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古着屋の小野寺さん  作者: 鎚谷ひろみ
sweet&salty
25/52

13 ごめんよJEWEL#2

今回も観ていただき誠にありがとうございます!


前回の続きです!


ようやく、デートです!

まぁ、デートの楽しいであろう所は、楽しいであろうと思うので、やはり、どちらかも言うとその楽しい部分ではなく、その前後の何気ない会話や内容、もしくは相手方の好き嫌いを忘れてたりって事、後々に響いてしまったりするんですよね……



まぁ、前置きはこんなもので、楽しんで頂ければ幸いです。

13-2 Pretty Wings





気がつけば、8月入り……そして、デート当日の……蝉時雨が響く朝。



僕は早めに目が開いた。いや実際は寝れなくて目がギンギンだった。


それは、小学生の遠足現象だろう。ワクワクが止まらない。仕方なく、余裕を持って支度をする。コーデは、今日はシンプルに……




UNIQLO エアリズム ネイビーのフルオープンポロシャツ。下は……この前お店で見かけたサムライヘアーの常連さんが履いていて、僕も取り入れたいと思った、スカイブルーのようなデニム……H&M HOPE のスキニーデニム。コイツは以外にスキニーのわりに肌にぴったりくつくタイプではない。良い感じにゆったり着れて余裕感がある。そして、裾をロールアップする。腕には、いつものG-SHOCK。あとは、玄関でVANSのオフホワイトのスニーカーを履くだけだ。



シンプルかつ、大人で激安のコーデだ!



僕はダイニングの姿見で確認をする。


うん、悪くはない! ふっふっふ、仕上げはコイツだ。



シュッ!



香水をまずは足元につける。そして、空にふり振りかけ、宙に舞う朝日に照らされてキラキラ光る霧を潜り抜ける。



そして、鼻から大きく息を吸い、

「よし、いい匂いだ!」

と意気揚々に玄関に向かう。





玄関で靴を履いていると、母と弟が見送りに来る。


「あら、かずちゃん。今日は早いな。最近、夏休みやからバイト以外はゴロゴロしてるのに~」

「あっ、そっかー! 今日はデートやったもんね!」

そんな意気揚々な僕の姿に、母と弟はニヤニヤしている。

「いや、デートっていうか、皆で遊びに行くだけやし!」

僕は照れ隠しで強めで言うと、二人はニヤニヤしている。


「帰りは……たぶん夕方くらい……もしくは少し遅くなると思うから!」

「まぁ、楽しんでおいで~」

そして、二人は小さく手を振りながら

『いってらっしゃーい!』

とユニゾンした。





駅まで歩く道中、ワクワクする。今日はデートだ。ドキドキが止まらない。もう、心臓が良い意味で苦しくなりそうだ。


蚤の心臓な僕……この嬉しい気持ちを放出しないと、幸せの心臓発作を起こしかねない。


僕はカバンに入れている、古いウォークマンを取り出した。そして電源をつけイヤホンを耳にかける。


こういう高揚したキモチを受け流しながらもプラスにするには……やっぱり、これだ。


『TRICERATOPS 』にしよう。最初は『Raspberry』だ。




駅に入り電車を待つ。



ジャーン、ジャーン。ジャジャジャ。ジャーン、ジャーン。ジャジャジャ……



耳の中に渋く、力強いギター音が鳴る。


ボーカルの和田唱の優しく甘いハスキーボイスが響く。トライセラはギターとベースとドラムの古いスリーピースバンド。渋くカッコいい、音作りもシンプルで力強いサウンド。和田唱の癖になるボーカルがたまらない。そして、サウンドがロックなのに歌詞が甘く、恋をしている時には持って来いだ。



