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古着屋の小野寺さん  作者: 鎚谷ひろみ
sweet&sour
3/52

3 天道虫みたいな彼女

佐藤くんと早川さんの関係が今回で一段落します。


佐藤くんはお洒落をしたことで何か変わるのか。


そして、佐藤家の暮らしの様子が少し垣間見え、学校サイドのお話。

あと、佐藤くんがあの古着屋に行くきっかけを作った人物が再登場。


前置きはこんな所にして。

もし、読んで楽しんで頂けたら幸いです。






朝8時15分。僕は教室の前で立っていた。

入るか、入らないか……いや、授業が始まるから、入らなきゃいけない。


なんやかんや教室の前まで来るまでに、何回か振り返って見ている人が数人。


おい! なんかおかしいか!!って……言ってやりたいが……いや、言えないよ~。急にキレたらヤバイやつじゃん……僕……


それに……違う……僕を見てるかも知れないが、何か違う。


はぁ! そうか!! 僕の服を見てるのか!!!






そう、昨晩…………僕は服を買って帰ってきた。

行儀良く「ただいま」と告げ、うがいをし、急いで部屋に入る。


収まらない動悸。


なんか悪い事をしてるような……いや、エッチな事をするような……そんな感じに近かった。

とりあえず、買った服を取り出し並べてみる。


うん、やっぱりいい……カーディガンの素材の柔らかさ。気持ちいい。シャツ、スッキリしててかっこいい。ジーパン……いやデニムは何か無骨感がありながらも上品だ。



よし、着るぞ。

僕は古着屋の試着の時より、慎重に丁寧に服を扱かった。もしかしたら、すぐに壊してしまうかもしれない……なんて事を思いながら着ていく。

着終わり、窓の反射で全身を確かめる。何となくだが、お洒落なのが伝わるが、ちゃんと全身を見たい……


だが、姿見があるのはダイニングか玄関だ。ダイニングだと、お母さんが横のキッチンで料理を作っている。なんか服を着てはしゃいでる姿は恥ずかしい。


まるで自慰こ……いやっ、下ネタ発言は止めておこう。


でも、どうする……いや! 全身を見たい! 仕方がない。玄関だ。玄関の姿見で全身を見よう。



僕は抜け足差し足で玄関まで行った。鏡に全身を観たとき、古着屋で感じた高揚。



僕はやっぱり、すこし大人階段を登ったのだ。

僕は何度も右左と方を揺らしながら角度を変え、自分の姿と素材感を楽しんでいた。



小野寺さんの『回ってごらん』の言葉が頭に甦り興奮は収まらず、ついつい今度は姿見の前で何度か回ってしまった。


ふとっ「早川さん、誉めてくれるかなぁ……」と思い、呟きながら回ってしまた。


だが、その瞬間……呟きと同時に玄関正面、後方のドアが開いた。


『あっ、カズちゃん何してんの!』


母と弟の声がユニゾンした。

あぁ、神様……




夕食時、母と弟と僕。無言の僕。弟と母は学校での話。パート場での話。テレビの話。楽しそうにしていた。



だが母が急に話題を変える。


「カズちゃん、そういえばさっきの服……」

「いや、あれはその……何て言うか……」

「いや、別に何でもないねんけど、あれか、好きな子できたんか」

「いや、ちゃうねん。なんか、その……一条くんが、お洒落になりたいって言うたから、それで古着屋に付き合ってたら、おもろくて買ってもうたんけど……」



母はニヤニヤしながら、

「あらあら、まぁ一条くんには世話なっとるもんね。今度なんか贈り物せなね 」

