16A 君と僕のしるし #1
今回も読んで頂き誠にありがとうございます!
もちろん、前回の視点だった人がわかります!
そして、『ヒロちゃん』とは誰の事か……
今回はファッションの話しは特には無いですが楽しんで頂ければ幸いです。
16A-1 MR myself & Oh Miss yourself
「プレイボール!!」
東京の北区のチェーンの大衆居酒屋で男の声が響く。
「ばか! やめろよ! はずかしい!!」
「いや、だって久々に俺達会ったんだぜ! いいじゃん、少しくらいはしゃいでも。居酒屋だし 」
「俺達、いい年した大人だからこそ! 楽しいのはいいけど、それなりの振る舞いをな! やらなきゃ、ならないんだよ!」
俺は隣ではしゃぐ地元埼玉の友人、亀田を宥めた。
「まぁまぁ、地元の英雄に久々に会えて嬉しいんだよ。わかってやれ 」
横にいる、鶴見が呆れて話しかける。
「でも、おまえ変わったよな。どっちかって言うと……おまえの方が亀田より、ノリが良くて五月蝿かったのに……大人になったんだなぁ……鈴木!」
そう嬉しそうに鶴見は、俺の肩に手を乗せた。
「まぁ、否が応でもなるだろ……」
俺は店内を見回し、溜め息をつく。
「というか……大人だったら、もうちょっと静かな居酒屋選ぶだろ 」
亀田は指を立て、振る。
「ちっちっち……甘いなぁ、今回の合コンの相手は20代前半だぞ。それもナースだ! 変に静かな所で高級そうだと引くだろ。盛り上げて盛り上げて~お互いの砕けた所をみる。そして最後は乱れる 」
亀田は急に表情を艶かしく、頬に手をつけた。
「亀田さんって~大人っぽいけど~なんか少年ぽくて好き~……みたいな!」
それを見て馬鹿馬鹿しく、キモかった。俺はついつい呆れてしまう。
「いや、少年ぽいって……いいのか? 俺達いい大人だぞ。 呆れるだろ……」
そう言うと、目の前のアホは意気揚々とする。
「お前は、女とナースを分かってないな! 彼女達は母性をもて甘し、それゆえに溢れてるんだぞ! そして……あわよくば持ち帰るぞ! それが今回の俺の目的、ミッションだ!」
亀田は拳に力を入れ、熱く語る。
「安心しろ! 今回はおまえが好きそうな、可愛い系の女の子もいるぞ。それもおまえに興味が深々だ。おまえが我が高校のすごいエースで、甲子園に言ったことも説明してある 」
「はいはい。感謝しますよ。まぁ、女の子の前では、さりげなく頑張って盛り上げるから 」
取り敢えずめんどくさいので、軽く流した。
亀田はふと思い出した様に話題を変える。
「そう言えば、おまえ……学生時代ずっと幼馴染みだった久遠さんとはどうなったんだ? なんかいい感じだったし……」
「ばっ、おまっ!」
鶴見が気まずそうにツッコミ、亀田を立たせ、トイレに連れていった。どうやら事情を説明した様で戻ってきた。
「おう、二人でのトイレはどうだった? 気持ち良かったか?」
そう皮肉を言うと、亀田は申し訳なさそうにした。
「ごめんな、知らなかったから……」
「いいんだよ、過去の事だから……まぁ、それより合コンを楽しもうぜ!」
ンーンーン
スマホバイブが鳴り、それぞれが確認をする。
「あっごめん、俺だ……」
亀田はスマホを確認した。
「女の子達! 今、店の前にいまーす!! だから呼んでくるわ~」
そうして女の子たちを呼んで、鼻の下を伸ばして戻ってきた。
たしかに可愛い女の子達が並ぶ。
「あぁ、こいつが言ってた鈴木だよ。我が校の名ピッチャーで甲子園にも出た……うちの学校のヒーローだ!」
彼女たちは、きゃっきゃっと笑い、盛り上がっている。
「すごい!!」やら「えっ、腕さわりたい」とか、「サングラスはNBC意識してるんですか?」等々……若い女の子が、盛り上がってるのを見てると心が和む。
1人の女の子が咄嗟に、先に俺の手を握る。
亀田が厭らしい顔で近づき俺の耳元で囁いた。
「この子がおまえにスゴく興味がある子だよ~ほら、さっき言ってた」
たったしかに、小さくて可愛いし、スタイルがいい……
俺は唾を飲み舞い上がる。ついつい上から下まで見てしまう。
そんなだらしない俺を見て、彼女は悪戯に微笑む。
「わたし~江原 楓っていいます~」
彼女の甘ったるいしゃべり方で聞き逃しそうになった。『カエデ』と言う名前。
「えっ……」
俺はあんぐりとしてから、俺は我に戻った。
「それじゃ、今日で会えた事に感謝して~! かんぱーい!!」
亀田の号令で合コンが始まる。それからある程度は盛り上げたが……彼女と話す時は、少し気が気ではなかった。
合コンが終わり、江原さんが俺に近寄る。
「あの、このあと~良かったらもう一件、二人だけで……」
