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古着屋の小野寺さん  作者: 鎚谷ひろみ
bitter&sweet
43/52

22 蘇生~やりかけの未来へ~

ついつい、勢い乗っての連投してしまいました。通常回です。

今回は千里香さん視点でスタートです。

そして、勢いで描いているので後々修正がはいると思いますがよろしければお願いいたしますm(。_。)m



「千里香さーん! モノトーンコーデってどうやるんですか?」

「ほぅ、君がモノトーンとはどうしたんだい?」

「いや、モノトーンコーデってカッコいいじゃないですか」

「まぁね。二、三色だけで決まるし、楽だしね」




季節は3月の終わり。早すぎる桜が咲き誇る、今日この頃。世間の学生たちは春休みが終わるのを憂いてる。

私はこの間の事件がようやく薄れて……いつものトレアイ、店での私の日常……いや、あいも変わらない……慣れた、より騒がしい日常がこれからも、今も待っている。





「さてと……だ……アイテム選びの前に……まずは『モノトーンコーデ』とは、白黒、グレーなどの無彩色のみを使用したコーディネートのことだ。よく韓国ファッションや、モードファッションなどでよく見られ、白黒、グレーのみで色をまとめることにより……ざっくり3つの魅力、カッコよさを演出できるというメリットがあるんだ」

「3つ?」


私はスリーピースを差し出すと彼は、不思議そうに首を傾げる。

「そう、『大人っぽく見える』『清潔感が出る』『なんとなくお洒落に見える』その3つだ!」

「おぉ、ホントざっくりですね……」


私の自信満々の態度とその反対に大まかな説明で、彼は口角をひきつらせた。


「まぁまぁ、安心したまえ。ちゃとした説明はこれからするから……モノトーンコーデはさっき言った3つの利点があるんだが……実は細かいところとバランスとテーマ気にしないと残念なファッションに成り下がる……」

「どういうことですか?」

「モノトーンコーデは白、黒、灰色でパッと見、ドレスよりのファッションに見えるんだが……もちろん、そのアイテムの中でもドレスよりのアイテムと、カジュアルよりのアイテムがある。大まかにボタンシャツと革靴がドレス、パーカーとスニーカーがカジュアルみたいにね」

「はい」

「そこでまず、素材感……例えばモノトーンでドレスをテーマにしたコーデをしたいとする。それでボタンシャツをチョイスした……ところが生地が安価すぎるモノ、または薄すいモノだと下着が透けたりする……それとは別でシャツの素材感でシワに成りやすかったり、Tシャツで首元がよれやすくなったり…………それらの状態があると、カジュアルより……いや、自分の意図としないところで、だらしない風に見えてしまう場合があるんだ。だから、服の状態の現状維持を気にしなくてはならない。たとえば、洗濯とアイロンがけを意識する等だ」

「なるほど、ただ、洗って着るだけじゃダメってことですね……」

「だが、洗濯とアイロンがけを習慣化、こだわりを持つのは良いことだと私は思う。そして、メリハリが重要だね。」

「メリハリ?」

「うん。まぁ、シンプルに白と黒の色合いを使うからその比率が重要なんだよ。私はよくこの仕事でオールブラック、黒100%してた。その場合カッコいいけど重い印象と取っ付きにくさが出てしまうんだ。男だと上が黒のパーカー、下が黒のタックパンツと黒の革靴だとする。そこに、インナーで白のハイネックシャツでもいれてやれば大人っぽく、上品さが出る。それで黒90%、白10%……そうやって自身でテーマとかどうみられたいかのバランスを考えるのが大切なんだ」

「なるほど……」

「今は、黒と白の話をしたがそこに、差し色でグレー等を入れたり、するとまた変わってくる。それと、黒と白でも素材感や色褪せ方で印象も変わるからそれも注意して選ぶ事が必要さ。このモノトーンコーデ、ドレス系統のファッションで私が加えたい色がもう一つある!」

