18 Happy Birthday
お久しぶりです。
試験が終わり……試験に落ちてしまいました……
でも、また、勉強頑張って受かるまで挑戦したいと思います。
もっと早めに投稿しようと思いましたが……なかなか纏まらず( ̄▽ ̄;)
また、修正していくと思います。
今回も長いです……
「なぁなぁ、『戦罪』って映画観たことある?」
「いや、俺はないわ。名作らしいけども……おまえ、あれか。その監督が女性に対して何十件以上も猥褻、暴力事件起こして話題になってるから言ってんの?」
「そうそう。俺知らんかったけどね。でも、何件も『くだらん事』やって、『くだらん事』で捕まるって。それも懲役10年以上~……」
クラスの男子二人が話すことが無く、雑談で某話題を出して盛り上がっている。
一部の女子たちは、その話題をしてる男子たちの『くだらない事』というワードに引っ掛かり、睨み付けているようだ。
僕はそんな事を尻目に『ある重要な件』を左にいる彼に伝えるため、右耳から聞こえる巷に流れているニュースを、前置きに……それを右から左へ受け流す。
「荻野目さんは、『戦罪』観たことありますか?」
彼は机に肘をつき顎を乗せ、溜め息をつき目を細目た。
「佐藤くんさぁ……なんだい、君までそんなありふれたニュースを降るのかい? 俺との無言がそんなに嫌なのか?」
いつもより呆れて緩くなった低い音、少し不機嫌そうに僕を見る。
「いえ、違うよ! 荻野目さん映画好きだし観てるだろうから……僕は観たことないし、面白そうなら観ようかなぁ……っと」
彼は唇をとがらし少し顔を左に上げて瞬きをした。
「うーん、まぁ……世間的には面白いとは思うよ。起承転結はしっかりしてるし……というか君、内容は知ってるの?」
「いや……なんか戦争モノですか?」
「まぁ、簡単にいえば……起きるかもしれない第三次世界大戦……戦争に勝ったある国が負けた国の戦犯の何人かのうち1人を本国に連れてきて、そいつが死刑を逃れるために自白するという流れだね。戦争モノだから回想シーンでバイオレンスや残虐な所、性描写があるんだが……その一つ一つの描写がリアルかつ、ピートガデン作品でよく使われる手法で、そういうシーンの時に限ってカメラの取り方を一人称視点に変えてきて……まるで視聴者も追体験をさせられてる感覚に陥いさせる。まるで視聴者も共犯者だっと……人を殺めるシーンや学校で言ったら顰蹙を買うよう所、特に衝動的なバイオレンスな所はまるで自身が味わってる様に感じる。まぁ、フィクションだと割りきってるけども。そのリアル性はどこからきてるんだ……実際に監督自身か、役者がやってしまってるんじゃないかと思ってたが……あの監督、本当にまさかだったね……」
「へぇ~、荻野目さんはどう思ったんですか?」
「俺は別に……良作だとは思うが好きでも嫌いでもないよ。まぁ、今回の事で作品の評価も変わるだろうけど……作品自体とその監督は別ものだと思ってるからね。それらの事を除いても世間的に言えば良い作品ではあるよ 」
「なるほど……」
「あと、最近日本でも某有名な監督が似たような罪で問われてるから……その関係で映画協会も、性に対する取り組み方も変わってるんだ。たとえば、インティマシーコーディネーターという資格が合って……役者同士や製作陣、特に女性側がセクシャルな面で嫌な思いをしない様にする働きが増えようとしてて……」
「イっ……イン?コーディネーター?」
「インティマシーコーディネーター。監督が表現したい性描写をまず、役者に内容を伝える。そこで役者がどのようなアプローチをしなきゃいけないかを確認し……演技芝居として、できるかできないかの有無を決めるんだ。あと撮影の時に男性スタッフを使ってもいいのか等々の打ち合わせをする。それによって女優側の不安が多少は和らぐ。基本、役者側と制作側を取り持つ資格だ。日本には女性二人しかいないし、珍しい仕事なんだ 」
彼は自分の映画の知識を少し満足そうに言った後、どや顔で此方を見る。
「はぁ、さすがですね……」
「日本でも某監督の件があったから、その時に調べたんだよ……まぁ、俺は知らん奴がどうなろうとも何とも思わんが、それでもモラルが無い奴には嫌悪はあるからさ 」
「モラルねぇ……」
半年前、僕の感情をぐちゃぐちゃにした人がどの口で言うかと苦笑いが出た。
「あの、さっきと話題は変わるんだけど……」
「ん、何?」
「実は……ご相談があって……」
「え、何?」
彼は気だるそうに怪訝にこちらを見た。その姿に少し怯みつつも、言葉を選ぶ。
「えっと……あ、ご相談と言うよりも……お願い事で…………荻野目さんに是非……」
「えっ!!」
彼は僕の内容を全部聞かず、さっきとは違い明るい声、機敏な動きで手をクロスさせ胸に乗せた。その姿はフランシスコ・ザビエルの様。だが、顔は嬉しさを隠すように強張った。
この人、僕がどのようなお願いをすると思ってるんだ?
