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古着屋の小野寺さん  作者: 鎚谷ひろみ
sweet&salty
23/52

12 たぶん、かぜかな……


今回も読んでいただき誠にありがとうございます。


久々に単体の物語です。


そして、千里香さん以外の女性視点で描かせていただきました!


ざっくり、言うと王道の少女漫画みたいな展開です。

レディースファッションです。


読みやすいと思います。


今回も楽しんで頂ければ幸いです。





「うん! こんな感じかなぁ!」


私は部屋で一人、納得した。


鏡の前で、普段着ないような赤い着物を着て、袴を履く。そして簡易的な甲冑、小物に刀それにブーツを……目にはカラコンを入れ、長めのウィッグをつける。


…………


「やっぱり、ナベシャツ着ないとダメだか……それにやっぱり、身長がなぁ……」



私、身長154cm程しかないし……推しのキャラクターのコス買ってみたけど、なぁ……もう、宅コス用だ……とりあえず、ポーズを取り自撮りをする。



パシャ!



「優ちゃん! 19時にはお父さん帰ってくるから~」

「は~い!」

ドア越しに母にそう言われ、当たり前に返事をした。



私は衣装を脱ぎ、片付けクローゼットにしまい、ジャージに着替える。


スマホを持ち、調べながらベッドにダイブ……スマホを上にあげて、その男装の麗人を見つめた。

「あーあ、どこ行っちゃったのかなぁ~『Senriko』さん……」



『Senriko』さんは二年前くらいまで、活動していたレイヤーさんである。

いろんなコスをされているが特に男装には定評があり、私の憧れだ。


スマホ画面に映る、彼女の画像それは今は幾つかは消去されている。残ってるとしたら、各個人が保存しているものくらいだろう。


コスプレをしている時、私はよく言われる、『別の自分になれる』その感覚が好き。だって、本当に私じゃないと思えるんだもん。外での私は引っ込み思案な地味な子供……


それと、私はコスするのも好きだが撮る方もやる。もちろん可愛い、綺麗な女の子を撮るのが好きだ。




ご飯の時間になり、私は階段を降りリビングにいく。そして、木製の四人掛けのテーブルにはある程度の夕食が並べられ、椅子に座る。



ウィーン



「優ちゃん! ただいま!」

「お帰りなさい!」


父はニコニコしながら言った。父は建築デザイナーで事務所は家の隣にあるのだが、今日は珍しく先方の都合で出ていたのだ。

父は数年前の車の事故で足が不自由になり、基本は電動車椅子での生活。


それでも、父と母はラブラブだ。これが恋愛結婚で得られたものだろう。


貧乏でもなく、少しだけ裕福な方ではある。家に帰れば、温かいごはん。仲のいい夫婦……一部を除いたら、普通の幸せな家庭だ。



まぁ! という私も、成績も本当に真ん中あたり、運動は少し苦手。ありふれた幸せなごく普通の女子高生。

綺麗でもないし、可愛いかと言われると……そうでもない。

だって声もハスキーだし……ジト目っぽいし……ちょっと八重歯だし……スタイルも…………


最近は男子連中からは気軽に話されるが……かと言って男子と仲がいいわけでもない。普通に女子友達と関わる。




でも……そんな、私も気になる人がいる。


彼は見た目はイケメンでもない、可愛いわけでもない……ただ、スゴく優しい人だってことはわかる。



最近彼は、私の友人とスゴく話している。その二人の関係が焦れったい。くっつくわけでもない。それなりの距離感を保っている。

ただ、そんな二人のを見ていると第三者の私から見たらお似合いなんだよなぁ……





ガシャーン! バサバサ、チャラチャラ、チャラチャラ……



彼と出会って意識したのは高一の頃、一学期の終業式……私が用事で急いで帰ろうとしたら、うっかり筆箱の中身をぶちまけてしまった。


周りはたまたま、見知らぬ男子しかいなくて見てみないふり。焦って入れようとしてもぶちまけたものが見つからない。

こういう時、心底自分のドジ加減に愛想をつかす……半べそになりながら焦って拾っていると……何も言わず彼は、すかさず黙って集めてくれる。変な隙間に入ったのペンを膝をついて一生懸命取ってくれた。そして、中身が揃っているのを確認するのを待ってくれた。



