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古着屋の小野寺さん  作者: 鎚谷ひろみ
sweet&salty
36/52

20A サウンドトラック#1




今回も見て頂き誠にありがとうございますm(。_。)m


勉強の合間に、息抜きで書いてしまい、ついつい投稿したい欲が出ました。


自制しないと……(汗)


今回、四話構成予定だったのが、1話書くのに大分長くなり、なんやかんや五話構成予定になりそうです……(場合によっては伸びるかもですが……)



今回は、長瀬優ちゃん(早川さんの友人で 『 12 多分、風 』の時の子)視点のお話です。

書いてて今回は全体のテーマをもりもりにし過ぎました……


※あと、次回のお話は少しR12~R15対象くらいの話が出ます。もし、不快に思われましたら申し訳ございません。


今回も長いので、ゆっくり読まれましたら、幸いです。


20A-1 呼吸






ガラガラガラ……



「ただいまー!」


「あら、お帰りなさい! 優ちゃん!」


母はソファーに座りテレビを観ている。

「えっ、何観てるの?」

「いやー懐かしいと思って~! 昔のあなた達のちっちゃい時の撮影したビデオ観てるのよ!」

「えぇ! そんなのあったんだ……」

「ほら、これ小学生の時のよ~箱根に旅行に行った時の~」





『こら、走ると危ないぞ~』

『お姉ちゃん! 大好き!!』

『もぉ! ホント、倫と優は仲良しね!』

『うん!』



お揃い風のワンピースを着て、はしゃいでる幼い私とお姉ちゃん、若いときの母が写っている。父はビデオカメラをまわしている。


この時は、家族が一番仲良くてホント幸せだった……一部を除いたら、普通の幸せな家庭……

父が事故に遭い、歩けなくなって、それでも父は気丈に振る舞い家族に心配をかけまいとしてくれて……でも……それから二年前、お姉ちゃんが出ていった。



姉はそれなりの大学を卒業。それと同時に就職も決まり、安定した将来を歩もうとしていたが……急に、就職を断り美容師になりたいと言い始めたのだ。

もちろん、父はもう反対。日に日に、喧嘩は大きくなり……あの優しい父が怒鳴り声をあげ、姉は罵声を吐くようになる。



「お前は何考えてるんだ!」

「私は私のやりたい事をやる!」

「なんだと! 親に向かって……」

「親? 親なら子供のやりたい事を応援するのが親でしょ!」

「どうせ、一時の感情だろ!? それに、お金とかこの先何も考えず、俺たちが出すと思ってあまえてるんだろ!」

「貯金ならいくらかある! バイトで貯めて、ずっとずっと前から…………それに、お金なら自分で頑張って稼ぐ 」

「はぁっ、ちゃんと働いた事ない子供が何言っている。どうせ、実際は対してロクに貯金もないんだろ! それにこれまでお前が暮らせてきたのは、俺たちのおかげだろ!」

「何? 親なら子供を育てるのが当たり前じゃない?! 産んだんだから当たり前だ!」

「当たり前!? ふざけるな! そんな事をやらせる為に大学に通わせたんじゃない!」

「うるさい! 別に私はこの家に生まれたくて生まれた訳じゃない!」

「なんだと! おまえ……ホントにそんな風に思ってるのか!?」

「応援してくれない親なんて……親なんかじゃない!!」

「もう、勝手にしろ! 2度と家の敷居をまたぐな!!」



お姉ちゃんは泣き怒りながら、荷物を叩きつけ鞄に纏める。

「お姉ちゃん……出ていくなんて嘘だよね?」

「……」

「ねぇ……?」

「……優……あんたは、はじめから自分のやりたい事を親に言いなさい……私みたいに、黙ってちゃダメ……」


姉はこちらに目を合わさず、静かに伝えた……



バタン!!



