2 マリアorアマゾネス
はじめまして!
2 マリアとアマゾネス
はようやく魔女が出てきます。
そして、服の名称、ファッション用語、も軽く出てきます。でも私自体そんなに、名称や用語に詳しくないので知ってる方おられましたら、是非是非教えて欲しいです。
今回2は長いので、ゆっくりと読まれたら幸いです。
個人的には最後の描写が好きなのでよろしければお願いいたします。
もしかしたら、匂いの正体がわかるかもです。
では、スタート。
午後5時、夕暮れ。古着屋の奥の角っこ。
黒い服の魔女が僕に、掌を差し出した。
「ふーん。なるほど、わかったわ。『あなたの願い叶えましょ』」
僕は彼女の、魔女の綺麗な黄色のような茶色の目……なんて例えれば……タイガーズアイ……って言うんだけっけ?うん、タイガーズアイに似ている。
昔観た作品で宝石の知識は多少知っている。
そして……その目に惹き付けられながら
「はい。お願いします 」
と答えて、彼女の差し出された掌を取ってしまった……
時は戻り、およそ15分前。
店内は半地下っていうんだろうか……でも、照明で明るい。
そして、入り口の透明の自動ドアで外の景色が見える。
店員さんは男性二人。
サングラスぽいのをかけた短髪気味でおしゃれパーマの店員と、すらっとした長髪気味の白が似合う店員。
やっぱり、お洒落でカッコいい。
僕は何を見ていいかわからず……とりあえず、店内を一周してみた。
うん、やっぱり……わからない…………!
何が何で、何がお洒落なの??
衣服はいっぱいあるけど、なんかショーケースにはブランドものらしきものや、アクセサリーがある……
値段高い……
いや、ホント高くない?
ついつい……キョロキョロしてしまうし……あっ、店員さんたちがこっち見てる。えっ、まさか! 挙動不審だから不審者だと思われてる……? 違うんです! ただ、わからないだけなんです……
どうしよう……
僕は改めて周りを見渡した。
あっ、そうだ! ここは服屋だ! 服を持たないのがおかしいんだ!!
そうだ、そうだ。服を手にとって見てみよう……
僕は適当にシャツを手に取った。
あっ、えっと、普通のシャツじゃん。なんだ……へぇ~、値段は……
1万!!?えっ、ウソでしょ! これが1万!
僕は信じられず、値札とシャツを何度か見なおした。
はぁ! なんで、どうして! 1万なんてあったらアニメグッズやラノベ買放題じゃん! なんで!!
僕は自身を少し落ち着かせようとして、とりあえず咄嗟に横のモノを手に取った。
こっちのヤツは……色違いか……
値段って…………1万5000円!……って、なんでやねん!
ついつい関西人の血なのか、僕は心のツッコミを実際の手で、小さく動かした。
いやいやいや! まじでなんでなん……わからん……どないしょ………
こうなると、キョロキョロが止まらない。ふと、僕が観ている服の並び、左側5メートル先くらいに、全身黒い服の女性が服を吟味しているのが目に入った。
綺麗な明るめの茶髪でストレートヘアー。遠くからでもわかる綺麗な人だなぁ……
僕は彼女に見とれていると、彼女が此方の視線に気付く。
あっ! 目があった。
タッタッタッタッ、と音がなるようにどんどん彼女が近付いてくる。
ウソウソ……えっ、何? 僕、なんかやった?!