「あっ、ありがとう 」

そう、伝えると彼も人見知りのようで目を合わさずに

「いや……大したことない……よ。焦ってるかもしれないけど……ケガしないようにね……」

と言われ、私は嬉しいがまだ男子馴れもしてなく……男子が怖いと感じる時期だったので、軽く会釈をして急いで帰った。


走って帰る中、さりげないけどスゴく優しい人だなぁ……と思った。


それ以来私は何となく彼がいるとその姿を追ってしまう。



二年生になり同じクラス。私は家に帰りガッツポーズをするほど嬉しかった。






彼は最近色んな人に話しかけられるようになり、以前と変わって、性格も明るくなった気がする。




「はぁーっ」

私は教室で溜め息を吐いた。


「どうしたの? 優ちゃん?」

「うん? いや、何にもないよ! えっどうして?」

「いや、背中丸まってるし、大きい溜め息をついているから 」


私は友人の早川ちゃんに淡い思い出に浸ってる中、急に言われ誤魔化した。

「いや、最近忙しかったじゃない? でも早川ちゃんの方が忙しかったと思うけど 」

「まぁ、文化祭も何とか終わったしね! テスト勉強頑張らないと。そういえば、優ちゃん『サンダーレクイエム』の新作出るらしいんだ~」

「そうなの?」

「うん、新キャラのビジュが超イケメンなんだよね!」


彼女は美人で頭もいいのにゲーム好きで女子同士で話してる時は、まぁまぁ快活に話す。

まるで男の子みたいだけど、はしゃいでる姿は年相応の女の子だ。

彼女は男子達にはあまりこういう所を見せない、クールに振る舞う。

そう言う所が彼女のギャップで、私は可愛いと私は思っている。

私は頬杖をつき、元々のジト目を細目て見てしまう。

「あーあっ、早川ちゃんみたいに美人だったらなぁ……」

「やっ、やめてよ! 恥ずかしい!」

「だってホントの事だもん!」



彼女はいつも誉めると、恥ずかしそうにする……最近は特に、あの人と話すとき謙遜が多い。

もう謙遜を通り越して、自身に悪態をつく時もある。

もっと、彼に素直に話せば良いと私は思うんだけどなぁ……



私も……美人か、可愛くなれたらなぁ……せめて、女の子らしくなりたいけど……どうせ、私には似合わないし……見てくれる人もいないし、まだ男子にじーっと見られるの怖いし……


男子に話される時、いつも指に力が入ってしまう。



でも、最近あの人と話すのは気楽で楽しいんだよなぁ……男子感を感じないというか……もっと……一緒に話せないかなぁ……でも最近、彼も忙しいそうだし……




……忘れられないの……あの時のあなたの優しさが……つまらない日々も長い夜も……少しだけ変わった気がして……




もっと私の事を見てくれないかなぁ……どうしたら見てくれるのかなぁ……?






「ねぇ、早川ちゃん? 服ってどこで買ってるの?」

ある日、友人に何となく聞いてみた。


「えっ、何、急に?」


彼女は私に珍しそうに質問した。

「いや、早川ちゃんっていつもお洒落だなぁ~って」

「そんなことないよ! まぁ、可愛い服とか面白いのとかが好きでね 」

「で、どこで?」

「まぁ……ネットとかでも、買うことはあるけど。デパートとかモールとかかなぁ。あとはうちの姉さんのお下がり」

「うーん、そうなんだ。私も服買いたいけど結構地味目になっちゃうし、自分に似合うのとかわからないし……」

「あっ!……優ちゃんは古着とか、大丈夫?」

「うん、たぶん気にはしないかなぁ……わからないや。でもなんで?」

「いや、そう言えば、私の知り合い……になるのかなぁ? 古着屋の店長さんがいるんだけど。ほら、駅近くの古着屋で『ニュートレジャーアイランド』っていうんだけど」

「あぁ、チラッとは観たことあるけど 」

「うん、そこの店長さんすごくいい人で、初対面の人でもアドバイスとかくれるから、ワンチャン行ってみるのありかもよ!」

「へぇー……でも私、人見知りだし……」

「まぁ、すごく面白い人だから~ それに、実はその人、魔女とも呼ばれてるんだ 」

「魔女?」

彼女からリアルにそんなワードが出たので、一瞬驚いてしまった。

「えっ、なんで魔女って呼ばれてるの?」

「それは、行ってからのお楽しみ!」




「……なんですか、荻野目さん!」

「いや、佐藤くんは理想の女性像とか漫画のヒロインとかあるのかなぁっと?」


教室の窓際から二人の会話が聴こえてきた。


「まぁ、あることはありますが……なんですか藪から棒に」

「それは、どんなタイプなんだ」


荻野目さんがニヤニヤしながら彼に質問をしている。


「まぁ、古い漫画なんですが……」

「安心しろ。 俺はある程度の漫画をしり尽くしてるから、わかるかもしれんぞ」

「えぇ……とすごい古いんですが『出藍の誉れ』の梅園 藍ちゃんが理想ですね 」

「また、古い作品だなぁ。もう、20年近く前の作品ではないか。あまりメジャーでもないし。でも、どうして?」

「いや、たまたまです。兄貴が夜にこっそりその漫画を読んでて、気になって黙って机の引き出しから出したんですよ。すると思った以上に感動する作品で、純愛感が素敵で好きなんですよ。それと藍ちゃんの髪型が素敵で~」