「うん、そやね 」

ちょっとの間、TVに食いついていた弟が

「カズちゃん、早川さんって誰なん?」

と言われ、僕の耳と頬が熱くなってきた。


「文化祭の演劇の時、世話なった子や。まぁ、どうでもええねんけど。それより、テレビほら良いとこやで 」

どうにか話題を変えようと指をさした。


なぜか、最近では放映されるのは珍しいあの作品。船が真っ二つに割れて沈む長編恋愛映画が放映されていた。そして、そのヒロインが裸になるシーンが流れている。

そして、文字通りお茶の間が凍り付いた。



おい、TPO。こういう時こそ、ちゃんと仕事しろよ。



色んな気まずさを抱えつつ、部屋に戻る。あの服を明日着ていくか、どうするかを考えた。

でも明日急に私服でいったら、クラスのやつら……みんなどう思うだろうか。まぁ、所詮、僕のことなんて誰も気にしてはいないだろう。

だがソワソワする。でも、その反面……変わった僕を早川さんに見て欲しい……

いや待て待て、その前テスト近いから勉強しなきゃ……


僕は机に向かいながらも、服の事と彼女の事と勉強の事と…………あとヒゲとボインと……いや、これは違う違う。


下らない事を振り払う様にため息をついてから、少し唇に力をいれ、鼻を鳴らし勉強をはじめた。






朝6時30分。


いつもの僕には珍しく、勝手に目が覚めた。いつもは7時過ぎても起きないので母のノックの音と呼び掛けで目が覚める。


我ながら、心のどこかでソワソワとドキドキがあるのだろう。とりあえず、寝転んだ状態から全身を伸ばした。

ふとベッドと反対側の壁を見たとき、ハンガーに吊るされた小野寺さんチョイスの服が目に入る。それを数分見つめ、僕は自分の頬を両手で叩いた。

「よし!」

僕は早めに朝ご飯を食べ、服を着替える。


そして洗面台で身支度をしていた時。

後ろから……


「カズちゃん! あんな、お母さんな……」

「えっ、何?」

「カズちゃんがその服を……今日、着ていくと思て~」

「で、何なん?」

「夜にな、近くのドラッグストアいってんな 」

「ふぅん、で?」


母は、すっと丸いプラスチックのものを出した。


「これな! ワックスやねんけど、髪の毛につけたら、よりお洒落なるんちゃうかなぁって~」

「お母さん……」


うちの母はこういう所が気が利くのだ。

「ホンマ、ありがとう!」


僕はワックスを手に取り、回して開けた後……

「お母さん、これってどれくらい付けて、どう使えばいいの?」

「いや、お母さんそんなん、わからんわ……」

「やろうね……」



僕はとりあえず、適量と記載されてたのでたぶん適量思われる量をつけてみた。

もちろん、しっくりこない。


「これで、あってんのかなぁ……」

初めてのワックスデビュー……いやお洒落デビューに自信がなく呟いた。




家の玄関に出るとき母と弟が見送りに来る。


「あら、男前になってええやん。若いときのお父さんにそっくりやで……」

「まぁ、カズちゃんお洒落やと思うよ 」


なんかこんな事で、家族総出で見送れるのは恥ずかしいものだ。


「あっうん、んじゃ、行ってきます 」

『いってらっしゃーい 』


母と弟の明るい声がユニゾンした。






校門に着き、少しドキドキする。他の生徒たちはもちろんスルーだが、数人は何回か僕の方を見ている……教室前に来るまで同じ事が何回か……






そして………今にあたる。僕はなんだか、やましい事をしてるのような気がして、背中が丸まってしまう。



