13 ごめんよ JEWEL#1
今回も、読んで頂誠にありがとうございます!
今回、元々一話構成にしようと練っていたですが、気が付くとすごく長くなり、二話構成に変更したりとなりました。
前半は香水の説明が長く……
説明なんてどうでもいい! って方は軽く流されても大丈夫だと思います!
今回も長いですが、楽しん頂けたら幸いです!
13-1 買い物へ行こう
僕はこの暑くなった季節に、嬉しくて走る。汗をかきながら、彼女に報告しないといけない事ができたからだ。
店内に入る。
「千里香さーん!」
そう言うと彼女はこちらを振り向く。
「おお、少年! また、走ってきて……何? 最近、君の中で走ることが流行ってるのか?」
僕は彼女との距離を縮め、
「いえ、今日は重大なご報告がありまして……」
と僕は敢えて、言葉を淀ませた。
「もっ、もしかして……早川くんにフラれたのかい?」
「いや、その件、前にもやりましたよ!」
「まぁ、冗談はさておき……もしかしてプロポーズでもしたのかい?」
「いや、急に話が飛躍しすぎですよ!」
「えぇーんじゃ~な~に~?」
乗り良くテンション高くも、ダルそうに答えた。
僕も焦らすのに飽きたので
「ふふふ、実はですね~」
「うんうん!」
「なんと!」
「うんうん!」
「早川さんとデートが決まりました!!」
「おぉ!!」
と二人で小さい拍手をした。
パチパチ……
それを聞いて、鈴木さんと田中さんも駆け寄る……鈴木さんはサングラスをくいっとあげ、僕の肩に手を乗せる。
「やったな、 少年くん! 君も……大人に一歩近づいたな」
「やるじゃん! 」
田中さんも腕を組みながら横でウンウンと喜んでくれた。
千里香さんは不思議そうに右の人差し指を立て、右頬に付け首を傾げながら
「でも、どうして急にそんな事に……」
そんな彼女の問いに僕は嬉しくて鼻高々に、語り始めた。
「いや、実はですね……」
今日の終業式が終わって放課後帰る準備していたら、
「佐藤くん 」
と早川さんに呼び掛けられ僕は振り向いた。
「今学期もお世話になりました 」
とゆっくりと深々お辞儀をする。
「いや、僕の方こそ去年からすごく助けられて……」
「いや、私なんか演劇部の方で手伝ってもらったし……」
僕たちの中でのお決まり二人で『いやいや~』を繰り返していたら……
彼女は意を決したように口をキュッと結ぶ。
「じっ、実は……これまでのお礼も兼ねて……一緒に遊びに行きませんか?」
「えっ!」
僕は嬉しくて言葉が出ない……
「ダメかなぁ……」
彼女は下を向いた後、上目遣いで言った。そんな彼女の仕草に僕は即座に決断をした。
「いや、勿論行かせてください! 」
もう胸の高鳴りが止まらない。
「それじゃ、いつもの一条さんと荻野目さんと、あと優ちゃんと誘うね~」
彼女には珍しく大きな仕草、手を上げて言いすぐ去っていった。
僕はそんな嬉しい一時に、にやけた顔が収まらない。そんな僕の心中を隠すために……
「うん! OK!」
少しのキメ顔と僕の中精一杯の低い声で彼女に答えた。
「まてまて! ……えっ、二人きりの……デートじゃないじゃん! 」
千里香さんにシラケた風に突っ込まれる。
「なんだよ……」
「ふーん」
鈴木さんと田中さんも冷めた風に言い目を反らした。
「それじゃー、撤収! 各自、仕事に戻れ~」
「うぃーす!」「はーい!」
二人は仕事に戻っていった。
「いや、もっと讃えてくださいよ!」
「いや、私らとしたら期待するじゃん」
「僕からしたら、女の子と遊びに行くのは大きな一歩ですよ!!」
「まぁ、確かにね……最初の頃に比べると。例えるなら小学生が好きな女子と交換日記をするくらい、すごいよ 」
両手を上げおちゃらけて言った。
「というか、千里香さん『交換日記』ってワード知ってるんですね」