彼女は僕の前で立ち止まり、ジッーと僕を見ている。
全身黒く、今の僕に判るとしたら然り気無いリボン付きワンピース。西洋風な人形のような顔立ち。少し日本人離れをしてる程の高い鼻。
あれ、ほんのちょこっと早川さん似ている……いや、全然違うが雰囲気が似ている。
そんな事を見とれてボーッと思っていたら、彼女が口を開いた。
「いらっしゃませ。買い物カゴ、使いますか?」
あっ、店員さんだったんだ。
「あっいえ、見てるだけで……」
「そうですか。何か困ってたら言ってください 」
と言ってくれた彼女のさりげない笑顔が素敵だ。
そんな彼女にまたも僕は見とれしまう。彼女は軽く会釈をして去ろうとした。
だが僕はついつい、気になってしまった事を口走ってしまった……
「あの……なんでこのシャツ、こんな高いん……ですか?」
自前の人見知りと、緊張で少し震えてしまう。
僕の馬鹿! たぶんそういうのって、こう言うお店では聞かないだろ……やばい、恥ずかしい……
僕は自分の無知さ加減に下唇を軽く噛み締めた。でも、彼女は何のの躊躇もなく口を開く。
「あぁ、このシャツはいわばデザイナーズブランドなんですよ。それも二年前くらいのシリーズで、最近の流行りの形になってるんです。この縫い目が見てください。しっかりしてて、これが1つのデザインとしてとれる。そしてシンプルに見えながらも細かいところに、デザイナーのこだわりを感じるものとなってます。そして……」
「あっ! あのごめんなさい。聞いといて、アレなんですが僕、服は全然わからなくて……」
「あっいえ、私もついつい言ってしまって、すいません 」
彼女は植物が枝垂れる様に、やわらかく会釈をした。
少しの沈黙が流れ、彼女が何かを言おうと口を開こうとした瞬間に、
「あの、お洒落ってどうやるんですか……?」
と僕は言葉を漏らしてしまった。
彼女は驚き、僕を見ている。
じっーと。
あぁ、また、余計な事をいってしまったのか、僕。何とか取り繕わないと……
「いや、あの、僕……お洒落になりたくて、でも、友達もそういうのに疎いし、家族は服とか興味ないし、お金とかそんなないし……」
説明と同時に、僕の落ち着かない手があちらこちらに動く。
そんな情けない僕を見て、彼女が少し考えてから口を開いた。
「どうして、お洒落になりたいんですか? 」
彼女は諭すように、かつ落ち着いたトーンで聞いてきた。
僕は初対面の相手に事情を話すかどうか悩む。だって知らない人だし……それと、お仕事の邪魔になるし……でも、ついつい質問をしてしまってるわけだし……
「あっいや、失礼しました。私ついつい他人の事情を聞き出してしまう所があるそうで、言いたくなければ言わなくて大丈夫です。でも、何かしら手伝える事があったら言ってください。それが私の仕事ですから。では、ゆっくり観てってください 」
と丁重に言ってくれた。
彼女がまたも軽く会釈をして去ろうとした時、彼女の髪が揺れた。
ふわっ
店前でした匂い……同じ匂いがして、またも僕は考えるより、心と口が先走ってしまう。
「あの! 初対面の方にこんな話をするのは!……変かもですが……」
彼女は僕の言葉で止まり、此方を見て不思議な顔をした。
そして、僕は変な汗と口がカラカラになりながら、
「実は! 気になる人がいて……その人がお洒落で綺麗で……少しでも、その人近づきたくて……だから……だから、初めて古着屋さんに入ってみました。あの、えっと、彼女に少しでも僕に興味をもって欲しくて……」
と終始、口ごもりしながら伝えた。
伝え終わると鼻息を漏らしながら、ださい自分が情けなく顔が下がってしまう。
ペチッ!