「ふっ、純愛か……」


荻野目さんは楽しそうに笑っている。


「なんですか! 僕が純愛もの読んじゃ悪いですか!」

「別に、ふっ、ふふふ。」

「『馬鹿にしやがって』……」

「あっ、また! 真似をするな!……」



私達は彼らの愉しそうなやりとりを観ていた。


「あの二人、最近仲良いよね! プレゼントの一件以来……」

「うん、ホントに」

「いいなぁ……」


早川ちゃんは羨望の眼差しでボソッと呟いた。


そんな彼女を余所に私は、何となく『出藍の誉れ』の梅園藍というキャラが気になり、スマホを取り出し調べた。


へぇ~、こういう女性が好きなんだ……この髪型……ぜったい美人か可愛い子にしか似合わないじゃん。


私には似合わないなぁっと思い、私は手を上げて体を伸ばした。







それから、今日は早川ちゃんは塾だから付き合えないと言われ……でも、私は気になるので……店まで向かう。


向かう半ば、全然関係のない人魚姫の話が頭に浮かぶ……


人魚姫は助けた王子の近くにいたくて、魔法の薬で人間の足を手に入れ好きな人に歩みよったんだよな……

私も歩みよったけど、ぜったいに色々足りないんだろうな……まず、人魚姫は美人で可愛いし……いいなぁ……


そんな事を考えていたら、店の前にいた。




「ここか……」


昇る階段と降りる階段がある……特にレディース、メンズとは書かれてない。

上、下……どっちに行けばいいんだろう……?何か上の方が……レディースかなぁ。入り口前に、セールのレディース服並べてあるし……


上のフロアと下のフロアを迷うように見ていると……同じくらいの女の子とお母さんが下のフロアに降りていった。


あれ? もしかして下か!危なかった……もう少しで間違えるところだった!……と思い私は階段を降りていった。


あっ、お洒落な自転車……






恐る恐る店に入る。


あれ? こっちメンズ……? 店員さん、男の人二人だし。


片方はロン毛で少しチャラそうだし、もう片方はサングラスで厳ついし…………あれ、さっきの親子は?


そう思い見回すと親子は店内の奥にいる。


あっ、そっか! 店奥がレディースなんだ!


私は堂々と店の奥まで進んだ。




奥に着いて周りを見回す……


うそ……レディースじゃ、ないじゃん!! 明らかにメンズ!!!


そんなオロオロする私にお構い無しに、親子は幸せそうに服を吟味していた。


「パパにどれ似合うかなぁ?」

「そうね、あの人だとコッチのジャケットかしら……」


まさかのプレゼント選びだったのか……私は恥ずかしくなり、間違えたのをバレないように軽く早足で出ようと、入り口に向かった。


やだ……一人で来たのが失敗だったんだ。私なんかが……女の子らしくしようと思ったのが間違いだったんだ。きっと神様も私には似合わないって言っている……わたし、なんか……



恥ずかしさと自分の中の嫌な思いが顔を下げさせる。


まばたきが早くはり、口元もおぼつかない。こんな顔みられたくない……



一心不乱に歩いていると、誰かにぶつかりそうになった。


「わぁ!」

「あっ、ごめんなさい!」


目の前の女性は驚いた後、こちらをまじまじと見ている。


そりゃ、そうですよね。メンズコーナーでこんな地味な女一人……何しているって、思いますよね。


私は悲しくなり、目の前の女性から顔を背けた……


「いえいえ、此方こそ申し訳ございません 」


彼女の方からも謝りを入れてくれた。落ち着いて彼女の全体を見ると……どうやら、店員さんらしい。


私は彼女のその顔がとても美しく見とれてしまう。


綺麗な茶髪に2つくくりの髪型。肌は白く。唇も赤く柔らかそう。シャープな顔たち、そして一番は目だ。綺麗な黄色に近い茶色の瞳。


そんな尊顔に見とれていたら、服装に目がいった……黒のロングのノースリーブのチャイナシャツ? それに細目だが裾広がりの黒のパンツ。花柄のチャイナシューズ……っていうんだっけ?


独特な服装をしているが、彼女のスタイルの良さも合間って……私はそんな彼女の出で立ちに、見とれてしまった。


モデルさんみたい……




「……あの、お客様! 大丈夫ですか?」

「あっ、すっ、すいません! ついつい、素敵な方だったので見とれてしまいました 」

私、何ナンパ文句のような事いってるんだ! そんな事を言ったら流石に店員さんも退くだろう。


「ありがとうございます 」

彼女は愛想良く返してくれた。そのさりげない笑顔がまた、堪らなく素敵だ。


同姓でもデレデレしてしまいそうだ。


でも、あれ? この人何処かで見た事ある気がする……

いや……そんなわけないか……




「あの、お客様。買い物かごはご利用なられますか?」

「あっ、いえ! 大丈夫です!」

「そうですか、では、また何かありましたら申し付けください」


彼女は軽く会釈をし、可憐に去ろうとする。


ふわっ……優しいクチナシの様な香りがする……その甘い香りに誘われた気がした。


「あの、その服のデザイン変わってますね!」

そして私はその美しさに……意図もせず離れがたい気持ちが出て、引き留めてしまった。

彼女は、ほーッと息を漏らし少し考えている。


あっ、ヤバい……変なお客さんだと思われたかもしれない……

「あの! 変わってるってのは、すごい素敵という意味で! お姉さんにすごく似合って可愛いと美人が合間ってるというか! 」

私は全力で良いと思うことを焦りながら伝える。すると、彼女はニコッと笑った。


「ありがとうございます。此方のチャイナシャツは……昔知り合いから譲り受けたもので……気に入っているんですよ……」


彼女はチャイナシャツの胸当たりに手を当て、少し切なそうな顔をしてから、微笑んだ。

「そうなんですね! すごく艶感があっていいなぁっと思いました!……」


私の受け答えに、さらに彼女は嬉しそうに話してくれる。


「そういえば、メンズコーナーに何かお探しですか?」

「いや、実は……お恥ずかしながら間違えて入ってしまったんです 」

「あら、そうだったんですね? てっきり、彼氏さんへのプレゼントっとか! かと……」

「そっ、そんな……彼氏なんていないですよ 」

気恥ずかしさに身振り手振りが出る。


「えっ、そうなんですか? 可愛らしいから、てっきりいるのかと……」


私は恥ずかしくなり、さらに全力で手を振った。

「私なんて全然! うちの学校ですごく美人とすごく可愛い子がいるので……気が引けます……」

「そうなんですか……?」


彼女は、不思議そうに首を傾げる。


「では、もしよろしければ上の階がレディースなので、そちらまでご案内致しましょうか?」

「はっ、はい! お願いします!」

そう彼女に快く親切に言われ、私は後を着いていく。






「では、此方が当店のレディースコーナーですね。手前側がカジュアルブランドの各アイテム毎にわけられていて、左奥がインポートブランド。右側がドメブラになっています!」



