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古着屋の小野寺さん  作者: 鎚谷ひろみ
sweet&salty
20/52

11B 真夏の夜の夢 #1


今回も観ていたき誠にありがとうございます!


前回の続きで、違う目線のお話です。


今回も長いです。 なので、ゆっくり読まれましたら幸いです。



11B-1 アシンメトリーな顔たち




俺は明かりを消し自室でテレビをつけている。本棚には沢山の小説と戯曲。お気に入りの漫画。イラスト集。有名な劇団から小劇団の公演のDVD。海外から邦画のドラマと映画のDVDが並ぶ。

そしてデスクトップとノートパソコン。この空間がとても居心地がいい……




俺は今……中学の演劇部だった頃の……まだギリギリ繋がりのある奴から送られてきた、『第一回 全国中等学校演劇大会』のDVDを観ている。

そのうち何枚かある、一つの演目を久々に取り出した。


まぁ……このDVDを送り付けてきた奴は…………きっと、俺に対しての当て付けだろう……俺はこれを送られてきた時……そう、前回の時は観ててボーッとしていた。

観ることより……俺の頭の中に浮かぶのは……演劇部だった、あの頃だ。

その記憶が観ることを、遮らせる……




倍速でDVDをかけ漸く、俺が確認したい学校が出てきた。そして、そのシーンがきた……



『すいませーん! 僕たちも助けてくれませんかー!!』


その画面の男……いや、情けない学生を演じている役者が台詞を発した。


高めの綺麗なやわらかい声質……


「えっ、やっぱり……嘘だろ……」


綺麗めな高めの声質だが、その男子は、けっして滑舌は良いとは思えないし、台詞回しや芝居はうまいとは言えない……でも……さきを観るに連れて、惹き付けられる。

そして、アドリブらしいところで笑いをとり、不覚にも俺もフッと吹き出してしまった。


そして、最後の彼のシーンで悔しいが……少し感動してしまった。



やっぱり、でも、なんで……君はやっぱり、そうだったのか……俺は目を見開いて、画面に目をやる。



「でも、やっぱり……嘘だろ……なんで…………」

俺は自然と言葉を漏らしていく……

「……佐藤くん…………」


俺は薄明かりに照されながら呟いた……目の前の画面に映る、佐藤一成らしき男は相手役の女子の手をとり、微笑んでいる。




その見終わった後……このうわずった気持ちを納めるために俺は、彼について色んな方向から調べる事にした。

パソコンで調べながら頭に過るのは昔の事ばかり……



なんで、俺はあの舞台に立てなかったんだ……俺より下手な奴ばかりなのに、なんで…… 俺の演出、修正した本は完璧だ!そう……悪いのは俺に合わせられなかった……

あいつらが悪い……一生懸命にやっていたのは俺だけだったんだ!…………くっ!

俺は震えそうな左手を強く握りしめる。



『おまえ、いつも勝手だよな』

『いいよ。おまえ一人でやれば、俺たちは降りるよ。』

『そんなにお前は偉いのか?』

『おまえ! 人の気持ちわからないよな』

『ごめんな、荻野目……』



……うるさい! 黙れ!! お前らなんて……所詮、足手まといだ!


俺はまた震える手を抑えるため……今度はキーボード、クリックが打つのが強くなっていく……



クソっ!!