「もう一つ?」

「それはネイビーさ!」

「あぁ、ネイビー! いいですね~ でも改めて思うと……なんかスーツのスタンダードなカラーですよね」

「まぁ、スーツはドレスファッションの最高峰と言っても過言ではないから」

「それを思うと僕……アイテム、ブランド別々のセットアップ試してみたかったんですよ~」

「いいね! セットアップはスーツぽい合わせ方がイメージが強いが、他にデニムで色が近い上下……もしくはある程度色素材が近いものだと成り立つからそこが面白いんだよ」


私たちは例のごとく、ファッションの話で盛り上がる。


「なら、今日の服選びのテーマは『モノトーンコーデとセットアップ』!」

「はい、では今回も千里香さん! お願いいたします!!」

「あぁ!! 」



私は一回転して彼に手を差し出した。



「あなたの願い、叶えましょ!」






そして、私たちは店内を歩き回った……



「さて、モノトーンとセットアップと言うことで何かコンセプト、テーマはあるかい?」

「そうですね……特には決めてなかったんですが……」

「まぁ、1つは上下が黒のもの! ……そして、もう1つが上下が白のモノとかにするかい?」

「いや……実は……2セット買うとしても……お金の面が厳しいので……できれば、5000円前後位にできたらと……それと2セットとも上下黒がいいなぁ……と考えてまして……」

「まぁ、お金の面はどうにかできるかもだが……2セットとも黒というのはどうしてだい?」


少年は言いづらそうな感じと照れてる感じがせめぎ合っている。

私のするどい女の勘で、彼の悩んでる理由が過った。


「ははぁーん! さ・て・は……カッコよく、早川くんとデートだなぁ!!」


彼は顔を赤くして、咄嗟に手を振る。


「ちっ、違います!! ホントに、ちっ違いますよ!!!」

「そんなに照れなさんな! 図星だろ~」

「いや、ホントに違うんです!!! それに、デートだったらシンプルに相談しますよ」

「そりゃ、そうか……ならどうしてだい?」


彼は照れながら指で自身の顔を書いた。


「あの……実は……」

「うんうん!」

「えっと……恥ずかしいし……言いづらいんですが……」

「うんうん!」

「えっと……」

「えぇい! 男だろ!! 言いたいなら、ささっと言え!!!」

「わかりました! ちっ、千里香さんに憧れてやってみたいと思ったんです!!」

「えっ……」


その言葉を聞き、急に私も気恥ずかしくなってきて顔が赤く熱くなってきた。


「だっ、だから言いたくなかったんです……千里香さん、こういう時こんな事言うと……僕もですが、恥ずかしくてお互いチグハグになるのがわかってから言いたくなきったんです」

「しょ、しょうがないだろ! 気になったら聞いちゃうたちなんだから……」



私たちの慣れた関係でも、こういう沈黙は流れる……


「おぉ! 何々、また青春しちゃって~ 少年くんは良いとして、千里香ちゃんは恥ずかしくないの? いい歳なのに~?」

鈴木がいつもの如く、ニヤニヤしながらちょっかいをかけに来る。


「うるさいなぁ! 私は心の中では永遠の17歳なんだよ!」

「はいはい、そうですね。千里香ちゃんは心と頭は永遠の17歳、実年齢はアラサーだもんな」

「アラサー言うな! アラサーって!」

「それに、この女……」

「あ゛ぁ゛ん!!」

私は、腹が立ちがなりながら睨むと鈴木は少し恐縮する。


「もとい!……この人に憧れてって……ただ頑固で言いたい事言ってるだけだぜ。わざわざ服装を寄せなくても、中身を変えりゃいいんだよ」


その言葉に少年はまたも頬を人差し指でポリポリと搔きながら言葉を選んでいる。


「なんと言うか……もちろんそう言う性格の面、含めて憧れてるんです。でも、自身を変える為には見た目から変える事も必要だと思うんです。誰にも流されない自身の意思を貫ける、逆境に負けない……『強く、優しい人』に僕はなりたくて……それで千里香さんが黒い服を身に纏っている理由もそんな感じだと思ったので、真似しようと思いまして……」


