表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
古着屋の小野寺さん  作者: 鎚谷ひろみ
sweet&salty
37/52

20A サウンドトラック#2

注意!! ↓を読んでから、読むかを判断して頂きたいです。



※今回のお話は少しR12~R15対象くらいの話(※性に関する事柄)が出ます。もし、不快に思われましたら、申し訳ございません。

なので、すぐ下の回は一応、全年齢が読めそうな軽いあらすじを足しております※





試験が終わり落ち着いたので投稿しました。

前回の続きです!


急いで投稿したのでまた、修正いれます!

今回も長いので、ゆっくり読まれましたら、幸いです。







20A-2 惑うイト




結局、私はカメラを売る事ができなかった。購入の為のお金は……遣わずに貯めてたお年玉8000円。お小遣いとこの前売った分の8800円。なんとか、合計16800円……今からアルバイト始める? いや、ダメだ。基本は月給……日給でも、探すの大変だし……それに、ジャケットの方が先に売れる可能性がでかい。

小野寺さんに頼んで、取り置きしてもらえるかなぁ……でも、流石に無理だろうか……



結局、私は親孝行できないのかなぁ……と悩みつつ、学校の教室で頬杖をつき、ため息が出てしまう。



「どうしたの優ちゃん? ため息なんてついて?」


早川ちゃんが心配そうに私の顔を覗き込む。

「いや、大したことじゃないよ。ちょっと考え事……」

「そっか~、もし、相談できる事だったら聞くから」


彼女の優しい笑顔と返答に、気が抜ける。


ふと、彼女の指に金色の星の指輪を着けているのが目に入った。



「早川ちゃん! それ、たまに着けてるよね 」

「あぁ、これ、一年前に知り合いだった子がプレゼントとしてくれて……そうそう! 佐藤さんも持ってて……」


彼女には珍しく、にやけたようなハニカんだ顔を見せた。


「あっでも! 一条さんや小野寺さんも知り合いで、それぞれに! それぞれに皆星の形のモノをもらったんだ~でもそう言えば、佐藤さんだけはヒトデの形だったけど~」


彼女は思い出し、嬉しそうにクスクスと答える。


「それで今日は塾の方で試験あって、お守り代わりに着けてるんだ 」


「へぇ~、すごーい 」

私はあえて、気持ちを込めたような返答をした。


だって……私は裏腹に……ふつふつと、底の方が煮えてきてるの感じがしたから。お気楽でいいなぁ……私は今、かけずり回ってるのに。

それになんで……わざわざ佐藤くんも貰った事を……今、言ったんだろう……そんなにも、嬉しそうに……一条くんや、小野寺さんも貰ってるし……当て付けかなぁ……どうせ、私は蚊帳の外……というか、どういう経緯かわからないけど……なんで小野寺さんも貰ってるの? あの人、学生じゃないじゃん……佐藤くんには誕生日を企画して貰ってるし……彼は、私の誕生日すら知らないだろうし……私だって彼とはそれなりに関わってきたし、彼は私と話す時は楽しそうに話してるし。

