16A 君と僕のしるし #3
今回も見ていただき誠にありがとうございます!
今回で鈴木の話『しるし』が終わります。
前回が山場だったので、今回はエピローグに近いものになっております!
楽しんで頂ければ幸いです!
16A-3 後悔の歌と優しい歌
「カエデ……」
ガタンゴトン、ガタンゴトン…………
俺は走り去った電車を見送りながら、アイツの幸せを願った。そして一気に息が漏れる。
きっと、満足出来たんだ。色々と……
胸の内は今の空の様に晴々していた。
「本当、元気でやれよ。向こうでも……」
俺は呟き、空を見上げる。
あぁ、長い雲があるな……北海道まで繋がってるかな……
俺は、さっき頑張ってくれた肩を労う様に、ゆっくりと回す。
あれ? 最近、投げたのって……どっかに遊びに行ったときの的当てくらいだったような。もしかして、治ってんのかなぁ……オールドルーキーとしてデビューするか……なんてな! でも、あれ?……なんか……忘れてるような……
俺は首をかしげて、考えた。
………………! あぁ!! こっちの店に届けろって頼まれてたヤツを運ばねぇと!! それと自店のイベント!!!
俺は急いで、自転車に乗った。
ウーウー、ウーウー
サイレンが遠くから聴こえる。
やべぇ! やっぱりあんな事、不味かったか! 急いで、ずらかねぇと!!
俺は届け先の店まで、パトカーにバレないように自転車を飛ばした。
「お疲れ様です! すんません! コレ! お願いします!!」
俺は例の物を速攻で渡し、店の外に出る。時間を確認のために、スマホを見た。
あれ、架純から……ゲッ……めっちゃLINE、着てんじゃん!
『早く、電話をしろ!!』
俺は唾を飲み込み、LINE電話をした。
「あの……もしもし……おれおれ……」
『おれおれ……じゃ、ないでしょ!!!』
元嫁の怒鳴り声が俺の耳に刺さる。
『なんなの! あれ!! 』
「いや……なんて言うか……最後にカエデの顔を見たいな~って」
『あんなやり方は無いでしょ!! ホント馬鹿じゃないの、あんた!!!』
「ひぃ、ご、ごめん……」
『ごめんじゃないわよ! あれ!! 下手したら、捕まるんじゃないの?!』
「う……うん……あっ、かな……」
俺は苦笑いをして、誤魔化す手段に出た。
『もう!! それと、あの後! カエデは「パパ、パパ!」って泣きじゃくるし!! お陰で次の停車駅で降りて、今カエデを落ち着かせたとこよ! 泣いてる最中、周りの乗客には心配されるし! すっごく恥ずかしかったんだからね!!! それに元々遅れてた予定が、もっとずれ込んでるだから……ホント!いい迷惑よ!!! 最後まで迷惑かけて!!!!』
「反省してます! 本当に申し訳ない!! 」
俺は電話口で見えない相手に必死に頭を下げた。
「えっ、今、カエデ近くにいるの?」
『とりあえず、停車駅のベンチに座らせて、《飛行機遅れる件を彼に電話かける》という定で離れて、アンタに電話をしてんの!!』
そして、彼女は溜め息を吐いた。
『まぁ、幸い……周りの人たちは通報とかしなかったし、問題はなかったんだけど…………ね!!』
電話口で睨まれるのが伝わり肝が冷える。
「ひゃっ、ひゃい!!」
架純はそれから、柔らかい口調に変わった。
『あと……あの子……喜んでたわよ。あのプレゼント……』
「えっ! ホントか?!」
『まぁ、いいプレゼントだと思うわよ。ただ、あんなサプライズさえなければねぇ!』
「へい……」
『BURBERRYのマフラーとフルーツゼリー……』
そう、俺はマフラーをボール状にして中に重石としてゼリーを入れて、特性のプレゼントボールを作った。
『まぁ、ゼリーはあの子の好物だってわかるけど、なんでBURBERRYのマフラーなの?』
「うーん、まずマフラーにした理由は、北海道は寒いだろ。そしてBURBERRYを選んだ理由は…………ブランドのコンセプトが……『特別な人の為の服ではなく、多くの人が愛用する服、誰でも着る事の出来る服』じゃん?」
『うん、それだったら駄目じゃん!』
それを言われ、しどろもどろになる。
「まぁ、そうなんだけど……発祥はイギリスで、イギリスは、雨が多い土地でさ。あの子と俺は……カエルの親子だから……」
『なにそれ? 昔言ってたヤツじゃん! 意味わからないんですけど?!』
「もういいよ、意味なんてっ……いらないんだよ! それにあの子が自身を、もう大人だって言ってたし。それと……『向こうの親に馬鹿にされたくなかったから! 』…… 確かにスゲー、ハイブランドじゃないけど……あの緑のバーバリーチェックは、あの子に似合うと思ったんだ 」