その言葉が正直に嬉しく、口角が上がってしまう……



ただ……私が黒を纏った理由は……過去のアメリカでの学生時代とあの事件、それと師匠の件が……重ねていってだった……最近はそれらの件が落ち着いて、ようやく仕事場でも、色んな色を取り入れる様になったし……現に今日の服装も黒は少ない。私の様になりたいとは、果たして良いことなのだろうか……

「少年、君は無理やり変わら……」

「鈴木さーん! 買い取りの方、お願いしまーす!!」


私は田中の呼び声でついつい、言いかけた言葉を納めてしまった。

「ほら、呼ばれてるぞ! 早く戻れ」

「ほーい!」


呼ばれた鈴木は、私たちにやれやれ顔と態度を向けて、レジに戻っていった。


うざったく、ちょっかいをかける所は腹が立つが……お陰で気まずさがどこかにいった。



「あっそういえば、最近喫茶店のバイトはどうなんだい?」

「いや、実はうちの店……今、北口あるじゃないですか?」

「そうだね」

「それとは別で西側の映画館の入ってる商業ビルに、うちの新店がオープンするんです」

「それはすごいな。あそこだったら売上めちゃ出るんじゃないか?」

「そうですね。コロナも収まりつつありますし、会社の売上を掛けての一手だそうです。それで、そこの店だけ特別でドリンクのテイクアウトもやるそうで、うちの店長はそっちに付きっきりになりそうなんです。それで今の店に副店長を置くそうで、その副店長が今、メインで店を回してますね~」

「ほぉ~それは、大分変わる感じだなぁ。その副店長さんはいい人なのかい?」


彼は、嬉しそうな顔で私を見る。


「もぅ、それは凄くいい人で~ わざわざ僕個人にお菓子をくれたり、気さくで話しやすく楽しい方なんですよ! 少し千里香さんに似てるのかも、ですね!」

「私にかい?」

「はい! その人『灰田さん』って言うんですが……」


『灰田』? あれ……その人…………あっ! 私の誕生日の時、ちょっと嫌味な態度をとった、あのおっぱい女か!


そう思い出すとついつい苦笑が出てしまう。


「そっ、そうなんだ……まぁ、私に似てるかは……さておき……二店舗管理になったり、直接関わる上司が変わったり、人が増えると色々変わると思うから無理せず頑張って」

「はい!」



雑談がある程度収まり、私はチョイスした服を差し出した。


「まずはこちらだ! HAREのラップジャケットとremerのタックワイドパンツ。まずは着てみてごらん!」


そう言い、彼を試着室に押し込める。


シャー!


着替え終わり、カーテンが開かれる。


「これ、カッコいいですね。僕、上下ゆったり系は初めてかもです」

「うん、まずHAREは東京発のストリートスタイルをベースに、プレッピーカジュアル やスポーツMIXを、モードやアートなど様々なエッセンスを加えつつ、シャープなスタイルで提案している。現在、『値段が手頃で、オシャレ・着まわしがきく・品位がある』点を謳い文句にしているブランドであり、かつファスト系のブランドなんだ。ちなみに、さっき言ったプレッピーとは上品さや育ちの良さを感じさせる優等生風のスタイルのこと。そして、そのジャケットは普通のテーラードタイプではなく、襟がない紐で閉めるタイプ。それにより綺麗目に上品だが、カジュアルに着こなすことができる。そして、remerはいわば、『インフルエンサーブランド』。InstagramやYoutube、TikTokなどSNSのフォロワーが多く、影響力のあるインフルエンサーが発信する個人ブランドで……近年では、企業ブランドと変わらないほどの規模になる場合も増えているんだ。値段もお手頃なモノが多く、ウチなんで中古販売する場合は手にしやすい値段をつけるんだよ」