私にも優しくされる権利はあるハズだ……早川ちゃんも小野寺さんももう少し苦労した方がいいんだ……と嫌な考えが私の中でグルグルと巡る。




「……あぁ、ごめんね! ついつい、一人で盛り上がっちゃって!」

「うーうん、大丈夫!……そういえば……改めて思ったんだけど小野寺さんって、どういう人なの!?」

「うーん……えっと、どういうって?」

「いや、あんな綺麗な人だし、元々デザイナーとかやってたんでしょ? それに、モデルとか女優とか? なのになんで古着屋の店長なんて……」

「うーん、わからないね。ちゃんとは聞いたことないから~ でも、すごいよね! 色々やってきて、今は古着屋の店長選んで、小野寺さん! なんでもできるし! 」



そう、彼女は『なんでも』持っている。なのに、わざわざ……

佐藤くんとも、ずっと一緒にいる……ズルいよ、ズルい。だったらさ……色々手に入れて、結局いらないなら、少しは私にわけてよ……あなたの幸せ……


「そうだよね…………『変な人』だから、わざわざ……」


私は、ふとっ『変な人』というに言葉に嫌な思いを乗せてしまい、我に戻った。

彼女を見ると、目を丸くして驚いている。

「あっ、いや、その変な意味で、『変な人』って言ったんじゃなくて……」

私はどうにか自分の発言を取り繕って、あたふたしてしまった。


「ふっ……『変な人』か……確かに!」

彼女は急に吹き出し、嬉しそうに屈託となく笑う。


「それじゃ、私はそろそろ行くね!」

「うん、それじゃ!」


私は、さっき思った嫌な感情に少しの後悔を持ち、机から立ち上がれない。また、大きくため息をつき、天を仰いだ。

それにしても、どうしよう……お父さんへのプレゼントのジャケットのお金。うかうかしてると売れちゃいそうだし……また探すのは大変だし……早川ちゃん以外の友人達は部活や用事でいないし、相談するなら口頭でしたいし……お金。




「ねぇ~今から遊びに行こうよ~」

「いや、今からバイトだし!」

「しょせんバイトっしょ! 1日くらいサボってもいいじゃん!」


離れたところから、いわばイケイケグループの女の子たちの話が耳に入ってきた。


「駄目! うちの仕事、マジ先輩が鬼みたいに厳しいから! 」

「えぇ! どうせマックじゃん! 従業員いそうだし、大丈夫じゃね? 」

「駄目! !…… というか、遊びのために……ウチ、稼いでんだし!」

「じゃあさ! じゃあさ! 楽して稼げる仕事しようよ! 」

「楽してって何?! 」

「パパ活! 」

「はぁ! あんた馬鹿!?」

「いや~! なんか、エッチな事とか無しでもさ! お話とかだけでも、お金貰えるみたいだし~」

「イヤだよ! その時は何もないかもだけど、知らないおっさんだし、後々恐いわ! 学校にバラすとか脅されたら、どうなるやら……」

「それか、駅の北口の方の細い路地の『大人の店』で働くか!? なんか~知り合いが、言ってたけど高校生も雇ってたって! 噂で~」

「ふざけんなし! ウチ、もう行くからね!!」

「まって~! 日給一万以上だって~」


そんな下世話な事が聞こえてきた。






夕方、帰り道。さっきの彼女たちが言ってた事が頭に残り、気が付くと駅の北口の細い路地の前に着てしまった。

周りは、ラーメン屋やスナック、飲み屋とあるが…、一つだけギラギラに輝く看板が出ている。

その店らしき所から、離れてボーッと見ていた。


すると、サラリーマンらしき人達や、キョロキョロしたおじさんっぽい人がその看板に吸い込まれるかのように店に入っていく。

だが、その人達共通で、私が感じたのは正気を感じなかった。もしくは遠目でわかるが目が死んでいる気が……それでいて目が恐かった……



確かにギラギラした看板を見ると、遠目でも解るように、こう記載されている。



『コンパニオン募集 日給一万円以上~ 朝10時~ 時間、応相談 短期可』



スマホを取り出し、その看板の情報をスマホで撮影した。

あそこで、5日働けば……あっという間に五万円は稼げる……

ふと、心の中に過る。私は呆然と立ちくしていた。



『人生はあまいろのお菓子のよう……』

その人その人によって、ベージュという色でも、見方や感じ方は違う。私の人生は甘いのか……


お父さんが喜んでくれるなら……我慢しないと……別に、いいよね……


その後は、頭が真っ白になり……スマホを握りしめ、足が一歩進む。





「やぁ!」



声を掛けられ、肩を掴まれた。私はびっくりして跳ね上がり、声がした方にゆっくりと振り向く。


「少女じゃないか!? こんな所で何してるんだい?」

「おっ、小野寺さん!?……」


彼女はニコニコしながら、たい焼きの袋を持っている。



そんな緩い顔をした彼女の顔を見ると、なぜか安堵して、気が付くと彼女の胸に飛び込んでしまった。


「おいおい! 可愛い子に急に抱き締められると、おじさん照れちゃうなぁ~……」


私は、彼女の胸の中で小さく左右に顔を降り、身体が動く事ができない……だが、小刻みに体が震えていた。

今の顔を見られたくない。


「……おっと、冗談を言ってる場合じゃないね……よかったら一緒に、喫茶店で御茶でもしないか? もちろん、私の奢りで!」


彼女は私の頭をポンポンと撫で、優しく包み込む。私は小さく頷いた。






店に入り、席についてからも気を遣い話してくれた。


「今日は早番で、終わったから店の向かいの鯛焼き屋さんで買ってしまってね~! そうだ! あとで一個あげようか!? 」とか、「少年の店ではない喫茶店に着てしまった! これは浮気してしまったな!」とか色々……