玄関のドアを勢いよく締まり、その音が余韻として残り、そこから静けさが続いた。

そこからお姉ちゃんの話題を出すのはタブーとなり、半年を過ぎてようやく母と私との間で話題を出せる様になったが……父の前では出せない。

母は父が辛くならいよう、好きだったパートの仕事をやめて、必死に支えるために専業主婦をしている。


そんな事もあったが……私は何も考えず、近くの高校に入った。


そんな、ある日。近くのコンビニで喉が渇きどれにするか……と、ジュースコーナーで悩んでいたら、2つ先の列のお菓子コーナーからオバサン同士の井戸端会議が聞こえた。


どうせ、下らない事だと思い無視しようとした。


「あっ、そういえば長瀬さんトコの娘さんの事知ってる?」

「えっ、どっちの?」

「お姉さんの方よ~」

「あぁ、出ていった方。綺麗だったわよね。」

「それが、うちの旦那がね~歌舞伎町の行きつけの喫茶店に行ったとき……派手めなドレスに化粧をして上着を羽織った女の子が隣の席に座ったって……それでね、なんか見覚えあるな~って思って飲んでたらしいの……そこからツレっぽい感じの黒服の人が来て、『レンさん、ご指名がきてます』『はい! わかりました!! すぐ店に戻ります!』って行ったみたいなんだけど……顔を見て声を聞いて、ようやくわかったんだって……」

「えっ、それってもしかして……」

「そうよ! 長瀬さんトコの倫ちゃんよ!」


私はその事を聞き頭が真っ白になり、息が止まった。


「ねぇ~あんな幸せそうな家族だったのに……」

「いやね、一時期家から罵声が聞こえたそうよ……」

「まったく、歌舞伎町でなんて如何わしいわね……」

「ホント、どんな仕事をしてるのかしら……」



嫌だ、嫌だ、嫌だ……聞きたくない……お姉ちゃんはそんな仕事をしてない……絶対間違いだ……


私はその薄汚い声を聴きたくなく耳を塞ぎ、急いで外に出た。

小走りをしながらさっきの事を忘れたく、咄嗟にワイヤレスイヤホンをとり適当に好きな音楽を流す。だが結局どれも聴きたくないとわかってしまう。

気が付くとスピードを上げ走っていた。飲み物も買えず、走るとより喉が渇き苦しくなる。靴紐もほどけてたけど、逃げたさの方が強く、何度もつまづきそうになりながら息を切らし、家に入り玄関を閉めた途端力が抜けて、動けなくなった。



息を吸う、息を吐く……ただそれだけの事なのに、私は何で今苦しいのか……



母が出迎えて私の顔を見て驚いた。


「どうしたの優ちゃん!?」


私のカラカラの口から振り絞って声を出そうとしたが、さっきのオバサンたちの会話が頭に過り、口走りそうになった。

だが、悲しむ母の顔が見たくはない。


「……はぁっ、えっと、さっき……蜂に追いかけられて恐くて、必死に走ってきたの……」

「あら、大丈夫!? 刺されてない?」

「うっ、うん……」

「よかった。それじゃ、手を洗ってうがいしてね。」

「うん……」

「あと、おやつ用意するわね 」

「あっ、走って何か気分悪いから、大丈夫 」


直ぐ様私は自分の部屋に駆け込んだ……


それからも自身の軽い男性恐怖症も相まって……部活とか青春らしい事をやらず、ただ趣味のカメラやコスプレにアニメや漫画……

自分と、自身の観たい聴きたい云いたい世界に……逃げるしかなかった……




そして姉が出ていった3月が近づくと、父は元気が無くななり、辛そうな時がある……まるで、その時だけ鬱病の様な感じになる。姉が家出した原因は自分……父自身だと後悔してるからだろう。