二年前、俺は中学の頃……演劇部だった。

なんで演劇部を選んだかと言うと……ちょっとした理由ときっかけだ。人がしゃべる時の声……音というものに、いつからか敏感になっていたからだ。



そして、元々、俺は器用でやれば何でもできるタイプの人間。もちろん、それに伴う努力もしている。まぁ、俗にいう神童という奴だ。


だから、引く手あまたに部活の勧誘がきた。ただ、部活紹介で見た演劇部が忘れられない。俺はとりあえず先に他の部活で体験をする事にした。


入部体験先でだいたい言われるのは、『うん、君、いいよ! 是非、ウチにきて欲しい!』

俺はどこでもそう言われ、気分がよく、どれにしようか悩んで最後に演劇部に行ってみた。



行ってみると顧問は若い女性の先生で、俺ともう一人の奴に3枚ほどの原稿を渡した。


「それじゃ、君と君。今から10分あげるから読んでね。もし、できるんなら台詞覚えちゃってもいいし、原稿を見ながら動きつつ台詞を言って掛け合いしてみて?」


そう言われ、俺は見事に台詞を覚えて先生の前でやってみせた。



だが、そんな俺自身の好感触とうって変わって、彼女は笑顔ながら言葉を選んでいる。

「うん、すごいね。見事に台詞は覚えている。でも…………うん、それ以上に、他ができてないね 」

「えっ…………」

俺は今まで、そんな事を言われた事がなく……呆然とした。


俺は言われたことは、こなした、はず…………それに中学入りたての子供にそんな率直に言うか? っと思い納得できず、まだ思索する彼女に当たるように答えを問いた。

「あの、何ができてないんですか?」

「うん、それじゃ、このシーンはどういうシーンなの? それと君にとって相手の役はどういう関係? 君は相手の役者の事を考えて動く事できた?……」

等々、問われたが何一つ答えられなかった。俺は言いわれて、悔しく瞼に涙を貯めた。



彼女は近づき俺の目線にあわせてポンっと頭に手を乗せて優しく撫でてくれる。


「大丈夫!! 君は今からすごく伸びるよ。人の感情を理解したり想いやる気持ちがあれば、すごく良い役者になれるよ。」


そうやって屈託の無い笑顔を向けた。


俺はその綺麗な笑顔に、恥ずかしくなり目を反らしてしまう。

「……わかりました…………入部します 」

「うん、よろしくね! 荻野目くん!」


そうやって俺の演劇部への日々が始まった。でも、彼女は結局、一年後に他校に移った。

別れは少し悲しかったが彼女は最後も笑顔で部員の俺たちと別れた。


そして、俺は順調満帆に三年生になる。


この年、初めて中学生の演劇部による全国大会が開かれることになり、勿論ウチの部も盛り上がった。


だが出場できるのは三年生のみというルールがある……


俺は……他校に移った彼女が……あの笑顔が頭に過る。

もしかしたら他の場所でも演劇部の顧問をやってるかもしれない……彼女に成長した俺を観て欲しい。

俺は同学年部員たちをを説得し、台本を決めた。


『真夏の夜の夢』



もちろん、有名なシェイクスピアの戯曲だ。だが、一般の方々がこの本の面白さに気付けるのか? あと、制限時間は50分以内。なら、俺なりに演出と本を短くしエンターテイメントを入れた作品にしようと考えた。


本が書き上がり、出る三年生の部員に本を配る。


奴らは、

「難しいと思ったけど、さすが荻野目! いいね!」等々言われ、やることを決めた。もちろん、俺もオーヴェロン役として参加する。



そして、稽古が始まった……が、所詮……中学生の演劇部だ。俺みたいに必死にやろうとしないし、同学年たちは続々と辞めた。


最後には……『おまえと芝居をやっても楽しくないわ! 独りでがんばれよ……』っと皮肉混じりに言われて……勿論、結局予選を辞退した……それから、部活を引退し、打ち込む事がなく……ただ呆然と受験勉強をやる。そして、父の影響でパソコンやネットに関する技術を勉強することにした。


中学を卒業し、高校に入ってパソコンの技術を使い、父のツテでアパレル関係のネット管理のバイトを始めた。勿論、お金には不自由は無いが父が『社会勉強のためやってみたら?』という事を薦められ、始めた。


それからアパレルに関わり、服関係も興味を持ちそれなりに詳しくなった。


忙しくしていたら、きっと……過去の事……演劇に関することを忘れられる……そう思った……






ふと、日差しが差し込み、俺の顔に当たっている。

まぶしい……俺はうつ伏せになっていた体を上げて、目を擦る。


昨晩、必死に調べてる最中に眠ってしまったようだ。






佐藤一成という男に会ったのは二年の新学期。



隣に座る男に急に

「不束者ですが、よろしくお願いします 」

と咄嗟に言われたからだ。


俺は初対面で何言ってるんだと思った……だが、あれ、何処かで見た記憶がある……この声……高めの綺麗めな声……と俺はじっくり見てみたが思い出せない……


俺はとりあえず、彼の言う『不束者』っと言うワードを借りて返答した。



そして、先生が入ってきて、担任はあいさつをする。


「お前たちに、人として『相手の気持ちを考える』『相手の立場に立てる』、大人になって欲しい。あと、相手にやられて嫌なことはするな。そして、別に無理して仲良くはなるな。嫌な事は嫌だと言って欲しい……」

等々……まぁ、先生という職種だからだろう。どこもかしくも、綺麗事という名の御託を並べて……世の中はそんなに人が良い奴らだと良いだろうなぁと、俺は鼻を小さく鳴らした。


そして、各々自己紹介という流れだ。



俺は高一の頃、それなりに無難に人間関係をこなしてきた。

誰かとすごく仲良くなるわけではなく、クラスの集まりには参加し周りの奴からの俺への評価は無難に良い奴だろう。

繕った笑顔で、嫌な事は言わず……うんうんと、相手の話を聞く。

すごく仲のいい奴……別にいらない。俺の事を理解してくれる人間など今はいないし、いらない……俺の素を受け止めてくれる人間など……どうせ、居なくなってしまうんだから……