そんな彼女のお陰で私の気持ちは落ち着きはじめ……そして、そんな彼女の厚意に甘えて、私の言葉は漏れだした。


父と姉が喧嘩して、姉が出ていった事……

それが原因でここ2年……3月くらいには父が鬱に近いくらいの落ち込みをすること……

その気持ちを和らげるために、例のジャケットをプレゼントしたいこと……

でも、お金が用意できない事……

そして、気の迷いで…………いけないことに手を出そうとしたこと……





「うーん……なるほど、なるほど……」

「…………」

彼女は腕を組みながら真剣に考えている。


「君! エッチな仕事やそれで稼ぐって、なぜ、悪いと思う?!」


えぇ! そっち!?


「えっと……世間的に……恥ずかしい、だらしないようにみえるから?……後は人の倫理の部分から外れてると、言いますか…… なんか、悪い事してるみたいで……それから、他人にバレたら否定されたり、親とか身内、友達とかからも……変な目で見られるといいますか……」


彼女は私の答えを受け取り、それから顎に手を添えて、自身で何かを模索している様に思えた。


「まず……これから言うことは、私の見解だから、すべてを納得しなくてもいいんだが……」


そう切り出すと、腕を組み直した。


「まず、そういうお店のバックには、全部が全部では無いと思うが……暴力団やマフィアが絡んでいる可能性がある。まぁ、その地点で恐い部分ではあるよね。そして、酷いところだと……その儲けになったお金を麻薬売買や武器購入に使われたりするそうだ。ヤクザ全員がそんなのばかりではないと、私は信じてるが……AV業界の方では、非正規の酷いメーカー等でよく言われるのが……当人の許可をとらず撮影したり、薬やお酒を使い昏睡状態にし撮影をして販売したりする事もある。その地点で幾つかの罪に問われるからね。あとはもちろんそれらの業界全般は18歳以上が当たり前だが、そんなことをお構い無しでやる奴らも居る。それらは一部の悪徳な人達がやってるだけで、業界でもちゃんとクリーンにやってる人達もいる。だが、どうしても悪評の方が目立ってしまうから……人間は悪い噂を楽しんでしまったり、叩きたいという習性があるから…………次に、実際の身体への影響さ。いわば性病等をうつされる可能性。望まない妊娠をしてしまう可能性……結局は我々は女性で、非力な部分がある。そしてたぶん、相手との個人間でのやり取りが重視されてしまうから、力で屈服されてしまうし、もしかしたら情に流されてしまう部分もある。それらの事を我々は心のどこかで、そういう仕事を蔑んでしまうんだよ…………そして、私が一番思う事は性行為に関しては『魂の馴染みあい』だと考えている 」

「魂の馴染みあい?! 」

彼女の思わぬ発言で、すっとんきょな声をあげてしまった。


「あぁ、すまない。これだと宗教っぽい言い方だね。『魂の馴染みあい』というとアレだが、心と言えばいいかなぁ。で、元来性行為とは種族を残すために生物に与えられた事だ。人間に関しては……好きな人、相性が良い人だと幸せな気持ちになれるんだ。だが、それ以外の人の場合、謂わば不快と感じる人もいる。もし、その不快を繰り返す事によって、その人自身の魂を削ることになるんだよ。まるで、大切なモノが抜け落ちる様に……その大切なモノは人にもよるが、私は謂わば自身の倫理感だと思ってるよ。その倫理感が無くなっていくことによって……悪い意味で『まぁ、いっか 』ってなり、望まない結果を生むことになるかもしれない…………ちなみに実際、キスをするだけで相手との相性もわかるそうだ。唾液によって本能的に、相手との遺伝子の相性がわかるらしいよ 」


「なるほど……」


「おっと、話を戻すね。元々娼婦とは人類最古の仕事でもあるんだ。それに、ドイツではちゃんとした仕事にもなっているしね。ただ、どうしても世間ではだらしないというイメージは拭えないのも事実。それと風俗で働く人達やAVに出る人達の理由とか、わかるかい?」


