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古着屋の小野寺さん  作者: 鎚谷ひろみ
sweet&salty
19/52

11A 後の祭りと行進#1



お久しぶりです!


漸く、書かせて頂きました。

今回は、だいぶ長いです……すいません……


でも、楽しんで頂けたら幸いです……



11A-1 ポップにステップにダイブ




むかつく、むかつく、むかつく…………ムカつく!!!


なんだよ! アイツ、最近よく話すようになったら容赦構わず、ズケズケと……『佐藤くんはもう少し周りを見た方がいいよ。』『あの衣服、男が着るのに恥ずかしいよ。』『男がアクセサリー着けるのってキモいよ。』とか………



彼の言葉によって僕の腹の虫が治まらない………僕の顔は今、修羅の様になっているだろう。そんな様子で僕はぶつぶつ独り言を言いながら廊下を歩いていた………



角を曲がろうとして、

「はぁ!」

「わぁ!」

っと、ぶつかりそうになった。




「あっ、すいません!」

僕は米付き飛蝗の様に謝る。


「いえ、あれ………? 佐藤くん! ……どうかしたの?」

少しハスキー気味の男の子のような声がして、相手を見た。

「あっ、長瀬さん! 」

さっきまでのイライラが、すぅーと安心感に変わった。

「 いや……うん、ぜんぜん大したことじゃないから!」

「そっかー! よかった! 一瞬、恐い顔してたから~」

彼女は、はじける笑顔で答えた。

「えっ、ウソ~。いや、ついつい考え事してから~」

「そっか! でも、危ないから気をつけてね! んじゃ、またね!」

「うん、それじゃ!」


彼女との、たわいもない会話で、僕の先ほどの怒りは何処かへいった。



彼女は、長瀬 優。 早川さんの友人で最近よく話すようになった。

早川さんと話すときはドキドキして、たまに何を話せばいいか、わからない時があるが……でも、長瀬さんは気兼ねなく話せるんだよな……それになんでだろう……この前、荻野目さんに言われた事で女子と話すのちょっと話すの恐かったんだけど……

あれ? 彼女は大丈夫だった……あぁ……あれか!! まぁ、いわば……………彼女と僕とは…………『オタク仲間』!! だから、かもしれない……



お陰でさっきのイライラが消えてきたが………でも……


《ふつふつふつ……》


あぁ! 思い出したら、腹が立つ! 『荻野目 武國』!!!!!!


背中が熱い。僕は怒りの炎で燃えている。






僕は用事を終わらせ、怒りの炎が収まらず学校終わりに、その足でニュートレジャーアイランドに向かった。



こちらはいつも通り。田中さん、鈴木さん………そして、千里香さんが働いている。


今日の千里香さんは、肩がシースルーの薄手のドレスにお団子ヘアーだ。



「千里香さん、聞いてくださいよ!!」

僕は千里香さんに駆け寄った。


「おぉ! 少年どうしたんだい? なんか何時もより、情けない感じだなぁ~」

「いや、情けないって言わないでくださいよ!」

「これじゃまるで、私は某青い猫型ロボットで、君は某眼鏡くんじゃないか~」

「えっ、そんなに情けないですか…………まぁ、それでもいいですっ! 実は……アレなんです……」

「まっ! まさか………アレかい!?」

と彼女は悟ったように同情の目を向けた。



「 ……っ、遂に……早川くんに告白して、振られたのかい?…… はぁっ……可哀想に…………」

彼女は右手で頭を抱え、より哀れそうに僕の顔を見ている……

「いやいや! 違います!! そうじゃなくて、前から何回か言ってた…………荻野目さんですよ!!」

そう伝えた後、千里香さんは呆れた様子で答えた。


「えぇ、またかい? もぉ~、そんなに嫌なら相手にしなきゃいいじゃないか~。というか、君たちはむしろ一周回ってLOVE!! キャピ!!」

彼女は自身の胸前で手でハートマークを作ったが言い改めるようにゆっくりとハートを崩す。


「……いや、もう通り越してLOVEじゃなくROVEなんじゃないか?」

「なんで、LOVEからROVEに変えるんですか? というかROVEってなんですか?………」

僕は突っ込んだ後、落ち着かせるために一息吐いた。

「いや、まぁクラス一緒だし、席隣だし。最近は向こうから話してくるから………色々ムズかしいんですよ!」

「はいはい。誰に対しても良い顔しようとするから、そうなるんだよ 」

彼女は呆れたように言葉を返す。

「まぁ、そうかもしれませんが………兎に角聞いてください!」


千里香さんはめんどくさそうに溜め息をつく。

「わかったよ……聞きますよ…………」

「そう、あれは………」



僕は事の経緯を語り始めた……







新学期が始まり、僕は最初の頃。

隣にいる荻野目さんが気になり、声をかけようとするが、彼は最初の自己紹介で、クラスのみんなから注目されていた。

数人の女の子から声をかけられて無難にクールに対応する。男子達からも、帰りとかも誘われて、基本僕とはすごく仲良くなる事はなかった。



だが五月の初め、ゴールウィークを過ぎた登校初日。


長い連休で、僕は少し登校するのが億劫になっていた。いや、誰でもそうなるよね。まぁ、引きこもらず登校した自分が偉いと誉めたい。



とりあえず学校に着き、自分の教室前に来て扉を開け自分の机に向かう……いつも通りの日常。


机に着く前に、隣の荻野目さんがスマホを真剣に観ている。

この人……朝っぱらから何を観てるんだろう………と思いながら荻野目さんの後ろを通るとき、チラッと彼のスマホの中身が見えた。


あっ、あれ、あれってもしかして………と僕の視点は一点に集中した。

「『シルバーインカミ!!』」

僕は立ち止まり心の声を口から出してしまった。驚いて、荻野目さんは此方を振り向く。


「えっ!!」

彼の響く低い声。

「あっ、ごめんなさい! 見るつもりはなかったんだけどたまたま、目に入ってしまって………」

そう言った後、彼は黙って凝視する。

「佐藤くん、『シルバーインカミ』読んでるの?」

少しの沈黙の後に、彼は以外な回答を返した。


彼の素で驚いた顔は始めてみる。もしかしたら、彼と少し仲良くなれるかもしれない………


そう思った時の僕は、言葉を続けてしまう。


「はっはい! 面白いですよね!! 『シルバーインカミ』! 時は、第二次世界大戦が終結した占領された沖縄。脱走兵だった森下が一人の沖縄の少女と出会い、島々に隠された財宝を探しだす。トレジャーバトルコメディですよね 」