今年も同じ。


自己紹介もそれなりにこなし、今年はこのクラスで無難に暮らす……

それでいい、俺の邪魔にさえならなければ……まぁ……頼りにする奴がいたら関わってやってもいい。ただ、ただ……




そして、となりの佐藤くんが自己紹介をしている。


「……最近は……古着屋に行くことにハマってます。服が好きです。お願いします 」


そんな、明らかに元か現在陰キャの彼が挨拶を済ますと徐々に沸き上がり、「佐藤はお洒落だからな」「いや、確かにそうだなぁ」等々、クラスの奴らがほざいている……


横の初対面の俺に『不束者ですが……』と述べた変な男は、前のクラスで注目され認められいる……自己紹介が終わった後の彼のバカがつくほどの純粋な愚鈍な笑顔に……俺は少しの苛立ちを覚えた。

俺はムキになり手を挙げて自己紹介をやり直す事をした。

「荻野目武國です。趣味でプログラミングと絵を描いてます。あと、僕も服は好きで休みの日は服屋に観に行ったりしています。宜しくお願いします 」

すると周りは少し沈黙の後に1人2人と拍手が増えていった。

俺はクラスの拍手を受けた時……なぜか、今の俺を肯定されてる様な気がした。



俺の隣でアホヅラをして拍手をしている男に、ほんの少し感謝の気持ちが芽生えた。



それから、佐藤くんから話す事、彼から質問を受ける事がある……彼の言葉は早く、話す内容もすぐ変わるし、知性的な所を感じない……がなぜか、俺自身感じるのは無理をしているように思えなかった。