上の階に入ると、入り口の左側にはショーケース。右には小さなレジカウンターとまたその横には別のショーケースがある。


私は店内真ん中の試着室前まで案内された。



「では、もし何かありましたら申し付けください 」


彼女が去ろうとした時、今度は彼女の髪が靡く……フワッと……

本当に美人さんだ……と感じながら、私は去る彼女に軽く会釈をした。彼女はレジの方に行き、若いかわいいキラキラした女性のスタッフと話している。


「おや、華ちゃん! 今日のワンピースの色いいじゃないか!」

「ありがとうございます! 店長! 最近のお気に入りで……」


えっ、あの人店長だったの?! 若いし、女性なのに……かっこいい……


そんな彼女に私は見とれて、ぼんりしてしまった。


私もこの人みたいに美人だったら……あの人も、私に振り向いてくれるのかなぁ……頭がボーッとしてくる……





「長瀬さん! 」

「はい! なんですか?」

「前々から、実は僕は……長瀬さんの事が気になってて……」

「えっ、でも、私なんて綺麗でもないし可愛くもないし……」

「いや、長瀬さんは可愛いよ! そして話しやすいし! 僕にとっての癒し……オアシスだよ!」


彼は私の肩を掴み見つめる。

「だめ、あなたには早川ちゃんが……」





はぁ!……私は少し垂れたヨダレで、我に戻った。あっ、あぁ……いけない、いけない……白昼夢という名の妄想が……なんで私、こんな妄想を……あれ? 店長さんがいない……


「お客様!」

「わぁ!! 」

驚いて飛び上がってしまった。


「大丈夫ですか?」

「すいません、ボーッとしてしまって……」

「今日も暑いですからね。お身体にはお気をつけくださいね 」

「あっ、ありがとうございます……」

私は話しかけられついでに、また彼女に質問をしてみた。

「てっ、店長さん? 」

「はい、店長です 」

「あの……店長さん……急に変な事を聞くんですが……お洒落をする時にどういう事を気にしますか?」


「うーん……」


腕を組み彼女は真剣に考えている。


「……まぁ、いくつかはありますが、まずは清潔感ですかね。どんな服装をしていても最低ラインにそれが無いと、会う方々に申し訳ないですからね……次にTPO、もしくは5W1Hですかね。時と場合と場所と誰となぜ…………私の場合、この店で働く時は基本、全身黒と決めているんです。他店に用事で行く時は黒をベースにした服装にしますね。プライベートでは色んな色を入れたものなんですが……まぁ……」


彼女は柔らかい笑みを浮かべた。


「基本服が好きなので、好きなものを好きな時に着ています。すいません、答えになってなくて……」

「あっ、いえ……」

彼女の笑顔の眩しさに少し退いた。



「あの……もし、店長さんが気になる男性がいて……その方に見てもらいたいと思うときは、どういう服を着るんですか?」


私、初対面で何を聞いているんだ!


彼女は此方をまじまじと見ている。


「……うーん、そうですね……私は基本のスタンスは変えないんですが……」

彼女は顎を掻くような素振りで当たり前のように答える。

「相手方の趣味趣向を少しは入れようかなぁ~ってなりますね 」

「なっ、なるほど……」


その後にちゃんとした返しが思い付かなく沈黙が流れ、言葉を探してしまう。

「すいません、変な質問をしてしまって……」

「いえいえ、私はお客様に求められたら最低限の事は力になりたいと思っていますので~」


彼女は笑顔から、少し顔を右に向けてから流し目で

「もしかして、お客様は気になる殿方がいらっしゃるんですか?」

と言われ、私は舞い上がってしまう。


「あっ、いえ、あの!……」


少し黙り込んだが彼女の視線で観念して、

「実は、そ……そうなんです……」

と私は恥ずかしく下を向いてしまった。


今、こんな事を言われた彼女はどんな顔をしているのかと思い顔を上げると……驚いて開いた口を隠しているようだ。

だが、そこから徐々に手で隠しきれない程度に、口角が上がる。


「なるほど……なるほど……そうなんですね……」


彼女はとても嬉しそうにしているようだ。


「今日お買いになりたい服とかも、決めていますか?」

「いえ、実は私……基本メンズライクのモノをよく買うんですが……今回、ちょっと女の子らしいものが欲しくて……でも、私! こんなんだから……女の子女の子したものは気が退けて……でも!……我が儘かもしれませんが大人っぽい女性なファッションアイテムが欲しいんです 」