そして耳元でまで寄り、彼女の息が掛かる。
「行きませんか?」
そう囁いた。その積極的な姿勢に俺の身体は反応して咄嗟に距離をとった。見ると彼女は火照ってるようで目が潤んでいる。
彼女にとても……いや、俺にとって望ましい提案を出された。だが……
「申し訳ない……明日、仕事で朝早いので……とても今日の飲み、楽しかったっす!」
頭に手を回し、笑顔で軽くお辞儀した。そしてそそくさと俺は帰る。
そりゃ、もちろん好みの子だし……ほぼ、誘われてるの確定演出だが……ちょっとなぁ……くそぉ~
俺は惜しい事をしたと思い、下を向き溜め息をつく。こういう時の残念な愚痴(いい女にお誘いを頂いた自慢)を奴に言いたい。
LINEから奴を探しだし、電話をかける。
「もしもし、オレオレ!」
『あの、オレオレさんと言う、お方とは知り合いでは無いんですが……』
「ちげーよ! 」
『あっ、ちなみにそういう詐欺には引っ掛からないですからね 』
「んぁあ! LINE電話だから誰かちゃんと、わかるだろ!」
『いや、なんかめんどくさい事を愚痴られそうな気がして』
そう言い当てられて少しどぎまぎした。流石は付き合い長いだけある……
「ちっ、ちげーよ! あれだ! 今から一緒に飲みたいなぁ! って思って……」
『えぇ、今、21時20分ですよ。明日、仕事だし……』
「俺もだよ! というかお前のほうが少し出勤遅いじゃん。……なぁ、田中~…… 今、何処いんの?」
『今、新宿で彼女と映画を観終わって現地解散した帰りです 』
「えっ、今、映画見終わって現地解散って……変わってんな 」
『どうしても今日みたい映画館だったんです。それと向こうも明日、仕事なんですよ』
「んじゃ、いいじゃん! 今から新宿行くし、一杯だけ! っなぁ! 一杯だけ! 奢るからさ!!」
電話の向こう側で少し沈黙が流れる。
『はぁー……わかりました。 一杯だけですからね 』
「よーし!! すぐ向かうから待ってろよ! 待ってろよ! 絶対、帰るなよ!!」
『えっそれ、振りですか?』
「振りじゃねーよ!」
『という名の振り?』
「だーから、もう、行くからなぁ!」
俺は電話を切り、新宿に向かい、今日の俺の少し残念な合コン話を静かなバーで田中に愚痴った。今は地元の同級生の奴より、現在、一緒に働いているコイツのほうが話しやすい。
いつからだろ……地元の友達と話すのが苦手になっていったのは……
そんな疑問を田中と別れた後、軽く抱えながら家に着く。 酔いに任せベッドで倒れ目を瞑る。
「あーぁ、いい女だったのになぁ……いい女と付き合いて……」
そう溢し意識が薄くなっていく……
ウーーーーーーーーー!!
『プレイボール!!』
『ぃよぉーーーし!!!!』
サイレンが響き、試合が始まり、男達の怒号のような気合いを入れた叫びが球場を駆け抜ける。
地獄のような茹だる暑さ。身体は痛いのに、目の前の戦いに挑む者たち。汗なんて、止まらないし気持ち悪いはずだが忘れる。
精神と息は、ずっとあがりぱなし……苦しい……逃げたい。
だが、俺は天才でエースなんだ。みんなが俺に期待の眼差しを向ける。一年から登板し、二年の今は主に俺がピッチャーとしてチームを引っ張る。
最高の球速は155キロ。球種はカーブとシンカーとチェンジアップ。
きっと……久遠も……俺の事を見守っている。もし、この試合で勝ったら、球場の真ん中で愛を叫ぶ。
そう決めて試合は延長に延長が続き14回の裏……これを守りきれば、まだチャンスがある……
朦朧とする意識だが……ここで決める。そして……今までで最高の球を投げて、歴史に名を残す……
俺はふらつく身体に、今できる最高の力を込め、球を投げた。
ぽとっ……
白球はコロコロと目の前で転がった。
えっ、何で、落ちてるんだ? と考えたのは束の間……俺は自然と口があんぐりと開く。
「ん#&!*?:;_^゛゜+ΣΘd‰㎝$?!!!!」
言葉にならない声を出し、ようやく……
「ぅぅぅうっ、いた……痛い痛ぁい!」
とあげていく……
ものすごい熱と激しい痛みが俺の最強の右肩を襲う……俺はマウンドに座り込み、踞る……
マウンドにはヒーローと言う名の金メッキが剥がれた、涙と涎と冷や汗を垂れ溢した情けない男が崩れ落ち、意識を無くした……
そっからは簡単だ。試合には負け、医者に行くと事実上、野球を引退を言い渡される。腕は日常ほどには治ったが……もちろん、野球部に居場所がなく俺は部活を辞めて、荒れそうになる。友人……気を遣い、俺の馬鹿に合わす奴しか残らなかった。
なんで、俺なんですか……俺、勉強とかできないっすよ……天才に見合う努力はしたし、真面目に努めたのに……なんでなんでですか……神様ぁぁ!!