それから、彼に重要な件の内容と理由を伝えると、自分が思った事と違ったのでいつも通りの不服があるような顔に戻り、考えている。
「まぁ……でも、あれだなぁ……これは上手くいくと一泡ふかせる事ができると言うことだな 」
「いや、そんな悪いことをする訳じゃないんですが……」
「うん、いいよ。手伝う 」
彼は不敵な笑みで悦に入った。
それから、放課後。僕はバイト先に直行し仕事着に着替え、仕事をいつも通りにこなす……
でも、最近バイト先に変わったお客様がいらっしゃるようになった。
外国の女性のようで、清楚な服装に毎回お洒落な服を着ている。デザインは今までにあるようで無さそうなモノ。多種多様の衣装を取り入れてるような服。
年はたぶん40歳半ばくらいで髪の毛はナチュラルな赤毛色で美しいストレート。肌は少し褐色に近い。唇は温かみのある赤ピンク。そして……特に目に引き寄せられる。その目は珍しい緑色。まるでエメラルドのようだ。そして、いつもニコニコしている。
そのお客様は日本語は理解してるようだが基本は声を出さず指差しと頷きでやりとりをする。
よく頼まれるのは紅茶だ。ポットからティーを飲む姿はさながら絵画の淑女の様。最近はこの方に接客をするのが仕事の中での癒しの時間だ。
そして、お会いするようになってから何日が経ち、今日……
彼女が此方に手招きをしている。周りに別にめぼしき人がいないかを見回すが見当たらない。僕は驚き自身に指を差すと彼女は笑顔で大きく頷いた。
僕は恐る恐る近づき、首を前に出した。
「あの、どうかされましたか?」
「Wie ist Ihr Name? 」
そう言われ、英語なのかどうかわからずしどろもどろになる。
「あっ、まっ、マイネームイズ……カズナリサトウ」
それと聞くと彼女は嬉しそうにゆっくりと口をどんどん開く。
「Es gibt etwas, was ich dich vorher fragen wollte~」
絶対英語じゃない!
早口で捲し立てるように、言われ僕は少しテンパってしまう。
「あっ、えっ……と、あの日本語で喋れないでしょうか?」
「喋れるよ!」
しゃべれるんかい!! 心の中で大きくツッコミを入れた。
「えっ、日本語できるんですか?!」
「えぇ、昔日本に住んでた事がありましてね~。めっちゃ喋れるわけではないんですけど~」
それもニュアンスやアクセントを聞いてると明らかに関西……
「もしかして、お客さんも関西に住んでたんですか?」
僕も彼女につられ、関西訛りで聞き返してしまった。仕事を忘れフランク言ってしまった事に不味いと思って彼女を見ると、目をキラキラさせ口を開いて嬉しそうにしているようだ。
「せやねん。昔旦那と仕事の関係で主に五年近く神戸住んでて、東京と行き来してたんよ!……と言うことは坊やも関西なん?」
「はい! 僕は生まれが神戸なんです~(いや、ホントは神戸の横の山に囲まれたクソ田舎だけど……)」
「そっか~なんか嬉しいわ。こんなところで関西弁喋れる人おって~。坊やいくつなん?」
「僕は17歳です 」
柔らかく話す彼女。まるで母親と話してる感じがした。そこから妙な親近感が湧く。そして『坊や』呼びはまるで孫くらいの子に呼び掛けている感じがして、そこが気になってしまう。
「そんな、坊やっと呼ばれると照れますよ~。全然お若いのに、そんなまるで歳が離れてるみたいな……」
「それじゃ、私いくつくらいに見える?」
「えっ!」
「年齢ほんまに当てにきても、ええから~」
彼女は天真爛漫に言う。
女性の歳を当てるのは難しい。いや、当てると言うより相手が嫌な思いをしない年齢を言うのが難しいのだ。
こういう時は僕は自分が思った年齢より、5歳年下くらいを伝える様にしている。
「えっと……40歳……前後くらいですか?」
彼女は僕の顔をジーッと見つめる。
「坊や……それ、嘘言うとるやろ 」
「えっ」
その後も、真っ直ぐに僕の目を見つめ続ける。
「あっ、えっ、ごめんなさい……ホントは45歳前後くらいかと思いまして……でも、ホントお綺麗だなぁって」
彼女はまだしばらく顔を見てから微笑む。
「うん、今度はホントやね。」
それから無邪気にクスクスと笑う。
「でも、残念! もっと上やよ!」
「えっ、50手前ですか?」
「ブー! もっと」
「52?」
「もう! 刻まんでええから!」
「50半ば?!」
「はい、残念! 正解は58歳やで~!」