私はビデオに映る幸せそうな家族の光景に、ただ哀しみしか出てこない。

私は目の前の過去を観るのが辛くなり目を背ける。

「私、宿題してくるね 」

「あぁ、わかったわ~今日はご飯は6時30分くらいだから~」

「はーい 」

自室にこもりベッドに倒れこんだ。一部を覗けば幸せそうな家族……私は一生この苦しみを背負う……の、かなぁ……いいなぁ……何も無い人達って……


ついつい、周りの友人や知り合いたちと比較をしてしまう。


『人生はあまいろのお菓子のよう……』


その人その人によって、ベージュという色でも、見方や感じ方は違う。私の人生は甘いのか……


早川ちゃんは、病院の先生と看護師の子供で何不自由もなくて、末っ子らしいし……責任とかもなさそう……一条くんは、和菓子屋さんの跡取りだし、困れば頼れるよね……荻野目さんは、ボンボンらしいから……佐藤くんは、わからないや……でも、そんなにお金がある感じではないみたい……まぁ、佐藤くんは置いといて……あの人は特別……小野寺さん……この前の誕生日とかですごく楽しそうだったなぁ……育ちも良いらしいし、ホントかウソかわからないけど……元モデルで役者でデザイナーらしいし。有名なバイヤーが親らしいってこの前の誕生日で言ってたし……何不自由なく過ごしたんだろなぁ……


ふと、別の友人も思い浮かべたが聞いてる限り家のトラブルやお金の問題がなさそうだ。


みんな恵まれてる……みんな羨ましい。そりゃさ……今は私も、何不自由なく暮らしてるし、お母さんがいてくれてるから……もし、お母さんが亡くなったら……お父さんは足が不自由だし、介護は私がしなくちゃいけないの……?

お姉ちゃんは戻ってきてくれるのかなぁ……お姉ちゃん……いま何処で何やってるの……


私はそんな気持ちのまま目を閉じた。






コンコン!


「優ちゃーん! お父さんもうすぐ帰ってきて、ご飯よ~!」


その声で目が覚めた。


あぁ、もう、こんな時間か……

「はーい! すぐ行く~!」

リビングに降り、机に座る。


四人掛けのテーブル……一部を除いたら、普通の幸せな家庭。


「優ちゃん、ただいま!」

「あっ、お帰りなさい! お父さん 」

「どうした、元気ないな 」

「えっ、いや、さっきまで寝てたから……」

「そっか~! きっと、勉強疲れだな! 頑張ってるもんね!」

「まぁ、うん、でも……なかなか成績に反映されないけど……」

「大丈夫だよ。そりゃ、もちろん良い大学に行って貰えたら嬉しいけど、それでも優ちゃんが勉強を努力して大学に入るなら、私はどこの大学でも応援するよ 」

「お父さん……」

「まぁ、欲を言えば……その後、就職していい人を見つけて結婚してくれて、孫を……」

「あなた、ちょっと話が早すぎません?」

「いやいや、人生なんて、あっというまだよ……優ちゃんは可愛いし……あっ、でも…………そう考えると……優ちゃんと付き合う男……ゆるせん! 付き合う男はぜったい一発殴ってやる……」