帰宅時、自転車を走らしている。急な下りにさしあたり、ふと頭に過る。
『このスピードで頭を打ち付けたら楽になれるかなぁ……』
俺はそんな甘い考えで咄嗟にハンドルを離し、バランスを崩し地面に頭を打ち付け、それからスピードが収まるまで、地面に頭を擦り付けた。今回は思いの外、早めに痛みが来た。もちろん全身痛いし、自転車も変形してしまってる。
頭から血が流れるが、あの時の痛みよりは痛くない……と思い、とぼとぼ変形した自転車を引きずりながら帰ろうとする。
途中で限界がきたようで、コンビニの横側で座り込む。頭は熱を帯び、血が止まらない。ドクドク鳴って痛い……あぁ、どうなっちゃうのかなぁ……
俺は山折りにしている両足に情けない顔を埋める。
なに……やってんだろ……俺……
そうやって自己嫌悪に陥っていると、耳元で雑音が響く。
「……もう、あんた!! なにやってんの?!!」
必死な知っている女の声が聞こえる。俺がゆっくり顔をあげると、久遠が焦っていた。
「ちょっと、やっちゃった……」
苦笑いで誤魔化そうと思った。
「おじさんとおばさんに連絡したの?」
「いや、最近上手くいってないから……親父に怒られるの恐いし……」
「はぁ!! 」
久遠は半ギレ気味で返し、溜め息をついた後、携帯電話で久遠の親御さんに電話をしたようだ。
数分後に、大きめのワゴンが来て、俺の自転車と俺を乗せて病院と自転車屋を手配してくれた。
その後、久遠の親御さんがうちの親にある程度説明と宥めてくれたお陰で、軽く怒られる程度で済んだ。その後久遠の家にも、直接お礼をしたりした。
その事件の後、久遠と二人で夏休み出かける事になり、その時の帰り家近くの公園の前を通った時。
「あんた? この先どうすんの?」
「わかんね……やりたい事無いし……勉強も出来ないし……」
久遠は勇気を振り絞る様に唇をぎゅっとした。そして大きく口を開く。
「私はね、ファッションの専門学校に行くの。ずっと憧れてたから……」
「へぇ……なんか、かっこいいなぁ 」
「あんたさぁ……これからやること無いんだったらさ……ファッションとかどう?」
「えっ?」
「あんた、ちょっと見た目厳ついけど、身長は、まぁまぁあるし……あんたに似合うお洒落してみるのは、どうかなぁって思って……それを皮切りに……私とファッションの専門学校行かない? まぁ、あんたがファッションに興味が持てばだけどね 」
久遠は俺の顔を見ずに言った。ただ、その顔は赤くなっているのがわかる。俺は久遠のその言葉で、ファッションに興味を持った。
そして、俺達は……同じ専門学校に行き……
『……さ~て! 今日の星座占いは~』
タイマーにしてるテレビが点く。音が流れ、俺はベッドから起き上がる。
「あぁ、時間だ……」
俺はカーテンを開け、空を見る。
「うわぁ……10月だってのにまだ暑そう……残暑が厳しいざんしょ、ってなぁ。そんな事より綺麗な青空だ。空が広がってるようだ。気持ちいい!」
俺は身体を伸ばした。力を抜き、息を漏らし……ふとっ
「あいつ……元気かなぁ……」
と言葉が溢れた。
仕事場に出勤し、シフトを確認。通常業務の外、休憩回しや仕事の割り振り……雑務やデスクワーク……
はぁーっ……こう見えても副店長ってやること多いんですよ……
朝イチで確認して、店をオープンする。お客さんは普通に入ってきて、そして常連の少年くんと一条くんもやってきた。店長千里香ちゃんは通常運転でチョロチョロし、田中はもいつも通り。
俺のいつもの日常……
ウィーンっと自動ドアが開く。
コロコロ、コロコロ。
店内に低い車輪の音が聴こえる。
お客さんがトロリーバッグ持ってきたんだろ。俺は気にせず、試着室にハンディクリーナーをかけていた。
「ヒロちゃん!」
そう声が聞こえ、俺は振り返る。
ガバッ!
清楚系ギャル風な女の子が、俺に飛び付いてきた。
俺は彼女の顔を見て、驚いたが嬉しくなる。
「えっ、カエルちゃん?!」
彼女も嬉しそうな顔をして頷いた。
パシャ!