まぁ、このバンドを好きになったきっかけは、兄ちゃんだったなぁ……



兄ちゃん……元気かなぁ……今では僕の方がロックバンドは詳しくなったけど……


兄の事を思い、センチメンタルになりながらも電車は前に進む。




一駅先に着き、特急に乗り換え新宿に進む。乗り換えてから二駅を通り越し、地下から地上に上がる瞬間、強く光が入ってきた。


眩しい、清々し程に眩しい。オタクには眩しすぎる日だ。


地下に上がり、速度が下がる。そして、電車は止まった。

左の窓に映るのは……『用水路と小川と小さな橋』


そういえば、新宿に向かう時たまに、ここで電車止まってるような……まぁ、間隔調整だと思うけど……



さて、次はどの曲にしようかなぁ……トライセラの『Pretty Wings』、『Silly Scandals 』、『Short Hair』……


どれにしようと考えながら、結局ハードテンポの『ROCK MUSIC』が流れ出し、そのまま曲は変えず電車はまた走り出した。






10時35分。JR新宿駅と交番前の柱で待ち合わせだ。11時に現地集合。なんか、スゴくデートぽいなぁ……どうやら、僕が一番乗りっぽいし……ソワソワする。みんな、ちゃんと着てくれるのかなぁ……着てくれなかったら泣いちゃう。


そんた僕は浅い息を整わせるため柱にもたれ掛かる。





「ふふふっ……」

不気味な笑い声が聞こえ、少し周りを見回す。


「遅いぞ! 佐藤くん!」


明らかに聞き覚えのある低い声。

「えっ、荻野目さん! どこにいるんですか?」

「ここだ!」


柱の後ろからパッと出てきた。彼には珍しくメガネを掛け、の目の下にはうっすら隈がみえる。


あんたも、小学生遠足症候群かい! っと心の中でつっこんだ。



僕は心でつっこんだ後、直ぐ様平常に戻る。

「あの……遅いって言われても僕、予定より早く着てますし……荻野目さんは何時にここに着たんですか?」


荻野目さんは腕を組みながら勝ち誇る。


「俺は10時25分だ!」

「いや、10分しか変わんないじゃん!」

「まぁ、勝ちは勝ちだ!」

「いや、なんも勝負してないですけど 」


僕は少しつっこみ疲れて肩を落とした後、今日の彼の服装を見て、ふとっ意外性を感じた。


「あれ、なんか珍しいですね……赤っぽい半袖は、まだしも、ベージュのカーゴっぽい半ズボンなんて……それに、メガネ? 」

「あぁ、上はオープンカラーシャツで『name.』というブランドだよ。ショートパンツは『Johnbull』というブランドだ。最近、ここのブランドは『ジョンブル プライベートラボ 』って名前にかわりデザイナーズブランドとして力を入れているんだ。岡山発のブランドで主にデニムやアメカジを主力なんだよ。ワークぽいデザイン性にもすばらしいんだ。まぁ、パンツは俺なりの挑戦だよ。それに俺の長い美脚を魅せれるしね 」


そのドヤ顔にツッコミを入れたかったが、抑えて流した。


「まぁ、学校はコンタクトなんだが……今日は休みだし、だから……メガネさ!!」


彼は眼鏡のフレームを持ち、上に掛け直す。


「良いだろう。鯖江メガネだよ。君!」




僕らはくだらないやりとりで、わちゃわちゃしていると……

「二人とも早いね。おはよう 」

と声が聞こえ、二人で振り向くと一条くんが右手を軽くあげて向かってきた。


荻野目さんは、一条くんの上から下までを見る。


「ほぉ、何か以外だね。確かに君は柄ものを着てるイメージがあるが今日はより……かわいい系の衣類だね。それに眼鏡……」

荻野目さんは顎に手を付けて見ている。


「あぁ、これは上下、SOU SOUのルコックスポルティフコラボで和モノかつスポーティーなヤツで。ちなみに眼鏡もSOUSOUだよ。眩しいUV加工つけてるから、夏に持って来い 」

一条くんは少しキメ顔で言った。



そう言われて、僕も荻野目さんの様にじっくりと見てから

「へぇ~ そのTシャツは黄色の丸のデザイン可愛いし、下の優しい緑色のカーゴっぽいパンツいいね 」

「このパンツはいわば、ジョパーズパンツっていうんだ。競馬とかでジョーキーが乗るときに履くパンツを元にデザインされていて。それにこれは生地が柔らかくて履き心地が良く。後ろの柄のデザインが数字で、これまた良いんだよ。それに自転車とか乗るときにもちょうど良い感じなんだよ 」