「あなた、暴力は駄目ですよ!」

「いやいや、これは父親として……そして、相手の男との通過儀礼だ 」

「もう、そういう所は昔の父親なんだから……」

「そういえば、最近優ちゃん……おしゃれして……メイクもして…………まさか!」

「えっ、」

「まさか!? すっ、すすすす、す好きな人でもいるのか!?」

「いない、いないよ!!」

「いや、その反応はいるのか!!」

「あなた、優ちゃんも年頃なんですから。そんな人の、二人や三人はいますよ!」

「えっ、三人もいるのか?!」

「いない! いません!!」

「あなた、この子が中学の頃までは、好きな人いてたとしても気にしなかったのに……」

「いや、中学生なんてまだまだ子供じゃないか? 今の高校生は……あれだろ……す、進んでるんだろ……」

「あなた、今は中学生でも進んでる子たちは進んでます 」

「うそだー! まさか、もう、優ちゃんも……」

「私は好きな人はいないし……まだ、何も無いです!!」


『………………』


そんな事を聞いた、父と母は何とも言えない顔になり沈黙になった。




『さて、こちらのデニムジャケットはリーバイス 大戦モデル 506xx。あのキムラタクヤさんも持ってるものなんですよ~』


夕方のニュース番組で古着の特集が組まれていた。昨今の情勢状、節約の為に古着を進めてるようだ。


そのコーナーの中でも、安い古着屋特集が終わり、次は古着でもヴィンテージにのある……価値のあるモノの特集だ。


『……なんとこちら……41万8000円! 』


えっ! こんなに、ボロボロで色写りしてるし、穴も空いてるのに、なんで!?



「おぉ、懐かしいな~」

「ホントね~」


父と母は画面に映されたボロボロのデニムジャケットを見て懐かしんでいる。


「えっ、なに? これってそんな有名なの!?」

「いや、実は……昔このジャケットを持ってて 」

「えぇ!!」

「あっ、でも結婚して倫や優ちゃんが生まれて……色々あった時に、少しでも足しにしたくて、売ったんだよ。まぁ、デニムジャケットって着心地はいいわけでもないし。格好いいから着てただけだから、それと一緒に黒いコンバースのスニーカーを履いてね 」

「そうそう、あなた若い時……当時キムタクに憧れててロン毛の茶髪で……」

「お父さんがロン毛の茶髪?! 」

「まぁ、今は少しお腹の出た白髪のおじさんらしいおじさんになったけどね 」

「私たちの昔の写真あるけどみたい?!」

「うん! みたい!! 」


母は寝室から写真を持ってきた。写真にはスポーツカーに乗った若いときの父と母が載っている。

父は言われたとおりロン毛の茶髪でスラッとし……デニムジャケットを羽織っている。母も今より痩せていて、可愛らしい顔をしている。

面影はあるが……見た感じ全然違う。これが時の流れと言うものか……


父と母は恥ずかしげに目配せをする。


「この時は、君が積極的に誘ってくれてたんだよね……」

「いやいや、あなたがずっと電話を掛けてくれてたんじゃないですか 」

「そうだっけ?」

「そうです! 仕事忙しいのに隙間時間に……」

「えぇ……? 君が電話を掛けてくれてたような……」

「『君を他の人にとられたくない! 』って言ってたじゃないですか……」

「そっ、そんな恥ずかしい事言った?」

「ええ! それに、別れ際……ジャケットのポケットに手を突っ込んで『ちょっ! 待てよ!』ってカッコつけて言ってたじゃないですか? それで、可笑しくてお互い吹き出して……」

「あぁ、そんな事をやったような……」

「やりましたよ 」

「あの当時は、本当にキムタクに憧れてたから……同年代では本当にスターだから 」


父は過去を思い出し苦笑し、母はそんな姿を見て微笑んでいる。


「まぁ、当時はキムタクはデニムジャケットより、デニムシャツを着てて……僕の場合はキムタクよりワイルドにみせたくて、ジャケットの方を選んでたんだよね。でも、まさか数十年経って、キムタクが同じGジャンを着て、インスタにあげたり……このジャケットにこんな価値がつくと思わなかったよ……あのジャケットには母さんと……ちっちゃい時の……倫と優ちゃんとの思い出も、詰まってたからなぁ……」


父は写真を見て、目を輝かせている。


「えっ、そうだっけ!? 私はこのジャケット覚えてないけど……」

「それはそうさ。人の記憶なんていい加減なもので、そんなに正確に覚えてるわけないし。まして、誰がどんな服を着てたなんて……当人くらいしか覚えてないよ。休みの日には、あれを着てお出掛けもしたし 」

「でも、いつ? このジャケット売ったの?! 」

「えっ……えっと、たしか……あっほら、あれだ! 優ちゃんが小学校の低学年くらいで、箱根旅行行った辺りくらいまでは着てたよ…………だいたい、10年以上は着てたね。大切にしてて……あぁ、懐かしいな……」