スマホのシャッター音が聞こえ、其方を振り向くと……店長がスマホで写真をとり、侮蔑にこちらを見て、少年くんは口に手を当てアワアワし、一条くんはスマホでどこかに電話しようとしていた。
「鈴木~私はね……理解ある方だと思う……でも、あのなぁ……仕事中にそういう店を利用しゃちゃいかんだろ……」
「鈴木さんが……高校生くらいの女の子に手を出してる……」
「すいません、警察ですか? 援助交際の現場が目の前で行われていて、高校生くらいの女の子を……」
「違う違う!! この子はそのえっと……」
知り合いに白い目で見られ、テンパる俺。この状態では上手く説明できる自信がない。それにコイツらを信用させるのには、他者からの説明が……田中が通り過ぎようとしてたので呼び止める。
「田中! 頼む!! 説明をしてくれないか?」
田中は立ち止まり、当たり前のように説明をする。
「えっと、この子と鈴木さんは……ただならぬ関係です!」
もちろんフォローになってない言動に場は凍りつく。
「おまえ、サイテーだなぁ 」
「鈴木さん、そういう事はダメだと思います!」
「警察ですか? 確定しました。捕まえてください 」
「田中! ふざけんな!! 待て待て、待ってくれ! ちゃんと説明させてくれ……」
店長は腕を組み、片目を閉じ開いた目でこちらを見る。
「んじゃ、どういう関係性なんだ 」
「いや、実は……その、えっと……」
「やっぱり、警察に通報するか!」
「待って! この子は俺の子供なんだ!!」
『はぁ!!』
三人は揃って声をあげた。
「嘘をつくな! こんなキュートで美人な子が!」
「全然似てないですよ! 鈴木さんと違って、ふてぶてしく無くなさそうですし!」
「虚偽罪も追加で!」
「いやいや! 元嫁に似たんだよ!」
そんなわちゃわちゃしてる所に静かにカエルちゃんは頭を下げる
「久遠 楓です! ヒロちゃんがいつもお世話になっています 」
礼儀正しく頭を下げた。
三人は聞いてポカンとしている。すると、少年くんが率先して興味をもって近づいた。
「えっ、どういう事ですか? だって……鈴木さん……えっと、年齢は……?」
「31歳 」
「えっ、25、6歳だとてっきり……だって、千里香さん容赦ないし……」
「それは、この鈴木おじさんと、私が同じ年くらいに見えると言うことか?」
店長は笑顔で怒っていた。少年くんは話をすり替える様に手を振る。
「いやいや、だって……その子!」
それから少年くんはカエルちゃんに手を向けた。
「僕と同い年くらいでしょ? それに久遠って……」
「久遠は元嫁さんの名字で、カエルちゃんは11歳、小学6年生だよ。大人っぽいし、しっかりしてるから、心配になる時はあるけど……」
そう言うと、俺の発言が真実味があり三人の衝撃が止まらない。
「というか、千里香ちゃん! あんたには専門時代に一回と、最近に子供の画像見せただろ?」
店長は思い出したかのように、はっとした。
「いや、見たが……えっ、こんな大人っぽい子だと思わなくて……」
カエルちゃんがニコニコして此方に近寄る。
「遅くなっちゃったけど、ヒロちゃんが店長になったって聞いたし、嬉しくて来ちゃった!」
『!!?』
三人は驚いて声が出ず、それから店長が此方を睨む。
それを見かねた田中がカエルちゃんの肩に手を乗せた。
「カエデちゃんは俺が面倒見とくから、三人に説明したら……」
「あぁ、すまねぇ 」
田中は、カエルちゃんを連れて休憩室に向かった。
「えっと、鈴木。これはどういう事なんだ?」
「僕もスゴく気になる事がちらほらあるのですが……」
「ウンウン 」
三人はそれぞれ、圧力、不安、期待を俺にかける。
「えぇーと……まず、なんとなく少年くんの疑問から解決した方がいいかなぁ……」
彼は不安な顔から、嬉しそうな顔になり挙手をした。
「はい! えっと、まず……カエデちゃん? カエルちゃん?どっちなんですか?」
「あぁ、そんなことね。あの子の名前はカエデなんだが、ちっちゃい時に……カエデの『デ』がうまいこと発音出来なく、ついつい『カエル』って言っちゃってたんだ。その姿が可愛くてね。愛称で今もカエルちゃんって、俺は呼んでいるんだよ。あと、近所でカエデが俺に、おんぶをせがんでね。そのおんぶの姿が近所の奥さん方から『カエルの親子みたいですね。微笑ましい』って言われて俺の中で定着したんだ 」
「なるほど……次にカエデちゃんとは関係ないんですが……」
「はぁ、んじゃ何?」
「いや、なんか最近というか……ちらほら、鈴木さんが千里香さんの呼び方が……たまにフランクというか、学生時代? 専門学校時代とか……」
「あぁ、それね。実はこの人……専門学校時代のゲスト講師なんだ……久々にあった時はこの人、俺の事なんか忘れてたけど……」
「えぇ!!」
少年達は理解できないようだ。
「えっ、でも、千里香さんが今26歳で……鈴木さんが31歳……専門学校の時だと……」
千里香ちゃんは自信満々に答える。
