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古着屋の小野寺さん  作者: 鎚谷ひろみ
sweet&salty
16/52

10 お花屋の娘さん #1

最近、体調を崩し勉強に集中できなく、ついつい書いてしまいました。

そして、描いてしまったら見ていただきたいと想いあげてしまいました(汗)


今回は、桜井先生視点。

大人の純愛があるなら……。って事で、描いてみました。


今回も長いのでゆっくり読まれましたら幸いです。




10-1 エビバディ パッションフルーツ




俺の名前は、桜井雄介……高校教師である。今、夕暮れの電車で座らないで外を見ていた。


あぁ、今日も素敵だったなぁ……SUMIREさん。本名はわからないが……



俺は彼女に釘付けなのだ。出会いはそう少し前である……





数か月前の夜、新宿。駅の近くの地下を歩いていた。

俺は休日を満喫していた。


「いや~、買ったよ。ガ◯プラ。よし、次の日曜日に組み立てるぞ~」


意気込みで帰ろうとした時だった。



歩いていると、目の前に小汚ないオッサン二人と、女性が屈んで小銭を集めてるようだ。

明らかに、オッサン二人は……あれ、浮浪者じゃね……はぁ、優しい女性もいるんだなぁ……

俺は右手で頭を擦りながら感心して通り過ぎようとした。



「おい! 姉ちゃん! ちゃんと拾えや!!」

俺は急な偉そうな声に驚いて振り向いた。


えっ、なんだ……トラブルか……?

俺は何か気になって、ちょっと立ち止まってその様子を見ることにした。



「あっ、はい! すいません、ちゃんと拾いますね 」

一緒にしゃがんで集めている女性が笑顔で答える。


なんと健気な人なんだ……っと思ったのも束の間、また、

「姉ちゃん、手が止まっとるぞ 」

と少し罵声のようなニュアンスで言った。


こんな心優しそうな人を捕まえて偉そうな奴だ!

その様子を見ていると少し腹が立ち、気がつくと俺も一緒に小銭を拾っていた。


強く言っていた浮浪者が俺に対しては、

「へへへっ、兄ちゃんすんませんな……」

と俺には愛想笑いをし、言ったあとすぐ、

「おい! 姉ちゃん、全然集まってないやろ!」

「あっ、ごめんなさい、急ぎますね 」

と彼女は笑顔で答えた。


そんな理不尽な様子に腹が立ち俺は、浮浪者を睨みながら小銭を集めた。

浮浪者はこちらの目線で気がつき、愛想笑いを繰り返す。


なんて媚びへつらいな汚い笑顔だ……いや、俺、教師だよ。世間的に聖職者かもしれんが、人間だし、それくらい思うよ。


そして、睨んでいたら彼女への罵声が無くなっていった。



そして、小銭を拾い集め終わり……何となく彼女の行動……なぜ、こんな失礼な浮浪者の小銭を拾い集めていたか気になった。

俺は満足そうにしている彼女に話しかけ、立ち話をする事にした。


「あの~なんで……(浮浪者の)小銭集めを手伝っていたんですか?」

「いや、私の田舎では人助けって当たり前ですから~」

彼女は俺にニコッと笑いかける。


俺はその無垢な笑顔に衝撃を受けた。

こんな都会でその様な善意を持ってる御方がいらっしゃるなんて……うぅ、その笑顔と綺麗な心が眩しすぎる……


「えっと、もしかして……最近田舎から出てきたとか……?」

「はい、そうなんです! 仕事と言いますか……まぁ、そのような関係で出てきました 」

「あぁ、そうなんですか。田舎ってどこなんですか?」


おい! 俺、何でそんな事言ってるんだ!? 彼女に不振がられるだろ……

だが、彼女はそのままニコニコと答えた。

「はい、最近、岩手から出てきました。お兄さんは?」



えっ、嘘だろ……まさかの会話続行……いや、嬉しいよ。嬉しいけどもよ。


「あぁ、実は十年近く東京に住んでるんですが、出身は和歌山なんです。一応、関西ですね~」

「えぇ、そうなんですか~? 全然、関西弁でませんね~」

少しおどけた様にそして、わざとらしいほどの関西弁のニュアンスで答えてくれた。



なんて、素敵な人なんだ。人助けをし、少し冗談交じりに返してくれる。


俺は彼女に、見とれてしまった。


体は華奢で長い綺麗なダークブラウンの髪をポニーテールし、身長は160センチくらいか……明るい黄緑色のワンピースとローファー。籠のようなバック。声はクリアで高らかな綺麗な声。肌は色白く、綺麗な目。そして、なにより特徴的なのは、ソバカスだ。ソバカスがすごく……似合う素敵な女性だ……