「なるほど……」


彼は着ている服を揺らしながら自身の前後を見ている。


「この上下とも、柔らかい生地感とゆったりしてる感じですごく着やすいです。それと……この服装……なんか和装っぽいですね」

「うむ、テーマは『シックな和装な洋服』。シルエット的にはAラインで今日君が着ているノーカラーシャツにだと、より和風ぽさが出てるよね。そして、上下がシンプルだからこそスニーカーやブーツ等なんでも合わせれると思う」

「いいですね~ 一条くんがこう言うの好きそう。ちなみにいくらですか?」

「今回、決めてある服の中でそのジャケットが一番高い……1980円! 」

「いや、それでも安い方ですよ!! ありがたいですが……パンツは?」

「680円だ」

「では、まず一組買い決定でお願いいたします!」



彼は嬉しそうに両手でガッツポーズを決めた。





「さて、次の組み合わせだ!」


彼に服を渡し、また着替えをする。



シャー!!



「どうですか?」

「うん、いいと思うぞ」

「さっきとタイプが真逆すぎて……」

「あぁ、こっちのテーマは『武骨なワークスタイル』さ! まず、上のカバーオール。『カバーオール』とは、シャツジャケット型のワークジャケットの総称で、元はワークウェアの事……英語では『つなぎ』のことを意味するんだ。でも日本ではワークテイストの『シャツジャケット』のことを主に指すことが一般的かな 」

「でも、このジャケット……ワークジャケットかもですが……すごく上品さがありますね……まるでテーラードタイプの3Bジャケットぽさもあるというか……」

「そこに関しては、たぶん色が漆黒よりの呂色で艶やかだからだ。それに生地のデニムがいいものを使ってるからだろう。それとそのジャケットのブランドが 7 For All Mankind (セブンフォーオールマンカインド)と言って、ロサンゼルス発祥の主にデニムを扱ってるブランドなんだ。今、クリエイティブディレクターを勤める方は一時期、イブサンローランのアシスタントとしての経験を積んでいるんだ。一度10年前までは日本のセレクトショップとかに置かれてたんだが撤退して……近年また再上陸したんだ」

「ええ! ってことは……お高いんですか……?」

「元値は高いよ……だが、うちの誰かは知らんが、価値を知らずに適当に値段とサイズを記載してしまってね……もう、諦めて490円で販売している……でも、知る人があまりいないから売れてないんだ……」

「うわぁ……何とも言えないですが僕的にはラッキーです」

「そして、下のカーゴパンツはミリタリーファッションでは有名なアルファさ。コイツは多少使用感があるのと、なかなか売れなかったから半額でこいつも490円」

「ちょうどカーゴパンツに挑戦したかったからこれもありがたいです!」

「最近、菅田くんの影響で古着ブーム……アメカジ、カーゴパンツブームが来てるからね。それと、ワーク系統ファッションだが、モノトーンで決めるとまた違うカッコよさがでるからチョイスした。だが……」

「えっ、なんですか?」

「今回安くしてる理由として、そのアルファのカーゴパンツは各ファッションブランドの出す、お洒落カーゴパンツというより、伝来の使いやすさをメインにしている……多様性のあるお洒落なコーディネイトとして使うのはなかなか難しいから、それを覚悟して買うことを意識してもらいたい」