俺はついつい、『向こうの親に馬鹿にされたくなかったから! 』というワードだけ、無意識に語気を強めに言ってしまった。
『えっ、あんた……アレ!? もしかして、向こうの親に縁を切れって言われた?』
「えっ、いや、えっ!」
俺はついつい、すっとんきょな声で返してまった。
『はははっ……なるほどね! 《カエルちゃん命!》のあんたが色々おかしいと思ったんだよ! ホント昔から冗談は得意だけど、嘘は苦手だもんね 』
「いや、そんな事は……」
『いやね、実は……あんたがそう言われたと思われた後に、向こうの親が私と彼に、《あんたとは関わるな》』 って、釘さしに来たことがあってね 』
「えっ!」
『その時に、彼が……《嫌です !》ってはっきり言ってくれたのよ 』
「えっ、えぇーー!!」
『まぁ、向こうの両親は納得してないけど……向こうにはそんな権利無いし。大切なのは私たち……いや、あんたとカエデが会いたいか! っだと思うから。もし否定されても、何らかの手段に出たとしても……私たちがどうにかするから! 』
「えっ、なんでそんな、ワザワザ」
架純は呆れた様に息を漏らす。
『ワザワザじゃないでしょ! まぁ、私は……そこまで、あんたと! 会いたいとは思わないけど……別れたし……でも、家族だったし、腐れ縁の幼馴染みでしょ! そして、一番はあの子の為よ 』
「架純……おまえ、気が強くて、お人好しの所変わってないな!」
『あんたも気を使う性格、変ってないでしょが! 』
俺たちはフッと吹き出し笑い合う。
『ああ、最後に! カエデのLINEのブロック、解除しなさいよ。それじゃ、また! 』
「あぁ、またな!!」
電話を切り、直ぐにカエデのLINEのブロックを解除した。
メッセージは何件も何件も溜まっている。最初は心配するメッセージ。次は、無視するなと怒ったメッセージ。直接行くからねってメッセージ………………カエデは何も悪くないのに謝るメッセージ。俺はあの子にヒドイ事をしたんだと改めて痛感した。
ピローン。
そして、今、新しくメッセージが届いた。
『カエデも、パパの事を愛してる 』
俺はメッセージを見た瞬間、鼻から息が自然と入っていく。そして、急いで返信したいと思い手が動く。
既読『ごめんな、辛い想いをさせて……』
『うん、これに懲りて、反省してね!』
既読『はい……反省します……(;´_ゝ`)』
『よろしい!』
『こうやって、いつでも連絡していい?』
既読『もちろんだよ、連絡遅れたらごめんな。でも、早めに返信する努力をする。』
『また、会ってもいい?』
既読『もちろん。俺がお前に会いたいから。』
『うん! それじゃ、またね。パパ!』
既読『またな! カエデ!』
そして、ゆるキャラみたいなカエルのスタンプを送りあった。
さて、店に戻るか……今、家族とは別の……大切なの人たちかも……の元へ……
俺は気がついたら、ほどけていたスニーカーの紐を結ぶ。
さぁ、行こう!!
自転車の進路を自店にやり、進ませる。
ビンゴ大会、昼の部が始まる一時間前までに戻った。
あぁ、やっぱり混んでんな……
入り口に入ると田中と目が合い、俺は自信に満ちた顔でグーサインを送った。
田中は笑顔で手を上げた。
「だったら、早めに持ち場に戻ってください 」
「わーってるよ!」
レジに入り荷物を後ろ側に置いた。
予想以上に賑わっている店。千里香ちゃんは上の階とコッチを行ったり来たり、少年くんは試着室から戻ってきたのを戻したり、お会計や接客をこなしている。
なんか、安心するわ……やっぱりココ……
そして、例のビンゴ大会が始まる。司会進行は千里香ちゃん、補助に少年くん。田中は臨機応変に対応する。
俺は買い取りとレジを両方。イベント参加以外のお客さんの対応だ。
「すいません、これお願いします 」
グレーのタックパンツと白のボタンシャツを出された。
「ありがとうございます 」
ピッ、ピッ。
「2点で1680円です。袋はどうなされますか?」
「いえ、結構です……あの~お聞きしたい事が~あるのですが~?」
「はい?」
その少しねっちこいしゃべり方で質問され、俺は男をちゃんと見た。丸メガネをかけた細めの年齢不詳感のある不細工なコウモリ顔な男。服装は、長袖のグレーのポロシャツにグレーのスラックス。黒のキャップを被ってる。
「ここの店長さんは、どんな方何ですか?」
「はぁ……?」
その質問の意味がわからず聞き返した。
「いや、なんか見てる限り~愉しそうな方なんで、気になりましてね~」