私は初対面の相手に打ち明けた恥ずかしさで下を向き目が泳いでしまう。


「うむ、なるほど! わかったよ! 君が嫌でなかったら私も力になってもいいかなぁ!」



彼女は私の両手を掴み私の目を見た。その美しい黄色かかった茶色の瞳に引き込まれ私の気持ちは素直になった。


「おっ、お願いします!」

彼女は少し首を傾け、私を見て微笑み……


「あなたの願い叶えましょ」

と言った。






店長さんは、少し私から離れてじっくりと私を見た。


それから、納得をして店内のモノを取り出し一つ一つ吟味している。



「少女!」

そう呼ばれ、ついつい私は店長さんを見た。


えっ、わたしかなぁ……


「はい! なんですか?」

「まず、君の要望は、大人の女性ぽくだったよね!」

「はい! でも、私スカートが苦手で……ロングならまだ良いんですが、短めのものはできれば避けて頂けたら……」

「なるほど…… では、これはどうだい!」

と彼女はロングの明るめの赤オレンジっぽい色のスカートらしきものを出した。

「えっ、これ……」

「ふっふふ……安心してくれたまえ! これは実はスカートではないんだよ!」


彼女はそのスカートを少し上にあげる。


「これは、rienda シフォンのマーメイドパンツさ。リエンダは『女性らしさに大人なエッジを効かせ、艶やかさに人を魅了させる。そんなセンシュアルなデザインを表現』をコンセプトとにしている。このパンツはふんわりとした生地感とデザインで女性らしさを演出できる代物さ! さぁ、さわってみたまえ」

そう彼女に渡された。

「柔らかい……優しい感触ですね!」


私は目の前のスカート風パンツに心が踊るようだ。



「さて、次だ!」


そう彼女に引き連れられ、トップスのコーナに着た。




「まぁ、さっきが結構女性らしいものをチョイスしたからね……次に私が選んだのは……」

「えっ」


彼女は白のポケット付き白のTシャツを差し出した。

「Tシャツ? ですか?」

「うん、たしかにブラウスと悩んだんだがね。ちなみにこのブランドはDANTONだ。しっかりとした肉厚のコットン100%素材を使用して繊維の並びが均一ではなく、凹凸のある質感が魅力なんだよ。胸元のポケットに施された、ひし形のブランドロゴがアクセントでリラックス感漂うボクシーなシルエットで、気軽に毎日のコーデで幅広く活躍する1つだよ。」


また、店長さんは私に渡す。


「此方のシャツは君にはちょうど良い感じの丈感だと思うよ。少しラインを出したいならスカートにインしても良いし。ラインを出さず、ゆったりと着たいならインしなくていい。」


私はその言葉を聞きハッと息を飲んだ。



「店長さん……どうして……?」

「うん、これから言うことは私の勝手な予測だ……君は、自身に目線を浴びるのを嫌がってるんじゃないのかっと……だから、今回の女性らしい服装というのは君の中で大きな変革なのかなぁ……っと」


私は徐々に唇に力を入れた。


「ごめんね、変な事を言ってしまって……ただ、君の変わりたいって気持ちに答えたいと……」


彼女が少し言葉を探してるのが申し訳なくなる。


「いえ、お恥ずかしい話なんですが……」

「大丈夫だよ。私達は初対面だから無理に言わなくても言いんだ 」


「あっ、いや、ホントに大した話じゃないんです 」

私はついつい封を切ったように漏れだした。

「私元々ドジだけど、もっと元気で活発な女の子だったんです。でも、小学4年の時、周りと比べて一番成長が早くて。身長も一番高くなって……色々と変わっていって…………女の子たちは普通に関わるんですけど……男子たちが、からかったり、なんかスゴく見てくる事が増えて……その目線が怖くて、だからメンズライクというより自分のラインが隠れる様な服を選ぶようになって……周りから目立たないような服を選ぶようになったんです……するとすごく楽になって。見られないと言うことに慣れてしまったんです。でも、そうなると誰も助けてくれなくって……でも、そんな時に……あの人は私にさりげなく手を差し伸べて。でも……あの人は私を見てないし、あの人の瞳には私なんて映ってないんです。それで……変わりたいなぁって……」


私は今までと今の想いの丈を伝えた。店長さんは


「なるほど……君にとって今回はある意味……今までの男たちへの反逆なんだね!」


店長さんは真剣に低い声でキメ顔で言われ、ふっと笑ってしまった。

「えっ、なんですか! それ!?」

「まぁ、冗談はさておき。覚えていて欲しいのは、まぁ男と女は別々の生き物だよ。同じ人間だけど、考え方や体質等々がまったく別さ。だから、各個人がわかりあえる努力をするんだと私は思う。まぁ、仲良くしたいと思わないヤツには、しなくてもいいがね。だいたい世の中には男と女とがいる。話し合って分かり合うこともできるし、好きな事嫌いな事やくだらないことでわかりあったりしていく。少し刺激的な話だがそれでもわかりあえない部分があり、それでも相手に惹かれて好きだから、お互いの身体で埋め合わせることもあるんだよ……あと部分的、好みも種類があるが……身体や顔、声や匂い、そこまでいくと遺伝子レベルの話だがね。あとは育った環境や習慣で相手に求めることも変わるし。頭の良さや力強さ、お金や権力、優しさ……挙げればキリはないが。だから、男女が出会って恋に落ちるのは……それだけで奇跡だよね。だから、君が今想っている『あの人』への感情は大切にして欲しい……と私は思う 」