「そうだね。わざわざ解説ありがとう。俺はこの作品を男のロマンだと思っているよ 」

「あっ、それわかります! というか登場人物とかすごくカッコいいし、面白く各魅力的ですよね!」

「あぁ、そうだね。まぁ何と言っても森下がかっこ良すぎる 」

「たしかに! 『俺は強靭の森下だ!!』は毎回震えますよね! 僕はあの回が好きで……あの、メンバーが何かがはぐれて男5人だけになった時に熱中症を防ぐため一度、無人のコテジに避難するトコ好きですね~」

「いや、たしかにあれはすごくおもしろかったね。部屋にある酒を……ハブ酒と知らず飲んで食べ物も海蛇しかないから食べちゃって……」

「そうそう! もうどうしようもないから、身体を動かすしかないってなって、指相撲に始まり腕相撲になって最後はプロレスになって! あの時、ある意味どうなるかと思いましたよ~」

「ふっ、そうそう……」

彼はスッと僕の肩を巻き込むように腕を回し、

「こういう風にね。」

と低いが甘い声で言った。


僕はゾクッとして体が硬直する。

「冗談だよ、冗談。」

「あっ、あぁ~……もぅ! 冗談キツいですよ!!」

そう言うと息を抜くように笑う。始めて彼と盛り上がった。

それを皮切りに僕たちは漫画の話や、海外の映画の話で盛り上がり仲良くなり下校も一緒になるようになって………



だが、荻野目さんと仲良くなって二週間が経った、そんなある日………





その日もたまたま荻野目さんと一条くんと何人かで下校していて、荻野目さんと話していたが急に首を傾げる。

「そう言えば、佐藤くんってツブヤイターやってるよね」

「えぇ、まぁ、一応。」


まぁ、その時はツブヤイターでフォロワーになるよっとかの話だと思っていたが……



「見てるよ 」

荻野目さんがボソッと言ってたから少しニヤッと笑う。

「何かツブヤイターに、昔アップしてある写真をチラッと見たんだけど見た目全然違うよね 」

「えっ!………」

彼はどうやら僕のアカウントを特定して履歴を見てるようだった。僕は過去を掘り出されるのか心配になり、少し呆然とした。

僕は苦笑いをし、しどろもどろになる。

「まぁ………そうですね………えっ、というかなんで僕のアカウントわかったんですか?」

「いや、そう言うのって……直ぐ調べられるからね 」


彼は少しにやつきながら言い、恐怖を覚えた。その日の僕は表面上では、話を合わせたが……内心はソワソワしていた。





そして、それからまた数日が経つ。来月6月は文化祭。


今年はクラスの出し物は食べ物の屋台に決まり一安心していると………


その日の放課後、早川さんに呼び止められられた。話を聞くと、どうやら早川さんが演劇部から声がかったみたいだ。


どうやら去年のロミジュリを観てた女子の先輩が彼女の熱演と見た目に惚れたようで声をかけたようだ。彼女は先輩たちに熱心に頼み込まれ、出演を承諾したらしい。



彼女は照れながらも嬉しそうに僕に話してくれてる。まるで子供の話を聞くお母さんの気持ちになった。

だが、彼女は話してる途中に改まった態度になり、少し注視してしまう。

「そう言えば……あの!! 佐藤さん……今日の放課後とか、空いてますか……?」

「えっ!!」


僕は、もしかしてデートのお誘いかと思い、どぎまぎしたが彼女にバレない様に気持ちを落ち着かせて、気を引き締めて言葉を返した。

「あっ…………空いてます!!」


彼女の顔はよりみるみる明るくなる。


「よかった~!! 実は演劇部の裏方、人が足りなくて……お手伝いをお願いしてもいいですか?」

「えっ……」



なんだデートとかじゃないんだ……いや……まぁ! 彼女といる時間が増えるなら……いいか!

「うっ、うん! まかせてよ!!」


ついつい見栄をはって返した瞬間、横から

「早川さん、演劇部なんだ……」

っと低く響く声が聞こえ、振り向くと……どこかに席を外してた荻野目さんが戻ってきて、此方をみている。


「いえ、私は今回たまたま客演を頼まれただけで 」

「そうなんだ…………よかったら俺も、暇なんで……手伝おうか?」

彼は少し考えた様子で、僕の方をチラッとみてから言った。


荻野目!! 僕たちの会話に混ざるなよ!


