11A 後の祭りと行進#2
今回も読んで頂誠にありがとうございますm(。_。)m
今回で、荻野目さん回が終わります。
たぶん、今回はいつもより短いので読みやすいと思います!
11A-2 みんな、この指とまれ
千里香さんが荻野目さんを連れて戻ったきた。二人の間にはいつの間にか友情の様な絆が生まれている。
彼は、何か……荷を卸したような感じになっていた。
ただ僕は彼を許せない。許せる自信など無い。何度もヒドイ事を言われ……僕が何度もヒドイ事を無かったように振る舞うものなら、また同じように振る舞う。
こんなのイタチゴッコだ。
取り敢えず今は彼からの目線を感じる度、背を見せる。
この人の話を聞くたびに、ただ嫌な気持ちになるだけだ……
イベントが終わり、千里香さんが腰に手を当てて大きく投げ掛けた。
「さっ、子供達は帰りたまえ! 後は大人達で片付けるから! まぁ、一条くんは家の手伝いで午前の部が終わったら帰ってしまったが……」
「それじゃ、俺、帰ります」
すると荻野目さんは此方を見ている。
「僕はもう少し手伝いますよ。他の人たちも疲れてるみたいだし、一人でも多い方がいいでしょ 」
千里香さんは僕をジーッと見る。その視線に負けじと見つめ返す。
「はぁー……わかったよ。少年にはもう少し手伝って貰うよ」
そう言われ安心した。
荻野目さんは物寂しげに名残惜しく帰っていく。
少し作業をやり、彼女は取り敢えず一休みとして、さっきのステージの近くに椅子を置き二人とも座る。
「ふぅー、さて、少年。やはり荻野目くんの事を許せないかい?」
彼女が落ち着いたトーンで首を傾げて話した。
「まぁ二、三か月の事を思うと、許せる自信がないです」
「そうか……」
彼女は目線を上にやりながら鼻息を抜く。
「でも、私は彼の事……悪いヤツだとは思わないよ」
「まぁ、悪いヤツと嫌なヤツは別ですからね……」
「少年……言うようになったね~」
彼女は目を丸め感心しているようだった。
「まぁ、荻野目くんの事は君が決める事だよね。私は、とやかくは言わないよ。でも……」
彼女は切り替えて、いつものテンションに戻った。
「今日のコーデも良かったろ?」
「はい! 千里香さんのあのコーディネイト、すごく勉強になりましたし、買いたくなりましたよ! まぁ、フランネルは高くて買えないですが……」
「うん、でも、試着ってそれだけで意味があると私は思うよ。服を着ると言うことはまた違う自分に変わると言うことなんだから 」
「そうですね!」
「荻野目くんのコーデも良かったろ!」
「はい。シンプルで無骨なんだけど今流行りのシルエットだから、格好いいし可愛いし。なんやかんや、あの人凄いんだとは思いましたね 」
「うん、彼は凄い人間だよ。ただね、どうでもいい人間には器用にこなすが……大切にしたい人間には本音や正論や第三者意見をぶつけたくなる、不器用な人間なんだよ 」
僕はその言葉を聞いて、不思議に思った。
「そういう意味では、変な人ですよね。まるで昔のコントのタイトルみたいです 」
彼女は僕の話しに興味をもったらしく前のめりで、僕に顔を近づける。
「なんだね、それ……コントのタイトル?」
「昔にですね……ソーメンズっていうカリスマ的に流行ったコント師がいたんです……今は片方は俳優。もう片方はパフォーマー兼プロデューサー等やってます。まぁ、そのコントのタイトルが『不器用で器用な男と器用で不器用な男の話』っていうんですが……まぁ、内容と今回の事は全然違いますが……」
彼女はふっと吹き出し、クスクスと笑う。
「えっ、なんですか?」
「えっ、だってタイトルだけ聞いてると、君たちみたいな関係なんじゃないか?」
「どこがですか?」
「彼は器用そうに、物事をこなすが本当は不器用で、君は不器用に物事をやるが実際的には器用にこなしてるじゃないか!」
「……あぁ! なるほど!! えっでも、僕、器用ですかね?」
僕たちは目が合い、納得して一緒に笑う。
「でも、まぁ……確かに彼は変人ではあるが結局は変人を演じてるでしかないよ。本人自体、多少は自覚しようとしてるし、ちゃんと常識や良識はある方だと思うよ。まだ、若いしね……ヤバいヤツではない……むしろ、君の方が本当はヤバいヤツなのかもよ~」
「えっ、何ですか、それ?」
「冗談だよ、冗談!」
僕は珍しく、彼女の今の言葉が少しだけ引っ掛かった。
「まぁ、先程の不器用な人の話しになるが……不器用な人間は仲良くしたいと思う相手に、プレゼントをするそうだ。最初はそういうやり方でしか仲良くなる方法をしらないからそうだ……」