「えぇ!!!!」
驚いてる僕を見て、嬉しそうにしている。
「まぁ、その可愛い驚き方で許したるよ~だから、孫くらいの年齢やから。坊やって、呼んどるのよ 」
「なっ、なるほど……」
彼女は急にキョロキョロし始めだし、僕の顔を寄せるよるように、小さく手招くき、耳元で話す。
「ごめんな。お仕事中に止めてしまって~、怒られへん?」
「いえ、今は落ち着いているので~ 」
そう伝えると彼女は嬉しそうにした。
「でも本当に流暢ですね!」
「こっちに来る前に日本語の予習で、昔好きやった日本のドラマのDVD観てきてね『男と女7物語』。アカシヤのさんちゃんが好きでね~より関西弁になってもうたんよ! まぁ、坊やは知らんかもやけど」
「なるほど、タイトルは聞いたことはあるんですけど……うちの母親もアカシヤさんが好きなんですよ~」
「ほんま! なんか嬉しいなぁ~ ここで会ったのもなんかの縁やし……」
彼女は一度襟を正した。
「私の名前はフリーダ・ヴェーバー。アメリカとドイツのハーフで、今はアメリカに住んでて。ちょっと所用で日本に着た感じです 」
「僕の名前は佐藤一成。近くの高校と、ここにはアルバイトで通っています 」
「そうなん!? アルバイトなん? いや、流石日本やね。アメリカの大衆のカフェとは違って礼儀正しいし、値段以上の仕事やね 」
「あっ、ありがとうございます!!」
僕は嬉しくて、思いっきり頭を下げた。
「せや、その仕事振りにチップをいくらか弾んだろうか?」
「あっ、いえ、大丈夫ですよ! 日本にはそういう文化無いので」
「そっか……? まぁ、これから少しの間に、また何回か世話なるし、よろしくね! 坊や!」
ははは……『坊や』呼びは変わらないのね……
「あと、私の事は何て呼びたい?」
「えっ 」
「お客様と呼ぶのも野暮やろ。」
「えっと……」
「名前で呼んでええから~」
「えっ、いきなり名前呼びですか?!」
「アメリカやと普通やよ!」
「それじゃ、フリーダさんで……」
「なんか……若い日本の子に、名前で呼ばれるのって……照れるなぁ……」
「いや、呼ばせといてそれはないですよ~」
そんな風に僕たちはスゴく盛り上がった。
そして、日にちが変わり次の日の放課後……僕はトレアイに顔を出した。今日は千里香さんはいない事は知っている。
見回すと、お客さんもちらほら、そして鈴木さんはカウンターの中で何か作業をやっいるようだ。近づくと鼻唄が聞こえる。
そして、なぜかカウンターの奥でパイプ椅子をおいて鎮座して、真剣に鈴木さんを見ている一条くん……
「あの! 」
「う、あぁ! 少年くんか、すまねぇ、すまねぇ!」
「何やってるんですか? そして、なんか一条くんがそこにいるし……」
「いや……実は……手袋、あんでんだよ」
「えっ、なんでですか!?」
彼は少し照れながら紡いだ。
「えっと正月に俺、北海道に……カエデに会いに行くんだ 」
「あっ、おめでとうございます!」
「あぁ、ありがとな! それでアイツも気を使ってか、手作りのもんがいいって言ったから……んで、逆に悩んでたんだよ……それでたまたま、その時に一条くんが買い物に来てて、軽く相談したら『編み物どうですか?』って言ってくれてなぁ。それで北海道は寒いし……マフラーやったから、ちょうど持ってるマフラーと色を合わせてセットになるかと思ってなぁ。この前千里香ちゃんがくれたBURBERRYの袋も渡せなかったから、コイツを入れて渡そうかと……」
鈴木さんはハニカミながら、グーサインを作り親指で一条くんを指す。
「それで、一条くんが乗りかかった船だから手伝ってくれてんだ 」
「そう言う事~」
緩い感じで一条くんは答えるが真剣な眼差しで鈴木さんの手袋らしきモノを見ている。
「鈴木さん、ちょっとそこ雑いですよ。」
「あぁ、すまねぇ」
そこには変な信頼関係が生まれているようだ。
「そういえば、少年くん。今日は千里香ちゃんいないよ 」
「えぇ、知ってます! 今日はどちらかと言うと鈴木さんたちにお話があって……」
「えっ、恋愛相談か! 」
彼は興味津々でカウンターから上半身を乗り出す。
「まぁ俺は、確かにモテるし、男前だからなぁ~、いいよ! 何でも答えるよ! 二股の仕方や女の子に怒られた時のかわしかたをな!!……あと、ちなみに……一応、田中もモテるからなぁ~」
彼は変に自信ありげに自身の言葉に悦を覚え頷きながら答える。
この人本当にモテるのか……?