「私は10歳の時くらいから師匠に弟子入りして、デザイナーとして天才と言われ、名をあげていったんだよ。14、5歳の時に、師匠のオーダーで師匠の代わりに日本の専門学校の生徒に数ヶ月指導してこい! って言われてな。人に教える事は教わる事だって師匠が言ってたよ。それで兄貴が一応お守りでついてきて……日本の専門学校に一年に一ヶ月とちょっとほど来日して……それを二年やったんだ。その時に教えたクラスの、委員長みたいな生徒がコイツと、コイツの奥さん 」
「あの当時の千里香ちゃんは恐かったなぁ……氷の女王みたいで、冷たいし。教える時はイライラしてるっぽいし……だから……架純と 」
「架純さん?」
「あぁ、俺の元嫁であの子の母親。……でっ、この人に専門学校の館内を案内したり、授業後に日本を案内したり……と……懐かしい……千里香ちゃん当時身長が153センチくらいで、こども先生って呼ばれてたんだよなぁ 」
「それ、初耳なんだが」
不服そうに店長に見られたので
「いや、かわいい! って意味を込めてですからね!……んで、もうこの際、軽く自分語りするな 」
俺は少し息を吸い、何処から始めたモノかと考えながら、思い付いた瞬間にゆっくりと息を吐く。
「えっと、まず、簡単にいえば千里香ちゃんが一回目帰国した辺りに、架純の妊娠が発覚して、お互いの親に反対されてな……俺は必死に親達を説得して、うちの親を先に説得する事ができたんだが……まぁ、半分呆れ気味で。その後、架純の母親は何とか納得してもらって……最後にあの子が生まれたときに、親父さんもどうやら認めざる得なくなってな。その半ば学校をどうするか……辞めるか辞めないか……って問題になった。架純の方は、親がちゃんとしてて、続けさせる事ができて。俺の方は親が俺のためにしてた残りの少額の貯金と……後は学校と課題の時間以外はバイトしてた感じだったなぁ。それと各家族の協力のおかげで学生時代はカエルちゃんを育てる事ができたんだ。それで進路で架純はファッション企画アドバイザーとして、大手企業に……俺は自分で言うのはあれなんだが…… 『テキスタルデザイナー』として進む予定だったんだ……」
少年くんは不思議そうに少し顔を上げた。
「テキスタルデザイナー?」
そこで千里香ちゃんが代わりに落ち着いたトーンで答える。
「『テキスタルデザイナー』とは、洋服のデザインではなく、洋服の元となる生地の色などをデザインする仕事だよ。デザインする生地は洋服だけでなく、ネクタイやカーテン、ハンカチなど非常に幅広い。生地の色や柄を決めるだけではなく、素材選び、織り方、染め方などの細かな設定も行い、工場への発注までを担当する仕事だ 」
「えぇ!! 鈴木さんってスゴイ方だったんですね!!! 」
彼は嬉しそう羨望の眼差しを向けた。
俺はその期待に満ちた目に恥ずかしくなるが、先の分かりきった答えに顔を曇らせた。
「いや、そこから……あれだよ。進路が決まり掛かってた時……急に細かい色の違いがわからなく……見えなくなったんだよ……それも、その色が少し違う色合いに見える……」
「えっ 」
少年くんはさっきまでとは変わり、罰の悪そうな顔をする。
俺はまた、溜め息を溢した後、
「当時、だいぶ無理してたからな……学費に、援助はあったが、あいつらのとの生活費のために……学校の課題に…………医者に行ったら、原因は不明……ストレス性のものかもと……俺は『またも夢を奪われたんだ』……でも、架純が支えてくれてな。『あんたが、無理な分はアタシが支えるから!』って。 まぁ、現に忙しい給料の良い企業に就職したし……それと、色が判らなくなった俺に……アイツが……」
俺は自身のメガネを軽くかけ上げる。
「この色つきグラスの度ありメガネをプレゼントしてくれたんだ。『これなら世界は少し同じように見えるよ』って……まぁ、もちろん気休め程度だが。それでもスゴく嬉しかったよ。そこから俺は、とりあえず専業主夫として生活を始めたんだ。でも、俺は専業主夫としてはポンコツで……結局半分は架純が背負うようになって……そして、気が付くべきだったんだよな……気が付かないうちにアイツのストレスがドンドン膨れ上がっていってた事を」
俺はメガネを外し、眉間をつまむ。
「んで、カエルちゃんが幼稚園の時……カエルちゃんの為に服を買いに行ったんだ……カエルちゃんが自分で探すって言ってな、俺は店の椅子に座ってたら軽く寝ちまって……そこも親としては失格だが……まぁ、その時メガネがズレてな。それからカエルちゃんに起こされて……カエルちゃんが選んだ服を見せてくれたんだ……するとそのワンピースの色がちゃんと、わかったんだよ。鮮やかな黄緑色のワンピース……綺麗だったな……何が起きたかわからなく混乱してたんだが、俺は嬉しくてワンピースを買って急いで家に帰り架純に伝えたんだ。後日、病院に行くと『奇跡だが、また前の現象に戻るかもしれません』って言われたけど……俺はまた、ファッションの仕事に戻りたいと思って探したんだ。すると丁度、架純が企業を辞めて、フリーの企画アドバイザーとしてやる事になって……それだったら尚更、共働きで言ったら……『アンタには今さらファッションの仕事は無理よ』って言われて、それを皮切りに……日に日にケンカが激しくなっていって……架純が自分の親に相談して、結局離婚になっちまったんだ……俺がアイツの仕事に関しての悩みや人間性関係を支えたり聞いてやれば違ったのかなぁ……って 」