「お金に困ってるから……?」


「まぁ、たぶん、そうだね。これはよくある理由だが、大学の奨学金の支払いや借金を返すために、旦那と離婚して子供を育てるためにや、欲しいもののために、将来やりたいことのためにとか、誰かにちやほやされたいため自己承認欲……もしくは誰でもいいから愛されてると思いたい、性行為が好きだからと色々あるね……それでも彼女達にはそれぞれ、其なりの覚悟を持って『自身が生きていく』為に、やってるとは思うんだ 」


「なるほど……」


「もちろん……いや、だからこそ彼女達の仕事を否定するつもりもない。実際、セクシー女優さんはエンタメに振っていて身体で表現する芝居とかも凄い。そして、娼婦の方々によって気持ちを救われてる人々もいるし。だが、変な影響を受けて性犯罪を犯すバカな奴らもいる……究極を言えば各個人の問題だ。性犯罪に関しては、心の殺人とも言われてるし。被害に合う方々の心は殺されて、永遠にいつ終わるかわからない苦しみに蝕まれる…………それらに関しては結局、総合的には何とも言えないかもしれない…………まぁ、生業にしてる方々は、お金という対価を受け取ることによって罪悪への気持ちは薄れ……いや、人にもよるがお金が辛さを受け持ってくれる……そう、『お金の為だからしょうがない』っと考えているんじゃないかと、私は思っているよ。もちろん、人其々だとね…………あと、そういう仕事を始める時、私が想像するに3パターンあると思うんだ 」


「3パターン?」


「あぁ、1つ目は覚悟を持って入っていくパターン。2つ目は気が付いたら入れられていたり、巻き込まられてるパターン。 3つ目はもう考えるのをやめて、入ってしまうパターン。まぁ、これは私の考えだがね……個人的に恐いのは3つ目かなぁ 」

「えっ……? 」

「これらのパターンって実は人が生きる中の選択肢で、よくあり得る事だと思うのさ。1は自身が選んだから納得せざるえない。2は被害者だと言える。3に関しては選択ではないから…………たとえば、この話を『電車での投身自殺』にしたとする。1と2は先程のとおり……だが3つ目の場合、何も考えず電車に吸い込まれるんだよ 」

「どういう事ですか?」

「だいたいメンタルがすり減ってる、または追い詰められられてる状態は……考える事が浅くなるんだ。その時に電車が来るとする。すると、ふらっと、『楽になりたい』って思いが一瞬で過る。そう、ほんの一瞬だ……死にたいとかじゃなく、終わらせたい……そして、そこで考える事をやめる。さっき言った、『ま、いっか』的な事だ……そしたら、気が付くとホームから落ちている……」


私は彼女からそんな話が出ると思わず、息を飲んだ。


「まぁ、実際に電車とかスピードが出てるものには、人を引き付けてしまうそうだ。それを『ベルヌーイの定理』というのに、当てはまるそうだよ。だが、定理とうというより『危険なモノ』には概念の上で、人を引き寄せる力があるのも事実だ…………まぁ、3つ目のパターンの場合は、ちょっとしたきっかけで普段に戻るし。だが、ある意味誰でも隣合わせの事柄だ。まぁ、余談だが男より女の方が精神的な所では強いと思う人がいるらしいが……強いんじゃなく、メンタルレンジが広いだけだ。それに、感受性に関しては女性の方が優れてるから傷つくのは実際、男より傷付いている……」


彼女は少し切なそうな顔をしてから一息つき、口を軽くつむぎ、くしゃとした。


「まぁ、これらは私の持論だ。正しいとは限らんけどね。それから……」


彼女は腰を浮かせ、向かいに座っている私の頬を擦る。


「女の子には、何よりも自身を大切にして欲しい。身体も心もね。親御さんも、友人も君の事を大切に思っているよ。だから、もし、そういう事柄に足を踏み入れそうになる前に誰かに相談して欲しい。中には直接相談できない内容もあるだろう。それだったら、ネットを使って顔も知らない人に聞いて貰えばいい。それか、一度立ち止まって後ろを見て欲しい。それだけでも世界は変わるよ。できれば、選択肢として最後の最後であって欲しいと、私は思うんだ 」