「ほぉー! 俺も自転車は乗るから興味は湧いたよ 」

「まぁ、あまり人前では着ないんだけど……今日は友人達と遊びに行くというわけだから、いいかなぁ~って 」


僕たち二人は『友人』というワードに嬉しくも照れ臭くなった。


荻野目さんは照れ隠しに、

「まぁ、まだ、知り合いだがなぁ 」

と言い、一条くんが軽く荻野目さんの肩をこずく。



そうこうしてると、

「皆さんすいません、お待たせしました!」

と声が聞こえ僕たち三人は、一斉に振り向く。





薄い水色をベースに青と薄い黄の白の花を散りばめたワンピース。白のミュールに、白いバック。金の小さめの丸のイヤリングと、細目の金のブレスレット。


軽く振る手……上品な微笑み……まるで渚か高原か、夏の女神様が走ってくる。



その後ろにはノーカラーで袖がゆったりと膨らんだ白のブラウス。ハイウエストで腰にリボンのように結んでいる、黄色のワイドパンツ。ブラウンのサンダルに、小さめのブラウンのハンドバッグを前に持って、ちょこちょこと走ってくる。


その顔は少し照れて、最近短くした髪を恥ずかしそうに、いじる。そんな愛らしい、和風のお姫様が着いてきた。





そう、早川さんと長瀬さんだ。早川さんは僕たちの前に立ち止まり、僕たち三人を凝視してから急に彼女が笑い出す。


長瀬さんは不思議そうに、

「早川ちゃん、どうしたの?」

と言うと、早川さんは長瀬さんに耳打ちをして、彼女もフッの吹き出す。


「なんだ、俺達の何が可笑しいんだ 」

荻野目さんが言うと、悦に入って笑っている早川さんの代わりに長瀬さんが説明をし始めた。

「いや、だって三人並んでいてその上の服の色合いが信号みたいで~ それに三人とも眼鏡だし! もう、そう言われたら可笑しくて可笑しくて~振り向いた時の顔とタイミングが同じだったし~なんか良いトリオだなぁって。芸人さんみたい 」