「わかりました! でも僕……」


彼は、着ているカーゴパンツを掴みにやける。


「コイツの事気に入りました! それに千里香さんが選んでくれたモノですし……買います!!」


彼は私の目を真っ直ぐみて微笑む。

「あぁ、君が買ってくれるならこの服たちも本望さ……」

「はい!!」



そして、少年は意気揚々とお会計を済ました。そんな私たちのいつもの日常は変わらない……



「やっぱり、千里香さんに服を選んでもらって良かったですよ~」

「まぁ、私も楽しいからね!」

「こうやって、ずーっと千里香さんに服を選んでもらえるのがいつまでも続いたらな~」

「わからんよ。君だって大学進学やら就職とかあるからね~」

「そうですね……」

「この店のスタッフだって、いつ変わるかわからんし……だが……」


彼が少し寂しそうな顔をしてしまったから、私は言葉を紡ぐ。


「だが……そんないつ終わるかわからん関係だからこそ、その一瞬の関係が愛しく思えるし、大切にしたいんだと……私は思う」

「はい!」

彼はそんな私の自信満々の態度を見て、少し朗に笑う。私もその顔を見て微笑み返した。



そして、彼を見送り、ふと考える……

『私はこの先、どうやって行きたいのだろう……』






後日、午前11時。久々に神奈川の方にある日本での実家のマンションに訪れた。


「わん! わん!!」

「おぉ! 相変わらず元気だな、リリー! 」


飼い犬のラブラドール犬が出迎えてくれる。


「あら、お帰りなさい千里香。あなたはホント急よね!」

「いいじゃん! 娘が帰ってきたんだからもっと嬉しそうにしてよ~ それに知り合いの美味しい和菓子買ってきたから」

「あっ、そういえばモモも帰ってきてるわよ」

「えぇ、兄貴居んの~」

「いや、あなた……人に言った言葉が自身に返ってきてるわよ」



一条くん所の和菓子を渡す。そして玄関でスリッパを履き、リリーと一緒にリビングへ向かう。


リビングでは父と兄貴が向かい合って将棋を打っている。

兄貴はソファーに足を組んで座り、肘置きを右側だけ使って口を尖らしながらテレビを見て駒を動かし……

父は専用の椅子に座り、新聞を見ながら、空いた手で指をトントンとしている……


「ああ! もう、俺の敗けでいいよ!」

「お前、将棋弱いな」

「いいんだよ! プロとか目指してないし」



父は水色のポロシャツに、ベージュのチノパン。兄貴はピンクよりの赤いボタンシャツに、白のチノパン……


親子ながら色違いの似た服装で、ふっと吹き出してしまった……


「二人とも将棋やってたっけ?」

そう言うと一緒に此方に顔を向けた。


『最近、付き合いで始めたんだ』


同じ言葉で同じ真顔で、より親子だと思わされる。



「あぁ、くそ! 負けた!!」

「それじゃ、約束通り駅前の酒屋でワイン買ってきてな」

「わかったよ! すぐ行ってくる!!」


出ていこうとする兄貴に、母さんが小走りで近づく。


「モモ、今日は家族が久々に揃ったから13時前くらいには、いつもの定食屋さんに行くから……できるだけ早めに帰ってくるのよ」

「はい、わかりました」

「あと、ついでに夜様のおつまみのミックスナッツの缶も買ってきて!」

「かっ、母さんまで……」


兄貴は溜め息をついて外へ出掛けた。




「千里香、お帰り」

「ただいま、父さん」

「そういえば、フリーダとの関係修復できたんだって。フリーダが喜んで電話をくれたよ」

「うん、お陰さまで」

「それから、どうだ? 仕事の方は?」

「うーん、うまくやってるよ……」


ついつい、久々の会話が煩わしく思い……言葉を曇らせてしまった……

今日、久々に実家に戻ってきたのには理由がある。


その事を言いたいがタイミングを計ってしまう……

そんな様子とは御構いなしにリリーは自身の特等席にしゃがみこんだ。



「なに、身構えて突っ立ってるのよ……実家なんだからソファーに腰掛けなさいな」


母に優しくせかされ、席に着く。


「千里香~! 烏龍茶でいいの?」

「うーん! 大丈夫」