その音で前を見ると、彼女は口元に手を当てながらこっちを見ていた。
明らかに口元で隠せないほど口角が上がり、にやっとしている。
「ふふふっ、なるほど、なるほど……いや、若いっていいね。わかった! お姉さんが手伝ってあげる!」
さっきまでの丁寧な彼女の態度と比べ、雰囲気と口調が変わった。
「えっ、いいんですか、なんか噂じゃこういう所の店員さんって、そういう接客って……やんないんじゃないんですか?」
「あぁ、私は少し特殊で色々許されてるんだよ。少年 」
「えっ、少年!?」
「で、少年。君の求める要素は何かなぁ?」
「あっ、あの、お洒落にみられたいです 」
「違う!」
と彼女は腰に両手を当てて仁王立ちになり、
「もっと、細分化するんだ。君がなりたい君を!」
彼女は僕向かって手を広げながら、
「例えば……好きなドラマの俳優とか役とか、漫画のキャラクターとか!」
「えっ……えっとえっと、かっこよくなりたいです……」
知らない女性に迫られている構図と、理想というなの空論を述べてる自分が恥ずかしくなり、僕は目をそらす。
「もっと!!」
だが、目の前の女性は僕を逃がしはしない。そんな彼女のテンションに僕は逃げる事を止めた。
「僕、眼鏡なんで、眼鏡でも似合うかっこいい……ファ、ファッションが、いいです!!」
僕は彼女の目を見て、両手に力を込めて拳を作り、両膝に当てた。
この思いが……今だけでも揺るがないようにと。
彼女は僕の決意に満足したようで、
「よし、少しは見えてきたね。 んじゃ、お金いくらだせる!」
「えっ!」
これってクラスのあいつらが言ってた……カンジ……? まさか、お金踏んだ繰られる……
でも、でも……
「えっと、今日……お小遣い5000円と……860円を持ってきました。これでどうにかならないですか?」
僕は鞄をから財布を探りだし、初対面の相手に自分の財布を差し出し、頭を下げてしまった。
「いいね! それだけあればトータルコーディネイトは十分!」
僕は顔を上げて彼女を見ると、グーサインを作りウインクして僕を見てくれていた。
そんな興奮した彼女は我に戻り、鼻から息を吸い自身を少し落ち着せる。
そして再度、僕の全身と顔をなめまわす様に見始め、
「ふーん。なるほど、わかったわ……『あなたの願い叶えましょ』」と言った。
なんか、昔のアニメで聴いたような台詞……かも…………だけど、こうなったら今は彼女……いや、その美しい魔女を信じるしかない。
「はい。お願いします 」
彼女の差し出してくれた掌に、情けない僕は飼い犬の『お手』の様に、僕自身の手を乗せた。
魔女と僕は……まず、シャツのコーナーに来た。
「ちなみに『好きな子』は、どういう服来ているの?」
「すっ、好きな子って……」
唐突に、『好きな子』というワードに持ち前の思春期ながらの恥ずかしさが沸き上がり、顔が熱くなる。微かに震える唇から緊張を感じ、鼻から僅かに息を抜く。
ふと、彼女……早川三咲さんとの月夜を歩いた。映像が甦った。
「あっえっと……なんか白い感じが似合う女性でボーイッシュな感じなんですが……それでも綺麗な女性って感じです 」
「なるほど。なるほど。その子の服で、最近イメージ残ってるのってある?」
「あっ、花の刺繍が入ってて、女の子らしいなぁって思いました 」
「ふーん、あれだね。心底惚れてるね 」
「えっあっ、その……わかります?!」
「はっはっは! 声のトーンでね! それで君は、今まで服とか興味なかったんだよね 」
「えぇ、お恥ずかしながら……」
恥ずかしさでより赤くなる顔が僕の目線を右斜めに下げさせた。
「なら、今日は君のお洒落記念日だ! そして……その君の地盤を固めるためにも……」
魔女は服を持ちながら僕に近づき、僕に服を当てながら
「いわば君を私が染めて……あげるよ……君のファッション童貞を奪って、あ・げ・る!」