そう言った後、彼女は屈託のない笑顔を向ける。


「まぁ、君みたいな可愛い子に想われる男は、とんだハッピー野郎だよ!」


私はその発言が面白くてついつい笑ってしまう。




「さて、では試着してみるかい?」


私は嬉しくなり「はい! お願いします!」と言って、服を渡され試着室に入った。




シャー



「どうですか?」

「うん、予想通り可愛いよ! レディ! もし靴で悩む場合そのコーデなら、革靴やスニーカー、スポーツサンダルまで大体のものは合うよ!」



私は頑張ってTシャツをスカート風パンツにインしてみた。




彼女は私をジーッと見て、少し考えている。


「華ちゃん! 内線で鈴木か田中に私の化粧道具を持ってこいと言ってくれ!」


華ちゃんと言われるスタッフもノリノリで敬礼のポーズをする。


「わかりました! 店長!」


それから内線をかけ、さっきのサングラスのスタッフが化粧道具を持ってきた。


「さぁ、少女。少しの間、目を瞑っていてくれ 」

「えっ、何するんですか?」

「安心してくれたまえ、目を瞑っていればすぐ終わるよ」


彼女は不適な笑みを浮かべ、椅子を出し私は座らされた。



そして、私は目の前の女性を信じ目を瞑る。






「さぁ、できたよ! 開けてごらん」


私はゆっくりと恐る恐る眼を開けた。



えっ、これ……私……?


私は目の前に映る姿見を手で触れる。彼女は身震いをし、嬉しそうにした。


「うん、やっぱり! 私の見立て通り。君はオレンジが似合うね。肌の黄味が強くイエローベースのオレンジリップもアイシャドウも肌に馴染むし、髪の毛も少し茶髪よりだしね。それは地毛かい?」

「はい、生まれつき髪の毛は他の人よりメラニン色素が薄いみたいで」

「うんうん、君の愛嬌のある感じに合間っているし」

「私、愛嬌ありますか?」

「あるよ! さっきから話してたら身振り手振りが大きいから見てて、とても愛らしいと思うよ 」


私は目の前の美人に、誉められとても恥ずかしくなる。


「でも、私なんて……ホントに可愛いのかなぁ……歯並びが八重歯気味だし、元々少しジト目っぽいし……」

結局自信のなさで、愚痴をこぼしてしまった。


そんな私に店長さんは私の肩を優しく掴み落ち着いたトーンで言葉を紡ぐ。


「君、言っただろ。君はとても可愛い。愛くるしいよ。それに、女の子には可愛くなる権利があるんだ。そういえば、とある椎名先生も言ってたよ。『女子は誰でも魔法使いに向いてる』っとね。だから後は…………自分自身で、どうなりたいか選ぶだけさ 」


そう言われ、背中を優しく押された気がした。私は、その誠実味と真実味が混ざった言葉に

「はい! 」

と力強く答えた。




「あと、これは君のその時の気分で着けてくれたらいいと思うんだが……」


彼女はひょいっと黒いベストらしきものを出す。

「これは?」

「idemのフィッシャーマンベストさ。いわゆるフィッシングベストだよ。近年アウトドアファッションが流行っているんだ。少しミリタリーぽさも出せるし、君が元々やっているメンズライクも出せる。今しているメイクも合わせ、君の元々あるであろう、元気さや活発さが表現できると思うよ。まぁファッション界隈では、お洒落上級者向きと言われてるね。ある意味今回のコーデのコンセプトは戦闘服さ 」

「戦闘服?」

「そうさ、私は黒の服を着てる時は男どもにも負けない。まして、どんな苦難が来ても戦い続けるという現れだと思って着ているんだよ。君はその服や今回の定義である戦闘服に、どのような想いを込めるかね?」