「はい! お願いします!! 人が多い方が助かりますので」

僕の願い叶わず、早川さんは快く返答をした。


あぁ、せっかくのチャンスが……


「あと、うちのクラスだと優ちゃんが手伝ってくれるから~」

あぁ……最初からチャンスは無かったのね……僕はさっきまで舞い上がってた気持ちが一気に盛り下がった。



その後、演劇部が借りている四階の教室に移動する……





早川さん以外の僕たち三人は先に軽く挨拶を済ませて、着席する。

部員達のはっきりとした発声。始まる前、各々に軽い発声やストレッチ。そして、所々に演劇関連の本が見える。


部長らしき方が

「それじゃ! みんな! 打ち合わせはじめるよ!!」

と言うと

「はい!!!」

と教室に声が響く。


そして、顔合わせが始まった。こう思うと本当に演劇部感がある。


演劇部の空気って嫌いじゃないんだよなぁ……


今、教室には役者とスタッフを合わせ総勢25人となかなかの大所帯となった。

まず、部長である三年生の氷上 綾女。肌は白く、細い体つき。セミロングほどで、くるりんぱっていう髪型をしている。少し狐顔の美人系だ。


彼女は落ち着いたトーンでありながら、柔らかく話す。

「本日、演劇部以外で着て頂いて方々、誠にありがとうございます! 演劇部を代表してまず、まず私から感謝いたします!」

彼女は深々と頭を下げ、それに合わせて演劇部部員の人たちも軽く頭を下げる。それ以外の僕たちは圧巻されたが、此方も頭を下げた。

「えぇ、今回の文化祭では、少し我々の部も本格的な演劇を挑戦したいと思い、シェイクスピアの『真夏の夜の夢』に挑戦いたします!」



パチパチパチ!!


部員たちは一斉に拍手をする。


「まぁ、もちろん。全幕をやると二時間ほどになってしまうので……多少省略し、45分ほどでオリジナル要素を入れつつやろうと思います!!」

氷上部長は演説の様に力強く言った。


へぇ~、『真夏の夜の夢』か……すごいなぁ……


そう思い僕含め拍手をする中、周りを見回すと……ふと、荻野目さんの顔が……少し暗くなっているのが目に入り気になった……




そして、改めて配役説明と挨拶をして、直ぐ様ストレッチに入る。

身長の関係上、早川さんと組める相手がおらず、僕が代わりにやることになった。

荻野目さんと長瀬さんはスタッフの打ち合わせの方に入っている。




流石に相手は女性で、それも惚れている早川さんなので僕の心臓はスタンビートを奏でている。むしろ破裂してしまうんじゃっ、かと思った。

でも……これで死ぬんなら本望だ。



「では、まずは丹田を確認して!」

部長にそう言われ僕は震える手を何とかコントロールし、彼女の丹田と思われる所に手を当てた。


やばい、変態だと思われないように平常心だ! 言葉もなんか情けない感じだと気持ち悪いと思われるかもしれない。大人の男として振る舞うんだ。

「丹田、ここであってると思うんだけど」

僕はあえて、落ち着いたトーンで言ってみる。普段使いなれない感じだから、浮き立ってるかもしれない……

「そうですね……」


「うん、そこだね。大丈夫!」

氷川部長はそう告げてまた別の人の所に行った。

「よく、丹田の場所当てれましたね!」

「いや、ちょっとね……昔、少し芝居をかじってて……」

「そうだったんですか!!」

彼女は驚いてから笑顔と尊敬の眼差しらしきのを向けてくれた。



「では、次にみぞおちの所に手を当てて、息の流れを確認してみて!」

部長の掛け声でついつい何も考えず自分が思う、彼女のみぞおちと思える所に手を当てた。

「あっ、あの! 佐藤さん!! そこは少し上過ぎません?」

「えっ?! 」

彼女を見ると少し、顔が赤くなっていた。やばい、調子に乗って上過ぎたか……いや、でも……たぶんココなんだけど……そうこうしていると、氷上部長が確認に来て、彼女も同じ所に手を当てる。

「ああ、うん。ここであってるよ!」

また同じ様に去っていった。



僕たち二人は恥ずかしくなり、顔を下げて黙ってしまった……そのまま息の流れの確認をする。


僕は先ほど無自覚でやってしまった事、この変な高揚感を押さえるために……今、頭の中で自身の顔面を殴られて鼻血が出てるイメージをして気を紛らした。

このイメージをすると邪念がなくなり、見えない痛みを感じるので目が冴えるのでおすすめである。


それとは別でふと、何故か此方にいくつか視線を向けられてるのを感じる……僕は振り向いて周りを確認した。


……気のせいか……?


そんな感じの流れで、ストレッチが終わった。早川さんは読み稽古に、僕はスタッフ陣と合流し軽く打ち合わせをしていく。

そして、打ち合わせようで今回の公演のLINEグループに参加した。



それからはバイトが無い日は演劇部に顔を出す日々が始まった。僕にできる事はなんでもやってやる! 早川さんに振り向いてもらうためにも!!






数日後、5月後半。


稽古がはじまり打ち合わせをしたり芝居の流れを確認したり等々なんかんや忙しい。

そんなある日、芝居の練習中の事だ。



バタン!



