うつもりはねぇが……オヤジさんの当時くれたキモチはホンモンだと思いたいし、アンタが感じたキモチもホンモンだろ? 確かに……今になっては、わからないが……でも、アンタがそう想ったから手放せなかったんだろ?」
真っ直ぐに見つめられ、言葉が出なかった。
きっとこの人が言った事があってるから、俺は手放せなかったんだ……
行き場のない思いが、息を漏らさせる……ただただ、ウンウンと頷くしかなかった。
でも、だからこそ……オヤジが母さんを裏切ってた事を許せないし……そんなオヤジを許してしまう自分が許せない気がしたから。
「あの……でも、俺やっぱり……このジャケット手放そうと思います……買取は無理かもしれませんが、回収はして頂けるんですよね?」
そう言うと、男は左側に顔をあげ、顎に手を添え考える。
「うーんじゃ……わかった! このジャケット、俺が直接買い取るわ! 1500円で」
「えっ!」
「いや、ちょうどこの色合いのアバクロのミリタリージャケット欲しかったんよ~普段使いで! 悪くないだろ? 」
「えっと……」
「それに、もしアンタがオヤジさんの事を許せたなら……また俺から買えばいいじゃん! まぁ、いるかはその時次第だと思うが」
「いいんですか?」
「その代わり、俺は結構服の扱いが雑いから……その辺は勘弁な!」
そうして、俺は奇跡的に仕事とお金を手に入れた……売ろうしてた服の半分くらいは、その店員に『古着屋の仕事をするからには、手元に置いとけ』って言われ返却された。
「んじゃあさ! 俺もう少しで上がりだから……今日、前祝いと言うことで、ラーメン食いに行こぜ!」
「でも、お金が……」
「いいよ! それくらいは出すからよ! 誘ったのは俺だからさ!」
「悪いですよ」
「気にするな! 俺は周りから期待されてるから、直ぐに店長になるからよ! 」
そうやって、俺は彼と出会った……副店長、鈴木尋史さんと……
そう言った彼は、まだ店長になれていない……
今回も長いのに読んで頂い誠にありがとうございますm(。_。)m
今回の長編は、田中と華ちゃんがメインとなります。
前書きに書いた通り、この先ができてないです……
せめて、この長編は完成させたいと思っています(汗)