そから彼を観察する事にした。




どうやら、すごく仲がいいのは一条くんで基本は女子に話しかけはしないが、早川さんとその周辺の女子数人とは話すようだ。

だが、話しかけられると話すし、頼み事をされると断れないお人好し。


馬鹿な奴だ。自分の時間を犠牲にしてまでも人のために行動する。

ホント……愚かな男だ…………と思い、数日が過ぎた。





俺は朝の学校で電子書籍で購入した、『シルバーインカミ』を熟読している。

この作品は連載始めから注目していて、俺のお気に入りの作品だ。



「『シルバーインカミ!!』」

そう言われ、驚き後ろを振り向くと佐藤くんが目を輝かせコチラを見ている。

どうやら彼もこの作品が好きなようで気が付くと熱弁をした。

彼のお気に入りのシーンは『海蛇鍋、ハブ酒』の回で、彼は無邪気に話す。

俺は彼のその姿に吸い寄せられるように俺は……


彼の肩に手を伸ばした……


ただただ、何気なく彼の顔を近くで見たいと思ったからだ。


触れた瞬間、彼の体がビクッとしたので急いで手を離し、

「冗談だよ、冗談 」

と、どよめいている色んな感情を押さえた。


自分でも少し……初めて……千言万語を費やしても表現し得ない、気持ちになっていた事に……只、戸惑っていた……


そう、近くで顔を見た時……それと彼の魅せる色んな表情が、俺の頭の中で薄く残ってるぼやけたシーンを少しづつ鮮明にしていく。





その日の夜中、学校で彼との些細な事……引っ掛かりを気にせずにいたが、やはり気になって寝れずにいた。

俺は頭の中にある、引っ掛かっているものを解くために……そして、机の引き出しの奥にある、『あのDVD』を取り出した。



薄暗い部屋で俺はテレビ画面に目をやる。演劇部だった時の記憶が甦る。そして、漸く佐藤くんの事を確認した。

「佐藤くん……なんで……」

君は少なからず、俺の感情を揺すぶった……


なぜ、芝居をやらない? 君は…………


彼の無邪気な笑顔が横切る。



俺の中の一本の糸はぴんと張っている。その糸の真ん中にある玉の様な固結びは……ほどけずに、徐々に大きくなっていく……



ツブヤイターで彼らしきアカウントを確認して、今までの履歴を確認した。一時期、二回ほど更新をぜんぜんやってない時がある。


そして、大会の時の写真がこれまた嬉しそうに写ってる様に見えた……





後日、彼と何人かで下校した時、それとなく聞いてみたが佐藤くんの過去の話しは軽く流された。


それから数日過ぎたある日、放課後にトイレから戻ろうとしたら、女子二人が佐藤くんの方を見て

「佐藤ってさ……」

「ホント、あれだよね……」

とヒソヒソ話している。内容は聞こえないが……ただ、嘲笑っているように思える。

教室に入り、席に戻ると彼は早川さんと話していて、演劇部の手伝いを頼まれていて、嬉しそうに彼女と話している。

その姿を見ていると、少し腹が立った。



また、俺の中の糸の固まりが大きくなっていく様な……

気がつくと、早川さんに話しかけ、手伝う事になった。





演劇部の教室が借りている教室に移動し、顔合わせをやりそして、演者たちはストレッチを初める。


この部は、部長を中心に話を進めてるようだ。少し部の様子を見ただけで彼彼女らの信頼関係が伝わってくる……



羨ましい……どうしたら、他人とここまでの関係を築けるのだろうか……

いや、まだ……俺はこの人たちの事を知らない……きっと俺の知らない、闇があって、まだそれが見えなくて、表では偽ってるんだ……


そして俺と長瀬さんと何人かで、スタッフワークの各係決めをある程度決めていく。

その間、佐藤くんは早川さんのストレッチの相手役をやっている。


二人はチグハグながら、なぜか観てて微笑ましくも見える……二人を見て、俺の於曾ちの下あたりが……なんとも形容し難い……

ザワザワ……いや、サワサワ……した気がした。


いや、もしかしたら昔の演劇部の記憶の頃の感情によって、この感情になっているのか……と俺は息を大きく吸い、呼吸を整わせた。




そして、演劇部の手伝いが始まり、佐藤くんのお人好しは日に日に際立っていった。


ある日、倒れて震えてる女子に上着をかけてあげ、ある日は怪我をしている部長の変わりに、机と椅子を運び。

他にも細かい気遣いや親切を振り撒いている……そして彼は俺に話しかけた様に、同じ感じで他の人たちにも楽しそうに話す……


そんな、周りの人たちを惹き付ける彼に対して、少し腹立だしい感情が何度か沸き上がる。



彼は……周りの人間に気に入られたい、只の偽善者だと俺は思う。


だがその反面……俺自身思いしらされるのは……きっと俺が闇側の人間なんだ……

彼は光……俺は闇……


ただ、彼を見るだけで色んな感情が自分の中で渦巻いていく。



打ち入りの時も、色んな女子とヘラヘラと話して楽しそうにしている。


それを見ているとどこか胸がざわついていく……まるで、ヘクソカズラの蔓が俺の心を絡める様に。

俺も彼と話したいのか……わからない、ただただ話している彼を見るしか俺にはできなかった……



帰り、二人で歩いていると頭の中で自己紹介の時が過った。


『佐藤はお洒落だからな』


自己紹介の時に彼はそう言われていた。


俺は彼と帰るようになって距離も近くなったが一度もそう思った事はない。むしろ、今一番気になるのは、たまに着けているアクセサリーが……星? ヒトデ? よくわからないデザインのもので、彼はそれを着けてる時はすごく嬉しそうだ。