私と父の目の前に烏龍茶と和菓子が出された。

母も私の横側の椅子に座り、和菓子と烏龍茶を味わう。

「そういえば、あの定食屋……まだ営業してたんだ」

「いや、それが今月中に閉めるみたいでね……よかったはちょうどあなたも帰ってきてくれて……あそこのおじさんとおばさんもいい歳だから……」

「そういえば、あそこのAランチ美味しかったな……」


私たちは日本での行きつけの定食屋さんの話で盛り上がる。


「そうそう」


だが、母は思い出した様に……口にした和菓子を食べながら左手で隠し、口の中が落ち着つくと同じ方の手を招くように動かす。


「千里香! 近所に住んでた片桐さんのお宅覚えてる?」

「歩ちゃんの所?」

「そうそう!」


歩ちゃんのご家族は、昔ウチの近所に住んでいた。小さい時に何度か面倒を見てもらった4歳年上のお姉さんだ。


「最近、たまたま駅近くのスーパーで、久々に歩ちゃんのお母さんに会ったんだけど……お互いビックリ! まぁ昔話に少し花を咲かせてたんだけど……どうやら、いまから!歩ちゃんが声優さんを目指すみたいとか、何とか……」

「えぇ! そうなの?」

「歩ちゃんのお母さんも心配らしくて……」

「そっ、そうなんだ……」


私はついつい、その話で言葉が詰まってしまう……


そんな様子を尻目に父と母は会話を続けている……

2人は赤の他人の事なのにある程度深刻そうに話す。会話が耳に入らず、ただ唇を噛み締める……額に変な汗が出てきてるのを感じる……



よりによって、こんな会話の時に言い出せるか……

どうする、今日言わなきゃ……できれば兄貴がいない今……



私は自身の左手に目をやると微かに震えてる事がわかった。


わかってる……今はもう、あの時みたいに軽い感じに言える事じゃない……年齢も……だからこそちゃんと言わなきゃ、言わなきゃ……


口を開くが喉に引っ掛かって、声が出ない……

私は一度固唾を飲み、不甲斐ない自分から逃げたく目を閉じて、軽く俯いた……



その数秒の暗闇の中で、左手に温かさを感じ目を開く。


するとリリーが尻尾を振りながら、私の左手に顎を乗せて上目遣いで此方を見る。

その優しい真っ直ぐな無垢な目が私の目を逃しはしない。


「リリー……」


ありがとう、リリー…… 私頑張って言ってみる。



「あら、リリーは相変わらず千里香の事が好きなのね!」


そう言うと、リリーはまた自分の特等席に戻り座り込んだ。

2人の視線がリリーにいっている。



「父さん! 母さん! 話があるの!!」

私の声は緊張で少し裏返る。そして、私の方へと視線が向けられた。

私は鼻から息を吸い、口から吐く。

「実は、今日戻ってきた理由は……」

そこでまた、言葉が止まってしまった。だが、私の深刻そうな表情に父が何度か頷く。


「千里香……まさか、仕事辞めたいのか?」

「えっ」

「理由はあれか、やっぱりニートの方が楽だもんな……」

「えっ」

「いつか、そう言われるんじゃないかと思ってたんだが……」

「違う、違います!」

「えっ、じゃ……なんなの?」


母が傾げながら此方をみる。


「私、もう一度芸能の仕事に戻ろうと考えている」


躊躇なくしっかりとそう言うと、二人は驚いて目を見開いた。


「わかってるよ。あんな事があったし、反対されるとは思っている……でもね、やっぱりね、私もう一度やってみたいの!」

「反対するわけないじゃないの」

「えっ」


母の意外な返答に、私はすっとんきょな声で返してしまう。


「えっ、むしろなんで……」


父も私の答えに、鼻息を漏らしながら笑う。


「あのね、私たちは、千里香……君のやりたい事をやればいいと思っているんだよ」

「でも、あんな事があったのに……」

「あれは、事故みたいなものだろ? まぁ、本人からしたら事故で済ましてはならんし、私たちも身が引き裂かれる思いだったさ。二度とあんな思いしたくないし、してほしくない……でもね、それでも親は子供のやりたい事を応援するのが努めだと思うんだ。だから君には自由に生きて欲しいんだよ」