「へぇ~、そうなんですね……」
話が盛り上がる前に僕たちは立ち上がる。
「さて、もう一仕事、片付けちゃうかね!」
「はい!!」
また片付けを再開した。
千里香さんはどうやら、荻野目さんの事を気に入った様だが僕はまだ許せずにいる……
見事に全てが終わり、帰り道一人……空を見上げる。
空には珍しく、濃くも強い色の黄金の月が浮かんでいる。
まるで、魔女か悪魔が来そうな夜だなぁ……と思った。
魔女なら、さっきまで会ってたけど……
それから休みが明けた、週の始め……朝早く目が覚めてしまった。
ただ、僕には選択肢が二つある……早めに学校に行き、荷物だけおいて図書室等どこかに行き荻野目さんを避けるか……ギリギリに行き、話さずに避けるか……
とりあえず、僕は早く目が覚めて、もどかしいので……前者を選ぶことにした。
「あら、かずちゃん。今日は家出るの早いなぁ~」
「今日は早めに行って用事とか済ませようかなぁ~って」
「そうなん 」
「うん、あっ、お弁当ありがとね!」
「気をつけて行ってらっしゃい! お友達と仲良くなぁ~」
僕は『お友達』というワードで少し荻野目さんの事が頭に過ったが、
「あっ、うん、いってきまーす!」
母に見送られて家を出る。
そして、教室の前にいた……
まぁ、僕にしたら早い方だし、あの人はいつも……もう少し遅いし居ないだろう。
そう気軽に考えて教室のドアを開ける。
ガラガラガラ……
「えっ」
ガラガラガラ……
僕は驚いたができるだけ静かに急いでドアを閉めた。
何でこんな朝早くいるんだよ! 荻野目武國!!
あっ、でも、今の行動おかしいと思われたかな……まぁ、いいや。無視をすればいい。どうせ、彼と僕は関係ない。荷物だけ、さって置いて……
もう一度ドアをあけ、真っ直ぐと自分の机に向かい荷物を置き、椅子に座り机に教科書を入れる。
たぶん、彼はこちらを伺ってる気がする……そんな目線を感じた……
筆記用具とノートを持ち、図書室にでも逃げようと立ったその時……
「佐藤くん!」
真っ直ぐ誠実身を込めた彼の声が僕に向けられる。
ついつい、その声に僕は彼を見てしまった……
ザッ!
彼がしっかりしたビニール袋を僕に差し出した。
「えっ、何ですか? これ?」
「いや……今まで……悪かったなぁ……っと思って……」
彼は右斜め下を向いる。
「いや、いいですよ。そんなの……」
僕は目の前のモノを受け取ると……この人を簡単に許してしまうのが嫌だった。
「いや! ダメだ! 受け取ってくれ!!」
彼は顔を上げて、真っ直ぐな瞳で僕を見る。そして食い下がり、その強い意思と実際に強い力で袋を強引に僕に渡した。
僕は渡された袋をまじまじと見る。中を見ると……
くすんだ明るめのピンクのボタンシャツが入っている。
パッケージされている袋も、花柄でかわいい。
「かわいい……」
僕は率直な意見をボソッと呟いた。彼は僕の反応に満足そうな顔になる。
「それはこの前も、対決とかで使ったブランドの『レアセル』さ。君に改めて似合うと思って……」
彼は手で促すように、
「さぁ、開けてみてくれ!」
僕は言われた通り、パッケージを開けてシャツを広げた。
両サイドについている大きめのポケット。その両ポケットの上にはボタニカル刺繍がしてある。僕はついつい、その刺繍に見とれてしまった。
「えっ、でも、花柄……」
「それくらいなら、派手ではないし……君の笑顔は、その花のようだ。だからその花のようにいつまでも、その笑顔を咲き誇って欲しい 」
その言葉に少し恥ずかしくなり、僕は視線を下げた。シャツの下に値札がついているのに目がいき、見てしまった。
えっ……
「……9800円……」
「ん、どうしたんだい?」
「いや、値段がちょっと……流石にこれは受け取れないですよ!」
「えぇ!! いや、受け取ってくれ! 俺にとっては大した値段ではない 」
「いや、僕にとっては大した値段ですよ!」
「クソ! 値札外すんだった!」
僕たちは可愛いピンクのシャツをを押し付け合う。
クラスメイト達はぞくぞく登校してきて、僕たちのやりとりを見て近寄ってくる。
「なんだよ! お前ら何してんだよ!」
「何々?」
「佐藤くんと荻野目さん何してるの?」等々。
僕達は必死に押し問答をするので、気張ったように唸る。
「ちょっと色々あって、荻野目さんに服を貰ったんだけど悪いから返そうとしてるんだよ。」
「俺は色々悪いと思って、それに佐藤くんに似合うものを真剣に考え選んだんだ! 受け取れ!!」
僕は何とか、彼に服を押し付けた。