僕たちはお互いを見合わせる。


そんな僕たちの姿を見て、長瀬さんが

「それか、なんか『大豆田そら子と三人の元旦那』の元旦那の三人みたい」

と言われ、それで誰が岡田さんか、松田さんかになり、角ちゃんを譲り合う展開になる。



そして、早川さんの悦笑いとさっきの討論が落ち着き……僕たちは街に繰り出した。






11時ちょうど、僕たちはまず早川さんが

「行ってみたい所があって……」

と言われ、彼女の案内で新宿北側の雑居ビルに行く。

少し不安を感じながら、薄暗いエレベーターで上にあがり扉が開くと……



「ワン! ワンワン!」

と鳴き声が奥から聞こえる。どうやら、犬カフェでお客さんで賑わっている。


僕たち男子陣も、もちろん楽しんだ。だが女子達の方がテンションあがりつつも、顔が緩んでいる。こんな緩んだ顔の早川さんを見るのは初めてだ。




その後は、早川さんが予約していたバイキングに行った。食事中、今日の僕から甘い良い香りがする話になり、それから千里香さんからの受け売りの知識をひたらかす。


それから、香水の話になった……


「なるほど……だから、今日の佐藤くんから、甘い良い匂いがしたんだね 」

荻野目さんが僕の近くによって嗅ぎ直し、顎に手を付けていい声で答える。


「まぁ、どれにするか悩んだんですが何となく香水を買うのが初めてだったので~ 皆は香水とか持ってたりするの?」

そんな僕の問い掛けに、早川さんがいち早く食い付いた。


「私も実は、金木犀の香りが好きで、ついついえらんじゃうんですよね 」

「えっ、そうなんだ。ちなみに、ブランドとかメーカーは?」

「Christian Diorなんですけど、名前は忘れちゃったなぁ 」


彼女が答えると荻野目さんが仲間を見つけたように目を輝かせる。


「実は俺も、Diorの金木犀の香水が好きなんだよね 」


二人はそれから、お互いの話で盛り上がっていった。



なんだよ……というか僕の周りの人たち、どんだけ『金木犀』の香り好きなんだよ!…… なんで、二人が話が合うんだよ……僕は不貞腐れた様に心の中でつっこんだ。




それからバイキングで食事がある程度済み、デザートを各自運んでくる。


だが、早川さんは紅茶だけで済ましている。



「あれ? 早川さんはデザート食べないの?」

「実は私、そこまで甘いものが好きではないんですよ。和菓子やフルーツならまだ食べるんですが……洋菓子系統の甘い味が苦手なんです。だから甘い系の匂いも苦手で……」


そう言うと彼女は少し罰が悪そうな顔になり、

「いえ、あの、佐藤さんの香水は良い匂いだと思います!」

と誤魔化された。


僕は苦笑いをしながら、やるせない気持ちになる。


それを見てた、長瀬さんが

「私は、甘い匂い好きですよ! 気持ちが和みますから~」

っとフォローに入ってくれた。


それから僕たちは何もなかったかの様に会話を続ける。





それからバイキングから出て、UNIQLOやデパートや大手電気屋を回ったりした。



僕たちは学校と違うテンションだが、気を遣わず……夏の暑さと同じくらいに盛り上がっていく。





そして、ある程度回り終わる。僕たちは宛もなく、なんとなく歩く。



気が付くと早川さんと荻野目さんが前を歩き、一条くんと長瀬さんと僕で後ろに付いていく形になっていた。


前の二人を見てると、然り気無く盛り上がり楽しそうに会話をしている。たまに聞こえてくる会話が羨ましく感じる。



幸せそうだ……



身長も荻野目さんの方が高く二人とも頭がよく、家柄もいい……パッと見お似合いのカップルに見え、僕の心臓に小さな針が何度もつつかれている……そんな気がした。



彼女と僕とは、嗜好が違う……彼女はお姫様……彼は王子様……僕は所詮ネズミ……そんなやりきれない、苦しみが僕を襲い、劣等感に包みこまれる……




ふとっ、二人の会話で聞こえてきた内容で

「早川さんは、気になる人とかはいないのかい?」

と聞こえ僕は固唾を飲んだ。


彼女は、少し考えてから軽く照れたように笑い、

「……うーん、いないかも~……」

と言い、それから彼女は切り替えるように