練習中に女子生徒が倒れた。何が起こったかわからず周りの生徒は騒然している。


僕と何人かは急いで駆け寄り、1人の女子がその倒れてる女子の身体を楽にしてあげようとして、動かそうとした。


「待って! もしかしたら頭を動かすと、より危ないかもしれないから! まずは保健室の先生を呼んできてください!」


早川さんは後輩の女の子達に指示を出す。


僕も咄嗟に何かできないかと思い衣装の予定の服と自分の上着を持いく。

「早川さん! 彼女少し震えてるから、何か被せてあげた方がいいんじゃない?」

「そうですね 」

彼女は少し考え彼女の様子を確認して、

「わかりました! 掛けてあげてください!!」

と僕は彼女に上着を二枚優しくかけた。


そして、保健室の先生が着て微かに話せるようになった、その子に声をかけ確認した結果大事には至らなかった。部活の面々もほっと胸を撫で下ろした。


でも、流石早川さん。親御さんが看護師やってるだけある………と感心してしまった。





そのまた数日後。


演劇部の全体LINEで部長から指示のメッセージが送られた。


『いつも借りてる教室が今日は使えなくなり、5階の空き教室を使うことになりました。机と椅子が足りないかもしれないので各々、椅子と机を上の教室まで運んでください 』



そして、その指示通り

部長以外のメンバーは運び終わった。だが開始時間になっても氷上部長は来てない……それでも練習が始まる。



そんなか僕は……

もしかしたら机と椅子が足りないかも……いや、もしかしたら持ってきてない小道具があるかも……と思い、いつもの教室に向かう。




教室に着くと、他の生徒たちが文化祭の準備をしている。この賑やかな雰囲気。また今年も始まるんだと心が踊った。


小道具等を確認していると、ドアが開き氷上部長が何故か足を引きずりながら来た。

「えっ! どうしたんですか?大丈夫ですか?」


彼女は痛みを押さえるような表情で笑う。


「いや、体育の時にバスケで調子乗ってたら軽く挫いちゃったの。アハハっ、私ってドジだよね。でも、保健室に行って診てもらったら大丈夫!!って言われたから…………うん、問題ないよ!……あっ、そうだ……机と椅子持って行かなくちゃね!」


彼女は平然を装うとして椅子に手を伸ばした。


「駄目ですよ! 無理しちゃ!」

「平気、平気!」


彼女は少し無理をしてる様だし……足を少し痛めてる状態だと二次で怪我につながるかもしれない……

「駄目です! 部長さんは役者だし、部長さんに何かあったら今回の公演が台無しになるかもしれません! 無理しないでください!! 机と椅子は僕が持っていくんで!!」

僕は真剣に伝えて椅子と机を持った。


彼女は申し訳無さそうな顔をし、

「ごめんね! 手伝ってもらってるのに……別で迷惑までかけて………」

「いえ、迷惑じゃないですよ! これも僕の仕事なので! もし、困ったことがあったら、何でもいってください!!」

と部長さん心配させないように明るく返答した。


「あっ、まだ序盤なんでゆっくり着ても、まだ大丈夫だと思うんで~」

「ありがとう……」

彼女は顔を隠すように下げ、少し照れたように言った気がした。


まぁ、僕の気のせい? いや、妄想だろう……

そんな自分のアホらしい考えで1人苦笑をした。




部長さんはその後、自身の出番に間に合うように着く。

周りの女子たちが心配そうに……

「部長! 大丈夫ですか!?」

「うん、先生に呼び出されて、遅くなって……ごめんね!……みんなに迷惑かけた分、がんばるね!」

まっすぐに謝罪をした後明るく返答をする。部員達はそんな彼女の様子に胸をなで下ろしたようだ。


こんなにも部員から信頼され、そして部長の方も心配をかけないように泰然に構えられる……素敵な部だと、僕は思った。




その日も稽古と打ち合わせが終わり……僕は帰ろうとしたとき、部長さんが近づいてきて耳元で

「今日はありがとね!」

っと言われ、少しドキッとして距離を離し、顔を赤らめた。


「そういえば、今日はこの後軽くファミレスで打ち入りやろうと思うから……来ない?」

彼女は首を傾げつつ、流し目で言う。



僕はどう答えたらいいか悩んだが……早川さんも行くだろうし、早川さんと話すチャンスがあるかもしれない……

早川さんと近づけるかもと思うと、嬉しくなる。

「はい! 行きます!!」

「あっ、俺も行って良いですか?」


気が付くと、荻野目さんがいつの間にか僕の真横に立っていて背筋がゾクッとする。


「うん。もちろんだよ 」


僕はにこやかな部長さんと、不適な笑みを浮かべる荻野目さんに挟まれ、何とも言えない感情になった。





打ち入りは、しゃぶしゃぶ兼ファミレスでやることになった。

『ニュートレジャーアイランド』とは目と鼻の先。


千里香さん、今日もいるかなぁ……っと打ち入りの半ば考えていた。


まぁ今回の集まりは話しは演劇部だし、当たり前の様に演劇やドラマや映画、学校での話……各々のプライベートの話までしている。

最初、早川さんと長瀬さん、荻野目さんで座っていた。


軽く話していたら、長瀬さんが嬉しそう美味しそうにお米を食べる。


「うん! ここのお米おいしいね!!」

「たしかに美味しいけど、そんなのわかるの?」

「わたし、お米が好きで~旅館とか行った時は、行った先のお米の種類を確認したり、炊き方を確認するんですよ~。毎回行った時は写メするんで観ますか?!」

「えっ、あっ、うん!」

彼女のお米への愛ち乗せられ答えてしまった……でも、お米でこんなにも楽しそうに話せる子、おもしろいなぁ~

きっとスゴく両親がいい人で暖かい家庭なんだろうなぁ~っと短い期間ながら所々感じる。


「これなんですけど!」

満面の笑みで彼女はスマホを僕に見せつける。

写メはもちろんお米……真っ白のお米……何枚かの旅館でのお米……大盛りに盛られたお米。


いや、うまそうだけど!


彼女は満足そうに画像を見せてくれ、どうやら僕の答え目を輝かせてまっている。

ついついこの子……面白いなぁっと思っていたら、彼女のスマホのストラップに目がいった……


僕はお米より、ストラップの方に目を奪われた。

「えっそっ、それ! 『悪魔の剣』の『汝夫 悪経』だ!!」

「えっ、佐藤くん知ってるの?」

「いや、今、有名じゃない!! というか、悪経が好きで……主人公じゃないし、女性にだらしなく頼りないけど、いざって時は活躍して悪魔を倒すし、『電電のパオ』がカッコよくて好きなんだよね~」