うぅ……さっきから後光が差してる気がする……きっと彼女は、天使だ! この人は神が俺に与えた天の使いだ!!

あぁ……こんな人が彼女だったら……て思うよね……あっ、そうだ、これも何かの縁。お茶とか誘ってみるか……

いや、待てよ……田舎から出てきたばっかりの御方だ。

これでナンパみたいな事をしたら、東京がそんな奴らばっかりだと思われかるかもしれん……せっかく、いい人だと思われてるのに……うーん、どうする……


なんか、さっきの浮浪者二人が、しゃがみながら此方を見てるし……いや、わかるよ! ドラマみたいに良い雰囲気だよ!! いや、ある意味君たちは良い仕事したと思うよ! だが、彼女に吐いた、罵声は忘れないからな!



俺は顔に出さないように葛藤した……


「あの……どうかしましたか?」

彼女は下から覗き込んできた。うーん、とても可愛らしい……

「あっ、いえ……あの……」



どのカードにするか……ごはんか? お酒か? 連絡先か?

どうする俺!どうする!? 続く!!




って、おい! 昔のCMじゃないんだよ! 続くじゃねぇ!! 現実なんだよ!!!



俺は目をつぶり、天を仰ぎながら、息を吸った……


「あっ……あの!……」


俺は唾を飲み込み、意を決して彼女の目を見る。



「夜道は危ないので気をつけてください!! では!!」

そう告げて、右手を上げ勢いよく去ってしまった……俺のバカ…………いや……これで良かったんだ。


さっきの場所から離れ、俺は早歩きだったのをスピードを徐々に下げ、途中立ち止まり、大きな溜め息をついた。





そして、次の週の日曜日。5月初め。もう、初夏と言ってもおかしくないくらいに暑い。夜はその暑さを少し引きずってるかのようだ。



またしても、所要(買い物)で私鉄新宿駅の路上を歩いている……向かいには、横断歩道を渡ると喫煙所。駅の上はデパートとなっている。


あぁ……そういえば、この間、今から一時間後くらいに……あのソバカスの似合う美しい御方がいらしたんだ……



急に、この都会の真ん中で再会はしないだろうか……なんて、無いだろうなぁ……


東京ラブストーリー的な……まぁ、俺、東京ラブストーリー世代じゃないし、観たことないんだけどね。



「♪~♪~♪」



新宿の私鉄駅近くの路上で美しい女性の歌声とアコースティックギターの音が聴こえる。俺はその歌声につられ、ついついツラツラとその方向へ歩いた。



近寄ると結構な人集りができて、歌ってる人物の姿は見えずらい……

でもその歌声、なぜか可愛らしいのに胸に残る歌詞。俺はどのような人が歌っているか気になり、人集りを掻き分けながら前に進む……そして、気がつくと一番前にいた。



歌ってる人物は体は華奢で、デニムシャツと白いシャツ、スキニーのデニム凄く似合う。白いスニーカを履き。長い綺麗なダークブラウンの髪をポニーテールにし、身長は160センチくらい……肌は色白く、綺麗な目。

アコースティックギターを弾き語っている。

そして……特徴的なソバカス……ソバカスがすごく似合う素敵な女性……



おっ、俺の天使! えっ、嘘だろ……まさかこんな所で……



俺は目の前の路上ミュージシャンの女性に見とれてしまった。

外は夜でくらい筈なのになぜか知らんが、彼女に天から白い光が降り注いでるかのようだ。彼女はすごく……キラキラとしている!