「この前、荻野目くんにおすすめされた『漫才師交換日記』の舞台を見て、『交換日記』ってワードを知ったよ 」
「えっ、荻野目さんとそんなに仲良くなってるんですか?」
「まぁ、たまに顔を出しに来るんだよ。まぁ、相変わらずだがね。なんやかんや、彼とは話が合う部分があるからね~……で、今日はその報告って、そんな感じかなぁ?」
「いえ、さっきの報告と……この前のイベントで香水に少し興味を持ちまして……」
「あぁ、『舞妓夢コロン』の柚子だったね 」
「はい、あの時の千里香さんの解説で、『匂い』って重要だなぁっと思いましたから。あれ以来、スマホで香水を調べるようになったんですよ 」
「ほうほう、で?」
「だから、ここのお店で香水があれば買おうかなぁって~無ければ千里香さんのおすすめを聞いて他の所で探そうかと……」
「なるほど……」
彼女は口をすぼめ少し考える。
「まず、古着屋で香水を買うというのには利点と欠点があるのを……まず、知って貰いたい。」
「利点と欠点ですか?」
「うん、まずは利点だ。まずは使用されてたりするし、一度他の方の手元にあったから、有名ブランドのモノでも半額以下で手に入れる事も可能で安く手に入る。利点は以上!」
「なるほど、欠点は?」
「欠点は、香水と言うものはいわばナマモノなんだ。保存状態で匂いや色、成分が変わってしまう。変わる原因としては使い始めて、空気に振れること。高温だと匂いが飛びやすくなるんだ。あとは直射日光。だから、夏では冷蔵庫に保存することをおすすめするよ 」
「冷蔵庫にですか?」
「うん、まぁ香水は匂いが強いから、他の食品とかにも匂いが移る可能性があると思うから……ちゃんとその対策をしないといけないのが、実状なんだ。あと、香水の品質の劣化によって振り掛けた時、人によっては肌荒れやお肌のシミを引き起こす場合があるから気をつけて欲しい。あとは服の上から振りかける場合も古いものだと、より服にもシミが付くからね。だから、期限は開封したものは1年ほど。未開封でも3年くらいで使って欲しいかなぁ 」
「なっ、なるほど……」
僕は香水への知識に納得した。
「次に何だが……」
「えっ、まだ欠点あるんですか?」
「まぁね。次は品質等ではなく、別の欠点さ 」
「別?」
「そう、古着屋で購入する場合、確実に中身が正規で売られてるモノとは限らないんだよ 」
「えっ 」
「香水ってのはモノにもよるが中身を入れ換えれるようにできている。それにより、近い匂いのモノに入れ換えられていたり、まったく別のモノをいれてたりするんだ。匂いと言うものには正確な検証は古着屋ではできないからね。うちでも基本入れ替えができないモノを買い取ってたり、未使用のモノを買い取っているよ 」
「まぁ、そうですよね……」
「あとは、香水含め、衣類カバンでブランドものだとしても正規品か並行輸入品があるんだ。それによっては買い取りできなかったりするから 」
「並行輸入品?」
僕は聞き慣れい言葉で首を傾げた。
「並行輸入品とは、インターネットショッピングや某大型ディスカウントストアなどで購入できる海外ブランド製品のうち、メーカーの日本法人や契約関係にある正規代理店、以外の業者が輸入・販売しているものを指すんだ。いわば、海外ブランドと正式な輸入販売契約を締結していない第三者が、『正規輸入品』とは違うルートで製品を輸入すること。偽物では無いんだけど、返品や交換・修理、メンテナンスといったメーカーのアフターサービスが受けられない点があるから注意だ。その代わり、新品でも安く手に入れる事ができるというメリットがある 」
「へぇー、なるほど~並行輸入品を購入したとしてもまぁ、気に入って最後まで使えば問題は無いってことですね 」
僕が納得していると、ついつい近くをウロウロしている人が気になる。