「父さん……」

「それに失敗したって、幸い私たちにはある程度の資産がある……その資産等を売ったりして、贅沢しなければ君の一人の今後生涯の65%位を賄えるほどのモノはあるんだ。」

「でもでも……」


ついつい落ち着かない私に、母さんが私の背中に手をやりゆっくりとさする。


「千里香。あなたは好きに生きていいの。後悔しない道を選びなさい。それに何度失敗しても私たちがいるし、百之助もいるし、フリーダもいる。それにモモから聞いたけど、今の職場の人やあなたを慕ってくれてる人たち……それに、お弟子さんもいるんでしょ……あなたが今努力して人間関係を築く力は……きっとどこかで助けてくれる……今のあなたなら大丈夫だと信じているわ……」


「うん……」


目頭が熱くなる。私は紛らわせるように首小さく降った。


「でも、もし人生失敗して……兄さんへの資産の分与は……」

「あの子はそんなのなくても生きていけるわ」

「アイツは私たちの資産を渡さんでも大丈夫だろ」



兄貴、ある意味可哀想……



「そういえば、モモには言わなくていいの? あなたがもう一度目指すの一番期待してるのに……」

「いや、アイツに言うと色々詰め込み過ぎるから……嫌になるんだ……どれをやりたいか、まだちゃとは決めてないし……それに!」

『それに?』

「急いで進みたいわけじゃないの……ゆっくりと前に進みたいから……何回も立ち止まりながら考えて進みたい……だから、兄貴には内緒で」

「わかったよ」


父は快く返事をしてくれた。


「さて、実家に帰ってきた理由もわかったし、新しい門出も聞けたし……では、あとはいつもの定食屋でモモには内容を伏せて、内緒でお祝いしましょ! 」

「うん」

「その前に、気持ちを落ち着かせてきなさい! あなたの部屋は状態をできるだけ、保ってあるから」

「うん! そうする」


私は立ち上がり自身の部屋に行ってみる。




当時、小学4年生の頃の空間が少し色褪せて残っている。

小学生4年生にしては少し大人びたシックな部屋……



私は力を抜き、背中からベッドに飛び込んだ。


ギシッ!


だが、さっき言った部屋の特徴には似つかわしくなく、天井には女児向けアニメ『どじ魔女 ソラミ』のポスターが貼ってある。ソラミちゃん含めて四人の魔女見習いが楽しそうに箒で飛んでいる。


「ソラミちゃん……私、これからどうしよう……? ソラミちゃんだったらどうする?」


私の問いかけは、宙で分解される……


28歳の女が、小学3年生のキャラクターの女の子に相談するのはなかなかシュールな絵面だろう。

だが彼女たちが持っているペン型の魔法のステッキが目に入った。



そういえば、ソラミちゃんたちも最後は白紙の未来を色んな色のペンで彩って、なりたい自分を描いていたっけ……そして、彼女達はそれぞれ形は違えど夢を叶えたんだ。



なら、私も……



私はポケットに入っているスマホで検索する。



『モデル 女優 ワークショップ』



検索したページをひたすら確認する。

そして、勉強机に座り引き出しからノートと色鉛筆を取り出した。


「よし!」



私は真っ白のノートに、つらつらと書いていく。考えるが、ただペンは未来へ向けて走る。予定だとしても未定だとしても、楽しくてしょうがない……




そうだ、叶いもしない妄想を見ることをやめることにする……今度こそ……現実を夢みたいに塗り替えてみせるんだ。


白紙な未来も……色とりどりに描いてみせる……今度こそ、きっと……

今回も、つたないなのに読んで頂誠にありがとうございます!

2章での千里香さんの心境の変化がこのようになりました。それと佐藤くんの心境も変わっていくと思います。


何も考えず、見切りスタートして投稿したので、続きの話しはできていないですが……

また、投稿したときに読んで頂ければ幸いです!


今回も長いのに読んで頂き誠にありがとうございますm(。_。)m

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