そして今歌ってる曲は、彼女の服装に似合う草原や牧場で歌われてそうな感じだった。



見惚れていると、一曲が終わった。



拍手が起きる。それに気が付き俺もつられ拍手をする。

彼女の周りを見回すとポップのようなものが立てており、そこには『SUMIRE』と書いてあった。

SUMIREさん、なんて清らかな名前なんだ……



彼女は一息つき話始めた。

「みなさーん! お忙しいのに立ち止まって聴いてくれてありがとうございまーす!!」


そしてまた、拍手。


「えぇっと、さっきの曲楽しんでもらえましたか~!」


またも、今度は大きく拍手。


「では、次が最後の曲です 」



拍手が収まると、切ないメロディーが始まった。切ないが彼女の温かみのある歌声で周りの客たちも、ウンウンと頷きながら聴いている。


俺も周りと同じようになり、ただ彼女を観ていた。心が震え、目頭が熱くなる。彼女の歌声が俺の日頃の疲れを洗い流してくれるような、そんな感じだった。



大サビに入り、泣き崩れる人も出てくる。彼女は……なんてすごい人なんだ。今いる人々の心を動かせる事ができる。



これが才能というやつなのか……俺は目の前の天才に尊敬の念を抱いた。



曲が終わり、拍手大喝采。俺は聴心地の良い曲と、キラキラしている彼女との余韻にボーッとしてしまう。



周りの客は彼女に握手を求めたり、彼女のCDを買ったり、写真を撮ったりとしている。ある程度の流れが終わり、彼女は機材を片付けはじめる。


漸く、俺は余韻から目が覚めた。


俺は声を掛けたいが……なんて話せばいいか……この前の事を話題を出すか……いや、彼女は俺の事なんて一切忘れてるかもしれないし……もしくは、曲に関してお話でもするか……いや、今言ったら、片付けの邪魔になるか……

すごい方だし、こんな俺とは仲良くなんてしたいとは思わんだろうし、帰るか……

そう思いながら、俺は去ろうとして背中を向けた時……



「あの!」

そう呼び止められ、俺は振り返った。

「もしかして……この間……小銭を拾うの手伝って頂いた…お兄さんですか?」

俺は覚えてくれた事に感動し、声が出ず、池の鯉の様に口をパクパクしていた。

彼女は笑顔で近づき、だらしなくぶら下がっていた俺の両手を掴んで、手前に持ち上げた。


「あぁ!やっぱり~そうですよね! あの時はお手伝い頂いて、ありがとうございます!」


彼女はそう言って、俺の手を上下に降ってくれた。


そんな、子供みたいにはしゃぐ彼女を見て心が童心に戻った様な気がした。そう、小学生の頃の好きな女子に初めて手を握られたかのような気持ちになり嬉しさの反面、照れ臭さがこみ上げてきた。