だが僕の目線で、その人はまた遠くに行き、また商品を吟味している。
長髪でオールバックのサムライヘア。彫りの深そうな顔つき。真っ赤の大きい花柄のアロハシャツ。薄い青色のデニム。PUMAのトリコロールのスニーカー。パッと見厳ついなぁ……
「あれ? あの人?」
「ああ、あのお客様もうちの常連様だよ。」
「だからか……何回か見掛けたことあるんですよね~」
「あの方も週に二回くらい着てるから~」
そして彼女は、
「いけない、いけない。話が逸れてしまったね。まぁウチには何個か男女合わせて10本ちょっとあるよ。では、その中のおすすめ数本を用意しよう 」
と千里香さんおすすめの店の香水を数本持ってきてくれた。
「まずはコチラだ」
と彼女は『Tommy』と刻まれた透明の瓶をだした。
「此方はトミーフィルフィガーのトミーだ。『トップノート』にグレープフルーツ、クランベリー。『ミドルノート』にイエローローズ、グリーパイナップル『ラストノート』にレッドメープルウッド、コットンウッドという感じだ。初心者にも手がつけやすく、オールシーズンいける。ちなみに、トップノートとは……」
「あっ、それは一応調べました。だいたいトップノートが5~10分、ミドルノートが30分~1時間、ラストノートが3時間以上でしたっけ 」
「ほほう。やるね! そうそう。香水は匂いが変化するのもポイントなんだよ。高いブランドのものだとより楽しめるものもあるから~。それでこの香水はまぁ簡単には言うとフルーティーで爽やかだから。柑橘系だとそこまで外れが無いし、付けてても嫌う人はいないと思うから。無難におすすめだ! で、次にだ 」
彼女は黄色のようなクリーム色のグラデーションの瓶を出した。
「モリナール バニラマリンだ。 こちらはトップにバニラ、 キャラメル、クレイセージ。ミドルにジュニパー、ジャスミン、ミュゲ。ラストにアンバー、 モス、 マリンという感じなんだ。一般的にバニラやキャラメルの甘い思い香りは夏等には向いてないと言われてるが此方は『マリン』等が含まれてるためそこまで重たくならないのが特徴。一年通しても使えるようになっているんだ。ちなみに香水でいうマリンノートに含まれる合成香料の一つ『カロン』はワカメ海藻類に含まれる構造に似ている。そのため爽やかな海風のイメージなんだ。ちなみにマリンノート、アクアノートで他に瓜系の匂いのモノもある。そして、この香水の問題点は2つ……まず、実はこの香水自体が廃盤になっているため購入できないんだ。そして、前の持ち主の管理が上手かったのか保存状態はいいのだが……何年前かは分からないのが難点なんだよ 」
「なるほど~。でも、今では珍しい香水ってことになるんですよね?」
「まぁ、言い方を変えればそうなるね! はい、次は……」
今度は黒い瓶を出し、
「『サムライ~ブラック ライト~』」
千里香さんは少し某猫型ロボットのような言い回した。
「えっ、どっちの方ですか?大山のぶ代さんの方? 水田わさびさんの方?」
「それは、君が思う方でいいよ。んで、この香水なんだがトップにレモン、ベルガモット、アクアティックノーツ。ミドルにウォーターメロン、パッションフルーツ、ブラックカラント。ラストにシダーウッド、アンバー、ムスクとなっている。もともと『サムライ』とはフランスの映画俳優アラン・ドロン氏によってプロデュースされた香水コレクションで1998年に日本上陸したんだ。以後、口コミでコスパも相まって若者を中心に広がり、瞬く間に幅広い層から支持を得るようになる。香り、デザイン、ネーミングは日本の歴史や文化からインスピレーションを得ているから、日本人にとても馴染みやすいコレクションになっていて、豊富な種類が販売されている。その中の『サムライ ブラックライト オードトワレ』は、オリジナルのサムライと比較すると大人な雰囲気のフレグランス。ベルガモット&レモンがメインの少しスパイシーで爽やかな香りに、フルーツのほんのりとした甘さをプラス。清潔感の中にクールな男らしさが適度に感じられるため、女性からのウケもいい! そして、しばらくするとシダーウッドやムスクの温かみが出てきて、ほのかな色気を演出できて……時間経過と共に深みが出てきて様々な表情を見せてくれる、オシャレ感がある香水だ!!」