彼女は妖艶な顔つきで、こちらを見て言った。僕の心臓の鼓動は早くなり、当てられている手から僕の心音が聞こえるんではないかと思い、
「なっ、何いってるんですか!?」
と言って少し間合いを離した。
僕は耳まですごく沸騰している……そういう感じがした。
そんな僕を御構い無しに彼女は
「冗談が通じないね。少年。では、まずはこれだ。」
と悠然と服を差し出す。
出されたのは某有名な量販店の服。
「えっ、これですか? これって、ユニクロ……?……ですよね……」
「君、ユニクロを嘗めてはいけないし、ユニクロはお洒落の基礎だよ。それにこれは、ただのユニクロじゃない。コラボシリーズなんだよ。それも5年前の。それが状態が良く残ってるのは珍しい。このシャツのここのラインをみてごらん?」
「あれ、ボタンは?」
「これはこうやって二枚重ねのようになってボタンが隠せるようになってるんだ。あと胸ポケットが無い。カフス、袖の仕様が短くなってるだろ。これらにより全体的にスッキリ見え、スマートかつスタイリッシュに見えるんだよ 」
「おぉ、なんかよくわからないですけどかっこいいです!」
「なんと、今なら当店価格で1280円!」
「あっ、えっと…………はい!!」
僕はモノの相場がわからず、少し間を開いてしまうが
取り敢えず返事をした。
「んじゃ、次だ!」
「はい!」
次はパンツコーナーに移動した。
「えっと……パンツは悩んだんだけど、スキニーの黒パンにするか、デニムにするか……」
「あの、僕に似合うのだと……」
「君はその柔らかい態度や雰囲気の割に、ソース顔だから……個人的には濃いめのインディゴブルーのデニムを履いて欲しいと思って、デニムのブランドも二点悩んだ 」
「二点ですか……」
「1つはインポート。もう1つはドメブラ」
「???」
「ごめんごめん、インポートってのは海外ブランド。ドメブラ、ドメスティックブランドは日本のブランドって事。でも結局……私的にはこちら、ヌーディージーンズを履いて欲しい 」
「なんですかそれ?」
「ヌーディージーンズはスウェーデンのブランドで、デニムは第二の肌というキャッチコピーでやってるんだよ。当店価格で1980円のところ、今回は2割引きで~1584円! まぁ、試着したら全てがわかるから、はい!次!」
「はい!」
次はニットコーナー。
「この時期ってまだ暑かったり、でも少し寒かったりするから悩むんだけど今回は君を大人にしたくて、あえてカーディガンをチョイスしてみたよ。」
「カーディガンですか、それっておじさん臭くならないですか?」
「あのね、それは偏見だよ。クラスにもいるだろ。カーディガンを可愛く着こなしてたりしてる男の子。だが今回は他の子達と差別化するために可愛くかつ大人な着こなしをチョイスする。あと余談だがカーディガンも進化してるんだ 」
「そうなんですか……」
もちろん聞いても、まったくわからない。
「で、こちら! BEAMSのベージュのカーディガンだ。ベージュはいわばナチュラルカラーで大人っぽさを演出してくれる。そして、この少し肉厚な生地感が高級感を演出してくれる。前にボタンが無い分、よりスタイリッシュさを演出してくれるんだ。なんと、このBEAMSのカーディガンが……1980円だ!」
「えっ、えーと……」
「さっ、次だ!」
「えっでも、これで服は揃いましたよ……」
「少年、トータルコーディネイトと言っただろ 」
「えっ……でも、お金……」
「とりあえず、来たまえ!」
「はい!」
彼女に呼ばれ、僕は彼女を信じて従う。そして彼女の後を追いかけた。
歩きながら、魔女は僕に質問をする。
「君、そういえば君の学校は制服なのかい?」
「いや、実は珍しい学校で制服と私服でも、どちらでもいいんです 」
「なるほど、そうなると靴は結構自由度が広いんじゃないのかい?」
「えぇ、ローファーの人やスニーカーの人もブーツの人も……」
「なら、足元は大切だ……うむ 」