俺は喉の奥から声を振り絞る。

「あっ、えっと……すごく曲……歌感動しました……すごく素敵で……」

「えっ、あっ、ありがとうございます!! すごく嬉しいです!!」


彼女の握ってくれてる手から温もりを感じ、心と顔が熱い。


「あの、CD……まだありますか?」

「はい! もちろんあります!!」

俺は気が付くと彼女の5曲ほど入ってるミニアルバム的なのものを購入した。



俺はついつい顔が綻び、嬉しくなりニヤケながら鞄にしまった。



「あの、よく路上ライブとかされるんですか?」

「月1くらいでやっているんです。一応、警察や事務所に許可を得て~」

「えっ、事務所ですか?」

「はい! お恥ずかしながら、そこまで大きい事務所ではないんですがプロとして活動してるんです!」

「えぇ!! すっすごいですね! どおりで人の心を掴む曲だと思いました 」

「いえいえ、私なんてまだまだ 」

「なぜ、路上で?」

「いや……まだまだ無名ってこともあるんですが、一番は何よりお客さんの……生の感想が聞けるし。近くで盛り上がってるのが伝わって……それが、それが嬉しいんです!」

「なっ、なるほど……」


少し、照れて嬉しそうにしてる彼女……うぅ、かわいい!! でも、俺は次に何て言えばいいか思い付かなかった。


次にどの言葉をあげても、俺の言葉が安っぽく感じると思ったからだ。

こんな素敵な人との沈黙は申し訳ない……何より彼女の貴重な時間を俺に裂かせるわけにはいかない……

「あの……これからも応援します!」

「はい、ありがとうございます! もし、よろしければインスタやツイッターで路上ライブや普通のライブ会場の情報乗ってますので~ 是非是非 」

「では、あの……夜道は危険だと思うので、お気をつけて!」

「はい! お兄さんもお気をつけて!!」



俺は申し訳程度に頭を下げ歩き、少し遠く離れた所から振り返った。すると彼女はまだ、見送ってくれた様で、此方に気付き大きく手を振ってくれた。俺も嬉しくなって大きく手を振った。

30才越えた、いいオッサンが若い子に何盛り上がってるんだろうと……思ったが構わない。気持ちが先行してるんだから。



帰りの電車のなか、彼女について調べてみた。彼女の言うとおり、すごい大手ではないがそれなりに名の知れた事務所だと言うこと。


実は彼女の代表曲が某放送局の『みんなでうたおう』で使われた事があること。



俺は生まれてこの方一度も、芸能人というものに会ったことなかった。だから、ついつい嬉しく小躍りした。

周りの客はぜったい変な目で見てるだろう。だが、30才越えたオッサン嘗めるなよ。そんなことじゃ狼狽えないからなぁ!



そして、家に着きDVDプレイヤーにCDを入れ聴いてみた。さっき歌ってた曲はもちろん、彼女の代表曲や、また違ったタイプの曲……その一つ一つが彼女からの大切なメッセージとして、伝えられてる気がした。


ついつい、酒を入れて聴いたので俺は気がつくと寝てしまったようだ。






朝、目が覚めた。どうやら、彼女の曲がエンドレスにかかる仕様になっていたみたいだ。目を開いた瞬間………あっやべー、今日仕事じゃん。酒のせいで今日は辛くなるか……っと思って身体を起こした……


えっ、あれ、全然身体が辛くない。最近、酒飲んで寝た日の次の日は辛い筈なのに……うそ、なんで……

そう思っていたら、今かかっている彼女の曲が耳に入る。昨日も歌っていた、バラードだ。彼女の温かみのある歌声で朝から心に染み渡り、目から自然と涙がこぼれた。



涙は出たがそれとは別に心がスッキリしている。まさか、彼女の曲のお陰で俺は……熟睡できたのか!!



やはり、彼女は俺にとっての天使。そして、これは天使の歌だ。俺は身体を身軽に起こし、早々と身支度をした。

そして、ウキウキ気分で家を出た。





そして、彼女の曲を聴くようになり数日が経つ。俺は寝る時、彼女の曲をかけて寝る。毎朝起きる時、すごく気分がいい。


最近は、もちろん悩む事は無いが……数年前は……


まぁ、今が幸せだからそれでいい。そうだ。むしろ通勤中や帰宅中、歩いてる時に彼女の曲全部を聴きたい!

と思った。


調べると、某CDレンタルショップにCDの音源をスマホに移す事ができる機械をレンタルできるそうだ。



俺はそれを知った仕事終わり……早速駅近くのレンタルショップに行き、その機械をレンタルした。

用事を終わらせ、夕飯の食材をスーパーに買い物をしようと店沿いの道を歩く。右側を見ると靴屋、チェーンの中華料理屋、マンションの入り口と見慣れた景色だ。



そして、小さな花屋。


そういえば、彼女の名前『SUMIRE』さんだったなぁ……と思いついつい、小さな花屋を覗いた。

SUMIREって、菫のことなのかなぁ……その前に菫ってあるのか……どんな花だっけ……っと見回す。


「いらっしゃいませ~! 何かお探しですか?」

優しく清んだ綺麗な声が聞こえた。


花を見ていた俺は顔をあげると……



「あっ!」「あっ!」



予期せぬ事に声が揃った。


俺はまた驚きで口をパクパクとしてしまう。声が出ない。もうこうなると奇跡だというしかないだろう。

鳩が豆鉄砲を食ったようとはよく言ったものだ……



そう……SUMIREさんだ!!