自身の顔が下がっていくのに気付く。俺は目の前の三人を心配させない様に斜め上を見た。
「俺は結局、自分かカエルちゃんの事ばっかりになってたから……ホントに酷い旦那だよ。そこから親権も取られて、俺1人になっちまったんだ。それから、仕事は当時の専門学校時代の友達のツテで今のニュートレジャーアイランドの副店長として、仕事を始めたんだ。そこから、せめてでも……償いと繋がりが欲しくてな。架純とカエルちゃんに少ないが慰謝料を払ってるんだよ。まぁ、最初は断れてたけど、言い続けてたら受け取ってくれるようになって……向こうの親には多少許して貰えるようになったんだ 」
語るうちに今までの自分の愚行が改めて惨めで、俺はついつい笑ってしまった。
「まぁ! その後架純とは、いわば海外ドラマの離婚したフレンドリーな夫婦くらいには戻った。それであの子とは一年に何回かは会わしてくれて。それから、ここの店のリニューアルをタイミングにまさかの千里香ちゃんと再会したって感じだなぁ。久々に会ったら、また、雰囲気が変わっていたから、ビックリだったけど 」
語り終わった後、疲れて大きく息を吐いた。そして、三人を見ると……千里香ちゃんは右手で目を覆い、少年くんは目をうるうるさせ、一条くんはハンカチで顔を覆い上を向いている。
「あの、お三方? もう過去の事なので……俺はそんなに気にしてませんよ……」
「うるさい! 鈴木のクセにそんな辛い過去を持ちやがって……lock作品かよ、閉っ子かよ……」
「ち、千里香さん……すん、lock作品知ってたんですね……すんすん」
「お二人とも、作品は良いとして、人の人生を例えるとかは鈴木さんに失礼ですよ 」
三人は涙声で話す。
よかった……これで野球を挫折した事なんて言ってたら、三人のメンタルが持たなかっただろう……
三人はある程度落ち着いてから、少年くんが不思議そうな顔をした。
「えっと、田中さんは鈴木さんの件を詳しく知ってるんですか?」
「あぁ、アイツとは入社時から他の店いた時から知り合いでな。こっちにも一緒に移ってきて、飲みに言った時に愚痴ってるんだよ。それで、何回かカエルちゃんが店に顔を出した時に軽く子守りしてくれたりとか、二年前くらいからスマホゲーム繋がりで友達らしいし、LINEも繋がってるそうだから 」
「なっ、なるほど 」
次に一条くんも気になったみたいで俺に近づく。
「なんで、『ヒロちゃん』って呼ばれてるんですか? パパとか、お父さんじゃなく?」
「あぁ、まず俺の下の名前が『尋史』なんだ。離婚してから会うようになった時に、父親面も恥ずかしくてな……それと、あの子が俺の事を呼びづらそうにしてたから、二人でご飯食べてる時にな……『俺とおまえは固い絆で結ばれている。だから、親子だと思わずに気軽に1人の友達くらいだと思ってくれていい……だから、これからはヒロちゃんと呼べ。俺はこれからもカエルちゃんって呼ぶぞ~。これは2人だけの特別な大切な約束だ。』って言ったら、あの子嬉しそうに、『うん!』って言ってくれて……そんな感じ 」
「へぇ~」
一条くんは感心したように納得をした。それから千里香ちゃんが怪訝そうにこちらを見る。
「あと……こんな時に言うのもアレなんだが……ヒロちゃんは、いつから店長になったのかなぁ~?」
千里香ちゃんは苦笑いをしながら言う。彼女の目は納得していない。俺の目はついつい泳いでしまう。
「いや、実はですね……四月に店長辞めるって流れになってたじゃないですか……? その時は千里香ちゃん店長代理だったし。もしかしたら、俺が店長になれるかもしれないって思って……ついつい元嫁に連絡しちゃったんですよ。んで、その後六月にも荻野目くんとの賭け事で、荻野目くんに投票率集まりそうだし、俺も荻野目くんに投票しようと思ったから……だから、これで店長になれるってまた連絡して……」
「ほう、それで、引っ込みがつかずに店長になったんだなぁ。鈴木ひろちゃん店長?」
彼女は静かな圧を俺にかける。
「いやあの、悪いとは思ったんですけど……まさかねっ、カエルちゃんが急に来るとは思わなかったから……」
俺はしどろもどろになりながら、自然と彼女の前に跪き、そして土下座をした。
「どうか! 俺をカエルちゃんのいる間、店長として、扱ってください!!」
『!!!』
三人は絶句していた。そりゃそうだ。いい大人が土下座するなんて、ないからな。某銀行員ドラマはこんな感じなのか……