「私……将来は、楽して生きたいなって思ってるんだ~。お金とかで困らずに。だからいい人がいたら……働かずに専業主婦になりたいなぁ~」

彼女にしては珍しく、少し茶化したように答える。


僕の知っている真面目な彼女からしたら、意外な答えだった。




僕は、なんとなく彼女の言葉を頭の中で反芻していると、

「さ、佐藤くんは、どうなんだい?」

と荻野目さんに振られ、ついつい動揺してしまう。


さっきの二人が並んでいる姿が頭に過る。



わかってるのさ、足りないものなど……君には無いのさ。その目に僕は映りはしない……




「僕の話しは……いいよ! それより……」


僕の心の中できしむお想いが、頭の中に流れる言葉と合わさり溢れだす……


パキッ……


心のブレーキが壊れる……そんな音が聞こえた……



「早川さん! 荻野目さんがおすすめですよ! イケメンだし、いい声だし。色んな才能があって、面白いですし! お金持ちだし、将来有望で……」

僕の上っ面の、笑顔と言葉とテンションが滑り出す。



二人は歩きながら、目を丸くしながら此方を見ている。



安い言葉を並べている最中、本当の自分が身体から離れ上から自分を見つめてる感じがした。



やめろ……やめてくれ……そんな事、僕は望んでいない……バカ! やめて……お願い、やめてくれ……


もう一人の僕は、ただ打ちひがしれる。



苦しいはずなのに、笑っている。泣きたいはずなのに、涙がでない。言いたくないのに、言ってしまう……




また、余計な言葉が漏れだそうとした時……


「なんでやねん!」


軽く頭をどつかれて、頭が真っ白になった。


「えっ」


振り向くと、一条くんが無表情にコチラを見ていた。僕は一瞬何が起きたか分からず、呆然と一条くんを見る。


「全然、そのボケ面白くないよ 」


そう言われ僕はようやく口から短かく息を吸え、吐いた時に自身の自我が戻った気がした。



「それに……荻野目さんはその反面、性格悪いし、空気読めないし、たまにおじさんみたいだし、足臭そうだし、佐藤くんの事を好き過ぎるし……」

「ちょっ、やめろ! 俺、そこまでひどいか! さすがにそこまで言われると俺でも泣くぞ! 泣くぞ!!」


そんなさっきまでの変な空気が少し薄れた。



僕は我に戻り、すかさず早川さんを見ると笑っているし、長瀬さんは口を手で抑えて笑っている。



僕は一条くんに……ただただ感謝しかなかった。





歩いていると、長瀬さんが立ち止まり、指をさす。


「あれ? ここ! 佐藤くんがバイトしてる所の系列店じゃない?」

「あっ、うん。そうそう」

「私、入った事ないんだよね~」

「んじゃ、入ろうか!」






階段を上がり、扉を開ける。


「いらっしゃいませ!」


オールバックの男の店員さんが全力で静かに寄ってきた。

「何名様ですか?」

「えっと、4名です」

「喫煙、禁煙席どちら希望ですか?」

「禁煙で……」

「申し訳ございません、只今すぐにお席をご用意しますので少々お待ちくださいませ!」


そう言い去っていった。


そして店員さんはカウンターに戻る最中、然り気無くそして、スピーディーに他のお客さんの下げものをやっている。



あれ、あの人まさか……僕たちは案内され、席に案内される。


おしぼりとお冷や。マニュアル通りだ。だが、一切音を立てないように置く、ただ者ではない。


「また、お決まりの頃、お伺い致します 」


完璧な丁寧かつ柔らかな接客。


だが、彼のさりげない良い接客より……気になったことがある。


僕は他の四人を尻目に、そのウェイターさんを引き留めた。



「あの! もしかして、『ニュートレジャーアイランド』の常連さんですか?」

「えっ! 」


彼は、立ち止まり僕をまじまじと見た。


「ああ! やっぱり!」


彼はトレンチを脇に挟み、手を ポン! とした。

「君もあそこの常連さんだよね! たしか何回か、あの美しい店長さんと話してる姿を見てたし……以前、香水の話とかしてるの面白くて! ついつい盗み聞きしちゃって……ゴメンね!」