女性から贈られたらしき、ソレを……たまにニヤニヤと見つめているときがある……その事を思うと、俺は考えより先に感情で言葉が出てしまった。


「……男がアクセサリーつけてるのってキモいよ……」


彼は少し顔がひきつる。だがその後は、いつも通りだった。

俺は間違った事は言っていない。彼が少しでも良い方向に変わる事が彼にとって最適なんだ……




後日、彼の様子は変わらない。俺は気がつけば佐藤くんを見ることが増えた。

そんなある日、女の子に乗せられて殺陣の動きを披露しようとしていた。

彼が模擬刀を上に振ろうとした瞬間、近くに電灯があることに気付く。

俺はとさっに……この後、彼が電灯に当てたら大惨事になることが予想がついた。



「あぶなぁぁぁぁい!!!」



俺は気がつくと、叫んでいた。叫んだのはいつ以来だろう……彼が怪我や周りを巻き込んで苦しんで欲しくない、俺は必死に声をあげた。


彼は俺の叫びで静止して、何事も起きなかった。ただ、彼が何もなくて俺は心の底から安心をした事に気付く……俺のこの気持ちは勘違いと……否定したい。


その後、彼はツブヤイターでツブイートしてたから俺はついつい、返信をしてしまう。



あの一見以降、少しその電灯を割りかける事件の話がクラスに広まっていたようで。またも、クラスの女子二人が彼に対しヒソヒソと何か言っているようだ……



彼は、そんな女子二人にも分け隔てなく話しかけているのに……なんで…………彼が今後、彼女達と関わって利用されたり、後で傷つく姿を見るの……辛い……


誰に対しても、優しくしないで欲しい……その優しさは限られた人間だけに振る舞って欲しい……だから、俺は……彼の為に告げた。


「もっとさ、周りを見た方がいいよ 」

「……はい……」

彼はまたも顔を歪め返し一言。結局反省しているようだ。

その顔が少し切ないが、これで良かったんだ……君が他の人に傷つけられないためにも……




俺の心の糸は、また何十かのダマになっている気がする……




打ち入り以来、氷上部長が彼に話しかけたり一緒に帰ろうとする事が増えた。




そして後日の昼休み……クラスの女子二人に声をかけられ囲まれる。


「荻野目さん、今日の放課後って空いてますか?」

「まぁ、空けようと思えば空けれるけど……」

「もし、宜しければ一緒にお茶しませんか?」


1人の女子は俺好みの細めの清純風のかわいい系ぽい女子だ。名前は林道さん……自己紹介の時に最近テーブルゲームにはまってるそうで、俺も最近テーブルゲームに興味がある。

もう1人は松永さん、少しふくよかめの女性だ。この子はたまに、早川さんのグループに混ざってる時がある。


この二人はたまに……佐藤くんの事で何か言っているみたいだが……まぁ、それなりの女子に誘われて断らない男はいないだろう……俺はとりあえず、放課後にカフェに行くことにした。



四人掛けのテーブルに座り、お互いの趣味の事や最近ハマっているものについて語り合うが彼女達は少し、何かを気にしているようだ。


話し始め40分くらい過ぎて、少し話題が途切れた。

すると、林道さんの方から口火を切った。


「荻野目さんって……佐藤くんと仲いいんですか?」

「いや、ただ普通に話す程度でレベルくらいで、まぁ……知り合いくらいだよ……」


俺の発言に彼女達は合わせたかのように、ほっと息をついた。

そして松永さんが待ってたように、体勢を立て直す。


「よかった~それじゃ、ここからが本題なんですが……私たち、演劇部の氷上部長と昔からの知り合いで~」

「そうそう、それで氷上先輩が佐藤に興味あるみたいで~なんか、ウチらに相談するんだけど、佐藤が全然そっちの意味で相手にしてくんないみたいで~」

「というか氷上先輩、なんで佐藤なんか、好きなんだろう~」


俺はその言葉に直ぐ様反応をした。

「えっ、氷上先輩……佐藤くんの事好きなの?」

「まぁ、はっきりとは言ってないけど……」

「うちらに相談する位だから、結構ガチだとは思うけどね 」


人の恋愛事情をあっさり言ってしまう彼女らにどんどん心が退いていく。

そしてそう言った後、彼女達は少しづつクスクスと笑いだした。


「いや、でも、なんで佐藤なんだろ~」


俺はその言葉に引っ掛かり、首を傾げる。

「えっ、それってどう言うこと?」

「いや、だって、あいつキモオタじゃん!」

「そうそう、去年まで全然見た目ヤバかったよね。」

「キョドってるし、というか今もキョドってるか!」

「なんか、ある時から急にお洒落始めちゃいました的なっ感じで~、もう超、調子乗ってんじゃん。先生とかにも媚び売ってるし。ないわ~ 私だったらあんな媚び売りキモオタと付き合いたくないわ~」

「そうそう、なんか優しさ気取って振る舞ってるし~。あと、早川ちゃんと話してるし~ テメーみたいなクソ底辺が早川ちゃんや氷上先輩に話しかけんなって思うよ~ もうキモオタ勘違い男だわ!」