もし、これが効かなかったら、土下寝しかない……
「わかったよ……」
俺は優しいその声に顔を上げる。
「あの子がいる間は、鈴木店長だ 」
そう千里香ちゃんが言ってくれ、俺は信じられず……ついつい信じられなくなる。
「えっ、いいんですか?」
「あぁ、こうなったら乗りかかった船だ。魔女に、二言はない!」
彼女は仁王立ちで目をカッ開き、堂々と答えてくれた。
だが彼女は自身の顎に手を添えて……
「でも、大丈夫かなぁ……? 」
どういう意味かわからず、俺達は千里香ちゃんを見る。
「だって……ある程度の常連さん達は私を店長だと知ってるから、今さらお前を店長と言えないんじゃないのかなぁ?」
「あぁ、それなら大丈夫ですよ。なんか、俺も店長だと思われてるみたいなんで……」
「はぁ!!」
「いや、千里香ちゃん自由だから、ある程度のお客さん達はこの店に店長二人いる店だと思ってたり、まったく知らない人には……俺が店長だと勘違いされてるみたいで……」
「まぁ、確かに……千里香さんは自由すぎるから……」
一条くんが冷静に言い、ウンウンと少年くんも納得している。
「ふざける! 私が店長だぞ!」
「落ち着いてください千里香さん!! 」
千里香ちゃんは膨れっ面でプンプンして腕を振り、二人が宥める。
「すんません……めんどくさい事になって……」
俺は申し訳なさでシュンとしてしまう。
「まぁ、あの子には罪は無いし、可愛い綺麗な女の子の夢を守るのも魔女の仕事だからなぁ……」
彼女はふてくしながら腕を組み、此方をチラッとみる。ある程度、話が済んだのを悟ったかのように田中が顔を出しにきた。
「話、無事済みましたか?」
「一応承諾を経て、何とか 」
「了解! 」
田中は安心してドアを開ける。
「カエデちゃん! どうぞ~」
呼び掛けられ、カエルちゃんは嬉しそうに出てきた。
「ヒロちゃん! お仕事忙しい?」
「うん、まぁ今から仕入れた真冬物のモノを出してこないといけないし~ 」
「そっかー!!」
ほのぼのと親子の会話をしていると急に……
「ゴッホン!」
咳払い聴こえ田中を見ると、顎で千里香ちゃんをさす。
「あっ、んじゃ……千里香ちゃんに……真冬モノのコートが入ってる段ボールを出してきて貰おうかなぁ……」
「えっ、私が!!!」
少年達と田中に見られ、千里香ちゃんは渋々……
「わっ、わかりました!……てっ、店長……」
彼女は複雑な表情を浮かべる。そして、何か閃いたらしくニヤッと笑った。
「店長、そういえば上のショーウインドのマネキンとメンズの前のマネキンもレイアウト変えた方がいいんじゃないですか?……たとえば、田中に頼むとか?」
今度は千里香ちゃんが田中をじーっと見る。
「そうだな。んじゃ、田中にお願いしようかなぁ~」
「でも、それって、す……」
今度は田中が俺の名前を言おうとした。だがカエルちゃんの手前喉まで出た言葉を引っ込めた。
「わかりました。やります 」
千里香ちゃんと田中は唸りながら睨み合う。俺は申し訳ないと思いつつ苦笑いが出てしまう。
「お願いするね……二人とも……」
「はーい」「はーい」
二人の納得くしていない声が不協和音の様に流れ、一緒のタイミングでプイッと別れる。
そこから店長として働いて数時間後、千里香ちゃんが近寄って来る。
「そう言えば、今日急遽、高橋も出れるらしいから……店長は半休で、カエデくんとデートでもしてこればいいじゃないか?」
「えっ、いいの?」
「たまにはな。まぁ、今日だけだけど」
俺は彼女の気遣いに嬉しくなる。
「ありがとうございます! てん……」
カエルちゃんが振り向き、不思議そうな顔で見たので、誤魔化すように
「あっ、ありがとう。千里香ちゃん」
と焦りながら答えた。
少年達は興味あり気に近づいてきた。
「えっ、高橋さんって……あの、たまにいる……顔が白く細長そうな、ホント普通ぽい感じの人ですか?」
「あぁ、そうそう。アイツ……影薄いからな……」
「まぁ、たまに見ますけど……ここにいるスタッフがキャラクター濃すぎるんでは……?」
「いや、アイツもなかなか……というか俺自身はわりと普通だと思うけど……」
少年達は目を合わせ、苦笑いをした。
それから俺はある程度仕事をやってから、お言葉に甘えて半休で帰る事にした。その間、少年達がカエルちゃんと愉しそうに相手をしてくれた。
「身長何センチ?」
「私は166センチ!」
「えっ……僕より高い……」
一条くんにしては珍しくショックを受けたり、最近の小学生の流行りは何なの? とか、スマホゲームを一緒にやってくれたりとか面倒見てくれたりした。
仕事が終わり、それから一緒に駅近くのデパートや、喫茶店等を周った。久々の子供との休みが楽しく大人ながら盛り上がる。
周ってる最中に、ある意味一番気になった事を聞く。
「そう言えば、今日来てる事って架純は知ってるんだよね。」
「うん、ママも承諾してるから安心して~」
「アイツ怒ると恐いからな……」
「そだね~」