彼女は喜び、はしゃぎながら何回か小さくジャンプした。

「えっ、すごいすごい! お兄さん!! えっ、なんでこんな所に!!!」

俺は漸く声が出るようになり、彼女にバレないよう小さく一気に息を吸い少し整えた。

「いや……実は15分近く歩いた所の高校で教師をやっていまして……」

彼女はこちらをまじまじと見ている。目が合うとスゴく照れ臭いので逸らしてしまう。

「……えっと、買い物ついでに歩いていると急に、花が気になりまして……」

「お花好きなんですか!?」


彼女は薄っぺらい俺の話に食い付いてくれた。もちろん、花なんて生きてこの方興味など持ったことは一度も無い。

だが、必死に話を紡ぐ意識をした。その姿はまるで鳩が必死に餌に食らいつくようだろう……回らない頭の代わりに首を何度か回す。

こういう時、どうすれば良いのか……

「あっ、えっと……たまたま、気になって……お恥ずかしながら、覗いたんです……」


彼女は華やぐよな笑顔を向けてくれる。

「興味をもって頂きうれしいです」

「あの!……SUMIREさんは歌手をやりながら、花屋さんもやってるんですか!?」

「まぁ、お恥ずかしながら……プロと言ってもまだまだなので、アルバイトもしないと生活が厳しくて……でも、お花が好きなので、こっちの仕事も好きなんですよ!」


うーん、かわいいのに、さらにクシャっとなる笑顔が素敵だ……そして、やっぱりこの御方はお花がスゴく似合う。



「あの!……好きなの事をお仕事にされてるなんて……なんと言いますか……素敵ですね 」

俺から絞り出された言葉はそんなことしか言えなかった……でも、彼女は嬉しそうに返してくれる。

「はい! ありがとうございます!! お兄さんは、先生のお仕事は好きじゃないんですか?」

「えぇっと……嫌いではないんですが……でも、本当にやりたかった仕事……大人になれてるのか不安で……それと教師という仕事柄やはり嫌な所を見てしまったりする事もありますからね……あっ! でも、今、受け持ってるクラスはスゴく平和で……悪い奴らが居なくて助かってます 」


俺が照れ臭そうに話していると彼女は真剣に此方を見て、何か納得をしてから口を開いた。

「それはお兄さんが、すごくいい人だからですよ。ほら、この前の事とかも含めて。そういう事柄が生徒さん達の為にやってるのが伝わって……そういう人にはいい人が集まってくるんですよ! きっと!!」

彼女は此方に屈託の無い笑顔を向けてくれ、そう伝えてくれた。


最近、自分の仕事を認めてくれた人っていたっけ……教師の仕事って誉められないし、やって当たり前。何かあったら、だいたい教師のせいにされるし……でも、彼女の真っ直ぐな気持ちが嬉しかった。

でも……なぜか、俺は嬉しい筈なのに急にセンシティブになった。眼の裏から熱いもの込み上げてきて……俺は涙が出る前に顔を逸らして、手で目から出てきそうになったものを払った。