「はい……」



私は彼女の優しさと強さに、自分が情けなく目もあわせれなかった……

彼女は座り、改めて姿勢を正した。


「さて! 本題に入ろう!!」

「本題ですか? 」

「君のお父上へのプレゼントさ! 」

「あっ、えっ 」

「あのジャケットを見せてた時、少し君の様子がおかしいは感じていて、今回の所まで行くまで止めれなかった私にも多少の責任があるからね 」

「あの……それで……」

「あぁ、私があのジャケットを社割で買い取ろう。そして、君に渡すよ 」

「えぇ! 」

「あっ、申し訳ないが、タダではないよ……先に説明させて貰うが……あれはたぶん、会社の規定上、30%offくらいにしかできないかもしれんが……まぁ、頑張って40%……それでも、30%だとしても42200円くらいになる……それから端数分は2200円は私が出そう。この前の誕生日のお礼だ。それで頭金で今用意してる、16800円ほどだっけ? それを差し引いて、約月々2000円を私に返してくれたらいい。まぁ、君にも普段の生活があるから無理に月々にきっちり返さなくてもいいし……もし、余裕がある月があれば、多めに返してくれれば助かるし……知り合いとの、そういうお金のやり取りがイヤかもしれんが……将来、大人になると、きっとこう言うお金の事柄……リボ払いやカード支払、ローンの様な事も通過しなければならないと思うよ……それでもいいなら、どうだい? 」

「えっ、むしろ……いいんですか?! 」

「あぁ、私はそれなりに……お金は無いことはないし、そんな事で一人の女の子の気持ちを救えるなら構わんよ。私は、『君の力になれるなら、してあげれる事はしてあげたい』。 それに、私が今までにもらった、恩を……別の誰かに返還したいんだ。それが古着屋の店長……いや、古着屋の魔女としての使命さ! 」


彼女は首を傾げキメ顔で手を差し出した。


「ありがとうございます! お願いします!! 」

私は感謝の気持ちでいっぱいになり、咄嗟に頭を下げる。


「なら! 善は急げだ!! 私はこの足で店に戻るよ。そして、買い取ってくる! 」


私が声を出す前に彼女は急に立ち上がり伝票を持つ。


「お会計は私が済ませておくから、君はゆっくりとしていていいよ。商品は後日、店で渡すから焦らなくていい! 安心して!! 」


彼女は嵐のように去っていった。






ホント……変な人だ……

私は彼女の行動力に感心してしまい、まるで映画を見終わったような、余韻に浸っていた。


そんな状態から、ようやく長く息を漏らした時……


「お金に、お困りなんですか?」


後ろから男の人の声で呼び掛けられた。

「えっ!? 」

振り向くと、微かに見覚えのある人が立っている。


「いや~すいません。急にお声かけてしまって~覚えていないかもしれませんが、去年の6月くらいに名刺をお渡ししたんですが……」

「あっ、あぁ……」

そう、去年初めてトレアイに行った時の帰りに声をかけてきた少し胡散臭い、丸メガネの記者の人だ。


「さっきまで、あの古着屋の店長さんとお話されてましたよね。実は席の後ろ側でお話が軽く聞こえてしまいまして……あの、お金にお困りなんですか?」

「いや、別に……」


私は彼を見る。すると向こうは私の顔をじっーと見て、目が合うとニコッと笑った。いや、ニコッと言うより小さな目をより細めてるとも言える。そして、前に回り込み席に座り込んだ。


「すいません、そうですね……知らない人から話しかけられるの恐いですよね~」


彼の口調は柔らかいが、節々がねちっこく感じる。


「改めて、自己紹介させて頂きます。私は今、仮に株式会社 群青社という所に所属しています。五味 真澄と申します 」

「……仮? ですか? 」

「あぁ、 私はもともとフリーでライターをやってまして……こうやって、人とかに話しかける時、会社名があった方が怪しまれないでしょ? なので、今はその会社に所属しています 」