等、最近の様子の話をしたりした。そんな楽しい今日はすぐ終わり、夕方になりカエルちゃんを駅まで見送る。
「ヒロちゃん! 今日はありがとう!」
「いえいえ、どういたしまして 」
俺達はお互い名残惜しく、つたない会話を繋げてしまう。だがカエルちゃんが思いきったよう口を開いた。
「ヒロちゃん! お仕事お休みの日を教えて!!」
「えっ、でも……それも……アイツは承諾してるの?」
「うん! もちろん!!」
俺は嬉しくなり、休みのスケジュールをカエルちゃんに伝えた。
「あとね……LINEも教えても良い?」
「えっ……でも、流石にそれは架純が……怒るんじゃ……」
そう言おうとした瞬間に前を向くと、見覚えのある高そうなダブルのブレザーとスーツパンツを着た女が目に入った。
「ママー!!」
カエルちゃんは架純に飛び付いた。
「よ! 久しぶり!」
架純は恥ずかしそうに手をあげる。俺はついつい視線を反らし、恥ずかしげに手をあげる。
「よぅ、元気か!」
「まぁね。あんたは?」
「まぁまぁ 」
英語の教科書にも載らないくらいな簡単な和訳のような会話をする。そして沈黙が流れたがせっかくのカエルちゃんとの連絡手段はできる様になりたい。
「あのさぁ。この子のLINEに俺を登録してもいいの?」
「あぁ、いいよ。どうせ、あんただから、変な吹き込みとかしないでしょ 」
「それは誉められてるのか?」
「いや 」
「なんだよ。それ……」
俺達はこの懐かしい雰囲気で、幸せを感じ、顔を合わせ笑いだした。
「今日の事、許可してくれてありがとう 」
「まぁ、この子のためだからね。あぁ……それから……実は!」
架純は何かを言いたげにしたがゆっくりと唇を閉じた。
「なんだよ 」
「あっ、うん……いや、最近私の仕事の方が忙しくて、この子が寂しいと思ったから。」
「あぁ、なるほどね。なら忙しいのに感謝しなきゃな 」
俺はカエルちゃんの柔らかい両頬に手を添え擦る。
「こんな可愛い子とデートできたんだからなぁ! よしよし!」
「やめてよ、もう、子供じゃないんだから」
「まだまだ子供だよ~。もし、大人だったら、大人らしいモノをプレゼントしなきゃなぁ~」
そんな甘々な親バカ感を元嫁が見ている。その目線でついつい何か言い返したくなった。
「なんだよ~、言いづらそうにしてたから……お前がてっきり、太ったのかと思ったわ~」
「なにそれ? 女性に対して失礼じゃない?」
「俺にとっては女性というより、今は家族だからな……まぁ、別れたけど!」
そう言ってから架純を見ると、驚いた顔をして目を逸らす。そして誤魔化すように笑う。
「あんたって……ホント、変わらないね 」
架純のその表情の意味はわからず、首をかしげついつい見てしまう。それから急に肩を叩かれる。その後、軽い会話をしてから二人と別れた。
帰り道、スマホを確認するとカエルちゃんからLINEが着てたようで、
『今日はありがとう! また、お休みの日、よろしくね! 』
それから、カエルのゆるキャラみたいなスタンプが流れた。俺は嬉しくてニヤニヤして歩く。横をすれ違う人が俺を見て変な顔や不気味そうにするが……
今日くらいは許してくれ、これから俺は幸せになれるかも知れないんだ。もしかしたら、家族に戻れるかもしれない……っと淡い期待を抱きながらゆっくりと歩く。
それから、俺の休みの日にはカエルちゃんと出かける。水族館や、遊園地。動物園にゲームセンターに買い物。まるで幸せのプレゼント箱を詰め合わせたかような日々が過ぎていく。
そんな日々が過ぎて、1ヶ月ちょっと経った。
「ヒロちゃん! バイバイ!」
「おう! またな!」
カエデちゃんと別れた後、スマホに電話がかかる。
「もしもし、俺だけど 」
「楓は?」
「あぁ、もう帰したよ 」
「そう。そっか、ちょうどいいかな……」
電話の向こうで、一息つくのが聞こえる。
「実はね。この前直接会った時に、言おうと思ったんだけど……」
その声色は真に入っていた。俺は小さく頷きながら会話を続ける。
11月に入り、帰り道は寒くなっていく。 俺は、早くも枯れた落ち葉を踏み鳴らし歩く。
今回も長いのに読んで頂き誠にありがとうございます。
今回、鈴木がメインとなりました。
この話は実は、『星になれたら』と同じくらい描きたいお話だっんです。
あと、もう一つ、スゴく描きたいのもあるのですが……それは、Sugar&Saltyの最後の方の話しになりそうです。
後は誰がカエルちゃんの親を誰にしようかとは悩んでいました。
最初は、佐藤くんのバイト先の店長にしようかと考えていたんですが……
『星になれたら』の時点で、幸せそうな家族構成だったので、やめました。
作品を描いてる途中に、鈴木がスゴくいいキャラになっていったので鈴木の人生を少し描きたいと書いていたら……
まぁまぉ、悲惨を詰め込みすぎました……
今後の展開を楽しんで頂ければ幸いです。
今回も読んで頂きありがとうございましたm(。_。)m!!