ウソ!……さっき観てたビデオの時まで持っていたんだ。それに今……あのお父さんが、お姉ちゃんの名前も出している。もしかしたら、あのジャケットにお姉ちゃんとお父さんがまた仲直りできる力があるんじゃないか……できないとしても、3月のお父さんの落ち込みを和らげる事ができるかも……と、ほんの少しの淡い希望と期待を持ってしまった。そう、魔法のジャケット……





そんな事を頭の片隅に置き食事を終わらして自分の部屋に戻る。スマホを手に取り、通販サイトやフリマアプリを開く。手頃の値段であるのはあるが……私にとってはなかなか手が出せないものも多い。

それに、手にとって見れないのが恐く、失敗はできない。 何回かこういうサイトを利用して失敗した事もあるから迷う……

私はベッドにダイブし、スマホを上にあげた。

「お金がいっぱいあったら、幸せになれるんだろうなぁ……なんでも、叶えられるし……私も……将来好きな事ができるだろうし……」


私の淡い希望の呟きは一階の父と母の会話、テレビの音、外の散歩している犬の鳴き声に及ばないほどの弱々しく消え去る。






後日、トレアイに例のGジャンに似ているものがあるかを見に行った。ちらほら、似てるものはあって確かに私のお小遣いでも手に入れれそうなのはある。だが、やはり何か違う気がした。


「やぁ! 少女じゃないか!?」


私はその元気な優しい声に振り向き頭を下げる。


「あっ! 小野寺さん、こんにちわ!!」

「こんにちわ!! 」


彼女は黒をベースにした首元が白、袖部分が赤、着物のようなワンピースに黄色のストールのようなモノを帯のように巻いている。そして、ちょこちょこと近よってくれた。


「おや、そういえばメンズコーナーにいると言うことは……」


彼女は、親指と人差し指を伸ばし顎にのせてニヤッと笑う。


「さては、この前言っていた気になる方へのプレゼントだね! 」

「いや、違います!」

「なんだ、違うのか~では、メンズライクのファッションを取り入れるため?」

「いや、実は探し物があって……」

「ほう、なんだい?! 私に力になれる事があるなら、力になるよ!」

「えっと……デニムジャケットなんですが……リーバイスの大戦モデルっていうんでしたっけ…… ファースト……506xxって奴を探してるんです……」


私はネットで調べた画像を彼女に見せた。


「ほほぉ! 大戦モデルって、なかなか渋いね~」


彼女はニヤッとして、こちらに目線を送る。


「少女! なぜ、大戦モデルというか、わかるかい?」

「いえ! 」

「まず、リーバイスとはジーンズの原点、そして起源であり、言わずと知れた歴史的ブランドだ。そして、デニムジャケットにおいても、リーバイスのジージャンであるが、非常に多くの種類が存在しており製造時期や仕様変遷により呼び名が分けられている。なかでも有名なのはファーストと呼ばれる506xx、セカンドと呼ばれる507xx。そしてサードと呼ばれる557xxの3種類なんだよ。この3型が、現代のジージャンの基本形として今も様々なブランドのデザインソースとなっている 」


彼女はジャケットコーナーから一つ取り出す。


「たとえば、これ! リーバイス……ではないが『フルカウント』というブランドで、さっき言ったファーストというもののを模した復刻モデルと言われている。それに、こっちの『桃太郎ジーンズ』のもそうだ。こちらなら、お手軽に購入できる!」

「こっちのやつ、ラインが入っててかっこいいですね! 」

「うんうん、少し違う見た目に見えるが大本はファーストを模しているのさ。まぁ、1917年より前から造られていたデニムジャケットに506xxとロットナンバーが付けられたのがその始まり。そして、戦後1957年頃に507xx、通称セカンド(2nd)が製造されるまでのものをファーストと呼んでいる。でも、ファーストに限らずつくられた時代やその背景に応じて仕様が大きく変わるんだ。戦争の影響による人や物資不足とかだね。その為、同時期に製造されたものでももデザインやディテール違いが混在しており、完全一致しない場合も多い。特に仕様変更の過渡期にはディテールが混じり合い中期や後期……どれ?となるんだ。 例えばボタンの数。もとは5個なんだが戦争の影響が酷い時は4個になってたりする 」