「えっと、どうかしました!?」

「いや、ちょっと目に虫ですかね……ちょっと痛くて……」

「大変!!」


彼女はレジの裏側から丸いパイプ椅子を出してきてくれた。

「良かったら、ちょっと座って休んでくださいね。お花があると気持ちが落ち着き、癒されると思うので~」



彼女の言葉……最初に彼女が……凄い人である彼女が、他人の俺の仕事を認めてくれたのが嬉しくて……そして次のその小さな優しさが俺の胸に刺さった。



なにやら、彼女はレジ裏で何かゴソゴソとしている。

水筒から紙コップに何か注いで此方に持ってきてくれた。


「あの、ごめんなさい! 良かったら……飲み物……飲みますか! 暖かいものを飲むと心がホッとするので……」


緑茶らしきものを出してくれた。


「あっ、すいません……いただきます 」

紙コップを持ち一応、熱くないか確かめながらお茶を一口飲んだ。苦味は強くなく、少しまろやかだかスッキリしてる飲み口。飲み込み胃に流し込むとお腹が温かい。


おいしい……


俺は一息つき、ゆっくりと飲んだ。花に囲まれ、お茶を飲む。まるで自分が別の空間にいるようなそんな感じがした。


「緑茶って、3つの薬効成分があるそうですよ。カフェインとカテキンとテアニン。それで、カテキンは有名ですがポリフェノールの一種らしく、多くの効能をもってるそうです。血圧や血糖、悪玉コレステロールの上昇を抑えてくれるので、生活習慣病の予防効果があそそうです。他にも、抗作用があるそうで、からだを守ってくれる働きが多くあるんですって。あと、ビタミンやミネラル、食物繊維などの栄養素を含んでるらしいですよ。もう1つ、テアニンはリラックス効果があって、睡眠改善と記憶力改善に効果あるみたいです。理由がα波を増加させてるみたいで……そのお陰でうつ病や統合失調に効果があると言われているみたいです。お茶のうまみ成分はこのテアニンらしいです 」


彼女は優しい顔で面白い豆知識を教えてくれた。

「あっ、ごめんなさい! ついつい、おばあちゃんの知恵袋みたいの言っちゃって、こういう所があばさんみたいって、両親から言われちゃうんです……」

少し恥ずかしながら彼女は答えてくれた。

「いえ、むしろ勉強になりました! この知識、生徒達にも披露できるし、ありがとうございます!!」

「いえ、喜んでもらって私も嬉しいです!」


あれ、俺すごく笑ってる?そう言えば、こんなに気兼ねなく笑えてるのっていつぶりだろう。彼女といるとすごく楽しい……



ふと、我に戻る。いけないいけない……彼女は仕事中だった……せめて、何か買っていこうかなぁ……

「あの! 菫って、持って帰れますか?!」


彼女は驚き、少し困った顔をした。

「あの……私……急に、そんな事言われても……」

「えっ…………」


ひっそりと静まり返る……

えっ、俺、変な事言ったか……あっ!!

「あっ、いえ、あの違うんです! お花の方の菫です。お花の……SUMIREさんの事ではなく……」


彼女は自身の勘違いに頬に赤身がさした。


「あっ、えっ、あっ、ごめんなさい! 変な勘違いしてしまって!!恥ずかしい!そうですよね!! 私なんて! そんな烏滸がましい!! お兄さんみたいな素敵な人がそんな、私なんて!!」

そう言われて俺も恥ずかしくなり早口で答える。そして、お互い恥ずかしくなり静寂が訪れた。


「実は……菫って、小さい花なので花束とかには向かなく、花屋さんとかにも置かないんですよ……」

「あっ、そうなんですか……すいません、無知なもので……」

「あっ、いえ……でも、花束だけじゃなく、植木とかもあるので、そういうのはどうですか?」

「なるほど、たしかに小さい植木とかだと今後の成長とか観れるからいいですね!」

「はい! あっ、そう言えば最近うちの店では珍しいのを仕入れたんですよ 」

彼女が手をかざした方向を見ると、サボテンがあった。


「サボテン?」

「はい、サボテンって面倒をみるのは、以外に大変ではないので~ただ、温度調整だけをして頂ければ観葉植物としては楽しめるんです。あとこの子は金晃丸って種類で、健気に上手く育てると花が咲いたら、すっごく綺麗で……」

彼女の楽しそうに説明してる姿が可愛かったので、ついつい……

「買います!!」

「えっ、そんな早く決めて良いんですか?」

「SUMIREさんのおすすめしてくれたモノだったら安心しか買いたいです!」

彼女はパーって感じで笑顔が咲いた。


通りすがりの俺に……そんな丁寧に接客してくれた事が嬉しくて……



「ありがとうございます!」「ありがとうございます!」


また、お互い声が揃った。そしてお互いハニカミながら笑う。


お会計を済ませて店を出ようとして……安易に俺は口を滑らす。

「あの……また、ちょくちょく来てもいいですか?」


ちょくちょくってなんだよ! 彼女に不振がられるだろ!