「あの~そういえば香水でたまに聞くワードで『ムスク』ってなんですか?」
「あぁ、元来ムスクとは、本来ヒマラヤなどに生息するジャコウジカ(麝香鹿)から採れる香料だよ。ジャコウジカには生殖器とおへその間に麝香腺という器官があり、そこからわずかなゼリー状の半液体が分泌されます。これがジャコウ(麝香)と呼ばれて、それがムスク。でも、今は天然ムスクはワシントン条約により取引が禁止されて、現在は流通していないんだ。過去にムスク製造のためにジャコウジカが乱獲された時代があったからだろう。ホントこう思うと、人間というものは欲深く愚かだと思われるね…… 食事から始まり衣服類含め、本当に我々は他の動物に生かされているんだと思うよ」
千里香さんは人類の欲にやるせない顔をする。
「まぁ現在は、合成されたムスクが代わりに使われてるから天然ものではないけどね~」
「へぇ~、そうなんですか。ちなみに、どんな匂い何ですか?」
「うーんっと、匂いを例えるのって難しいんだが……『温かみのある甘く深い香り』と言われていて、女性には結構好まれているよ。ハイブランドの香水には結構の確率で入っていて、私が思うに……プラスで言う、匂いの深みを増してくれるものだと思うよ。食べ物でいう『旨味』みたいな。だが、このムスクというのは……ある意味やっかいなんだよ 」
「えっ、どういう事ですか?」
「いわば、昔は動物の分泌線で作られた匂いで、もちろん今は人為的だが、この匂いが人の生理作用に影響を与える事があるらしいんだ。例えば昔、ムスクは興奮作用や強心作用などの効果があり、薬にも使用されいた。気持ちをポジティブにしたり落ち着かせたりする療法にムスクが使われていたり、心身の疲れや緊張をほぐしリラックスさせる……その甘い香は異性を惹き付ける香りともいわれていて……『官能的』効果があるとも言われるよ 」
「えぇ、匂いでそんなに人に影響って与えるんですか?」
「君、匂いや香りを嘗めちゃいけないよ。ほら、前回のイベントでも説明しただろ~。まぁ、あの説明以外でなら匂いや香りは人の記憶にも作用するんだ。人間の五感のうち……視覚、聴覚、触覚、味覚、嗅覚で、人が『忘れやすい順番』は1に聴覚。次は視覚、触覚、味覚、そして最後に嗅覚。それほど人の脳に嗅覚は影響を与えるんだよ…………何とも言えないが、忘れやすいと言われる聴覚は……人が発するものだと『声』が、一番忘れやすいってなるね……」
「『声』ですか……」
「まぁ、あと逆に……以外に知り合いっぽい人にあった時、見た目では判断できないが声を聞いて、その人だと断定できる場合があるから、不思議なものさ。匂いや見た目は変えようと思えば変えれるが声に関しては一番難しいからね。最近は喉をいじって、声を整形できる時代になったから……本当にすごい時代だよね~」
彼女はまたも話が脱線した事に気づく。
「おお、またやってしまった……んで、ムスクはいわば媚薬のような効果があって異性を惹き付けることともできるから……今回、『サムライ ブラックライト』を選んで」
彼女は含み笑いをしてから、テンションを上げて、
「早川くんを、君の虜にしてしまえ!」
と彼女は、指で銃のような形を作り手の甲を下にやり、僕の方に手を差し出した。
「いや……ムスクで彼女を虜にしても……」