「わかる! あのちょっと情けない感じが可愛いんだよね!!」

「そうだね~、そういえば、『悪魔の剣』は日本の殺陣の動きをちゃんと描いているのがすごいんだよ。」

「えっ、そうなんですか!? 言われてみれば構えとかちゃんとしてますよね!! もしかして……佐藤くん、殺陣の動きとかわかる感じなの?」

「えっ……」

僕はうっかり口を滑らしてしまった。昔の事は余り他の人には言いたくない……だが、長瀬さんとの会話が思いの外、楽しかったので気持ちが上滑り言葉が漏れた。

「実は昔、3年間ほど勉強してた時期があって……お恥ずかしながら……」


きっと今すぐ、殺陣の事をやれっと言われてもできない。それでもやっていたのは事実だ。だが、三年という期間は短いのかもしれなく、ついつい恥ずかしさも入れ混じり、恥ずかしさで目を伏せる。


「すごーい! 私も挑戦しようと思ってたんですが……難しいですよね~……」


そんな彼女を見ると純粋な目を僕に向けてくれ、より気持ちが軽くなった。

「そうなんだよね、基礎の正眼が以外に綺麗にできないし、捌きを覚えるのは大変だし、筋肉が必要だしね……でも初段の構えを覚えてできた時は興奮したよ~……」



ついつい分かり合えた事で、僕たちだけで盛り上がってしまう。


早川さんを見ると黙々とご飯を食べて、荻野目さんは静かに僕たちの話を聞いていた。

そんな様子が申し訳なくなったのと、早川さんの声が聞きたくなる。


そうだ、早川さんと話さなきゃと話を振ろうとしたが……


「それじゃ、そろそろ変わろうか!」

ふと後ろから声を掛けられ、気が付くと氷川部長にもう一人の女子と荻野目さんという感じの席になってしまう。そして、みるみる早川さんが遠退きショックでしかない……



氷川部長は僕の目の前に座り

「今日も本当にありがとうね!」

と彼女は朗らかに軽く言った。


でも、これから僕たちは何を話せばいいかと悩む。部長やお隣の方は、何に興味があるのだろうか……


そうこう手をこまねいていると、彼女が僕を見て優しく息を漏らした。


「そういえば、佐藤くんのLINEのアイコンって……もしかして……フディの紫村さん?」

「えっ! 紫村くんを知ってるんですか?」

「えぇ、もちろん! まさか『all of young people』がこんなに有名になるとは思わなかったよね!」

「はい、そうなんですよ! 本当に紫村くんが亡くなってからのフディパブリックの飛躍がすごいんですよ!」

「そうよね……ちなみに好きな曲は?」

「そうですね! なんと言っても『all of young people』が一番ですけど『桜過ぎて』や『突風』も好きですね。ああ、すいませんついつい僕の話ばかりで……部長が好きなバンドは?」


彼女は僕の受け答えに、嬉しそうに考える。


「うーん、私が好きなバンドはそこまですごく有名じゃないんだけど……ロック好きな人だとわかるみたいな……」

「言ってみてください! わかるかもしれないんで~」


彼女は少し照れながら……

「ペロウズってわかる……?」

「えっ、何言ってるんですか!! すごく有名じゃかいですか。僕ミスチル好きなんですけど、『狂った避役』きっかけでしりましたよ! あと『Funny beauty』が有名ですよね! ちなみに僕は『天道虫みたいなあの子』が一番好きですね! 」

彼女はまさか、わかって貰えたのが嬉しかったみたいで、いつもと違うテンションで話す。

「いいよね、『天道虫みたいなあの娘』! ちなみに、私は『ゼッテー負けない』と『中東天使の唄』とバラードだと『入り雑じった虹』が好き! 」

「いいですよね~そういえば『入り雑じった虹』はバンプの藤本さんやエルレの細川さんが好きなイメージがあります!」

「そうそう! 藤本さんはペロウズの山田さわさんにデビュー前にCD送りつけたらしいし~そういえばペロウズがあの世界で有名のアナシスの前座ライブを断ったて話知ってる?」

「勿論ですよ! 有名な話ですからね~……」



気が付くと、そこから話がすごく盛り上がった。


まさか、ロックの話で盛り上がるとは思わなかった……彼女と話して、すごく居心地がよく楽しい……自分自身、無理をしてないのを感じて、目の前の彼女がより美しく見える……


いや……待て待て!! あれ?! そういえば、早川さんは……

バレないように、動きをつけて周りを見ると、向こう側で彼女は楽しそうに話してるようだ……


はぁっ! そろそろ、早川さんとも話したい!


ちょうど早川さんの同テーブルの人が帰っていくのが見える。


よし!