「いえ、違います 」
「んじゃ、何?」
「実は千里香さんの事で……」
「はっ!!」
彼は何かを悟ったらしく、「ふっ」と一息ついてた。
「ははぁーん、少年くん……あの女は止めておけ。いい女だがめんどくさいし、理詰めしてくるし、大変な仕事押し付けてくるし、たまに可愛げがないし、アラサーだし、大人の女がよく魅えるのは今だけだぞ!」
腕を組み、ウンウンっとしたり顔で納得した。
「いえいえ、違います! 千里香さんにそのような感情はありません!!」
「なんだよ~つまんない……」
「あの……鈴木さんが千里香さんディスってた、って言いますよ 」
「やめてくれ! 殺されるから……」
鈴木さんは手を合わせて、血相を変え懇願をした。その様子に呆れて、ため息が出てしまった。
「わかりました! えっと、本題は千里香さんの誕生日です!」
「あぁ、千里香ちゃんの誕生日ね~……えっ、いつだっけ?」
「1月7日ですよ!」
「はぁーん、そうだったんだ……」
鈴木さんは何か考えながら、口を半開きにして考えながら唸っている。
「えっ、何か不味いですか?」
「う、あぁ、いや……そう言えば千里香ちゃん、去年の1月の前半は、ちょっと暗かったなって思って……」
「もしかして、セイカちゃんの件ですかね……」
「いや、セイカちゃんの事はむしろ明るく振る舞ってたんだけど、なんか別の件っぽいんだよな……」
「そうなんですか!?」
「まぁ、一概に何とも言えんけど……うーん、心辺りが……あるとしたら……」
「あるとしたら……?」
彼はサングラスをくいっと上げてから、眼を此方に向ける。
「うん、三十路に近づいてるからじゃね。」
「いや、それは無いですよ!」
「いやいや、少年くん。女の三十路を嘗めちゃいかんよ……いままで二十代だから、男どもにちやほやされてたのが減るんだぜ。『小野寺さんって、天真爛漫で可愛いですね』……とかの口説き文句も減るし~」
彼は途中なぜかイケメン風のボイスを混ぜて、ふざけ倒す。
「まぁ、実質あんなんじゃ嫁の貰い手も夢のまた夢。そりゃ歳をとる度に絶望するわ!」
彼は手を横に大きく振る。
千里香さん、今の鈴木さんの言動すべて聞いたら修羅のごとくおこるだろうな……
「よし、君の言いたい事はわかったぞ! あれだなぁ……センシティブになる可能性のある千里香ちゃんの誕生日を祝って上げたいって、魂胆だなぁ! 」
「まぁ…………はい、そうです。」
「なら、協力するよ。なんやかんやあの人には世話なってるからなぁ~。 慰謝料とかで金が多めに必要な時……さりげなく軽く悪態を付きながら、残業とかさせてくれてるし……あの女の……感動感激感謝で喚く姿も見てみたいし~」
なんか照れ隠しで荻野目さんと似たような答えだなぁ……この人。
「んで、何やんの?!」
「いや、そこなんですよ……軽い流れは考えてるんですが……場所がですね…………もし、仕事終わりにこの店をお借りできないかと……もしくは、他の場所を借りて……できればサプライズで……」
「うーん、確かに店でやるのが一番マストだしなぁ……やりやすいし…………でも、今までは店長権限の元で何時間か、貸しきってやってたり……イベントを絡めたりしてたからなぁ。あまり私有で店、使うのは良くないしなぁ……」
「ですよね……それか……ここ何年か、一緒に働いていて何か……今回の事でヒントになることないですか?」
「えっ、あぁ……」
鈴木さんは、また腕を組み真剣に考える。
「おぉ……この前、イベント終わりに……千里香ちゃんと田中と三人で飲んだんだけど……」
「はい……」
「カラオケ行ったんだわ……」
「はい……」
「そこでの千里香ちゃんの歌が、スゴく下手くそで…………はぁ! カラオケでやるのはどう? 向いのTATSUYAの上のカラオケ屋だと、広い部屋あるべ 」
「まぁ、悪くないとは思いますが……」
「普通だもんなぁ……うーん……」
男三人で腕を組み考える。三人寄れば文殊の知恵と言うがなかなかな難問だ。
「あれ? そういえば、田中さんは?」
「んぁっ……アイツはいま、レディースコーナーで、華と一緒に仕分けと値段付けをやってるところ~」
鈴木さんはなんやら、少しニヤニヤして答えた。
「とりあえず、そうですか……あと、何かないですか?」
「あとは……飲んでる時……千里香ちゃんが自慢話……みたいのをしてたかなぁ 」
「自慢話?」
「うん、アメリカで学生時代……チアリーダーやってたとかで……ほら、海外ドラマとかであんじゃん! それでスクールカースト上の方だったとか。でも、あの時の事は少し後悔してるとか 」
「へぇ~、でも後悔って?」
「いや、その後は濁させて……他の話しになったから…………知らん!」
「なんですか、それ!」
「しょうがないじゃん! あぁ……あとは、千里香ちゃんは日本のアニメとかの影響で……できれば『日本の学校に通いたかった』とかかなぁ~ 日本の学校で青春したかった的な。だからせめて、飲みの途中、三人で……軽くコント的なノリで日本の学校の青春あるあるみたいなのやったよ!」