だが急に背中に、ドンっと何かが当たり、僕は振り返った。


「あっ、ごめん、ごめん!」


どうやら二人組で歩いてる他のクラスの男子の肘がたまたま当たったみたいだ。彼らはそのまま、隣の教室に入っていく。



当たっといて軽いやつらだな……っと思ったがそのお陰で自分の姿勢が変わって、胸を張っている状態になっている事に気がついた。



『さぁ胸をはって、そうそう。その方がいい』



魔女がそう言ってるような気がする。その言葉に勇気をもらい、僕は教室のドアを勢い余って開いた。



ドアが思った以上に強く開いた事により、数人のクラスメイトが目を丸くしてコチラを見ている。僕は一瞬立ち止まったが、気にせず自分の机に向かった。


一条くんが怪訝な顔で、こちらをじーっと見てる。早川さんは女子たちに囲まれ楽しそうに話してる模様。



結局、僕の日常はそんな簡単には変わらないのだ……



数分が経ち、担任の桜井先生が入ってきた。


「みんな、おはよう! んじゃ、出席とりまーす!」

僕のいつもの日常がはじまる。




休憩中、一条くんと話した時、「どうしたの急に?」とか「うん、お洒落だね……」とは言ってくれたりしたが……それ以上は服に関して触れてはこなかった。




授業が終わり、僕は帰る準備をしていると後ろから、

「おい、佐藤 」と呼ばれ声がする方に振り向くと、クラスでノリが軽いグループの羽田くんが近づいてきた。


「佐藤さ、おまえ……チッ!」


彼から軽く舌打ちの様な音が聞こえた。その後、羽田くんは少し言葉を選んでる様子だ。


もしかしたら、調子に乗ってると勘違いされて、いじめられるんじゃないかと思い、僕は固唾を飲み羽田くんがどう来るかを伺う事にした。


すると、次の瞬間……


ばん!!!


彼は僕の机に手をつき、

「なんだよ! ちょー、オシャレじゃん!」

「えっ……」

と僕は力が抜けた声が出てしまった。


「おまえスゲー、オタクだと思ってたのに……なんだよ!」

羽田くんは僕の目を見ている。彼の目はスゴく輝いていた。

「おまっ、ちょ、待てよ! いや、俺もめちゃ服とか好きなんだけどさぁ、何かガキっぽくなってさぁ~佐藤めちゃ大人じゃん!……」


呆気に取られている僕にお構いせず、彼の話は止まらない。


「……ういす。あざっす 」

僕はそんな羽田くんのテンションに戸惑い、使いなれない言葉を使う。


「えっ、何、それってさ、ファッションで言う何なの?ていうか、マジどこで服買ってんの?」


いや……君が前言ってた古着屋さんなんですど……


「えっと……あの駅前近くの古着屋さん……」

「えぇぇ! マジでおまえ、あれじゃん! 魔女いるとこじゃん! スゲーなぁ、マジかっけー!」


僕、かっけー!んだ……


羽田くんが話してると羽田グループの男子が近づいてきた。そうこうしてると女子も数人近づいてきて、みんな勝手に盛り上がってる。


「佐藤、以外にやるな 」とか。「佐藤くんって以外に顔、男らしくていいよね!」とか。「ファッション教えろ」とか。「佐藤くんって話しかけると、ビクッてしてるし、早口だし、話し掛けない方がいいかと思ってたけど、ちゃんと笑えるんだ 」とかとか……


いや君たち、僕を何だと思ったんだよ。


そして、なんかワイワイした。これが俗に言う、ちやほやされるって言うヤツか。こう言うのも悪くはない……っと思っていたが………やはりこう言うのは慣れない………だって普段褒められなれていないんだもん………