目の前の女子二人はケラケラと佐藤くんの事を話題にして笑っている。


「ねっ! 荻野目さん!」

「あぁ……そうだね……」


俺はその同調に正直に苦笑いをしながら誤魔化した。


でも、彼の悪口なのに……俺の胸がチクって刺さる様な、痛みがくる。

俺はバレないように唇を少し噛み締めた。

どうにか早く切り上げて帰ろう……俺はそう思った。


だが、俺は一点だけ確実に確認したいことがあり、彼女達に投げ掛けた。

「氷上先輩は……君たちのように佐藤くんの事は想ってはいないのかい?」

彼女達は少し考えながら笑みを浮かべる。


「あぁ、私たちは相談を受けただけ。先輩は好きなんじゃなーい!…………」

そして、きゃっきゃっと盛り上がり話しは続きそうだ。

林道さんの方がこちらの様子が気になり出したようだ。


「あぁ、ごめんなさい! 佐藤の話ばっかりして~、私はもちろん荻野目さんに興味があって……話したくて呼んだんですけどね!」


恥らう女子の様に言った。

だが、さっきまでは可愛いく見えてた女子が、今の俺の目にはケダモノ……いや、悪魔にしか見えない。



俺はスマホを見て、顔をあげる素振りで逃げる口実を切り出す事にした。

「ごめん、今、親のツテでやってるネット関係のバイトで、急用を頼まれたから帰らせてもらうよ 」

「えっ、荻野目さん、ネット関係のバイトしてるんですか、かっこいい……」


その後、どうにかして何か繋げようとしてたので

「ごめん 」

と一言を告げ、自分の分だけ払って帰った。


もちろん、急用は嘘ではある。ただただ、彼女らと離れたく俺は早足で歩く。




さっきの言葉等が頭の中で流れる。


なんで、俺が他人の痛みを請け負わないといけないんだ。なんで、俺は言い返す事をしなかったんだ……ただただ悔しい……


その反面、小さく俺の闇が囁いている。


『誰にでも、優しさを振り撒いた結果だよ。ざまぁみろ……』


哀しみと苦しみが俺を両挟みにする。そして、苛立ちが俺を包む。それと伴い、見えないヘクソカズラらしき蔓は首もと巻き付く。それに蔓延る棘はチクりと刺さる。




後日、クラスで彼女らの顔を見ると嫌気がさす。そして、俺の中で渦巻いている闇がぐるぐると駆け回る。

胃を圧迫するように、キモチワルイ……俺は正直に吐かないと、自身が潰される様な気がした。


放課後、演劇部の練習の無い日……彼と一条くんと一緒にカフェに行くことにした。



そして、彼に例の事を伝えた。彼はもちろん動揺している……横を見ると普段あんまり感情を出さない一条くんが、俺を睨み付けるように見ている。


俺も君と同じさ……だけど、ただ、君みたいに言い返すそうとも……できなかった……


佐藤くんは誰が言ったのかを気にしていたが……バレると、俺自身もクラスの女子から嫌味を言われるかもしれない……


だから、せめて……あんまり女子に近づくな。君自身のためにも……



俺の心のためにも……



帰るとき、彼は力なく笑っているようだった。俺は良心の呵責でお代はすべて、払い帰った……


これで、良かったんだ……これで……



俺の中の糸のダマは大きな固まりになっていく……今にも重さで千切れそうな気がした……




後日彼は女性と話すのを控えるように……いや、誰とも話そうともしなかった……そして部活の練習を休んだ……



だが、結局次の週には戻り練習に顔を出す。そして、衣装が足りないため、それぞれメンズものを持ってきた。


部員や部長たちは佐藤の花柄のシャツを見ながら

「えっ、これ、お洒落だね!」とか、「たしかに、こっちの花柄は可愛いし、佐藤くんって本当にお洒落なんだね!」

と光に群がる虫の様に

見えてしまう。派手なモノ、可愛いものが好き女子の悪い例だ。


「そんな事ないですよ~」

そんな中彼は相変わらず、だらしない笑顔で返す。


俺自身、柄ものシャツはあまり好きではない。そして君に似合うのはシンプルなデザインがこっているモノだ……

そして、その女子にデレデレしているツラを観てると、ジワジワと腹のそこが煮えるような感じがした。



休憩になり彼はトイレに行く。ここ数日、促される感情が彼を追いかけさせる。



彼は気まずそうに少し顔を伏せ、

「お疲れ様です 」

と俺にだけ暗い感じで言い、その顔を見ると腹が立ち、気がつけば声を出していた。




俺の心の糸のダマが大きくなり、重みで今にでも……




「佐藤くんさ!」

彼は振り向き、俺は言葉を続けてしまう。

「あれさ、今も着てる私服?」

「えっ……まぁ……」

「はぁっ、あの衣服さ、男が着るのに恥ずかしいよ 」




プツリ、目の前で何かが切れた気がした。




彼は直ぐ様、外に出ていった……その一瞬見た彼の顔で俺は……息が詰まり、大きくため息をついてその場に座り込む。

「あぁ……またも……終わってしまったのか……」

トイレの蛇口からポツリと水が滴る。そして、自身から異様な臭いがした気がした。



『人間なんて嫌いだ』



部室に戻ると彼は俺と目を合わせないし、終わるとすぐ下校するしかない……



俺はまたも、自分で大切にしなきゃいけない関係性と言うものを壊してしまったんだ……俺は知っていたのに、いかに脆く雑に扱うと簡単に崩れてしまうのに……仕方ない俺はそういう性分なんだから……