「はぁー、ホント仲いいですね~」
鈴木さんはその状況を思い出し笑い、僕たちもその光景を浮かべると笑えてきた。僕は彼女が日本の学校に通いたかったと思うと、その姿を想像して微笑ましく思う。
きっとクールで美人だけど、残念な転校生だろうと……
でも、だったら……その願いを叶える事ができるんじゃないだろうか……今度は僕が……いや、僕たちが彼女に恩を少しでも返す番だ。
手を顎に添えて考えてた一条くんが口を開く。
「学校で誕生会とか、どうですか?」
鈴木さんと僕は、一条くんに眼差しを向ける。
「あぁ! いいじゃん!! それ!!!」
「僕も同じこと、過ったんだ!」
「いや、でも、学校の教室って借りれんの?!」
発案者である一条くんも、さすがに自分の提案にどぎまぎしている。
「うーん、わからないけど『ST』に聞いてみるのはどう?」
鈴木さんが不思議そうに首を傾げた。
「『ST』ってだれ?」
「まぁ、『ST』なら、もしかしたら……」
「だから、『ST』ってだれ?!」
「よし! あとはプレゼントかなぁ!」
「無視なのね!……いいよ、別に……」
「鈴木さん、千里香さん。なんなら喜びます?」
「いや、あの人……実家金持ちだし。欲しいもんは手に入れてる……っぽいしなぁ……」
「やっぱりそうですよね……」
「まぁ、気持ちがこもってれば何でも喜ぶよ。単純だから千里香ちゃんは」
「えぇ……まぁ…………実は、ある程度考えてはいるんですが……」
「えっ、そうなのか、で……何?」
「ブっ……」
『ブっ?』
二人は声を揃え、まじまじと此方を見る。
「ブランド……ハイブランドモノを……できればバッグ……をプレゼントしたいんですが……」
『ハイブランドのバッグ!?』
二人は驚き声を揃えすっとんきょな声をあげた……
そりゃ、そうだ。僕も多少無謀だとは思うが多少の勝算はある。
「いや、千里香さん古着屋だし……状態の良いものなら喜んでくれるんじゃないかと思ってもちろん、1人じゃ無理だけどみんなに協力してもらって多少のカンパをして貰えれば……」
自信なさげに僕は二人の方に視線をやると、鈴木さんが下をうつむいている。そして、小さく『クックックッ……』と声が聞こえた。
「なるほどなぁ……おいおい、それは運がいいぞ。少年くん! 相談したのが俺で!!」
彼は最近短くした髪をかきあげる。
「えっ!」
「俺の……持てるだけの周りへの信頼感! 社員としての力が発揮される時が……来たと言うことだ!」
彼はどこから来たかわからない自信に満ちて、胸を張っている。
「まず、うちの店の奴らは千里香ちゃんへの信頼はでかい!! そして……この俺が頼めば、全員快く多少のカンパは出してくれる! そして……」
『そして……?』
「俺は社員だ! まず、関東近辺の全店でハイブランドの良い物を見繕う事はできる! さらに、社割りを使って、30%から……うまくいけば50%offで、手に入れられる!」
『おぉ!!』
僕たち二人は歓喜した。
「ふっ、待て待て、喜ぶのはまだ早いぞ……もし、デザインが良くて安く手に入る物があるとする……だが、状態が良くないとしても……」
『としても……』
「俺の専門時代の同期で、今はハイブランドを専門に鞄の修復を仕事にしてるヤツがいるから……そいつに頼んで、新品までとはいかないが、良い状態に戻すこともできる!」
「すっ、すごい!! でも、修復にまたお金掛かるんじゃ……」
「いや、そこも安心してくれ。多少は安くなる様に交渉するよ。それに、そいつは……専門時代、千里香ちゃんにベタぼれだったんだ!」
「えぇぇぇ!!」
「まぁ、そいつが当時18歳で……千里香ちゃんが14歳くらいだったからなぁ……手を出せないし、千里香ちゃん当時は『氷の姫君』という二つ名で呼ばれたくらい、怖くて近寄りづらかったし……でもアイツも無口なクセに、頑張って会話しようとしてたなぁ……その姿が微笑ましくて、何とも何とも…………あとは、『こども先生』とも呼ばれてたけどね 」
彼は嬉しそうに、過去を振り返っている。
「でも……今は関係ないし、引き受けてくれますかね……」
「大丈夫。義理深いヤツで、昔惚れた女の為だったら力を貸してくれるよ。」
「なら、安心しました! ありがとうございます!!」
「さて…………まず! どうするよ? 鞄のブランド?」
「そうなんですよね……千里香さんって、好きなブランドって……」
「あぁ、あの人は好きなブランドこだわらないからなぁ……好きなものが好きってタイプだし……」
「僕、個人的にハイブランド調べたんですが……」
「CHANEL、GUCCI、CELINE、HERMES、PRADA……まぁ、数え上げりゃキリがないがなぁ……」
「千里香さんに似合うのが思った以上に想像着かなくて……」
「そうだなぁ……あの人なら、何でも使いこなせるとは思うが、さっき挙げたのだと、普段の千里香ちゃんには気取り過ぎっと言うか、ドンピシャにハマらないんだよ…………」
鈴木さんはカウンターに肘をついて、顔をクシャってさせた。