その男はニヤッと笑い、ウンウンとしている。
質問の意図がわからんが……ただわかる、胡散臭いということが……
「それを聞いてどうなさるんですか?」
「いえ、素敵な方だと思いまして~興味がありましてね。対した意味は無いですよ。ただの世間話程度です。なんか、面白い方だなぁとは思いますよ、面白いと。」
何度も面白いという言い方が馬鹿にした様な言い方で、嘲笑うようで……そこに少し腹が立った。ホントは無視をすればいいのに俺はムキになってしまう。
「あのなぁ。 あなたが誰かは知りませんが、あの人はホントに良い人だ。申し訳ないが他のお客様が、レジに来るかもしれないので、購入されたらお引き取りください 」
男は、少し驚いた顔をしたが……予想通りの反応っみたいな顔で、また汚い笑顔を返した。
「では、今日はこの辺で帰ります。また、来ますね 」
そう言い帰っていった。
なんだ、アイツ……
不気味さを感じ、一瞬顔が固まってしまった……
そして、今日が終わる。
ホント今日は色んな意味で大変な一日だった。でも、悪くはない。
「鈴木さん! お疲れ様です!」
「上はもう閉めてきました!」
華と真が降りてきた。
「華ごめんな! 今日、通しになっちまって!」
「いえいえ、大丈夫ですよ! これくらい全然、大・丈・ブイ!」
Vサインを俺に送る。
「真もすまねぇな、昼から出てもらって!」
「気にしないでください。梨佳ちゃんも最後まで居たそうでしたけど、彼氏さんとのデートがありますからね 」
普段と変わらず落ち着いて、返す。
今、スッキリとした俺なら……もしかして……
「なぁ、お前ら、俺ってさ……かっこいいかなぁ!」
俺は人差し指と親指を広げ、顎を乗せ歯を出して、二人にキザっぽく笑いかけた。
「あの……鈴木さんはかっこよくないですよ」
「そうそう、全然 」
「それに、親バカだし! 」
「馬鹿パパさんだもんね 」
女子二人はキャッキャと盛り上がってる。
「それじゃ、私たち~帰りまーす!」
「帰ります 」
「バイバイ! 鈴木パパ!」
「ヒロちゃん、バイバイ 」
二人は楽しそうに帰っていった。
「あぁ、くそ~やっぱり父親感あんのかなぁ~。くそ、いい女と出会いてぇ~」
虚しく独り言を言う。
「おい! いい女なら、ここに居るだろ!」
千里香ちゃんが意気揚々とバックヤードから出てきた。
「まぁ、私はお前を一人の男としては見れんがな! すまんな!」
「んじゃ、駄目じゃん!!」
クスクス笑う千里香ちゃんに俺はイベント終わりの高揚感が入ったテンションで突っ込む。田中も店内の確認が終わり、俺たちはレジ前に集まった。
「鈴木さん。今日は本当に、イベント……カエデちゃんの事、お疲れ様でした 」
「ホントにお疲れ! 鈴木!!」
二人は俺の肩をポンッと叩く。
「すんません、ホントは俺から先に、ちゃんと二人に謝らなきゃいけないのに……」
「気にするな、こんな事は対した事ではない 」
「そうそう、いつも店長に俺たちが振り回されてるし、鈴木さんが、いつもフォローや気遣いをしてくれるから、この店は回ってるんですよ 」
「ぅおい! それは言い過ぎだろ!!」
二人がはしゃいでる姿に俺は救われた。
「2人とも!!」
俺の声に、千里香ちゃんと田中が声を聞いてこちらを見る。俺は頭を大きく深く下げた。
「本当に本当に、この2ヶ月弱……こんな俺の為に、ありがとうございました!!」
「うん! どういたしまして! 」
「いえ、対したことじゃないです!」
二人の声を聞いただけで、わかった。顔を見なくてもわかる。優しく笑ってる事……俺は上体を起こし二人の顔を見て、照れ臭く笑った。
「それで、カエデくんはどうだった?」
「いや……」
俺は千里香ちゃんの質問に改めて、考えてみた。
「うん、改めて思うと……どうにかしてプレゼントは渡せたし、会えなくなる可能性は回避できたかもですし、仲直りもできましたが……」
俺は最後に見たカエデの顔が浮かび、切なくなった。
「最後まで、あの子を泣かしてばっかでした……プレゼントも渡せましたけど……俺、あの子にちゃんと残せたものあったのかなぁ……って」
俺は誤魔化すために笑うが……どうしても苦笑いになる。
「おまえ、またそう言うマイナスな事を言う。ちょっと、最近オセンチになりすぎだぞ! お前がそんなんだと、こっちのテンションが狂うんだわ! この店は、お前か私が暗いと、店にも影響でるんだぞ! それに……」
彼女はムスッとして答えた。
「お前は彼女に残せたものはあるよ。物とか、思い出とかじゃない 」