「はい! もちろんです! サボテンの成長報告楽しみにしてますね!」

「あと、ライブとかも観に行ったりしますね! 応援してます!」

「はい! 是非とも両方含めてお待ちしております!!」

彼女に見送られながら、さっきの店でのやり取りを思い出す。



そういえば、さっき彼女が赤らめて早口になったの可愛かったなぁ……

『……お兄さんみたいな素敵な人がそんな、私なんて!!』

その仕草、顔、言葉が甦る……


『お兄さんみたいな素敵な人って……』


くそ! 嬉しすぎるじゃん!! なんて愛らしい方なんだ……



俺は家に帰り日当たりの良さそうな所にサボテンを置き、例の機械で彼女の曲をスマホに入れて、いつもの用意をして就寝した。





その夜、夢を見た…………白い壁の部屋で、電灯が振り子の様に揺れている。なぜか、ファンファーレの様なものが鳴っている気がする。

テーブルが置かれて椅子は挟む様に2つ置かれている。

白いワンピース姿の胸元が少し開いて、なぜか眼鏡をかけたSUMIREさん。反対側には黒いスーツを着た俺。

机には空のコップや本、筆記用具が置いてあった。彼女と談笑しているようだ。

だが、急に彼女は机の上のモノを払いのけ。彼女は俺の襟元を持ち掴み上げ立たせた。そして、俺を床に叩きつける。驚く俺。

彼女はこちら側を艶かしい感じで見つめ、馬乗りになり……

俺のネクタイを乱暴に外し、襟とかのボタンを力づくで開いた。そして、彼女の顔……口は、俺の首に近づき、




「イタっ!!……えっ、あっ……夢か……」

首は……あっ噛まれてないか……なんだ、この目覚め方。


まるで、ヴァンパイアみたいだったなぁ……SUMIREさん。

夢だけど……まだ、なんかドキドキしてるよ……



それから、四六時中頭から彼女の事は忘れられない。花屋にたまに顔を出し、お話するしライブ等に行って応援する。

でも……やはり、一人の時に彼女の事を想像してしまう。そんな日々が続く……俺の生活に花が彩る。




ある日、花屋に顔を出そうとした。すると少し若い兄ちゃんにSUMIREさんが、ちょっかいをかけられているようだ。


彼女にしては少し嫌そうな顔をしてたのでついつい、俺は強めの態度で割り込んでしまった……

「あれ? どうかしました?」

「いや、別に。店員のお姉さんとお話してるだけっすよ。というかオッサンは何っすか?」

「俺は、お客さんとして彼女に花の事で相談しに来たんだ。」

「へぇ~、オッサンが……花ね……」

鼻を鳴らしながら上から下まで俺を見て……そして「へっ」と吐き捨て、プイッと帰っていった。残された俺達……

「あの、ごめんなさい。私のせいで嫌な思いさせちゃって………」

「いえ、学校でも……たまに、ああいう奴いるので慣れてますので……」

その後はいつも通り……たわいもない話をして帰る。





夕暮れの電車の中、座らないで外を見てた。


SUMIREさん、あなたはなんて素敵な方なんだろうか……忘れられない……


そんな日が何度も続いている。暗闇に入り、窓越しに映る自分をみる……


彼女とは本当に生きる世界が違い過ぎるんだよなぁ……というか、俺、こんなオッサンだったけ……? まぁ、服とか基本着やすさと性能重視だしなぁ……まぁ無印かUNIQLOだし……


今日、あの『クソガキ』に……なんかデートとか誘われてそうだったが……もし、俺が彼女を……デートに誘ったら……


なんて、答えるだろうか……俺の事は……たまに会う話しやすい親戚のお兄ちゃんくらいとしか思ってくれてないだろうか……8歳位の差だし……


うーん。


でも、もし奇跡的に誘うとしても……もっとカッコいい服とかの方がいいのだろうか……



電車を降りて家までの帰路……そんな事を考えて前に進む。どんどん首だけが先行している。

ふと、頭にある事が過る。


そうだ、アイツに相談してみるか……いやいや、だいぶ年下だぞ! でも、すごく俺から見ても、お洒落になったし……なんか、良いアイデアが浮かぶかもしれん……


アイツに……


『S.Kに……』



俺の恋にのぼせた頭で愚策を練りながら家につく。


季節は5月半ば、熱くなってきた。

今回も長いのに読んで頂き誠にありがとうございます!


今回も3部せいくらいに考えております。


楽しんで頂ければ幸いです!

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