「あっ、すいません! そう言えば僕、早川さんたちと話さなきゃいけないことがあるので……」

「えっ……そう……?」


彼女は少し寂しそうな反応を返した。申し訳なさを感じたが振り払うように僕は立ち上がり、さりげなく早川さんたちがいるテーブルに行く。

「早川さん! 今日、楽しいね!」

と言うと彼女には珍しく

「そうですね 」

と素っ気ない返しをされた。


そんな彼女の姿で、僕はどうにか焦って続けないといけないと思い、思い付いた事を彼女に滑り込ませる。

「あっ、そう言えば演技どう? うまく言ってる?……」

「まぁまぁですね……」


僕はカード投げの様にいくつか投げ掛けるが、微動だにしない彼女には刺さらない……僕の言葉が本当にカードのように軽いのだろう。そんな微動だにしない彼女は壁だ。

ぶつかったカードは跳ね返り飛散する。そして、なかったかのように地面にヒラヒラと落ちる。


すっかり言葉を詰まらせた僕は思い付かず、沈黙が流れた。


「ごめんなさい、私そろそろ帰らないと」


早川さんはそう告げると、あっさりと帰ってしまう。

普段穏やかな彼女にしては、一瞬ムスッとしてた気がした。

そんな彼女が気がかりになるが、追いかけるとより嫌がられるかもしれないと考えるとよりテンションが下がる。

だがそんな悲惨な僕は、周りに悟られないように気丈に振る舞った。





そしてそんな残念な打ち入りは終わり、僕と荻野目さんは一緒に帰る事になった。


「佐藤くん、今日、すごく楽しそうだったね」

「えっ、まぁ……思った以上に、色んな人と話が合ったので」

「ふーん……それは、よかったね」

「そんなに僕、楽しそうでした?」

「女の子にちやほやされて嬉しそうで……気持ち悪かったよ」

淡々と辛辣な事を言われ少し顔がひきつる。

でも、悟られないようにすぐに顔を戻し、言われたことを受け流すようにした。

「そっ、そうですか。まぁ、お芝居の話とかできたし……よかったですよね。そういえば……なんで荻野目さんは今回手伝おうと思ったんですか?」

そう言うと彼は目をそらし、視線を下にして考えている。



「別に……暇だったから……だよ」

「そうですか……」

何か歯に引っ掛かったような表情を浮かべた後、彼は切り替えた。


「佐藤くんは芝居やらないの?」

「えっ、いや……というか今回はスタッフとして呼ばれたから参加したんじゃないですか 」

「いや、そういうことじゃなくてさ…………」


僕が彼の意図をくみ取れてない事に苛立ちを募らせ、息を小さく短く吐き、首を捻った。


「まぁ、いいや……話は変わるけどさ……たまに佐藤くん、下校時とかネックレスつけてるよね」

「えっ、まぁ、気に入ってるので」

それはセイカちゃんから貰ったネックレスの事を言われた……だが、わざわざ彼につけるまでの経緯をこの人に話すかを少し悩んだ……


そんな事もいざ知らず彼は呆れたように、腰に手を当てた。

「いや、僕の主観なんだけどさ、男がアクセサリーつけてるのってキモいよ。あと、逆にたまにつけてる腕時計はおじさん臭いからやめたほうがいいよ」



彼は悪びれた様子がない。僕は一瞬何を言われたかを理解できず、頭が真っ白になった。

それ以降の会話は覚えていない。適当に話を合わしてたような気がする……先ほどの言葉を言われた後、彼の顔をみるのも嫌になったので別れ道で彼が行こうとした方向に、適当な理由をつけて別れる事にした。


彼と別れた後、怒りがふつふつと沸き上がる……僕はその足で家に帰った。

部屋に戻り、セイカちゃんがくれたヒトデのアクセサリーが机の上で輝いている。僕はそれを手にとって、そのアクセサリーを見つめた。


脳裏で荻野目さんの言葉が過る。


『男がアクセサリーつけてるのってキモいよ』


その言われた言葉で悔しくなるが胸も痛くなる……

「ごめんね、セイカちゃん……」

と一言、ボソッと告げ、元の小さな箱にしまい勉強机の引き出しの奥にゆっくりと……大切にしまってしまった。





後日、5月の終わり頃。

学校で早川さんの様子が気になり、それとなく話し掛けると普通だった。そして、どちらでもいいが荻野目さんも変わりはない。



その日の演劇部の練習が終わり、長瀬さんが演劇部の後輩の女の子二人を引き連れて近づいてきてくれた。

「佐藤さん! 殺陣の五行の構えってどうでしたっけ?」

そう言うと模擬刀らしきものを僕に渡す。


目の前の良い模擬刀。女の子三人から求められてる感覚……

僕はその期待に嬉しくなり刀を借りて、抜刀した。

「まずは正眼だよね」

僕は右足を出し、左足を下げて刀を構えた。

「次は上に刀をあげて……」

と言った後、下げてる左足を前にやり刀を上にする。

そして、振り下げようとした時……


「あぶなぁぁぁぁい!!!」

っと低く強い声が響く。


僕は何が起きたかわからず、周りを見回した。すると上に構えてい刀の少し先に電灯があることに気づいた。



「あっ、ごめんなさい!!」

咄嗟に謝りその場は何事にも起こらず何もなかった。


もし、あの時、荻野目さんが言ってくれなかったら……事故になっていたかもしれない……嫌な事は言われたが彼には感謝しかない。


だが、僕は放課後……最近の荻野目さんの言動と今日の事。

僕が勿論悪いがある意味恥をかかせられたっと思ってしまい……ついついそのモヤモヤした気持ちをツブヤイターで今日の事を書いて投稿した。



『今日はついつい、女の子に囃し立てられて、殺陣の構えを披露しようとしたら、事故になりそうになった。本当に気を付けないと……』


ピローン!


投稿して数分後、知らないFF外からのアカウントからコメントがきた……イネ科ぽっい植物の固まりに、目がついたアイコンのアカウントから……


『あれはダメだと思う 』


頭の中で、低い声が響く……





次の日、荻野目さんにそれとなく

「昨日、ツブヤイターにコメントくれたのって……」

「あぁ、あれ俺だよ。」

「へえっ……そうなんですか……」

「佐藤くんさ……前回の事、含めて……」

と彼は言葉を澱める様にしてから

「もっとさ、周りを見た方がいいよ 」

と言われた。

少しムッとしたが、彼が言った事に一理あると思ってしまうので……

何か言い返そうとしたが言葉を閉まった。





そして、ここ何日か演劇部の練習終わり後……

氷川部長に何回か話し掛けられ小声で

「よかったら、一緒に帰らない?」

と言われることが増えた。


その言葉を言った後、彼女の真っ直ぐな眼差しは僕の目を逃さないように捕らえているようだ。

たしかに、氷川部長は美人で人望がある素敵な方だ……でも、僕が好きなのは早川三咲。


そして、今…………早川さんと誰かはわからないが何人かの視線が此方に向けられている……

「すいません……この後、用事があるので……」

その度、僕は無難に他の理由をつけて断る事が増えた。


でも、もちろん毎回断ってしまって申し訳ないとは思ってい罪悪感はある。だが彼女はそれとは関係なく、仕事等を振ってくれたり、話し掛けたりと、大人な人だなぁっと感心している。