俺は千切れた糸をまた、手放してしまう……代わりに俺に纏う蔓には蕾をつけ、その先に瘤ができている……






後日、朝、彼と顔を合わせるが軽い挨拶と打ち合わせで話すくらいだけだった。


だが放課後、部活の練習が終わり彼から

「荻野目さん、今日この後、空いてますか?」

と少しよそよそしく話しかれられた。


俺はまさか、そんな事を言われると思わず驚く、何とか言葉を探しす。

「あぁ、空いてるよ……どうしてだい?」

「実は僕の行きつけの古着屋があるんですが……一緒に行きませんか?」


俺は彼からそんな誘いがくると思わなく、返答に詰まる。

「えっ、古着屋か……なんで……」

「いや、荻野目さん……お洒落だから服に関して楽しくみれたらいいなぁ、と思い……」



俺の目の前の千切れた糸は、勝手に手繰り寄せるようにまた近づく。

「あまり、古着屋って好きじゃないんだよね……」

だが、俺は素直になれずと言葉を滑らしてしまった。だが、彼は引き下がる様子を見せない。


「きっと、荻野目さんの好きなの服のブランドも置いてますよ。それと……その店には魔女がいるんです。その魔女は僕の師匠なんですが……」

「魔女?」


彼の『魔女』って言葉には驚いたが、その馬鹿馬鹿しいワードにふっと吹き出してしまった。


「魔女って……あと師匠てなんだよ 」

俺は彼がふざけて言ってるのかと思って彼を見ると真っ直ぐ俺を見ている。その目からは嘘や冗談を言ってるようには感じなかった……

「わかったよ、行くよ」

その目に圧倒され、心で納得する前に返答した。




道中は二人とも、言葉を探りつたない会話が続く。ただ、感じるのは彼は俺の事を許してはない様子が垣間見えた。





「あぁ、 ここです!」

彼が手を差し出した方向に、ごく普通のチェーンの古着屋がある……


下に降りる階段。季節を着飾った様なマネキン。特に変わった様子は無い……


俺は彼に案内され階段を降りていく……階段を降りた入り口前にロードバイクが停めてある。


メーカーはどこだろ……ビアンキか……?


「荻野目さーん、こっちです 」

俺は自身の感情と周りの合わない環境の中に入った。




中は思ったより普通のチェーンの古着屋。そうこうしていると彼が手招きしてるところに、全身黒い服の女性がいる。

ハイネックのリブニットの半袖。少しだけ短めのスキニーパンツ。ハイブランドらしき、ネックレス。レディースらしい腕時計にパンプス……そして、綺麗な茶髪のストレートヘアー。肌は白く、血色のいい唇。