「イメージ戦略は重要だよ、キミ 」
「うーん……」
僕はそんな根も葉もない香水の効果に腕を組んで考えた。
「えっ、ちなみに千里香さんのお気に入りの香水とかってあるんですか?」
「私は前回出した、『舞妓夢』を季節ごとに変えて使ってるよ。まぁ、私が特に気に入ってるのは『金木犀』の香りだがね。ほら、『千里香』は金木犀の事だし」
「あぁ、なるほど……ちなみに、鈴木さんや田中さんにもお気に入りの香水あるんですかね……?」
僕たちは、仕事中のそれぞれに駆け寄った。
サングラス、パーマ鈴木さんの場合。
「えっ、俺のお気に入りの香水……? 」
「はい! 今回、僕も香水に挑戦しようかと思って!」
「えぇ、えぇっと……」
彼は少し照れたようにしながら、頭を掻いた。
「俺のお気に入りの香水は『ヴェルサーチのブルージーンズ』だなぁ……」
「鈴木、ヴェルサーチのブルージーンズは結構濃厚なバニラ系だから夏には向かんだろ……どっちかって言うと『20代』向けだし……」
彼女の『20代』向けだし……が引っ掛かった。
彼はそんな事気にせずに、
「いや、まぁ、そうですけど。 瓶がお洒落だし……」
「ははぁん、あれか……女に誉められてだろ。」
「まぁ……あの匂いが好きって言ってくれる人がいるので!」
「すいません、変な質問して。ありがとうございます!」
と僕たちは次に田中さんの方に行った。
長髪、綺麗めイケメン田中さんの場合。
「俺はね……『シャネルのエゴイスト』かなぁ。トップにレモン、プラム、コリアンダー。ミドルにタラゴン、カーネーション、シナモン。ラストにサンダルウッド、ムスク、パチョリ。コイツは結構気に入って使ってるよ。癖はあるけど何とも言えない香りなんだよね 」
「へぇー、そうなんですか~」
千里香さんが割り込むように目線を彼にやる。
「ちなみに、『EGOIST』の意味は利己主義者って意味……さっき、言った鈴木のブルージーンズもエゴイストも両方ラストノートにムスクが香るようになっているんだ。それだけ、ムスクは香水の中では主流なのさ。というかお前ら二人、女性にモテようと必死かよ 」
「いや、まぁ……というか、香水やファッションの取っ掛かりってそんなもんでしょ 」
「あの! 勉強になりました! ありがとうございます!」
僕はそう告げて、田中さんはまた仕事に戻った。
「さて、どうするかね~少年。今のところムスク系が人気だよ~ やはりブラックライトにするかい?」
僕は三人の話を聞いてどれにするか……いや、ある程度決めていた。
「はい……初めての香水なので……あまり、香水らしすぎるのは僕自身にあってない気がしたので……さりげなく、甘い香りのする『モリナール バニラマリン』にしようかと 」
「ほう。此方はもう廃盤で何年前のものか解らんが……大丈夫かい?」
「はい。僕、甘いものが好きなので。瓶のデザインもシンプルながら上品だし。あと……うちの母が香水らしすぎる匂いが苦手らしく……たぶん、ムスク系の匂いが苦手らしいと思うので 」
「たしかに、そういう御方もいるね 」
「まぁ、母の場合……昔の幼なじみだった友人がムスク系らしき香水を付けてたみたいで、ある事をきっかけに仲が悪くなったみたく……ムスク系を匂うとその人を思い出すそうなので……」
「それは仕方ないね。まぁ、とにかくモリナールのバニラマリンは良い香水さ!」
「はい! 購入してかけるのを楽しみです!」
と言うわけで、僕は早速購入して千里香さんに断りを経て店で香水をかけることにした。
フワッ
僕の周りを優しい甘いバニラの香りが包むようだ。
「ホント、良い香りですね!」
「たしかに、私が思ったより爽やかでかつ上品な甘い香りだ! これはいい選択肢をしたな! 少年!!」
「はい!」
僕が香水の匂いで喜んでいると、