「もう、ハイブランドじゃなくて良いんじゃねぇ!」
「いや、もう少し何か……」
「あの……僕からも……いいかなぁ……」
一条くんが控えめに手を上げる。
「千里香さんと言えば、黒のイメージがあるんです……黒と言えばモード系とかで……」
「なるほど、モードか……ならロエベとかは」
「いいですね! ロエベのイメージ合います!!」
「あと、メゾンマルジェラやマルニとかも合いそうだなぁ!」
一条くんと鈴木さんが和気藹々と盛り上がっている。
「あの……『モード』ってよく聞くんですよけど……あまり取り入れなかったから詳しくないんですけど……モード系ってなんですか?」
「『モード』はフランス語で流行やファッションという意味らしくて。ファッションや髪形のコレクションにおける最新のものを言うそうなんだ。 それと非凡なおしゃれという解釈もあって、モテるためというよりは、服飾や髪形そのものを楽しむ精神が重要なんだ。それでモード系の主なファッションは流行を取り入れた前衛的なファッション。ほら、パリコレで発表されるような最新のファッションやヘアスタイルで、独創的で奇抜なアイテムを取り入れるスタイルあるじゃない? そんな感じなんだよね 」
「はぁ~、なるほど~」
「それに、細身のシルエットにモノトーンカラーを合わせるというイメージなんだけど。現代では、カラーはモノトーンでまとめのが多い。シルエットは上下どちらか細身のもの……そして、片方はゆったりとしたモノを着る風に変わっていってるんだ 」
「まぁ、簡単に言えばモノトーンである事。少し非現実的なファションである事。細身を取り入れてる事……って感じだ。そういえば、某有名なファッション漫画でも、ゲームのキャラクターみたいなファッションって書いてあって、スゴく納得したわ~」
二人はわかりやすい解説をしてくれた。
「確かに千里香さんもここで働いてる時、少し非現実的なファッションをしてますもんね~」
「あぁ、まぁ、何個かは既存のブランドのものだけど……あといくつかは知り合いのデザイナーから貰ったもんだ、っ言ってたなぁ……」
「へぇ~、流石、千里香さん」
「あと、因みにメゾンマルジェラだとスプリットトゥシューズが有名だ 」
「なんですか、それ?」
「スプリットトゥシューズと言う名前より、足袋ブーツという名前の方が日本では馴染みがあるね……」
一条くんはスマホで検索して、足袋ブーツの画像を見せてくれた。
「あぁ! ホントだ! 足袋みたい!」
「ブランド創設者でデザイナーだった、マルタン・マルジェラが山本耀司と川久保玲のアバンギャルドな影響を受けて、作ったそうなんだが。当時、爪先が割れたブーツが斬新過ぎて職人がなかなか見つからなかったらしく……苦難の果てに漸く完成したそうだ。発表されて、その革新的なブーツに対する問い合わせが尽きなかったそうだ。でも、そのあと幸か不幸か、予算がギリギリだったのもあり、足袋ブーツを色んな形でリメイクすることによって今の地位を手に入れたそうだ 」
「へぇ~」
「というか、足袋ブーツがこんなに持て囃されてるのに、和服がなかなか取り入れられないのが僕にとって少し不満です。日本人なのに、和服や和柄のモノを着てると若干周りの人が退いてる素振りがあるのがやるせないですよ 」
「和服って色々、難しいからなぁ……個人的な考えだと着付けとか大変だし、ちゃんと着てなかったら、和服に詳しい人たちに、口を酸っぱく注意受けるしなぁ~。あとは敗戦後に西洋文化を刷り込まれて、廃れたイメージがあるかなぁ。でも、畏まった服として今でもスーツに並び使われてるのはスゴいと思うよ。あとは海外に広まればいいんだけどなぁ~」
「そうですよね……」
「まぁ、現代だと一条くんも好きなSOUSOUやデザイナーズブランドのSOSHIOTUKIが頑張ってくれてるから~」
「そうなんですけどね……」
二人で服の知識を共有しあっている。
「おぉ、すまねぇすまねぇ……話がそれちまったなぁ……んで、ブランドどうするよ!?」
「えぇっと、二人が話してる間にトレアイのアプリのオンラインストアで検索してたんですが……」
僕はスマホの画像を二人に見せた。
「ほぉ~イブサンローランのカバスクラシックか 」
二人は顔を見合わせてから、感嘆している。
「うん、いいよ!」
「こりゃいいなぁ! イブサンローランと言えば、『モード界の帝王』と言われる存在だからなぁ~。斬新かつ、レトロモダン的なデザインが痺れるんだよ。たしかに、千里香ちゃんにうってつけと言っても過言じゃねぇ!」
「たしかに型はシンプルだけど縫い合わせやデザイン、特にこの金具のYが渋さと当時の斬新さが伺えるね。やるじゃない、佐藤くん 」
僕は二人に誉められ嬉しくなったが、その商品の記載に引っ掛かる所があり二人に画像を見せた。
「でも、これ状態があまり良くないみたいで……」
「おぉ、この程度だとさっき言ったヤツに頼めばどうにかなる! 値段も4万円だから、社割と俺が交渉してどうにかするよ~少年くん、良いのを見つけたな!」