彼は片手で立て、軽く謝ってくれた。


「いえいえ、千里香さんもそこは全然気にしてないですよ! 『常連さんだ!』って嬉しそうにしてましたし 」

「えっ!! あんな美人さんに覚えて貰えてて、嬉しいなぁ~」

「実はお兄さんがこの前履いていたデニムがすごくいいなぁっと思ってて、真似して僕も挑戦してみたんです!」

「えっ、嬉しいけどなんか、こっぱずかしいなぁ~」


彼は改めて、僕の服装を注視する。

「うん! シンプルながら大人っぽくて、いいね!」

とグーサインを差し出した。


僕も照れ臭くなる。

「あと、ちなみに僕もここの系列店で働いてます!」

「それは、なんと!」

ついつい、他四人を差し置いて、盛り上がってしまった。



ふと、名札に目がいき『岩居』と書いてある。岩居さんか……と見てしまった。


「で、今日はお友だちと新宿探索かい?」

「はい! そうなんです! あっちなみに、みんなもニュートレジャーアイランドに来たことあるし、千里香さんの事を知ってるんですよ!」

「んじゃ、俺たちは『ニュートレ仲間』だね! そして、君と俺はウェイター仲間……いや、ここはかっこよくギャルソン仲間だね!」


彼の『ギャルソン仲間』という響きが、かっこよく感じ……そして嬉しく。

「そうですね! 」


僕は満面の笑みで答えた。彼のお陰で……さっきまでの罰の悪さが、より和やかな空気になった。


だが、周りを見渡すとお客さんで賑わってる事を思い出し、

「すいません! 忙しいのに、引き留めてしまって!」

「いやいや、気にしなくていいよ! なんやかんやホール担当が何人かいるから、少しくらいお客様と話しても問題ないよ。それに俺は、ただのヘルプだしね 」

「えっ、そうなんですか? 所属じゃないんですね?!」

「まぁ、『俺なんて、傭兵みたいなもんですから』」

彼は右腕を軽く上から下にやりガッツポーズをした。


そういえば、聞き覚えのあるワードだと思い考えようとする。だが、一瞬で思い出した。


こっ、この人が伝説の『バーサーカー』! 驚いて、開いた口が塞がらない。



彼はそんなこととは、御構いなしに仕事モードに戻る。


「おや、君以外の子達はどうやら、注文決まった感じかなぁ 」

振り向くとみんな注文が決まっているようだ。




荻野目さんはアメリカン。一条くんはアイス抹茶ラテ。長瀬さんはアイス黒糖ミルク。


早川さんはメニューを見ながら首をかしげた。


「あの、アイスオーレってないんですか? アイスラテしか載って無いので……」

「そうなんです。うちは明記上、ラテしかないんですよ 」

「あの、急なんですが……ラテとオーレって違いはあるんですか?」


それを聞き、彼は少し考えてから、

「『ラテ』と『オーレ』の違いなんですが、色々と定義があるですが、まず元々、ラテがイタリア、オーレがフランスらしいです。両方牛乳を混ぜたもの意味らしいですよ。あとは、ラテは牛乳にエスプレッソを入れたもの。オーレは牛乳にコーヒーを入れたものだそうです。たぶんご存じかもしれませんが、エスプレッソはコーヒーを凝縮したものなのでコーヒーより苦味が強いです」

と完璧な説明をされ、僕たちは盛り上がる。



「一応、当店はコーヒーにフレッシュミルクを使用して頂くんですが、フレッシュミルクが苦手の方ように……代わりに少量で良ければ、普通の牛乳を添える事も可能なので、それで擬似オーレにできます。いかがでしょうか?」


彼女は彼の推奨に納得した様子。


「ありがとうございます! では、アイスコーヒーに牛乳を添えて頂けますか?」

「はい、かしこまりました! それで君はどうするかい?」

「僕は……カプチーノで!」

「では、少々お待ちくださいませ!」


そんなバーサーカーな彼は戦場へ戻っていた。




そして数分後……


「お待たせ致しました!」


注文したものを誰が注文したかを覚えてるらしく、モノをその人の所に置いていく。

そして、早川さんはアイスコーヒーを受け取り、コースターに乗せた状態で横着に動かそうとした。すると、グラスが倒れそうになり彼女は咄嗟に俊敏にグラスを支える。


彼女は小さく

「セーフ……」

と言った後、さっきの驚きを誤魔化すように笑った。


岩居さんも驚いていたが、そんな必死な彼女の姿を見て吹き出して笑う。


「あぁ、すいません。ついつい、美人さんなのに面白い人だなぁっと思いまして~」


そう言われ早川さんは少し顔を赤くして、今度は恥ずかしそうに笑う。





あれ、そう言えば……『TRICERATOPS』の曲で今の僕たちのような感じの歌詞があったよな……


考えながら目の前の彼女を見ていると、そんな事どうでもいいやっとなった。


だって、考える時間より輝いている彼女の笑顔を見ていたいから。


まるで、宝石のようにキラキラと。その笑顔が傷つかないように……僕が……あの綺麗な笑顔を守れるようになりたいなぁ……




僕は改めて、自分の気持ちを実感してしまった。胸に手を当てる。脈打つ早さと高鳴りが響く。それは君を感じているからなんだ。



いつか……僕と君が付き合っている、というスキャンダルがみんなに溢れて欲しい。こんなチキンな僕がちゃんと胸を張って。


そんな幸せな日が来る事を望む……君が……欲しいって……ちゃんと言えるようになりたい。


だが、僕の願望はまだまだ……叶わないだろう。いや、もしかしたら、叶わないのかも……



でも、君と出会ったお陰で……僕の世界は、全部変えられたんだ。




そして、何よりも変わらない事実は……君に、恋してんだ。波のように、何度も押しては引いても……やっぱり、君に恋してんだ……






ここはある都会の喫茶店。禁煙席の端っこ。

好きな人と、友達と仲間と……現在進行形で、茶をしばく。


この空間は、外の暑さとは別の……温かさを感じる。


他人から見たら、どう見えるだろうか?いや、そんなのは決まっている。


素敵なキラキラした青春の一幕だと。そして、みんなの笑い声を聞き……彼女を顔を見て……僕の顔は……




今回も観ていただき誠にありがとうございます!


一応、終わりは明るめに終わらせてはいますが、これは『佐藤くん』視点でのお話しです。

相手はどう思ってるか……結局は各個人の視点はそれぞれなので、わからないのが実情ですよね。


だから、好きだと思う人には素直に優しく、だが無理やり距離は詰めず……

が大切だと私は思います。



今回も長いのに誠にありがとうございました!



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