まるでモデルの様な女が佐藤くんと気さくに話している。


俺は吸い寄せられるに近づき、彼女に軽く一礼をした。


「おぉ! 君が噂の荻野目少年だね!」

その『噂の』ってのと『少年』ってワードに引っ掛かり少し頬をひくつく。

「どうも、荻野目です 」

「私がこの店の店長であり、少年と契約した師匠であり、魔女と呼ばれている……小野寺千里香です! 永遠の18歳です! おいおい!」


目の前の女は、おいおい!に合わせ自身に突っ込んでいる……見た目に反して、おちゃらけた言動をする……変な女だ。


そして彼女は屈託のない笑顔を初対面の俺に向けた。


「君もどうやら、服が好きなのようだね。どう言ったブランドが好きなのかなぁ?」

「まぁ、基本は日本のファッションブランドがが好きですね……モードよりとかも好きですが……特にレアセルとか……」

「ほほう! レアセルか~ なかなかいいじゃないか! あそこはデザインしかり、刺繍等もこってるから面白いんだよね~……」

そう話すなか彼女の受け答えが柔らかい。我ながら話す内容は悪くはない掴みだろう。

そこから、少し服の話をしていたら、気が付くと佐藤くんがいない。そして、先ほど楽しそうに話していた魔女近づき、急に小声で

「君……このままじゃ、あの少年に嫌われてしまうよ……」

と告げられ、俺は何が起きたか整理できず頭が真っ白になった……


彼女は直ぐ様、俺の顔を真剣に見つめてから、少しづつ顔を崩し、

「冗談だよ、冗談!」

っと笑いながら言った。


俺はまだ、整理がつかず合わせて苦笑をする。


なんで、俺が初対面の人間にこんな事を言われなくてはいけないんだ……と腹が立つ。



そして、合わせて笑っている所に佐藤くんが戻ってきた。


「荻野目さん、千里香さん面白い人でしょ 」

「まぁ、変わってる人だね 」

揺さぶられ故に、正直な感想を返す。


「ハッハッハ! 君には負けるよ!!」

改めて、彼女の発言の所々にトゲがあるのが気になった。ムカッとするも、冷静に対応しなければならないと口の中を静かに噛む。


そんな俺の事を知らず、目の前の魔女はあからさまに何かを思い付いた様に手をうった。


「あっ! そうだ……荻野目少年、君はなんでそんなに服に詳しいんだい?」

「まぁ、親のツテでアパレル関係のネットのバイトをやってて、それで服に関して詳しくなった流れですね。」

「なるほど……」

魔女は考える素振りをしながら、腕を組み指でトントンとしている。


魔女は思い付いたのか、こちらを振り返り……

「うん、それじゃ……君にお願いがあるんだが……」

「なんですか……」

「実は今度の土曜日に二駅先の系列の店でイベントを開催するんだが、そのイベントで午前と午後で1人のリアルな人をマネキンとして、コーディネイト対決をするイベントなんだが……午後は私のツテで今、現役で活躍しているスタイリストを呼ぶんだが、いわば朝や昼の情報番組みたいな事をやるんだ~……それで午前の部では『素人、一般より』の人を募集してるんだがね……誰もやりたがらないんだよ~。まぁ、私が勝つことが見えてるからね~。それで、君のような子に相手役をやってもらえると助かるのだが……どうだろうか?」


そう長々言われたのと、『素人、一般より』っと言葉に少し勘にさわった……わざわざ、誰かのために俺の休日を裂くのは馬鹿らしい……

「いや、その日は……」

と最もらしい理由をつけて断ろうとしたら、

「おや、もしかして、私に負けるのが怖いのかい?」

と魔女は胸を張って答えた。


「はぁっ、」

少し俺は言葉に苛立ちが出てしまう。

「いや、すまない。そうだよね。人前でわざわざ出てきて負ける姿をさらすのは……恥ずかしいもんね……」


魔女は俺に恬淡と言った。


その眼中に無い仕草に腹が煮える。

「別にそんなのはどちらでもいい……そんな対決に出たからって俺に何の得もないだろう……」

そう返すと、魔女は腕を組み、わざとらしく物事を考える。


「うん、よし!……それじゃ、私に勝ったら君の願いを何でも叶えてあげよう!」


俺はそんな台詞、漫画や映画とかでしか聞いたことがなく、耳を疑った。


「千里香さん、いいんですか?」

「いや、負けなきゃいいんだろう?」

佐藤くんは心配そうに魔女に話しかけ……その姿にまた、小さな苛立ちが募る。

「えっ、嘘だろ……おいおい! 冗談はよしてくれよ! アンタ……正気か?」

「もちろん正気さ! なんでもなんでも、叶えてあげるよ!」


俺は顔を伏せ、考える。俺が叶えて欲しい願いは……気が付くと目の前の魔女に近づき、魔女の顎をくいっと軽く上げてしまっていた。

「そうだなぁ……アンタを一日中、色々とこき使うという権利はどうだ……」

そんな苛立ちを隠した俺の問に屈すること無く魔女は軽々……


「えっ、そんなんでいいの? わかった。それでいいね?」


そう堂々と不適な笑みを浮かべ、此方を目を反らさずに見ていた。


まるで俺の心を覗いているような……


俺はその魔性が怖くなり、顎から手を離す。


「んじゃ、アンタが勝った時の賞典はなんだ?」

「うーん、それは~、私が勝ってからの~、お・た・の・し・み!!」

またも人を弄ぶ様に、自身の唇に指を当てて言った。

俺はそんな目の前の女の言動が馬鹿馬鹿しくなり、口を押さえながら笑った。

「では、俺が勝ったら俺の望み叶えてもらうぞ!」

「勿論さ」


魔女は言い、くるっと華麗に回転しこちらに手を伸ばして

「あなたの願い、叶えましょ 」

と告げる。


俺はその姿が可憐で美しいと思い見とれてしまったが首を左右に降り、我に戻した。



そして、予定の時刻とルールを決めてその日はすぐ帰った。

帰える道中、建物と建物の間のフェンスに目がいく。そのうっすらな闇の中に沢山の蕾をつけたヘクソカズラがきしめき……いくつかは千切られて悪臭を放つ。


『めんどくさい……人間なんて……大嫌いだ』


他人を思えば、違う人間と関わらなければならない。その鬱陶しさに嫌気がさし、これまでの関わった奴らとの記憶が流れていく。





それから俺は、予定日までの準備をする。


6月半ば、うだるように蒸し暑い。夜中にも雨が振り雨音がうるさい。

そのせいで俺は寝れない。



今回も長いのに読んで頂き誠にありがとうございました!!

荻野目さんの視点でのお話でした。


人によってどう思われるかは何とも言えないのですが

楽しんで頂いてましたら幸いです。


次回はちゃんと服が関わってきますので~


今回も本当にありがとうございましたm(。_。)m!

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