「すいませ~ん~」
ふと、見ると丸眼鏡をかけた細いお客さんがこちらを見ている……
「ああ、すいません……おきゃく……」
「あぁ、いいのいいの 」
鈴木さんは先ほどの表情と代わり、冷たい言い方に変わった。
「また、アンタか……最近よく来るが、あのな! 店長は休みだ 」
「そんな、ただ私は店に買い物に来ていて、貴方たちが楽しそうにしてるんで気になって声をかけただけですよ~」
「んじゃ、会計しますから商品を 」
「いえ、今日は目ぼしい商品が無いので、これで置賜致します~」
その男の人はニヤニヤと笑いながら入り口から出ていった。それを見送った後、鈴木さんが小さく舌打ちをする。
「えっ、どうしたんですか? 恐いですよ。」
「あぁ、すまねぇ……アイツ最近よく来るんだが……ずっと千里香ちゃんの事を聞き出そうとしてきてな……」
「えっ、ストーカー!?」
「いや、どうやら週刊誌の記者らしくて……胡散臭いし……なんか嫌いなんだよ!」
「そうだったんですか……」
「一応、アイツ……千里香ちゃんには直接話かけてはいないみたいで……伝えると恐がると思って、まだ伝えてないんだよ。」
「薄気味悪いですね……」
「あぁ、何もないといいんだが…………まぁ、どうせいい女のケツを追いかけるだけのヘタレだと思うがなぁ!!」
鈴木さんは真剣な顔をしたが僕たちに心配をかけないように、また明るく振る舞った。そして、プレゼントも決まり、計画もある程度は決まっているが後はとにかく場所の確定を……
後日、学校の校舎裏に『S.T』を呼び出した……
「おぉ~! お疲れ~!! なんだよこんな場所に俺を呼び出して……」
「桜井先生……すいません、教室や職員室じゃ相談しづらくて……」
「えっ、何々、恋の相談!? 先生、答えれるかなぁ……? まぁ、今は順風満帆な幸せな日々を送らせて貰ってるから~」
「いや、違くて……実は……」
本題に乗り込もうとしても、何て切り出せばいいか悩む。だって、教室を私用で夜、貸してください……なんて通る自信がないからだ。
言葉が出てこず悩んで黙ってしまう。先生は何かを悟ったらしく一息ついて、落ち着いてゆっくりと口を開いた。
「あのな……先生はな…………別に恋愛は男女だけじゃないと思うし、そういう危険な関係は夢に見るかもしれん……だが、俺には菫さんと言う……大事な人が居てだなぁ……」
「はぁー!!!」
「わかる、わかるよ! 俺は皆にとって良い先生だと思う。だが、お前を特別あつか……」
「だから、違いますよ!!」
「えっ、違うの!? こんな所に呼び出されたし~、てっきり……」
みんな僕の事、どういう風に思ってるんだ……
「あの! 率直に言うと、夜、教室を貸して欲しいというお願いなんです!!」
「えっ、なんだ! そんな事か~」
先生は胸を撫で下ろし大きく息を吐く。
「え、大丈夫なんですか!?」
「まぁ、時間にもよるが一応申請すれば、地域住民等にも貸すことができるんだよ 」
「そうだったんですか!?」
「まぁ、夜の部だと……5時~9時まで、400円で貸せるよ。」
「安い……でも、時間……夜10時までに出来ないでしょうか……」
「うーん、それは内容にもよるしなぁ……で、なんで借りたいんだ?」
「実は、斯斯然然で……」
不思議そうなにしている先生に詳しい内容を伝える。彼はテンポよく相槌をうった。
「そっか……小野寺さんの誕生日か……」
「はい……」
先生は両手を腰に添え、顔を上に向き考えているようだ。
「駄目……ですか……」
「いや、あの人には俺も世話になったし……菫さんと付き合えているのもあの人たちやお前たちの協力があってだしなぁ…………よし!」
彼は大きく頷き、手を叩いた。
「この桜井雄輔に任せろ!! なんか、適当な理由をつけてでも、借りてみせる!」
「ホントですか!?」
「あぁ、男に二言は無い!」
「ありがとうございます!!」
僕はプランが進むことに安心した。そして彼に感謝を込め大きく頭を下げた。
「あと、菫さんと百之助さんにも相談して……協力して貰えたらしてもらうよ~」
「えっ、お二人にもですか!? というか、百之助さんの連絡先知ってるんですね……?」
「あぁ、あの服選びの後、トレアイにお礼に行った時に、小野寺さんから百之助さんの名刺を貰ってね。『服や恋愛で困った時はいつでも相談してもいい』って言われたらしいんだ…………でもその後、小野寺さんに『あいつ、同年代近いの気軽な友人がいないから、話相手が欲しいんだよ』と笑って言われてね。それ以来軽い近況報告や趣味の話、相談をしたりされたりって感じなんだよ 」
彼は嬉しそうに話す。そんな先生の顔を見ていると、烏滸がましい考えかもしれないけど……僕や千里香さんがやってきた事がお人好しな行動は無駄ではないんだっとふっと思って、僕も顔が綻んだ。
「んじゃ、ちょっくら、相談してくるわ~!!」
「お願いします~!!」
話が終わり体育館前まで来て先生は小走りで先へ駆けていく。そして振り向き大の大人が大きく手を振っている……
