20B グッバイ エレジー
前回の続きです!
今回は五味 真澄 視点のお話です。
まぁ、なんか作中での悪役っぽい視点で書くのって難しいですけど、楽しいです。
楽しんで頂けたら幸いです!
カチャカチャカチャカチャカチャカチャカチャカチャカチャカチャカチャカチャ……………………………………
「五味さーん! 珍しいっすね。オフィスで仕事なんて、それに急がしそう 」
カチャカチャッ!……
その馬鹿そうな声で、俺はキーボードの手を止めた。そして、椅子を反転させる。
「なんだよ~春日ぁぁ~俺は忙しいんだけど~ 」
春日は俺の後ろに立ち、ニヤニヤしながら俺を見ている。
「相変わらず、つれないっすね~! 折角、長瀬 友和 氏の近辺の情報収集、手伝ったのに~お姉さんの情報とか大変だったんですからね! 」
春日は、何かを見つけた模様で目を丸めた。
「あっ、この美人誰ですか?」
最近撮った小野寺千里香の写真を俺のデスクから奪い取り見ている。
「知ってる人ですか?」
「まぁ、そんなとこだ。返せ 」
「外で取材してるみたいに、愛想良くすればいいのに 」
「うっせ 」
「でっ、誰なんですか! 誰!?」
俺は大きく息を吐く。
「今日は……気分がいいからタバコ吸うついでに、教えてやってもいい 」
「えぇ、俺タバコ吸わないんですけど……ここじゃダメっすか?」
「知りたくねぇんだったら、来んな 」
「いや、暇なんで行きます 」
「…………」
こいつマジ、めんどくせぇ。
俺たちはビルの屋上の喫煙所に移動した。
俺はタバコに火をつける。
「寒い寒い……えぇ……紙たばこですか……臭いんですけど~匂い付くし 」
「お前……ちっ! もう……いけよ 」
「我慢するんで諦めます~ 」
「………………」
なんで、俺、こいつに言おうと思ったんだ……
「それで、写真の人は?……あっ! もしかして、ストーキングしてる人ですか! 」
「おまえ……殺すぞ 」
「もぉ~相変わらず、目つきも口も悪いですね。 ちなみにパワハラですからね 」
「お前が、癇に障る事を言うからだろ 」
「それで、なんで追ってるんですか? 」
俺は大きく煙を吐く。
「おまえ、『ピート・ガデン』のニュースどう思う?」
「あぁ、あの胸糞悪い事件ですよね。もういっその事、終身刑でいいんじゃないですかね?」
俺はその発言に嬉しくなり、煙を漏らした。
「もし、あの事件に日本人の被害者がいたらどう思う?」
「えっ……」
「あの写真の女は、日本人唯一の……被害者かもしれない 」
「っ…………」
「いや、被害者かもしれないし、加害者かもしれないんだよ 」
「えっ、どういう事ですか? 」
「向こうで、さっきの写真の女……『小野寺千里香』の取材してた時……周りの関係者とかは、『暴力を振るったのは小野寺千里だ』って言ってる 」
「そう……なんですか? 」
「当時、今回の件が明るみになる前で……結局は周りの奴らは口裏を合わせてた可能性があるんだ 。それに、あの女はそんな事をしねぇか…………いや、わかんねぇけど……」
「なんで、そう思うんですか? 」
俺は吸い終わったタバコを消し、設置してある灰皿にいれ、またタバコに火をつける。
「俺、大学時代……東大だったんだが……」
「たしか、そうですよね。えっ、自慢ですか 」
俺は春日の問いを無視した。
「 んで、アメリカに短期留学してたんだけどよ……将来……俺は何でも出きると思ってた 」
「やっぱり、自慢じゃん……」
春日は小さくこぼした。
「んで、当時ホームステイ先のツレがよ……演劇好きでな。小劇場とか観に行くタイプの奴で……そいつに無理やり付き合わされて、小劇場観に行ったんだわ 」
「えっ! 五味さん、お友達いたんですね! 以外!!」
「話の腰を折んな…………それでよ、脚本に演出に役者に……どれをとってもクソ、自己満で……それでその中の、ど下手くそ中のど下手くそが小野寺千里香……奴の初めての舞台だった……」
「えっ、良いとこ無しっすか?」
「あぁっ……だがな……俺が日本人だったからかもしれんが……いや、その時の観客たちはそんな小野寺千里香に釘付けだった。下手くそだが、なぜかあの女には人を惹き付ける力があったんだよ……舞台の彼女は輝いてた……」
俺はまた、吸い終わったタバコを灰皿にいれ、買っておいた缶コーヒーを空けて、コーヒーを啜り空いた左手は右脇に挟んで、過去に想いを馳せるように少し斜め上を見た。
「あの……さっきから五味さん、変な間……空けないでもらえます。なんか~もしかして、心の中で一人語りしてます? 第三者目線で自身を見て、カッコつけてます? ナルシストっすか? 正直ダサダサなんですが……」
「やっぱ、お前の事嫌いだわ。おまえには、もう話さないから……」
「すんません、嘘です嘘。ついつい、くちばしって~ 俺は五味さんの事好きなんで、言ってください 」