そして、靴のコーナーに着いた。
「でっ、私が進めたいのはこれだ。VANSのオフホワイトのローカットスニーカーだ」
「なんか普通ですけど……」
とまじまじとスニーカーを見ていると、そのカラーとラインとデザインに、軽く短く息を飲んだ。
「かわいい……」
「うん。VANSは低価格ながらも履き心地がいいんだ。そしてシンプルだから、大体のコーデも使える。お洒落を始める人にとってはいいブランドだと私は思う。」
「はい。で、これってお値段は……」
「ああっ、実はこのスニーカー、内側をみてごらん 」
僕は覗き込み、
「あっ、少し破れてます 」
「そう、靴のソールの減りも少しあるのと、靴の内側の底がちょっと破れて、めくれてる。でも、前の持ち主がある程度は大切に使ってたんだろ。汚れとかが酷くないから、パッと見綺麗なんだ。スニーカーだと履いてしまえば、他者からバレないからね 」
「たしかに。で、お値段は……」
「もともと、コスパのいいやつで、かつ訳ありだから……980円のところ、50パーセントオフの490円だ!」
「えっ、そんなに安いんですか?」
「まぁ、訳ありと……この子の場合、半年間以上売れなかったからね。でも、君の所にいくと、この子も本望だと思うよ 」
僕は、またスニーカーをじっと見てこれも何かの運命だ思った。
「はい。僕、こいつがいいです!」
「グッド!! ではあと1つ、実は……もうチョイスしてあるよ 」
「それはなんですか……」
「ベルトさ。これ、黒のメッシュのレザーベルト。この子も結構使われて年期が入ってるけど、まだまだ現役さ。カジュアルにも使えるしドレスにも使える、いいアイテムだよ 」
「なんか、大人っぽい 」
「うん、そして……このベルトが780円! さっ、今からが本番さ。試着したまえ 」
「はい!……あっでも……今までのサイズとか……あと……」
「そこは大丈夫大丈夫 」
魔女に促され試着室に押し込まれた。
まさか、服を全部着替えると思わなかった。
これで……いいのか……僕はそんな姿見に映る自分に上から下まで何度か見返す。
あれっ、なんか大人……
「試着、終わりました 」
「んじゃ、見せてくれたまえ 」
僕は目の前の彼女がどんな顔をするかドキドキして、カーテンを開く。
シャーッ
魔女は此方を見て目を見開いてから、頬に手を当てた。
「うぅぅん! やっぱり見立て通りだ。君、スタイルがいいね 」
「えっ、そんなの言われたの初めてです 」
「君、少し猫背だね。さぁ胸を張って!」
彼女に軽く背中に手を当てられ引き締まる感じがした。
「そうそう。その方がいい 」
僕は少し、自分じゃない気持ちになる。魔女に誉められ姿勢を正されたおかげで、まるで大人になった気分だ。
胸が高鳴ってくる。
彼女は人差し指と親指の間に顎を乗せて、
「いや、ホントに。足の長さは…………まぁ、普通だが。胸板もそこそこあって、いい感じの腕回り、そして……特に尻! いい尻をしている。触りたいくらいだよ 」
「えっ! 何言ってるんですか!?」
「はぁっ、ふっ……冗談だよ。冗談!」
と彼女は目を逸らした。
なんか、顔が一瞬……真剣だったような……
「で、先言ったそのヌーディージーンズはテーパード形になってて、細目に……そしてお尻から足元までのラインを綺麗に魅せるんだよ。そこで上のカーディガンが分厚く、柔らかい生地。シルエット的には大人なVラインを演出できるんだよ 」
「Vライン……?」
「あぁ、これはワードとして覚えといて。後で自分で調べるといいよ。ホント基礎の基礎だからね。あと、自分で気になった事を調べるとことも勉強だから。とりあえず、Aライン。Iライン。Vラインっとこれは覚えといて 」
「わかりました!」
でも、まさか僕がこんなに大人っぽくなれるなんて……詳しくはわからないけど、大人っぽくて……かっこいい!!………かもしれない!