よし! 勝った!! 普段文句しか言わない彼についつい力で勝ったことでほくそ笑んでしまう。
すると荻野目さんはワザとらしく泣きそうな顔になり、鼻をすする。
「すん…… せっかく君に似合うと思ったのに……お、俺の気持ちを……すん、受け取らないなんて……すんすん……」
そして、彼は手で顔を覆った。そんな様子を見ていたクラスメイトの半分は荻野目さんを憐れみ……もう半分は僕を睨みつけた。
「荻野目がかわいそうだろ!」
「そうよ! 荻野目さん、かわいそう……」
「いいじゃん! 荻野目さんにとっては対した額じゃないんだって!」
後半には面白がりだす奴も出てきた。
なんだよ、僕が悪者みたいじゃないか……
すると、一条くんが僕に近寄り僕の肩にポンっと手を乗せる。
きっと一乗寺くんなら僕の気持ちを理解できるだろう……
「佐藤くん、人のご厚意は素直に受け入れるべきだよ ……」
一条くんまで、僕を意地悪な子供扱いし始めた。その全体の空気感に耐えれなくなり根をあげてしまった。
「わかったよ! 受け取ります!」
僕が根をあげると、なぜかクラスが沸いた。
すると、荻野目さんの顔は明るくなっていき、照れて指で鼻を啜る。
「それじゃ、次は着てきて……」
「はぁぁぁ!!!」
その急な要求に驚いていると、また同じようにクラスのみんなに促され、僕はトイレに行き着替えて戻ってきた。
教室に戻ると、クラスのみんなが
「おぉ~!! いいじゃん! 似合ってるよ佐藤! さすが、荻野目!……」
等言っている。
荻野目さんは満更なさそうにニヤニヤしている。
「ふっ、やはり俺の見立てに狂いは無いな。やはり君の、その笑顔と花は一緒くらい良い 」
臭い台詞を当たり前のように低い声で言った。そんな事を言われ少し満更でもなくなった。その理由が以前から僕が気になってた事だと思い口に出す。
「そう言えば、荻野目さんの声って、良い声ですよね 」
「なんだ、急に……」
僕の発言で彼は微かに慄いた。それを見て僕は悦に入り攻めたくなる。
「いや、前から思ってはいたんですが、低くて響きがあって…………かっこいい!」
誉めていると荻野目さんは、さらに照れ顔を背けた。
「くっ、馬鹿にしやがって」
その『馬鹿にしやがって』が面白く感じる。
「『馬鹿にしやがって』」
「はぁ、真似をするな! 馬鹿にしやがって……」
「馬鹿にしやがって……」
僕たちのやり取りを見て、他の人たちも目を合わせ小声で『馬鹿にしやがって』と呟く。
そして、クラスのみんなにも伝染し『馬鹿にしやがって』が広まっていった。
彼は次第に人気者となった……いや、カッコ良くてっとか、お洒落なヤツとかじゃなく……変な人と言う意味で。
でも、人気者になって色んな人に呼ばれる彼は……
なぜか……だいたい、僕の隣にいる……
服を渡された日の放課後、荻野目さんと一緒に帰る。
たいわいも無い会話をした。
今日くれた服の話しになり、僕はふっと笑う。
「急に何?」
「いや、そう言えば千里香さんが言っていたなぁって……」
「ん? 魔女が? なんて?」
「『不器用な人間は仲良くしたいと思う相手に、プレゼントをするそうだ。最初はそういうやり方でしか仲良くなる方法をしらないからそうだ。』って。荻野目さん僕と仲良くなりたいんだっと思って~」
僕がニヤニヤ笑うと彼はムッとした。
「あの魔女め……馬鹿にしやがって」
「馬鹿にしやがって 」
「真似をするな!」
僕たちの凸凹とした関係は、ここから始まった。
彼は基本、僕を誉めない。彼は時にはデレるが、時に辛辣な事を言う。
僕はその度振り回されるが、心の底から嫌いにはなれない。
僕たちに結ばれている不透明な糸は……一回、切れてしまった。だが、その不透明な糸は……また結ばれどんどん強く結ばれる。今は、脆く、引いたらすぐほどけてしまう蝶々結びは次第にほどけなくなっていく。そして、色も強くなっていく。
彼にはその糸はどう見えるかわからないが……きっと、濃い紫色の糸だ。
今回も読んで頂き誠にありがとうございます!
今回のサブタイトルの『この指とまれ』は、
作中に、二人が変なやり取りをしている所をイメージで着けました。
友人関係って色々ありますよね。
自分を肯定してくれるタイプや、自分に対して真剣に注意や怒ってくれるタイプ。
荻野目さんは後者のタイプかなぁって。
このタイプの友人を探すのって難しいなぁ……って思います。
また私自身、若いときは友人に対して嫉妬とか多いタイプだったので、その要素も入れさせて頂いております。
今回も最後まで読んで頂き誠にありがとうございましたm(_ _)m!!