私は彼女の服の知識に感服はするが、流石に今回はその余裕がない。


そんな様子を悟った様に目を大きくする。


「あぁ、ごめんね。ついつい少年に知識を語るかの様に言ってしまった 」

「いえ、すいません……ついつい、デニムジャケットに目移りしてしまって……」

「そうかい!? なら、どうする? 一つ一つ見ていくかい? 」

「えっと……あの……ちなみに……『リーバイス大戦モデル ファースト、506xx』自体はないですか……?」

「えっ! 」

「やっぱり、ないですよね……」

彼女の反応で無いかと思い、ついつい目線を下げてしまう。


「君、なかなか本物志向だね! 実は……あるんだよ! ちょっとついておいで! 」


彼女は優しく微笑み、翻し歩きだした。私は彼女の後をついていき……店の右奥のアメカジのヴィンテージコーナーについた。


「さぁ、見上げてごらん? 」


彼女の言葉で視線をあげる。上には、ハンガーに引っ掛かった濃いインディゴブルーのデニムジャケット。

小さめの襟、五つボタン。左の胸ポケットは少し大きい。

私が言えるのは……先ほどまで見ていたデニムジャケットより、このデニムジャケットは他のもより丈夫そうな造り、古着なのに微かな上品さを感じる。

その濃いインディゴブルーが特に、他のものと違う気がして目が離せない。私は立ち止まり、ひたすらジーッと見てしまっている。


「少女! 」


彼女の呼び掛けられ、意識を戻した。


「あっ、すいません 」

「君が真剣に見てる間に、これを取ってきたよ 」


彼女は何か長い棒状のものを持っている。


「『ロングハンドキャッチャー』!」


彼女は棒ネコ型ロボットの様な言い回しで、そのデニムジャケットを引っ掛け、下におろし私にジャケットを渡した。


「えっ、こんな簡単にこの高いジャケットをお客に触らせていいんですか!? 」

「別に問題ないよ。それに君なら、雑には扱わないだろ? 」

彼女は手を差し出し、触って良いよっと言ってるように手で促す。

私は彼女のご厚意に甘え、生地の感触を確かめ始めた。


「思った以上にキレイ……というか、ほぼ新品に近い……」

「まぁ、それは再販分だからね。もちろんよくあるヴィンテージと言われるモノではないが、オリジナルに近い造りさ 」

「裏っ側にベルトループ着いてるんですね 」

「ああ、そのバックルもまた渋カッコいいだろ~」

「はい。すごく魅力的です。それと、生地って固いんですね 」

「デニムはもともと、炭鉱での作業着だったんだよ。その関係で丈夫なんだ。まぁ、本格的なデニム生地と革製品に関しては育てる楽しみがある 」

「育てる?」

「最初は両方、固くて丈夫なんだ。だけど使ったり着ていくうちに、その人に合わせて柔らかく使いやすくなっていく、デニムに関しては色落ちも楽しめるわけだ。もちろんレザーもデニムも両方メンテナンスが必要だが、大切に使い、壊れたら修復をして長い間着ることができる。まるでその人の歴史と人生を表すモノにもなるんだ。それぞれ、その人によって同じ種類のデニムやレザーでも、世界に1つだけのオリジナルを完成させる事ができる……実に面白いよ 」