だが、ふと疑問に思うことがあり、彼女に質問してみた。
「あの、サイズ感ってよくわかりましたね 」
「あぁ、それは私の特殊能力だから、気にしないで 」
魔女は自身の右手を顔の左反面覆う様に乗せて、何か中2病みたいなポーズをした。
えっ、特殊能力!? そして、なんだよそのポーズ……出会ったばっかりの僕に、何を言ってんだ……この人……でも……悪い気がしない。この人……すごくいい人だ。目の前の見知らぬ子供に、真剣にかつ面白く接してくれる。
この魔女のおかげで、緊張していた僕の顔はほころんだ。
「さて、君、少し回ってごらん 」
「えっ、はぁっ、はい!」
僕は調子に乗って、くるりとステップのように回る。
カーディガンがすこしフワッとし、柔らかさをより感じた。
「うん、実にエレガントだね。眼鏡を外しても似合うし……君は顔たちが濃いから、男らしさも感じる 」
魔女はそう言いながら、僕に近づく。そして僕の眼鏡に手をかけ、そっと外した。
目の前が見えづらくなるが彼女の輪郭と、その美しい茶色の髪と目は伝わってくる。
「うんうん、いい顔だ 」
こんなにも誉められると、もう照れくさい。
「おや、君……中々いい眼鏡じゃないか 」
彼女は眼鏡をじっくり見てから言った。
言葉は続き、
「それにさっきから気になってたけど、腕時計も。腕時計を詳しくない私でも、わかるよ。セイコー5は名作じゃないか 」
「えっこれ、そんな良いやつ何ですか?」
「うん。まぁ、腕時計もそうだけど眼鏡含め……それと制服もちゃんと綺麗にしてあるし。君が親御さんに愛されてるのが伝わるよ 」
僕は彼女の言葉に嬉しくなった……が半分は切なさを思い出し、口を結んでしまった。みるみると僕の顔は雲っていく。
彼女は僕に眼鏡をかけ直し、その様子を悟り息を呑んだ。
「あぁ、ごめんね。またついつい 」
「あっ、いえ……少し、昔の事を思い出してしまって………」
気まずい沈黙が訪れる。
ヤバい。こんなに良くしてもらってるのに……
「あっ、あぁ……」
また、余計な事を口走ってしまいそう……せっかく良くして貰ってるのに、取り繕わないと、悪い空気にしてしまってる……めんどくさい奴と思われたくない。
『この人に、嫌われたくない』
言葉が出そうになった時、彼女がやんわりと遮った。
「君、大丈夫だ。私達はまだ会ったばっかりだし、君が無理して全てを言わなくていい。ただ、これは私の経験だが……『大人はね、言いたくなったら、言うんだよ』。だから無理矢理、言わなくてもいい。今後の君のためにも 」
彼女の声は落ち着いた声だった。柔らかみのある、太く含みのある……
あっ、そっか……やっぱりちゃんとした理由が思い付かないが……早川さんと似てるのか……
僕は、さっきまで何かしら口走りそうだった薄っぺらい言葉を飲んだ。そして、鼻から息を吸い大きく吐いて、落ち着いた。
「はい……すいません……」
「いや、私が余計な事を言ってしまったからね 」
彼女は僕に近づきシャツの襟を整えながら声を掛けてくれる。
「だが、これで君は……少し大人になったんだよ。そして、よりかっこよくなった。あとは、君次第だ!」
「はい!」
「さて、レジに行こうか 」
魔女のその言葉で、僕は前に歩き出した。
だが……実はすこし引っ掛かる事がある……
「では……占めまして、6114円になりまーす!」
「えぇっ、えっと……足りないですよ! 最初に言ったじゃないですか! 予算!」
「うんうん!」
「いや、『うんうん!』 っじゃないですよ! せっかく全部買いたいのに! 諦めないといけないじゃないですか!」
彼女は落ち着いた様子で……
「なら、仕方がない……」
彼女はトーンを落とし、こちらを見ながら、手を差し出した。
「君。スマホは持ってるかね 」
ヤバい、初対面で人を信じるんじゃなかった……
「はっ……はぁい……持ってます……」
僕はゆっくりと鞄からスマホ出す。
「さぁ、ロックを解いて私に……少し貸しなさい 」
と言われ、驚いてたじろいだ。
だが、彼女のまっすぐな目に吸い寄せられる。そして、逆らえない。
これが蛇に睨まれた蛙の気持ちだろうか……
僕は素直にスマホを差し出してしまい、彼女はスマホをさっと取った。
何だろう、親からお金踏んだ繰るのだろうか……おかぁさん………こんな息子でごめん………
僕は情けなさでうつ向いてしまった……それから数分が経ち……
ピローン!