「えっ 」
「『あの子はお前に似てなく、架純に似たんだ』って言っていたが、全部じゃないぞ! お前の目と、あの子の目はそっくりだ 」
「目? どういう?」
「私が思うに、まずお前の目はその少し強面のツラに似合わず、キラキラした綺麗な目をしている。それが似てるのと…………私の個人的概見だが、目には信念や魂の強さ、その人の意思や意志が宿ると信じてる。だから、お前とあの子の目は、優しくもキラキラした良い目をしているよ。それは生き方として反映してるんじゃないか? お前はあの子に…………目と心の底の強さを残せたっ、と私は思う。『蛙の子は蛙』だ。良い意味で 」
「そうなんですかね……」
俺は少し照れながら頭を擦る。
「あと、確かに泣かしっぱなしかもしれんが、あの子はきっと、おまえの前以外では泣かない様にしてたんじゃないか? おまえの前だから泣いたんだよ。甘えてな。今まで我慢してた分…………そう言えば、lock作品でも言ってたぞ……『娘が泣いてもいいのは、トイレか父親の胸だけだ』って……だから今度はあの子に会った時、うんっとお前の胸で泣かしてやれ 」
「はい 」
「ぅおい、目をうるうるさせるな! 」
「いえ、これは違くて 」
「わかったよ! 今日は頑張ったし、三人で飲みに行くぞ! 私の奢りだ! 」
『えっ、ホントですか?』
俺たちは声はシンクロし、期待の目を千里香ちゃんに向けた。
「それも、梯子するぞ! 二件目はカラオケで、私の十八番のミスチルの『gentle song』聴かしてやる!」
『に、二件も!!!』
また、俺たちの声はシンクロした。
「ちっ、千里香ちゃん……俺を酔わして、どうするつもりですか……もしかして! 抱くつもりですか!」
「んなわけあるかい!! 田中もいるだろ!!」
「えっ、店長……俺も抱くつもりなんですか……俺には店長より、若くて可愛い彼女が……」
「おまえは色々失礼だな! あのな……私と深い関係になるにはな……」
『あっ、その話はいいです 』
俺たちはシンクロして突っ込んだ。
「えぇい、もういい! 兎に角行くぞ!!」
千里香ちゃんに連れられ、俺たちは飲み屋に行き、カラオケ屋に梯子した。
家に帰り、疲れた身体でシャワーを浴びる。
千里香ちゃん、多才なのに……歌は、上手くなかったな……確かに、まだちゃんと聴けたのが『gentle song』くらいだったけど……
色んな意味でジャイアンだ……あの人……まぁ、楽しかったらいいか。俺は、ベッドに転がり目を瞑る。
今回で、みんなに……特に二人には迷惑をかけたなぁ……反省しなきゃなぁ……
俺は身体を起こし、備え付けクローゼットから、あるものを取り出し、電源を入れた。
ブッ、ブブブブ……ガガガガガガ…………
後日、俺は駅近くのデパートに行きゼリーの詰め合わせを買って、出勤をする。
「おはようございます!」
「おぅ! おはよう鈴木!」
彼女は振り返ってこちらを見る。
「おはようございます!……すっ」
田中も此方を見た。明らかに場が凍りつく。そして……
「わはははははははははは!」
二人は、大爆笑をした。千里香ちゃんは腹を抱えながら、笑いを引きずる。
「なんだよ! それ、おまえ! 失恋した女子か!」
「鈴木さん! それはギャグなんですか!! 前のパーマが台無しですよ!」
田中も腹を抱え口を押さえながら笑う。
まぁ、なんで、二人が笑ってるかと言うと……俺が、長さ12ミリの坊主にしたからだろう。俺は二人に笑われ、恥ずかしくなる。
「いいだろ! 別に、これは俺なりの反省なんだよ!」
「反省なら、仕事で返せよ!」
「そうですよ! それは、違うでしょ!!」
それから、他のスタッフや顔馴染みの客。少年くん達。色んな人に会うと、俺を見て笑いが起きる。
たしかに、俺の大切な家族は遠くに住んでいる。でも、今の俺にとっては家族と同じくらい! っと、言うと大袈裟だが……大切な仲間がいる。
そんな人達が笑ってくれるなら、それも悪くはない。
今回も最後まで読んで頂き誠にありがとうございます!
私の中で、千里香さんは実は、鈴木の為に『優しい歌』を練習していた。という設定にしてます。
ミスチルの『優しい歌』は諸説色々あるんですが……
ある意味、今回のテーマ(色んな意味での過ち)に沿った歌詞らしいです。
詳しい事は、調べると出ますので……
この曲の歌詞の解釈はそれぞれなので、曲を聴いて自身の感じたもので良いと思います。
今回も読んで頂き誠にありがとうございますm(。_。)m!