また6月に入り、荻野目さんが用事があると言うことで、練習に来ない日があった。


それから2、3日後……久々に文化祭の用意もない。バイトもない。演劇部の練習もない。


さて、久々に『トレジャーニューアイランド』に行って、ゆっくり服でも見るかなぁ~と思ってた矢先……


荻野目さんから珍しく、『一緒にカフェに行かないか?』っと誘われた。


最近、荻野目さんに嫌なことしか言われてないし断ろうと思ったが一条くんも誘ったと言われたので仕方なくついていくことにした。





駅の北側にあるカフェに着き、4人掛のテーブルに座る。

メニューを見ながら、お洒落だねとか、どれも美味しそうだねっとの普通の会話をした。

そして、各自頼んだドリンクと軽くつまめる食事が届き、食べ始めた。

その後も趣味の話や学校での事を話していたが……急に荻野目さんの元々固い声質がより固くなる。


「佐藤くんさ……」

「えっ、なんですか?」

と言った後、僕はポテトを口に運ぼうとした。


彼は顎に手をつけて

「クラスの女子二人から嫌われてるよ。」

とサラッと言った。



「えっ……」

口に挟んだポテトが声と共に下に落ちる。


「えっ、えっと……」

僕は言葉を選ぶが、声が出ない。驚きのあまり息も吸えない。

一条くんは気まずそうな顔で様子を窺っているようだ。


僕は漸く言葉がまとまり、

「それって、どういう事ですか?」

「いや……君、一年の時は今とは全然違ったんだってね。それが今は色んな人に話し掛けるようになって、優しさを振り撒いて、何様気取りだって……女の子や先生に媚びてる様な態度が気持ち悪い。私だったら、あんな男とは付き合いたくないとか言ってたよ 」