彼はまるで少年のようだった。
「佐藤さん!?」
僕は後ろから急に聞こえてき声に驚いたが、安心する声を聞き、照れ臭くも嬉しく咄嗟に振り向く。口元がにやけてしまう。
「こんな所で、何してるんですか?」
「いや~、例の件で先生に相談してたんだよ 」
「小野寺さんの誕生日ですね!」
「うん! そうそう! 会場は学校の教室を予定してるんだ!」
「えぇ! すごいじゃないですか!?」
彼女にしては普段より反応が良く、彼女は僕との距離を詰めた。近くなり意識してしまう。
「まぁ、千里香さんにはお世話になってるし! 出来ることがあれば、何でもやりたいんだ……」
僕は彼女との空間が恥ずかしくなり、目線を反らした。そして、彼女と話せた事によりだらしなくなった顔を見せるのが恥ずかしくなり頭を掻きながら背を向け、へらへらと声を出しながら笑ってしまう。
その最中、「なんか……羨ましいです……」と小声が聞こえた気がして振り返る。
「それじゃ! 頑張ってください!!」
彼女にしては珍しく、元気目に去っていった。
それから、僕の普段の日常に加え、千里香さんの誕生日のスタンバイ……なかなかの目まぐるしいさが巡る。
バイト先でも、フリーダさんが来てくれて話すことも増えていった。プライベートな事や色々。
フリーダさんの旦那さんが亡くなって未亡人であること。その旦那さんとの間には子供ができず、息子がいたら僕みたいな子供が良いと言ってくれたり……詳しい事は教えてくれないがデザイナーである事。好きな食べ物や今までで観てきた美しい景色の事……
そんなある日……いつもの様に彼女との会話を楽しんでいた。
「実は知り合いの誕生日がもうじき何ですけど、プレゼントにイブサンローランのバックを選んだんですが……」
「えぇ!! ハイブランドのバック! 坊やすごいなぁ!!!」
「いえ、新品ではないんですけど……綺麗に修復してもらって、渡しても大丈夫な様にはしてるんですが……」
「いや、喜ぶよ! きっと!! そういうのは想いが大切やからね!」
「フリーダさんにそう言って貰えると嬉しいです!」
「誕生日かぁ~……」
彼女にしたら珍しく少し寂しげな顔を浮かべた。その顔を見てると、なぜか切さなを感じ胸が痛くなり、黙ってしまう。
「あぁごめんなぁ、坊や……ちょっと昔の事思い出して……」
「いえ、大丈夫です!」
ついつい、ワザとらしく明るめに返してしまう。沈黙になってしまい、話題を変えようとしたが思い付かない。
「いや、実はな……私にも娘みたいな子がおってな……」
「えっ、はい 」
「毎年、その子の為に誕生日プレゼント……服をプレゼントしててん 」
「へぇ、すごいですね!」
「でも、最後に会った時にヒドイこと言ってもうてなぁ……」
「あぁ……」
「それで、今でも……あの子は元気にしてるかなぁ……って思うんよ 」
「後悔してるんですね……」
余計な事を嘴ってしまい、口に手を当てる。すると、彼女はゆっくりと頷いた。
「連絡とかは……?」
「いや、お互い気まずくて何て言えばいいかわからんのよ……」
「あっ……あっ、会った時に! 素直に謝れば……いや、あの…………」
僕は何も考えず、世間一般の問いを云いそうになり、言葉を止めた。そして、息を吸い直しながら伝えたいこと咄嗟に考慮してみた。
「違い……ますね……会った時に、素直に……フリーダさんの気持ちを伝えればいいんじゃないですか?……その娘さん?みたいな方はきっと、フリーダさんに会いたがっていると思います! 僕とは、こんな短い間だけど、それでもフリーダさん優しくて素敵な方だと。だったら、長年お互いを想い合ってた相手なら……きっと……もう一度、仲直りできますよ!」
彼女は口を開いてから、ゆっくりと閉じ、大きく頷き優しく笑ってくれた。
「ありがとな。坊や! 私…………頑張って会ってみるわ!!」
彼女は綻ぶ様に嬉し泣きの様に笑った。
僕はお洒落な言い回しや、気が利いた言葉は思い付かない……でも、ただ……彼女には後悔はして欲しくなく、自分の素直な気持ちしか言えなかった。
僕はまだまだ、子供だ……
彼女に寄り添うことはちゃんと出来ていないけど、母親の様な彼女の願い……もう一度、娘さんみたいな人に会いたいと言う大切な想いを……背中を押してあげたいと思った。
仕事が終わり、僕は閉店前ギリギリのトレアイに足が向いた。
「やぁ、少年!! 久々じゃないか!!」
「千里香さん! 」
なぜか……無性に彼女に会いたくなって、話したくなった。
彼女はいつも通り、おどけるように話す。鈴木さんは、閉店作業をしろと千里香さんに促す。田中さんは黙々と仕事を進める。
こんな、いつもの僕の日常。僕はこの小さな幸せを噛み締める。
そして、この……目の前の魔女が喜ぶ姿がみたいと思った。
そして、数日が経つ。年を越し、彼女の誕生日が近づく。決戦は……間近。
今回も長いのに読んで頂き誠にありがとうございますm(__)m
次回も長くなると思いますが……
また読んで頂いたら幸いです。
本当にありがとうございました!!