「そういえば、少年。デートの日にちとプランは決まっているのかい?」
「はい、日にちは決まっていて……新宿辺りを回る予定ですね。特に当日のプランは決まってないかと……たぶん、早川さんさんが決めるかも、なので……」
「なるほど、日にちと場所は決まっているがノープランか……」
と彼女は考え、後ろを振り向く。
そして、彼女は独り言で
「いいなぁ……いいなぁ……」
と繰り返してから、急に思い付いたように、手を叩いた。
「そうだ! なら、私もついて行こうじゃないか! どうせ、男三人と女二人。数が合わないし!」
「っ!!」
僕は彼女の突拍子のない提案で驚き、声がでない。
いや、千里香さんが来てくれたら、きっと嬉しいし楽しいし。頼りになりそうだが……流石に僕の判断では……学生に混じって、大人って……
「そうだよ! 私ならこのデートを盛り上げる事も可能だし、皆をエスコートできるよ! あと、お金を多めに出してあげれるし~そして、君の恋路をサポートできる!
いやー、私は天才だなぁ!! 」
彼女は僕の手を取り、
「ねぇ~いいでしょ~私も皆と遊びたい~」
と僕の手を持ち左右に振る。
僕はそんな彼女の天真爛漫さに苦笑いをし誤魔化す。大人が子供に甘えるって様子は端からみたら困っている状況に見えるのか……見えて貰いたい。
ガチッ、ガチッ!
すると彼女の両腕がたくましい二人の腕に組まれ、少しづつ退きづられる。
「ハイハイ、千里香ちゃん。若人たちのデートの邪魔をするような事を言うのは止めようね 」
「店長、ダメですよ。少年くんが困ってますから 」
鈴木さんと田中さんが抑えに入った。
「やだやだ! 私も青春をしたいん……だい!!」
「いや、もう、アラサーだろ! あんた!!」
「うるさい! 心は永遠の17才だもん!」
「いや、むしろ心はアラサー以上でいてください 」
「やだやだやだやだやだやだやだやだやだやだ!! むしろ大人になりたくない!!!」
アラサーと言われた自称17才、千里香さんは駄々をこね始めた。
二人はそれでも必死に千里香さんを抑えこもうとするが……千里香さんの駄々は大きくなっていく。
見かねた鈴木さんが
「少年くん!!」
と言い、僕は息を飲んだ。
鈴木さんの……ずれたサングラスから見える必死な目。
「俺たちが抑えている間に……早く行けっ!!」
「えっ、でも、お二人が……」
すると、田中さんは片方の手で、髪を掻きあげながら
「鈴木さんと、俺の事は気にするな! きっと……大丈夫 」
「あぁ! 俺達がこの化け物を……」
「誰が化け物だ!!!」
「もとい! この魔女を抑えている間に、行けぇぇ! 俺達は死なない!! もし、死んだとしても屍を越えていけ!!」
「鈴木さん、田中さん……」
僕もこの空気に飲まれて、ついつい目頭が熱くなる。
握りこぶしに力が入る。
「はぁい! 行きます!! きっとまた……会えますよね!!?」
二人は満面の笑みで声を揃え、空いてる手でグーサインを作り、
「ああ、勿論だ。行ってこい若造ぉ!」「あぁ、勿論だ。行ってこい若者ぉ!」
そう声掛けられ、僕は走り出した。
走るなか、ゆっくりと背中に感じる、二人の『漢』の背中の厚みが頼りになる。
そんな僕の去る背中越しに
「あぁ、少年…………もう! 私も遊びたい!……」
「あんたは仕事をしろ!!……」
と大人気ない会話が聞こえた。
後日……店に言った時、千里香さんはけろっとしていた。本当によかった……
そして、デートの予定日まで近づく……
僕はある事を考えた。そう、それはデートの日に僕がバイトしている喫茶店の系列店に五人で、茶をしばきに行くかもしれないということ(『茶をしばく』とは関西弁で、喫茶店に行くという誘い文句、意味だ)
そして、今、バイト先に置いてある社員割引書を探している。
ガチャ!