僕は述べられた言葉にただ、黙るしかなかった。


「ちょっと、それはひどく!っ……」

大人しい一条くんにしては珍しく言い返そうとしたので不味いと思い、何とか彼を制した。

「一条くん!……大丈夫だよ…………あの……それは誰が言ってたんですか?」

と僕は気持ちを落ち着かせて怒りを抑えようとした。そして狼狽えながら質問をする。


「いや、それは個人の守秘義務があるから……」

「でも、そこまで言ったら言ってください。僕もその人たちには近づかない様にしますし……」

「いや、言えないね」

彼は歯切れが悪く答えた後、彼には珍しく少し明るいトーンで切り返した。

「まぁ、そんな事は置いといて他の話題をしようか」


もちろん僕はその後もクラスで誰が嫌ったいるんだろうと考えながら、彼と会話をする……



帰り際、お会計で

「今日は俺が呼び出したから、いいよ 」

と彼は黒の長財布をだし、僕たちの分も支払った。


「それじゃ 」

彼はそそくさと帰っていく。



そんな彼とは反対に帰り一条くんは僕の事を気に掛けてくれる。

「気にする事ないよ。ホントかどうかも分からないし、もしかしたら……その事言った女子は君が色んな女の子に話しかける事に妬いてるのかもしれないし……」

彼には珍しく優しく励ましてくれている。


僕は彼にこれ以上。心配かけないように笑顔で誤魔化した。





翌日、登校して教室に着き机に座る。

ふと先日の事が過り、周りを見回す。いつもの教室の風景のはず。

だが、女の子たちが固まって話していると……僕の事、媚び売っているキモい奴って思ってるのかなぁ……

と思ってしまう。


僕は急に周りが怖くなり、机にうずくまり腕で顔をおおう……誰が言っているんだろう…………



放課後、一日中気を張っていたのでみんなが帰っていって漸く力が抜けた。



スゥッ、と息を吸い

「……はぁーーー……」

と大きく溜め息をついた。


僕は立ち上がりたいが足と腕に力が入らない……


「佐藤さん」

優しい太く柔らかい声が耳から胸に響いた。

僕は少し顔を横に向ける。早川さんがわざわざ僕の横まで近づいてすれた。


「どうかしたんですか? 今日なんかボーッとしてますよ?」

「いや……ちょっと……考え事があって……」

僕は顔を下げながら、苦笑いをした。


「そうですか……言いたくなったら、聞くので。演劇部の方は佐藤さんは今日は体調不良なので休みますって言っておきますね。」

彼女のさりげない優しさが響く……だが……



『クラスの女子二人から嫌われてるよ』



……まさか、早川さんじゃないよな……


僕はそれから少しの間クラスの女子と話すのが恐くなり距離を離す事にした……





次の週に移り……また、なんとか演劇部の練習に参加できるようになった(実際は迷惑や心配をかけたくなかったので頑張ってでる事にした)。



文化祭も近づき、作品もどんどん仕上がる。小道具や大道具や衣装等々も揃ってきてとても演劇らしい。



だが、衣装で決まりきらないところがあるみたいだ……とりあえず男物の私服をまた持って来て欲しいと言われ、ボタンシャツ等を持ってきた。



部長や他の部員が衣装を選ぶ際に僕のいくつかのボタンシャツを吟味する。


「えっ、これ、お洒落だね!」

「たしかに、こっちの花柄は可愛いし、佐藤くんって本当にお洒落なんだね!」

女性陣に誉められ僕は嬉しさと恥ずかしさを隠すために、大きく手を振った。

「そんな事ないですよ~」


すると目線を感じ、振り向くと荻野目さんが不服そうな目で此方を見ている。

僕は直ぐ様、目線を外し衣装選びに戻った。



一旦休憩になり、教室から少し離れたトイレに行き、戻ろうとしたら荻野目さんとバッタリ鉢合わせる。


「お疲れ様です……」

とりあえず大人の対応をし、戻ろうとした。


「佐藤くんさ!」

そう言われついつい振り向く。

「あれさ、今も着てる私服?」

「えっ……まぁ……」


彼はまたも呆れた様子を浮かべた。

「はぁっ、あの衣服さ、男が着るのに恥ずかしいよ 」


その言葉でついに、僕の中の一本の張り積めていた紐が切れた……

僕は彼の言動を無視して、真っ直ぐ歩く。



ふつふつふつ……何かが沸き上がるようだ。

ブツブツブツブツ……それと同時に僕は小声で今まで言われた事に対しての怒りを吐きながら歩く……







チュルチュルチュルっ



「で! その後!! 長瀬さんにぶつかりそうになって、彼女の笑顔と楽しく話してくれたのを見てると怒りがどこかにいったんですが……やっぱり、忘れられなくて……」



チュルチュルチュルっ



僕が自分語りに必死になっていたら、目の前を見ると彼女が見え隠れする。そして改めて突っ込もうと思った。



「千里香さん! 何、食べているんですか!!」

彼女はレジで隠れつつ、何かを食べているようだ。


「ふぇっ! あぁ、すまないすまない!! だって~話が長いんだもん。話しはちゃんと聞いているよ! ちなみに食べているのは、心太の黒蜜かけだ 」

「これまた、マニアックなもの食べてますね……心太の黒蜜がけは、関西発祥ですよ。それに千里香さんはアメリカ出身では……」

「ハッハッハ!! 私を嘗めてもらっては困るぞ、少年! 私はスイーツはじめ、食べ物で気になったものは調べる性格なのだよ! ちなみにところてんが大陸から日本に伝わったのは奈良時代から平安時代初期。当初は専らからし酢をかけた食べ方で、うまみを増すためにしょうゆを足す味付けが全国に広がったそうだ。だが、奈良、京都といった当時の都の周辺では、中国から輸入された砂糖が貴族の間で流行していたそうだ。もしかしたら、風味の濃いところてんに合うように、砂糖を使って作る、黒蜜で甘みを足す食べ方が生まれたのではないかと、ある学者は推測してるようだ。でも、なぜ江戸時代以降も黒蜜文化が関西にとどまったかといわれると、砂糖が庶民に出回り始めたのは江戸時代。依然高価だったため、当時は薬として扱われたそうだよ。薬の原料を扱う商人は大阪に集中して、今でも大手薬会社の本社を構えているんだ。で、結局砂糖の卸売り機能が集まった関西だからこそ、庶民にも甘味の文化が根付いたという説がある。一方当時、江戸では地方から上京した単身の男性が多く、そばを好むなど粋な食文化が発展して甘い味付けよりも、酢じょうゆのところてん文化が残ったらしいよ…………あっ、ちなみに、この心太はさっきメモ用紙に書いて、田中に持ってきて貰った 」


僕は心太にそこまでの歴史があったことに驚いた。

そして、田中さんそんなバレない様にやっていたのか……あの人……忍者か……いや、違う違う。


「で、本筋に戻りますけど……そんな感じで、怒りと悲しみが入り交じってるんです!」

「ふーん。まぁ、たしかに嫌な言い方はされているなぁ 」

「でしょ!」

「でも、君にも悪いところがあるような気がするんだが……」

そう彼女に改まって落ち着いて言われ、僕は黙ってしまった。


「最初に言った通り、誰にでも良い顔をしようとした結果だと思うよ…………あと私は君と出会った頃に忠告したはずだよ。君の能力が暴走した時に、大切な人を傷つける可能性があると…………まぁ、君のそういうお人好しな所が好きだから私はこうやって関わってるんだがね 」

「ぅぅ……」

「でぇ、君は彼とどうなりたいのかなぁ?」


そう、彼女は首を傾げながら問いかけてきた。

「ぅ……わかりません…………」

僕は下を見つめ考えさせられてしまう。




「まぁ! どうにか……いやっ、これからどうなるか分からんよ!」

「えっ! それって……?」

彼女は考えている素振りをしほくそ笑む。


「私は……うん、その荻野目少年とやらに興味を持ったよ!」

「えぇ!!」

彼女は纏まった団子ヘアを作っているゴムバンドを外した。そしてさらさらっと髪は降りてきて、彼女はその髪をかき上げる。彼女のタイガーズアイに模した黄色い瞳が三日月の様に光って見える。

そうこれが圧倒的強者。


「そうだなぁ……今度うちに連れてきておいでよ」

「えっ、でも……」


彼女は少し乱れた髪で自信満々に

「まぁまぁ、このお姉さんにまっかせなさーい!! ゴホッ、ホッホッ……」

と彼女は自身の胸を叩いて……むせている……

前言撤回、圧倒的道化師。




この時、彼女の言葉の意図がわからなかった。

彼女がそう言ってくれるなら……連れ来てみるかと思った……




6月の半ば、雨が降り注ぐ。


長いのに読んで頂き誠にありがとうございます!!

今回は服の話しはでなかったですが……


今回のエピソードは佐藤くんと荻野目さんとのエピソードでしたね。


佐藤くんは優しい奴なんですが、人たらし兼ついつい女性に優しくしてしまうが最後はヘタレな奴なんですよね~

ある意味、作中に出た

『悪魔の剣』の『汝夫 悪経』(元ネタ 鬼◯の刃の我妻◯逸)に近いんだと思います。


私の主観ですが、自身が好きになるキャラクターとかって、もちろんその人にもよりますが、

自分自身もそうなりたい!

自分自身に似ている!

ってキャラクターを好きになる気がします。



さて、次回また長いですが……読んで頂ければ幸いです。

本当にありがとうございますm(。_。)m!!

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