「私は……」

私は考えたが咄嗟に出た答えが、これしかないと思い伝える。

「私はこの服を着て、弱い自分自身に負けないっと想いを込めて着ます!」

そう意気込んで返すと、彼女はキョトンとした顔をした。


「弱い自分自身に、負けない、っか…………ふっ……ふふふふ! いいね! すごく良いと思うよ!」

彼女は先程の顔を崩し、笑ってくれた。私も嬉しくなり微笑み返した。






それから、私はベストとトップス、スカートを購入した。


店長さんが

「良かったらそのまま着て帰るといいよ。」

と言われ、Tシャツとスカートを着て帰ることにした。


彼女に店前まで見送られる。


「きょっ、今日は本当にありがとうございました!!」

必死に礼を伝えるため、大きく私は頭を下げる。


「いやいや、大したことでは無いよ~ まぁ、私、普段店では女性のコーディネイトしないんだ~」

「えっ、そうなんですか……どうして?」

「女性には、それぞれこだわりがあるからさ。彼女たちには自身が、なろうとする姿が多少見えているからね。私のアドバイスは余計なモノだ 」

「なるほど……私には、なりたい自分自身が分からなかったですし……」

「いや、あと君の場合は……なんとなく特別なお客様だと感じてね。応援したくなったんだよ。知り合いに似ててね 」

「お知り合いですか 」

「まぁね! そいつはすごくいい奴すぎるんだが……君もそんな気がしたんだ 」


そう言われ恥ずかしくなり、また軽く頭を下げた。

「あの……また、お店に着てもいいですか?」

「あぁ! もちろんさ! 君みたいな可愛いお客様の相手なら喜んでしよう! また、おいで! 少女!!」

「はい! また来ます!!」

私は彼女に手を振り、彼女も軽く手を振り返してくれる。


私は胸を張りまっすぐ歩き出した。



少し歩いて、もう一度店の方を見ると彼女はまだ見送ってくれている。


あれ? 遠目で見ると……あっ! ちゃんとメンズとレディースの案内出ている!! 近くだと気付かなかった……本当にこう言う所ドジだよなぁ……


まぁ、でも……今日、私は素敵な出会いをしたんだ! とウキウキと胸を弾ませまた歩き出した。




そんな満足な時間を過ごしたすぐ……目の前から走ってくる人がいる……


あれ、佐藤くん!! えっ、なんで! なんでこんなところに……まさか、私を迎えに来てくれたの!?


もしかしてまた妄想なのかも動揺していると、彼は真っ直ぐ通り越した……



えっ!!


後ろをまたも振り向くと、佐藤くんは明るい声で

「千里香さーん!」

と嬉しそうに手を振っている。

「おお、少年! なんで、走ってきたんだ?」

「いや、千里香さんが店前に出てるので珍しいなぁっと思って」

「君は犬かい?」

「まぁ、犬っぽいって言われますけど……なんで店前に?」

「いや、さっきまで可愛いお客様の接客をしていてね……」

「へぇ! それは珍しいですね……」

っと二人は店内に入っていった……



えっ、佐藤くんと店長さん知り合いだったの!!! それで、早川ちゃんも知ってたのか……



『まぁ、すごく面白い人だから~ それに、実はその人、魔女とも呼ばれてるんだ。』

早川ちゃんの言葉が過った。



そっか、あの店長さん……魔女だったんだ。すごく、素敵な人だったなぁ……

そんな思いに更け、私は何となくレシートを取り出した。



ふと、レシートの裏に何か書いてある……


『今日は私の相手をしてくれてありがとう。いつでも来てくれるのを待っているよ。あと、君は本当に可愛いよ!』

by 小野寺 千里香



ふっ、と笑いが込み上げる。律儀で面白い人だった。


それに……へぇー店長さん、『おのでら』さんっていうのか……下の読みは、あっ、さっき佐藤くんが『ちりか』さんって言ってたなぁ……でも、これ『せんりこう』とも読めるし……『せんりこう』……?……はっ!!


私はスマホの画像フォルダを出した。



あぁ!!! 嘘でしょ!! えっ……『Senriko』さん!! えっ、絶対そうだ……でも、なんでこんな所に……



私はまさかの奇跡に驚きで胸が踊った。





カシャッ!



そんな音が鳴り、私は振り向く。


「いや~、すいませんね。ついつい可愛い方なので写真を撮ってしまいました 」


半袖ボタンシャツのスラックスを履いた、丸メガネをかけた細めの年齢不詳感のある男が私の写真を撮っていた。パッと見、思い浮かんだのがコウモリ男……私は恐くなり少し後退りをする。



「あぁ、すいません、怪しいものではないんです 」

と目の前の男は名刺を差し出した。



『 株式会社 群青社 週間 群青 五味 真澄 』 と書いてある。



「あの、あなたはあの店の常連さんですか?」

そう聞かれ、私は黙って首を振った。

「そうですか、親しげに話してたのでと思ったので……私、あそこの店の店長さんの事を調べておりまして、万が一何かありましたら下記の電話番号かメールアドレスに一報頂けたら嬉しいです 」

にやにやと彼は軽く会釈をして去っていった。




なんだったんだ……あの人……

私は首を傾げる。






そして帰宅して部屋に入り、姿見で確認する。夢じゃない。すごい、本当に私……魔法にかけられたみたい……


本当にあの人は魔女だったんだっと改めて感動していた……ふとっ、彼女の言葉が甦る……



『相手方の趣味趣向を少しは入れようかなぁ~ってなりますね』



今回のコーデでは、彼が好きな趣向は入っていないかも……

私はある考えが頭を過って決断をした。



スマホである事を調べてから、

「お母さん! ごめん、また家出るね!!」

と衝動的に動き出した。




こんなの初めてだ……前に前に進む。人からしたら、私は速いか遅いかは知らない。ただただ、今走ってる感じが最高に気持ち良くて止められない……



わたしは水を得た魚のよう、夕方の街を走る。






後日、私は店長さんにしてもらったコーデで教室の前にいる。



リエンダのバートンオレンジのシフォンマーメイドパンツ。ダントン、ポケット付き半袖白Tシャツ。白のCONVERSEのスニーカー……そして、あのイデム、黒のフィッシャーマンベスト。




これは私にとっての戦闘服。弱い自分に負けないための……


息を整わせ、教室の後ろのドアを開ける。彼が居ることを確認して、私は彼の方へ真っ直ぐ歩み寄る。


彼は宿題のやり忘れをやっているようだ。邪魔になるかもと思ったが……止まることはできない。


私は彼の後ろに立ち

「佐藤くん!」

と呼び掛けると、此方を振り向く。


彼は眼を見開き、口を半開きにして驚いているようだ。



開いている窓から柔らかい暖かい風が私の髪を揺らす。



私は……髪を切った。彼が好きだと言った『出藍の誉れ、梅園藍』に寄せて……だいぶ短めに。もしかして、彼はドン引きするかもしれない……でも、私を見て欲しいと想ったんだ!