「あっ、店長! お疲れ様です!」
「おぉ! お疲れ! 」
「あの、社員割引書ってどこですか?」
「おぉ、んじゃ、出すわ 」
直ぐ様出してきてくれた。
「なんだ、どっかの店に行くのか?」
「いや、今度友達と新宿に遊びに行くので~もしかして、系列店に行くかもと思い 」
「デートか?」
「ちっ、違います!」
そんな僕の反応に、店長はにやにやする。
「まぁ使ったらちゃんと返してくれな。あと、返却したら一応報告して 」
「わかりました!」
「新宿か……」
店長は少し考える素振りをした。
「えっ、新宿に何かあるんですか?」
「いや、あっちのエリアの方の店はスゴく忙しくてなぁ」
「まぁ、そうですよね。夏休みですし」
「そうそう。んで、他店からもヘルプの要請があるんだよ。まぁ、うちはそんなに人いないから出せんが……ちょっと遠いし……」
「へぇ~、そうなんですね 」
「まぁ、それで。佐藤がどの店に行くかは知らんが……新宿に……もしかしたら、昔の俺の部下がいるかもしれんけどね 」
「部下ですか?」
「あぁ、昔、千駄ヶ谷って所の店に所属してた奴で……まぁその店は無くなったんだが……基本、その店は暇の方なんだが……周りがイベント会場が多く、イベントで左右される店なんだよ。まぁ、その部下が従順な優男なんだが……でも、忙しくなると化け物染みて、お客さんを捌いてホールを回すんだ……今はどの店にいるか知らんが……毎週忙しい新宿の店に出没して今もホールを回しているそうだ。なんか変な異名もつけられてる様でなぁ……悪魔とか魔術師とか……千駄ヶ谷の亡霊とか……この前、聞いたら『バーサーカー』って呼ばれてるって。んで、当の本人は『僕なんて、傭兵みたいなもんですから』って、笑って言ってるそうだ 」
僕はその『バーサーカー』がゲームみたいなあだ名で、面白いと思い、
「へぇー、そうなんですか~」
「まぁ、そいつは仕事で雑な部分もあるが接客は悪くは無いって言われてるけどね 」
「会えますかね~」
「わからんなぁ、新宿にうちの系列店は多いからね 」
と話し、社員割引書を借りて帰宅した。
僕は熱帯夜に、希望を膨らませデートの日を毎日指折りで数える。
もういくつ寝ると……デート。
僕は前日の夜……ワクワクとドキドキで目が冴えていく、彼女はどんな服を着て来るのか? 少しでも、良い感じになれるかなぁ……?
お互いの肌と肌がふれあうのか……香水……いい匂いって思ってくれるかなぁ……と淡い希望と期待を膨らませる。
デート前までのお話でした。
もちろん、デートの最中も楽しいですが
用意の段階はある意味無限大なんですよね。
男は基本夢見勝ちな子どもなので
そんな様を描きました。
次回はデート回です。
でも、最初にお伝えします……
すごくハッピーなお話しではありません。
ちょいハッピーなお話しです。
それは佐藤くん自身の『根っこ』の部分が問題となります。
それでも、次回も読んで頂ければ幸いです。
今回も長いのに読んで頂き誠にありがとうございましたm(。_。)m✨