「はぁ……」

「でも、盗み聞きして申し訳ないと思ったのですが……あの店長さん酷いですね?」

「えっ、なんで?」

「だって、こんなか弱い女の子が困ってて、商品を売る方に話を進めるなんて……酷いと思いません?」

「あっ、えっと、むしろ私の方が無理を言ってますし……小野寺さんも仕事の上で譲歩して頂いてるので……」

「いやいや、私なら買い取ってあなたにプレゼントしますよ 」


目の前の男は、調子よく答える。


「だからこそ私は……あなた、あなたの力になりたいんですよ!」


男は右手を私の方にかざし、小さく降る。


「あの……力になるって具体的に? 」

私がそういう風に切り出すのを待ってたかの様に、男はより口角を上げた。


「えぇ、簡単な事です。私の取材に答えてくれたら、協力していただけたら報酬に……」

男は右手の掌を広げて見せる。


「五万円をお渡し致します 」

「えっ!?」

怪しい事に巻き込まれると思い、私はたじろいだ。


「今、あなた……怪しいと思いました?」


私はなんて答えればわからず、笑って誤魔化す。


「安心してください。 取材は……そうですね。明日、ここで、この位の時間でどうですか? もちろん、ここで取材が終われば、もう貴方と関わりませんし……それに恐いと思われたなら、これを……」


男は防犯ブザーを取り出し、そのブザーの大きなボタンに手を乗せ、突拍子もなく……



ビッ!!!!っと一瞬短く鳴らし、店はシーンとした。



店員さんや周りのお客さんはこちらを見る。男は何もないかのように立ち上がり、防犯ブザーを周りに見えるようにして平然と見回す。


「すいません、暴発してしまって……お騒がせしました 」


周りもその男の悠然たる態度に、納得せざる得ないようだ。そして男は軽くペコリと頭を下げ座った。


「良かったら、コレ、差し上げます。可愛らしい女の子なら、持っていた方がいいですよ 」


そう言うと、私の目の前に置いた。


「もし、取材中、怪しい恐いと思ったなら……ボタンを長めに押してください。すると今より長く鳴るので、たぶん私は店を追い出されるでしょう……それなら安心でしょ 」


私は息を吸いながら、ゆっくりと二度頷いてしまった。

「で……その……取材の内容は?」

「以前にもお伝えしたかもしれませんが……先程、居られた店長さんについて、幾つか質問がございまして……」

「小野寺さんのですか?! 」

「あの方……」


目の前の男は神妙な顔つきで、自身の顎を指でなぞる。


「……実は物凄く苦労なさってるんですよ 」

「えっ……?」

「元々はアメリカでモデルをやり、それから役者に転身して、幾つか小劇場に立って……それから、漸く有名な舞台の公演のメインに選ばれましてね。それが、本番前に下ろされまして……可哀想じゃありませんか? 」

「そうなんですか? !」

「えぇ、私はその公開ゲネプロの時まで観てました。彼女の役は素敵だった……人を魅了する力があったんですよ! だが、突然、降板させられてしまいまして……それから、彼女は演劇業界からもモデル業界からも姿を消しました……そんな可哀想な人を、私はもう一度、戻して上げたいんです! そのお力添えになればいいと思い、私は彼女の事を追っかけてました 」


先程までの胡散臭いと思ってた男から以外な情熱を感じ、私は彼の話にまたも、ついつい頷いてしまう。


「まぁ、その取材の内容は、日本に来てからの最近の彼女の生活について! っですね……たとえば、今働いている店での活躍や……お客様への接客や評判……後は、そうですね……誕生日! そう誕生日とか、何か面白い事してませんでした? 」

「あっ! まぁ、はい!」

男は咄嗟に両手のひらを前に出し、私の言葉を止めるように出した。


「いや、いいんですよ! いいんです!! 今は答えなくても……取材は明日。なので無理しなくて、結構なんです! 」

「えっ、そうですか……」

ふとっ我が身に戻り、恐くなる。ついつい知らない人に彼女の事を話しそうになってしまった。

「でっ……でも、そういう事はご本人に許可を得ないとダメな気がするんですが……」

「いえ、あの方はたぶん、周りから言われると意地になって尻込むタイプだと思うんです。ホントは……きっと業界に戻りたいはずなのに……」


目の前の男は悲しそうにしながら、うつ向く。私はその表情についつい同情してしまった。すると彼は、そんな私の様子を悟ったかの様にまたもニヤッとした。


「明日、もし取材に応じて頂ければ五万円、お渡しします。それに彼女への月々に返す分、謂わば、借金もせずに済むし……気持ちの面で彼女に罪悪感や気を遣わなくてすむでしょ!? そうそう、余ったお金は好きな事に使えますよ! 」