スマホの音が鳴る。
「よし、これでOK!」
彼女は言い、スマホを返してくれた。
「はい、占めて5614円です!」
僕はすんかりスマホを返してくれたことに驚き顔をあげた。
「えっ、なんで……もしかして気をつかって割り引きして頂いたんですか……?」
「いや、違うよ! 当店のアプリをダウンロードして登録したんだよ。それにより、初回は500円の割引が適用されるから。あとの個人情報は、自分で入力してね~♡」
彼女は、右手でピースマークを作り、右目に添えながら言った。そんな彼女の所々の、小さな気遣いと優しさが胸に響く。
なんで……僕は……優しく丁寧に接っしてくれた人を……
疑ってしまったんだろう……自分が恥ずかしい。
僕は情けない気持ちで顔をそらした。ふと見ると、レジ横に安い小物がたくさん置いてあるコーナーがある事に気付く。そこには新品の靴下もぶら下がっている。そして、ある1つの商品に目がいった。
「あの! これ!」
「あぁ、安心して。いわば新古品、ほぼ新品だよ。あと、その靴下メーカーはいいブランドで……まずデザインがかわいい。今回はたまたま、安く値札ついてるけど、ホントはもっと良い値をつけても良いくらいだよ 」
「こっこれ、これもください!」
「はーい、かしこまり~!」
僕は190円のオフホワイトの花柄刺繍の靴下を買った。
日はすっかり暮れ、軽く肌寒い。家路には普段は持たない買い物袋を携えている。結構な重さ。
レシートを出し、こんなにお金を使ったんだと、ふと思った。財布の中身は軽く残り51円。(袋代まさかの5円。)
ただ、服の中身の重みを感じるのと反して……なんか心と身体、特に足が弾むように軽い。
早く家に帰り、今持ってるものを着たい……もう一度見てみたい。そうだ……また違う、自分に!
僕はレジ袋を持ってる右手に力が入る。
そして、なぜか無駄に胸が騒ぐ帰り道……
少し強めの風が吹き、小さい花がヒラヒラと目の前を通り過ぎた。
あれ、まただ。なんで、また彼女の匂いがするんだろう。立ち止まり上を見た。
もしかして、この木から匂いがするのか。なんていう木だろう……
僕はスマホにワードを入力した。
『秋』
『木』
『匂い』
検索はすぐにHitした。
あぁ、こいつ、こういう名前だったんだ。赤黄色に淡くも、強く咲いている花。綺麗でいい匂いがする。
僕は大きく口から息を吸い、空気を含みながら
「赤黄色に萌える、金木犀か……」
と僕は呟いた。そしてニヤっとし、嬉しくて走り出す。
息を弾ずませながら、なんとなく走りつつ、もう一度レシートを見た。
『担当者 小野寺千里香』
なんか美魔女みたいな名前だ。というか、なんでフルネーム載ってるんだ……個人情報……
僕は抑えきれず、息を吹き出した。
本当に面白くて素敵な人だったな。ありがとう。小野寺 千里香さん。
今回も長いのに読んで頂き、誠にありがとうございます。
1と2はそれぞれ同じ日に書きました。ただただ私のいれたい要素をを詰め込んだ感じになってしまいました(笑)
でも、小野寺さん(魔女)はこんな人がいたら面白いなっと思いました。
まぁ、こんな人いたらちょっとした事案案件多発ですが…(汗)
その変わり彼女が初対面の相手の心をほぐせるかが勝負所なんですよね。人間なんで相性があり、クラスの軽い羽田辺りは仲良くはなれなかったみたいですが…
ちなみにで書いた各話は、自分の好きな音楽の要素も入れています。
もし、何の曲か気付かれましたら、本当に嬉しく幸いです。
そしてまた、細々と続きを描かせて頂きたいと思います。
最後まで読んで頂き本当に本当にありがとうございます。