「チッ!………………それで、公演終了した時に最後の観客の見送りに、頑張って俺、話しかけたんだよ。『日本人なのに、アメリカで……それも舞台に立つなんて、すごいですね』って言ったんだ。んで、向こうもこっちが日本人だとわかったらホンの少し話が盛り上がってな。それで、あの女はテンションがあがってか……軽くハグして、俺の頬に軽くキスのフリをして、耳元で『また来てくださいね』って言ったんだよ。とんでもねぇ、ファンサービスさ。あの女はとんだ食わせもんだ。そして、何かしらでスターになると確信して……きっと、俺は……小野寺千里香のファン第一号。そらから俺は一流企業とかの就職を蹴り、こんなゴミ溜めみたいなメディア関係に就職したんだよ。そして、アメリカの友人の情報を元に、彼女が舞台に出る度に俺はアメリカに行き彼女を追いかけた。もちろん彼女も公演に参加する度に徐々に演技力をつけていって。いや、実際の技術力というより、役の内面を観てる側に伝える力の方か……」
「それって、普通の演技力とかとは、違うんですか?」
「演技力と役者にも種類があってな……まず、前者は……滑舌、声量、身体、感情表情、演出に言われたことを直ぐに修正、各メディア等での自身の芝居の観せ方……それぞれのコントロールができる役者は、『上手な役者』。だがそれだけだと、以外にごろごろといる……それらとは別で後者は、役の感情やバックヤードを自身が理解しそれを観客に伝える力、自身の個性を活用して表現する力……あと演技に正解は無いが、模範的正解と間違いのギリギリのラインを導き出せるのが……味のある『旨い役者』だ。そして、両方兼ね備えた役者が良い役者になる。だが、後者の役者に関してはメンタル的に左右されやすい部分があるんだよ。たとえば、急に犯罪を犯してしまったり、精神的病気になりやすかったり、繊細な奴が陥りガチなんだ。そして、どこでタカが外れるかわからねぇ。小野寺 千里香は後者の役者…………話しは戻るが……そして、ついに念願の有名な舞台……ピート・ガデンが作演出する作品のメインに選ばれた。ダブルキャストで…………当時のスタッフに聞いた話だが一応、キャストが急に何かあった時の為にバックアップは用意してあったそうだ……そして、ゲネプロ公演までは俺は追っかけてたんだが……そこで何か起きたらしく、結局、急に降板になった。その小野寺千里香の代役が、麻薬所持で捕まった『マドリ・チャイネス』…………なんかすごく、きな臭くてな……当時は納得できず……そして、小野寺千里香は姿を消した…………俺はあの女の為に、マスコミを選んだ。俺は……あの女に出会わなかったら、こんなゴミみたいな仕事をやらずに済んだ…………こんなクズみたいな……俺はあの女に人生を滅茶苦茶にされたんだよ 」
「はぁ…………」
春日はまた余計な事を言おうとしてようだが……珍しく我慢し口をモゴモゴさせた。そこから真剣に考える素振りをした。
「あっ、そう言えば。小野寺千里香は役者で言う、後者側なんでしょ? もしかしたら、ホントにタカが外れて暴力を振るってたんじゃ…… 」
「そうだなぁ。火のないところに煙はたたないから。だからこそ、今の俺は……いや、元ファンとして……記者として事実を知る権利がある 」
「……そういえば、さっきチラッと書きかけの記事見たんすけど……あれ? 大丈夫っすか? 彼女は今……えっと、元役者? アングラ役者?……まぁ、謂わば一般人ですよ。あれは……」
「可哀想な被害者、悲劇のヒロイン……それで世間に注目され……それを乗り越え、役者に戻る……最高のシナリオだろ。まぁ、俺の記事で小野寺千里香の人生がぐちゃぐちゃになったら、所詮それまでの女だ。発行される雑誌の部数は、どう転ぼうとも『ピート・ガデン』の名前で売れる。最高だろ?」
「まぁ、はい……訴えられたり、とか無いですかね?」
「だいたい、芸能人とかも、ゴシップ書かれて訴えないのは……少なくとも、その要素があって訴えない。これ以上、明るみにされたくないからだろ 」
「いや~、今日の五味さん。饒舌ですね 」
俺は言いたい事が終わり……またタバコに火を着け、意味もなく見上げて、煙を吐く。
「えっ、なんか、上にあるんすか?!」
春日も見上げた。
「あっ! 流れ星!!」
春日は星にめがけて指をさした。流れ終わって……
「五味さんは、今、何を願いました?」
「そんなん、願うわけないだろ。ガキじゃあるまいし……」
「えぇ、もったいない……」
実際は、嘘……俺は流れ星に『どうか、小野寺千里香の真実が明るみになります様に……滅茶苦茶になっても構わないから……』と願った。
今回も読んで頂き誠にありがとうございます!
五味は……まぁ、こんなカンジでした……(笑)
個人的な話で、某戦隊ものの最終回ですごく感動しました!
あんな人間賛歌な作品を描けるように、頑張りたいです!
今回も読んで頂き誠にありがとうございますm(_ _)m
!