「どっ、どうかなぁ!」

彼は少し戸惑いながらも、

「うっ、うん、いいと思う」

と答え、その言葉で私はついつい後ろを向く。

「後ろもスッキリと、こんな感じにしたんだ!」

そう言って見せて、もう一度彼の顔を見る。

「す、すごく、似合ってると思う……」


少し彼の顔が赤身を帯びてる気がした。


その赤くなった顔を見ていると私も身体が熱くなり、お互い顔を下げてしまった。


「それじゃ、そろそろ席に戻るね!……じゃ!」

「うっ、うん、じゃ!」


私は自分の席へと早足で戻った。


私のヘタレ……


そう過ったが、ふと店長さんの顔が浮かぶ。『だから後は…………自分自身で、どうなりたいか選ぶだけさ』


今日……私は頑張ったんだ。彼に少しでも歩み寄れたんだから……私も人魚姫の様に歩けたのかな……?


それを考えると、少し毅然となれた気がした。そして、さっきまでの臨戦態勢状態は抜け、少し力が抜ける。席に着いたあと、早川ちゃんがちょうど登校して、私の顔を見る。


「おはよ! あれ? 優ちゃんどうしたの顔が赤いけど……」


私は赤らめた顔で必死に誤魔化すのを考えた……


きっと、私が彼に熱い視線を送ったのも……彼を焦らせた、すべての仕草は……そう……答えは……


「たぶん……かぜ…………かなぁ……」


「えっ、大丈夫? 保健室に着いていこうか?……」


「いや、たぶん大丈夫だよ! 微熱だから!……」

私は手で仰ぎながら全力で誤魔化した。






そして放課後……私は進路についての紙の記入で教室に残った。


誰もいない教室……一応やることが終わり、立ち上がった。

すると……



ガシャーン! バサバサ、チャラチャラ、チャラチャラ……



と、うっかり机を倒して、机の中身と机の上にあった筆箱の中身をぶちまけた……


ああ、いつまで経ってもドジな私……トホホホ……っと思いかき集めていたら……



「大丈夫?」

すかさず近寄って集めてくれる。その優しい柔らかい温かみのある声。

「ごめんね! 佐藤くん!」

「いや、忘れ物を取りに来たら、教室からもの凄い音が聞こえたから……」


二人で急いで集め終わり、

「ありがとう!」

「いや、大したことないよ。もしかしたら、急いでいるかもしれないけど、ケガしないようにね!」

と笑顔を向けて見てくれた。




えっ……私は一年前を思い出す。あの時とほぼ同じ言葉だ……あなたも……覚えてくれてるのかなぁ……



私は嬉しくなり身体が熱くなる。

「あ、ありがとう!!」

と言って、大きく頭を下げて、早足で出ていってしまった……


変な女だと思われたかもしない……でも、一年前から、あなたの優しさは変わらない。




私の足はどんどん速くなっていく。どんどん速くなる息……目は潤んでくるし、顔が熱い。口元がほころぶ……いや、にやついている。



そんな口元を隠しながら、急いで校門に出る。私の足は止まらない。

前方から楽しそうに自転車に乗っているショートヘアーを靡かせた女の子。それを追いかける男の子たちが通りすぎる。

小学生くらいだろう。その光景が羨ましくもある。私もそうなれたら……



そして私の頭に過るのは……いつか、あなたといつか……千年に一回の日を……永遠にしたいあの日を……いつかあなたと千年に一回の月を……砂浜や海で……



ずっとずっと、きっと私は……ずっとずっと、きっと前から、ずっと隠してきたけど……


私の答えは……やっぱり……忘れられないの。



今回も長いのに読んでいただき誠にありがとうございます!


今回も前書きで述べたとおり、少女漫画風の展開を描きました。


地味な女の子が頑張ってお洒落をする……

という展開。


ちなみに『出藍の誉れ』はもちろん、今回もタイトルを変えておりまして……

元ネタは

昔、『藍より青し』という作品がありまして、そのメインヒロイン(CV 川澄綾子さん)をオマージュしております。


なので、優ちゃんの髪型が気になる方がございましたら

調べていただければ幸いです。

ホントにすぐ出ます。



まぁ、タイトルの『たぶん、かぜかな……』が終盤で駄洒落みたいに回収したのは……

すいません(汗)


でも、やってみたかったですが、お洒落に回収できませんでした……( ̄▽ ̄;)


今回、分かる方には分かるとタイトルと内容のワードで

好きなバンドのオマージュしてます。(あと少し引用)




あと、千里香さん以外で女性目線を描きたいってのも今回の話を作るきっかけでした。

(早川さん視点は描かないつもりなので…… 理由としてはこの作品のメインヒロインで、ヒロインの気持ちは分からないし見えないなあってのが正直な所なので)


優ちゃんは、佐藤くんに似ているんだと思います。

なので、今後佐藤くんが

憧れを選ぶのか、自分と感覚が近いのを選ぶのかが今後の流れです。


あと今回登場した、五味は後々絡んでいく予定です。



今回も長いのに読んでいただき誠にありがとうございましたm(。_。)m!

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