そう言った後、急に次は怪訝な表情をする。


「いや、もしかして……それだけでは足りないかもしれないですかね……」


彼は急遽、勝手に躊躇い始めた。


「実はもう1つ、黙ってた事がありまして……」


彼は目線を下げ何度か私を伺う素振りをする。

「なっ、なんですか? 」

「実は私……昔、貴方のお父様に取材した事がございまして……」

「父を知ってるんですか?!」

「えぇ、あっでも! 私が駆け出しのペーペーだった頃に、一度だけ……その時取材して……こんな私にも丁寧に対応して頂けた、素晴らしい方だと思っております。まぁ、有名な方だから色んな人に取材されてるので、私の事なんて覚えてらっしゃらないと思います……お父上の建築物は、業界では有名ですからね。天才だと……それと……悲劇のデザイナーだと……」

「…………」

「すいません、でも、事故の事はお悔やみ申し上げます。それと、お姉さんのことに関しても……」

「お姉ちゃんの事、何か知ってるんですか?! 」

「いや、家から出ていかれた事は風の噂で、伺っておりまして……なにせ、知り合いに建築関係の者がいますから……世間は、以外に狭いんですよ 」

「そうですか……」

「あっ、それで、私……実は今回、お姉さんの事に関して調べさせてもらったんです 」

「本当ですか!!」

「はい~……」


男は勿体着けるように、返事をしながらゆっくり顎を揺らす。


「お姉ちゃんは! お姉ちゃんは今どうしてるんですか!? 」

私は机に身を乗りだした。男は乾燥しているのかペロッと自身の唇を舐め、鼻息を漏らす。


「それは……あなたの目で、直接見た方がいい…………だから、お願いです。私の取材に協力して頂けませんか? あなたの報酬は五万円と、お姉さんの居場所の情報。悪くないとは思うんですが……」


私はその破格の交渉に揺るぎそうになる。だが、本当に目の前の男を信じてもいいのだろうか……

彼の顔を見ると何か引っ掛かってる感じがする。それと小野寺さんの顔が過る。これはもしかしたら、裏切り行為なのではと……


「あの、古着屋の店長……小野寺千里香さんの為にもですよ! 私は、彼女も、あなたも、あなたのご家族のお気持ちを救いたいんです!……どうか、どうか……」


男は大袈裟に頭を下げる。彼の静かな熱意は自身の腕に伝わり、少し小刻みに震えているようだ。


「あの……一度、家に持ち帰って考えても、いいですか?」

彼は納得した様な顔で見上げた。


「ええ、もちろん! でも、もし、気持ちがお決まりになりましたら……ここに連絡してください 」


彼は以前に、私に渡した名刺を再度渡す。


「良いお返事、お待ちしております 」


その名刺と防犯ブザーを置いて去っていった。






私は家に帰りどうするか考えながら歩く。そして、家に着き部屋に入り仰向けでベッドに倒れこんだ。


父にプレゼントする事……

姉の居場所を知れる事……

小野寺さんの助けにもなれる……

そして、あの記者の人の願いは叶う。


だけど、いいのだろうか……


私は体勢を変え、寝転びながら体育座りの様に身体を埋組める……ふと、彼女の言葉が過った。



『君の力になれるなら、してあげれる事はしてあげたい』



そうだよね。彼女もそう言ってくれたし、それに彼女もきっと救われるはずだ……そうに違いない……

私はスマホを触り、メールを作り始めた。






次の日。


「あぁ、どうも! 来て頂けたんですね!? とても、御賢明な判断かと……ささ! 座ってください。 さぁ、メニューです。好きなものを注文してくださいね………………」

「……………………」



カチャカチャカチャカチャカチャカチャカチャカチャカチャカチャカチャカチャ……………………………………





今回も長いのに、ありがとうございますm(。_。)m


今回はちょっとセンシティブな内容でした。


読んで嫌な思いをされた方がいらっしゃいましたら、申し訳ございません……

次回はマシだと思いますので……


お金を手に入れるという事は、それなりな対価が必要だと、私は思います。

それが今回の内容の事であったり、時間であったり、それに見合う能力であったり……


それらを合わせ、人の生き方になるんじゃないかと思います。


次回は、視点が変わります。


また、読んで頂けたら幸いです。

今回も長いのに読んで頂き誠にありがとうございましたm(。_。)m!




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