私はこのジャケットに……どうやら一目惚れの様したようだ。すごく、引き寄せられる。そして、父が喜んでくれる姿が脳裏に浮かんだ。


魔法のデニムジャケット……


「あの! これ、お値段は……」

「えっと、たしか、胸ポケットの中に値札入ってるかなぁ……」

と言われ、胸ポケットのボタンを外し中に手をつっこみ値札を取り出した。

「『税込、60280円』……」

「この状態だと実に安い値段の方だし、もしかしたら、すぐに売れてしまうかもしれない逸品だね 」


たしかに、状態が良い割には……きっと安いほうだろう……でも、高校生の私からしたら、だいぶ高い値段だ……

「あの、小野寺さん……ありがとうございます!」

私はできるだけ丁寧に返した……つもりだ。

「今日もありがとうございました。すいません、ちょっと用事を思い出したので帰ります 」


彼女は少し怪訝な顔をして、何か呼び掛けようとしてたが、私はお構い無くそそくさと店を出た。


家につき、自分の持っている売れそうなのと、必要無さそうなオタクグッズとかコスプレのアイテムをかき集めた。






後日。新宿まで出向きそれらのものを売りに行ってみたが一万円までもとどかず、途方にくれる。


某家電量販店の前に通り、私の頭の中に過ったのは……カメラを売れば、きっとお金になる。

私は急いで家に帰ろうと、早足で歩く。だが、途中で履いている黒のCONVERSEの靴紐がほどけ、もどかしくなり急いで適当に結んだ。






私は家に帰り、自室のカメラケースに手を伸ばしてファスナーをあけ、カメラを取り出した。


この子を手離すのか……っと思った。ついついフレームを指で撫でる。


その瞬間、このカメラとの記憶がゆっくりと甦る。



もともと、父が家族との記録を撮るために軽く趣味でやってたカメラを触らしてもらって始めた。


幸せな風景。


最初はピントもあわず、それでも父が『上手だ、宝物だね 』って言ってくれて、その写真を大切に保管してくれた。

そこらから始まったんだ。


それから、学校でも私は目立たないが修学旅行とかでも友達からは『優ちゃんが撮ってくれる写真はすごく良い 』って言われたっけ……


お年玉を貯めて、親の手伝いをして、お小遣いを切り詰めて……自分専用のを買ったんだ。


拙くも、切り取られた幸せの一瞬。何度も何度も……



カシャ! カシャ! カシャ!……



そんな、小さな幸せの積み重ねで、手に入れたこの子……初めての相棒。

大切に扱い、メンテナンスをしたり……最初の頃は故障かと思って大騒ぎしたけど勘違いだったり……

それから、私にはめずらしく頑張って人と繋がりをもとうとして、コスプレして楽しそうにしてる女の子達や頑張ってる人達を撮ったり、身近な綺麗に見えた景色を撮ったり、家族の写真を撮ったりした。


私はカメラを抱きしめる。目から徐々に涙が溢れだした。



「この子は……手離したくたくない、な…………」





寒い冬の夕暮れ、私は暗い部屋の中……大切なものを抱き締めながら、選択する。外は車の排気音と学生の声がした。




今回も長いのに、ありがとうございますm(。_。)m



ツイッターや活動報告で、言ってました動物のモチーフなんですが……今回、優ちゃんは、お猿さんです。


見猿聞か猿言わ猿ですね。



あと、作中の


『人生はあまいろのお菓子のよう……』

その人その人によって、ベージュという色でも、見方や感じ方は違う。私の人生は甘いのか……



は昔読んだ、『殺人鬼 フジコの衝動』の一節のオマージュです。

作風は全然違いますが、今回の話のいくつかのテーマで『人は嫉妬で、人を裏切れるのか……』を考えて話を描いています。


あとは、幸せの価値観等々……


あと、再度申し上げますが、


※次回のお話は少しR12~R15対象くらいの話が出ます。もし、不快に思われましたら申し訳ございません……です。


それでも、もし読んで頂ければ幸いです。

と、言っても今度こそ、勉強に集中したいので……(私……意思……弱い……)

結構先になると思います……


今回も長いのに読んで頂き誠にありがとうございましたm(_ _)m


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