僕は皆に合わせようとして、声が上ずりながらアワアワしていた。


そうだ、そんな事より………肝心な早川さん。


咄嗟に早川さんを見たら、友人たちに別れを告げちょうど帰って行くとこだった。


僕は『あっ!』と言葉が小さくこぼれ、どうにか彼女を止められないかと、彼女が出ていく方に手を伸ばした。だが想いは届かない………



周りの奴らが、

「佐藤くん、それ何のポーズ?」

と言われたので

「えっ! あっこれは………カーディガンの素材感がスゴく良くて………ストレッチ性があるんだ。」

と僕はよくわからない、両手を上に伸ばすポーズをして誤魔化すことにした。


「佐藤くんって、面白い人なんだ~」

っとなり、また媚びるような笑い方でその場に合わせた………あぁ、神様……パートⅡ……






そんなこんなで、さすがに疲れた今日この頃。慣れない人と話すのって疲れる。


一条くんは気が付くと、そそくさと先に帰ってしまったみたいだし……友人に見放された気がして、何か切なかった……それと……本当に誉めて欲しいのは…………

そう想いながら、とぼとぼ下校する。



すると、目の前でおばさんと女性が何かものを集めてるのが目に入った。おばさんは大袈裟に、相手の女性に感謝してるようだ。



近づいてみると……早川さんだ! 何度見てもどこで見ても、やっぱり、美しい……


僕は勇気を振り絞り、早川さんに声をかけた。

「早川さん!」

彼女はこちらを見て、少し身構えた様子だ。


でも、僕だということに気付いたようで顔を和らげた。


「ああ、佐藤さん! ハァっ、あっごめんなさい、いつもと違うカンジだったから……」

「あぁ、うん、ちょっとね。えっと、さっき何してたの?」


彼女は口を緩めはにかむ。


「あっ、見られていたんですね……実は、さっきの方、お財布の中身を確認しながら歩いていたら、小銭をうっかり、ぶちまけてしまったみたいで……それで一緒に拾っていたんです……」


おいおい、嘘だろ。美人で頭もいいのに……性格も良いなんて……無敵じゃん!!

あと、早川さんも『ぶちまける』っていうんだ。そこがまた、ギャップがあって………かわいい!!!



僕は心の声をできるだけ表面出さないようにしようとしたが……

「そうだったんですね。やっぱり、早川さんは素敵な人ですね 」

と、うっかり口を滑らしてしまった。


「あっ、そんな事ないですよ! 私なんて全然……たまたま、たまたまですよ。あっ、そういえば佐藤さん。何か今日かっこいいですね。なんか大人って感じで素敵です。それと、教室で……ちらっと見えたんですけど、花を刺繍した靴下も良いなぁ~って思いました 」


クラスのやつらは気付かなかったのに、流石早川さん。

「いや、そんな褒められると何か照れちゃいますね……」

「あっ、そうですか、ね……」


なぜか二人とも沈黙になってしまった。一緒に歩いていると……こういう時、心の奥底で余計な事を巡らせてしまう。



今が絶好のチャンスなんじゃないか!

これは世間で言う、良いムードってやつなんじゃないか!

よし! 言うぞ、言うぞ!!


「あの! 早川さん……少しいいですか?」

「はい! なんですか?!」

彼女はそう言うと少しこわばり、また身構えた。その様子により自身に緊張が走った。


「あっ、あの、あの、あの! えっと……」


勇気がでない。言葉が滑り出しそうだ。でも、言わなきゃ!


葛藤し数秒が過ぎた。


すると、またあの香りが……ふと上を見ると金木犀が咲いている。


「私、金木犀好きなんです。だから、たまに金木犀の香水をつけちゃうんですよね 」

「いいですよね、金木犀。僕も最近のこの花を知ったんです。すごくいい匂いですよね 」



この匂いがすると、あの月が綺麗な夜、君と歩いた帰り道を思い出す。

なぜか頭の中でスローモーションで再放送される。君の髪が風に揺れている。

もう一度、もう一度揺らしてくれ。


「あっ、ごめんなさい。佐藤さん、何か言おうとしてたのに……」

「あっ、あぁ、それはね……」


僕は悩んだが、彼女の金木犀を見ている横顔に見とれる。そして、決断した。



「いや、うん! 早川さんが好きなゲーム。やってみたいなって思って、おすすめ教えてくれる?」

「えぇ、はっ、はい! もちろんですよ! 普及、大歓迎です!」


そこから、気持ちは軽くなり話は盛り上り……すごく楽しかった!




そう、たぶん、違ったのかなぁ。付き合うとか、そういうのも大切だけど、今は彼女と楽しく話して……彼女を知っていきたい。

まずは彼女の笑顔が沢山みたいんだ! 焦る必要はまだないんだよね。



ね! 小野寺さん! 大人は言いたい時に言いたい事を言うんですよね!


だから僕はそうしようと想います。彼女との距離がゼロに近づく…………その日に。


読んで誠にありがとうございます!


楽しんで頂けたとしたら幸いです。


今回は小野寺さんは回想みたいな所でしか登場しません。

服に関しても出ないので、ただの青春モノのと思われそうです^@


また、次回も読んで行けたら幸いです。

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